説明

ヘテロポリオキソメタレート化合物およびその製造方法

【課題】新規なヘテロポリオキソメタレート化合物を提供するものであり、従来のヘテロポリオキソメタレート化合物では成し得なかった性能の発現が期待される。
【解決手段】ヘテロ原子がケイ素、リン、もしくはゲルマニウムであり、かつ、ポリ原子がモリブデン、タングステン、バナジウムからなる群より選ばれる少なくとも一種以上の元素である二欠損構造部位含有へテロポリオキソメタレートアニオン(A)の欠損構造部位に、7〜10族より選ばれる少なくとも一種の元素(B)が導入されており、かつ、一つのヘテロポリオキソメタレートアニオンに結合した互いに隣接する元素(B)同士が、一つの酸素を介して結合するモノミューオキソ部位を有することを特徴とするヘテロポリオキソメタレート化合物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘテロポリオキソメタレート化合物に関する。より詳しくは、7〜9族より選ばれる少なくとも一種の元素(B)が、二欠損構造部位含有へテロポリオキソメタレートアニオン(A)の欠損構造部位に導入されており、かつ、一つのヘテロポリオキソメタレートアニオンに結合した互いに隣接する元素(B)同士が、一つの酸素を介して結合するモノミューオキソ部位を有することを特徴とするヘテロポリオキソメタレート化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘテロ原子を中心とし、ポリ原子がヘテロ原子に酸素を介して配位した構造を有するヘテロポリオキソメタレート化合物が、酸化反応等の有機反応用触媒として使用できることが広く知られている。特に、ケギン型へテロポリオキソメタレートの構造中にあるべき原子が二つ欠けている欠損構造を有し、その部位に鉄元素を含有するもの、すなわちポリ原子が二個の鉄により置換された稜共有ジミューオキソ型鉄二置換ヘテロポリオキソメタレートが、特異な酸化触媒活性を示すことが知られている(非特許文献1参照)。しかしながら、更なる触媒活性の向上が必要であることに加えて、モノミューオキソ型ヘテロポリオキソメタレート化合物は開示されておらず、稜共有ジミューオキソ型ヘテロポリオキソメタレート化合物とは異なる性質や、触媒活性を始めとする材料としての新しい性能を発現し得ると期待されるモノミューオキソ型ヘテロポリオキソメタレート化合物の合成方法を確立するための工夫の余地があった。
【0003】
二欠損構造部位に鉄を導入した二置換型へテロポリオキソメタレートの三量体の合成方法が開示されており、その構造がX線結晶構造解析により明らかとなっている(非特許文献2参照)。単位構造中に存在する三つの鉄二置換へテロポリオキソメタレートのうち、一つがモノミューオキソ型鉄二置換ヘテロポリオキソメタレート化合物であるものの、残りの二つはジミューオキソ型鉄二置換ヘテロポリオキソメタレートであり、モノミューオキソ型鉄二置換ヘテロポリオキソメタレート化合物のみを単離するための合成方法の確立に工夫の余地があった。
【0004】
二価の遷移金属カチオンで置換されたポリオキソメタレートからなるオレフィン類、アルコール類またはアルデヒド類を分子状酸素含有ガスと接触させて含酸素有機化合物を製造するための触媒が開示されている(特許文献1参照)。しかしながら、該触媒は図に記載されているような稜共有ジミューオキソ型ヘテロポリオキソメタレート化合物であり、モノミューオキソ型ヘテロポリオキソメタレート化合物は開示されておらず、その合成方法を確立するための工夫の余地があった。
【0005】
