説明

ヘテロ原子置換された光学活性なプロパンニトリル類の合成法

【課題】ヘテロ原子置換された光学活性なプロパンニトリル類の合成法およびヘテロ原子置換された光学活性なプロパンニトリルを提供する。
【解決手段】ヘテロ原子置換された五員環ラクトン類をシアン化物イオンと反応させることを特徴とする、プロパンニトリルの製造方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光学活性体を含む新規なプロパンニトリル類およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハロゲン、アミノ、ヒドロキシ基のような各種ヘテロ原子を含む置換基で置換されたプロパンニトリル(プロピオニトリル)類は、農薬、医薬および生理活性物質などの中間原料として工業的に極めて有用である。
【0003】
例えば、医薬品の合成原料として有用なβ-アラニンは、3-アミノプロパンニトリルのニトリル基を加水分解する方法、3-ヒドロキシプロパンニトリルを触媒量のアンモニア存在下で加熱する方法(特許文献1)などによって製造できることが知られている。前記β-アラニンを含むβ-アミノ酸類については、化粧品成分などの様々な用途の開発が進められている(特許文献2)。
【0004】
【特許文献1】米国特許第2,734,081号明細書
【特許文献2】特開2005-239609号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ヘテロ原子置換されたプロパンニトリル類の製造法としては、アクリロニトリルにアンモニア、ハロゲンなどを反応させて合成する方法が一般的である。アクリロニトリル、アンモニアおよびハロゲンは安価な工業原料であることから、かかる製造法は低コストで目的物を製造できる利点を有する。
【0006】
しかしながら、前記反応は急激に進行する反応であることが多く、所望の反応のみが進行するように制御することが困難であるという問題点を有している。また、その反応原理から、得られる反応生成物はラセミ体に限られるため、所望の光学異性体のみを得るためには、ラセミ体の反応生成物を例えば化学的または酵素的な方法を用いて光学分割する必要があるという問題点も有している。
【0007】
後者の問題点についてさらに詳しく説明すると、化学的な光学分割法は、当量以上の分割剤が別途必要である上、分離精製のためにさらなる煩雑な工程が必要となる。一方、酵素的な光学分割法は、酵素反応の工程のみで比較的高い光学純度の光学異性体を得ることができる反面、適用可能な物質および得られる光学異性体が、使用される酵素の特異性に依存する。
【0008】
そこで、アクリロニトリル以外の化合物を原料として、ヘテロ原子置換されたプロパンニトリル類を効率的に製造する方法、とりわけ所望の光学異性体を高い光学純度で合成できる立体選択的な製造法の開発が求められている。
【0009】
それ故本発明は、ヘテロ原子置換された光学活性なプロパンニトリル類の合成法およびヘテロ原子置換された光学活性なプロパンニトリルを提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
発明者らは、2-オキサゾリドンを様々な求核剤と反応させてその反応生成物を調査する研究を進めてきた。その結果、1級アミンを求核剤として用いた場合には、2-位のカルボニル炭素を攻撃してアミドを生じるが、チオールのナトリウム塩を求核剤として用いた場合には、5-位のメチレン炭素を選択的に攻撃して2-アミノスルフィドを生じることを見出した(Ishibashi, H.ら著、Tetrahedron, 2001年、57巻、2115〜2120頁を参照されたい)。
【0011】
発明者らは、前記の知見に基づきさらに鋭意研究を進めた結果、チオールのナトリウム塩に替えてシアン化物イオンを求核剤に用いた場合であっても、5-位のメチレン炭素選択的に求核反応が起きることにより3-アミノプロパンニトリルが得られることを見出し、本発明に到達した。
【0012】
すなわち、第一に、本発明は、
式(I):
【化1】

[式中、
XはN、OまたはSであり;
R1、R2およびR3はそれぞれ独立して、水素、置換されていてもよいアルキル、アルケニルもしくはアルキニル基、置換されていてもよいシクロアルキルもしくはシクロアルケニル基、置換されていてもよいアラルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよい脂肪族複素環基、または置換されていてもよい芳香族複素環基であり;
R1およびR2はそれらが結合している原子と一緒に5〜8員環複素環基を形成してもよく;
*はR2およびR3が同一である場合を除いて不斉炭素であることを示す]
で表される五員環ラクトン類を、シアン化物イオンと反応させることを特徴とする、式(II):
【0013】
【化2】

[式中、
X、R1、R2およびR3は前記と同一であり;
