説明

ヘモグロビンA0の分析方法

【課題】陽イオン交換高速液体クロマトグラフィーにおいて、保持力の強いヘモグロビンS、ヘモグロビンA2、及び、ヘモグロビンA0であっても対称性の高いシャープなピークで分離することができるヘモグロビンSの分析方法、ヘモグロビンA2の分析方法、及び、ヘモグロビンA0の分析方法を提供する。
【解決手段】陽イオン交換高速液体クロマトグラフィーによるヘモグロビンA0の分析方法であって、アジ化物又はシアン化物を0.1〜50mmol/L含有し、かつ、pHが6.00〜6.75である溶離液を用いるヘモグロビンA0の分析方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、陽イオン交換高速液体クロマトグラフィーにおいて、保持力の強いヘモグロビンS、ヘモグロビンA2、及び、ヘモグロビンA0であっても対称性の高いシャープなピークで分離することができるヘモグロビンSの分析方法、ヘモグロビンA2の分析方法、及び、ヘモグロビンA0の分析方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高速液体クロマトグラフィー(HPLC)によるヘモグロビン類の分析は現在広く行われており、糖尿病診断ではグリコヘモグロビンの一種であるヘモグロビンA1cの定量や異常ヘモグロビンの分析等に用いられている。例えば、特許文献1には、血液検体を溶血希釈して調製した試料中のヘモグロビン類を、陽イオン交換法により、ヘモグロビン成分毎に異なるプラス荷電状態の違いを利用して分離する液体クロマトグラフィーを用いた方法が開示されている。近年の糖尿病患者の増加に伴い、ヘモグロビンA1cの測定件数も増加傾向にあり、HPLCでの測定においても高精度測定と測定時間の短縮が求められている。
【0003】
生体内において、ヘモグロビン類には、酸素が結合したオキシヘモグロビン、二酸化炭素が結合したデオキシヘモグロビン、ヘムに含まれている鉄が酸化されて三価の鉄イオンとなったメトヘモグロビンが存在する。また、アジ化物やシアン化物が共存している場合、アジ化物やシアン化物がメトヘモグロビンの三価の鉄イオンに結合し、アジドメトヘモグロビンやシアンメトヘモグロビンとなって安定化することが知られている。しかしながら、陽イオン交換液体クロマトグラフィーを用いるHPLCでは、オキシヘモグロビンの溶出時間と、これらのアジドメトヘモグロビンやシアンメトヘモグロビンの溶出時間とに違いが生じることがある。これらのヘモグロビン類の電荷の違いはわずかであるため、ピークが完全分離できずにブロード化したり二峰性を示したりする。
【0004】
HPLCを用いたヘモグロビン類の分析は、糖尿病診断の他に主に貧血を引き起こす異常ヘモグロビン症やサラセミアといった診断にも使用されている。なかでも、ヘモグロビンSは最も多くみられる異常ヘモグロビンであり、重篤な貧血症状を引き起こす鎌状赤血球症の原因物質であるため、分離、検知の需要は大きい。また、糖尿病のマーカーであるヘモグロビンA1cを測定する際には、ヘモグロビンSをはじめとした異常ヘモグロビンを分離することが望ましく、ピークがブロード化したり二峰性となっていたりしては正常ヘモグロビンとの分離が困難となるとともに、測定値への悪影響が懸念されるため、シャープなピークとして分離させることが好ましい。一方、サラセミアの診断ではヘモグロビンA2を測定する必要があるが、微量成分であるとともに、多量に存在しているヘモグロビンA0と隣接して溶出されることが多いため、ヘモグロビンA0、A2ともにシャープなピークとして分離させることが好ましい。しかしながら、陽イオン交換クロマトグラフィーにおいて、陽イオン交換カラムとの保持力が比較的強い成分は、ピークがブロード化したり二峰性となったりしやすいという問題がある。
また、新鮮血よりも劣化血の方がブロードや二峰性のピークを生じやすい傾向がある。これは劣化により生じるメトヘモグロビンが増加することが原因である。そのため、再検査等で保存検体の分析を行う場合に測定値への影響が懸念されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2000−111539号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、陽イオン交換高速液体クロマトグラフィーにおいて、保持力の強いヘモグロビンS、ヘモグロビンA2、及び、ヘモグロビンA0であっても対称性の高いシャープなピークで分離することができるヘモグロビンSの分析方法、ヘモグロビンA2の分析方法、及び、ヘモグロビンA0の分析方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明3は、陽イオン交換高速液体クロマトグラフィーによるヘモグロビンA0の分析方法であって、アジ化物又はシアン化物を0.1〜50mmol/L含有し、かつ、pHがヘモグロビンの等電点付近の6.00〜6.75である溶離液を用いるヘモグロビンA0の分析方法である。
