説明

ヘリカーゼ活性の測定方法

【課題】ヘリカーゼの二本鎖核酸を一本鎖核酸へ解離させる活性を、放射性同位体元素や電気化学的測定手法、FRETなどを用いずに、簡便かつ安価に測定可能にする方法を提供する。
【解決手段】へリカーゼ活性を測定するための基質として、核酸構成塩基の近接、離間により、蛍光強度が変化する蛍光色素で標識した核酸と、該核酸と相補の塩基配列を有する他方の核酸とにより、蛍光標識二本鎖核酸を調製し、この蛍光標識2本鎖核酸を基質として、ヘリカーゼによる酵素反応を行い、一本鎖核酸への解離に伴い、変化する蛍光強度を測定する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヘリカーゼ活性の測定法、ヘリカーゼの阻害剤あるいは活性化剤のスクリーニング方法及びヘリカーゼの基質特異性を同定する方法、並びにこれらの方法に使用する試薬に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘリカーゼの活性をインビトロで測定する方法としては、主に、二本鎖DNAとヘリカーゼを反応させた後、遊離した一本鎖DNAを電気泳動的手法により分離して定量するというエンドポイントアッセイが用いられている。このアッセイでは、まず、放射性同位元素で標識した基質となる二本鎖核酸をヘリカーゼと反応させる。次いで、この反応による生成物をポリアクリルアミドゲルまたはアガロースゲル上で電気泳動することにより、反応生成物中に含まれる二本鎖核酸と一本鎖核酸とを分離し、標識からの放射能の量を測定することにより一本鎖核酸を定量することができる。
【0003】
さらに、ヘリカーゼの活性を測定する方法として、数種のアッセイが提案されている。このようなアッセイの一つとして、ヘリカーゼにより巻き戻された後の一本鎖DNAに、例えばS1ヌクレアーゼのような一本鎖特異的ヌクレアーゼ、またはエキソヌクレアーゼIなどを作用させて、そのヌクレアーゼ活性を測定することにより、間接的にヘリカーゼ活性を測定する方法がある( 例えば、非特許文献1参照)。また、他のアッセイ方法として、一本鎖DNA特異的結合性タンパク質を利用した分光学的アッセイも提案されている(例えば、非特許文献2参照)。この方法は、一本鎖DNA特異的結合性タンパク質が、ヘリカーゼによって産生された一本鎖DNAと結合することにより、タンパク質固有の蛍光が生じることを利用して、ヘリカーゼの活性を測定する方法である。
【0004】
また、ヘリカーゼインヒビターをハイスループットでスクリーニングする方法として、ヘリカーゼの活性を電気化学的手法により測定する方法が提案されている(特許文献1参照) 。この方法では、一方の末端に電気化学ルミネセンス標識をした第一の一本鎖核酸と、第一の一本鎖核酸と部分的に相補的な配列をもつ第二の環状一本鎖核酸とからなる二本鎖核酸を基質とし、これにヘリカーゼを作用させて第一の一本鎖核酸を解離させる。次いで、解離した第一の一本鎖核酸を、これと相補的な配列を有する、ビオチンで標識された第三の一本鎖核酸との間で二本鎖形成させることによって捕捉し、さらに、得られた二本鎖核酸を、アビジンを担持した磁性ビーズ上に回収する。最後に、標識された第一の一本鎖核酸からの電気化学ルミネセンスを測定することにより、ヘリカーゼ活性が測定される。
【0005】
また、ヘリカーゼの基質特異性を測定する方法として蛍光共鳴エネルギー転移(Fluorescence Resonance Energy Transfer。以下「FRET」という) 現象を利用する方法が提案されている特許文献2、非特許文献3参照)。この方法では、5’突出末端を有する二本鎖核酸、3’突出末端を有する二本鎖核酸および突出末端を持たない二本鎖核酸のそれぞれを基質とした被験ヘリカーゼによる酵素反応を行ない、二本鎖核酸の一本鎖核酸への解離によってシグナル強度が増加または減少するシグナル発生物質を用いて被験ヘリカーゼの各基質に対する反応速度を測定し、各基質についての測定値の組み合わせを被験ヘリカーゼの基質特異性として同定する方法である。しかし、これら従来技術は、測定系の構築が簡便、安価にはできないという問題点があった。
【特許文献1】特表2003−511660号公報
【特許文献2】特開2005−253364号公報
【非特許文献1】Palas KM.ら、「Journal of Biological Chemistry」(1990)265:3447-3454
【非特許文献2】Roman LJ.ら,「Biochemistry」(1989)28, 2863-2873
【非特許文献3】Boguszewska-Chachulska AM.ら「FEBS Letters」(2004)567, 253-258
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の課題は、ヘリカーゼの二本鎖核酸を一本鎖核酸へ解離させる活性を、放射性同位体元素や電気化学的測定手法、FRETなどを用いずに、簡便かつ安価に測定可能にする方法を提供し、さらに、このヘリカーゼ活性測定法を利用して、該ヘリカーゼの基質特異性の測定や該ヘリカーゼの阻害剤あるいは活性化剤をスクリーニングする効率的な方法を提供するとともに、これら方法に使用する新規かつ有用な試薬を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するため、鋭意研究の結果、へリカーゼ活性を測定するための基質として、核酸構成塩基の近接、離間により、蛍光強度が変化する蛍光色素で一方の核酸を標識した二本鎖核酸を用いて、ヘリカーゼによる酵素反応を行う場合、一本鎖核酸の解離に伴い蛍光強度が変化し、これにより、該ヘリカーゼの活性を簡便、安価かつ正確に測定し得ることを見出し、本発明を完成するに至ったものである。
【0008】
すなわち、本発明は以下のとおりである。
(1)少なくとも以下の(a)〜(c)の工程を含むことを特徴とするヘリカーゼ活性の測定方法。
(a)核酸の構成塩基との近接、離間によって蛍光強度が変化する蛍光色素を有する一本鎖核酸と、該一本鎖核酸と相補的な塩基配列を有する他方の一本鎖核酸とからなる二本鎖核酸を用意する工程。
(b)該二本鎖核酸を基質として、ヘリカーゼによる酵素反応を行う工程。
(c)前記酵素反応の反応産物からの蛍光強度を測定する工程。

