説明

ヘパリン型分子を産生するブタ肥満細胞株

本発明は、その増殖が成長因子に依存しないブタ肥満細胞株に関する。本発明は、前記肥満細胞株の培養を含む、生物活性なヘパリン型分子を製造する方法にも関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本出願は、その成長が成長因子非依存的であるブタ肥満細胞株に関する。本発明は、これらの肥満細胞株の培養を含む、生物活性ヘパリン型分子を生産する方法にも関する。
【0002】
肥満細胞は、炎症応答、特に、アレルギー及び過敏性現象に関わる造血前駆体に由来する免疫系の細胞である。肥満細胞は、結合組織(特に皮膚内)、並びに腸及び呼吸器粘膜中に存在する。
【0003】
肥満細胞は、約5及び25μmの間の直径を有する丸い細胞の形態であり、単一の、中央の又は中央から外れた丸い核を有する。肥満細胞は、多数の異染色細胞質顆粒形成の存在によっても特徴付けられる。
【0004】
これらの顆粒は、ヒスタミン、セロトニン、ヘパリン又はコンドロイチン硫酸などのプロテオグリカン、酵素、サイトカイン並びに好酸球及び好中球を化学的に誘引する因子などの、炎症促進活性を有する様々な分子種を含有する。これらの種は、肥満細胞の活性化の間に放出される。
【0005】
活性化後、第2の応答が開始され、この間に、ロイコトリエン、プロスタグランジン、PAF(血小板活性化因子)、インターロイキン(IL4、IL5、IL6、IL10、IL12及びIL13)、サイトカイン(TGR−β、γ―IFN、GM−CSF)及びケモカイン(MCP−1、IL8、RANTES)などの媒介物質の合成が起こる。これらの種は全て、炎症プロセスの惹起、及び特異的Tリンパ球依存性免疫応答の開始に関与する。
【0006】
肥満細胞培養物は、ヒト、マウス及びブタにおいて既に得られている。ブタでは、ブタ肥満細胞株は、胎児肝臓から得られた幹細胞を培養することによって確立されている。これらは、Institut National de la Recherche Agronomique(INRA)[フランス国立農学研究所]及びEcole Nationale Veterinaire de Maisons Alfort(ENVA)[メゾン・アルフォールフランス国立獣医学校]の名で寄託された特許出願WO03/035853号の主題であった。それぞれ、番号I−2734、I−2735及びI−2736で、2001年10月17日に、パスツール研究所の「Collection de Cultures de Microorganismes」[微生物培養フランス国立収集所]に、3つの株が寄託された。
【0007】
自発的に不死化されるこれらの細胞は、rpSCF及びrpIL3などの成長因子の存在下で、170世代超にわたって、培養中で維持されてきた。これらの条件下で、細胞は、ヘパリン型の化合物を合成することが可能である。これらの肥満細胞株は、ヘパリン型分子のかなりの量を産生する。
【0008】
特許出願WO03/035886号(その主題は、これらの株からヘパリンを製造する方法である。)は、Aventis Pharma S.A.の名前で寄託された。
【0009】
ブタでは、Emeryら(Experimental Hematology,24,927−935,1996)は、骨髄から得られた細胞培養物を7週間、維持した。しかしながら、得られた培養物は、様々な細胞種の混合物であり、肥満細胞の均一な培養物又は株ではないように見受けられる。さらに、これらの培養物は、均一な肥満細胞培養物中に非分化細胞を含有する。
【0010】
Ashrafら(Veterinary Parasitology; 29, 134−158, 1988)は、増幅可能な培養物を維持せずに、超粘膜からブタ肥満細胞を単離した。さらに、単離された肥満細胞の特徴づけは、ヘパリンの不存在を明らかにする。
【0011】
Razinら(J. Biol. Chem., 257, 7229−7236, 1982)は、IL3を含有する培地を用いて、マウス肥満細胞を得ることを記載する。
【0012】
Wangら(Circ.Res.,84,74−83,1999)は、ラット胸膜及び腹腔から得られた漿液肥満細胞の単離を記載する。ラット大動脈平滑筋細胞とともに肥満細胞が共培養されたときだけ、様々な分子種が産生される。出願WO99/26983号は、類似の研究を記載しているが、他の種への応用に関しては極めて不正確である。
【0013】
マウスでは、細胞株が確立されているが(Montgomery et al, Proc. Natl. Acad. Sci. USA, 89, 11327−11331 , 1992 及び出願WO90/14418号)、肥満細胞腫から確立されたものである。これらの腫瘍は、ブタでは、極めて稀である。
【0014】
ヒトでは、肥満細胞培養物を取得することは困難であることが明らかとなった。これは、最初、繊維芽細胞との共培養の系を使用することによって可能となった(Ishizaka et al, Current Opinion in Immunology, 5,937−943,1993)。その後、他の著者は、腸細胞から肥満細胞を取得すること、及びSCFの存在下で約6ヶ月間、これらの細胞を培養中に維持することに成功した(Bischoff et al,J.Immunol.,159、5560−5567,1997)。
【0015】
これらの様々な文献の著者は、しかしながら、測定を行った際に、ヘパリン型化合物の低い産生を報告したにすぎない。
【0016】
多くの肥満細胞培養物は、最適な成長のために,SCFなどの成長因子を必要とする。SCFは、受容体であるckitへの結合に続いて、増殖、分化などの細胞応答を変化させた。マウス及びヒト肥満細胞腫の研究によって、c−kit受容体の恒常的(すなわち、SCFの結合がなしに)活性化に必要とされるc−kit遺伝子中の変異又は欠失を同定することが可能となった。IC2不死肥満細胞中での、V814が変異を受けたc−kit遺伝子の発現は、これらの細胞の形質転換(すなわち、SCF非依存性増殖及び腫瘍形成能の獲得)を誘導する(Pia et al,Blood,87(8),3117−3123,1996)。
【0017】
ヘパリンは、グリコサミノグリカン(GAG)ファミリーに属し、アミノ糖(D−グルコサミン又はガラクトサミン)及びウロン酸(D−グルクロン酸又はL−イズロン酸)から構成される二糖配列の反復を含有する直鎖多糖を含む。
【0018】
ヘパリンサルファートとともに、グルコサミノグリカンサブファミリーに属するヘパリンの場合、アミノ糖はD−グルコサミンである。ウロン酸は、グルクロン酸(Glc)又はイズロン酸(Ido)の何れかである。グルコサミンは、N−アセチル化、N−硫酸化又はO−硫酸化されることが可能である。
【0019】
慣用的には、「ヘパリン」という用語は、グルコサミン残基の80%超がN硫酸化されており、O−サルファートの数がN−サルファートの数より多い、高度に硫酸化された多糖を表す。サルファート/カルボキシラート比は、ヘパリンの場合、一般的には、2を超えている。しかしながら、実際には、ヘパリンの構造は不均一であり、極めて様々な比率を含有することが可能な鎖が存在する。
【0020】
全てのGAGと同様、ヘパリンは、実質的に、肥満細胞により、プロテオグリカンの形態で合成される。
【0021】
ヘパリン合成の第1段階は、セリンとグリシン残基の反復からなるセルグリシンタンパク質コアの形成である。ヘパリン鎖は、四糖の付加によって、次いで、均一に交代するグルコサミンとウロン酸の連続的な付加によって伸長される。
【0022】
このようにして形成されたプロテオグリカンは、多くの順次の変換(N−脱アセチル化、N−硫酸化、D−グルクロン酸エピマー化及びO−硫酸化)を行う。しかしながら、この完全な変異は、プロテオグリカンの一部に対して生じるにすぎず、その不均一性の原因となる、ヘパリン中の大きな構造的可変性を生成する。次いで、エンドグルクロニダーゼによって、セルグリシンから、多糖鎖が切断される。次いで、これらの鎖は、5000と30000Daの間の分子量を有する。これらは、塩基性プロテアーゼとともに複合体を形成するため、肥満細胞顆粒中に保存される。ヘパリンは、肥満細胞の脱顆粒化中にのみ排泄される。
【0023】
ヘパリンは、特に止血において、重要な生物学的役割を果たしており、治療、特に、抗凝固剤及び血栓抑制剤として、治療で極めて広く使用されている。
【0024】
使用されているヘパリンの多くは、ブタの腸粘膜(ヘパリンは、タンパク質分解によってブタ腸粘膜から抽出される。)から単離された後、陰イオン交換樹脂上で精製される(ヘパリンの様々な調製方法に関する総説については、「Duclos, <<L’Heparine : fabrication, structure, proprietes, analyse >>[ヘパリン;産生、構造、特性、分析]発行者Masson, Paris, 1984)を参照。」。
【0025】
ヘパリナーゼI、II及びIIIによる脱ポリマー化後の、ブタヘパリンの二糖組成の分析並びにクロマトグラフィーによって、他のグリコサミノグリカンからヘパリンを識別することが可能となる。特に、8つの主要な二糖が区別される(図1)。
【0026】