以下に本発明を詳述する。
【0008】
従来、保持力の強いヘモグロビン類を分離する場合、通常、pH6未満の溶離液が使用されており、本発明者らは、このpH範囲がピークの形状に大きく影響を及ぼしていることを見出した。
そこで本発明者らは、特定の濃度でアジ化物又はシアン化物を配合することによってメトヘモグロビンを安定化させた溶離液のpHをヘモグロビンの等電点付近の特定の範囲に調整することにより、保持力の強いヘモグロビン類であっても対称性の高いシャープなピークで分離することができることを見出し、本発明を完成させるに至った。
なお、本明細書において「保持力の強いヘモグロビン類」とは、陽イオン交換カラムに対する保持力の強いヘモグロビンA0、ヘモグロビンA2、ヘモグロビンSを意味する。ヘモグロビンA0、ヘモグロビンA2、ヘモグロビンSの等電点は6.95〜7.45の範囲内であることが知られている。また、本明細書において「保持力の弱いヘモグロビン類」とは、陽イオン交換カラムに対する保持力の弱いヘモグロビン類を意味し、ヘモグロビンA1a、ヘモグロビンA1b、ヘモグロビンF、不安定型ヘモグロビンA1c、安定型ヘモグロビンA1c等が挙げられる。なお、保持力はヘモグロビンの立体構造によっても変化するため、イオン交換クロマトグラフィーにおいて、等電点と溶出順は必ずしも一致するとは限らない。
【0009】
本発明1のヘモグロビンSの分析方法、本発明2のヘモグロビンA2の分析方法、及び、本発明3のヘモグロビンA0の分析方法では、アジ化物又はシアン化物を含有する溶離液を用いる。
上記溶離液が上記アジ化物又は上記シアン化物を含有することにより、メトヘモグロビンを安定化させることができる。なお、一般的にヘモグロビン類の定量は415nm付近の吸光度により測定しているが、オキシヘモグロビンと、アジドメトヘモグロビン及びシアンメトヘモグロビンとの415nm付近の吸光度スペクトルにはほとんど差はなく、定量性に支障はないと考えられる。一方、溶離液中にアジ化物又はシアン化物が含まれていない場合、メトヘモグロビンとして存在し、陽イオン交換高速液体クロマトグラフィーでは溶出時間が大幅に遅くなることが知られている。また、外部環境による異なるが、吸光度の極大値が405nm付近となるため、415nmの波長では定量性に悪影響を及ぼすことがある。
【0010】
上記アジ化物としては、例えば、アジ化ナトリウム、ジフェニルリン酸アジド、4−ドデシルベンゼンスルフォニルアジド、4−アセチルアミノベンゼンスルフォニルアジド、アジ化カリウム、アジ化リチウム、アジ化鉄、アジ化水素、アジ化鉛、アジ化水銀、アジ化銅、アジ化銀等が挙げられる。
【0011】
上記シアン化物としては、例えば、シアン化カリウム、シアン化水素、シアン化ナトリウム、シアン化銀、シアン化水銀、シアン化銅、シアン化鉛、シアン化鉄、シアン化リチウム、シアン化アンモニウム等が挙げられる。
【0012】
本発明1のヘモグロビンSの分析方法、本発明2のヘモグロビンA2の分析方法、及び、本発明3のヘモグロビンA0の分析方法において、上記溶離液中の上記アジ化物又は上記シアン化物の濃度の下限は0.1mmol/L、上限は50mmol/Lである。上記アジ化物又は上記シアン化物の濃度が0.1mmol/L未満であると、メトヘモグロビンを安定化する効果が充分に得られない。上記アジ化物又は上記シアン化物の濃度が50mmol/Lを超えると、過度なメト化の進行やヘモグロビン類の分解が発生する。上記アジ化物又は上記シアン化物の濃度の好ましい下限は0.5mmol/L、好ましい上限は30mmol/L、より好ましい下限は1mmol/L、より好ましい上限は10mmol/Lである。
【0013】
本発明1のヘモグロビンSの分析方法を用いれば、保持力の強いヘモグロビンSであっても、対称性の高いシャープなピークで分離することができる。
【0014】
