説明

ヘリカルフィルタ

【課題】基本波には影響を及ぼすことなく第3高調波を抑圧できるヘリカルフィルタを提供する。
【解決手段】ヘリカルフィルタ1は、一端を開放端とし、他端を接地端とした2つのヘリカルコイル2、3を金属ケース4内に収容して相互に電磁気的に結合した共振器結合構造を有している。各ヘリカルコイル2、3を構成する導体線9は一定のピッチで巻かれていない。具体的には、導体線9のボビン7に巻かれているヘリカル形状の部分の全長のうち開放端から1/3の長さの部分のピッチが残りの部分のピッチよりも小さく選定されている。この構成により、部品点数を増やすことなく、しかも基本波には影響を及ぼすことなく第3高調波を抑圧できる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、VHF乃至UHFなどの周波数帯域で使用されるバンドパスフィルタに関し、特に高調波成分を抑圧する特性を持ったヘリカルフィルタに関する。
【背景技術】
【0002】
バンドパスフィルタの一つとして、ヘリカルフィルタがある。ヘリカルフィルタは、一端を開放端とし、他端を接地端としたヘリカルコイルを複数個、電磁気的に結合した共振器結合構造を有する。図7に例示する従来のヘリカルフィルタ21は、2つのヘリカルコイル22、23を金属ケース24内に収容している。金属ケース24には、所望のインピーダンスに調整された入力端子25及び出力端子26が設けられている。各ヘリカルコイル22、23は、ボビン27の周囲に一定のピッチで導体線29を巻き回してなる。金属ケース24内には、ヘリカルコイル22、23の収容空間を仕切る壁30が設けられている。壁30にはコイル間結合調整孔31が設けられている。各ヘリカルコイル22、23は、通過させたい基本波の周波数で共振する周波数特性を持っている。そして、入力信号に含まれる共振周波数の信号成分に対して共振することにより、ヘリカフィルタ21は所望の減衰特性と通過特性を発揮する。
【0003】
しかし、ヘリカルフィルタは、互いに同じ周波数で共振するヘリカルコイルを複数個連結した構成上、基本波の周波数の整数倍の周波数帯でも共振する。このため、本来通過させたくない周波数帯であっても、基本波の周波数帯の場合と近い通過特性を持つことがある。特に周波数が基本波の3倍である第3高調波は、基本波とほぼ同一レベルで通過する。
【0004】
このため、例えば、VHF帯の周波数191Hzの基本波を通過させるように設計されたヘリカルフィルタでは、その約3倍の周波数に当たるUHF帯の周波数約570MHzの第3高調波に対して十分な減衰量(通過損失)を確保できないという問題があった。
【0005】
図8は共振周波数570MHzのヘリカルフィルタの周波数特性の一例を示す図である。横軸は周波数(Hz)、縦軸は通過損失(dB)を表している。通過損失が0に近いほど信号が通過しやすいことを示す。この例では、基本波の周波数570Mzの約3倍の周波数である約1.6GHzで信号が低損失で通過していることがわかる。
【0006】
第3高調波を抑圧する技術として、カットオフ周波数が基本波と第3高調波の間にあるローパスフィルタをヘリカルフィルタに接続する方法が多く用いられる。この方法は、基本波と第3高調波との間の周波数差が十分大きいことを利用した有効な方法である。しかし、この方法では、ローパスフィルタを付加する構成上、部品点数及び部品の実装に要する面積が増加することになり、通信機器の小型・軽量化に支障を来す。
【0007】
第3高調波を抑圧するその他の従来技術として、フィルタから発生する第3高調波を電波吸収体に吸収させて抑圧するものがある(特許文献1)。この技術は、電波吸収体をフィルタの比較的自由な位置に配置できるため設計が容易であるが、電波吸収体を付加することによる部品点数の増加と加工工数の増加により製造コストが増大するという問題を有する。電波吸収体は第3高調波だけでなく基本波も若干吸収するため、基本波の通過特性を犠牲にすることになる。
【0008】
更に別の技術として、フィルタを構成する共振器相互間にインダクタンス結合を組み入れた構成とすることにより、高長波に対する減衰特性を改善したものがある(特許文献2)。この技術は、原理的には有効であるが、部品点数の増加や加工工数の増加が顕著であり、量産に向かない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平8−46406号