(2)前記蛍光色素がグアニン塩基との相互作用により蛍光強度が変化する色素であることを特徴とする、上記(1)に記載の方法。

(3)前記二本鎖核酸が、DNA鎖とDNA鎖、RNA鎖とRNA鎖またはDNA鎖とRNA鎖からなることを特徴とする、上記(1)又は(2)に記載の方法。

(4)前記ヘリカーゼがDNAヘリカーゼまたはRNAヘリカーゼであることを特徴とする、上記(1)〜(3)のいずれかに記載の方法。

(5)前記酵素反応が、基質に含まれる二本鎖核酸から遊離した一本鎖核酸のいずれか一方を捕捉する物質の存在下において行われることを特徴とする、上記(1)〜(4)のいずれかに記載の方法。

(6)上記(1)に記載の二本鎖核酸を少なくとも含むことを特徴とする、ヘリカーゼ活性測定用試薬キット。

【0009】
(7)少なくとも以下の(a)〜(d)の工程を含むことを特徴とする、ヘリカーゼの阻害剤又は活性化剤をスクリーニングする方法。
(a)核酸の構成塩基との近接、離間によって蛍光強度が変化する蛍光色素を有する一本鎖核酸と、該一本鎖核酸と相補的な塩基配列を有する他方の一本鎖核酸とからなる二本鎖核酸を用意する工程。
(b)該二本鎖核酸と、ヘリカーゼ活性阻害剤の候補物質を含む試料を混合する工程。
(c)前記混合溶液に対してヘリカーゼによる酵素反応を行う工程。
(d)前記酵素反応の反応産物からの蛍光強度を測定する工程。

(8)前記蛍光色素がグアニン塩基との相互作用により蛍光強度が変化する色素であることを特徴とする、上記(7)に記載の方法。

(9)二本鎖核酸が、DNA鎖とDNA鎖、RNA鎖とRNA鎖またはDNA鎖とRNA鎖からなることを特徴とする、上記(7)又は(8)に記載の方法。

(10)ヘリカーゼがDNAヘリカーゼまたはRNAヘリカーゼであることを特徴とする、上記(7)〜(9)のいずれかに記載の方法。
(11)酵素反応が、基質に含まれる二本鎖核酸から遊離した一本鎖核酸のいずれか一方を捕捉する物質の存在下において行われる、上記(7)〜(10)のいずれかに記載の方法。