本発明1のヘモグロビンSの分析方法において、上記溶離液のpHの下限は6.80、上限は7.50である。上記溶離液のpHが6.80未満であると、HPLCを用いてヘモグロビンSを測定した際のピークのリーディングが大きくなったり、ピークがブロードになったり、二峰性を示したりする。上記溶離液のpHが7.50を超えると、陽イオン交換カラムとの保持が弱まり溶出時間が極端に早くなるほか、ピークのテーリングが大きくなったり、ピークがブロードになったり、二峰性を示したりする。本発明1のヘモグロビンSの分析方法において、上記溶離液のpHの好ましい下限は6.95、好ましい上限は7.45、より好ましい下限は7.00、より好ましい上限は7.40である。
【0015】
また、本発明2のヘモグロビンA2の分析方法を用いれば、保持力の強いヘモグロビンA2であっても、対称性の高いシャープなピークで分離することができる。
【0016】
本発明2のヘモグロビンA2の分析方法において、上記溶離液のpHの下限は6.45、上限は6.85である。上記溶離液のpHが6.45未満であると、HPLCを用いてヘモグロビンA2を測定した際のピークのリーディングが大きくなったり、ピークがブロードになったり、二峰性を示したりする。上記溶離液のpHが6.85を超えると、陽イオン交換カラムとの保持が弱まり溶出時間が極端に早くなるほか、ピークのテーリングが大きくなったり、ピークがブロードになったり、二峰性を示したりする。本発明2のヘモグロビンA2の分析方法において、上記溶離液のpHの好ましい下限は6.50、好ましい上限は6.80である。
【0017】
更に、本発明3のヘモグロビンA0の分析方法を用いれば、保持力の強いヘモグロビンA0であっても、対称性の高いシャープなピークで分離することができる。
【0018】
本発明3のヘモグロビンA0の分析方法において、上記溶離液のpHの下限は6.00、上限は6.75である。上記溶離液のpHが6.00未満であると、HPLCを用いてヘモグロビンA0を測定した際のピークのリーディングが大きくなったり、ピークがブロードになったり、二峰性を示したりする。上記溶離液のpHが6.75を超えると、陽イオン交換カラムとの保持が弱まり溶出時間が極端に早くなるほか、ピークのテーリングが大きくなったり、ピークがブロードになったり、二峰性を示したりする。本発明3のヘモグロビンA0の分析方法において、上記溶離液のpHの好ましい下限は6.20、好ましい上限は6.70、より好ましい下限は6.40、より好ましい上限は6.65である。
【0019】
本発明1のヘモグロビンSの分析方法、本発明2のヘモグロビンA2の分析方法、及び、本発明3のヘモグロビンA0の分析方法において、上記溶離液としては、上記アジ化物又は上記シアン化物の濃度、及び、pHが上述した範囲内であれば特に限定されず、例えば、有機酸及びその塩類、アミノ酸類、無機酸及びその塩類、グッドの緩衝剤等の緩衝剤を含有する公知の緩衝液を用いることができる。
上記有機酸としては、例えば、クエン酸、コハク酸、酒石酸、リンゴ酸等が挙げられる。
上記アミノ酸類としては、例えば、グリシン、タウリン、アルギニン等が挙げられる。
上記無機酸としては、例えば、塩酸、硝酸、硫酸、リン酸、ホウ酸、酢酸等が挙げられる。
また、上記緩衝液には、必要に応じて、界面活性剤、各種ポリマー、親水性の低分子化合物等を適宜添加してもよい。
【0020】
本発明1のヘモグロビンSの分析方法、本発明2のヘモグロビンA2の分析方法、及び、本発明3のヘモグロビンA0の分析方法において、上記溶離液の緩衝剤濃度は特に限定されないが、好ましい下限は5mmol/L、好ましい上限は500mmol/Lである。上記緩衝剤濃度が5mmol/L未満であると、緩衝作用が充分に得られないことがある。上記緩衝剤濃度が500mmol/Lを超えると、緩衝剤の析出が起こりHPLCの流路を詰まらせる原因となったり、溶離液の切り替え効率が低下して平衡化に時間がかかる原因となったりする。上記緩衝剤濃度のより好ましい下限は10mmol/L、より好ましい上限は200mmol/Lである。
【0021】
上記溶離液は、ヘモグロビン類のピーク溶出を最適化することを目的として、過塩素酸ナトリウム、塩化ナトリウム、塩化カリウム、硫酸ナトリウム、硫酸カリウム、リン酸ナトリウム、チオシアン酸ナトリウム等の無機塩類を含有してもよい。
【0022】
本発明1のヘモグロビンSの分析方法、本発明2のヘモグロビンA2の分析方法、及び、本発明3のヘモグロビンA0の分析方法において、上記溶離液中における塩の濃度は特に限定されないが、好ましい上限は500mmol/Lである。上記塩の濃度が500mmol/Lを超えると、塩が析出してシステムに悪影響を及ぼすことがある。上記塩の濃度のより好ましい上限は200mmol/Lである。
