説明

ヘリコバクター属(Helicobacter)により引き起こされる炎症を低下させるための乳酸菌の選択および使用

【課題】哺乳動物の胃腸管におけるヘリコバクター・ピロリ(Helicobacter pylori)感染に関連する胃腸の炎症を低下させるため哺乳動物に投与するための乳酸菌株を提供する。
【解決手段】ヘリコバクター・ピロリによる胃腸の炎症を低下させる能力について、選択された乳酸桿菌属の株、およびヒトへの投与のため、若しくは関連する炎症の処置、予防のための剤を包含する。これらの株由来の生成物、ならびに、選択された株を増殖させた馴化培地および該馴化培地のタンパク質を含有する抽出物を包含する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非病原性の抗炎症性細菌株のスクリーニング方法の使用、ならびにヘリコバクター ピロリ(Helicobacter pylori)、ヘリコバクター属(Helicobacter)の他の種のような胃腸細菌、および他の炎症を引き起こす胃腸病原体により引き起こされる炎症の処置および予防のための生成物およびこうした株の使用方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ヘリコバクター ピロリ(Helicobacter pylori)は、とりわけ胃中で酸を中和するウレアーゼを産生するその能力により胃にコロニーを作るらせん形の細菌である。ウレアーゼは尿素(胃中にその豊富な供給が存在する)を、強塩基である重炭酸塩およびアンモニアに転化する。これはH.ピロリ(H.pylori)細胞の周囲に酸を中和する塩基の雲をもたらし、それらを胃中で酸から保護する。H.ピロリ(H.pylori)細胞は胃粘膜層を浸透しかつ横切り、そして胃の内層中の上皮細胞に付着する。H.ピロリ(H.pylori)の少なくとも数種の株はトキシンを産生する能力を有する。H.ピロリ(H.pylori)への感染は宿主免疫系を活性化し、白血球、キラーT細胞および他の感染と闘う作用物質を該領域に送るが、しかし、身体の免疫系は胃の粘液内層中のH.ピロリ(H.pylori)の影響の反転において有効でない。H.ピロリ(H.pylori)細胞は内層中に留まり、そして免疫系は該細胞に対するその応答をエスカレートさせて、利用可能な十分な抗炎症機構が存在しない場合は炎症を創製する。H.ピロリ(H.pylori)への感染の間に、宿主の上皮樹状細胞、ナチュラルキラー細胞、T細胞および他の免疫防禦細胞により生成されるサイトカイン細胞間シグナルタンパク質は、侵襲する病原体に対する免疫応答を伝播する。結果、宿主の好中球が胃上皮に誘引されかつ浸潤し、そして感染の間中そこに留まる。これらの細胞は、とりわけ、上皮細胞中の酸化ならびに結果としての上皮細胞死、潰瘍形成および究極的に発癌に至るスーパーオキシドラジカルのような活性酸素生成物を生成する。H.ピロリ(H.pylori)はまた、胃上皮上への宿主からの栄養素の漏出も誘導してH.ピロリ(H.pylori)細胞を持続させるための栄養源を供給し、また、感染症およびその結果を悪化させる。H.ピロリ(H.pylori)はヒト免疫系を逃れかつ宿主の免疫応答にもかかわらず胃中で生存することが可能であり、そして、この回避の機構が現在の研究の主題である。
【0003】
現在の治療は、本発明の目的である、十分な抗炎症機構を利用可能にすることのような感染に対する宿主の過剰な免疫応答の影響を排除することを試みることよりもむしろ抗生物質およびプロトンポンプ阻害剤によりH.ピロリ(H.pylori)を除菌することに基づいている。
【0004】
かように、H.ピロリ(H.pylori)への感染は、胃炎、消化性潰瘍を包含する胃および十二指腸潰瘍、胃癌、ならびに胃粘膜関連のリンパ様組織のリンパ腫を発症する増大されたリスクを引き起こす。これらの問題はH.ピロリ(H.pylori)細胞により直接引き起こされるわけではないが、しかしH.ピロリ(H.pylori)に応答しての胃内層の炎症により直接引き起こされる。抗生物質と組合せた胃での酸産生を低下させる処置のような、胃および十二指腸潰瘍の症状を改善する多様な処置が使用されている。H.ピロリ(H.pylori)に対する新規ワクチンもまた試みられているがしかし制限された成功を伴う。ヘリコバクター属(Helicobacter)の他の種、ならびに他の胃腸病原体が胃腸の炎症を引き起こし得ることもまた既知である。