HPLC分析によっても、IIaIIsglu及びIIaIVsglu四糖の存在を検出することが可能となる(下線は、二糖の3−O−硫酸化を表す記号である。)。これらの四糖の存在は、ATIII親和性部位の存在と直接相関する。実際、ATIII親和性部位の3−O−硫酸化は、この部位の不完全な消化をもたらし、従って、IIaIIsglu及びIIaIVsglu四糖の出現をもたらす。ATIII親和性部位の3−O−硫酸化によって、生物学的に活性なヘパリンを取得することが可能となる。
【0027】
上記研究は、産生株の単離を可能とする。しかしながら、これらの産業的な使用を可能とするために、これらを改善する必要がある。特に、これらの株の増殖を、成長因子非依存性にすること、及び産生される分子の生物活性を改善することが望ましい。
【0028】
出願人は、驚くべきことに、変異体c−kitタンパク質で肥満細胞株を形質転換することによってこれらの2つの側面を改善できること、及び3OST1タンパク質の過剰発現を通じて、産業的製造に適合した、生物活性を示すヘパリン型分子の産生を取得できることを示した。
【0029】
本発明の主題は、 IIa IIs glu四糖を含むヘパリン型分子を産生するブタ肥満細胞培養物又は株である。有利なことに、これらの培養物又は株は、IIa IIs glu四糖の検出可能な量を産生する。好ましくは、これらの培養物又は株は、全ての糖の少なくとも0.3%、0.5%、1%又は1.5%の量でIIa IIs glu四糖を含有するヘパリン型分子を産生する。
【0030】
有利な実施形態によれば、これらのブタ肥満細胞培養物又は株は、少なくとも50IU/mg超、好ましくは75IU/mg超、100IU/mg超又は150IU/mg超の抗Xa活性を示すヘパリン型分子を産生する。
【0031】
別の有利な実施形態によれば、これらのブタ肥満細胞培養物又は株は、少なくとも50IU/mg超、好ましくは75IU/mg超、100IU/mg超又は150IU/mg超の抗IIa活性を示すヘパリン型分子を産生する。
【0032】
さらに別の有利な実施形態によれば、このような培養物又は株は、Is二糖の少なくとも30%(好ましくは少なくとも40%、より好ましくは少なくとも50%)を含むヘパリン型分子を産生する。
【0033】
好ましい実施形態によれば、本発明の株は、ヘパリン型分子の硫酸化に対して作用する酵素を過剰発現するように修飾される。
【0034】
有利なことに、前記株は、ヘパリン型分子の硫酸化に対して作用する酵素をコードする外来核酸を含む。
【0035】
ヘパリン型分子の硫酸化に対して作用する酵素の安定な過剰発現によって、ヘパリン化合物の3−O−硫酸化を増加することが可能となり、従って、生物活性を増加することが可能となる。
【0036】
有利なことに、ヘパリン型分子の硫酸化に対して作用する酵素は、3−OSTであり、特に有利には、3−OST1である。
【0037】
ヘパリン型分子の硫酸化に対して作用する酵素は、好ましくは、配列番号6の配列を有し、配列番号5の配列によってコードされるブタ3−OST1である。
【0038】
あるいは、3−O−スルファターゼ活性の発現をコードし、配列番号5の核酸配列と少なくとも80%、90%、95%又は99%のヌクレオチド同一性を示す他の種由来の遺伝子を使用することが可能である。高ストリンジェンシー条件下で、配列番号5の核酸配列とハイブリダイズする核酸も使用し得る。
【0039】
有利なことに、ブタ肥満細胞株は、変異又は欠失を示すc−kitタンパク質を発現するように修飾され、SCFなしで済ますことが可能となる
有利なことに、前記株は、変異又は欠失を示すc−kitタンパク質をコードする外来核酸を含む。
【0040】
変異又は欠失を示すc−kitは、有利なことに、マウスc−kitG559の位置と等価な位置に変異を示すc−kitタンパク質である。このため、これは、ブタc−kitG556又はヒトc−kitG560タンパク質など、マウスc−kitG559の位置と等価な位置に変異を示すc−kitタンパク質であり得る。
【0041】
好ましくは配列番号2を有し、配列番号1によってコードされる、バリンのグリシンへの修飾の原因となる点変異を有するマウスc−kitG559が好ましい。
【0042】
配列番号4の配列を有し、配列番号3の配列によってコードされるブタc−kitG559でもあり得る。
【0043】
c−kit遺伝子の種間保存のために、配列番号3の核酸配列と少なくとも80%、90%、95%又は99%のヌクレオチド同一性を示す、マウス、ヒト若しくはウシ遺伝子又はあらゆるその他の遺伝子を使用することが可能である。高ストリンジェンシー条件下で、配列番号3の核酸配列とハイブリダイズする核酸も使用し得る。
【0044】
驚くべきことに、本出願人は、マウスc−kitG559を発現している細胞中において、マウスc−kitG559を発現していない細胞と比較してヘパリンプロファイルが改善されていることを観察した(すなわち、これらの細胞によって産生されるヘパリン型分子の異なる構成)。
【0045】
それぞれ、マウス及びヒトにおいて、アスパラギン酸のバリン814又は816への修飾の原因となる点変異を示すc−kitタンパク質を使用することも可能である。最後に、アミノ酸TQLPYDH573ないし579が欠失したマウスc−kit遺伝子を使用することも可能である。ブタでは、この欠失は、アミノ酸570ないし576と同等であり、ヒトでは、574ないし580と同等である。
【0046】
より具体的には、本発明は、2001年10月17日に、パスツール研究所の「Collection de Cultures de Microorganismes[French National Collection of Microorganism Cultures]に、番号I−2734、I−2735又はI−2736で寄託された、変異又は欠失を示すc−kitタンパク質を発現するように修飾されたブタ肥満細胞株の1つに関する。
【0047】
好ましくは、これらの株は、ヘパリン型分子の硫酸化に対して作用する酵素をコードする外来核酸を含む。
【0048】
本明細書において、「培養物」という用語は、一般に、インビトロで培養された細胞又は細胞の群を表す。動物から採取された細胞又は組織試料から直接発育された培養物は、「初代培養物」と称される。
【0049】
「株」という用語は、一度、少なくとも1回の継代で使用され、一般的には、数回の連続継代が、継代培養において連続して実施され、そこから得られる全ての培養物を表す(Schaeffer, In Vitro Cellular and Developmental Biology,26,91−101,1990)。
【0050】
「核酸」という用語は、DNA又はRNAを表すために使用される。核酸は、有利に、相補的DNA又はゲノムDNAである。
【0051】
本発明において、2つのヌクレオチド又はアミノ酸配列間の「パーセント同一性」は、比較のウィンドウを通じて、最適に並置された2つの配列を比較することによって決定することが可能である。
【0052】
比較のウィンドウ中のヌクレオチド又はポリペプチド配列の一部は、このため、2つの配列の最適なアラインメントを得るために、(付加又は欠失を含まない)参照配列と比較して、付加又は欠失(例えば、ギャップ)を含み得る。
【0053】
パーセントは、比較される2つの(核酸又はペプチド)配列に対して、同一の核酸塩基又はアミノ酸残基が観察されている位置の数を決定し、次いで、比較のウィンドウ中の位置の総数によって、2つの塩基又はアミノ酸残基間に同一性が存在する位置の数を割り、次いで、パーセント配列同一性を取得するために、結果に100を乗ずることによって計算される。
【0054】
比較用配列の最適なアラインメントは、「Wisconsin Genetics Software Package, Genetics Computer Group (GCG), 575 Science Drive , Madison, Wisconsin」から得られるパッケージ中に含まれる公知のアルゴリズムを用いて、コンピュータ上で実施することが可能である。
【0055】
例として、パーセント配列同一性は、BLASTソフトウェア(BLAST versions1.4.9 1996年から、BLAST 2.0.4 1998年2月から及びBLAST 2.0.6 1998年9月)を使用し、専ら初期設定パラメータ(S. F Altschul et al, J. Mol. Biol. 1990 215 : 403−410, S. F Altschul et al, Nucleic Acids Res. 1997 25 : 3389−3402)を用いて計算され得る。Blastは、Altschulらのアルゴリズムを用いて、基準「リクエスト」配列に対して類似/相同な配列を検索する。使用されるリクエスト配列及びデータベースは、ペプチドをベースとしたもの、又は核酸をベースとしたものであり得、あらゆる組み合わせが可能である。
【0056】
本発明において「高ストリンジェンシーハイブリダイゼーション条件」という表現は、以下の条件を意味するものとする。
【0057】
1−膜のプレハイブリダーゼション及び
− 混合:サケの精子DNA(10mg/mL)40μL+ヒト胎盤DNA(10mg/mL)40μL
− 96℃で5分間変性した後、混合物を氷中へ入れる。
【0058】
− 2×SSCを除去し、膜を含有するハイブリダイゼーション管中へホルムアミド混合物4mLを注ぐ。
【0059】
− 2つの変性されたDNAの混合物を添加する。
【0060】
− 回転しながら、42℃で、5ないし6時間インキュベートする。
【0061】