二欠損型及び/又は三欠損構造部位を有するヘテロポリオキソメタレートアニオンと、バナジウム、タンタル、ニオブ、アンチモン、ビスマス、クロム、モリブデン、セレン、テルル、レニウム、コバルト、ニッケル、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム、白金、イリジウム、銀、金、亜鉛、アルミニウム、ガリウム、インジウム、スカンジウム、イットリウム、チタニウム、ジルコニウム、ハフニウム、ゲルマニウム、スズおよびランタノイドからなる群より選ばれる少なくとも一種の元素を含む触媒により、エチレン性二重結合を酸化剤により酸化させて、目的のエポキシ化合物を得ることが開示されている(特許文献2参照)。しかしながら、該触媒は図に記載されているような稜共有ジミューオキソ型ヘテロポリオキソメタレート化合物であり、モノミューオキソ型ヘテロポリオキソメタレート化合物は開示されておらず、その合成方法を確立するための工夫の余地があった。
【0006】
二欠損型ポリオキソメタレートに、希土類、4族、5族、6族、7族、および9、10族のニッケル、パラジウム、イリジウム、白金からなる群から選ばれた元素を欠損部位に導入し、エチレン性二重結合を酸素により酸化させて、目的のエポキシ化合物を得ることが開示されている(特許文献3参照)。しかしながら、目的のエポキシ化合物の収率および選択率は低く、工業レベルでエポキシ化合物を製造することができるようにするための工夫の余地があると共に、開示されたヘテロポリオキソメタレート化合物の合成方法では所望の元素が欠損部位に導入できない場合があることが分かった。また、モノミューオキソ型ヘテロポリオキソメタレート化合物は開示されておらず、その合成方法を確立するための工夫の余地があった。
【0007】
【非特許文献1】Y.Nishiyama、Y.Nakagawa、N.Mizuno、「アンゲバンテ ヘミー インターナショナル エディション(Angew.Chem.Int.Ed.)」(独国)、2001年、第40巻、p.3639。
【0008】
【非特許文献2】B.Botar、Y.V.Geletii、P.Kogerler、D.G.Musaev、K.Morokuma、I.A.Weinstock、C.L.Hill、「ジャーナル オブ ジ アメリカン ケミカル ソサイエティー(J.Am.Chem.Soc.)」(米国)、2006年、第128巻、p.11268。
【0009】
【特許文献1】日本国特許公開第2001−240561号公報明細書
【特許文献2】国際公開第02/072257号公報明細書
【特許文献3】日本国特許公開第2003−64007号公報明細書 このように、二欠損型ヘテロポリオキソメタレートの欠損部位に遷移金属元素を導入することができることは広く知られているものの、7〜10族より選ばれる少なくとも一種の元素を導入したモノミューオキソ型ヘテロポリオキソメタレート化合物の合成方法は、その技術的な困難さから未だ確立されておらず、構造も明確に同定されていなかった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は上記状況に鑑みてなされたものであり、酸化反応や酸塩基反応等の有機反応や機能性材料等に好適に適用することができる化合物として、ヘテロ原子がケイ素、リン、もしくはゲルマニウムであり、かつ、ポリ原子がモリブデン、タングステン、バナジウムからなる群より選ばれる少なくとも一種以上の元素である二欠損構造部位含有へテロポリオキソメタレートアニオン(A)の欠損構造部位に、7〜10族より選ばれる少なくとも一種の元素(B)が導入されており、かつ、一つのヘテロポリオキソメタレートアニオンに結合した互いに隣接する元素(B)同士が、一つの酸素を介して結合するモノミューオキソ部位を有することを特徴とするヘテロポリオキソメタレート化合物を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、酸化反応や酸塩基反応等の有機反応や機能性材料等として工業的に有用なヘテロポリオキソメタレート化合物に着目し鋭意検討を重ねた結果、二欠損構造部位含有ヘテロポリオキソメタレートアニオン(A)の欠損構造部位に7〜10族より選ばれる少なくとも一種の元素を、これまでとは異なるpH領域において導入生成したヘテロポリオキソメタレート化合物が、上記元素(B)同士が一つの酸素を介して結合するモノミューオキソ部位構造を有する化合物であることを明らかにし、同時にその製造方法も見出し、上記課題を見事に解決できることに想到し、本発明に到達したものである。