R4はXがOまたはSのとき非共有電子対であり、Nのとき水素であり;
*はR2およびR3が同一である場合を除いて不斉炭素であることを示し、該不斉炭素上の絶対立体配置は前記式(I)で表される五員環ラクトン類の*で示される不斉炭素上の絶対立体配置と同一である]
で表される、プロパンニトリルの製造方法である。
前記XはNであることが好ましい。
【0014】
前記製造方法は、シアン化カリウム、シアン化ナトリウム、およびトリメチルシリルシアニドからなる群より選択されるシアン化物とカチオン捕捉剤とを反応させることにより前記シアン化物イオンを発生させる工程をさらに含むことが好ましい。
前記カチオン捕捉剤は18-クラウン-6であることが好ましい。
【0015】
第二に、本発明は、
式(II):
【化3】

[式中、
XはN、OまたはSであり;
R4はXがOまたはSのとき非共有電子対であり、Nのとき水素であり;
R1、R2およびR3はそれぞれ独立して、水素、置換されていてもよいアルキル、アルケニルもしくはアルキニル基、置換されていてもよいシクロアルキルもしくはシクロアルケニル基、置換されていてもよいアラルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよい脂肪族複素環基、または置換されていてもよい芳香族複素環基であり;
R1およびR2はそれらが結合している原子と一緒に5〜8員環複素環基を形成してもよく;
*はR2およびR3が同一である場合を除いて不斉炭素であることを示す]
で表される、プロパンニトリル(ただし、XがNであり、R2、R3およびR4がそれぞれ水素であり、かつR1が水素、メチル、ベンジル、フェニル、4-メチルフェニル、4-メトキシフェニル、4-クロロフェニルもしくは4-ニトロフェニル基である場合を除く)である。
【0016】
前記式(II)において、XがNであり、R2、R3およびR4がそれぞれ水素であり、かつR1が前記で定義した基であるか;
XがNであり、R4が水素であり、R1が置換されていてもよいベンジル基であり、かつR2およびR3が前記で定義した基であるか;または
XがNであり、R4が水素であり、R1およびR2がそれらが結合している原子と一緒に5〜8員環複素環基を形成しており、かつR3が前記で定義した基であることが好ましい。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、ヘテロ原子置換された光学活性なプロパンニトリル類の合成法およびヘテロ原子置換された光学活性なプロパンニトリルを提供することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
以下、本発明の好ましい実施形態について詳細に説明する。
1.ヘテロ原子置換されたプロパンニトリル類の合成法
本発明のプロパンニトリルの製造方法は、ラクトン炭素のα位がヘテロ原子置換された五員環ラクトン類を、シアン化物イオンと反応させることを含む。この反応は、以下に示す反応機構で進行すると考えられる。
【0019】
【化4】

[式中、X、R1、R2、R3およびR4は前記と同一である。]
【0020】
本発明の製造方法の特徴は、前記のようにシアン化物イオンによる求核的攻撃が2-位のカルボニル炭素ではなく、5-位のメチレン炭素に対して起きる点である。前記に示す反応機構から明らかなように、4-位の不斉炭素は反応に直接関与しないため、不斉炭素上の絶対立体配置は反応の前後で保持されることになる。
【0021】
それ故、本発明の製造方法によれば、ラクトン炭素のα位がヘテロ原子置換された五員環ラクトンをシアン化物イオンと反応させることにより、高収率で3-位がヘテロ原子置換されたプロパンニトリルを製造することが可能である。特に、不斉炭素上の絶対立体配置は保持されるため、特定の光学異性体を基質として用いることにより、所望の絶対立体配置を有するプロパンニトリルのみを選択的に製造することが可能である。また、得られるプロパンニトリルを加水分解することによって、3-位がヘテロ原子置換されたプロピオン酸に導くことも可能である。
本発明の製造方法において使用される五員環ラクトン類は、下記式(I)で表される。
【0022】
【化5】

【0023】
本発明の製造方法において得られるプロパンニトリル類は、下記式(II)で表される。
【化6】

【0024】
本明細書において、「アルキル基」は脂肪族炭化水素基を意味し、直鎖または分枝鎖のいずれでもよく、炭素数は1〜12であることが好ましい。好適なアルキル基は、限定するものではないが、例えばメチル基、エチル基、n-プロピル基、2-プロピル基、n-ブチル基、2-ブチル基、イソブチル基、tert-ブチル基等が挙げられる。
【0025】
本明細書において、「アルケニル基」は前記アルキル基の1個以上のC-C単結合が二重結合に置換された官能基を意味するものとする。
【0026】