(12)上記(7)に記載の二本鎖核酸とヘリカーゼを組み合わせたことを特徴とする、ヘリカーゼ活性の阻害物質をスクリーニングするための試薬キット。

【0010】
(13)少なくとも以下の(a)〜(c)の工程を含むことを特徴とする、ヘリカーゼの基質特異性を同定する方法。
(a)核酸の構成塩基との近接、離間によって蛍光強度が変化する蛍光色素を有する一本鎖核酸と、該一本鎖核酸と相補的な塩基配列を有する他方の一本鎖核酸とからなる各種二本鎖核酸を用意する工程。
(b)上記各二本鎖核酸を基質として、被験ヘリカーゼによる酵素反応を行う工程。ならびに
(c)前記酵素反応の反応産物からの蛍光強度を測定する工程。

(14)蛍光色素がグアニン塩基との相互作用により蛍光強度が変化する特徴を有する蛍光色素である、上記(13)に記載の方法。

(15)二本鎖核酸が、DNA鎖とDNA鎖、RNA鎖とRNA鎖またはDNA鎖とRNA鎖からなることを特徴とする、上記(13)又は(14)に記載の方法。

(16)ヘリカーゼがDNAヘリカーゼまたはRNAヘリカーゼであることを特徴とする、上記(13)〜(15)のいずれかに記載の方法。

(17)酵素反応が、基質に含まれる二本鎖核酸から遊離した一本鎖核酸のいずれか一方を捕捉する物質の存在下において行われることを特徴とする、上記(13)〜(16)のいずれかに記載の方法。