【0012】
すなわち本発明は、ヘテロ原子がケイ素、リン、もしくはゲルマニウムであり、かつ、ポリ原子がモリブデン、タングステン、バナジウムからなる群より選ばれる少なくとも一種以上の元素である二欠損構造部位含有へテロポリオキソメタレートアニオン(A)の欠損構造部位に、7〜10族より選ばれる少なくとも一種の元素(B)が導入されており、かつ、一つのヘテロポリオキソメタレートアニオンに結合した互いに隣接する元素(B)同士が、一つの酸素を介して結合するモノミューオキソ部位を有することを特徴とするヘテロポリオキソメタレート化合物である。
【0013】
本発明はまた、前記へテロポリオキソメタレートアニオン(A)が、γ型のケギン型へテロポリオキソメタレートアニオンであることを特徴とする請求項1記載のヘテロポリオキソメタレート化合物でもある。
【0014】
本発明はまた、上記へテロポリオキソメタレートアニオン(A)の化合物と前記元素(B)の化合物とを反応させることを特徴とする請求項1または2記載のヘテロポリオキソメタレート化合物の製造方法でもある。
本発明は、上記元素(B)として鉄を導入する際に、pHが3.0以下に設定された溶媒に(A)の化合物および鉄の化合物を共存させ、上記元素(B)としてルテニウムを導入する際に、pHが4.5〜6.5に設定された溶媒に(A)の化合物および(B)の化合物を共存させることを特徴とするヘテロポリオキソメタレート化合物の製造方法でもある。
【発明の効果】
【0015】
本発明のヘテロポリオキソメタレート化合物は、上述の構成よりなり、これまでの製造方法では合成・単離できなかった、元素(B)同士が一つの酸素を介して結合するモノミューオキソ部位を有するヘテロポリオキソメタレート化合物であり、(1)酸化還元性、(2)電気陰性度、(3)磁性、(4)双極子モーメント、(5)酸塩基性、(6)構造といった、物性・性質・構造・触媒活性等の面で、従来のヘテロポリオキソメタレート化合物では成し得なかった性能の発現が期待され、その結果、酸化反応や酸塩基反応等の有機反応用触媒や特異な構造を利用した機能性材料等に適用できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0016】
本発明のヘテロポリオキソメタレート化合物は、二欠損構造部位含有へテロポリオキソメタレートアニオン(A)の欠損構造部位に、7〜10族より選ばれる少なくとも一種の元素(B)が導入されており、かつ、一つのヘテロポリオキソメタレートアニオンに結合した互いに隣接する元素(B)同士が、一つの酸素を介して結合するモノミューオキソ部位を有することを特徴とする。
【0017】
本発明のヘテロポリオキソメタレート化合物における上記元素(B)と上記ヘテロポリオキソメタレートアニオン(A)との形態としては、元素(B)がヘテロポリオキソメタレートアニオン(A)の二欠損部位に導入されることになる。二欠損部位に導入されるとは、元素(B)が欠損部位に組み込まれる形態、すなわち、あるべきポリ原子が元素(B)により置換された形態であってもよいし、特に元素(B)のイオン半径が大きい場合には、二欠損部位に元素(B)が組み込まれることなく、配位した形態であってもよい。好ましくは、元素(B)が二欠損部位に組み込まれる形態である。この場合、元素(B)が互いに隣接していることが好ましい。元素(B)が互いに隣接する異性体としては、α、β、γ、δ、ε体等が存在するが、α、β体は角を共有した異性体であり、γ、δ、ε体は稜を共有した異性体である。より好ましくは、β体及び/またはγ体の二欠損ケギン型ポリオキソメタレートアニオンの骨格中に元素(B)が組み込まれた形態であり、この中でも最も好ましくはγ体の二欠損ケギン型ポリオキソメタレートアニオンに組み込まれた形態である。ヘテロポリオキソメタレート化合物は単量体であっても多量体であってもよい。単量体とは、単位構造中にヘテロポリオキソメタレートアニオン部位が一個含まれることを意味し、多量体とは単位構造中にヘテロポリオキソメタレートアニオン部位が複数個含まれることを意味する。より好ましくは、単量体または二量体である。このようなヘテロポリオキソメタレート化合物の構造は、X線結晶構造解析、元素分析、UVやFT−IR分光測定等から決定または推定される。
