説明

ヘモゾイン誘導による自然免疫を利用したマラリア感染症の検出・測定、マラリア感染症の予防又は治療薬のスクリーニング、及び該自然免疫誘導の調節

【課題】ヘモゾイン(HZ)の誘導を利用したマラリア感染症の検出・測定方法、該検出・測定法を用いたマラリア感染症のワクチン及びマラリア感染症の予防又は治療薬のスクリーニング方法、及び該HZ又は合成HZ或いはその誘導体をアジュバント或いは免疫賦活剤として用いる自然免疫誘導の調節手段を提供する。
【解決手段】HZの誘導による、TLR9を介し、MyD88に依存する自然免疫活性を検出・測定することにより、マラリア感染症の検出・測定を行なう。該マラリア感染症の検出・測定は、マラリア感染症の診断のために用いることができる。また、該検出・測定方法を用いて、マラリア感染症のワクチン或いはマラリア感染症の予防又は治療薬のスクリーニングを行う。更に、HZ又は合成HZ或いはその誘導体をアジュバント或いは免疫賦活剤として用いて、HZの誘導による自然免疫誘導の調節を行う。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、マラリア原虫のヘモグロビン代謝産物である疎水性ヘムポリマーのヘモゾインの誘導による、TLR9を介し、MyD88に依存する自然免疫活性を検出・測定することによるマラリア感染症の検出・測定方法、該検出・測定法を用いたマラリア感染症のワクチン又はマラリア感染症の予防或いは治療薬のスクリーニング、及び該ヘモゾイン或いは合成ヘモゾインをアジュバント或いは免疫賦活剤として用いる自然免疫誘導の調節、ヘモゾイン、合成ヘモゾイン又はそれらの誘導体を有効成分として含有するTLR9作動剤等に関する。
【背景技術】
【0002】
マラリア感染は、特に世界の熱帯地域における、ヒトの疾病や死亡の主要な原因である。マラリアの効果的な免疫治療が必要であるにも関わらず、ライフサイクルの複雑さ及び多型性の早さ(rapid polymorphism)が原因で、宿主−原虫の相互作用及びそれによるマラリア原虫に対する自然免疫応答は、ほとんど理解されていない(Nat. Med. 4: 520-524, 1998; Nat. Rev. Immunol. 4: 169-180, 2004)。マラリア原虫に応答した炎症誘発性サイトカイン(proinflammatory cytokine)の産出を含む、強い自然免疫活性及び/又は感染し破壊した赤血球から放出された代謝物が、高熱等の主要な症状を導くとされていた(Ann. Trop. Med. Parasitol. 91: 533-542, 1997)。最近の論証は、トール様受容体(TLR)がPlasmodiumを含む様々な病原体に対する自然免疫応答に関与していることを示唆している(Annu. Rev. Immunol. 20: 197-216, 2002; Nat. Rev. Immunol. 4: 499-511, 2004)。
【0003】
マウスにおけるマラリア感染では、TLRを介したサイトカイン産出に必須のアダプター分子である骨髄分化因子88(MyD88)が、肝臓障害を引き起こすPlasmodium berghei原虫によるIL−12誘導に重要であることが示されている(J. Immunol. 167: 5928-5934, 2001)。最近の研究は、P. falciparum blood-stage原虫が、MyD88依存性及びTLR9依存性経路を通じて、ヒトplasmacytoid樹状細胞(DC)及びマウスDCを活性化することを報告しているが、それに起因する分子はまだ同定されていないものの、シゾント溶解物に含まれるタンパク質あるいはその複合体であることが示唆されている(J. Immunol. 172: 4926-4933, 2004)。
【0004】
マラリア色素として知られるヘモゾイン(Hemozoin:HZ)は、Plasmodium 原虫の食胞(food vacuoles)に存在するヘム分子の解毒産物である(Int. J. Parasitol. 32: 1645-1653, 2002; Ann. Trop. Med. Parasitol. 91: 501-516, 1997)。細胞間のHZは、シゾントの破壊中に血液に放出され、骨髄細胞に貧食され、細網内皮系内のHZの集中を導く(Ann. Trop. Med. Parasitol. 91: 501-516, 1997)。すなわち、赤血球内のマラリア原虫は、宿主ヘモグロビンを、HZとして知られる疎水性ヘムポリマー(hydorophobic hemepolymer)へと消化し、かかるポリマーはその後血流に放出され、細網内皮系で捕獲され、そこに蓄積する。P. falciparumから生成されたHZは、マクロファージを活性化し、炎症誘発性サイトカイン、ケモカイン、窒素を産出し、ヒト骨髄樹状細胞(DC)の成熟を亢進することが報告されている(J. Inflamm. 45: 85-96, 1995; Infect. Immun. 70: 3939-3943, 2002)。これらの研究は、HZが自然免疫を活性化する分子秩序を研究し、マラリア原虫−宿主間の相互作用の理解を深める必要性を促している。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Nat. Med. 4: 520-524, 1998。
【非特許文献2】Nat. Rev. Immunol. 4: 169-180, 2004。
【非特許文献3】Ann. Trop. Med. Parasitol. 91: 533-542, 1997。
【非特許文献4】Annu. Rev. Immunol. 20: 197-216, 2002。
【非特許文献5】Nat. Rev. Immunol. 4: 499-511, 2004。
【非特許文献6】J. Immunol. 167: 5928-5934, 2001。
【非特許文献7】J. Immunol. 172: 4926-4933, 2004。
【非特許文献8】Int. J. Parasitol. 32: 1645-1653, 2002。
【非特許文献9】Ann. Trop. Med. Parasitol. 91: 501-516, 1997。
【非特許文献11】J. Inflamm. 45: 85-96, 1995。
【非特許文献12】Infect. Immun. 70: 3939-3943, 2002。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、マラリア感染における宿主とマラリア原虫の相互作用を解明し、該知見により、マラリア感染症の診断のための、マラリア原虫のヘモグロビン代謝産物である疎水性ヘムポリマーのヘモゾイン(Hemozoin:HZ)の誘導を利用したマラリア感染症の検出・測定方法、該検出・測定法を用いたマラリア感染症のワクチン及びマラリア感染症の予防又は治療薬のスクリーニング方法、及び該HZ又は合成HZ或いはその誘導体をアジュバント或いは免疫賦活剤として用いる自然免疫誘導の調節手段等を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