2−標識されたプローブの競合:
− 標識及び精製されたプローブに、反復の量に従って、Cot I DNAの10ないし50μLを添加する。
【0062】
− 95℃で、7ないし10分間変性させる。
【0063】
− 65℃で、2ないし5時間インキュベートする。
【0064】
3−ハイブリダイゼーション:
− プレハイブリダイゼーション混合物を除去する。
【0065】
− サケの精子DNA(10mg/mL)40μL+ヒト胎盤DNA(10mg/mL)40μLを混合する;96℃で5分間変性した後、氷中へ入れる。
【0066】
− ハイブリダイゼーション管へ、ホルムアミド混合物(2つのDNAと変性され、標識されたプローブ/CotI DNAの混合物)4mLを添加する。
【0067】
− 回転しながら、42℃で、15ないし20時間インキュベートする。
【0068】
4−洗浄:
− 濯ぐために、2×SSC中、周囲温度で1回洗浄
− 周囲温度で、65℃の2×SSC及び0.1%SDS、2回5分
− 65℃で、65℃の1×SSC及び0.1%SDS、2回15分。
膜をサランラップに包み、露出する。
【0069】
上記ハイブリダイゼーション条件は、20ヌクレオチドないし数百ヌクレオチドの変動し得る長さの核酸分子を、高ストリンジェンシー条件下でハイブリダイゼーションするのに適している。
【0070】
上記ハイブリダイゼーション条件は、当業者に公知の技術に従って、ハイブリダイゼーションが望まれる拡散の長さに又は選択された標識の種類に応じて調節可能であることはいうまでもない。
【0071】
適切なハイブリダイゼーション条件は、例えば、HamesとHigginsによる書籍(1985,“Nucleic acid hybridization :a practical approach”, Hames and Higgins Ed., IRL Press, Oxford)」あるいは、F.Ausaubelらによる書籍(1989,Current Protocols in Molecular Biology,Green Publishing Asociates and Wiley Interscience,N.Y.)に含まれる教示に従って調節することが可能である。
【0072】
本出願は、上述されているブタ肥満細胞培養物又は株の培養を含む、ヘパリン型分子を生産する方法にも関する。
【0073】
本発明の株は、好ましくは、規定の培地(MEMα/DMEM、RPMI、IMDMなど)中で培養される。
【0074】
培地には、0.5%と20%の濃度(v/v)で、ウシ血清を補充してもよい。
【0075】
培地のタンパク質濃度及び動物起源の化合物の使用に伴うリスクを減らすために、培地へのウシ血清の添加は、AIMV(Invitrogen)などの無血清培地の使用と置き換えることが可能である(Kambe et al., J. Immunol. Methods, 240, 101−10, 2000)。
【0076】
肥満細胞は、例えば、「Griffiths et al. (Animal CeII Biology, Eds. Spier and Griffiths, Academic Press, London, vol.3, 179−220, 1986)」に記載されているような、真核細胞の大量培養のために開発された技術を用いて培養することが可能である。「Philips et al. (Large Scale Mammalian Cell Culture, Eds. Feder and Tolbert, Academic Press, Orlando, U.S.A., 1985)」又は「Mizrahi (Process Biochem, August, 9−12, 1983)によって記載されているような、数mを超える容量を有するバイオリアクターを使用し得る。
【0077】
培養は、Van Wezel(Nature,216,64−65,1967)によって記載されている技術に従って、懸濁液中で又は微小支持体上で実施することも可能である。
【0078】
産業的規模での使用がより簡易であるため、真核細胞培養のために一般的に使用されているバッチ培養システムを使用することもできる(Vogel and Todaro, Fermentation and Biochemical Engineering Handbook, 2nd edition, Noyes Publication, Westwood, New Jersey, U. S.A., 1997)。これらのシステムを用いて得られる細胞密度は、一般に、10と5×10細胞/mLの間である。
【0079】
バッチ培養の生産性は、GAG抽出及びヘパリン単離操作に対して、細胞の幾つかをバイオリアクター(70%ないし90%)から除去し、新しい培養を開始するために、同時に、同じバイオリアクター中に残りの細胞を保持することによって有利に増加し得る。この反復バッチ培養モードでは、細胞増殖相の最適パラメータをそれらから識別することも可能であり、GAG及びヘパリンの細胞内への蓄積をより多くすることが可能となる。
【0080】
細胞の保持あり又はなしの連続的融合供給培養システムも使用することが可能である(Velez et al.,J. Immunol. Methods, 102(2), 275−278, 1987 ; Chaubard et al., Gen. Eng. News, 20, 18−48, 2000)。
【0081】
本発明に関連して、特に、細胞をリアクター内で保持できるようにし、バッチ培養中で取得可能な細胞を上回る増殖と産生をもたらす融合−供給培養系(fusion−fed culture system)を使用し得る。保持は、スピンフィルター、中空フィルター又は固体マトリックスタイプの保持システムを用いて実施することが可能である(Wang et al., Cytotechnology, 9, 41−49, 1992 ; Velez et al., J. Immunol. Methods, 102(2), 275−278, 1987)。
【0082】
得られる細胞密度は、一般に、10と5×10細胞/mLの間である。バイオリアクター中での培養により、オンライン測定センサーの使用を通じて、細胞増殖の物理化学的パラメータ:pH、pO、Red/Ox、ビタミン、アミノ酸、炭素を基礎とする基質(例えば、グルコース、フルクトース、ガラクトース)、ラクタート又はアンモニア水などの代謝物などの成長物質の、より優れた調節が可能となる。
【0083】
酪酸ナトリウムでの処理に引き続き、肥満細胞のヘパリン型分子含量を定量的及び定性的に増加させることを想定し得る(Nakamura et al(Biochim.Biophys.Acta.627,60−70,1980))。
【0084】
培養の3から14日後、好ましくは、3ないし5日後、細胞を採集し、一般的に遠心又はろ過によって、培地から分離する。
【0085】
様々な遠心系を使用することが可能であり、例えば、Vogel及びTodaro(Fermentation and Biochemical Engineering Handbook, 2nd Edition, Noyes Publication, Westwood, New Jersey, U.S.A.)によって記載されているものを挙げることができる。
【0086】
あるいは、又は遠心と組み合わせて、同時に、溶液/懸濁液中の他の化合物を通過させながら、空隙率が細胞の平均直径(5ないし20μm)より少ない膜を用いて、接線精密ろ過によって分離を実施し得る。膜を通じて与えられる接線流の速度と圧力は、膜の目詰まりを軽減し、分離操作中に細胞の完全性を保持するために、ほとんどせん断力(5000/秒未満のレイノルズ数)を生成するように選択される。
【0087】
様々な膜、例えば、らせん状の膜(Amicon、Millipore)、平坦な膜又は中空の繊維(Amicon、Millipore、Sartorius、Pall、GF)を使用することが可能である。
【0088】
タンパク質、DNA、ウイルス又はその他の微生物など、培地中に存在する可能性があるきょう雑物に関して分離及び第1の精製の実施を可能とする空隙率、電荷又はグラフトの膜を選択することも可能である。
【0089】
肥満細胞の全部又は一部の脱顆粒化又は溶解によって、細胞内内容物からヘパリンが放出され、分離工程の時点で培地中にヘパリンが存在する場合には、より小さな空隙率の膜の使用も想定され得る。この場合には、細胞分離は、1つ以上の膜を通じた限外ろ過からなる工程と組み合わされ、その組織と空隙率は、ヘパリンの濃縮を可能とし、サイズ及び分子量に従って、並びに場合によっては、電荷又は生物学的特性に従って、培地中に存在する他の種から分離することを可能とする。
【0090】
本実施形態の文脈において、膜のカットオフ閾値は、好ましくは、1000と5kDaの間である。精密ろ過に対して使用されるものと同様の膜システム、例えば、らせん状膜、平坦な膜又は中空の繊維を使用し得る。ヘパリンに対して親和性を示すリガンドの電荷特性及びグラフティングの特性のために、ヘパリンを分離及び精製することを可能とする膜を有利に使用し得る(例えば、抗体、ATIII、レクチン)。
【0091】
しかしながら、一般的に、ヘパリンを細胞内内容物中に保つことができる細胞採集及び産生法を好ましく使用し得る。
【0092】
ヘパリンは、細胞の脱顆粒又は溶解後に、肥満細胞から回収することも可能である。
【0093】
