説明

ヘモグロビン測定方法および測定装置

【課題】小型で、微量な試料であっても、高精度に試料のヘモグロビン濃度を測定可能なヘモグロビン測定装置を実現する。
【解決手段】シリコン基板4の表面には第1の電極(作用極)1と第2の電極(参照極)2が形成され、反応容器3は作用極1と参照極2の双方と接触する。反応容器3に試料が導入されると両電極間1、2が試料を通じて導通し、外部から電圧、電流を供給することなく酸化還元電位を生じる。この酸化還元電位を電圧計6で測定し、ネルンストの式によりヘモグロビン濃度を算出する。したがって、2つの電極間に電力を供給するための電源が不要であり、かつ、微量な試料であっても測定可能であるため、小型で微量な試料であっても高精度に試料のヘモグロビン濃度を測定可能なヘモグロビン測定装置を実現することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘモグロビン測定方法および測定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
糖尿病診断の検査項目として血液中のHbA1cの測定が重要視されつつある。診療上は血中の総ヘモグロビン(Hb)の濃度に対するHbA1cの割合が判断基準となることから、総Hbの簡便な測定法が求められている。
【0003】
現在、Hbの測定にはクロマトグラフィーや吸光光度計による方法が多く用いられている。
【0004】
しかしながら、どちらの方法においても測定の原理上、装置の小型化が難しく、試料の前処理など煩雑な操作が必要であるという問題があった。
【0005】
一方、平易な操作、小型の装置で測定可能な方法として、Hbの還元性を利用して酸化還元反応により生じる電流を電極にて検知し、電流値からHb濃度を定量するセンサ方式が知られている(特許文献1)。
【0006】
この特許文献1に開示された測定方法では、Hbとの反応で還元されたメディエータ分子に電圧を印加し、電圧印加によりメディエータが酸化される際に流れる電流を計測している。Hbのセンサによる測定では、小型の装置で簡便に定量が可能なため、現在用いられているクロマトグラフィーや吸光光度計を用いる方法と比べて容易にHb測定が行える。
【0007】
【特許文献1】特表2004−504604号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に示すような電流計測による測定方式では、電流値が電極の面積や試料量に比例するため、高精度に試料を測定するためには、電極の面積を大とし、試料量を多くしなければならず、測定装置の小型化や試料量の微量化を図ることが困難であった。
【0009】
本発明の目的は、小型で、微量な試料であっても、高精度に試料のヘモグロビン濃度を測定可能なヘモグロビン測定方法及び装置を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するため、本発明は次のように構成される。
【0011】
本発明のヘモグロビン濃度測定方法は、互いに近接して離間された作用電極と参照電極とを、試料溶液を介して電気的に導通させ、上記作用電極と参照電極との間に発生する電圧を測定し、測定した電圧に基づいて、上記試料溶液中のヘモグロビン濃度を算出する。
【0012】
また、本発明のヘモグロビン濃度測定装置は、互いに近接して離間された作用電極及び参照電極と、上記作用電極及び参照電極が配置される基板と、試料溶液を収容し、上記作用電極と参照電極とに接触し、上記作用電極と参照電極とを電気的に導通させる反応容器と、上記基板に配置された作用電極と参照電極との間の電圧を計測する電圧計とを備える。
【0013】