赤血球内のマラリア原虫は、宿主ヘモグロビンを、ヘモゾイン(HZ)として知られる疎水性ヘムポリマー(hydrophobic heme polymer)に消化し、かかるポリマーはその後血流に放出され、細網内皮系で捕獲され、そこに蓄積される。本発明者は、マラリア原虫−宿主間の相互作用について、HZが自然免疫を活性化する免疫反応のメカニズムを分子レベルで解明すべく研究する中で、ヒト熱帯熱マラリア原虫の該ヘム代謝産物であるHZが自然免疫の受容体であるToll様受容体9(TLR9)を強く刺激する新規のリガンドであることを見い出した。すなわち、 P. falciparumから精製したHZが、インビトロ、インビボの両方でTLR9を介し、MyD88に依存するマウス免疫細胞を活性化することを見い出した。そして、この活性化は、公知の抗マラリア薬であるクロロキンにより阻害されることを確認した。
【0008】
そして、これらの知見に基いて本発明者は、該HZの誘導による、TLR9を介し、MyD88に依存する自然免疫活性を検出・測定することにより、マラリア感染症の検出・測定を行なうことが可能であり、該マラリア感染症の検出・測定をマラリア感染症の診断のために用いることが可能であることを見い出し、本発明を完成するに至った。また、該HZの誘導による自然免疫活性の検出・測定によるマラリア感染症の検出・測定方法を用いて、マラリア感染症のワクチン或いはマラリア感染症の予防又は治療薬のスクリーニングを行うことが可能であることを見い出し、本発明をなした。更に、上記知見に基いて、HZ又は合成HZ或いはその誘導体をアジュバント或いは免疫賦活剤として用いて、HZの誘導によるTLR9を介し、MyD88に依存する自然免疫誘導の調節を行うことが可能であることを見い出した。すなわち、ヘモゾインが、TLR9−MyD88依存経路を経由して、Th1を誘導する選択的な免疫応答制御・活性化効果を持つリガンドであり、他のTLRファミリーや非MyD88依存経路であるTRIF依存経路を活性化しないことを初めて実証した。本発明は以上の知見により完成するに至ったものである。
【0009】
すなわち本発明は、(1)マラリア原虫のヘモグロビン代謝産物である疎水性ヘムポリマーのヘモゾイン誘導による、TLR9を介し、MyD88に依存する自然免疫活性を検出・測定することを特徴とするマラリア感染症の検出・測定方法や、(2)ヘモゾイン誘導による、TLR9を介し、MyD88に依存する自然免疫活性の検出・測定が、ヘモゾインによる、TLR9を介し、MyD88に依存する免疫細胞の活性化であることを特徴とする前記(1)記載のマラリア感染症の検出・測定方法や、(3)ヘモゾイン誘導による、TLR9を介し、MyD88に依存する免疫細胞の活性化の検出・測定が、ヘモゾインの誘導による免疫細胞のサイトカインの産生の検出・測定であることを特徴とする前記(2)記載のマラリア感染症の検出・測定方法や、(4)ヘモゾインの誘導による免疫細胞のサイトカインの産生の検出・測定が、TNF−α、IL−12p40、MCP−1、IL−6、及びIFNαのいずれか1以上のサイトカインの産生の検出・測定であることを特徴とする前記(3)記載のマラリア感染症の検出・測定方法や、(5)TLR9を介し、MyD88に依存する免疫細胞の活性化が、TLR9を介し、MyD88に依存する脾臓細胞又は樹状細胞の活性化であることを特徴とする前記(2)〜(4)のいずれか記載のマラリア感染症の検出・測定方法や、(6)前記(1)〜(5)のいずれか記載のマラリア感染症の検出・測定方法を、被検ワクチンの評価方法として用いることを特徴とするマラリア感染症のワクチンのスクリーニング又は品質検査方法や、(7)被検物質の存在下、マラリア原虫のヘモグロビン代謝産物である疎水性ヘムポリマーのヘモゾイン又は合成ヘモゾイン或いはその誘導体の誘導による、TLR9を介し、MyD88に依存する自然免疫活性を検出・測定することを特徴とするマラリア感染症の予防又は治療薬のスクリーニング方法や、(8)TLR9を介し、MyD88に依存する自然免疫活性を検出・測定する方法が、前記(2)〜(5)のいずれか記載のTLR9を介し、MyD88に依存する自然免疫活性の測定方法であることを特徴とするマラリア感染症の予防又は治療薬のスクリーニング方法に関する。
【0010】
また本発明は、(9)マラリア原虫のヘモグロビン代謝産物である疎水性ヘムポリマーのヘモゾイン又は合成ヘモゾイン或いはその誘導体からなる、TLR9を介し、MyD88に依存する自然免疫誘導調節用アジュバントや、(10)マラリア原虫のヘモグロビン代謝産物である疎水性ヘムポリマーのヘモゾイン又は合成ヘモゾイン或いはその誘導体を活性成分とする、TLR9を介し、MyD88に依存する自然免疫誘導用免疫賦活剤からなる。
【0011】
また本発明は、(11)MyD88+/+及びTLR9+/+の非ヒト動物に、被検物質とヘモゾイン、合成ヘモゾイン、又はそれらの誘導体を投与した場合におけるサイトカインの産生量と、MyD88−/−及び/又はTLR9−/−の非ヒト動物に被検物質とヘモゾイン、合成ヘモゾイン、又はそれらの誘導体を投与した場合におけるサイトカインの産生量とを測定・評価することを特徴とするマラリア感染症の予防又は治療薬のスクリーニング方法や、(12)非ヒト動物におけるサイトカインの産生量を、非ヒト動物における血清サイトカインの量としてELISAにより測定することを特徴とする前記(11)に記載のマラリア感染症の予防又は治療薬のスクリーニング方法や、(13)非ヒト動物が、マウスであることを特徴とする前記(11)又は(12)に記載のスクリーニング方法や、(14)MyD88+/+及びTLR9+/+の遺伝子が発現している細胞に、被検物質とヘモゾイン、合成ヘモゾイン、又はそれらの誘導体を投与した場合の細胞におけるサイトカインの産生量と、MyD88−/−及び/又はTLR9−/−の遺伝子が発現している細胞に被検物質とヘモゾイン、合成ヘモゾイン、又はそれらの誘導体を投与した場合の細胞におけるサイトカインの産生量とを比較・評価することを特徴とするマラリア感染症の予防又は治療薬のスクリーニング方法や、(15)細胞が、脾臓細胞又は樹状細胞であることを特徴とする前記(14)に記載のマラリア感染症の予防又は治療薬のスクリーニング方法や、(16)細胞におけるサイトカインの産生量を、細胞の培養上澄中のサイトカインの量としてELISAにより測定することを特徴とする前記(14)又は(15)に記載のマラリア感染症の予防又は治療薬のスクリーニング方法や、(17)サイトカインの産生量の測定が、TNF−α、IL−12p40、MCP−1、IL−6、及びIFNαのいずれか1以上のサイトカインの産生量の測定であることを特徴とする前記(11)〜(16)のいずれかに記載のマラリア感染症の予防又は治療薬のスクリーニング方法に関する。
