説明

ヘテロポリ酸塩担持触媒

【目的】各種の液相反応の触媒として使用したときにも反応液中への不溶性ヘテロポリ酸塩の脱離を防止して反応後に反応液から容易に回収でき、しかも、不溶性ヘテロポリ酸塩が本来有する触媒機能が損なわれることのない触媒を得る。
【構成】不溶性ヘテロポリ酸塩、例えば、12−タングストリン酸セシウム塩と金属酸化物、例えば、シリカとの混合物よりなり、水に浸漬したときの不溶性ヘテロポリ酸塩の脱離量が5重量%以下である不溶性ヘテロポリ酸塩担持触媒。不溶性ヘテロポリ酸塩と金属酸化物のゾルとの混合物を、例えば、100〜600℃で焼成することによって製造する。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、不溶性ヘテロポリ酸塩を固定化した触媒およびその製造方法に関する。
【0002】
【従来の技術】ヘテロポリ酸およびその塩は、オレフィンの水和、テトラヒドロフランの重合、メタクロレインの酸化等の反応に有効な触媒として工業的に広く使用されている重要な物質である。しかしながら、ヘテロポリ酸およびその塩は、水やアルコール等の極性溶媒に可溶であるために、触媒として使用した後に反応液からの回収が困難であるという問題があった。そこで、極性溶媒に不溶にするために比較的イオン半径の大きいカチオンを持つ塩、例えば、セシウム塩、ルビジウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、バリウム塩またはこれらの酸性塩などに変換することが行われている。
【0003】しかし、この不溶性ヘテロポリ酸塩も、多量の極性溶媒を用いる加水分解反応や水和反応の触媒として用いた場合、不溶性ヘテロポリ酸塩の粒子が微結晶となってコロイド状に分散し、やはり反応後に反応液から触媒を分離することができないという問題があった。
【0004】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、上記のような問題を解決するためになされたものであり、ヘテロポリ酸塩の優れた触媒機能を損なうことなく、加水分解反応や水和反応など極性溶媒が多量に存在する液相下の反応に使用した場合においても、反応後に反応液から分離回収の容易な固体触媒を提供することを目的とする。
【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者は、ヘテロポリ酸誘導体の酸塩基および酸還元触媒の開発を進める中でヘテロポリ酸塩の調製方法について研究を重ねてきた。その結果、不溶性ヘテロポリ酸塩とシリカゲル担体とを単に混合しただけでは、極性溶媒中で不溶性ヘテロポリ酸塩が担体から脱離してしまうが、金属酸化物のゾルと不溶性ヘテロポリ酸塩とを混合するか、或いは不溶性ヘテロポリ酸塩の存在下に金属化合物のゾルを生成させてこれらの混合物を得ることにより、不溶性ヘテロポリ酸塩の触媒活性を低下させることなく極性溶媒中においても不溶性ヘテロポリ酸塩が脱離しない触媒を得ることができ、本発明を提案するに至った。
【0006】即ち、本発明は、不溶性ヘテロポリ酸塩と金属酸化物との混合物よりなり、水に浸漬したときの不溶性ヘテロポリ酸塩の脱離量が5重量%以下であることを特徴とする不溶性ヘテロポリ酸塩担持触媒である。
【0007】本発明で使用する不溶性ヘテロポリ酸塩は特に限定されるものではなく、公知の化合物を使用することができる。本発明において好適に使用しうる代表的なヘテロポリ酸を例示すると、12−モリブドリン酸、12−モリブドケイ酸、12−タングストリン酸、12−タングストケイ酸等のKegginn型のヘテロポリ酸;混合配位ヘテロポリ酸;Dawson型モリブドリン酸;11−モリブドリン酸等の欠損Kegginn型ヘテロポリ酸等をあげることができる。これらのヘテロポリ酸の塩としてはセシウム塩、ルビジウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、バリウム塩、有機アンモニウム塩またはこれらの酸性塩を例示することができる。
【0008】一方、本発明における金属酸化物としては、公知の化合物を何等制限なく採用することができ、特に、触媒の担体として使用される金属酸化物が好適である。このような金属酸化物を具体的に例示すれば、シリカ、アルミナ、チタニア、ジルコニア、あるいはシリカ−アルミナ、シリカ−チタニア、シリカ−ジルコニア等の複合酸化物をあげることができる。
【0009】本発明の不溶性ヘテロポリ酸塩担持触媒は、上記した不溶性ヘテロポリ酸塩と金属酸化物との混合物となっている。不溶性ヘテロポリ酸塩と金属酸化物の混合比は特に制限されないが、不溶性ヘテロポリ酸塩の本来の触媒機能を損なうことなく、しかも不溶性ヘテロポリ酸塩の脱離を少なくするためには、重量比で不溶性ヘテロポリ酸塩:金属酸化物=1:0.05〜5.0の範囲であることが好ましく、さらに1:0.1〜2.0の範囲であることが好ましい。
【0010】本発明の不溶性ヘテロポリ酸塩担持触媒は、極性溶媒中に浸漬しても不溶性ヘテロポリ酸塩の脱離が極めて少ない。即ち、本発明の不溶性ヘテロポリ酸塩担持触媒を60℃の温水中に1時間浸漬したときの不溶性ヘテロポリ酸塩の脱離量は、担持されていた不溶性ヘテロポリ酸塩中に占める割合で5重量%以下であり、さらに2重量%以下とすることもできる。不溶性ヘテロポリ酸塩の脱離量が5重量%を越えるときは、本発明の不溶性ヘテロポリ酸塩担持触媒を多量の極性溶媒中での反応に使用したときに、不溶性ヘテロポリ酸塩が触媒から脱離してしまい、その回収率が低下するために好ましくない。不溶性ヘテロポリ酸塩と金属酸化物とを単に混合しただけでは、後述する比較例からも明らかなように、水への浸漬によってほとんど全部の不溶性ヘテロポリ酸塩が脱離してしまい、本発明のような不溶性ヘテロポリ酸塩の脱離量の小さい触媒を得ることはできない。