脱顆粒化は、肥満細胞表面に存在する受容体への特異的リガンドの結合(例えば、アレルゲンタイプの因子の、肥満細胞IgE受容体への結合(この断片のIgE Fc断片又は類縁体など))によって引き起こすことが可能である。
【0094】
その他の因子も、肥満細胞の脱顆粒化を誘導することが可能である。これらの因子は、細胞毒性因子、酵素、多糖、レクチン、アナフィラトキシン、塩基性化合物(化合物48/80、サブスタンスPなど)、カルシウム(A23187イオノフォア、イオノマイシンなど)、幾つかのカテゴリーに分離することが可能である[D. Lagunoff and T . W. Martin. 1983. Agents that release histamine from mast cells. Ann. Rev. Pharmacol. Toxicol., 23:331−51]。脱顆粒因子は、培養中に維持されている同一細胞に対して、繰り返し使用することが可能である。この産生方法においては、生産性は、上清から採集する方法の簡易化によって、培養中の細胞の維持によって著しく増加される。
【0095】
A23187イオノフォアの事例では、肥満細胞の脱顆粒化は、例えば、2.10個の肥満細胞/mLを、1と100μg/mLの間の濃度のA23187イオノフォアと1分から4時間までの作用時間で処理することによって誘導することが可能である。
【0096】
肥満細胞溶解は、例えば、低張又は高張溶液を用いた浸透圧衝撃によって、熱的ショック(凍結/融解)によって、機械的ショック(例えば、音波処理又は圧力変動)によって、化学因子(NaOH、THESITTM、NP40TM、TWEEN 20TM、BRIJ−58TM、TRITON XTM−100など)によって、又は酵素溶解(パパイン、トリプシンなど)によって、又はこれらの方法の2つ以上の組み合わせによって誘導することが可能である。
【0097】
細胞可溶化液からヘパリンを抽出及び精製するために、多糖鎖をセルグリシンのコアから分離するために、及び抽出媒体中に存在する他のGAGからヘパリン鎖を分離するために、動物組織から得られるヘパリンの抽出及び精製の関連において使用される方法と類似の、それ自体公知であり、Duclosによるマニュアル(上記)などの一般的な著作に記載されている方法を使用し得る。
【0098】
非限定的な例として、核酸から及び細胞タンパク質からヘパリンを分離し、ヘパリンを可溶化するために、すなわち、セルグリシンのコアとの結合を切断するために、
−細胞可溶化液を、1つ以上の酵素消化(プロナーゼ、トリプシン、パパインなど)に供することが可能である;
−ヘパリン−タンパク質結合は、サルファート又は塩化物の存在下で、アルカリ培地中で加水分解することが可能である;
−細胞に由来する核酸及びタンパク質を破壊するために、酸培地中で、(例えば、冷たい条件下で、トリクロロ酢酸を用いた)処理を実行することも可能であり、これには、GAG−タンパク質相互作用を解離させることを可能とするイオン性溶液の使用が添加される。
【0099】
酵素加水分解後に、グアニジンによる抽出を実行すること、可溶化されたヘパリンを精製することも可能である。例えば、酢酸カリウム、四級アンモニウム、アセトンなどでそれを沈殿することが可能である。
【0100】
これらの精製工程は、有利に、それらに追加することが可能であり、又は1つ以上のクロマトグラフィー工程、特に陰イオン交換クロマトグラフィー工程と置き換えることが可能である。
【0101】
本発明の主題は、本発明の方法を用いて、肥満細胞培養物から取得可能なヘパリン調製物でもある。
【0102】
動物組織から、従来技術で得られるヘパリン調製物の生物学的特性と同等の生物学的特性を有する、本発明に係るヘパリン調製物は、ヘパリンに対する通常の用途の何れにおいても使用することが可能である。
【0103】
本発明は、以下の実施例によって例示される。これらの実施例は、純粋に、例示の目的で与えられ、限定的であると考えるべきではない。
【0104】
実施例
【0105】
(実施例1)
肥満細胞の遺伝的修飾
肥満細胞は、例えば、形質移入、電気穿孔、核穿孔(nucleopolation)又は導入される核酸の一過性又は安定的発現をもたらす感染技術を用いて外来核酸を導入することによって、遺伝的に修飾することが可能である。安定な発現の場合、DNAは、細胞ゲノム中に組み込まれることができ、又はエピソームと維持されることができる。
【0106】
1 核穿孔及び電気穿孔による形質移入
安定に形質移入された細胞は、核穿孔から24ないし72時間後に、選択圧(ハイグロマイシン、ジェネチシン、ブラスチシジン、ピューロマイシン又はゼオシン)を適用することによって、以下に記載されている核穿孔法を用いて取得することが可能である。選択因子に対する耐性は、目的の遺伝子及び耐性遺伝子を有するプラスミドの組み込みによって付与される。
【0107】
核穿孔
核内へDNAを直接誘導することを可能とするので、本方法は好ましく使用される。
【0108】
指数増殖期、好ましくは培養の3又は4日後、1ないし2×10個の肥満細胞を、1000rpmで、5分間遠心し、核穿孔溶液(Amaxa、kit 8351)100μL中に採取する。pcDNA3.1−eGFP(GFPをコードするプラスミド)2ないし4μgを、次いで、細胞懸濁液へ添加する。次いで、細胞を電気穿孔キュベット中に移し、特定のプログラム(U14、U23及びU28 AMAXAなど)を用いた電気ショックに供する。
【0109】
次いで、予め37℃まで加熱された完全な培地2mL中に細胞を移し、次いで、37℃、5%COでインキュベートする。
【0110】
形質移入から24ないし48時間後、1%のパラホルムアルデヒド(Prolabo)で固定するために細胞を採集する。このために、培養物全体を、1000rpmで5分間遠心する。上清の除去後、1×PBS 4mL中で細胞を洗浄し、次いで、再び遠心する。次いで、細胞ペレットを、1%のパラホルムアルデヒド1mL中に採取する。次いで、血球計算器(Cytomics FC 500、Beckman Coulter)中で、このようにして固定された細胞を分析する。
【0111】
上記核穿孔条件によって、同時に、50%を上回る優れた細胞生存性を得ながら、30と50%の間の形質移入効率でブタ肥満細胞を形質移入することが可能となる。
【0112】
電気穿孔
指数増殖期にある1ないし5×10細胞を、DNAの1ないし30μgと接触させる。500又は960μFの静電容量を用い、150Vと400Vの間の電圧で電気穿孔(Gene Pulser II、Biorad)する前に、4mmの電気穿孔キュベット中に移された細胞を、氷中で5分間インキュベートする。電気穿孔後、細胞を、氷中で再度5分間インキュベートし、最後に完全な培地5mL中に移し、37℃、5%COでインキュベートする。
【0113】
導入遺伝子を安定に組み込んだ細胞を選択する方法は、プラスミドの組み込みによって付与された、選択因子に対する耐性を用いて、上記と同じ技術を使用する。
【0114】
2 ウイルスベクターによる形質移入、汎親和性レトロウイルスベクターの使用
電気穿孔及び核穿孔による形質移入の方法の代替法として、複製欠損組み換えレトロウイルスベクターを使用し得る。例えば、ブタ細胞を感染させることができる汎親和性レトロウイルスベクターの産生を可能とする水泡性口内炎ウイルスエンベロープ糖タンパク質(VSV−G)で偽型化されたベクターを使用し得る。
【0115】
この形質移入法では、偽型化されたエンベロープタンパク質(env−VSV−G)の産生用遺伝子を除き、ベクターを産生するための遺伝要素(gag及びpol)を含有するGP−293(Clontechプロトコールref PT 3132−1)などのパッケージング細胞を用いて、ブタ肥満細胞中で発現されるべき、又はブタ肥満細胞中に組み込まれるべき目的の遺伝子を保有するレトロウイルスベクターを、まず作製する。
【0116】
レトロウイルスベクターの産生の時点で、VSV−Gエンベロープ遺伝子をコードするプラスミドと、選択遺伝子あり又は選択遺伝子なしで、プロモーターの制御下にある目的の遺伝子をコードするレトロウイルスプラスミドとを、パッケージング細胞に同時形質移入する。
【0117】
実際には、GP−293細胞は、指数増殖期にあるようにするために、形質移入の前に、48ないし72時間、培養に配置される。形質移入の日に、培地を、新鮮な培地と置き換え(15−20mL/10細胞)、次いで、リン酸カルシウム緩衝液pH中にVSV−Gプラスミド(5ないし20μg/10細胞)と目的の遺伝子を保有するプラスミド(10ないし30μg/10細胞)の混合物を含有する溶液1ないし2mLを、培地へ滴加する(1ないし2mL(Promega))。
【0118】
次いで、細胞を、37℃で、又は好ましくは、32と35℃の間の温度で、16ないし24時間、再びインキュベートする。再び、培地を新鮮な培地と置き換える。32〜35℃で、細胞をさらに48時間インキュベートする。インキュベーションが終了したら、新たに形成されたレトロウイルスベクターを含有する培養上清を採集する。パッケージング細胞の感染から得られる上清の一部を分取試料として採取し、−80℃で凍結し、他の部分は、指数増殖期にある肥満細胞の培地と混合する。実際には、培養中の肥満細胞を遠心し、新鮮な培地50%と感染上清50%を含有する培地中に再懸濁する。肥満細胞を、32〜35℃で、24時間インキュベートし、次いで、再度、培地を新鮮な培地と置き換える。