本明細書において、「アルキニル基」は前記アルキル基の1個以上のC-C単結合が三重結合に置換された官能基を意味するものとする。
【0027】
本明細書において、「シクロアルキル基」は環状アルキル基を意味し、炭素数は3〜8であることが好ましい。好適なシクロアルキル基は、限定するものではないが、例えばシクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。
【0028】
本明細書において、「アラルキル基」は芳香環置換アルキル基を意味し、アルキル鎖の炭素数は1〜12であることが好ましい。好適なアラルキル基は、限定するものではないが、例えばベンジル基、2-フェニルエチル基等が挙げられる。
【0029】
本明細書において、「アリール基」は芳香環基を意味し、炭素数は6〜15であることが好ましい。好適なアリール基は、限定するものではないが、例えばフェニル基、ナフチル基、アントリル基等が挙げられる。
【0030】
本明細書において、「脂肪族複素環基」は例えば窒素(N)、酸素(O)、硫黄(S)原子等のヘテロ原子を含む環状置換基を意味し、炭素数は4〜8であることが好ましい。好適な脂肪族複素環基は、限定するものではないが、例えばピロリジニル基、テトラヒドロフラニル基、ジヒドロフラニル基、テトラヒドロチエニル基、テトラヒドロピラニル基、ジヒドロピラニル基、テトラヒドロチオピラニル基、ピペリジノ基、モルホリノ基、チオモルホリノ基、チオキサニル基、ピペラジニル基等が挙げられる。
【0031】
本明細書において、「芳香族複素環基」は例えば窒素(N)、酸素(O)、硫黄(S)原子等のヘテロ原子を含む芳香環基を意味し、炭素数は3〜8であることが好ましい。好適な脂肪族複素環基は、限定するものではないが、例えばピリジニル基、イミダゾリル基、ピリミジニル基、ピラゾリル基、トリアゾリル基、ピラジニル基、テトラゾリル基、フリル基、チエニル基、イソキサゾリル基、チアゾリル基、オキサゾリル基、イソチアゾリル基、ピロリル基、キノリニル基、イソキノリニル基、インドリル基等が挙げられる。
【0032】
本明細書において、「置換」は前記置換基の少なくとも1個の水素原子がアルキル基、シクロアルキル基、アルコキシ基、アミノ基、ハロゲン原子等の置換基によって置換されることを意味する。
【0033】
本発明の製造方法において、ヘテロ原子Xは、N、OおよびSからなる群より選択される。特定の実施形態において、XはNまたはOであることが好ましく、Nであることがより好ましい。XがNである場合、本発明の製造方法によって、例えば医薬品の合成原料として有用なβ-アラニンなどのβ−アミノ酸およびその誘導体を製造することが可能となる(前記特許文献2を参照されたい)。
【0034】
本発明の製造方法において、R1、R2およびR3はそれぞれ独立して、水素、置換されていてもよいアルキル、アルケニルもしくはアルキニル基、置換されていてもよいシクロアルキルもしくはシクロアルケニル基、置換されていてもよいアラルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよい脂肪族複素環基、または置換されていてもよい芳香族複素環基であることが好ましい。
【0035】
特定の実施形態において、R1およびR2はそれらが結合している原子と一緒に複素環を形成してもよく、5〜8員環が好ましい。
【0036】
本発明の製造方法において、「*」は不斉炭素であることを示す。ただしR2およびR3が同一である場合には不斉炭素とはならない。本発明の製造方法においては、前記のように式(I)で表される五員環ラクトンの不斉炭素上の絶対立体配置は式(II)で表されるプロパンニトリルにおいても保持されるため、両化合物の*で示される不斉炭素上の絶対立体配置は同一となる。それ故、R配置またはS配置いずれかの立体配置を有する五員環ラクトンを使用することにより、所望の絶対立体配置を有するプロパンニトリルを製造することが可能である。
【0037】
本発明の製造方法において、シアン化物イオンは求核剤として働く。未解離のシアン化物は求核性が低いため、反応に参加することはないと考えられる。それ故、本発明の製造方法において、シアン化物イオンを発生させるために使用されるシアン化物は、反応液中における解離度の高いものが好ましい。解離度の高いシアン化物を使用することにより、求核剤として働くシアン化物イオンの存在割合を高くすることが可能となる。特定の実施形態において、前記シアン化物は、シアン化カリウム、シアン化ナトリウムまたはトリメチルシリルシアニドであることが好ましい。
【0038】
本発明の製造方法において、反応基質が液体であることから溶媒の添加は特に必要とされない。しかしながら、前記シアン化物イオンの存在割合を高くする目的で溶媒を使用してもよい。特定の実施形態において使用される溶媒は、塩化メチレン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドまたはヘキサメチルホスホルアミドであることが好ましい。