【0011】本発明の不溶性ヘテロポリ酸塩担持触媒は、通常、50〜2000m2/g、好ましくは100〜1000m2/gの比表面積を有している。また、粒子径は特に制限されないが、通常、0.1〜1000μmの範囲である。
【0012】本発明のヘテロポリ酸塩担持触媒は、どのような方法で製造されてもよいが、下記の方法によって好適に製造することができる。即ち、不溶性ヘテロポリ酸塩と金属酸化物のゾルとの混合物を焼成する方法である。
【0013】金属酸化物のゾルは公知の方法で製造することができる。例えば、加水分解可能な有機金属化合物を水の存在下で加水分解するか、またはケイ酸塩を酸分解することによって製造することができる。ここで、加水分解可能な有機金属化合物としては、テトラエトキシシラン、テトライソプロポキシシラン、トリエトキシアルミニウム、テトライソプロポキシチタン、テトライソプロポキシジルコニウム等のアルコキシ基を有する有機ケイ素化合物、有機アルミニウム化合物、有機チタニウム化合物、有機ジルコニウム化合物等をあげることができ、酸分解し得るケイ酸塩としてはケイ酸ナトリウムをあげることができる。
【0014】有機金属化合物の加水分解は、上記した原料をメタノール、エタノール等のアルコール中に溶解させ、次いで加水分解可能な有機金属化合物のアルコキシ基に対して1〜10倍モルの水を加えて加水分解する公知の方法を採用できる。また、ケイ酸塩の酸分解は、ケイ酸塩の水溶液に硫酸または硫酸塩水溶液を添加する公知の方法を採用することができる。
【0015】金属酸化物のゾルと不溶性ヘテロポリ酸塩との混合方法は特に制限されず、金属酸化物のゾルの原料である上記した加水分解可能な有機金属化合物または酸分解可能なケイ酸塩を加水分解または酸分解した後に不溶性ヘテロポリ酸塩を添加する方法、不溶性ヘテロポリ酸塩の存在下に加水分解可能な有機金属化合物の加水分解を行う方法等を採用することができる。
【0016】金属酸化物不溶性ヘテロポリ酸塩と金属酸化物のゾルとの混合は、上記した重量比となるように行えばよい。
【0017】不溶性ヘテロポリ酸塩と金属酸化物のゾルの混合物は、蒸発乾固、ろ過、遠心分離等の公知の方法で金属酸化物のゾルの生成反応における反応液から分離される。その後、必要により乾燥され、次いで焼成が行われる。焼成の温度は特に制限されないが、不溶性ヘテロポリ酸塩の触媒機能を損なうことなく脱離量を小さくするために、100〜600℃、好ましくは150〜500℃の範囲から選択することが好適である。また、焼成時間は、一般には1〜5時間の範囲から選ぶことが好ましい。
【0018】
【発明の効果】本発明の不溶性ヘテロポリ酸塩担持触媒は、極性溶媒中での不溶性ヘテロポリ酸塩の脱離量が極めて少ないために、各種の反応に使用したときにも反応液中への不溶性ヘテロポリ酸塩の脱離を防止することができ、反応後に反応液から容易に回収することができる。しかも、本発明の不溶性ヘテロポリ酸塩担持触媒は、不溶性ヘテロポリ酸塩の微結晶が金属酸化物マトリックス中に均質に分散して固定化されており、液相反応用触媒としての効率が高く、不溶性ヘテロポリ酸塩が本来有する触媒機能はほとんど損なわれることはない。
【0019】したがって、本発明の不溶性ヘテロポリ酸塩担持触媒は、広範囲にわたるヘテロポリ酸塩固有の酸触媒反応あるいは酸化還元反応、例えば、オレフィンの水和反応、エステルの加水分解反応、ニトリルの加水分解反応等における触媒として効果的に機能し、特に極性の高い溶媒または反応基質を用いる液相反応に好適に使用できる。
【0020】
【実施例】以下に実施例および比較例を掲げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に制限されるものではない。
【0021】実施例1H0.5Cs2.5PW12O40の組成を持つ12−タングストリン酸セシウム塩2gをエタノール15ml中に分散させ、40℃で1時間攪拌した。次いで所定量のテトラエトキシシランを滴下しながら加え、40℃で1時間攪拌した後、テトラエトキシシランの5倍モルの水を加え、80℃で24時間攪拌した。生成したゾルおよび固体を含む反応液を減圧下で蒸発乾固し、回収した固体を80℃の水に加えて15時間攪拌した後、濾紙を用いて濾別し、水洗、乾燥後、300℃で焼成してシリカ固定化不溶性タングストリン酸セシウム塩を得た。また、上記と同様の操作でシリカ含量の異なるシリカ固定化不溶性タングストリン酸セシウム塩を調製した。
【0022】これらのシリカ固定化不溶性タングストリン酸セシウム塩0.5mmolを60℃の温水100ml中に1時間浸漬した後の温水中への不溶性タングストリン酸セシウム塩の脱離量を定量し、その結果を表1に示した。また、組成比、比表面積および触媒機能を評価するために行った酢酸エチルの加水分解における反応速度をまとめて表1に示した。酢酸エチルの加水分解反応は水9.5g、酢酸エチル0.5g、シリカ固定化不溶性タングストリン酸セシウム塩0.5mmolを用い、反応温度60℃で行った。
【0023】加水分解反応後、いずれのシリカ固定化不溶性タングストリン酸セシウム塩も濾紙を用いて容易に液相と分離できた。
【0024】
【表1】