【特許文献2】実公平7−31604号
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述のように従来の技術は何れも一長一短であり、第3高調波を抑圧することと引き替えに部品点数の増加を招くという共通の問題を有している。
【0011】
本発明が解決しようとする課題は、基本波には影響を及ぼすことなく第3高調波を抑圧できるヘリカルフィルタを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するために、本発明は、一端を開放端とし、他端を接地端としたヘリカルコイルを複数個、電磁気的に結合した共振器結合構造を有するヘリカルフィルタにおいて、高調波の周波数帯での抑圧量が増加するように、前記ヘリカルコイルを構成する導体線が一定のピッチで巻かれていないことを特徴とする。
【0013】
本発明のヘリカルコイルにおいて、前記導体線のヘリカル形状の部分の全長のうち前記開放端から略1/3の長さの部分のピッチが残りの部分のピッチよりも狭い(小さい)ことが望ましい。
また、前記導体線のピッチを部分的に調整するためのピッチ調整機構を有することが望ましい。
また、前記ピッチ調整機構は、前記導体線の一部分を一定のピッチに保持しているピッチ保持部と、当該ピッチ保持部をピッチ方向に移動させてその他の部分のピッチを調整するための操作部とを有することが望ましい。
また、前記ピッチ調整機構は、前記開放端から略1/3の長さの部分と残りの部分のどちらか一方の部分を一定のピッチに保持しているピッチ保持部と、当該ピッチ保持部をピッチ方向に移動させて他方の部分のピッチを調整するための操作部とを有することが望ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、部品点数を増やすことなく、しかも基本波には影響を及ぼすことなく、第3高調波を抑圧できるヘリカルフィルタを実現できる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係るヘリカルフィルタの実施形態を例示する概念図
【図2】本発明に係るヘリカルフィルタの別の実施形態を例示する概念図
【図3】本発明に係るヘリカルフィルタの更に別の実施形態を例示する概念図
【図4】従来のヘリカルフィルタのヘリカルコイル内における位置と電流強度及び電圧強度との関係を例示する特性図
【図5】本発明のヘリカルフィルタのヘリカルコイル内における位置と電流強度及び電圧強度との関係を例示する特性図
【図6】従来のヘリカルフィルタの周波数特性と、本発明の実施例のヘリカルフィルタの周波数特性とを重ねて示した特性図
【図7】従来のヘリカルフィルタの構成を例示する概念図
【図8】従来のフィルタの周波数特性の一例を示す特性図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について説明する。
[実勢形態の構成]
図1の実施形態のヘリカルフィルタ1は、一端を開放端とし、他端を接地端とした2つのヘリカルコイル2、3を金属ケース4内に収容して相互に電磁気的に結合した共振器結合構造を有している。金属ケース4には、所望のインピーダンスに調整された入力端子5及び出力端子6が設けられている。金属ケース4内には、ヘリカルコイル2、3の収容空間を仕切る壁7が設けられている。壁7にはコイル間結合調整孔8が形成されている。
各ヘリカルコイル2、3は、円柱状の同寸のボビン7の周囲にエナメル線等、導体線9を巻き回してなる。各ヘリカルコイル2、3は、通過させたい基本波の周波数で共振する周波数特性を持っている。そして、入力信号に含まれる共振周波数の信号成分に対して共振することにより、ヘリカルフィルタ1は所望の減衰特性と通過特性を発揮する。
【0017】
各ヘリカルコイル2、3を構成する導体線9は一定のピッチで巻かれていない。具体的には、導体線9のボビン7に巻かれているヘリカル形状の部分の全長のうち開放端から1/3の長さの部分のピッチが残りの部分のピッチよりも小さく選定されている。
【0018】
[実施形態の作用・効果]
導体線9のピッチを上記のように選定したことにより、基本波に対する通過特性に影響を及ぼすことなく、第3高調波を抑圧する作用・効果が得られる。この作用・効果につき、図4乃至図6を参照して説明する。