【0012】
また本発明は、(18)ヘモゾイン、合成ヘモゾイン、又はそれらの誘導体からなるリガンドに対する、以下の(a)又は(b)に記載のタンパク質の受容体としての使用方法や、(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質;(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつヘモゾイン、合成ヘモゾイン、又はそれらの誘導体に対して反応性を有するタンパク質;(19)タンパク質が、配列番号1に示される塩基配列又はその相補的配列を含むDNAにコードされることを特徴とする前記(18)に記載の使用方法や、(20)タンパク質が、配列番号1に示される塩基配列又はその相補的配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAにコードされることを特徴とする前記(18)記載の使用方法や、(21)以下の(a)又は(b)に記載の受容体タンパク質に対する、ヘモゾイン、合成ヘモゾイン、又はそれらの誘導体のリガンドとしての使用方法や、(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質;(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつヘモゾイン、合成ヘモゾイン、又はそれらの誘導体に対して反応性を有するタンパク質;(22)タンパク質が、配列番号1に示される塩基配列又はその相補的配列を含むDNAにコードされることを特徴とする前記(21)に記載の使用方法や、(23)タンパク質が、配列番号1に示される塩基配列又はその相補的配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAにコードされ、かつヘモゾインに対して反応性を有するタンパク質であることを特徴とする前記(21)記載の使用方法に関する。
【0013】
また本発明は、(24)ヘモゾイン、合成ヘモゾイン又はそれらの誘導体を有効成分として含有することを特徴とするTLR9作動剤や、(25)MyD88を活性化することを特徴とする前記(24)記載のTLR9作動剤や、(26)TLR−MyD88依存経路による免疫応答を誘導することを特徴とする前記(25)記載のTLR9作動剤や、(27)TLR−MyD88依存経路による免疫応答が、TNF−α、IL−12p40、MCP−1、IL−6、及びIFNαのいずれか1以上のサイトカインの産生であることを特徴とする前記(26)記載のTLR9作動剤や、(28)TLR9を選択的に活性化することを特徴とする前記(24)〜(27)のいずれか記載のTLR9作動剤や、(29)TLR2、TLR4、TLR7、TRIFを活性化しないことを特徴とする前記(28)記載のTLR9作動剤や、(30)自然免疫制御剤として用いられることを特徴とする前記(24)〜(29)のいずれか記載のTLR9作動剤に関する。
【0014】
また本発明は、(31)ヘモゾイン、合成ヘモゾイン又はそれらの誘導体をTLR9のリガンドとして使用する方法や、(32)TLR9−MyD88依存経路による免疫応答を誘導させる方法を含むことを特徴とする前記(31)記載の使用する方法や、(33)TLR−MyD88依存経路による免疫応答が、TNF−α、IL−12p40、MCP−1、IL−6、及びIFNαのいずれか1以上のサイトカインの産生であることを特徴とする前記(32)記載の使用する方法や、(34)自然免疫の制御方法を含むことを特徴とする前記(31)〜(33)のいずれか記載の使用する方法に関する。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明の実施例において、P. falciparum由来の精製HZが、マウス免疫システムを活性化するかどうかを調べるために、脾臓細胞及びDC(ヒト骨髄樹状細胞)を、インビトロで精製HZで刺激し、培養上澄み中の炎症誘導性サイトカインの産出をELISAによって測定した結果を示す図である。
【図2】本発明の実施例において、HZ誘導性の自然免疫の活性化が、MyD88にのみ依存的であることを確認するために、MyD88非依存性経路に必須のアダプター分子であるTRIF(Toll/IL−1レセプター(TIR)領域含有アダプター)が欠損しているマウスを用い、TNFα又はIL−12p40の産生量をELISAで分析し、定量した結果を示す図である。
【図3】本発明の実施例において、HZ誘導性の自然免疫活性化が障害されているか、又は変更されているかを調べるために脾臓細胞及びDCを用いて、CD40及びCD88の発現をフローサイトメトリーで分析した結果(b)、FL−DCによるIFNαの産生を、ELISAで分析した結果(c)を示す図である。
【図4】本発明の実施例において、合成HZがTLR9依存形式で、自然免疫システムを活性化しているかどうか調べるために、野生型マウス又はTLR9−/−マウスに、合成HZを注入し、血清内のIL−6及びMCP−1産生量をELISAで測定した結果を示す図である。
【図5】本発明の実施例において、P. falciparumの培養物中、又はP. falciparum培養物からHZ調製中に混入物が入る可能性を排除するために、HZの精製度を定量するための分析を行った結果を示す図である。(a)は、DNAの混入を検出するために、HZをアガロースゲル上に移し、臭化ブロマイドで染色した結果を、(b)は、C57/B6マウスのFL−DCを、HZ又はDNase処理、熱失活、及び/又はCQ(10μM)でインキュベートした後、ELISAでTNFα又はIL−12p40を測定した結果を示す。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、マラリア原虫のヘモグロビン代謝産物である疎水性ヘムポリマーのHZ誘導による、TLR9を介し、MyD88に依存する自然免疫活性を検出・測定することによりマラリア感染症の検出・測定を行う方法よりなるものである。本発明において、HZ誘導による自然免疫活性の検出・測定には、脾臓細胞又は樹状細胞のような免疫細胞のHZによる、TLR9を介し、MyD88に依存する活性化の状況を検出・測定することにより行うことができる。該HZによる、TLR9を介し、MyD88に依存する活性化の検出・測定は、HZの誘導による免疫細胞のサイトカインの産生を検出・測定することにより行うことができる。該サイトカインの産生の検出・測定としては、TNF−α、IL−12p40、MCP−1、IL−6、及びIFNαのいずれか1以上のサイトカインの産生の検出・測定により行うことができる。該サイトカインの産生の検出・測定には、サイトカインELISA法のような公知のサイトカインの検出・測定法を用いることができる。本発明のマラリア感染症の検出・測定方法により、マラリア感染症の診断を行うことが可能である。