【0039】
特定の実施形態において、本発明の製造方法は、シアン化物およびカチオン捕捉剤を反応させることにより前記シアン化物イオンを発生させる工程をさらに含んでもよい。シアン化物をカチオン捕捉剤と反応させることにより、高い効率でシアン化物イオンを発生させることができるとともに、反応を無水溶媒または無溶媒条件で行うことが可能となる。特定の実施形態において、前記カチオン捕捉剤は、18-クラウン-6または15-クラウン-5であることが好ましい。
【0040】
本発明の製造方法において、反応系の気相雰囲気は特に限定するものではないが、不活性ガス雰囲気下で反応を実施することにより好ましくない副反応が起きることを防止することが可能である。当業界で慣用されるあらゆる不活性ガスを使用することが好ましい。好適なガスは、窒素およびヘリウムである。
【0041】
本発明の製造方法において、反応温度を一定に保持することにより好ましくない副反応が起きることを防止することが可能である。特定の実施形態において、反応温度は50〜150℃であることが好ましい。また、反応時間は1〜150時間であることが好ましい。
【0042】
以上説明したように、本発明のプロパンニトリルの製造方法は、ラクトン炭素のα位がヘテロ原子置換された五員環ラクトン類をシアン化物イオンと反応させることにより、該五員環ラクトンの4-位の絶対立体配置を保持した状態でヘテロ原子置換されたプロパンニトリルを合成することが可能である。それ故、所望の置換基および立体配置を有する五員環ラクトン類を用いることにより、光学活性な置換プロパンニトリルを製造することが可能となる。かかる製造方法により、特にXがNである場合、例えば光学活性なβ−ラクタム系抗生物質およびリュウマチ様関節剤として薬効が期待されているインターロイキン-1-β変換酵素阻害物質の合成中間体として有用なアルキルオキシアミノフラノン誘導体など、農薬および医薬中間体として有用な光学活性β−アミノ酸およびその誘導体を製造することが可能となる。
【0043】
2.プロパンニトリル
本発明は、前記式(II)で表される新規化合物を提供する。
式(II)において、XがNおよびR4が水素であるアミノプロパンニトリルが好ましい。
【0044】
特に、式(II)において、XがNであり、R2、R3およびR4がそれぞれ水素であり、かつR1は前記で定義した基であるか;
XがNであり、R4が水素であり、R1は置換されていてもよいベンジル基であり、かつR2およびR3は前記で定義した基であるか;または
XがNであり、R4が水素であり、R1およびR2はそれらが結合している原子と一緒に5〜8員環複素環基を形成しており、かつR3は前記で定義した基である;
3-アミノプロパンニトリルであることが好ましい。
【0045】
本発明の3-アミノプロパンニトリルの具体例としては、例えば以下:
(3S)-3-(N-ベンジルアミノ)-3-メチルプロパンニトリル;
(3S)-3-(N-ベンジルアミノ)-3-ベンジルプロパンニトリル;
(3R)-3-(N-ベンジルアミノ)-3-フェニルプロパンニトリル;
(2S)-2-ピロリジンアセトニトリル;
の化合物が挙げられる。
【0046】
本明細書において、化合物名および一般式で表される化合物には、該化合物の塩も含むものとする。
【0047】
本発明の3-アミノプロパンニトリルは、ニトリル基を加水分解することで容易にカルボキシル基に変換することができる。得られる化合物はβ−アミノ酸類である。それ故、本発明の3-アミノプロパンニトリルは、前節で詳細に説明したように、様々な置換基を有する光学活性なβ−アミノ酸類の製造に使用することが可能である。また、本発明の3-アミノプロパンニトリルは、アミノ基、カルボキシル基に変換可能なニトリル基、および/またはR1〜R3の置換基を利用して、様々な結合生成反応を計画することが可能である。それ故、光学活性な生理活性物質の全合成に際して、所望の絶対立体配置を有する官能基を導入するための合成中間体として使用することが可能である。
【実施例】
【0048】
以下、実施例および比較例によって本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれに限定されるものではない。
【0049】
以下の実施例および比較例において用いた各種分析機器は以下の通りである。
(1)各磁気共鳴スペクトル分析計(NMR):JEOL JNM-GSX 500(日本電子株式会社)
(2)赤外吸収スペクトル分析計(IR):島津FTIR-8100(島津製作所)
(3)高分解能質量分析計(HRMS):JEOL JMS-SX 102A(日本電子株式会社)
【0050】
(共通の調製手順)
窒素雰囲気下、基質(1.0 当量)にシアン化カリウム(2.0 当量)および18-クラウン-6(1.0当量)を加え、無溶媒で100 ℃に加熱した。TLCで原料消失を確認後、室温まで放冷しCH2Cl2(10 ml)で希釈した後セライト濾過して減圧濃縮した。得られた粗生成物を蒸留またはシリカゲルクロマトグラフィーにより精製し、生成物を得た。