【0019】
図4は巻きピッチ一定のヘリカルコイル内における位置と電流強度及び電圧強度との関係を示している。図5は導体線のヘリカル形状の部分の全長のうち開放端から1/3の長さの部分のピッチが残りの部分のピッチよりも小さいヘリカルコイル内における位置と電流強度及び電圧強度との関係を示している。図4及び図5において、ヘリカルコイル内における位置は、ヘリカルコイルのヘリカル形状の部分の全長を1とし、ヘリカル形状の部分の一端(開放端)を1すなわち位置の最大値、他端(接地端側の端)を0すなわち位置の最小値として規格化して示されている。電流強度及び電圧強度についても、最小値を0、最大値を1として規格化して示されている。
【0020】
図4において、A点、B点及びC点は、それぞれ、導体線のヘリカル形状の部分の接地端側の端の位置に相当する点、接地端側の端の位置に相当する点からヘリカル形状の部分の全長の約2/3の長さの位置に相当する点、開放端の位置に相当する点である。A点及びB点は、第3高調波の場合に電圧が0、電流が最大になる点である。ただし、A点とB点とでは、電圧も電流も互いに逆向きになっている。A点での磁界の強さをHa、B点での磁界の強さをHbとすると、ヘリカルコイル全体でみた場合、HaよりもHbの寄与が大きく、磁界の強さH1は(Hbの絶対値)−(Haの絶対値)となる。
【0021】
そこで、第3高調波の抑圧量を増大させるために、ヘリカルコイルの無負荷Q値に着目する。一般的に、ヘリカルコイルの無負荷Q値と挿入損失との間には反比例の関係が成立し、無負荷Q値が小さくなると挿入損失が大きくなる。このことから、第3高調波に対する無負荷Q値が小さくなるようにヘリカルコイルを構成することにより、第3高調波に対する挿入損失の増大、つまり抑圧量の増大が可能になると考えられる。これを実現するために、本発明では、導体線のヘリカル形状の部分の長さのうち開放端から1/3の長さの部分のピッチが残りの部分のピッチよりも小さくなるように巻きピッチを変更する。
【0022】
図5において、ヘリカル形状の部分の全長の約2/3の長さに相当する点はB’点である。ヘリカルコイル全体でみた場合の磁界の強さH2は、(Hb’の絶対値)−(Ha’の絶対値)となる。上記のようにピッチを変更したことにより、B’点はB点(図4)よりもヘリカルコイルの開放端側に移動している。このため、H2は、ピッチが一定の場合の磁界の強さH1よりも小さくなる。
この現象は、第3高調波についてみた場合、ヘリカルコイルに電流が流れにくくなり抵抗が増大していることと等価である。これは、無負荷Q値が小さくなるようにヘリカルコイルが構成されていることを意味している。
【0023】
図6には、従来のヘリカルフィルタの周波数特性と、本発明の実施例のヘリカルフィルタの周波数特性とが重ねて示されている。両ヘリカルフィルタは共に、全長約120mmの導体線でヘリカルコイルを形成し、当該ヘリカルコイルを7mm角の金属ケース内に収容してなる共振周波数570MHzのフィルタである。従来(比較例)のヘリカルフィルタにおけるヘリカルコイルのピッチは一定とし約0.6mmに選定した。一方、本発明の実施例のヘリカルフィルタにおけるヘリカルコイルのピッチは、ヘリカル形状の部分の全長の2/3の部分(長さ80mm分)を0.75mmに、1/3の部分(長さ40mm分)を0.3mmに選定した。
【0024】
従来のヘリカルフィルタにおいては、第3高調波の周波数は約1.6GHzである。この第3高調波の通過損失は約8dBとなっている。
【0025】
実施例のヘリカルフィルタにおいては、第3高調波の周波数は約1.3GHzとなっている。これはヘリカルコイルのピッチを変更したことに伴い、金属ケース内での電界的な結合量が変化したためであると考えられる。第3高調波の挿入損失は約18dBであり、第3高調波に対する無負荷Q値を小さくしたことで、第3高調波の抑圧量が約10dB改善されている。基本波の周波数帯である570MHz帯における特性はさほど変わっていない。このことから、本発明の構成を採用することにより、基本波に影響を与えることなく第3高調波を抑圧できることがわかる。
また、約1.6GHzの帯域において、従来10dBであった抑圧量が本発明の構成を採用したことにより約50dBまで改善できている点も効果の一つであるといえる。