【0005】
最近の研究論文では、H.ピロリ(H.pylori)感染を研究している研究者たちは、H.ピロリ(H.pylori)による感染が慢性の炎症応答の一部として胃粘膜のシアル化を導き出す、また、多くの毒性株が従って炎症を起こした部位に付着することがより良好に可能であると結論した(非特許文献1)。
【0006】
胃および胃腸管での炎症は、H.ピロリ(H.pylori)若しくは他の病原体により産生されるもののような抗原性刺激に応答して上皮のマクロファージおよび樹状細胞により産生されるサイトカインとして知られる細胞間シグナルタンパク質により媒介される。上皮とH.ピロリ(H.pylori)若しくはLPSのようなそれにより産生されるエンドトキシンのような抗原との間の接触に際して、上皮中の抗原提示細胞(樹状細胞を包含する)がナイーブなマクロファージにシグナルを伝播し、ナイーブなマクロファージはその後、TNFα、IL−1、IL−6、IL−12を包含する炎症前サイトカインがマクロファージにより産生されるいわゆるTh−1型応答において応答する。これらのサイトカインは順にナチュラルキラー細胞、T細胞および他の細胞を刺激して、炎症の重要なメディエーターであるインターフェロンγ(IFNγ)を産生する。IFNγは炎症応答および細胞傷害性に至る上述された反応の増大につながる。ナイーブなマクロファージはTh−2型応答を伴う抗原にもまた応答し得る。この応答はIFNγにより抑制される。これらのTh−2型細胞はIL−4、IL−5、IL−9およびIL−10のような抗炎症サイトカインを産生する。
【0007】
IL−10はIFNγの産生を阻害しかつ従って免疫応答を低下させることが知られている。Th−1およびTh−2型細胞とそれらのそれぞれのサイトカイン産生との間の均衡が所定の抗原に対する炎症応答の程度を定義する。Th−2型細胞はまた免疫系を介して免疫グロブリンの産生も刺激し得る。低下されたTNFαレベルが存在する胃腸管における抗炎症活性は、高められた上皮細胞(腸管壁内層の完全性)ならびに従って胃腸病原体およびトキシンにより引き起こされる負の影響の低下と相関する。
【0008】
多数の研究の結果は、DNAが腸の上皮細胞に対する抗炎症活性を発揮し得るか、若しくは免疫系を刺激し得ることを示す(非特許文献2)。
【0009】
マウスは無菌動物で起こらない慢性大腸炎を自発的に発症する。マウス大腸炎はヒトクローン病(胃腸管の慢性の重症炎症性疾患)に類似している。クローン病は通常腸で発生するが、しかし胃腸管のどこでも発生するかもしれない。これらの状態は腸内細菌の存在を必要とし、そして双方ともTh−1媒介型のIL−12依存性の形態の大腸炎である。原因および症状の類似性により、大腸炎のマウスモデルおよび他のマウスモデルが炎症応答の成分を直接研究するのに使用され、そして、同一の機構がヒトで当てはまるために、ヒトの胃腸疾患の処置を開発するために使用されることが許容される。
【0010】
ロイテリ菌(Lactobacillus reuteri)は動物の胃腸管の天然に存在する生息細菌の1種であり、そして健康な動物の腸および低pHにもかかわらずまれにヒト胃でもまた慣例に見出される。それは抗菌活性を有することが知られている。例えば特許文献1、2、3、4および5を参照されたい。ロイテリ菌(L.reuteri)細胞をグリセロールの存在下に嫌気的条件下で増殖させる場合に、それらはロイテリン(β−ヒドロキシプロピオンアルデヒド)として知られる抗菌物質を産生する。
【0011】
コリニフォルミス菌(L.coryniformis)はヒト口腔のむしろ一般的な生息細菌である乳酸桿菌(または「乳酸杆菌」ともいう)属(Lactobacillus)のより少なく公知の種である。それは土壌、堆肥および植物材料中でもまた見出し得る。それはサイレージ中にビールを腐らせる菌(beer spoiler)として見出さ