【0051】
(実施例1)3-アミノプロパンニトリル(1a)
2-オキサゾリドン(0.5 g, 5.7 mmol)、シアン化カリウム(748 mg, 11.5 mmol)および18-クラウン-6(1.5 g, 5.7 mmol)の混合物を5時間加熱した後、粗生成物を蒸留により精製し、化合物1a(50.4 mg, 13 %)を無色油状物質として得た。IR(CHCl3):ν 2251 cm-1; 1H NMR(500 MHz, CDCl3):δ 1.54(2H, s)、 2.49(2H, t, J=6.4 Hz)、 3.02(2H, t, J=8.1 Hz)。得られた化合物の化学構造は、前記の各種機器分析データを文献(Gardes-Gariglio, H.; Pornet, J. 著、J. Organomet. Chem. 2001年、620巻、94頁)の記載値と比較することにより同定した。
【0052】
(実施例2)3-(N-メチルアミノ)プロパンニトリル(1b)
N-メチル-2-オキサゾリドン(0.5 g, 4.9 mmol)、シアン化カリウム(644 mg, 9.9 mmol)および18-クラウン-6(1.3 g, 4.9 mmol)の混合物を8時間加熱した後、粗生成物を蒸留により精製し、化合物1b(210.5 mg, 50 %)を無色油状物質として得た。IR(CHCl3):ν 2251 cm-1; 1H NMR(500 MHz, CDCl3):δ 1.41(1H, s)、 2.48(3H, s)、 2.52(2H, t, J=6.4 Hz)、 2.90(2H, t, J=6.7 Hz)。得られた化合物の化学構造は、前記の各種機器分析データを文献(Manoury, P. M.; Binet, J. L.; Dumas, A. P.; Lefevre-Borg, F.; Cavero, I. 著、J. Med. Chem. 1986年、29巻、19頁)の記載値と比較することにより同定した。
【0053】
(実施例3)3-(N-ベンジルアミノ)プロパンニトリル(1c)
N-ベンジル-2-オキサゾリドン(0.1 g, 0.57 mmol)、 シアン化カリウム(74 mg, 1.1 mmol)および18-クラウン-6(298 mg, 1.1 mmol)の混合物を4時間加熱した後、粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(n-ヘキサン/酢酸エチル = 1:1)により精製し、化合物1c(68.3 mg, 73 %)を得た。IR(CHCl3):ν 2251 cm-1; 1H NMR(500 MHz, CDCl3):δ 1.65(1H, s)、 2.50(2H, t, J=6.7 Hz)、 2.92(2H, t, J=6.7 Hz)、 3.83(2H, s)、7.25-7.35(5H, m)。得られた化合物の化学構造は、前記の各種機器分析データを文献(Polshettiwar, V.; Varma, R. S. 著、Tetrahedron Lett. 2007年、48巻、8735頁)の記載値と比較することにより同定した。
【0054】
(実施例4)3-(N-フェニルアミノ)プロパンニトリル(1d)
N-フェニル-2-オキサゾリドン(0.1 g, 0.61 mmol)、シアン化カリウム(80 mg, 1.2 mmol)および18-クラウン-6(162 mg, 0.61 mmol)の混合物を10時間加熱した後、粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(n-ヘキサン/酢酸エチル = 1:1)により精製し、化合物1d(73.2 mg, 82 %)を得た。 IR(CHCl3):ν 2251 cm-1; 1H NMR(500 MHz, CDCl3):δ 2.59(2H, t, J=6.6 Hz)、 3.48(2H, t, J=6.5 Hz)、 3.97(1H, s)、 6.60(2H, d, J=7.6 Hz)、 6.77(1H, t, J=7.3 Hz)、 7.20(2H, t, J=7.6 Hz); 13C NMR(125 MHz, CDCl3):δ 18.0, 39.7, 113.0, 118.2, 118.5, 129.4, 146.3。得られた化合物の化学構造は、前記の各種機器分析データを文献(Polshettiwar, V.; Varma, R. S. 著、Tetrahedron Lett. 2007年、48巻、8735頁)の記載値と比較することにより同定した。
【0055】
(実施例5)3-[N-(4-メチルフェニル)アミノ]プロパンニトリル(1e)