【0025】実施例2焼成温度を除き、実施例1と同様にしてH0.5Cs2.5PW12O40に対するシリカの重量比1.2のシリカ固定化不溶性タングストリン酸セシウム塩を調製し、焼成温度を変えた場合の結果を表2に示した。
【0026】
【表2】


【0027】実施例3H0.5Cs2.5PW12O40の代わりにH2CsPW12O40およびHCs2PW12O40を用い、不溶性タングストリン酸セシウム塩に対するシリカの重量比が1.2になるようにテトラエトキシシランの量を規制し、焼成温度を150℃とした以外は実施例1と同様に行い、シリカ固定化不溶性タングストリン酸セシウム塩を調製した。結果を表3に示した。
【0028】
【表3】


【0029】比較例H0.5Cs2.5PW12O40の組成を持つ12−タングストリン酸セシウム塩2gを水15ml中に分散させ、40℃で1時間攪拌した。次いでシリカゲル(比表面積585cm2/g)を2.4g加え、40℃で1時間攪拌した。その後は実施例1と同様にして、不溶性タングストリン酸セシウム塩に対するシリカの重量比が1.2の不溶性タングストリン酸セシウム塩とシリカの混合物を調製した。この混合物について、実施例1と同様にして評価した。その結果、酢酸エチルの加水分解における反応速度は2.04×10-3min-1-1であったが、不溶性タングストリン酸セシウム塩のほとんどが温水中に脱離していた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】不溶性ヘテロポリ酸塩と金属酸化物との混合物よりなり、水に浸漬したときの不溶性ヘテロポリ酸塩の脱離量が5重量%以下であることを特徴とする不溶性ヘテロポリ酸塩担持触媒。
【請求項2】不溶性ヘテロポリ酸塩と金属酸化物のゾルとの混合物を焼成することを特徴とする請求項1記載の不溶性ヘテロポリ酸塩担持触媒の製造方法。