また、本発明のヘモグロビン濃度測定装置は、互いに近接して離間された作用電極及び参照電極と、上記作用電極及び参照電極が配置され、試料溶液を収容する測定容器と、上記測定容器に配置された作用電極と参照電極との間の電圧を計測する電圧計と、上記電圧計により計測された電圧をヘモグロビン濃度に変換するヘモグロビン濃度変換部と、上記ヘモグロビン濃度変換部により変換されたヘモグロビン濃度を表示する表示部と、上記測定容器に試料溶液を吐出するノズルと、上記ノズルを移動させると共に上記ノズルから試料溶液を吐出させるノズル駆動部と、上記電圧計、上記ヘモグロビン濃度変換部、上記表示部、及び上記ノズル駆動の動作を制御する動作制御部とを備える。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、小型で、微量な試料であっても、高精度に試料のヘモグロビン濃度を測定可能なヘモグロビン測定方法及び装置を実現することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明の実施形態について、添付図面を参照して説明する。
【0016】
図1は、本発明の第1の実施形態であるヘモグロビン測定方法及び装置の説明図である。図1の(A)は、ヘモグロビン測定装置の平面及び側面を示し、図1の(B)は、反応容器(測定容器)3をシリコン基板4から分離した状態を示している。
【0017】
シリコン基板4の表面には、第1の電極1と第2の電極2が形成されている。シリコン基板4上に二箇所の絶縁部位を形成し、絶縁部位上にスパッタリングにより金被膜を施すことで第1の電極1と、第2の電極2が形成される。
【0018】
第1の電極1は金−チオール結合によりフェロセニルアルカンチオールが固定化され作用極として機能する。第2の電極にはAg/AgClペーストが塗布され固定化されることで参照極として機能する。作用極1と参照極2とが近接して形成されており、作用極1と参照極2の双方と接触することができる形状に打ち抜かれた不織布が反応容器3として作用極および参照極上に設置される。
【0019】
このため、反応容器3に試料が導入されることにより両電極間1、2が試料を通じて導通するよう設計されている。この場合、反応容器3は測定容器を兼ねる。反応容器3は、試料をその内部に吸収し、保持できるものであり、一度限りの使用として使い捨てとすることができるものである。
【0020】
反応容器3には測定試薬(望ましい組成:リン酸緩衝液、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、フェリシアン化カリウム)が乾燥状態で保持されており、10マイクロリットル程度の全血試料の導入により、試料中の水分で溶解し、外部から電圧、電流を供給することなく、酸化還元電位を生じる。
【0021】
なお、反応容器3にはピペット等により測定溶液が供給される。
【0022】
第1の電極1及び第2の電極2は、電圧計6に接続され、電極1と電極2との間で発生した電圧が計測される。
【0023】
電圧計6で計測された電圧に基づいて、試料中のヘモグロビン濃度が算出可能となる。つまり、次式(1)に示すネルンストの式により、測定電圧からヘモグロビン濃度を算出することができる。
【0024】
E=−59・log(Hb濃度)+E ―――(1)
ただし、上記式(1)において、(−59)は、定数(mV)であり、装置毎に設定される値であり、装置の感度に対応する数値である。また、Eは、標準電極電位であり、Eが計測電圧である。
【0025】
以上のように、本発明の第1の実施形態によれば、2つの電極に試料を接触させ、酸化還元により両電極間に発生する酸化還元電位を計測し、計測した電位に基づいて、試料中のヘモグロビン濃度を算出するように構成したので、2つの電極間に電力を供給するための電源が不要であり、かつ、微量な試料であっても、測定可能であるため、小型で、微量な試料であっても、高精度に試料のヘモグロビン濃度を測定可能なヘモグロビン測定方法及び装置を実現することができる。
【0026】
次に、本発明の第2の実施形態について説明する。図2は、本発明の第2の実施形態であるヘモグロビン測定方法及び装置の説明図である。図2の(A)は、ヘモグロビン測定装置の平面及び側面を示し、図2の(B)は、反応容器(測定容器)3a、3bをシリコン基板4から分離した状態を示している。
【0027】
本発明の第2の実施形態においては、測定試料以外の要因による電位の変化に伴う誤差補正のために、補助電極、つまり、第3の電極5が設けられている。温度や参照電極の劣化など、条件の変化により、測定電圧が、試料により発生する電圧から僅かに変化する。そこで、予め酸化還元電位が既知である基準溶液を測定することで、条件変化に伴う測定誤差を補正することができる。