【0119】
GFP(緑色蛍光タンパク質)蛍光レポーターとの感染を伴う対照の場合には細胞蛍光分析によって、又は目的の遺伝子による感染のためのPCRを用いて分析するために、肥満細胞の感染から48ないし72時間後に試料を採取する。細胞蛍光分析によって、形質移入の効率の測定は、総細胞の20%より大きい。
【0120】
次いで、目的の遺伝子と耐性遺伝子を保有するレトロウイルスベクターを形質移入された肥満細胞のみが増殖し続ける細胞毒性因子(ハイグロマイシン、ピューロマイシン、G418、ゼオシン)を培地に添加することによって、形質移入された細胞集団を選択する。本方法を用いることにより、目的遺伝子が、安定に組み込まれ、発現される。
【0121】
集団の選択及びクローニング後に、選択因子は、同時に目的の遺伝子の発現を保持しながら、培地から除去することが可能である。このようにして産生されたレトロウイルスベクターは、宿主肥満細胞中で複製せず、従って、複製ベクターの産生は存在しない。
【0122】
あるいは、所望の時点で培地に添加される化合物を用いて、発現が、目的の遺伝子の発現を制御するプロモーターの誘導に供せられるベクターも使用し得る。
【0123】
(実施例2)
マウスc−kitG559遺伝子の安定な発現を通じて、SCFの不存在下で増殖することが可能な株の生成
成長が長期間、SCF非依存的であるブタ肥満細胞を取得するために、変異を受けたc−kit遺伝子で肥満細胞を形質転換した。このために、バリン559のグリシンへの修飾の原因となる点変異を保有するマウスc−kit遺伝子(c−kitG559と称される遺伝子)を使用した。
【0124】
形質移入に使用される肥満細胞は、特許出願WO03/035853号に記載されているように、胎児肝臓から得られたブタ肥満細胞の培養物に由来する。この肥満細胞株I−2735を、サイトカインの存在下で、929日間、培養中に維持した。
【0125】
肥満細胞は、15%ウシ胎児血清(Hyclone)、2mMグルタミン(Invitrogen)、10nM pGE2(Sigma)、2ng/mL rpIL−3(Biotransplant)及び80ng/mL rpSCF(Biotransplant)を補充したMEMα培地中で培養する。この培地は、完全培地1と称される。5%CO下、37℃で、この細胞をインキュベートし、3〜4日ごとに、2×10C/mLで播種する。
【0126】
マウスプラスミドpEF−BOS−ckitG559は、変異されたマウスckit遺伝子のXbaI断片を、XbaIで開環されたプラスミドpEF−BOS(Mizushima and Nagata,Nucleic Acid Res., 18(17):5322, 1990によって記載)中にクローニングすることによって得た。
【0127】
c−kit遺伝子は、バリン559のグリシンへの修飾の原因となる点変異を保有する(c−kitG559と称される遺伝子)。この変異は、ブタにおけるc−kitG556変異体及びヒトにおけるc−kitG560変異体と類似している。
【0128】
変異したマウスckitG559cDNAを得るために、XbaIで、マウスプラスミドpEF−BOS−ckitG559を消化した。プラスミドpcDNA3.1(Invitrogen)のXbaI部位に、cDNA断片をクローニングした。cDNAの完全な配列決定の後、得られたプラスミドは、pBXL2008と称された。
【0129】
変異したマウスckitG559cDNAを得るために、XbaIで、プラスミドpBXL2008を消化した。プラスミドpcDNA3.1/ハイグロ(Invitrogen)のXbaI部位に、cDNA断片をクローニングした。得られたプラスミドは、pBXL2015と称される。
【0130】
cDNA断片は、配列番号1の配列を含む。
【0131】
形質移入のためのDNA調製物は、「Endofree plasmid maxi」キット(Quiagen)を用いて作製した。
【0132】
ハイグロマイシン耐性集団の形質移入選択
培養の3日後に、指数増殖期にある5×10個の肥満細胞を、1000rpmで5分間遠心し、形質移入培地100μL(2mM グルタミン、10nM PGE2、80ng/mL rpSCF及び2ng/mL rpIL3を補充したMEMα)中に採取した。次いで、pcDNA3.1/ハイグロ又はpBXL2015の30μgを細胞懸濁液に添加する。次いで、細胞を電気穿孔キュベット中に移し、960μF、340Vの電気ショック(gene pulser,Biorad)に供する。電気穿孔後、、予め37℃まで加熱された完全培地1の5mL中に細胞を移し、次いで、37℃、5%COでインキュベートする。形質移入から48時間後、細胞を計数し、遠心し、選択培地(0.2mg/mLの濃度で、ハイグロマイシン(Invitrogen)を補充した完全培地1)中に、2×10C/mLで播種する。
【0133】
ハイグロマイシン選択の適用から16日後に、ハイグロマイシン耐性細胞集団が得られる。プラスミドpcDNA3.1/ハイグロを安定に形質移入された細胞は、MCpcDNA3.1/ハイグロと称され、プラスミドpBXL2015を安定に形質移入された細胞は、MCpBXL2015と称される。
【0134】
細胞培養物は、選択培地中で培養して維持される。
【0135】
分子特性
MCpBXL2015細胞中のマウスckitG559遺伝子の検出
内在性ブタ遺伝子を増幅せずに、マウス遺伝子を特異的に増幅するためのプライマーを用いて、MCpcDNA3.1/ハイグロ及びMCpBXL2015培養物から抽出されたゲノムDNAに対するPCRによって、マウスckitG559遺伝子の検出を実施した。
【0136】
QuiagenのDneasy Tissueキットのプロトコールに従って、MCpcDNA3.1/ハイグロ及びMCpBXL2015培養物由来の5×10個の細胞からゲノムDNAを抽出した。
【0137】
次いで、Advantage 2GC PCRキット(Clontech)のプロトコールに従って、配列番号7の配列5’−GCC GAG GCC ACT CGC−3’のセンスプライマーC19810及び配列番号8の配列5’−AGC CAT GTA CCG TCA CGC TG−3’のアンチセンスプライマーC19814の存在下で、PCRによって、これらのゲノムDNA100ngを増幅した。25のサーマルサイクル(94℃での変性30秒、58℃でのハイブリダイゼーション45秒及び68℃で伸長45秒)の後、325bpの増幅された断片を検出するために、1×TBE 2%アガロースゲル上で、PCR反応を分析した。
【0138】
これらの条件下で、MCpBXL2015培養物から得られたゲノムDNAから、約350bpのPCR産物が観察されたが、MCpcDNA3.1/ハイグロ培養物から得られたゲノムDNAでは観察されなかった。これは、マウスckitG559遺伝子の存在を示している(図2A)。
【0139】
MCpBXL2015細胞中のマウスckitG559遺伝子の発現の検出
ckitG559遺伝子の発現は、RT−PCRによって検出した。
【0140】
QuiagenのRneasyミニキットのプロトコールに従って、MCpcDNA3.1/ハイグロ及びMCpBXL2015培養物由来の10個の細胞からRNAを抽出した。次いで、37℃で、1時間、DNアーゼIの20Uで、RNA30μgを消化し、次いで、QuiagenのRneasyミニキットの「クリーンアップ」プロトコールに従って精製した。
【0141】
配列番号9の配列5’−gac cac gcg tat cga tgt cga ctt ttt ttt ttt ttt ttv−3’のオリゴヌクレオチドをプライマーとして用いて、AMV RT逆転写酵素(Roche)により、これらのRNA2μLをcDNAへと逆転写した。
【0142】
上記パラグラフに記載されている条件下で、cDNAの1μLに対してPCRを実施した。
【0143】
これらの条件下で、MCpBXL2015培養物由来のRNAからは、約350bpの、RT−PCR由来の産物が観察されたが、MCpcDNA3.1/ハイグロ培養物由来のRNAでは観察されなかった。これは、マウスckitG559遺伝子が細胞中で有効に発現されることを示している(図2B)。
【0144】
SCFの不存在下での増殖の特徴決定
SCFを欠く培地中で細胞が増殖する能力を分析することによって、ckitG559の官能性を評価した。
【0145】
このために、形質移入から5ないし6週後、MCpcDNA3.1/ハイグロ及びMCpBXL2015細胞の幾つかを、SCFを欠如する培地中に、2×10C/mLで播種した。週に2回、及び3週間、培地を新鮮な培地と交換した。MCpcDNA3.1/ハイグロ対照細胞は、このような培地中で増殖することができない。増殖停止後、かなりの細胞死が観察される(図3A)。
【0146】
MCpBXL2015細胞の場合、約3週間、初期期間が観察され、この間、増殖は僅かである(図3A)。ハイグロマイシンに対する耐性に関わらず、全ての細胞が機能的マウスckitG559受容体を発現するとは限らず、これが、SCFの不存在下で増殖できないようにするという事実によって、この潜伏期間は、説明することが可能である。この潜伏期間の後、SCFの不存在下で増殖できるMCpBXL2015細胞の集団が出現する。少なくとも11週間、3〜4日ごとに、計数及び2×10C/mLでの播種後、これらの亜集団を増幅した。これらの条件下では、2×10C/mLでの播種後、到達した最大細胞密度は、24と48時間の指数増殖期倍加時間で、4×10と10×10細胞/mLの間である。