【0023】
上記溶離液は、pH調整剤として、公知の酸、塩基を含有してもよい。上記酸としては、例えば、塩酸、リン酸、硝酸、硫酸等が挙げられ、上記塩基としては、例えば、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、水酸化マグネシウム、水酸化バリウム、水酸化カルシウム等が挙げられる。
【0024】
上記溶離液は、メタノール、エタノール、アセトニトリル、アセトン等の水溶性有機溶媒を含有していてもよい。上記水溶性有機溶媒の濃度は、塩等が析出しない程度で用いることが好ましく、好ましい上限は80%(v/v)である。
【0025】
本発明1のヘモグロビンSの分析方法、本発明2のヘモグロビンA2の分析方法、及び、本発明3のヘモグロビンA0の分析方法において、保持力の強いヘモグロビンS、ヘモグロビンA2、及び、ヘモグロビンA0は上述した溶離液で分離するが、保持力の弱いヘモグロビン類は、上述した溶離液に先立って、上述した溶離液よりもpHの低い他の溶離液を用いて溶出してもよい。その場合、各溶離液は同一の成分を含む緩衝液を用いるものであることが好ましいが、溶離液を切り替える際の検出器出力のベースライン変動が測定値に悪影響を与えなければ、必ずしも同一の成分を含む緩衝液を用いるものに限定されない。
更に、ベースライン変動をより小さくするために、緩衝剤濃度も同一であるものを用いることがより好ましい。
【0026】
本発明1のヘモグロビンSの分析方法、本発明2のヘモグロビンA2の分析方法、及び、本発明3のヘモグロビンA0の分析方法では、陽イオン交換高速液体クロマトグラフィーを用いる。上記陽イオン交換高速液体クロマトグラフィーとしては、公知の方法を用いることができる。例えば、ポンプを用いて溶離液を送液し、デガッサーを通した後に陽イオン交換カラムに送り、陽イオン交換カラムに保持されたヘモグロビン類を分離させて、陽イオン交換カラムから溶出してきた移動相を検出する方法を用いることができる。
【0027】
本発明1のヘモグロビンSの分析方法、本発明2のヘモグロビンA2の分析方法、及び、本発明3のヘモグロビンA0の分析方法で用いる陽イオン交換カラムは、カラム本体に固定相が充填されたものである。固定相としては、充填剤粒子、多孔質体等が挙げられ、充填剤粒子が好ましい。
上記充填剤粒子としては、無機系粒子、有機系粒子等が挙げられる。
上記無機系粒子としては、シリカ、ジルコニア等で構成される粒子が挙げられる。
上記有機系粒子としては、セルロース、ポリアミノ酸、キトサン等の天然高分子粒子や、ポリスチレン、ポリアクリル酸エステル等の合成高分子粒子が挙げられる。
【0028】
上記固定相としては、陽イオン交換基を有する固定相を用いることが好ましい。
上記陽イオン交換基としては、カルボキシル基、リン酸基、スルホン酸基等が挙げられる。
【0029】
本発明1のヘモグロビンSの分析方法、本発明2のヘモグロビンA2の分析方法、及び、本発明3のヘモグロビンA0の分析方法における測定条件は、使用する測定試料、陽イオン交換カラム等の種類によって適宜選択できるが、上記溶離液の流速の好ましい下限は0.05mL/分、好ましい上限は5mL/分、より好ましい下限は0.2mL/分、より好ましい上限は3mL/分である。ヘモグロビン類の検出波長は415nmが好ましいが、特にこれのみに限定されるわけではない。測定試料は、通常、界面活性剤等の溶血活性を有する物質を含む溶液により溶血された溶血液を希釈したものを用いる。試料注入量は、血液検体の希釈倍率により異なるが、好ましくは0.1〜100μL程度である。
【発明の効果】
【0030】
本発明によれば、陽イオン交換高速液体クロマトグラフィーにおいて、保持力の強いヘモグロビンS、ヘモグロビンA2、及び、ヘモグロビンA0であっても対称性の高いシャープなピークで分離することができるヘモグロビンSの分析方法、ヘモグロビンA2の分析方法、及び、ヘモグロビンA0の分析方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】ヘモグロビンSの溶出時間が50秒となる溶離液のpHと過塩素酸ナトリウムの濃度との関係を示した図である。
【図2】0.5分を超え1.0分までの溶出に溶離液2を用いた(a)測定検体Aのクロマトグラム、(b)測定検体Bのクロマトグラム、及び、(c)測定検体Cのクロマトグラムである。