(18)上記(13)に記載の各種二本鎖核酸をセットとして組み合わせたことを特徴とする、ヘリカーゼの基質特異性を同定するための試薬キット。
【発明の効果】
【0011】
本発明のヘリカーゼ活性の測定法によれば、ヘリカーゼの二本鎖核酸を一本鎖核酸へ解離させる活性を、放射性同位体元素や電気化学的測定手法、FRETなどを用いずに、簡便かつ安価に測定可能にすることが可能となる。また、このヘリカーゼ活性測定法を利用して、該ヘリカーゼの基質特異性の測定や該ヘリカーゼの阻害剤あるいは活性化剤のスクリーニングも極めて効率的に行える。特にヘリカーゼはガンとの関連も示唆されており、本発明は新たなガンの研究あるいは抗ガン剤等の医薬品開発等において大いに資するものである。さらに、病原性微生物の増殖に必須なヘリカーゼを標的として、該ヘリカーゼの阻害剤あるいは活性化剤のスクリーニングを行うことで、新規な抗生物質等の医薬品開発に大いに貢献するものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
ヘリカーゼは、二本鎖核酸を一本鎖核酸に巻き戻す作用を有する酵素であり、DNA鎖とDNA鎖からなる二本鎖DNAに作用するDNAヘリカーゼ、RNA鎖とRNA鎖からなる二本鎖RNAに作用するRNAヘリカーゼあるいはDNAとRNA鎖からなるハイブリッド鎖に作用するものがある。また、さらに、5’突出末端を有する二本鎖核酸を基質とするもの、3’突出末端を有する二本鎖核酸を基質とするもの、平滑末端に作用するものがある。
【0013】
本発明のヘリカーゼ活性の測定法においては、このような測定対象ヘリカーゼの種類に応じて、基質となる蛍光標識二本鎖核酸を合成する。
これには、まず、適当な長さの核酸分子を合成し、該核酸分子の構成塩基を蛍光標識し、蛍光標識一本鎖核酸を作成し、該一本鎖核酸と相補の塩基配列を有する他方の一本鎖核酸を作成し、両者をハイブリダイズさせ二本鎖核酸とする。このとき使用する蛍光色素としては、特定の核酸塩基と近接、離間することにより、その蛍光強度が変化する蛍光色素を用いるが、このような蛍光色素としては、例えばグアニン塩基に対するBODIPY FL, TAMRA, BODIPY R6G, Pacific Blue等が挙げられる。上記蛍光標識する一本鎖核酸の設計においては、蛍光色素が結合する塩基あるいはその近傍の塩基は、蛍光強度に影響しない塩基になるようその塩基配列を設計するとともに、さらに、このような蛍光標識一本鎖核酸とハイブリダイズさせる他方の一本鎖核酸の設計においては、上記蛍光標識核酸とハイブリダイズさせたとき、上記蛍光色素が結合する核酸塩基と塩基対を形成する核酸塩基、あるいはその近傍の核酸塩基のうち、少なくも一つは、上記蛍光色素との近接及び離間によってその蛍光強度を変化させる塩基になるように設計する。以下、このように形成された二本鎖核酸を基質とし活性測定対象のヘリカーゼを用いて酵素反応を行う。この酵素反応により二本鎖核酸は、一本鎖核酸に解離し、上記蛍光色素が上記塩基と離間することにより、蛍光強度が変化する。この変化した蛍光強度を測定することによりヘリカーゼの活性を測定することができる。
【0014】
このような本発明の測定原理については、図1の例を用いてさらに具体的に説明する。
図1は蛍光色素として、グアニン塩基(G)との電子移動により、蛍光が消光する蛍光色素を使用し、ヘリカーゼとしてDNAヘリカーゼ・RNAヘリカーゼとしてのHCV NS3を用いた例を示す。
(a)基質の調製
グアニン塩基の近接により消光乃至減光する蛍光色素を、5’末端の塩基がシトシン(C)になるようにDNA乃至RNA分子を合成し、このシトシン塩基にグアニン塩基により消光する蛍光色素を、結合させる。一方、このDNA乃至RNA分子と相補の塩基配列部分を有するDNA乃至RNA分子(3‘末端グアニン)を合成し、2つのDNA乃至RNA分子をハイブリダイズさせ2本鎖核酸を形成させる。このとき、一方のDNA乃至RNA分子に標識された蛍光色素は他方のDNA乃至RNA 分子中のグアニン塩基と近接しているため、該蛍光色素は消光状態にある。
(b)酵素反応
ついで、活性測定対象のDNAヘリカーゼ・RNAヘリカーゼと、基質となる上記2本鎖核酸とを共存させ、酵素反応を行う。このDNAヘリカーゼ・RNAヘリカーゼの酵素作用により2本鎖核酸は蛍光標識された一本鎖DNA乃至RNAと、3’末端塩基がグアニンである一本鎖DNA乃至RNA(Gstrand)とに解離するが、このとき解離したGstrand を補足するために、このGstrand と相補配列を有するDNA乃至RNA(capture strand)を酵素反応溶液に添加しておくことが好ましい。このcapture strandは、Gstrandを優先的に補足するため過剰量使用することが好ましい。