【0028】
図2において、第2の電極2は、第1の電極1と第3の電極5との間に配置され、第1の反応容器3aは、第1の電極1と第2の電極2との両電極に接触するように配置される。
【0029】
また、第2の反応容器(補助容器)3bは、第2の電極2と第3の電極5との両電極に接触するように配置される。
【0030】
電圧計6は、第1の電極1と第2の電極2との間に発生する電圧を測定すると共に、第2の電極2と第3の電極5との間に発生する電圧を基準電圧として測定する。
【0031】
反応容器3aは、第1の実施形態における反応容器3と同様に、測定試料及び測定試薬が収容され、反応容器3bは、基準溶液が収容される。基準溶液が反応容器3bに導入され、第2の電極2と第3の電極5との両電極に接触されると、第2電極2と第3電極5との間に基準となる電圧が発生する。なお、基準溶液は、第2の反応容器3bに測定開始時に導入されても良いし、予め導入されていても良い。
【0032】
第1の電極1と第2の電極との間で発生した電圧と、第2の電極2と第3の電極5の間で発生した電圧とを、電圧計6で測定して表示し、第1の電極1と第2の電極との間で発生した電圧を、第2の電極2と第3の電極5の間で発生した電圧により補正する。
【0033】
測定試料以外の要因で電圧が変動することが考えられるが、第2の電極と第3の電極との間で発生する電圧を用いて、上記要因による誤差の低減を図ることができる。例えば、第1の電極1と第2の電極との間で発生した電圧から、第2の電極2と第3の電極5の間で発生した電圧を減算し、得られた電圧を用いて、測定試料中のヘモグロビン濃度を算出することができる。
【0034】
以上のように、本発明の第2の実施形態によれば、第1の実施形態と同様な効果を得ることができる他、補助電極を追加することにより、測定試料以外の要因による電圧変化を除外することができるので、測定精度をより向上することができる。
【0035】
図3は、本発明の第3の実施形態であるヘモグロビン測定装置の概略構成図である。この第3の実施形態は、測定試料を自動的に吸引し、測定容器に吐出し、測定した電圧に基づいて、自動的に測定試料中のヘモグロビン濃度を算出し、表示手段に表示する装置の例である。
【0036】
図3において、測定容器7の底部には、第1の電極1と第2の電極とが近接して配置されている。電極1、2間の電圧は、電圧計6により測定され、測定された電圧は、Hb濃度変換部9に供給される。Hb濃度変換部9は、電圧計6から供給された電圧をネルンストの式に従って、ヘモグロビン濃度に変換する。そして、得られたヘモグロビン濃度を記憶部10に格納するとともに、表示部11に供給する。
【0037】
動作制御部12は、ノズル駆動部13に指令信号を供給し、ノズル8の移動、試料吸引吐出動作を制御させる。また、動作制御部12は、電圧計6、Hb濃度変換部9、記憶部10、表示部11の動作を制御する。
【0038】
測定容器7には、ノズル8から、試料及び測定試薬が吐出されるように構成してもよいし、測定容器7内の電極1、2に接触する不織布(図1に示した反応容器3と同様なもの)を配置し、その不織布に試料を吐出するように構成してもよい。
【0039】
また、複数の測定容器7を支持し、これらは測定容器7を試料吐出位置に連続して移動させる測定容器移動手段を備え、自動的に複数の測定試料を分析するように構成することもできる。
【0040】
また、本発明の第2の実施形態のように、測定容器7内に補助電極を配置することもできる。
【0041】
以上のように、本発明の第3の実施形態によれば、小型で、微量な試料であっても、高精度に試料のヘモグロビン濃度を自動的に測定可能なヘモグロビン測定装置を実現することができる。
【0042】
なお、測定試料は測定開始前に抗凝固剤や溶血試薬により処理したものであってもよい。反応容器(測定容器)3、7に導入される試料液量は、1マイクロリットル以上が望ましく、最も望ましくは、5マイクロリットル以上である。反応容器(測定容器)3、7は、測定試料等が電極の作用極1と参照極2との一組と接触するように構成され、液体試料が導入されることで2つの電極1、2が導通し、回路が形成される。試料が液体でない場合には、水などの溶媒に溶解した後、反応容器(測定容器)3、7に導入されても良い。