【図3】0.5分を超え1.0分までの溶出に溶離液3を用いた(a)測定検体Aのクロマトグラム、(b)測定検体Bのクロマトグラム、及び、(c)測定検体Cのクロマトグラムである。
【図4】0.5分を超え1.0分までの溶出に溶離液4を用いた(a)測定検体Aのクロマトグラム、(b)測定検体Bのクロマトグラム、及び、(c)測定検体Cのクロマトグラムである。
【図5】0.5分を超え1.0分までの溶出に溶離液5を用いた(a)測定検体Aのクロマトグラム、(b)測定検体Bのクロマトグラム、及び、(c)測定検体Cのクロマトグラムである。
【図6】0.5分を超え1.0分までの溶出に溶離液6を用いた(a)測定検体Aのクロマトグラム、(b)測定検体Bのクロマトグラム、及び、(c)測定検体Cのクロマトグラムである。
【図7】0.5分を超え1.0分までの溶出に溶離液7を用いた(a)測定検体Aのクロマトグラム、(b)測定検体Bのクロマトグラム、及び、(c)測定検体Cのクロマトグラムである。
【図8】0.5分を超え1.0分までの溶出に溶離液8を用いた(a)測定検体Aのクロマトグラム、(b)測定検体Bのクロマトグラム、及び、(c)測定検体Cのクロマトグラムである。
【図9】0.5分を超え1.0分までの溶出に溶離液9を用いた(a)測定検体Aのクロマトグラム、(b)測定検体Bのクロマトグラム、及び、(c)測定検体Cのクロマトグラムである。
【図10】0.5分を超え1.0分までの溶出に溶離液10を用いた(a)測定検体Aのクロマトグラム、(b)測定検体Bのクロマトグラム、及び、(c)測定検体Cのクロマトグラムである。
【図11】0.5分を超え1.0分までの溶出に溶離液11を用いた(a)測定検体Aのクロマトグラム、(b)測定検体Bのクロマトグラム、及び、(c)測定検体Cのクロマトグラムである。
【図12】0.5分を超え1.0分までの溶出に溶離液12を用いた(a)測定検体Aのクロマトグラム、(b)測定検体Bのクロマトグラム、及び、(c)測定検体Cのクロマトグラムである。
【図13】0.5分を超え1.0分までの溶出に溶離液13を用いた(a)測定検体Aのクロマトグラム、(b)測定検体Bのクロマトグラム、及び、(c)測定検体Cのクロマトグラムである。
【図14】測定検体Aにおける溶離液2〜13のpHとピーク2のシンメトリー係数との関係を示した図である。
【図15】溶離液2〜13のpHと、測定検体Aのピーク2と測定検体Bのピーク3との溶出時間差との関係を示した図である。
【図16】測定検体Aにおける溶離液2〜13のpHとピーク3の分離度との関係を示した図である。
【図17】測定検体Aにおける溶離液2〜13のpHと、ピーク1とピーク3との谷落ち高さとの関係を示した図である。
【図18】0.7分を超え1.1分までの溶出に溶離液16を用いた測定検体Dのクロマトグラムである。
【図19】0.7分を超え1.1分までの溶出に溶離液17を用いた測定検体Dのクロマトグラムである。
【図20】0.7分を超え1.1分までの溶出に溶離液18を用いた測定検体Dのクロマトグラムである。
【図21】0.7分を超え1.1分までの溶出に溶離液19を用いた測定検体Dのクロマトグラムである。
【図22】0.7分を超え1.1分までの溶出に溶離液20を用いた測定検体Dのクロマトグラムである。
【図23】0.7分を超え1.1分までの溶出に溶離液21を用いた測定検体Dのクロマトグラムである。
【図24】0.7分を超え1.1分までの溶出に溶離液22を用いた測定検体Dのクロマトグラムである。
【図25】測定検体Dにおける溶離液16〜22のpHとピーク4のシンメトリー係数との関係を示した図である。
【図26】0.6分を超え1.0分までの溶出に溶離液25を用いた測定検体Eのクロマトグラムである。
【図27】0.6分を超え1.0分までの溶出に溶離液26を用いた測定検体Eのクロマトグラムである。
【図28】0.6分を超え1.0分までの溶出に溶離液27を用いた測定検体Eのクロマトグラムである。
【図29】0.6分を超え1.0分までの溶出に溶離液28を用いた測定検体Eのクロマトグラムである。
【図30】0.6分を超え1.0分までの溶出に溶離液29を用いた測定検体Eのクロマトグラムである。
【図31】0.6分を超え1.0分までの溶出に溶離液30を用いた測定検体Eのクロマトグラムである。
【図32】0.6分を超え1.0分までの溶出に溶離液31を用いた測定検体Eのクロマトグラムである。