(c)蛍光強度の測定
上記酵素反応による2本鎖核酸の解離により、一方の一本鎖DNA乃至RNAの蛍光色素はグアニン塩基と離間するため、蛍光が発生乃至増加するようになる。したがって、酵素反応前後の蛍光強度を測定し、その蛍光強度の増加を求めれば、ヘリカーゼの活性を測定できる。すなわち、蛍光強度の増加は、被験ヘリカーゼ自体が保有する活性のほかに、基質濃度あるいは量、ヘリカーゼの濃度あるいは量、若しくは温度等の酵素作用条件に依存するが、これらを一定にすれば、一定の酵素作用条件下における被験ヘリカーゼの活性を評価できる。
本発明の蛍光標識2本鎖核酸はヘリカーゼの活性測定用試薬と使用できるが、試薬とする場合において、種々のヘリカーゼの活性を測定可能にするため、これらヘリカーゼの基質となるように、蛍光標識する2本鎖核酸の核酸種類(DNA、RNA、ハイブリッド鎖)、構造を変えて、これらを組み合わせ試薬キットとすることもできる。
【0015】
本願発明における上記ヘリカーゼ活性の測定法は、ヘリカーゼ阻害剤あるいは活性化剤のスクリーニングにも利用できる。ある特定のヘリカーゼに対する阻害剤、あるいは活性化剤をスクリーニングする場合、上記したヘリカーゼ活性の測定方法と同様にして、該ヘリカーゼが基質とすることが可能な蛍光標識2本鎖核酸を調製する。次いで、この基質とヘリカーゼ阻害剤あるいは活性化剤の候補物質を、ヘリカ―ゼ含有酵素反応液に加えて、酵素反応を行い、蛍光強度を測定する。蛍光強度が、酵素反応溶液に候補物質を含有させない場合と比較して変化していれば、その候補物質はヘリカーゼ阻害剤乃至活性化剤である。
例えば、上記のようなグアニン塩基の近接により消光乃至減光する蛍光色素で標識した2本鎖核酸を基質として用いる場合においては、測定される蛍光強度は、候補物質がヘリカーゼ阻害剤であるとき、これを酵素反応溶液中に入れない場合に比べ減少する。また活性化剤の場合は候補物質を入れない場合に比べ増大する。
したがって、上記蛍光強度の変化をみることにより、ヘリカーゼの阻害剤あるいは活性化剤をスクリーニングすることができる。
【0016】
また、本発明のヘリカーゼの阻害剤あるいは活性化剤をスクリーニングするための試薬キットは、ヘリカーゼと上記蛍光標識2本鎖核酸を組み合わせたものである。上記蛍光標識核酸の2本鎖核酸の核酸種類、構造は、組み合わせるヘリカーゼの種類によって、基質とすることが可能なように設計する。
また、本発明の上記ヘリカーゼの活性の測定法は、ヘリカーゼの基質特異性の同定にも利用できる。ヘリカーゼはその種類によって、DNA鎖からなる二本鎖DNAを基質とするもの、RNA鎖とRNA 鎖からなる二本鎖RNAを基質とするもの、あるいはDNAとRNA鎖からなるハイブリッド鎖を基質とするものがあり、さらに、その構造によっても異なり、5’突出末端を有する二本鎖核酸を基質とするもの、3’突出末端を有する二本鎖核酸を基質とするもの、平滑末端を有する2本鎖核酸を基質とするもの等があり、その基質特異性は様々である。本発明のヘリカーゼの基質特異性の同定法においては、上記ヘリカーゼの測定法における蛍光標識手法を使用して、2本鎖核酸の核酸種類、構造を変えた各種の蛍光標識2本鎖核酸を調製しておく。次いで、得られた蛍光標識2本鎖核酸毎に、被験ヘリカーゼを含有する酵素反応溶液と接触させて、蛍光強度を測定し、その蛍光強度変化をみることにより、被験ヘリカーゼのその2本鎖核酸に対する作用程度を評価できる。例えば、上記のようなグアニン塩基の近接により消光乃至減光する蛍光色素で標識した2本鎖核酸を用いる場合においては、測定される蛍光強度は、ある特定の2本鎖核酸が被験ヘリカーゼの基質となりうるとき、2本鎖核酸は解離するので蛍光が増加する。基質とならない場合には蛍光は変化しない。したがって、このような手法により、ヘリカーゼの基質特異性を同定でき、また、基質特異性の広さ等も把握できる。
【0017】
また、本願発明の基質特異性の同定方法は、例えば、遺伝子、タンパク質の相同検索によりあるタンパク質がヘリカーゼであると予想される場合に、ヘリカーゼであるとの確認及びその基質特異性を調べるために有用である。
さらに、上記各種の蛍光標識2本鎖核酸は、セットとしてヘリカーゼの基質特異性を同定するための試薬として使用できる。