【0018】
本発明におけるヘテロポリオキソメタレートアニオン(A)は、下記一般式(1)で表されるケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンであることが好ましい。
一般式(1):
[QM10]k− (1)
ここで、一般式(1)において、Qはケイ素、リン、もしくはゲルマニウム原子を、Mはポリ原子を表す。jとkは正数であり、kはQとMの価数によって決まる。より好ましくは、Qがケイ素であり、Mがタングステンであるケギン型ヘテロポリオキソメタレートアニオンである。更に好ましくは、その異性体構造がβ体及び/またはγ体である[β−SiW10368−及び/または[γ−SiW10368−である。最も好ましくは、[γ−SiW10368−である。
【0019】
本発明で用いるヘテロポリオキソメタレートアニオンは二欠損型であるが、本発明の作用効果を有する限り、一欠損型または三欠損型のものを含んでいても良い。
【0020】
上記化合物は一般に塩を形成しており、該塩を製造する際のカチオン源としては、無機塩でも有機塩でも良いが、中でも酢酸塩、硝酸塩、ハロゲン化物塩、アルカリ金属塩、アルカリ土類塩、プロトン塩、アンモニウム塩、有機アンモニウム塩等が好適であり、例えば、上記へテロポリオキソメタレートアニオン(A)と上記元素(B)が共存する液に、該塩を粉体のまま、もしくは溶液として添加して、上記へテロポリオキソメタレート化合物の製造を行うことになる。上記へテロポリオキソメタレートアニオン(A)や上記元素(B)が元々持つカチオンを利用してもよい。
【0021】
ヘテロポリオキソメタレートアニオンの塩を形成する対カチオンとしては、例えば、プロトン、アルカリ金属カチオン、アルカリ土類カチオン、亜鉛イオン、ランタニドイオン、アルミニウムイオン、インジウムイオン、錫イオン、鉛イオン、鉄イオン、銅イオン、チタンイオン、ジルコニウムイオン、マンガンイオン、ルテニウムイオン、コバルトイオン等のイオンや、第四級アンモニウム塩(アンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、テトラプロピルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩、トリブチルメチルアンモニウム塩、トリオクチルメチルアンモニウム塩、トリラウリルメチルアンモニウム塩、ベンジルトリメチルアンモニウム塩、ベンジルトリエチルアンモニウム塩、ベンジルトリブチルアンモニウム塩、セチルピリジニウム塩)、第四級ホスホニウム塩(テトラメチルホスホニウム塩、テトラエチルホスホニウム塩、テトラブチルホスホニウム塩、テトラフェニルホスホニウム塩、エチルトリフェニルホスホニウム塩、ベンジルトリフェニルホスホニウム塩)等の有機カチオンが好適である。カチオンは一種類または二種類以上用いることができる。
【0022】
上記元素(B)は、7〜10族より選ばれる少なくとも一種の元素であるが、用いる用途により適宜選択することができる。より好ましくは、Mn、Re、Fe、Ru、Os、Co、Rh、Ir、Ni、Pd、Ptであり、更に好ましくは、Mn、Re、Fe、Ru、Co、Rh、Ir、Ni、Pdであり、最も好ましくは、Fe、Ruである。また、元素(B)を導入したヘテロポリオキソメタレート化合物の混合物や、異種元素を導入したヘテロポリオキソメタレート化合物を合成する場合には、上記元素(B)より選ばれる元素を二種以上使用しても良い。
【0023】