【図33】測定検体Eにおける溶離液25〜31のpHとピーク1のシンメトリー係数との関係を示した図である。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に実施例を掲げて本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されない。
【0033】
(実施例1)
測定検体には以下の3種を用いた。
ヘモグロビンSを含む血液を希釈液(0.1%トリトンX−100を含有するリン酸緩衝液(pH7.00))で100倍に希釈したものを測定検体Aとした。
AFSCコントロール(ヘレナ研究所社製)を(0.1%トリトンX−100を含有するリン酸緩衝液(pH7.00))で50倍に希釈したものを測定検体Bとした。
測定検体Aと測定検体Bとを1:1で混合したものを測定検体Cとした。
陽イオン交換カラムとして陽イオン交換樹脂充填品を用い、HPLC装置には、検出器としてSPD−M20A(島津製作所社製)、送液ポンプとしてLC−20AD(島津製作所社製)、デガッサーとしてDGU−20A5(島津製作所社製)、カラムオーブンとしてCTO−20AC(島津製作所社製)、オートサンプラーとしてSIL−20AC(島津製作所社製)を用い、流速を1.7mL/min、検出波長を415nm、試料注入量を10μLとして、0〜0.5分は溶離液1(60mmol/L過塩素酸ナトリウム、1mmol/Lアジ化ナトリウムを含む40mmol/Lリン酸緩衝液(pH5.35))にて溶出し、0.5分を超え1.0分までは表1に示した溶離液2にて溶出し、1.0分を超え1.1分までは溶離液14(0.8重量%トリトンX−100、300mmol/L過塩素酸ナトリウム、1mmol/Lアジ化ナトリウムを含む40mmol/Lリン酸緩衝液(pH8.00))にて溶出し、1.1分を超え1.5分までは溶離液1にて溶出して測定を行った。溶離液2では緩衝剤濃度を調整することで測定検体Aを測定した時にヘモグロビンSの溶出時間が約50秒となるよう設定した。
検出波長は415nmで行った。
【0034】
(実施例2〜5、及び、比較例1〜7)
0.5分を超え1.0分までの溶出に用いる溶離液として表1に示した溶離液3〜13を用いたこと以外は実施例1と同様にして測定検体A、B、及び、Cを測定した。溶離液3では緩衝剤濃度を調整することで測定検体Aを測定した時にヘモグロビンSの溶出時間が約50秒となるよう設定した。また、溶離液4〜13は、測定検体Aを測定した時にヘモグロビンSの溶出時間が50秒となるようにpHと塩濃度を調整した(図1)。
【0035】
<評価>
実施例1〜5、及び、比較例1〜7において、溶離液2〜13を送液している0.5分を超え1.0分までの領域を抜粋した測定検体A、B、及び、Cのクロマトグラムを図2〜13に示す。図2〜13において、ピーク1はヘモグロビンA0、ピーク2はオキシ状態のヘモグロビンS、ピーク3はアジドメトヘモグロビンSを示す。なお、一般的にヘモグロビンSを含む検体は測定検体Aと同様のクロマトグラムを示し、オキシ状態のヘモグロビンがリッチな状態である。測定検体Bはほとんどのヘモグロビンがメト化しているものであり、メトヘモグロビンがリッチな状態である。これは通常検体を極端に劣化させた場合と同様の状態である。測定検体Cはオキシ状態のヘモグロビンとメトヘモグロビンをそれぞれ同程度の比率で存在した状態であり、ピークの二峰性が生じやすい条件を設定するために用いた。
図2〜13より、溶離液2〜6を用いた場合、測定検体Aのピーク2がシャープとなるクロマトグラムが得られた。また、測定検体Cにおいては溶離液7〜11を用いた場合にピーク2、3からなる二峰性ピークが確認された。
【0036】
(ピーク形状)
測定検体Aにおけるピーク2のシンメトリー係数を算出した。シンメトリー係数は1に近いほどピーク形状が正規分布に近いことを示しており、ピーク形状の判断指標として用いた。通常、シンメトリー係数の算出にはピーク高さの5%位置のピーク幅を用いるが、本例ではピーク2の前にピーク1が隣接しているため、5%位置のピーク幅が算出できなかったことから、半値幅を用いて算出した。結果を表2に示した。また、測定検体Aにおける溶離液2〜13のpHとピーク2のシンメトリー係数との関係を図14に示した。図14より、pHがヘモグロビンの等電点付近の7に近づくほどシンメトリー係数が1に近づき、ピークの対称性が高まることが分かる。