【0026】
このように、本発明によれば、ローパスフィルタ等を付加することなく、ヘリカルフィルタ単体で第3高調波を抑圧できる。したがって、従来ローパスフィルタ等を付加していたことに伴う部品点数の増加、部品の実装に要する面積の増加といった問題を解消できる。
【0027】
[その他の実施形態]
本発明のヘリカルフィルタは、上記実施形態に示したものに限定されない。
たとえば、上記実施形態ではボビン7の周囲に導体線9を巻き回してヘリカルコイル2を形成したが、図2に示すヘリカルフィルタ11ように、セラミックス製のボビン12の周面に、蒸着法、エッチング法等のパタン形成手法を用いてヘリカルコイル13、14を形成してもよい。
【0028】
また、図3に示すように、導体線9のピッチを部分的に調整するためのピッチ調整機構16を有するヘリカルフィルタ15も有効である。ピッチ調整機構16は、導体線9のヘリカル形状の部分の全長のうち開放端から1/3の長さの部分P1を一定のピッチに保持しているピッチ保持部17と、ヘリカルコイル2、3を収容して金属ケース4内に設けられた円筒状のガイド部材18と、ピッチ保持部17をピッチ方向に移動させて残りの部分P2のピッチを調整するための図示しない操作部とを有している。なお、図示しない操作部は、金属ケース4の外側から操作できればよく、例えば、金属ケース4の上側からドライバー等を挿入し、操作部を回転させることで、ピッチ保持部17をピッチ方向に移動させる構造などが考えられる。ピッチ保持部17は、ガイド部材18に支持された状態でこれに案内されてピッチ方向(図示の例では上下方向)に移動可能であり、無段階に位置調節可能に構成されている。この構成によれば、ヘリカルフィルタ15の実装後においても、ピッチ保持部17をピッチ方向に移動操作して、ピッチ保持部17に保持されていない部分P2のピッチを変化させることにより、ヘリカルフィルタ15の特性を所望の特性に調整することができる。
【0029】
なお、以上の実施形態では、導体線9のヘリカル形状の部分の全長のうち開放端から1/3の長さの部分のピッチを残りの部分のピッチよりも小さく選定したが、開放端から1/3以上或いは以下の所定の長さの部分のピッチを残りの部分のピッチよりも小さく選定してもよい。
また、上記実施形態では、第3高調波を抑圧する構成について説明したが、ヘリカルコイルを構成する導体線のピッチが一定でないという本発明の構成を利用すれば、基本波に影響を与えることなく更に高次の高調波を抑制することも可能である。
【符号の説明】
【0030】
1 ヘリカルフィルタ
2、3 ヘリカルコイル
4 金属ケース
5 入力端子
6 出力端子
7 ボビン
8 コイル間結合調整孔
9 導体線
11 ボビン
12 ヘリカルコイル
13 ヘリカルフィルタ
14 ピッチ調整機構

【特許請求の範囲】
【請求項1】
一端を開放端とし、他端を接地端としたヘリカルコイルを複数個、電磁気的に結合した共振器結合構造を有するヘリカルフィルタにおいて、高調波の周波数帯での抑圧量が増加するように、前記ヘリカルコイルを構成する導体線が一定のピッチで巻かれていないことを特徴とするヘリカルフィルタ。
【請求項2】
前記導体線のヘリカル形状の部分の全長のうち前記開放端から略1/3の長さの部分のピッチが残りの部分のピッチよりも狭いことを特徴とする、請求項1のヘリカルフィルタ。
【請求項3】
前記導体線のピッチを部分的に調整するためのピッチ調整機構を有する、請求項2のヘリカルフィルタ。
【請求項4】
前記ピッチ調整機構は、前記導体線の一部分を一定のピッチに保持しているピッチ保持部と、当該ピッチ保持部をピッチ方向に移動させてその他の部分のピッチを調整するための操作部とを有する、請求項3のヘリカルフィルタ。
【請求項5】
前記ピッチ調整機構は、前記開放端から略1/3の長さの部分と残りの部分のどちらか一方の部分を一定のピッチに保持しているピッチ保持部と、当該ピッチ保持部をピッチ方向に移動させて他方の部分のピッチを調整するための操作部とを有する、請求項4のヘリカルフィルタ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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