上記元素(B)を導入する際に使用する形態としては塩の形態でも、酸化物等の形態でも良い。塩としては、無機塩でも有機塩でも良いが、中でも酢酸塩、硝酸塩、ハロゲン化物塩、ナトリウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、プロトン塩、アンモニウム塩、テトラメチルアンモニウム塩、テトラエチルアンモニウム塩、テトラプロピルアンモニウム塩、テトラブチルアンモニウム塩等が好適である。導入する上記元素(B)を含む多核錯体のような複合型の塩を用いることも可能である。
【0024】
上記化合物調製時に使用する上記元素(B)を含む塩のモル量としては、ヘテロポリオキソメタレートアニオン(A)1モルに対して、1モルより多いことが好ましい。より好ましくは1.1モル以上であり、更に好ましくは、1.5モル以上である。また、12モル以下であることが好ましい。より好ましくは10モル以下であり、更に好ましくは、8モル以下である。
【0025】
上記化合物調製時の上記元素(B)の添加としては、上記ヘテロポリオキソメタレートアニオン(A)を含む溶液または混合液中に、元素(B)の塩または化合物を粉体のまま、もしくは溶液として添加して行うことが好ましいが、(A)と同時に添加するか、または先に溶媒中に溶解された状況で行っても良い。元素(B)の塩または化合物の添加は、一括添加しても良いし、徐々に添加しても良い。ヘテロポリオキソメタレート化合物の製造は、一回の工程で行っても、複数回に分けて行っても良い。例えば、(B)の所定量のうちの一部を残した状態でいったん生成物を取り出し、再度生成物を溶媒に再溶解した後、残りの(B)を添加する方法でもよい。
【0026】
触媒調製時の溶液のpHとしては、0.1〜7.5の範囲が良く、好ましくは0.5〜7.0であり、より好ましくは、1.0〜7.0であり、更に好ましくは、1.2〜6.5である。pHの設定は、上記へテロポリオキソメタレート化合物の構造を決定する重要な要素の一つであり、上記元素(B)の種類によって上記の範囲内で適宜選定すればよい。
例えば、上記元素(B)が鉄の場合、pHは3.0以下が好ましい。より好ましくは、0.5〜3.0であり、更に好ましくは、0.8〜2.7であり、最も好ましくは、1.2〜2.5である。上記元素(B)がルテニウムの場合、pHは4.5〜6.5が好ましい。より好ましくは、4.8〜6.3であり、更に好ましくは、5.0〜6.3であり、最も好ましくは、5.2〜6.3である。上記元素(B)の添加に伴いpHが変化する場合には、酸もしくは塩基により適宜最適値に設定してもよい。
【0027】
本発明の触媒調製時に使用する溶媒としては、特に限定されるものではないが、水や含水有機溶媒および有機溶媒を用いることができる。有機溶媒は水に溶解するものでも溶解しないものでも良いが、アセトン、アセトニトリル、メタノール、エタノール、プロパノール、t−ブタノール、クロロホルム等が好適である。最も好ましくは、水である。上記へテロポリオキソメタレート化合物は、上記溶媒等を用いて再結晶等の操作により精製することもできる。
【0028】
また上記溶媒の体積は、上記ヘテロポリオキソメタレートアニオン(A)1ミリモルに対して、0.5mL以上であることが好ましい。より好ましくは1mL以上であり、更に好ましくは1.5mL以上である。また、300mL以下であることが好ましい。より好ましくは200mL以下であり、更に好ましくは、180mL以下である。
【0029】
上記溶媒の液温は、0℃以上120℃以下が好ましい。より好ましくは、5℃以上75℃以下であり、更に好ましくは、10℃以上50℃以下である。
【0030】
上記元素(B)が二欠損部位に組み込まれる形態である場合、元素(B)は互いに隣接
していることが好ましく、一つのヘテロポリオキソメタレートアニオンに結合した互いに隣接する元素(B)同士は、1個の酸素原子を介して結合したモノミューオキソ型結合で結ばれている。
【0031】
上記化合物における元素(B)の合計含有量としては、単位構造中のヘテロ原子1個に対して0.1個を超えることが好ましい。より好ましくは、0.5個以上であり、更に好ましくは、1個以上である。また、5個以下であることが好ましい。より好ましくは3個以下であり、更に好ましくは、2.5個以下である。