更に、測定検体Aのピーク2と測定検体Bのピーク3との溶出時間差を算出した。測定検体Aのピーク2と測定検体Bのピーク3の溶出時間差はオキシ状態のヘモグロビンSとアジドメトヘモグロビンの溶出時間差を示しており、この差が小さいほど溶出時間が近づき単一ピークとなるため、シンメトリー係数と合わせてピーク形状の判断指標として用いた。結果を表2に示した。また、測定検体Aと測定検体Bの測定結果から算出した、溶離液2〜13のpHと、測定検体Aのピーク2と測定検体Bのピーク3との溶出時間差との関係を図15に示した。図15より、pH7付近でピーク2とピーク3の溶出時間が最も近づくことが分かる。
【0037】
(隣接ピーク間の分離程度)
測定検体Aにおけるピーク2の分離度を、JP(日本薬局方)法を用いて算出した。結果を表2に示した。また、測定検体Aにおける溶離液2〜13のpHとピーク2の分離度との関係を図16に示した。図16より、ヘモグロビンの等電点付近のpHが7に近づくほど分離度が向上しており、ピーク1とピーク2の分離が向上していることが確認された。
更に、測定検体Aにおけるピーク1とピーク2との谷落ち高さを算出した。測定検体Aにおけるピーク1とピーク2との谷落ち高さは隣接ピーク間の分離程度を示す指標として分離度と合わせて用いた。なお、ピーク1とピーク2との谷落ち高さとはピーク1とピーク2の間で最も高さが低い位置を示す。結果を表2に示した。また、測定検体Aにおける溶離液2〜13のpHとピーク1とピーク2との谷落ち高さとの関係を図17に示した。図17でもpHが7に近づくことで谷落ち高さが低下しており、ピーク1とピーク2の分離が向上していることが確認された。
【0038】
【表1】

【0039】
【表2】

【0040】
(比較例8)
ヘモグロビンA2凍結乾燥品(シグマ社製、「Hemoglobin A2, Ferrous Stabilized human lyophilized powder」)5mgに精製水100μLを加えて溶解させた後、5mLの希釈液(0.1%トリトンX−100を含有するリン酸緩衝液(pH7.00))で希釈したものを測定検体Dとした。
陽イオン交換カラムとして陽イオン交換樹脂充填品を用い、HPLC装置には、検出器としてSPD−M20A(島津製作所社製)、送液ポンプとしてLC−20AD(島津製作所社製)、デガッサーとしてDGU−20A5(島津製作所社製)、カラムオーブンとしてCTO−20AC(島津製作所社製)、オートサンプラーとしてSIL−20AC(島津製作所社製)を用い、流速を1.7mL/min、検出波長を415nm、試料注入量を10μLとして、0〜0.7分は溶離液1(60mmol/L過塩素酸ナトリウム、1mmol/Lアジ化ナトリウムを含む40mmol/Lリン酸緩衝液(pH5.35))にて溶出し、0.7分を超え1.1分までは表3に示した溶離液16にて溶出し、1.1分を超え1.2分までは溶離液14(0.8重量%トリトンX−100、300mmol/L過塩素酸ナトリウム、1mmol/Lアジ化ナトリウムを含む40mmol/Lリン酸緩衝液(pH8.00))にて溶出し、1.2分を超え1.5分までは溶離液1にて溶出して測定を行った。
【0041】
(実施例6、7、及び、比較例9〜12)
0.7分を超え1.1分までの溶出に用いる溶離液として表3に示した溶離液17〜22を用いたこと以外は比較例8と同様にして測定検体Dを測定した。
【0042】
<評価>
実施例6、7、及び、比較例8〜12において、溶離液16〜22を送液している0.7分を超え1.1分までの領域を抜粋した測定検体Dのクロマトグラムを図18〜24に示す。図18〜24において、ピーク4はヘモグロビンA2を示す。
図18〜24より、溶離液18及び溶離液19を用いた場合、測定検体Dのピーク4がシャープとなるクロマトグラムが得られた。また、溶離液16、17、20〜22を用いた場合、ピークのリーディングやテーリングが大きくなったり、ピークがブロードになったり、二峰化したりすることが確認された。
【0043】
(ピーク形状)
測定検体Dにおけるピーク4のシンメトリー係数を算出した。シンメトリー係数は1に近いほどピーク形状が正規分布に近いことを示しており、ピーク形状の判断指標として用いた。シンメトリー係数の算出にはピーク高さの5%位置のピーク幅を用いた。測定検体Dにおける溶離液16〜22のpHとピーク4のシンメトリー係数との関係を図25に示した。図25より、pHが高いほどシンメトリー係数が低下し、pH6.25〜6.70で1に近づくことが分かる。
【0044】
【表3】

【0045】
(比較例13)