【0147】
MCpBXL2015細胞の増殖は、SCFの不存在下において、SCFを補充した培地中でのMCpcDNA3.1/ハイグロ対照細胞の増殖と同一である(図3B)。従って、マウスckitG559遺伝子の発現は、同時に、増殖の同じレベルを保持しながら、SCFなしで済ますことを可能とする。
【0148】
培養物中に含有されるプロテオグリカンのHPLCによる特徴決定
SCF欠損培地中でのMCpBXL2015細胞の増殖の研究は、ckitG559受容体の発現が、SCF無しで済ますことを可能にすることを示している。本発明者らは、肥満細胞によるプロテオグリカンの産生に対する、SCF除去の影響も研究した。
【0149】
SCFの不存在下での培養の5週後、「Linhardt et al.(Biomethodes,9,183−197,1997)」によって記載されたプロトコールに従って、肥満細胞のプロテグリカン組成を分析するために、MCpBXL2015培養物の試料を採取した。
【0150】
以下のように、試料を処理する。
【0151】
タンパク分解:細胞試料(2×10個の細胞)を遠心し、PBS緩衝液中で2回濯ぐ。アルカラーゼ(Novozymes)10μLが添加された蒸留水100μL中に、各ペレットを採取した後、撹拌しながら、60℃で5時間加熱する。次いで、10000rpmで10分間遠心する前に、0.5M NaCl(Prolabo)を含有する10mM tris緩衝液、pH7.0(Prolabo)200μLで試料を希釈する。タンパク分解工程は、細胞内の内容物の放出を可能とし、タンパク質−多糖結合を解離させる。
【0152】
抽出:96ウェルプレートフォーマット、100mg/2mL(Thermohypersil)中のSAX4級アンモニウム樹脂上でのイオン交換により、各試料の上清を精製する。発見及び0.5M NaClを含有するtris緩衝液pH7中での洗浄後、3M NaClを含有するtris緩衝液pH7.0の500μLでグリコサミノグリカン(GAG)を溶出する。
【0153】
脱塩/濃縮:
次いで、ゲル浸透カラム(NAP−5,Pharmacia)上で試料を脱塩する。1mLの容量での溶出後、凍結乾燥によって試料を濃縮し、次いで、蒸留水130μL中に採取する。
【0154】
脱重合化。
【0155】
HPLC分析のために、ヘパリナーゼI、II及びIII(Grampian enzymes)の混合物で、GAGを脱重合化した。リン酸緩衝液中で、0.5IU/mLになるように各ヘパリナーゼ溶液を調整する。各ヘパリナーゼ溶液の容量に対して1/3容量を混合することによって、ヘパリナーゼI、II、及びIIIの溶液を調製する。試料100μLを分析する場合、蒸留水30mL当り、ヘパリナーゼ混合物15μL及び100%酢酸(Prolabo)0.73mLを含有する酢酸緩衝液10μL、ウシアルブミン(Sigma)12.5mg及び酢酸カルシウム(Prolabo)39.5mgを添加する。
【0156】
HPLC分析
次いで、Waters spherisorb SAX 5μm、250×3mm、thermohypersilカラム上でのHPLCによって、試料を分析する。分析当り試料50μLを注入する。移動相用の緩衝液は、2.5Mリン酸二水素ナトリウム(NaHPO、Prolabo)から構成され、そのpHは、オルトリン酸(HPO、Prolabo)で2.9となるように調整される。細胞試料から抽出されたGAGを構成する二糖の溶出は、50分にわたる、1M過塩素酸(NaClO、Prolabo)を含有する2.5mM NaHPO緩衝液の0から100%へのグラジエントで実施される。二糖は、それらの保持時間を用いて、及び234nmでのUV下での標準ヘパリン試料(Aventis)に関して検出される。
【0157】
MCpBXL2015細胞をSCFの不存在下で培養すると、SCFの存在下で培養される対照細胞と比較して、ヘパリン特性は改善される。
【0158】
出願人は特定の理論に拘泥することはないが、SCFの不存在下で増殖する細胞を取得する際に実施された細胞選択を通じて、又はSCFの存在下若しくは不存在下での肥満細胞の成熟化の差を通じて、この現象を説明することが可能である。実際に、SCFは、細胞の増殖を可能とするが、細胞分化にも関与している。
【0159】
(実施例3)
限界希釈によるクローニングを用いたMCpBXL2015クローンの取得
SCFを欠如する培地中での限界希釈技術により、MCpBXL2015細胞をクローニングした。このために、10個の96ウェルプレートに、0.3細胞/100μL/ウェルを播種した。96ウェルプレート中で満足な増殖を示すクローンのみを選択し、増幅した。一旦、集密状態に達したら、クローンを回収した後、48ウェルプレート中に培地500μLを播種し、次いで、培地2mLを6ウェルプレート中に播種し、最後に培地5mLをF25中に播種する。
【0160】
この増幅の終了時に、3〜4日ごとの計数及び2×10C/mLでの播種後、9つのクローンを取得し、増幅した。
【0161】
増殖の分析及び肥満細胞のプロテオグリカン組成の分析後、クローンの最終選択を行った。
【0162】
原MCpBXL2015培養物及び得られた9つのクローンを用いて、増殖の比較研究を実施した。全てのクローンは、クローニングされていないMCpBXL2015培養物と同等の増殖を示す(図3)。
【0163】
培養の4日後、様々なクローンのプロテオグリカン組成を分析するために、試料を採取した。
【0164】
表2に要約されたHPLCの結果に従い、各クローンによって合成された多糖は、ヘパリン鎖を構成する各二糖の相対量の変動(例えば、Is二糖の割合が、クローンに従って、5から30%まで変動する。)を有する、ヘパリン型特性を示す。しかしながら、クローニングされていないMXpBXL2015集団同様、全てのクローンは、検出の閾値を下回る3−O−硫酸化の程度を示す(IIaIIsglu四糖は検出できない。)。
【0165】
ヘパリン類似物質の生産性及び生産に対する質の基準に基づいて、MC pBXL2015クローン6−G4を選択した。このクローンは、PMC125の名称で凍結した。
【0166】
(実施例4)
増加した3−O−硫酸化活性を有するSCF非依存性株の生成
肥満細胞培養物から得られたヘパリン型化合物の生物活性を増加させるために、3−OST−1(3 O−スルファターゼ−1)をコードする遺伝子を安定に過剰発現することが可能である。本実施例では、ブタの遺伝子を使用した。
【0167】
使用した肥満細胞は、実施例3に記載したPMC125培養物から得た。
【0168】
肥満細胞は、15%ウシ胎児血清(Hyclone)、2mMグルタミン(Invitrogen)及び2ng/mL rpIL−3(Biotransplant)を補充したMEMα培地中で培養する。この培地は、培地2と称される。5%CO下、37℃で、細胞をインキュベートし、3〜4日ごとに継代した。
【0169】
ブタ3−OST1をコードするHS3ST1−pE−IRES−neo2−は、Aventis Pharma S.A.の名前で出願された出願PCT/FR04/00902に記載した。残留物として、プラスミドHS3ST1−pE−IRES−neo2が、以下のように得られた。
【0170】
ブタ3−OST遺伝子の3’コード配列の単離及び配列決定
3−OSTをコードするブタ遺伝子の部分配列は、ESTライブラリー(GenBank受託番号BF075483)で入手可能である。この配列の、ヒト配列とのアラインメントによって、3’コード領域の約650bpを欠如していることが示される。
【0171】
ブタ3−OST遺伝子中の欠落部分は、RNA源として、トリゾールキット(Invitrogen)のプロトコールに従って単離されたブタ肝臓RNAを用いて、RT−PCR及び3’−RACEを組み合わせることによって同定された。
【0172】
全RNA2μgのcDNAへの逆転写は、それぞれ、配列番号10の配列5’−GCA GCA GCC ACG TCG GG−3’及び配列番号11の配列5’−TCA GTG YCA GTC RAA TGT TC−3’の、オリゴヌクレオチドBS02とBS03の混合物をプライマーとして使用して、第1鎖合成システムキット(Invitrogen)のプロトコールに従うことによって実施した。
【0173】
次いで、KODホットスタートポリメラーゼ(Novagen)を用いる、配列番号12の配列5’−CGG NGA CCG CCT NAT CAG−3’のセンスプライマーBS05及び配列番号13の配列5’−TCA GTG YCA GTC RAA TGT TC−3’の配列のアンチセンスプライマーBS06の存在下でのPCRによって、これらのcDNAの2μLを増幅した。30のサーマルサイクル(98℃での変性15秒、60℃でのハイブリダイゼーション30秒、及び68℃での伸長30秒、277bpの増幅された断片を、ベクターpCR−ブラントII TOPO(Invitrogen,ゼロブラントTOPO PCRクローニングキット)中にクローニングした後、配列決定した。
【0174】
3’−RACEによって、3’領域全体を単離するために、2つのプライマーBS21及びBS22を生成するために、この断片の配列を使用した。
【0175】