【0017】
また本発明は、本発明のHZ誘導によるマラリア感染症の検出・測定方法を、被検ワクチンの評価方法として用い、マラリア感染症のワクチンのスクリーニング方法又は検査方法として用いることからなる。該ワクチンのスクリーニング又は検査方法は、ワクチンの開発或いは開発したワクチンの製造に際しての検査等における被検ワクチンの評価方法として用いることができる。更に、本発明は、本発明のマラリア感染症の検出・測定方法を、マラリア感染症の予防又は治療薬のスクリーニング方法として用いることよりなる。該スクリーニング方法は、被検物質の存在下、HZ又は合成HZ或いはその誘導体の誘導による、TLR9を介し、MyD88に依存する自然免疫活性を検出・測定する本発明の方法により行うことができる。
【0018】
また、本発明は、本発明においてTLR9の新規リガンドとして見い出されたHZ又は合成HZ或いはその誘導体を、自然免疫誘導調節用アジュバントとして、或いは自然免疫誘導用免疫賦活剤として用いることよりなる。HZ又は合成HZ或いはその誘導体を自然免疫誘導調節用アジュバント或いは自然免疫誘導用免疫賦活剤として用いることにより、TLR9を介し、MyD88に依存する自然免疫誘導の調節を行うことができる。本発明において、HZは(不溶性クリスタロイド構造)は、P. falciparum (3D7株)で感染した赤血球から精製する方法で調製することができる(Infect. Immun. 70: 3939-3943, 2002; Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A 93: 11865-11870, 1996; Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A 88: 325-329, 1991)。また、合成HZ(βヘマチン)は、酢酸処理及びアルカリ炭酸水素塩洗浄に基づくJaramillo et al.のプロトコール(J. Immunol. 172:3101-3110)を用いて精製し、製造することができる。自然免疫誘導調節用アジュバント或いは自然免疫誘導用免疫賦活剤の利用は、いずれも公知の利用形態にしたがって行うことができる。
【0019】
また本発明は、野生型マウス等のMyD88+/+及びTLR9+/+の非ヒト動物に、被検物質とヘモゾイン、合成ヘモゾイン、又はそれらの誘導体を投与した場合におけるサイトカインの産生量と、MyD88−/−及び/又はTLR9−/−の非ヒト動物に被検物質とヘモゾイン、合成ヘモゾイン、又はそれらの誘導体を投与した場合におけるサイトカインの産生量とを測定・評価するマラリア感染症の予防又は治療薬のスクリーニング方法や、MyD88+/+及びTLR9+/+の遺伝子が発現している脾臓細胞、樹状細胞等の細胞に、被検物質とヘモゾイン、合成ヘモゾイン、又はそれらの誘導体を投与した場合の細胞におけるサイトカインの産生量と、MyD88−/−及び/又はTLR9−/−の遺伝子が発現している細胞に被検物質とヘモゾイン、合成ヘモゾイン、又はそれらの誘導体を投与した場合の細胞におけるサイトカインの産生量とを比較・評価するマラリア感染症の予防又は治療薬のスクリーニング方法に関し、上記サイトカインとしては、TNF−α、IL−12p40、MCP−1、IL−6、IFNα等を例示することができ、また、上記非ヒト動物におけるサイトカインの産生量は、非ヒト動物における血清サイトカインの量としてELISAにより測定することができ、細胞におけるサイトカインの産生量は、細胞の培養上澄中のサイトカインの量としてELISAにより測定することができる。そして、MyD88−/−マウスやMyD88−/−の遺伝子が発現している細胞はWO00/41561号公報に記載の方法により、TLR9−/−マウスやTLR9−/−の遺伝子が発現している細胞は特開2002−34565号公報に記載の方法により調製することができる。
【0020】
また本発明は、ヘモゾイン、合成ヘモゾイン、又はそれらの誘導体からなるリガンドに対する、(a)配列番号2に示されるアミノ酸配列からなるタンパク質;又は(b)配列番号2に示されるアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつヘモゾイン、合成ヘモゾイン、又はそれらの誘導体に対して反応性を有するタンパク質;の受容体としての使用方法に関する。上記タンパク質としては、配列番号1に示される塩基配列又はその相補的配列を含むDNAにコードされるタンパク質;配列番号1に示される塩基配列又はその相補的配列を含むDNAとストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAにコードされ、かつヘモゾイン、合成ヘモゾイン、又はそれらの誘導体に対して反応性を有するタンパク質;を用いることができる。ここで、ストリジェントな条件下とは、いわゆる特異的なハイブリッドが形成され、非特異的なハイブリッドが形成されない条件をいい、具体的には、50〜70%以上の相同性を有するDNA同士がハイブリダイズし、それより相同性が低いDNA同士がハイブリダイズしない条件あるいは通常のサザンハイブリダイゼーションの洗いの条件である65℃、1×SSC、0.1%SDS、又は0.1×SSC、0.1%SDSに相当する塩濃度でハイブリダイズする条件を挙げることができる。
【0021】
上記本発明の使用方法の具体的態様としては、ヘモゾイン、合成ヘモゾイン、又はそれらの誘導体誘導による、TLR9を介し、MyD88に依存する自然免疫活性を検出・測定するマラリア感染症の検出・測定方法や、マラリア感染症のワクチンのスクリーニング又は品質検査方法や、ヘモゾイン又は合成ヘモゾイン或いはその誘導体の誘導による、TLR9を介し、MyD88に依存する自然免疫活性を検出・測定するマラリア感染症の予防又は治療薬のスクリーニング方法や、MyD88+/+及びTLR9+/+の非ヒト動物に、被検物質とヘモゾイン、合成ヘモゾイン、又はそれらの誘導体を投与した場合におけるサイトカインの産生量と、MyD88−/−及び/又はTLR9−/−の非ヒト動物に被検物質とヘモゾイン、合成ヘモゾイン、又はそれらの誘導体を投与した場合におけるサイトカインの産生量とを測定・評価することを特徴とするマラリア感染症の予防又は治療薬のスクリーニング方法や、MyD88+/+及びTLR9+/+の遺伝子が発現している細胞に、被検物質とヘモゾイン、合成ヘモゾイン、又はそれらの誘導体を投与した場合の細胞におけるサイトカインの産生量と、MyD88−/−及び/又はTLR9−/−の遺伝子が発現している細胞に被検物質とヘモゾイン、合成ヘモゾイン、又はそれらの誘導体を投与した場合の細胞におけるサイトカインの産生量とを比較・評価することを特徴とするマラリア感染症の予防又は治療薬のスクリーニング方法や、TLR9−MyD88依存経路による免疫応答誘導のメカニズムを解明する方法等を挙げることができる。