以下に、本発明の実施例を示すが、本発明はこれら実施例により限定されるものではない。
【実施例1】
【0018】
HCV NS3は,2本鎖を1本鎖にほどく際、ATP加水分解のエネルギーを必要とすることが知られている。そこで,本実験においては,ATPの有無により蛍光値がどのように変化するかを検討した。まず、NS3-QP1(5’-BODIPY FL)- CTAGTACCGCCACCCTCAGAACCTTTTTTTTTTTTTT-3’(配列番号1))およびGstrand(5’-GGTTCTGAGGGTGGCGGTACTAGG-3’(配列番号2))を1:3(モル比)にて20 mM Tris-HCl, pH 7.0の溶液中で混合し,その溶液を90℃で15秒間インキュベートした後,ゆっくり室温に戻して2本鎖核酸(substrate)を作製した。次に,20 nM substrate,30 mM Tris-HCl, pH 7.0,5 mM MgCl2,0.075% Triton X-100,1 mM ATP,250 nM capture strand(5’-CTAGTACCGCCACCCTCAGAACC-3’(配列番号3)),115 nM HCV NS3(helicase)の反応液(20μl)を用意し、これを37℃で90分間インキュベートし,リアルタイムに蛍光強度を測定した。蛍光測定装置としてLightCycler 1.5(Roche)を使用した。
結果を図2に示す。図2の結果によれば、ATPの添加により、ATP無添加の場合に比べ蛍光強度が明らかに増大した。この結果はATP添加による発現したヘリカーゼの活性を本発明の測定法により正確に把握できることを示している。
【実施例2】
【0019】
HCV NS3量の増加に依存して蛍光の発光量が増加するかどうかを検討した。
反応液の組成(20μL)は,20 nM substrate(実施例1と同じ), 30 mM Tris-HCl, pH 7.0,5 mM MgCl2,0.075% Triton X-100,1 mM ATP,250 nM capture strand(実施例1と同じ),0-115 nM HCV NS3(helicase)とした。
37℃で90分間インキュベートし,リアルタイムに蛍光強度を測定した。蛍光測定装置としてLightCycler 1.5(Roche)を使用した。結果を図3に示す。これによれば,NS3の濃度に依存して,蛍光量の増加がみられた。すなわち、NS3の濃度に依存して増大するヘリカーゼ活性は、蛍光強度に正確に反映することが明らかとなった。
【実施例3】
【0020】
ATP-γ-Sは非加水分解性のATPアナログである。ATP-γ-Sは,helicaseに結合するが,加水分解はされない。そのため,ATP-γ-Sが結合したhelicaseは,2本鎖DNAもしくはRNAを1本鎖にほどくことができなくなる。よって,ATP-γ-Sをhelicase活性の阻害剤として用いることができる。このATP-γ-Sを使用したモデル実験により、本発明の測定系がhelicase活性の阻害剤のスクリーニング法として使用できるか否かを検証した。
反応液の組成(20μL)は,20 nM substrate(実施例1と同じ),30 mM Tris-HCl, pH 7.0,5 mM MgCl2,0.075% Triton X-100,1 mM ATP,250 nM capture strand(実施例1と同じ),115 nM HCV NS3(helicase),0-10 mM ATP-γ-Sとした。
37℃で90分間インキュベートし,リアルタイムに蛍光強度を測定した。蛍光測定装置としてLightCycler 1.5(Roche)を使用した。
結果を図4に示す。これによれば、ATP-γ-Sの濃度に依存して蛍光値が変化することがわかった。
さらに、得られたデータに対し,曲線回帰(Exponential Rise)を行うことで,反応の速度定数kを求め,求めたkの値を,ヘリケース活性の指標とした。Kaleidaグラフを用いて,以下のExponential Rise(指数上昇)の式により,曲線回帰した。
F(t) = C+A{1-exp(-kt)}
ここで,F(t)は蛍光強度,Cはy軸の変位,Aは振幅,kは速度定数,tは時間である。結果より,ATP-γ-S量に依存して速度定数kは減少した。(図5)。
すなわち、これらの結果は、ATP-γ-Sの阻害剤としての機能を本発明の測定法により的確に捉えられていることを示し、また、その濃度依存的な蛍光強度の減少は、阻害剤の阻害の強さも測定できることを示す。以上から、本発明のスクリーニング方法は極めて有効であることが実証された。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明の測定原理を説明するための概略図である。
【図2】実施例1の実験において測定された蛍光値と、ヘリカーゼ反応系におけるATPとの関係を示すグラフである。
【図3】実施例2の実験において測定された蛍光値と、へリカーゼ(HCV NS3)の濃度との関係を示すグラフである。
【図4】実施例4の実験において測定された蛍光値と、ヘリカーゼ阻害剤ATP−γ―S濃度との関係を示すグラフである。
