説明

ヘテロポリ酸を含む多孔質シリカのモノリス体及びその製造方法

【課題】ヘテロポリ酸の高い触媒活性を有し、かつ反応液へのヘテロポリ酸の溶出量が少なく、さらに反応液からのヘテロポリ酸の回収が非常に容易であるという優れた特徴を有するヘテロポリ酸を含み、モノリス体の骨格を有する多孔質のシリカ及びその製造方法を提供する。
【解決手段】ヘテロポリ酸を含み、モノリス体の骨格を有する多孔質シリカ。
また、以下の工程を含むヘテロポリ酸を含み、モノリス体の骨格を有する多孔質シリカの製造方法。
混合工程:シリカ源とヘテロポリ酸とを混合し、湿潤ゲルを得る工程
凍結工程:混合工程で得られた湿潤ゲルを凍結し、凍結物を得る工程
乾燥工程:凍結工程で得られた凍結物を乾燥し、ヘテロポリ酸を含み、モノリス体の骨格を有する多孔質シリカを得る工程

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘテロポリ酸を含み、モノリス体の骨格を有する多孔質シリカ及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヘテロポリ酸は、エステル化反応、オレフィンの水和反応、テトラヒドロフランの重合反応、メタクロレインの酸化反応等の反応に有効な触媒として広く使用されている重要な化合物である。しかしながら、ヘテロポリ酸は、反応液へ溶解するために、反応後に反応液を水洗する等の後処理を行ない、ヘテロポリ酸を除去する必要があるという問題や、さらに除去されたヘテロポリ酸を回収して再使用することは困難であるという問題があった。
【0003】
例えば、特許文献1には、ヘテロポリ酸とシリカゾルとの混合物を焼成したヘテロポリ酸担持触媒が開示されている。しかし、このヘテロポリ酸担持触媒においても、反応液へのヘテロポリ酸の溶出量が多いために、反応液からヘテロポリ酸を除去する必要があった。また、この担持触媒においては、触媒の外表面近傍のヘテロポリ酸以外は反応に関与することが難しいため、顕著な触媒活性を発現させるためには触媒の大きさを小さくして外表面積を大きくする必要があるため、反応液からの担持触媒自身の回収が非常に困難となる場合があった。
【0004】
【特許文献1】特開平6−320003号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
かかる状況において、本発明が解決しようとする課題は、ヘテロポリ酸を含み、モノリス体の骨格を有する多孔質シリカ及びその製造方法を提供する点にあり、ヘテロポリ酸の高い触媒活性を有し、かつ反応液へのヘテロポリ酸の溶出量が少なく、さらに反応液からヘテロポリ酸を含む触媒を回収することが非常に容易であるという優れた特徴を有するヘテロポリ酸を含み、モノリス体の骨格を有する多孔質のシリカ及びその製造方法を提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
すなわち、本発明は、ヘテロポリ酸を含み、モノリス体の骨格を有する多孔質シリカ及びその製造方法する方法に係るものである。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、ヘテロポリ酸の高い触媒活性を得ることができ、かつ反応液へのヘテロポリ酸の溶出量を少なくし、さらに反応液からヘテロポリ酸を含む触媒を非常に容易に回収することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明のヘテロポリ酸を含み、モノリス体の骨格を有する多孔質シリカとは、細孔を有する多孔質シリカが、多数の開孔が形成されたモノリス構造を有し、モノリス体の骨格を形成しており、モノリス体の骨格を形成する多孔質シリカにヘテロポリ酸が含有されているものである。
【0009】
本発明で用いられるヘテロポリ酸は、公知の化合物を使用することができる。ヘテロポリ酸のヘテロ原子(中心元素)としては、リン、ケイ素、ホウ素、アルミニウム、ゲルマニウム、チタニウム、ジルコニウム、セリウム、コバルト、クロム及びイオウが挙げられる。ポリ原子(周辺元素)としてはモリブデン、タングステン、バナジウム、ニオブ及びタンタルが挙げられる。ヘテロポリ酸としては、例えば、リンタングステン酸、ケイタングステン酸、ホウタングステン酸、リンモリブデン酸、ケイモリブデン酸、ホウモリブデン酸、リンモリブドタングステン酸、ケイモリブドタングステン酸、ホウモリブドタングステン酸、リンバナドモリブデン酸、ケイバナドモリブデン酸等が挙げられる。これらのヘテロポリ酸のなかでも、ヘテロ原子がリン又はケイ素であり、ポリ原子がタングステン、モリブデン及びバナジウムからなる群から選ばれた少なくとも1つの元素であるヘテロポリ酸が好ましい。
【0010】