【0022】
また本発明は、ヘモゾイン、合成ヘモゾイン又はそれらの誘導体を有効成分として含有する、TLR9と相互作用して全活性の細胞内シグナル伝達を引き起こす物質であるTLR9作動剤(アゴニスト)に関し、かかるTLR9作動剤は、MyD88を活性化することや、TNF−α、IL−12p40、MCP−1、IL−6、及びIFNαのいずれか1以上のサイトカインの産生等を伴うTLR−MyD88依存経路による免疫応答を誘導することや、TLR2、TLR4、TLR7、TRIFを活性化することなく、TLR9を選択的に活性化することが可能で、自然免疫制御剤として用いることができる。
【0023】
さらに本発明は、ヘモゾイン、合成ヘモゾイン又はそれらの誘導体をTLR9のリガンドとして使用する方法に関し、かかる方法は、TNF−α、IL−12p40、MCP−1、IL−6、及びIFNαのいずれか1以上のサイトカインの産生等を伴うTLR9−MyD88依存経路による免疫応答を誘導させる方法や、自然免疫の制御方法を含み、その具体的態様としては、前記の本発明の使用方法の具体的態様として例示した方法を挙げることができる。
【0024】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明の技術的範囲はこれらの例示に限定されるものではない。
【実施例1】
【0025】
『HZの自然免疫活性の活性化とその調節』
[材料及び方法]
(マウス)
変異マウス(MyD88−、TRIF−、TLR2−、TLR4−、TLR7−、TLR9欠損マウス)を、129/Ola×C57/BL6又はC57/BL6をバックグランドとし、文献(Immunity 9: 143-150, 1999; Immunity 11: 443-451, 1999; Nature 408: 740-745, 2000; Nat. Immunol. 3: 196-200, 2002; Science 301: 640-643, 2003)記載の通りに産出した。同年齢の野生型マウスと変異マウスを実験に使用した。インビボの研究には、P. falciparum培養物から精製したHZ1500μgと合成HZ(βヘマチン)とを、野生型マウス、MyD88−/−マウス又はTLR9−/−マウスの腹腔内に注入した(J. Immunol. 172: 3101-3110, 2004)。サイトカインELISA用に、1、2、4及び6時間後に尾から血清を収集した。
【0026】
(試薬)
合成CpGオリゴデオキシヌクレオチド(ODN)D35は、北海道システムサイエンス株式会社より購入、合成した。Salmonella minnesota Re-595由来リポポリサッカリド(LPS)、塩化ヘミン(hemin chloride)及びクロロキン(CQ)はSigma-Aldrichより購入した。DNase (Dnase- I) はInvitrogenから購入した。
【0027】
(HZ及び合成HZ(βヘマチン)の調製)
HZ(不溶性クリスタロイド構造)は、P. falciparum(3D7株)で感染した赤血球から精製した(Infect. Immun. 70: 3939-3943, 2002; Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A 93: 11865-11870, 1996; Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A 88: 325-329, 1991)。要約すると、赤血球をサポニンで溶解した後、原虫を超音波処理し、2%のドデシル硫酸ナトリウム(SDS)で7〜8回洗浄した。次に、ペレットをプロテイナーゼK(2mg/ml)と共に、37℃で一晩インキュベートした。ペレットはその後、2%のSDS内で3回洗浄し、6Mの尿素内で室温で3時間、シェーカー上でインキュベートした。HZペレットを2%のSDSで洗浄した後、蒸留水で3〜5回洗浄し、蒸留水に再懸濁し、使用前に再び超音波処理した。いくつかの実験において、文献(J. Immunol. 167: 2602-2607, 2001)記載の通りに、HZは、95℃で15分間の熱失活を行うか又は、100U/mlのDNase-Iで1時間処理を行った。DNase-I処理は、P.falciparumの粗抽出物から完全にゲノムDNAを除去することによって行った(図5a)。
【0028】
核酸、タンパク質の定量化は、分光光度計を使用するか、又はアガロースゲル内の臭化エチジウム染色法、BCA法(Biorad) 若しくはピロガロールレッド方法(和光純薬工業)によって行った。全脂質(TP)は、Bligh-Dyer 法(東レリサーチセンター)によるTLC(薄層クロマトグラフィー)又はIatron LQ(三菱化学ヤトロン)を使用した酵素方法によって測定した。合成HZ(βヘマチン)は、酢酸処理及びアルカリ炭酸水素塩洗浄に基づくJaramillo et al.のプロトコール(J. Immunol. 172:3101-3110)を用いて精製した。エンドトキシンの混入を避けるために、全ての溶液はエンドトキシンを含まないPBS又は蒸留水を用いて調製した。LAL分析(Bio-Whittaker)により測定したエンドトキシンの量は、使用したHZ1nmole当たり0.001EU未満であった。
【0029】
(HZ又は合成HZ(bヘマチン)の定量化)
HZ又は合成HZの濃度は、ヘムポリマーを、20mM水酸化ナトリウム/2%SDSの溶液内で、室温で、2時間脱重合して定量し、O.D.は400nmであった(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A 93: 11865-11870, 1996)。ヘムのモラー吸光係数は400nmで1×105であり、25μgのP. falciparum HZは、ヘム含有量29nmoleと同等である。
【0030】
(細胞)