【0043】
反応容器(測定容器)3、7の形態は、試料および測定試薬を保持し、試料導入後に2つの電極1、2間を導通させることが出来ればよく、該当する構造としては作用極1と参照極2の一組を包括できる大きさの孔が設けられた容器、濾紙などの繊維集合体、不織布、多孔質材料、ゲルなどが含まれる。材料は電気的に不活性で、試料や電極に対しても不活性な材料であればよい。望ましくはポリ塩化ビニル、ポリイミド、ゼラチン、ガラス繊維などである。
【0044】
反応容器(測定容器)3、7には測定試薬として、溶血剤とメディエータおよびpH緩衝試薬が含まれる。また、反応容器(測定容器)3、7内には測定の妨害成分を除去するための妨害除去試薬が含まれていても良い。
【0045】
溶血剤としては、イオン性または非イオン性の界面活性剤、有機溶媒、塩、酵素を用いることが出来る。界面活性剤としてはポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ラウリル硫酸ナトリウム、サポニンなどが望ましい。有機溶媒としては、ホルムアルデヒド、ヘキサン、アセトンなどが望ましい。塩としては、塩化アンモニウム、塩化アルミニウムなどが望ましい。より望ましい例は、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテルである。この場合、望ましい濃度は1〜20v/v%である。また、蒸留水により希釈されるなど塩濃度の変化により溶血を促してもよい。
【0046】
メディエータとしては、Hbと酸化還元反応を行うものであればよく、該当する化合物としては、金属塩、金属錯体、キノン系化合物やベンゾフェノンなどが利用できる。望ましくはフェリシアン化物である。メディエータの総濃度は想定されるHb濃度の2倍以上の濃度とすることが望ましい。望ましい濃度は、10〜500mMである。
【0047】
pH緩衝試薬としては、試料添加後のpHを4.0〜8.0に維持し反応容器3、7や電極1、2、5、試料と反応しないものであれば限定されないが、グッド緩衝液などが用いることができる。反応に関わる最終的な濃度は5〜500mM、より望ましくは、50〜200mMである。望ましくはpH6.5〜7.0のリン酸バッファが用いられる。
【0048】
測定試薬の組成例としては、上述した例の他に、以下の例が挙げられる。
組成例1として、HEPES緩衝液、ラウリル硫酸ナトリウム、ベンゾキノンである。また、組成例2としては、トリス−HCl緩衝液、サポニン、フェリシアン化カリウムである。
【0049】
作用極1の材料には、例えば、銅、白金、銀、金、パラジウム、ルテニウム、ロジウムおよびイリジウム等の金属、カーボン、あるいはそれらの材料に表面処理を施した材料が挙げられる。最も望ましくは、フェロセニルアルカンチオール等の単分子膜形成により表面を絶縁した金電極である。また、試料中のタンパク質などの吸着を防止する目的で、表面親水化処理を施しても良い。参照極には、望ましくは、Ag/AgCl電極が用いられる。
【0050】
また、補助電極5は、望ましくは作用極1と同じ工程、組成で製作され、作用極1と同様の電気的な応答を示す。基準溶液には、一定の条件下における酸化還元電位が既知で、安定して電位が得られる試料であれば良く、例えば金属塩、金属錯体、キノン系化合物やベンゾフェノンおよびこれらの混合溶液が利用できる。
【0051】
電圧計6は、高インピーダンスのものが望ましい。検出された電圧は、Hbとの反応で還元されたメディエータの量に依存するため、予めキャリブレータにより作成された検量線を用いてHb濃度を定量することができる。
【0052】
望ましい形態では、Hb濃度を測定する場合には、赤血球を含む試料が反応容器(測定容器)3、7内に導入されると、溶血剤により赤血球中のHbが放出され、メディエータと酸化還元反応を起こし、メディエータが還元される。結果として生じる酸化型/還元型の濃度比に応じて作用極に電圧が生じ、この電圧から、予め作成された検量線を用いて全血中のHb濃度を算出する。
【0053】