ヘテロポリ酸のシリカに対する重量比(ヘテロポリ酸/シリカ)は、ヘテロポリ酸の触媒活性を低くしないという観点から0.02以上であり、反応液へのヘテロポリ酸の溶出量を抑えるという観点から2以下が好ましく、より好ましくは0.05〜1、さらに好ましくは0.05〜0.4である。
【0011】
本発明のシリカは、2〜50nmの直径を有するメソ孔、及び/又は2nm未満の直径を有するミクロ孔によって多孔質化されている。該細孔の大きさや細孔径分布は、例えば、−196℃で窒素吸脱着測定を行い、得られた吸脱着等温線に対しDollimore−Heal法、MP法を適用して計算された値を指す。比表面積は、500〜1500m2/gの範囲内であるものが好ましい。比表面積は、例えば、−196℃で窒素吸脱着測定を行い、得られた吸脱着等温線に対しBETプロットを適用して計算された値を指す。
【0012】
本発明のモノリス体の開孔の構造は、例えば、直状、曲り形状の貫通孔を挙げることができる。平均開孔径は、流体を通過させた場合の圧力損失を小さくするという観点から、0.1μm以上が好ましく、より好ましくは0.1〜200μm、さらに好ましくは1〜200μmである。平均開孔径は、モノリス体の断面を走査型電子顕微鏡(SEM)で直接観察して写真を撮り、そのSEM写真を解析することで測定された値を指す。
【0013】
本発明のヘテロポリ酸を含み、モノリス体の骨格を有する多孔質シリカは、メタノールに含浸させたときのヘテロポリ酸のメタノールへの溶出率が、多孔質シリカに含まれるヘテロポリ酸の全量に対して5重量%未満であることが好ましい。ヘテロポリ酸のメタノールへの溶出率は、ヘテロポリ酸を含み、モノリス体の骨格を有する多孔質シリカ1gをメタノール100mlに含浸させ、10〜30℃で4〜10時間後にメタノール中に溶出したヘテロポリ酸の濃度を測定することで計算された値を指す。なお、多孔質シリカに含まれるヘテロポリ酸の全量を100重量%とする。
【0014】
本発明のヘテロポリ酸を含む多孔質シリカのモノリス体の製造方法は、以下の工程を含むことを特徴とする。
混合工程:シリカ源とヘテロポリ酸とを混合し、湿潤ゲルを得る工程
凍結工程:混合工程で得られた湿潤ゲルを凍結し、凍結物を得る工程
乾燥工程:凍結工程で得られた凍結物を乾燥し、ヘテロポリ酸を含み、モノリス体の骨格を有する多孔質シリカを得る工程
【0015】
混合工程は、シリカ源とヘテロポリ酸とを混合し、湿潤ゲルを得る工程である。シリカ源としては、例えば、ケイ酸ナトリウム水溶液(水ガラス)を原料として、イオン交換樹脂を用いて調製されたシリカゾル等が挙げられる。シリカ源とヘテロポリ酸との混合は、多孔質シリカからのヘテロポリ酸の溶出率を小さくするという観点からヘテロポリ酸が溶解した溶媒中で行うことが好ましい。溶媒としては、例えば、水、メタノール、エタノール、プロパノール等が挙げられるが、ヘテロポリ酸の溶解度を高くするという観点から水が好ましい。混合は、例えば、攪拌、超音波及び静置からなる群から選ばれる少なくとも1つの方法で、10〜60℃の温度範囲で0.5〜48時間行われる。
【0016】
凍結工程は、混合工程で得られた湿潤ゲルを凍結し、凍結物を得る工程である。該湿潤ゲルの凍結は、例えば、チューブ状の容器に収容された湿潤ゲルを、該容器ごと、定速モータ等を用いて所定の挿入速度で液体窒素などの冷媒中に一方向から挿入する方法、湿潤ゲル全体を瞬間又は時間をかけて凍結する方法が挙げられる。冷媒中に一方向から挿入する凍結法の場合、直状の開孔構造を有するモノリス体が得られる。凍結後の凍結物の形状は、混合工程の時間及び/又は凍結方法により、塊状、薄膜状、平板繊維状、ハニカム状、多角形(polygonal)繊維状で得ることができる。凍結条件としては、冷媒の温度−196〜−10℃で、挿入速度0.5〜70cm/hで行われる。挿入が終了した後、冷媒中で0.5〜4時間のエージングを行うことが好ましい。該凍結条件を変化させることにより、得られるモノリス体の平均開孔径を制御することができる。
【0017】
乾燥工程は、凍結工程で得られた凍結物を乾燥し、ヘテロポリ酸を含み、モノリス体の骨格を有する多孔質シリカを得る工程である。乾燥方法としては、例えば、凍結乾燥、熱風乾燥、マイクロ波乾燥からなる群から選ばれる少なくとも1つの方法が挙げられる。凍結乾燥としては、例えば、該凍結物を解凍し、続いてt−ブタノールで含浸及び/又は洗浄を行った後、−30〜−10℃で乾燥させる方法が挙げられる。熱風乾燥としては、例えば、該凍結物を解凍し、続いて150〜300℃の過熱水蒸気の雰囲気で乾燥させる方法が挙げられる。
【0018】
本発明の方法によって製造されたヘテロポリ酸を含み、モノリス体の骨格を有する多孔質シリカの用途としては、エステル化反応、芳香族炭化水素のアルキル化反応、プロピレンやn−ブテン等のオレフィンの水和反応、テトラヒドロフランの重合反応、メタクロレインの酸化反応等の触媒として使用される。