3’−RACEでは、配列番号14の配列(5’−ATT CTA GAG GCC GAG GCG GCC GAC ATG TVN−3’)のオリゴdT CDSIIIをプライマーとして使用し、Invitrogenの第1鎖合成システムキットのプロトコールに従って、ブタ肝臓RNA1μLをcDNAへ逆転写した。
【0176】
次いで、2つの連続するPCRによって、3−OSTをコードする遺伝子の3’領域を増幅した。第1のPCRは、配列番号15の配列5’−GCA CCC CCA GAT CGA CCC C−3’のセンスプライマーBS21及びアンチセンスプライマーCDSIIIを用いて、上で得られたcDNAの2μLに対して行った。30のサーマルサイクル(94℃での変性10秒、60℃でのハイブリダイゼーション30秒、及び68℃での伸長120秒)を適用した。次いで、第2のPCRは、配列番号16の配列5’−CAA ACT CCT CAA TAA ACT GCA CG−3’のセンスプライマーBS22及びアンチセンスプライマーCDSIIIを使用し、第1のPCRから得られた産物1μLを用いて、第1のPCRと同じ条件下で実施した。
【0177】
3’−RACEの終了時にこのようにして得られたPCR産物の配列決定によって、ブタ3−OSTの3’配列及び非コード領域の約250bpを同定することが可能となった。
【0178】
ブタ3−OST遺伝子の完全なコーディング相の単離
ブタ3−OSTの完全なコーディング相をクローニングするために、第1の工程で得られた情報を用いて、さらなるRT−PCR実験を実施した。RNA源は、前工程と同じである。
【0179】
Invitrogenの第1鎖合成システムキットのプロトコールに従い、オリゴヌクレオチドdT24をプライマーとして使用して、RNAの2μgをcDNAへと逆転写した。
【0180】
次いで、2段階のPCRによって、3−OSTをコードする遺伝子を増幅した。第1のPCRによって、遺伝子の3’非コード配列の一部を含む遺伝子を増幅することが可能となり、次いで、第2のPCRによって、Gatewayシステム(Invitrogen)と適合性のあるプライマーを用いて、コード配列を増幅することが可能となった。
【0181】
第1のPCRは、ブタ3−OST遺伝子の5’非コード領域中に特異的にハイブリダイズする配列5’−AGG CCC GTG ACA CCC ATG AGT−3’のセンスプライマーBS10、及びUTR中の3’位に特異的にハイブリダイズする配列5’−CAC CTA GTG TAC ACC ACA ATT TAC−3’のアンチセンスプライマーBS30を用いて、cDNAの2μLに対して実施した。35のサーマルサイクル(98℃での変性10秒、64℃でのハイブリダイゼーション30秒、及び68℃での伸長150秒)を適用した。
【0182】
次いで、コーディング相を特異的に増幅するために、PCR産物の1μLに対して第2のPCRを実施した。このために、配列番号17の配列5’−GGG GAC AAG TTT GTA CAA AAA AGC AGG CTC AGC ATG GCC GCG CTG CTC−3’のセンスプライマーBS31及び配列番号18の配列5’−GGG ACC ACT TTG TAC AAG AAA GCT GGG TTT AGT GCC AGT CAA ATG TTC TGC C−3’のアンチセンスプライマーBS32を使用する。使用したPCRプログラムは、第1のPCRに対して使用したものと同一である。
【0183】
次いで、InvitorogenのGatewayクローニング技術キットの手順に従って、エピソームベクターpE−IRES−neo2中に、1kbのPCR産物をクローニングした。配列決定によって、ブタ遺伝子の配列を確認した。得られたヌクレオチド配列は、配列番号5の配列である。推測されるタンパク質配列は、配列番号6である。
【0184】
プラスミドpBXL2033の取得
Advantage 2GC PCRキット(Clontech)のプロトコールに従って、配列番号19の配列5’−CGC GGA TCC CAG CAT GGC CGC GCT GCT CC−3’のセンスプライマーC21755及び配列番号20の配列5’−CTA GTC TAG ATT AGT GCC AGT CAA ATG TTC−3’のアンチセンスプライマーC21756の存在下で、プラスミドHS3ST1−pE−IRES−neo2から、PCRによって、ブタ3−OST1遺伝子を増幅した。25のサーマルサイクル(94℃での変性30秒、58℃でのハイブリダイゼーション45秒及び68℃で伸長45秒)の後、QuiagenのQuiaquick PCR精製キットのプロトコールに従って、PCR反応物を精製する。次いで、BamHI及びXbaI(Biolabs)を用いて、37℃で4時間、全てのPCR産物を消化する。次いで、QuiagenのQuiaquickゲル抽出キットのプロトコールに従って、1×TBE 1%アガロースゲル上での移動後、消化産物を精製する。このようにして消化されたPCR産物を、BamHI−XbaIで開環されたベクターpcDNA3.1/ハイグロ中にクローニングする。
【0185】
cDNAの完全な配列決定の後、得られたプラスミドは、pBXL2032と称された。
【0186】
ブタ3−OST1 cDNAを得るために、XbaI−BamHIで、プラスミドpBXL2032を消化した。
【0187】
XbaI−BamHIで開環されたプラスミドpcDNA3.1(invitrogen)中に、cDNA断片をクローニングした。このようにして得られたプラスミドは、pBXL2033と称した。
【0188】
形質移入用のDNA調製物は、「無内毒素プラスミド(endotoxin free plasmid)」キット(Quiagen)を用いて実施した。
【0189】
ゲネチシン耐性集団の形質移入−選択
指数増殖期にある、培養の3日後の、5×10個の肥満細胞を、1000rpmで遠心し、核穿孔溶液8351(Amaxa)100μL中に採取する。次いで、pcDNA3.1又はpBXL2033の4μgを、細胞懸濁液に添加する。次いで、細胞を電気穿孔キュベット中に移し、電気ショック:プログラムU−28(Nucleofector,Amaxa)に供する。
【0190】
電気穿孔後、予め37℃まで加熱された培地2の2mL中に細胞を移し、次いで、37℃、5%COで、6ウェルプレート中においてインキュベートする。形質移入から48時間後、細胞を計数し、遠心し、選択培地(0.8mg/mLの濃度で、ゲネチシン(Invitrogen)を補充した培地2)中に、2×10C/mLで播種する。
【0191】
選択の適用から20日後に、ゲネチシン耐性細胞集団を得た。プラスミドpcDNA3.1を安定に形質移入されたPMC125細胞は、PMC125pcDNA3.1と称され、プラスミドpBXL2033を安定に形質移入された細胞は、PMC125pBXL2033と称される。
【0192】
細胞培養物は、選択培地中で培養して維持される。
【0193】
培養物中に含有されるプロテオグリカンのHPLCによる特徴決定
PMC125pcDNA3.1対照肥満細胞及びPMC125pBXL2033肥満細胞によって産生されたプロテオグリカンの3−O−硫酸化の程度の分析によって、3−OST1の機能性を評価した。3−O−硫酸化の程度は、3−O−硫酸化を明らかにするIIaIIsglu四糖の量を定量することによってモニターすることが可能である。
【0194】
このために、選択の適用から3週後に、2×10C/mLでの培養物の播種から4日後に、試料を採取した。
【0195】
PMC125pcDNA3.1対照細胞によって産生されたプロテオグリカンは、IIaIIsglu四糖の検出可能な量を含有していない(表3)。他方、PMC125pBXL2033細胞によって合成されたプロテオグリカンは、IIaIIsgluの0.9%を含有し、これらの培養物中での3−O−硫酸化の程度の著しい増加を明らかにする。
【0196】
これらの結果は、肥満細胞中に過剰発現されたブタ3−OST1が機能的である、すなわち、3−O−硫酸化を誘導することを示している。
【0197】
次いで、これらの試料の生物活性を調べた。このために、抗Xa及び抗IIa活性を測定した。
【0198】
培養物中に含有されるプロテオグリカンの生物活性の特徴決定
第Xa因子及び第IIaの不活性化は、ヘパリンに特徴的であり、ヘパリンを、ヘパラン硫酸及びデルマタンを区別することを可能とする。使用される方法は、「European Pharmacopea,3rd Edition(1997)の論文に記載されている方法である。
【0199】
反応は、3段階で起こる。
【0200】
1:ATIII+ヘパリン [ATIII−ヘパリン]
2:[ATIII−ヘパリン]+残存する過剰の因子 [ATIII−ヘパリン−因子]+因子
3:残りの因子+発色団基質 着色したp−ニトロアニリン
放出されたp−ニトロアニリンの量は、ヘパリンの量に反比例する。
【0201】
抗−Xa及び抗−IIaの量は、SPIM標準(標準国際的ヘパリン)を用いて確定された検量線に関して測定する。本方法の感度は、0.006IU/mLである。
【0202】
生物活性は、IU/mgで表され、HPLCによって得られた二糖の定量を考慮に入れる。
【0203】
HPLCによって分析されたものと同じ試料の生物活性が求められた。
【0204】
PMC125pcDNA3.1対照細胞によって合成されたプロテオグリカンは、検出可能な生物活性を示さない。他方、PMC125pBXL2033細胞によって産生されたプロテオグリカンの活性の分析は、60と80IU/mgの間の抗Xa及び抗IIa生物活性の存在を明らかにする(表3)。