次に、本発明の形態によるヘモグロビン測定値と、公知技術によるヘモグロビン測定値との相関を説明する。なお、全血試料120検体についてHb濃度の測定を行った。多項目自動血球計数装置(ラウリル硫酸ナトリウム−ヘモグロビン法(SLS−Hb法))を用いて測定を行い、図4に示すように相関性を評価した。
【0054】
図4に示すように、グラフの相関係数R=0.9763、回帰直線y=1.0161X−0.9625と良好な相関関係が得られ、公知技術と同様にHbが測定可能であることが確認できた。
【0055】
なお、測定においては本発明の最も望ましい形態を用いた。つまり、作用電極としてフェロセニルアルカンチオール修飾金電極、参照電極としてAg/AgCl電極を使用し、測定試薬組成は、リン酸緩衝液、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、フェリシアン化カリウムを使用した。
【0056】
さらに、相関についての他の例につき説明する。この例も、全血試料120検体についてHb濃度の測定を行った。図5に示すように、グラフの相関係数R=0.9061〜0.9279と良好な相関関係が得られ、従来法と同様にHbが測定可能であることが確認された。
【0057】
図5に示した比較例1〜3は、本発明における例であり、比較例1は、作用電極をアミノアルカンチオール修飾金電極とし、参照電極をAg/AgCl電極とし、測定試薬組成を、リン酸緩衝液、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、フェリシアン化カリウムを用いた。
【0058】
また、比較例2は、作用電極をフェロセニルアルカンチオール修飾金電極とし、参照電極をAg/AgCl電極とし、測定試薬組成を、リン酸緩衝液、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、p−ベンゾキノンとした。
【0059】
また、比較例3は、作用電極をフェロセニルアルカンチオール修飾金電極とし、参照電極をAg/AgCl電極とし、測定試薬組成を、リン酸緩衝液、ドデシル硫酸ナトリウム、p−ベンゾキノンとした。
【0060】
次に、作用電極の種類によるHb測定値の再現性について説明する。図6は、本発明の最も望ましい形態の作用電極及び比較例1、2(本発明)の作用電極を用いて、全血試料20検体を測定したときの個別再現性(CV%)を示す。作用電極は、本発明の最も望ましい形態ではフェロセニルアルカンチオール修飾金電極であり、比較例1ではアミノアルカンチオール修飾金電極、比較例2では未修飾金電極である。そして、参照電極は、Ag/AgCl電極、測定試薬組成は、リン酸緩衝液、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、フェリシアン化カリウム、試料中のHb濃度は、11.5[g/dL]とした。
【0061】
図6に示すように、比較例1ではアミノアルカンチオール修飾金電極のメディエータに対する応答再現性がフェロセニルアルカンチオールと比較して低く、CV%にして倍近くまで再現性が低下した。比較例2では未修飾金電極を用いた結果、金材料が試料中の夾雑成分と直接反応し、さらに再現性が低下した。
【0062】
以上の結果から、作用電極としてメディエータとの応答性が高く、試料中の夾雑物質との反応も低減されることからフェロセニルアルカンチオール修飾金電極が最も望ましい。
【0063】
本発明によれば、血液試料中のHbを簡便かつ少ない試料量で定量することが出来、HbA1c測定と併せて、糖尿病などの臨床検査における患者への負担と操作の手間を低減することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0064】
【図1】本発明の第1の実施形態であるヘモグロビン測定方法及び装置の説明図である。
【図2】本発明の第2の実施形態であるヘモグロビン測定方法及び装置の説明図である。
【図3】本発明の第3の実施形態であるヘモグロビン測定装置の説明図である。
【図4】本発明の一例によるヘモグロビン測定方法と公知技術によるヘモグロビン測定方法との相関を示すグラフである。
【図5】本発明の他の例によるヘモグロビン測定方法と公知技術によるヘモグロビン測定方法との相関を示す表である。
【図6】作用電極の種類によるHb測定値の再現性を示す表である。