【実施例】
【0019】
次に本発明を実施例により説明する。
実施例1
混合工程:54重量%のケイ酸ナトリウム水溶液を脱イオンした蒸留水で希釈し、SiO2濃度として1.9mol/Lのケイ酸ナトリウム水溶液25mLを得た。ここに攪拌しながらH+型強酸性イオン交換樹脂29mLを加えて、水溶液のpHを2.5付近に調整し、シリカ源としてのシリカゾルを得た。イオン交換樹脂を取り除いた後、シリカゾル中のシリカ100重量部に対して10重量部のリンモリブデン酸(H3PMo1240)を加え、室温で0.5時間攪拌させ後、内径1.3cmのポリプロピレン製チューブに注ぎ込み、蓋をして30℃で3時間静置してゲル化させ、さらに30℃で1時間静置させて湿潤ゲルを得た。
凍結工程:混合工程で得られた該湿潤ゲルが収容されたポリプロピレン製チューブを、液面が一定にコントロールされた−196℃の液体窒素の冷媒槽中へ、定速モータを用いて8cm/hの挿入速度で挿入した後、液体窒素中で2時間のエージングを行って凍結物を得た。
乾燥工程:凍結工程で得られた該凍結物を冷媒槽から取り出し、50℃の恒温槽中で解凍させてチューブから取り出した後、t−ブタノールに含浸させた。さらに、3日間にわたりt−ブタノールで洗浄を3回行った後、−10℃で凍結乾燥を行って、ヘテロポリ酸/シリカ(重量比)0.1のリンモリブデン酸を含み、モノリス体の骨格を有する多孔質シリカを得た。
【0020】
実施例2
実施例1で得られたリンモリブデン酸を含み、モノリス体の骨格を有する多孔質シリカ1gをメタノール100mlに含浸させ、20℃で10時間後にメタノール中に溶出したリンモリブデン酸の濃度を測定した結果、リンモリブデン酸の溶出率は2重量%であった。
【0021】
比較例1
リンモリブデン酸を含む多孔質シリカのモノリス体の代わりにリンモリブデン酸担持触媒を用いて、5時間後にメタノール中に溶出したリンモリブデン酸の濃度を測定した以外は、実施例2と同様の操作を行った。リンモリブデン酸の溶出率は22重量%であった。
リンモリブデン酸担持触媒は、以下のようにして製造した。テトラエトキシシラン0.25mol、エタノール1.0mol、純水1.0molの混合液にリンモリブデン酸1.5gを溶解し、得られた混合液を80℃の還流下で8時間加熱しゲル化させた。得られたゲルを150℃で熱風乾燥し、電動ミルで粉砕した。
【0022】
実験例1
シリカゾル100重量部に対して30重量部のリンモリブデン酸を加えた以外は、実施例1と同様にしてヘテロポリ酸/シリカ(重量比)0.3のリンモリブデン酸を含む多孔質シリカのモノリス体を得た。酢酸100重量部とエタノール100重量部との混合液に、該モノリス体0.1重量部を加え、60℃でエステル化反応を行った。6時間後のエタノールの転化率は52%であった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヘテロポリ酸を含み、モノリス体の骨格を有する多孔質シリカ。
【請求項2】
メタノールに含浸させたときに、ヘテロポリ酸のメタノールへの溶出率が、多孔質シリカに含まれるヘテロポリ酸の全量に対して5重量%未満である請求項1記載の多孔質シリカ。
【請求項3】
以下の工程を含む請求項1又は請求項2記載の多孔質シリカの製造方法。
混合工程:シリカ源とヘテロポリ酸とを混合し、湿潤ゲルを得る工程
凍結工程:混合工程で得られた湿潤ゲルを凍結し、凍結物を得る工程
乾燥工程:凍結工程で得られた凍結物を乾燥し、請求項1又は請求項2記載の多孔質シリカを得る工程
【請求項4】
請求項3記載の混合工程において、ヘテロポリ酸が溶解した溶媒中でシリカ源とヘテロポリ酸とを混合する請求項3記載の多孔質シリカの製造方法。

【公開番号】特開2009−190906(P2009−190906A)
【公開日】平成21年8月27日(2009.8.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−30009(P2008−30009)
【出願日】平成20年2月12日(2008.2.12)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り (1)平成19年9月17日 触媒学会主催の「第100回触媒討論会」において文書をもって発表 (2)平成19年9月14日 社団法人 化学工学会主催の「化学工学会第39回秋季大会」において文書をもって発表
【出願人】(504173471)国立大学法人 北海道大学 (971)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】