【0032】
本発明のヘテロポリオキソメタレート化合物を、例えば触媒として利用する場合、気相・液相・超臨界相等いずれの反応場においても使用することができる。その使用形態としては、気相反応で用いる場合、触媒自体を固体として反応を行う形態や触媒を担体に担持して反応を行う形態が可能である。触媒担体としては、各種イオン交換樹脂、シリカ、アルミナ、チタニア、シルコニア、酸化錫や他の酸化物等の一般的に気−固反応に使用される担体を用いることができる。
【0033】
触媒自体を固体として使用する場合、好ましい対カチオンは、プロトン、カリウムイオン、ナトリウムイオン、セシウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、バリウムイオン、亜鉛イオン、アルミニウムイオン、ランタニドイオン、鉄イオン、錫イオン、銅イオン、パラジウムイオン、白金イオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、チタンイオン、ジルコニウムイオン、バナジウムイオン、ニオブイオン、クロムイオン、マンガンイオン、ルテニウムイオン、ロジウムイオン、イリジウムイオン、インジウムイオンである。
【0034】
液相反応で用いる場合には、触媒を溶解させて均一系で反応させる形態、触媒を溶媒に溶解させずに液相に懸濁させて反応を行う形態が挙げられる。触媒を固相として反応を行うことも可能である。この時、対カチオンを変更することで触媒自体を固体として使用することができ、反応後の触媒と生成物の分離が容易になる。
【0035】
また、触媒を担体に担持することによっても、触媒を固相として使用することができる。触媒担体としては、各種イオン交換樹脂、シリカ、アルミナ、チタニア、シルコニア、酸化錫や他の酸化物等の一般的に不均一系反応に使用される担体を用いることができる。均一系及び/または不均一系で反応を行うに際し、好ましい対カチオンは、プロトン、カリウムイオン、ナトリウムイオン、セシウムイオン、マグネシウムイオン、カルシウムイオン、バリウムイオン、亜鉛イオン、アルミニウムイオン、ランタニドイオン、鉄イオン、錫イオン、銅イオン、パラジウムイオン、白金イオン、コバルトイオン、ニッケルイオン、チタンイオン、ジルコニウムイオン、バナジウムイオン、ニオブイオン、クロムイオン、マンガンイオン、ルテニウムイオン、ロジウムイオン、イリジウムイオン、インジウムイ、オンテトラブチルアンモニウム塩、テトラオクチルアンモニウム塩、トリオクチルアンモニウム塩、セチルトリメチルアンモニウム塩、メチルトリセチルアンモニウム塩、セチルピリジニウム塩である。
【0036】
本発明のヘテロポリオキソメタレート化合物は、種々の酸化反応や酸塩基反応等の有機反応用触媒として適用することができるものであるが、中でも酸化反応や酸塩基反応を液相で行う際に好適に適用することができるものである。
【0037】
上記酸化反応の具体例としては特に限定されず、例えば、(1)不飽和結合の酸化(アルケンやアルキンの不飽和二重結合や不飽和三重結合の酸化)、(2)水酸基の酸化、(3)ヘテロ原子の酸化(硫黄原子や窒素原子等の酸化)、(4)飽和炭化水素部位の酸化、(5)芳香環の酸化、(6)これら(1)〜(5)以外の酸化カップリング反応等の酸化反応等が挙げられる。このような酸化反応により被酸化性官能基が酸化され、酸化された有機化合物が製造されることになる。
【0038】
上記酸塩基反応の具体例としては特に限定されず、例えば、(1)エステル化反応、(2)炭素骨格異性化反応、(3)重合反応、(4)付加反応、(5)開環反応、(6)脱離反応、(7)アセタール化反応、(8)ケタール化反応、(9)芳香族求電子置換反応、(10)芳香族求核置換反応、(11)アルドール反応、(12)ピナコール転移反応、(13)ベックマン転移反応、(14)カニッツァロ反応、(15)クライゼン縮合反応、(16)ダルゼンズ縮合反応、(17)ディールズアルダー反応、(18)フリーデルクラフツ反応、(19)フリース転移反応、(20)ガッターマン・コッホ反応、(21)マンニッヒ反応、(22)マイケル反応、(23)プリンス反応、(24)グリコシル化反応、(25)加溶媒分解反応、(26)1,3−双極性環状付加反応、(27)これら(1)〜(26)以外の酸塩基反応等が挙げられる。このような酸塩基反応により、官能基や骨格が新しく構築された有機化合物の製造が可能となる。