【図5】ATP−γ―S濃度と図4の実験結果に基づき算出されたヘリカーゼの相対活性の関係を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも以下の(a)〜(c)の工程を含むことを特徴とするヘリカーゼ活性の測定方法。
(a)核酸の構成塩基との近接、離間によって蛍光強度が変化する蛍光色素を有する一本鎖核酸と、該一本鎖核酸と相補的な塩基配列を有する他方の一本鎖核酸とからなる二本鎖核酸を用意する工程。
(b)該二本鎖核酸を基質として、ヘリカーゼによる酵素反応を行う工程。
(c)前記酵素反応の反応産物からの蛍光強度を測定する工程。
【請求項2】
前記蛍光色素がグアニン塩基との相互作用により蛍光強度が変化する色素であることを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記二本鎖核酸が、DNA鎖とDNA鎖、RNA鎖とRNA鎖またはDNA鎖とRNA鎖からなることを特徴とする、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記ヘリカーゼがDNAヘリカーゼまたはRNAヘリカーゼであることを特徴とする、請求項1〜3のいずれかに記載の方法。
【請求項5】
前記酵素反応が、基質に含まれる二本鎖核酸から遊離した一本鎖核酸のいずれか一方を捕捉する物質の存在下において行われることを特徴とする、請求項1〜4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
請求項1に記載の二本鎖核酸を少なくとも含むことを特徴とする、ヘリカーゼ活性測定用試薬キット。
【請求項7】
少なくとも以下の(a)〜(d)の工程を含むことを特徴とする、ヘリカーゼ活性の阻害剤あるいは活性化剤をスクリーニングする方法。
(a)核酸の構成塩基との近接、離間によって蛍光強度が変化する蛍光色素を有する一本鎖核酸と、該一本鎖核酸と相補的な塩基配列を有する他方の一本鎖核酸とからなる二本鎖核酸を用意する工程。
(b)該二本鎖核酸と、ヘリカーゼ阻害剤あるいは活性化剤の候補物質を含む試料を混合する工程。
(c)前記混合溶液に対してヘリカーゼによる酵素反応を行う工程。
(d)前記酵素反応の反応産物からの蛍光強度を測定する工程。
【請求項8】
前記蛍光色素がグアニン塩基との相互作用により蛍光強度が変化する色素であることを特徴とする、請求項7に記載の方法。
【請求項9】
二本鎖核酸が、DNA鎖とDNA鎖、RNA鎖とRNA鎖またはDNA鎖とRNA鎖からなることを特徴とする、請求項7又は8に記載の方法。
【請求項10】
ヘリカーゼがDNAヘリカーゼまたはRNAヘリカーゼであることを特徴とする、請求項7〜9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
酵素反応が、基質に含まれる二本鎖核酸から遊離した一本鎖核酸のいずれか一方を捕捉する物質の存在下において行われる、請求項7〜10のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
請求項7に記載の二本鎖核酸とヘリカーゼを組み合わせたことを特徴とする、ヘリカーゼ活性の阻害剤あるいは活性化剤をスクリーニングするための試薬キット。
【請求項13】
少なくとも以下の(a)〜(c)の工程を含むことを特徴とする、ヘリカーゼの基質特異性を同定する方法。
(a)核酸の構成塩基との近接、離間によって蛍光強度が変化する蛍光色素を有する一本鎖核酸と、該一本鎖核酸と相補的な塩基配列を有する他方の一本鎖核酸とからなる各種二本鎖核酸を用意する工程。
(b)該各二本鎖核酸を基質として、被験ヘリカーゼによる酵素反応を行う工程。
(c)前記酵素反応の反応産物からの蛍光強度を測定する工程。
【請求項14】
蛍光色素がグアニン塩基との相互作用により蛍光強度が変化する特徴を有する蛍光色素である、請求項13に記載の方法。
【請求項15】
二本鎖核酸が、DNA鎖とDNA鎖、RNA鎖とRNA鎖またはDNA鎖とRNA鎖からなることを特徴とする、請求項13又は14に記載の方法。
【請求項16】
ヘリカーゼがDNAヘリカーゼまたはRNAヘリカーゼであることを特徴とする、請求項13〜15のいずれかに記載の方法。
【請求項17】
酵素反応が、基質に含まれる二本鎖核酸から遊離した一本鎖核酸のいずれか一方を捕捉する物質の存在下において行われることを特徴とする、請求項13〜16のいずれかに記載の方法。
【請求項18】
請求項13に記載の各種二本鎖核酸をセットとして組み合わせたことを特徴とする、ヘリカーゼの基質特異性を同定するための試薬キット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2008−99619(P2008−99619A)
【公開日】平成20年5月1日(2008.5.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−285671(P2006−285671)
【出願日】平成18年10月20日(2006.10.20)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】