【符号の説明】
【0065】
1・・・第1の電極、2・・・第2の電極、3、7・・・反応容器(測定容器)、3a・・・第1の反応容器、3b・・・第2の反応容器、4・・・シリコン基板、5・・・第3の電極、6・・・電圧計、8・・・ノズル、9・・・Hb濃度変換部、10・・・記憶部、11・・・表示部、12・・・動作制御部、13・・・ノズル駆動部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料溶液中に含まれるヘモグロビン濃度を測定するヘモグロビン濃度測定方法において、
互いに近接して離間された作用電極と参照電極とを、試料溶液を介して電気的に導通させ、
上記作用電極と参照電極との間に発生する電圧を測定し、
測定した電圧に基づいて、上記試料溶液中のヘモグロビン濃度を算出することを特徴とするヘモグロビン濃度測定方法。
【請求項2】
請求項1記載のヘモグロビン濃度測定方法において、上記試料溶液に測定試薬が導入されることを特徴とするヘモグロビン濃度測定方法。
【請求項3】
請求項2記載のヘモグロビン濃度測定方法において、上記測定試薬は、溶血剤、メディエータ又はpH緩衝試薬が含まれることを特徴とするヘモグロビン濃度測定方法。
【請求項4】
請求項3記載のヘモグロビン濃度測定方法において、上記溶血剤は、イオン性又は非イオン性の界面活性剤、有機溶媒、塩又は酵素であり、上記メディエータは、ヘモグロビンと酸化還元反応を行う金属塩、金属錯体、キノン系化合物、ベンゾフェノン又はフェリシアン化合物であり、上記pH緩衝液は、リン酸緩衝液であることを特徴とするヘモグロビン濃度測定方法。
【請求項5】
請求項4記載のヘモグロビン濃度測定方法において、上記界面活性剤は、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ラウリル硫酸ナトリウム、又はサポニンであり、上記有機溶媒は、ホルムアルデヒド、ヘキサン、又はアセトンであり、上記塩は、塩化アンモニウム、又は塩化アルミニウムであることを特徴とするヘモグロビン濃度測定方法。
【請求項6】
請求項1記載のヘモグロビン濃度測定方法において、上記作用電極は、銅、白金、銀、金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、カーボン、又はフェロセニルアルカンチオールの単分子膜成分により表面を絶縁した金電極であり、上記参照電極は、Ag/AgCl電極であることを特徴とするヘモグロビン濃度測定方法。
【請求項7】
請求項1記載のヘモグロビン濃度測定方法において、上記参照電極と互いに近接して離間して補助電極を配置し、この補助電極と上記参照電極とを上記試料溶液を介して導通させ、上記補助電極と参照電極との間に発生する電圧を基準電圧として測定し、上記作用電極と参照電極との間に発生した電圧を、上記基準電圧により補正することを特徴とするヘモグロビン濃度測定方法。
【請求項8】
請求項7記載のヘモグロビン濃度測定方法において、上記作用電極及び補助電極は、銅、白金、銀、金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、カーボン、又はフェロセニルアルカンチオールの単分子膜成分により表面を絶縁した金電極であり、上記参照電極は、Ag/AgCl電極であることを特徴とするヘモグロビン濃度測定方法。
【請求項9】
請求項2記載のヘモグロビン濃度測定方法において、上記試料溶液及び測定試薬は、反応容器に収容され、この反応容器を上記作用電極と参照電極とを接触させることにより上記試料溶液を介して上記作用電極と参照電極とが電気的に導通させることを特徴とするヘモグロビン濃度測定方法。
【請求項10】
請求項9記載のヘモグロビン濃度測定方法において上記反応容器は、繊維集合体、不織布、多孔質材料又はゲルであることを特徴とするヘモグロビン濃度測定方法。
【請求項11】
試料溶液中に含まれるヘモグロビン濃度を測定するヘモグロビン濃度測定装置において、
互いに近接して離間された作用電極及び参照電極と、
上記作用電極及び参照電極が配置される基板と、
試料溶液を収容し、上記作用電極と参照電極とに接触し、上記作用電極と参照電極とを電気的に導通させる反応容器と、