【0205】
培養のこの段階で(すなわち、播種から4日後)、2つの活性の比は1に近く、これは、ブタの腸粘膜からの抽出から得られるヘパリンに特徴的であることが注目される。
【0206】
これらの結果は、IIaIIsglu及び抗Xa生物活性の出現をもたらす3−OST1の発現の有効性をさらに示している。
【0207】
(実施例4)
限界希釈によるクローニングを用いたMCpBXL2033クローンの取得
限界希釈技術により、PMC125pBXL2033細胞をクローニングした。このために、20個の96ウェルプレートに、0.3細胞/100μL/ウェルを播種した。96ウェルプレート中で満足な増殖を示すクローンのみを選択し、増幅した。一旦、集密状態に達したら、クローンを回収した後、24ウェルプレート中に培地0.5又は1mLを播種し、12ウェルプレート中に培地2mLを播種し、次いで、培地4mLを6ウェルプレート中に播種し、最後に培地10mLをF25に播種する。
【0208】
この増幅の終了時に、3〜4日ごとの計数及び2×10C/mLでの播種後、156のクローンを取得し、増幅した。
【0209】
合成されたプロテオグリカンの第1の分析は、3−O−硫酸化活性を示すクローンを同定するために、HPLCによって実施した。この第1の研究が終了した時点で、調べた156のうち25のクローンのみが、HPLCによって陽性であった。次いで、合成されたプロテオグリカンの生物活性を測定するために、これらの25個のクローンを分析した。この第2の分析の終了の時点で、僅か19個のクローンが保存されていた。
【0210】
2つの分析の終了時に選択された19個のクローンは、3−O−硫酸化の増加した程度を示すプロテオグリカンを産生する。
【0211】
原PMC125pBXL2033培養物及び得られた12個のクローンに対して、増殖の比較研究を実施した。
【0212】
研究したクローンの全てに対して、細胞の増殖が観察された(図5)。
【0213】
増殖曲線の最後に、様々なクローンのプロテオグリカンを分析するために、試料を採取した。
【0214】
HPLCによるクローンによって合成されたプロテオグリカンの分析は、全てのクローンが3−O−硫酸化を共通に有するプロテオグリカンを産生するが、それらの組成が変動することを示している(表4)。同様に、プロテオグリカンの抗−Xa生物活性は、17と100IU/mgの間で、分析されるクローンに従って変動する(表5)。
【0215】
産生されたプロテオグリカンの増殖の基準及び品質を考慮に入れて、PMC125pBXL2033クローン19−D4を選択した。
【0216】
ほぼ5ヶ月間、PMC125pBXL2033クローン19−D4の安定性をモニターした。このモニタリングによって、(HPLC分析によって測定される)生産性、(IIaIIsglu四糖をモニタリングすることによって測定される)3−O−硫酸化の程度及び産物の生物活性などのパラメータが、細胞増殖と同様に、この期間中安定であることが示された(図6)。
【0217】
【表1】

【0218】
【表2】

【0219】
【表3】

【0220】
【表4】

【0221】
【表5】

【0222】
本願の図面は、以下のとおりである。
【図面の簡単な説明】
【0223】
【図1】ヘパリンのN硫酸化された二糖に対応するIs、IIs、IIIs及びIVs二糖の化学構造、アセチル化された相同な二糖Ia、IIa、IIIa及びIVaの化学構造、及びIIa IIs glu及びIIa IVs glu四糖の化学構造。
【図2A】MCpcDNA3.1/ハイグロ及びMCpBXL2015培養物の分子分析。図2A−ゲノムPCR。図2B−MCpcDNA3.1/ハイグロ対照培養物から(1)又はMCpBXL2015培養物から(2)抽出されたRNAに対して、逆転者酵素の不存在下(−)又は存在下(+)で、RT−PCRを実施した(C:対照pBXL2015プラスミドDNA)。
【図2B】MCpcDNA3.1/ハイグロ及びMCpBXL2015培養物の分子分析。図2A−ゲノムPCR。図2B−MCpcDNA3.1/ハイグロ対照培養物から(1)又はMCpBXL2015培養物から(2)抽出されたRNAに対して、逆転者酵素の不存在下(−)又は存在下(+)で、RT−PCRを実施した(C:対照pBXL2015プラスミドDNA)。
【図3A】図3A:無SCF培地中での、MCpcDNA3.1/ハイグロ対照細胞及びMCpBXL2015細胞の増殖。図3B:SCFの存在下にあるMCpcDNA3.1/ハイグロ対照細胞の増殖の、無SCF培地中のMCpBXL2015細胞の増殖との比較。
【図3B】図3A:無SCF培地中での、MCpcDNA3.1/ハイグロ対照細胞及びMCpBXL2015細胞の増殖。図3B:SCFの存在下にあるMCpcDNA3.1/ハイグロ対照細胞の増殖の、無SCF培地中のMCpBXL2015細胞の増殖との比較。
【図4】原MCpBXL2015培養及びMCpBXL2015クローンに対する成長曲線。
【図5】原PM125培養及びPMC125 pBXL2033クローンに対する成長曲線。
【図6】PMC125 pBXL2033クローン19−D4による、経時的なプロテオグリカン産生の安定性の研究。細胞と同じ条件下で抽出及び分離された粘膜を、対照として導入する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
IIa IIs glu四糖を含むヘパリン型分子を産生することを特徴とする、ブタ肥満細胞培養物又は株。
【請求項2】
少なくとも50IU/mg超の抗Xa活性を示すヘパリン型分子を産生することを特徴とする、請求項1に記載のブタ肥満細胞培養物又は株。
【請求項3】
少なくとも50IU/mg超の抗IIa活性を示すヘパリン型分子を産生することを特徴とする、請求項1に記載のブタ肥満細胞培養物又は株。
【請求項4】
ヘパリン型分子の硫酸化に対して作用する酵素を過剰発現することを特徴とする、請求項1ないし3の何れか1項に記載のブタ肥満細胞培養物又は株。
【請求項5】
ヘパリン型分子の硫酸化に対して作用する酵素をコードする外来核酸を含むことを特徴とする、請求項1ないし4の何れか1項に記載のブタ肥満細胞培養物又は株。
【請求項6】
3−OSTをコードする外来核酸を含むことを特徴とする、請求項1ないし5の何れか1項に記載のブタ肥満細胞培養物又は株。
【請求項7】
3−OST1をコードする外来核酸を含むことを特徴とする、請求項1ないし6の何れか1項に記載のブタ肥満細胞培養物又は株。
【請求項8】
ブタ3−OSTをコードする外来核酸を含むことを特徴とする、請求項1ないし7の何れか1項に記載のブタ肥満細胞培養物又は株。
【請求項9】
変異又は欠失を示すc−kitタンパク質を発現することを特徴とする、請求項1ないし8の何れか1項に記載のブタ肥満細胞培養物又は株。
【請求項10】
マウスc−kitG559の位置と等価な位置に変異を示すc−kitタンパク質を発現することを特徴とする、請求項1ないし9の何れか1項に記載のブタ肥満細胞培養物又は株。
【請求項11】
マウスc−kitG559、ブタc−kitG556又はヒトc−kitG560タンパク質を発現することを特徴とする、請求項1ないし10の何れか1項に記載のブタ肥満細胞培養物又は株。
【請求項12】
変異又は欠失を示すc−kitタンパク質をコードする外来核酸を含むことを特徴とする、請求項1ないし11の何れか1項に記載のブタ肥満細胞培養物又は株。
【請求項13】
マウスc−kitG559の位置と等価な位置に変異を示すc−kitタンパク質をコードする核酸を含むことを特徴とする、請求項1ないし12の何れか1項に記載のブタ肥満細胞培養物又は株。
【請求項14】
2001年10月17日に、パスツール研究所の「Collection de Cultures de Microorganismes de l’Institut Pasteu」に、番号I−2734、I−2735又はI−2736で寄託された、変異又は欠失を示すc−kitタンパク質を発現するように修飾されたブタ肥満細胞株の1つであることを特徴とする、ブタ肥満細胞株。
【請求項15】
ヘパリン型分子の硫酸化に対して作用する酵素をコードする外来核酸を含むことを特徴とする、請求項14に記載のブタ肥満細胞株。
【請求項16】
請求項1ないし15の何れか1項に記載のブタ肥満細胞培養物又は株の培養を含む、ヘパリン型分子を生産する方法。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図3A】
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【図3B】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2008−515417(P2008−515417A)
【公表日】平成20年5月15日(2008.5.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−535200(P2007−535200)
【出願日】平成17年10月10日(2005.10.10)
【国際出願番号】PCT/FR2005/002488
【国際公開番号】WO2006/040463
【国際公開日】平成18年4月20日(2006.4.20)
【出願人】(500152119)アバンテイス・フアルマ・エス・アー (65)
【Fターム(参考)】