グリコヘモグロビンコントロール レベルI(シスメックス社製)に精製水200μLを加えて溶解させた後、10mLの希釈液(0.1%トリトンX−100を含有するリン酸緩衝液(pH7.00))で希釈したものを測定検体Eとした。
陽イオン交換カラムとして陽イオン交換樹脂充填品を用い、HPLC装置には、検出器としてSPD−M20A(島津製作所社製)、送液ポンプとしてLC−20AD(島津製作所社製)、デガッサーとしてDGU−20A5(島津製作所社製)、カラムオーブンとしてCTO−20AC(島津製作所社製)、オートサンプラーとしてSIL−20AC(島津製作所社製)を用い、流速を1.7mL/min、検出波長を415nm、試料注入量を10μLとして、0〜0.6分は溶離液1(60mmol/L過塩素酸ナトリウム、1mmol/Lアジ化ナトリウムを含む40mmol/Lリン酸緩衝液(pH5.35))にて溶出し、0.6分を超え1.0分までは表4に示した溶離液25にて溶出し、1.0分を超え1.1分までは溶離液14(0.8重量%トリトンX−100、300mmol/L過塩素酸ナトリウム、1mmol/Lアジ化ナトリウムを含む40mmol/Lリン酸緩衝液(pH8.00))にて溶出し、1.1分を超え1.5分までは溶離液1にて溶出して測定を行った。
【0046】
(実施例8〜10、及び、比較例14〜16)
0.6分を超え1.0分までの溶出に用いる溶離液として表4に示した溶離液26〜31を用いたこと以外は比較例13と同様にして測定検体Eを測定した。
【0047】
<評価>
実施例8〜10、及び、比較例13〜16において、溶離液25〜31を送液している0.6分を超え1.0分までの領域を抜粋した測定検体Eのクロマトグラムを図26〜32に示す。図26〜32において、ピーク1はヘモグロビンA0を示す。
図26〜32より、溶離液28〜30を用いた場合、測定検体Eのピーク1がシャープとなるクロマトグラムが得られた。また、溶離液25〜27、31を用いた場合、ピークのリーディングやテーリングが大きくなったり、ピークがブロードになったり、二峰化したりすることが確認された。
【0048】
(ピーク形状)
測定検体Eにおけるピーク1のシンメトリー係数を算出した。シンメトリー係数は1に近いほどピーク形状が正規分布に近いことを示しており、ピーク形状の判断指標として用いた。シンメトリー係数の算出にはピーク高さの5%位置のピーク幅を用いた。測定検体Eにおける溶離液25〜31のpHとピーク1のシンメトリー係数との関係を図33に示した。図33より、pHが高いほどシンメトリー係数が低下し、pH6.60〜7.00で1に近づくことが分かる。
【0049】
【表4】

【産業上の利用可能性】
【0050】
本発明によれば、陽イオン交換高速液体クロマトグラフィーにおいて、保持力の強いヘモグロビンS、ヘモグロビンA2、及び、ヘモグロビンA0であっても対称性の高いシャープなピークで分離することができるヘモグロビンSの分析方法、ヘモグロビンA2の分析方法、及び、ヘモグロビンA0の分析方法を提供することができる。
【符号の説明】
【0051】
1 ヘモグロビンA0
2 オキシ状態のヘモグロビンS
3 アジドメトヘモグロビンS
4 ヘモグロビンA2

【特許請求の範囲】
【請求項1】
陽イオン交換高速液体クロマトグラフィーによるヘモグロビンA0の分析方法であって、
アジ化物又はシアン化物を0.1〜50mmol/L含有し、かつ、pHが6.00〜6.75である溶離液を用いることを特徴とするヘモグロビンA0の分析方法。
【請求項2】
溶離液の塩濃度が、500mmol/L以下であることを特徴とする請求項1記載のヘモグロビンA0の分析方法。
【請求項3】
溶離液の緩衝剤濃度が、5〜500mmol/Lであることを特徴とする請求項1又は2記載のヘモグロビンA0の分析方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【公開番号】特開2012−132934(P2012−132934A)
【公開日】平成24年7月12日(2012.7.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−73221(P2012−73221)
【出願日】平成24年3月28日(2012.3.28)
【分割の表示】特願2011−524076(P2011−524076)の分割
【原出願日】平成23年2月2日(2011.2.2)
【出願人】(390037327)積水メディカル株式会社 (111)
【Fターム(参考)】