N-(4-メチルフェニル)-2-オキサゾリドン(0.1 g, 0.57 mmol)、シアン化カリウム(74 mg, 1.1 mmol)および18-クラウン-6(149 mg, 0.57 mmol)の混合物を12時間加熱した後、粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(n-ヘキサン/酢酸エチル = 1:1)により精製し、化合物1e(60.3 mg, 67 %)を得た。IR(CHCl3):ν 2251 cm-1; 1H NMR(500 MHz, CDCl3):δ 2.24(3H, s)、 2.59(2H, t, J=6.5 Hz)、 3.47(2H, t, J=6.5 Hz)、 3.83(1H, s)、 6.53(2H, d, J=8.5 Hz)、 7,01(2H, d, J=8.1 Hz); 13C NMR(125 MHz, CDCl3):δ 18.0, 20.3, 40.1, 113.3, 118.2, 127.9, 129.9, 143.8。得られた化合物の化学構造は、前記の各種機器分析データを文献(Surendra, K.; Krishnaveni, N. S.; Sridhar, R.; Rao, K. R. 著、Tetrahedron Lett. 2006年、47巻、2125頁)の記載値と比較することにより同定した。
【0056】
(実施例6)3-[N-(4-メトキシフェニル)アミノ]プロパンニトリル(1f)
N-(4-メトキシフェニル)-2-オキサゾリドン(0.1 g, 0.52 mmol)、シアン化カリウム(67 mg, 1.0 mmol)および18-クラウン-6(137 mg, 0.52 mmol)の混合物を20時間加熱した後、粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(n-ヘキサン/酢酸エチル = 1:1)により精製し、化合物1f(72.3 mg, 79 %)を得た。IR(CHCl3):ν 2251 cm-1; 1H NMR(500 MHz, CDCl3):δ 2.57(2H, t, J=6.4 Hz)、 3.42(2H, t, J=6.4 Hz)、 3.74(3 H, s)、 6.58(2H, d, J=9.2 Hz)、 6.79(2H, d, J=8.5 Hz); 13C NMR(125 MHz, CDCl3):δ 18.0, 40.7, 55.6, 114.6, 115.0, 118.3, 140.1, 152.8。得られた化合物の化学構造は、前記の各種機器分析データを文献(Su, T. L.; Watanabe, K. A. 著、J. Org. Chem. 1989年、54巻、220頁)の記載値と比較することにより同定した。
【0057】
(実施例7)3-[N-(4-クロロフェニル)アミノ]プロパンニトリル(1g)
N-(4-クロロフェニル)-2-オキサゾリドン(0.1 g, 0.5 mmol)、シアン化カリウム(65 mg, 1 mmol)および18-クラウン-6(134 mg, 0.51 mmol)の混合物を5時間加熱した後、粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(n-ヘキサン/酢酸エチル = 1:1)により精製し、化合物1g(66.0 mg, 72 %)を得た。IR(CHCl3):ν 2251 cm-1; 1H NMR(500 MHz, CDCl3):δ 2.61(2H, t, J=6.5 Hz)、 3.46(2H, q, J=6.3 Hz)、 4.04(1H, s)、 6.53(2H, d, J=8.8 Hz)、 7.14(2H, d, J=9.0 Hz); 13C NMR(125 MHz, CDCl3):δ 18.0, 39.7, 114.1, 118.0, 123.1, 129.3, 144.8。得られた化合物の化学構造は、前記の各種機器分析データを文献(Polshettiwar, V.; Varma, R. S. 著、Tetrahedron Lett. 2007年、48巻、8735頁)の記載値と比較することにより同定した。
【0058】
(実施例8)3-[N-(4-ニトロフェニル)アミノ]プロパンニトリル(1h)
N-(4-ニトロフェニル)-2-オキサゾリドン(0.1 g, 0.5 mmol)、シアン化カリウム(63 mg, 0.96 mmol)および18-クラウン-6(127 mg, 0.5 mmol)の混合物を18時間加熱した後、粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(n-ヘキサン/酢酸エチル = 1:1)により精製し、化合物1h(11.0 mg, 12 %)を得た。IR(CHCl3):ν 2251 cm-1; 1H NMR(500 MHz, CDCl3):δ 2.71(2H, t, J=6.4 Hz)、 3.63(2H, q, J=6.4 Hz)、 4.85(1H, s)、 6.60、(2H, d, J=9.2 Hz)、 8.13(2H, d, J=9.2 Hz)。得られた化合物の化学構造は、前記の各種機器分析データを文献(Zhang, H.; Zhang, Y.; Liu, L.; Xu, H.; Wang, Y. 著、Synthesis 2005年、13巻、2129頁)の記載値と比較することにより同定した。