【実施例】
【0039】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例のみに限定されるものではない。pHの測定には、HORIBA製pHメーターF−22およびHORIBA製電極6366−10Dを使用した。上記pHは、水もしくは含水有機溶媒を溶媒として用いる場合には、その液温が25℃の時の値であり、また有機溶媒を溶媒として用いる場合には、上記ヘテロポリオキソメタレートアニオン(A) 1ミリモルを共存させた調製有機溶媒に水を1mL添加した液の温度が25℃の時の値である。X線結晶構造解析は、SHELXH−97を使用した。二欠損型ケギン型ポリオキソメタレートK[γ−SiW1036]・12HOは、以下の文献に従い合成した。
A.Teze、G.Herve、「インオーガニック シンセシーズ(Inorg.Synth.)」(米国)、1990年、第27巻、p.85。
IRの測定にはJASCO FT/IR−460、X線の測定にはRIGAKU AFC−10 Saturn 70 CCD Detectorを使用した。
【0040】
(実施例1)H11Si0.528.5Feの合成
[γ−SiW1036]・12HO 3.0g(1.0mmol)を水50mLに添加した。ここにFe(NO・9HO 2.4g(6.0mmol)を水10mLに溶かした溶液を加え、室温で20分間攪拌した。この時の溶液のpHは1.8であった。CsCl 0.84g(5.0mmol)を添加して20分間攪拌し、吸引ろ過して沈殿物を回収した。黄色沈殿物を、水(10mL)とジエチルエーテル(50mL)で洗浄した。収量:1.8g。FT−IR分析結果:(KBr)/cm−1: 3418、1035、999、952、912、876、796、712、574、543。X線結晶構造解析の結果を図1及び表1〜2に示した。
【0041】
(実施例2)C40NO84Si20RuClの合成
[γ−SiW1036]・12HO 1.0g(0.34mmol)を水15mLに添加した。ここにK[RuCl(HO)]0.26g(0.69mmol)を加え、5分間攪拌した。この時のpHは5.4であった。[MeNH]Cl1.0g(12mmol)を加え、ひだ折濾紙で濾過し、一ヶ月放置したところ、板状結晶が析出した。X線結晶構造解析の結果を図2及び表2〜4に示した。
【0042】
(比較例1)[(CN][(SiO)W10Mn36]・1.5CHCN・2HOの合成
X.−Y.Zhang、C.J.O’Connor、G.B.Jameson、M.T.Pope、「インオーガニック ケミストリー(Inorg.Chem.)」(米国)、1996年、第35巻、p.30。
[γ−SiW1036]・12HO 6.0g(2.0mmol)を水15mLに添加し、濃硝酸でpHを3.9に合わせた。ここに、酢酸マンガン(II)二水和物(3.2mmol)を水10mLに溶かした溶液(溶液X)を加えて2分間攪拌した後、過マンガン酸カリウム(0.8mmol)を水10mLに溶かした溶液(溶液Y)をゆっくり加えた。溶液X及び溶液Yを加える間、溶液のpHは硝酸により3.8〜4.5に設定した。5分間攪拌した後、臭化テトラブチルアンモニウム(3.0g)を加え、得られた沈殿をアセトニトリルと水を用いて再沈させた。収量:6.0g。調製した化合物は、既報通りMn同士が二つの酸素原子を介して結合したジミューオキソ型へテロポリオキソメタレート化合物であることをX線結晶構造解析により確認した。
【0043】