脾臓細胞の単一細胞懸濁液(single cell suspension)(5×10細胞/ウェル)を、10%のFCSを添加した完全RPMI 1640培地内で48時間培養した。Flt3リガンド誘導骨髄由来DC(FL−DC)(1×10細胞/ウェル)は、骨髄細胞とFlt3リガンド(100ng/ml;Pepro Tech 社製)とを、10%のFCSを含むDMEM培地内で8〜9日間培養して産出した。細胞を、指定の刺激によって刺激し、サイトカインELISA用に、上澄みを回収した。
【0031】
(サイトカインELISA)
マウスのTNF−α、IL−12p40、MCP−1、IL−6(R & D Systems)及びIFNα(PBL Bio. Lab 社製)を、上澄み又は血清のいずれかで、製造者の指示に従ってELISAで測定した。
【0032】
(共刺激による分子発現のフローサイトメトリー分析)
刺激した細胞の細胞表面の分子発現を、文献(J. Exp. Med. 196: 269-274, 2002)記載の通り測定した。要約すると、刺激した細胞を、冷却したPBS内で洗浄し、固定し、抗CD16抗体の存在下で、FITC標識抗体、PE標識抗体、Cy−Chrome標識抗体及びAPC標識抗体で、室温で30分染色した。染色した細胞を洗浄し、PBS/0.1%BSA/0.1%NaN3内に再懸濁し、FACSCalliberで分析した後、CellQuest software(BD社製)で分析した。全ての抗体は、BDより入手した。
【0033】
(統計的分析)
統計的な有意差は、Student’s t-testを用いて分析した。P<0.05は有意とみなした。
【0034】
[試験、結果及び評価]
(P. falciparum由来の精製HZの、MyD88依存性経路を通してのマウスの脾臓細胞及び樹状細胞の活性化)
P. falciparum由来の精製HZが、マウス免疫システムを活性化するかどうかを調べるために、脾臓細胞及びDC(マウス骨髄樹状細胞)を、インビトロで精製HZで刺激し、培養上澄み中の炎症誘導性サイトカインの産出をELISAによって測定した。FL−DC(Fit3リガンド誘導骨髄由来DC)は、HZに応答して、TNFα、IL−12p40、単球走化性因子−1(MCP−1)及びIL−6を、用量依存的に大量に産出し、その量はCpG ODNとほぼ同様の値だった(図1a)。HZ誘導性の自然免疫活性化における、TLRの役割を調べるために、多数のTLRが介するサイトカイン誘導に必須の分子アダプターであるMyD88が欠損しているマウスを用いた(Nat. Rev. Immunol. 4: 499-511, 2004)。MyD88−/−マウス由来のFL−DCでは、HZ刺激により、TNFα、IL12p40、MCP−1及びIL−6の産出が著しく障害された(図1b)。
【0035】
同様に、MyD88−/−脾臓細胞では、HZに応答して、MCP−1、IL−6、TNFα、IL−12p40及びIFN誘導性タンパク質10(IP−10)を産出する応答が障害されていた(図1c)。更に、ヘモゾインは、FL−DCのCD11c、B220plasmacytoidDCサブセット及びCD11c、B220骨髄DCサブセットの両方を刺激し、MyD88−/−マウスにおいて、FL−DCの両サブセットで阻害されていたCD40及びCD86の発現をアップレギュレートした(図1d)。
【0036】
(自然免疫応答のHZ活性化のTRIF依存性)
HZ誘導性の自然免疫の活性化が、MyD88にのみ依存的であることを確認するために、MyD88非依存性経路に必須のアダプター分子であるTRIF(Toll/IL−1レセプター(TIR)領域含有アダプター)が欠損しているマウスを用いた(Nat. Rev. Immunol. 4: 499-511, 2004)。MyD88−/−マウスとは対照的に、TRIF−/−マウスのFL−DCは、HZに応答し、TNFα及びIL−12p40(p<0.05、TRIF−/−vs培地)を産出し、野生型マウス(p>0.05)の値とほぼ同じであった(図2)。LPS誘導性のTNFα及びIL−12p40は、TRIF−/−マウスのFL−DCで障害され、P. falciparum培養物から精製した多量のHZに、LPSが混入していないことを示唆した。これらのデータは、HZがMyD88を通してマウスにおける炎症誘発性応答を活性化することを示し、MyD88依存性TLRの1つがHZの認識に関与していることを示した。
【0037】
(自然免疫応答のHZ活性化のTLR−9依存性)
TLR2−/−マウス、TLR4−/−マウス、TLR7−/−マウス及びTLR9−/−マウスから得た脾臓細胞及びDCを用いて、HZ誘導性の自然免疫活性化が障害されているか、又は変更されているかを調べるために、さらに実験を行った。HZは、野生型マウス、TLR2−/−マウス、TLR4−/−マウス、TLR7−/−マウスにおいて、FL−DCを刺激し、CD11c+、B220+plasmacytoidDCサブセット及びCD11c、B220骨髄DCサブセットの両方で、CD40及びCD86をアップレギュレートした(図3a)。対照的に、TLR9−/−マウス由来のFL−DCの両サブセットでは、HZに応答してCD40及びCD86をアップレギュレートしなかった(図3a)。
【0038】
同様に、野生型マウス、TLR2−/−マウス、TLR4−/−マウス、TLR7−/−マウス由来のFL−DCは、HZに応答して、TNFα、IL−12p40、MCP−1及びIL−6を産出したが、TLR9−/−マウスでは産出しなかった(図3b)。HZはFL−DCによってIFNαを誘導しなかった点は注目すべきであり、HZ誘導性サイトカインの特性が、K型CpGODN(B型としても知られている)と同様であるが、D型OCN(A型としても知られている)、細菌性若しくはウイルス性DNA等のTLR9の既知の天然DNAリガンドとは異なることを示唆している(図3c)(Nat. Rev. Immunol. 4: 249-258, 2004)。それにもかかわらず、これらのデータは、TLR9及びMyD88が、マウス脾臓細胞及びDCにおけるHZ誘導性の活性化に重要であることを、明らかに証明している。
【0039】
(炎症誘導性サイトカインのHZ活性化のインビボにおけるMyD88/TLR9依存性)
HZ活性化が、インビボで、TLR9に介され、MyD88に依存的であることを確認するために、P. falciparum精製HZを、野生型マウス及びMyD88−/−マウス又はTLR9−/−マウスの腹腔内に注入し、血清サイトカインの産出をモニターした。HZの注入により、野生型マウスのMCP−1及びIL−6の血清量が著しく上昇し、その値は1〜4時間に最大となり、6時間以内に減少した(図4a)。対照的に、MyD88−/−マウス及びTLR−/−マウスでは、この上昇は、完全に阻害されていた。6時間後、サイトカインの量は、野生型マウスで減少した。これらのデータは、インビボ及びインビトロの両方で、HZ誘導性の炎症誘導性応答が、TLR9及びMyD88によって介されていることを明確に示している。