上記基板に配置された作用電極と参照電極との間の電圧を計測する電圧計と、
を備えることを特徴とするヘモグロビン濃度測定装置。
【請求項12】
請求項11記載のヘモグロビン濃度測定装置において、上記反応容器には測定試薬が収容されていることを特徴とするヘモグロビン濃度測定装置。
【請求項13】
請求項12記載のヘモグロビン濃度測定装置において、上記測定試薬は、溶血剤、メディエータ又はpH緩衝試薬が含まれることを特徴とするヘモグロビン濃度測定装置。
【請求項14】
請求項13記載のヘモグロビン濃度測定装置において、上記溶血剤は、イオン性又は非イオン性の界面活性剤、有機溶媒、塩又は酵素であり、上記メディエータは、ヘモグロビンと酸化還元反応を行う金属塩、金属錯体、キノン系化合物、ベンゾフェノン又はフェリシアン化合物であり、上記pH緩衝液は、リン酸緩衝液であることを特徴とするヘモグロビン濃度測定装置。
【請求項15】
請求項14記載のヘモグロビン濃度測定装置において、上記界面活性剤は、ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル、ラウリル硫酸ナトリウム、又はサポニンであり、上記有機溶媒は、ホルムアルデヒド、ヘキサン、又はアセトンであり、上記塩は、塩化アンモニウム、又は塩化アルミニウムであることを特徴とするヘモグロビン濃度測定装置。
【請求項16】
請求項11記載のヘモグロビン濃度測定装置において、上記作用電極は、銅、白金、銀、金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、カーボン、又はフェロセニルアルカンチオールの単分子膜成分により表面を絶縁した金電極であり、上記参照電極は、Ag/AgCl電極であることを特徴とするヘモグロビン濃度測定装置。
【請求項17】
請求項11記載のヘモグロビン濃度測定装置において、
上記基板に配置され、上記参照電極と互いに近接して離間する補助電極と、
上記補助電極と上記参照電極とを上記試料溶液を介して導通させる補助容器と、
を備え、上記補助電極と参照電極との間に発生する電圧を基準電圧として測定し、上記作用電極と参照電極との間に発生した電圧を、上記基準電圧により補正することを特徴とするヘモグロビン濃度測定装置。
【請求項18】
請求項17記載のヘモグロビン濃度測定装置において、上記作用電極及び補助電極は、銅、白金、銀、金、パラジウム、ルテニウム、ロジウム、イリジウム、カーボン、又はフェロセニルアルカンチオールの単分子膜成分により表面を絶縁した金電極であり、上記参照電極は、Ag/AgCl電極であることを特徴とするヘモグロビン濃度測定装置。
【請求項19】
請求項12記載のヘモグロビン濃度測定装置において、上記反応容器は、繊維集合体、不織布、多孔質材料又はゲルであることを特徴とするヘモグロビン濃度測定装置。
【請求項20】
試料溶液中に含まれるヘモグロビン濃度を測定するヘモグロビン濃度測定装置において、
互いに近接して離間された作用電極及び参照電極と、
上記作用電極及び参照電極が配置され、試料溶液を収容する測定容器と、
上記測定容器に配置された作用電極と参照電極との間の電圧を計測する電圧計
と、
上記電圧計により計測された電圧をヘモグロビン濃度に変換するヘモグロビン濃度変換部と、
上記ヘモグロビン濃度変換部により変換されたヘモグロビン濃度を表示する表示部と、
上記測定容器に試料溶液を吐出するノズルと、
上記ノズルを移動させると共に上記ノズルから試料溶液を吐出させるノズル駆動部と、
上記電圧計、上記ヘモグロビン濃度変換部、上記表示部、及び上記ノズル駆動の動作を制御する動作制御部と、
を備えることを特徴とするヘモグロビン濃度測定装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2010−2401(P2010−2401A)
【公開日】平成22年1月7日(2010.1.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−163659(P2008−163659)
【出願日】平成20年6月23日(2008.6.23)
【出願人】(501387839)株式会社日立ハイテクノロジーズ (4,325)
【Fターム(参考)】