本発明のヘテロポリオキソメタレート化合物は、上述の構成からなり、二欠損型へテロポリオキソメタレートアニオンの欠損部位に7〜10族より選ばれる元素が導入され、かつ、一つのヘテロポリオキソメタレートアニオンに結合した互いに隣接する元素同士が一つの酸素を介して結合するモノミューオキソ部位を有した新規化合物である。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
【表3】

【0047】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明のヘテロポリオキソメタレート化合物は、二欠損構造部位含有へテロポリオキソメタレートアニオン(A)の欠損構造部位に、7〜10族より選ばれる少なくとも一種の元素(B)が導入され、かつ、一つのヘテロポリオキソメタレートアニオンに結合した互いに隣接する元素(B)同士が、一つの酸素を介して結合するモノミューオキソ部位を有しており、酸化反応や酸塩基反応といった有機反応用触媒や、機能性材料として有効に利用することが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0049】
【図1】Si中心γ−二欠損型へテロポリオキソメタレートアニオンの欠損構造部位に、二個の鉄元素が組み込まれ、かつ、組み込まれた鉄元素同士が一つの酸素原子を介して結合した、モノミューオキソ型ヘテロポリオキソメタレート化合物のアニオン部分のX線結晶構造解析図である。
【図2】Si中心γ−二欠損型へテロポリオキソメタレートアニオンの欠損構造部位に、二個のルテニウム元素が組み込まれ、かつ、組み込まれたルテニウム元素同士が一つの酸素原子を介して結合すると共に、ルテニウムが組み込まれたヘテロポリオキソメタレート化合物が二量化したアニオン部分のX線結晶構造解析図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘテロ原子がケイ素、リン、もしくはゲルマニウムであり、かつ、ポリ原子がモリブデン、タングステン、バナジウムからなる群より選ばれる少なくとも一種以上の元素である二欠損構造部位含有へテロポリオキソメタレートアニオン(A)の欠損構造部位に、7〜10族より選ばれる少なくとも一種の元素(B)が導入されており、かつ、一つのヘテロポリオキソメタレートアニオンに結合した互いに隣接する元素(B)同士が、一つの酸素を介して結合するモノミューオキソ部位を有することを特徴とするヘテロポリオキソメタレート化合物。
【請求項2】
前記へテロポリオキソメタレートアニオン(A)は、γ型のケギン型へテロポリオキソメタレートアニオンであることを特徴とする請求項1記載のヘテロポリオキソメタレート化合物。
【請求項3】
前記へテロポリオキソメタレートアニオン(A)の化合物と前記元素(B)の化合物とを反応させることを特徴とする請求項1または2記載のヘテロポリオキソメタレート化合物の製造方法。
【請求項4】
前記元素(B)が鉄であり、かつ、前記へテロポリオキソメタレートアニオン(A)の欠損構造部位に鉄を導入する際に、(A)および(B)が共存する液のpHを3.0以下に設定する工程を含むことを特徴とする請求項3記載のヘテロポリオキソメタレート化合物の製造方法。
【請求項5】
前記元素(B)がルテニウムであり、かつ、前記へテロポリオキソメタレートアニオン(A)の欠損構造部位にルテニウムを導入する際に、(A)および(B)が共存する液のpHを4.5〜6.5に設定する工程を含むことを特徴とする請求3記載のヘテロポリオキソメタレート化合物の製造方法。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate


【公開番号】特開2008−162917(P2008−162917A)
【公開日】平成20年7月17日(2008.7.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−352121(P2006−352121)
【出願日】平成18年12月27日(2006.12.27)
【出願人】(000004628)株式会社日本触媒 (2,292)
【Fターム(参考)】