【0040】
合成HZ(βヘマチン、実験室条件で短量体ヘムより合成)は、原虫で天然に形成されたHZと構造が似ており(Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A 93: 11865-11870, 1996; Proc. Natl. Acad. Sci. U.S.A 88: 325-329, 1991)、原虫又は培養物由来の混入物を含んでいない。合成HZがTLR9依存形式で、自然免疫システムを活性化しているかどうか調べるために、野生型マウス又はTLR9−/−マウスに、合成HZを注入し、血清内のIL−6及びMCP−1産生量をモニターした。野生型マウスへの合成HZの注入は、血清内のMCP−1及びIL−6産出を誘導し、その量は1〜4時間に最大となった(図4b)。対照的に、この応答は、TLR9−/−マウスでは阻害されていた(図4b)。これらのデータは、合成HZと同様P. falciparum由来精製天然HZも、マウスの自然免疫システムを刺激していることを示唆し、HZ誘導性の、TLR9仲介自然免疫活性化に他の混入物が関与している可能性を排除している。
【0041】
P. falciparumの培養物中、又はP. falciparum培養物からHZ調製中に混入物が入る可能性を排除するために、上記の多くの精製方法に加えて、HZの精製度を定量するために、一連の分析を行った(Infect. Immun. 70: 3939-3943, 2002)。臭化ブロマイド染色アガロースゲル(図5)でも、分光光度計でも、HZ又はDNase処理HZ溶液(1mM)において、DNAもRNAも検出されなかった。DNase処理又は熱失活も、TNFα及びIL−12p40のHZ誘導DC産出に影響しなかった(図5b)。さらに、P. falciparumから単離したゲノムDNA及びRNAは、TNFα及びIL−12の産出を含む自然免疫応答を著しく活性化しなかった(未公表の実験及び(J. Immunol. 172: 3989-3993, 2004))。どの方法でも、HZ溶液(1mM)内に、タンパク質も脂質も検出されなかった。つまり、これらのデータを合わせると、HZ誘導性、TLR9−仲介性の自然免疫活性は、他の混入物に起因するものではないことを、強く示唆している。
【0042】
(HZ誘導性自然免疫の活性化のクロロキン感受性)
抗マラリア製剤クロロキン(CQ)は、エンドソーム/リソソームの成熟、マラリアヘモゾインのクリスタル形成(crystal formation)を阻害するほか、マラリア感染中の炎症誘導性応答を阻害することが報告されているが、CQの抗マラリア効果の正確なメカニズムは、未だに論争中である(Int. J. Parasitol. 32: 1645-1653, 2002; Life Sci. 74: 1957-1972, 2004)。最近の論拠は、CQは、TLR9仲介性自然免疫活性化も阻害することを示唆している(J. Immunol. 160: 1122-1131, 1998)。HZ誘導性の炎症誘導性応答に対するCQの効果を調べるために、CQの存在下で、FL―DCをHZで刺激した。HZ誘導性のTNFα及びIL−12p40の産出は、CQにより減少した(図5b)。
【0043】
これらは、既知のメカニズムである、マラリア病原体によるCQ阻害に加えて、CQが、マラリア感染中のHZ誘導性、TLR9仲介性の自然免疫応答を阻害することができ、それは治療効果に貢献する可能性があることを示唆している。さらなる研究が必要ではあるが、HZ形成を阻害する能力に加えて、CQがHZとTLR9の相互作用に干渉し、又は食胞を含むHZの成熟を阻害し、結果的に以下の自然免疫活性化を阻害する可能性がある。
【0044】
TLR9が特異的IgGにより、細菌性DNA又は自己DNAクロマチン複合体中にCpGモチーフを認識することは報告されているが、TLR9リガンドとしての非DNA分子は報告されていない(Trends Immunol. 25: 381-386, 2004; Annu. Rev. Immunol. 20: 709-760, 2002)。最近の研究によって、TLR9により認識される非DNAリガンドの最初の論拠が報告されている。HZは、赤血球からヘモグビンが分解される間に寄生虫の食胞に産出した重合ヘム(ferriprotoporphyrin IX)の結晶形である。マクロファージ、DC等の貪食細胞に捕獲されると、HZは、TLR9がP13キナーゼを経由して、小胞体から補充されることがあるファゴソーム内に蓄積する(J. Exp. Med. 196: 269-274, 2002; Nat. Immunol. 5: 190-198, 2004)。これは、TLR9が、ファゴソーム内でHZを認識しうることを示唆している。
【0045】
HZは、高疎水性であり、最近提案された仮説に従うと、免疫刺激効果に関与する可能性がある(Nat. Rev. Immunol. 4: 469-478, 2004)。HZは本来、宿主赤血球内のヘモグロビンに由来しているが、生存し続けるために、原虫によって、毒性のヘムから、原虫に無毒の代謝物であるHZへと、変更されることは興味深い。これは、不活性自己分子(inert self molecule)(ヘム)が、マラリア感染中に不活性免疫システム内において、活性化した“非自己”分子となることを示唆している。
【0046】
マラリア感染中のHZ誘導性、TLR9仲介性の自己免疫活性化及びそれに対する宿主の防御の生物学的な役割は現在調査中である。予備的な結果により、マラリア原虫に対する自然免疫応答は、TLRを含む宿主やPlasmodiumの複数の要因に依存していることを示唆している。最近の研究を含む、マラリア感染中のTLR仲介性の自然免疫活性化が、宿主防御免疫(host protective immunity)に寄与しているのか、マラリア免疫逃避メカニズム(malarial immune escape mechanism)に寄与しているのかを、研究することは重要である。また、TLR9がCpGDNA及びHZを識別する分子メカニズムを研究することも重要である。それにもかかわらず、現在までの観察により、マラリア感染中のヘム代謝物であるHZは、TLR9仲介性、MyD88依存性及びクロロキンビン敏感性の経路を通して、不活性免疫システムを活性化することを確かに証明しており、これは、不活性免疫におけるマラリア寄生虫−宿主相互作用をさらに理解する鍵となる。
【0047】
[図の説明]
図1.P. Falciparum由来精製HZは、MyD88依存性経路を通して、炎症誘発性応答を活性化する:
(a)野生型(WT)マウスのFL−DCを、精製ヘモゾイン(HZ)(30及び100μM)で24時間刺激した。ELISAで、上澄み中のTNFα、IL−12p40、MCP−1又はIL−6の産生を測定した。コントロールとして、3μMのCpGDNA(D35)を用いた。野生型(黒いバー)、MyD88−/−マウス(白いバー)の(b)FL−DC、及び(c)脾臓細胞を、30μMのHZ及びCpGDNA(D35、3μM)又はLPS(100ng/ml)で、24時間刺激した。培養上澄み中のTNFα、IL−12p40、MCP−1又はIL−6の産生をELISAで測定した。(d)CD40及びCD86の発現を調べるために、骨髄DC(CD11c+、B220)及びplasmacytoid DC(CD11c+、B220)を、フローサイトメトリーによって分析した。斜線部分は、HZで刺激されていない細胞を現し、実線はHZで刺激された細胞を現す。結果は、2度の培養の平均値+S.D.を現し、少なくとも5回の別個の実験の代表例である。「n.d.」は、「検出されず」を意味する。
【0048】
図2.HZ誘導性のDC活性化はTRIF非依存的である:
野生型(WT)マウス及びTRIF−/−マウスのFL−DCは、30μMのHZ及びLPS(100ng/ml)で24時間インキュベートし、その後上澄みをELISAで分析し、TNFα又はIL−12p40の産生量を定量した。結果は、平均値+4回の別個の実験のSEM(n=4)である。P>0.05、HZ(WT)vsHZ(TRIF−/−)。「n.d.」は、「検出されず」を意味する。
【0049】
図3.TLR9はHZ誘導性の自然免疫活性化を仲介する:
(a)野生型(WT)マウス及びTLR2−/−マウス、TLR4−/−マウス、TLR7−/−マウス、TLR9−/−マウスの骨髄DC(CD11c+、B220)及びplasmacytoid DC(CD11c+、B220)を、フローサイトメトリーで分析し、CD40及びCD88の発現を定量した。斜線部分はHZで刺激されていない細胞を現し、実線はHZで刺激された細胞を現す。野生型及びTLR9−/−細胞は指定の刺激でインキュベートし、(b)脾臓細胞によるTNFα、IL−12p40、MCP−1又はIL−6の産生、及び(c)FL−DCによるIFNα産生を、ELISAで分析した。結果は、少なくとも5回の別個の実験の代表例である。「n.d.」は、「検出されず」を意味する。
【0050】
図4.インビボのHZ及び合成HZ(βヘマチン)による血清サイトカインの産生はMyD88及びTLR9依存的である:
1500μgの(a)P. falciparum精製HZ、又は(b)合成HZ(sHZ)のいずれかを、MyD88−/−マウス、TLR9−/−マウス又は野生型(WT)マウスの腹腔内に注入した。MCP−1及びIL−6の血清量は指定の時点においてELISAで測定した。
【0051】
図5.ヘモゾインはDNAを含まず、HZ誘導性の炎症誘導性サイトカインの産生は、DNase耐性及び熱耐性であるが、クロロキン感受性である:
(a)DNAの混入を検出するために、HZをアガロースゲル上に移し、臭化ブロマイドで染色した。M、マーカー;レーン1、HZ溶液(1mM、5μl);レーン2、熱失活HZ(1mM、5μl);レーン3、DNase処理HZ(1mM、5μl);レーン4P.falciparum粗抽出物(4.5%の寄生虫血症を含む100mlの濃縮培養物から5μl);DNase処理粗抽出物(5μl)。(b)C57/B6マウスのFL−DCを、30μMのHZ又はDNase処理、熱失活、及び/又はCQ(10μM)で24時間インキュベートした。その後、上澄みを回収し、ELISAでTNFα又はIL−12p40を測定した。コントロールとして、CpGODN(D35)を3μMで用いた。D35のTNFαの値を図に示す。結果は、2度ずつ行った、3回の別個の実験の内の1つの代表例である(平均+S.D.)。*P.<0.05、HZvsHZ+CQ;**P.<0.05、CpGODNvsCpGODN+CQ)。「n.d.」は、「検出されず」を意味する。
【産業上の利用可能性】
【0052】
本発明において、マラリア原虫−宿主間の相互作用について、HZが自然免疫を活性化する免疫反応のメカニズムを分子レベルで解明した。本発明は、この知見に基いて、マラリア感染症の診断のために用いることができるマラリア感染症の検出・測定方法、該HZの誘導によるマラリア感染症の検出・測定方法を用いたマラリア感染症のワクチン或いはマラリア感染症の予防又は治療薬のスクリーニング方法を開発したものである。更に、上記知見に基いて、HZ又は合成HZ或いはその誘導体をアジュバント或いは免疫賦活剤として用いることによる、HZの誘導によるTLR9を介し、MyD88に依存する自然免疫誘導の調節手段を開発した。
【0053】
本発明は、これらの開発により、マラリア感染症の診断、マラリア感染症のワクチン又は予防或いは治療薬の創製、更にはマラリア感染症に対する免疫療法としての自然免疫誘導の調節、すなわち、HZ、TLR9(Toll様受容体9)、MyD88を含む自然免疫関連分子若しくはそのシグナル経路をターゲットにしたマラリア感染症の診断、抗マラリア薬や免疫療法の開発に対処する方策を提示し、これらの分野での利用に大きな貢献が期待できるものである。そして、TLR9リガンドとして知られているCpGODNは、自然免疫賦活剤として、癌や感染症の治療薬とのCpGODNの併用療法や、抗アレルギー薬、およびワクチンアジュバントとして開発されていることから、ヘモゾイン、合成ヘモゾイン、又はそれらの誘導体は、CpGODNと同様に、自然免疫賦活剤として、癌や感染症の治療薬との併用療法や、抗アレルギー薬、およびワクチンアジュバントとして開発され得る。また、ヘモゾインはマウスPDCにおいてIFNαを誘導しないことも、各種のCpGODNの活性と比較するうえで重要な知見である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
マラリア原虫のヘモグロビン代謝産物である疎水性ヘムポリマーのヘモゾイン又は合成ヘモゾイン或いはその誘導体からなる、TLR9を介し、MyD88に依存する自然免疫誘導調節用アジュバント。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2012−12412(P2012−12412A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−219131(P2011−219131)
【出願日】平成23年10月3日(2011.10.3)
【分割の表示】特願2006−547702(P2006−547702)の分割
【原出願日】平成17年11月4日(2005.11.4)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】