【0059】
(実施例9)(3S)-3-(N-ベンジルアミノ)-3-メチルプロパンニトリル(1i)
(4S)-N-ベンジル-4-メチル-2-オキサゾリドン(0.1 g, 0.52 mmol)、シアン化カリウム(136 mg, 2.1 mmol)および18-クラウン-6(277 mg, 1 mmol)の混合物を24時間加熱した後、粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(n-ヘキサン/酢酸エチル = 1:1)により精製し、化合物1i(54.2 mg, 59 %)を得た。IR(CHCl3):ν 2251 cm-1; 1H NMR(500 MHz, CDCl3):δ 1.23(3H, dd, J=6.6, 6.3 Hz)、 1.45(1H, s)、2.45(2H, t, J=5.6 Hz)、3.04-3.07(1H, m)、3.81(2H, s) 、7.35(5H, m); HRMS C11H14N2に対する計算値:174.1157、実測値:174.1155。
【0060】
(実施例10)(3S)-3-(N-ベンジルアミノ)-3-ベンジルプロパンニトリル(1j)
(4S)-N-ベンジル-4-ベンジル-2-オキサゾリドン(0.1 g, 0.37 mmol)、シアン化カリウム(97 mg, 1.5 mmol)および18-クラウン-6(198 mg, 0.75 mmol)の混合物を1週間加熱した後、粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(n-ヘキサン/酢酸エチル = 1:1)により精製し、化合物1j(19.7 mg, 21 %)を得た。IR(CHCl3):ν 2251 cm-1; 1H NMR(500 MHz, CDCl3):δ 1.56(1H, s)、 2.35(1H, dd, J=4.6 Hz)、 2.47(1H, dd, J=5.6 Hz)、 2.83(1H, dd, J=7.1 Hz)、 2.93(1H, dd, J=6.8 Hz)、 3.10-3.15(1H, m)、3.78(1H, d, J=13.4 Hz)、 3.87(1H, d, J=13.2 Hz)、 7.16-7.32(10H, m); 13C NMR(125 MHz, CDCl3):δ 22.5, 40.4, 51.1, 54.9, 117.9, 126.9, 127.2, 127.9, 128.5, 128.8, 129.2, 137.2, 139.4; HRMS C17H18N2に対する計算値: 250.1470、実測値:250.1466。
【0061】
(実施例11)(3R)-3-(N-ベンジルアミノ)-3-フェニルプロパンニトリル(1k)
(4R)-N-ベンジル-4-フェニル-2-オキサゾリドン(94.4 mg, 0.37 mmol)、シアン化カリウム(97 mg, 1.5 mmol)および18-クラウン-6(197 mg, 0.75 mmol)の混合物を24時間加熱した後、粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(n-ヘキサン/酢酸エチル = 1:1)により精製し、化合物1k(53.6 mg, 61 %)を得た。IR(CHCl3):ν 2251 cm-1; 1H NMR(500 MHz, CDCl3):δ 1.84(1H, s)、 2.66(2H, d, J=6.6 Hz)、 3.62(1H, t, J=12.9 Hz)、 3.72(1H, d, J=13.2 Hz)、 3.98(1H, t, J=6.5 Hz)、 7.22-7.40(10H, m); HRMS C16H16N2に対する計算値:236.1313、実測値:236.1311。
【0062】
(実施例12)(2S)-2-ピロリジンアセトニトリル(1l)
(7aS)-テトラヒドロ-1H,3H-ピロロ[1,2-c]オキサゾール-3-オン(0.1 g, 0.79 mmol)、シアン化カリウム(102 mg, 1.6 mmol)および18-クラウン-6(208 mg, 0.79 mmol)の混合物を7時間加熱した後、粗生成物をシリカゲルクロマトグラフィー(CH2Cl2/MeOH = 20:1)により精製し、化合物1l(55.5 mg, 65 %)を得た。IR(CHCl3):ν 2251 cm-1; 1H NMR(500 MHz, CDCl3):δ 1.48-1.58(1H, m)、 1.74(4H, m)、 2.45(2H, d, J=6.3 Hz)、 2.95-3.04(2H, m)、3.42-3.47(1H, m); HRMS C6H10N2に対する計算値:110.0844、実測値:110.0841。
【0063】
前記の実施例に示したように、シアン化物イオンを用いた簡便な方法により、3-アミノプロパンニトリル類が得られた。また、実施例9〜12に示したように、本発明の製造方法において光学活性な2-オキサゾリドンを基質に用いることにより、該2-オキサゾリドンの4-位不斉炭素上の立体配置を保持した光学活性3-アミノプロパンニトリルが得られた。本発明のこのような特徴は、実施例12のごとくR1およびR2が一緒に環を形成した縮合環型の光学活性基質を用いた場合でも確認することができた。それ故、本発明の製造方法は、R1およびR2に様々な置換基を有する光学活性な3-アミノプロパンニトリルの合成に適用することが可能であると推測される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】

[式中、
XはN、OまたはSであり;
R1、R2およびR3はそれぞれ独立して、水素、置換されていてもよいアルキル、アルケニルもしくはアルキニル基、置換されていてもよいシクロアルキルもしくはシクロアルケニル基、置換されていてもよいアラルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよい脂肪族複素環基、または置換されていてもよい芳香族複素環基であり;
R1およびR2はそれらが結合している原子と一緒に5〜8員環複素環基を形成してもよく;
*はR2およびR3が同一である場合を除いて不斉炭素であることを示す]
で表される五員環ラクトン類を、シアン化物イオンと反応させることを特徴とする、式(II):
【化2】

[式中、
X、R1、R2およびR3は前記と同一であり;
R4はXがOまたはSのとき非共有電子対であり、Nのとき水素であり;
*はR2およびR3が同一である場合を除いて不斉炭素であることを示し、該不斉炭素上の絶対立体配置は前記式(I)で表される五員環ラクトン類の*で示される不斉炭素上の絶対立体配置と同一である]
で表される、プロパンニトリルの製造方法。
【請求項2】
前記XがNであることを特徴とする、請求項1の方法。
【請求項3】
前記製造方法が、シアン化カリウム、シアン化ナトリウム、およびトリメチルシリルシアニドからなる群より選択されるシアン化物とカチオン捕捉剤とを反応させることにより前記シアン化物イオンを発生させる工程をさらに含むことを特徴とする、請求項1または2の方法。
【請求項4】
前記カチオン捕捉剤が18-クラウン-6であることを特徴とする、請求項3の方法。
【請求項5】
式(II):
【化3】

[式中、
XはN、OまたはSであり;
R4はXがOまたはSのとき非共有電子対であり、Nのとき水素であり;
R1、R2およびR3はそれぞれ独立して、水素、置換されていてもよいアルキル、アルケニルもしくはアルキニル基、置換されていてもよいシクロアルキルもしくはシクロアルケニル基、置換されていてもよいアラルキル基、置換されていてもよいアリール基、置換されていてもよい脂肪族複素環基、または置換されていてもよい芳香族複素環基であり;
R1およびR2はそれらが結合している原子と一緒に5〜8員環複素環基を形成してもよく;
*はR2およびR3が同一である場合を除いて不斉炭素であることを示す]
で表される、プロパンニトリル(ただし、XがNであり、R2、R3およびR4がそれぞれ水素であり、かつR1が水素、メチル、ベンジル、フェニル、4-メチルフェニル、4-メトキシフェニル、4-クロロフェニルもしくは4-ニトロフェニル基である場合を除く)。
【請求項6】
XがNであり、R2、R3およびR4がそれぞれ水素であり、かつR1が請求項5で定義した基であるか;
XがNであり、R4が水素であり、R1が置換されていてもよいベンジル基であり、かつR2およびR3が請求項5で定義した基であるか;または
XがNであり、R4が水素であり、R1およびR2がそれらが結合している原子と一緒に5〜8員環複素環基を形成しており、かつR3が請求項5で定義した基である、請求項5のプロパンニトリル。

【公開番号】特開2010−155798(P2010−155798A)
【公開日】平成22年7月15日(2010.7.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−334506(P2008−334506)
【出願日】平成20年12月26日(2008.12.26)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成20年度 有機合成化学北陸セミナー 主催者:有機合成化学協会関西支部 会場:港のホテル 開催日:平成20年10月10日(金)〜11日(土) 講演番号:P−14 刊行物名:平成20年度 有機合成化学北陸セミナー講演要旨集 講演要旨集発行日:平成20年10月10日
【出願人】(504160781)国立大学法人金沢大学 (282)
【Fターム(参考)】