れており、また、良好な乳酸産生ならびに抗真菌活性が報告されている。本明細書で使用されるコリニフォルミス菌(L.coryniformis)MM7単離物(ATCC PTA−4660)はヒト母乳中で見出された。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0012】
【特許文献1】米国特許第5,439,678号明細書
【特許文献2】米国特許第5,458,875号明細書
【特許文献3】米国特許第5,534,253号明細書
【特許文献4】米国特許第5,837,238号明細書
【特許文献5】米国特許第5,849,289号明細書
【非特許文献】
【0013】
【非特許文献1】Science 18:573−578、2002
【非特許文献2】それぞれMadsenらおよびRachmilewitzら、Digestive Disease Week、2002年5月19〜22日、サンフランシスコ・The Moscone Centerでの発表
【発明の概要】
【0014】
免疫調節活性もまた多様な乳酸杆菌と関連づけられている。数種の乳酸杆菌による有効な抗菌活性の可能性が既知である一方、胃腸の炎症を低下させるそれらの能力の実質的な差異が株間に存在したことも、こうした株を選択し得たことも、以前に知られていなかった。
【0015】
従って、ヘリコバクター ピロリ(Helicobacter pylori)によるもののような胃腸の炎症を低下させるそれらの能力について選択された乳酸杆菌属(Lactobacillus)の株を提供することが本発明の一目的である。前記株を増殖させた馴化培地およびそのタンパク質を含有する抽出物を包含するヒトへの投与のためのヘリコバクター ピロリ(Helicobacter pylori)と関連する炎症の処置若しくは予防のための剤を包含する前記株を含有する生成物を提供することが本発明のさらなる一目的である。
【0016】
他の目的および利点は以下の開示および付属として付けられる請求の範囲からより完全に明らかであろう。
本発明は、本明細書に、ヘリコバクター ピロリ(Helicobacter pylori)によるもののような胃腸の炎症を低下させるそれらの能力について選択されたある種の乳酸杆菌属(Lactobacillus)株、およびヒトへの投与のためのヘリコバクター ピロリ(Helicobacter pylori)と関連する炎症の処置若しくは予防のための剤を包含する前記株由来の生成物を含んでなり、かつ、前記株が増殖された馴化(またはならし)培地および該馴化培地のタンパク質を含有する抽出物を包含する。
【0017】
本発明の他の目的および特徴は以下の開示および付属として付けられる請求の範囲からより完全に明らかであろう。
【発明の詳細な記述】
【0018】
本発明は、本明細書に、ヘリコバクター ピロリ(Helicobacter pylori)によるもののような胃腸の炎症を低下させるそれらの能力について選択された乳酸杆菌属(Lactobacillus)の株を含んでなる。こうした株は、コリニフォルミス菌(Lactobacillus coryniformis)MM7、ATCC
PTA−4660およびロイテリ菌(Lactobacillus reuteri)MM2−3、ATCC PTA−4659を包含する。これらの株由来の全細胞若しくは成分を含有する食物、栄養添加物および製剤、医薬若しくは医療用具のような製品を、当該技術分野で既知であるように処方することができ、かつ、一般に、既知のところの摂取可能な支持体および乳酸杆菌属(Lactobacillus)の株若しくはそれ由来の成分を包含する。L.ラムノスス(L.rhamnosus)GG ATCC 53103、ロイテリ菌(L.reuteri)ATCC 55730および他者のような良好なTNFαを低下させる能力を有することが今や同定された以前に既知の株もまた上の製剤中で使用し得る。これらの生成物は、哺乳動物への投与のためのヘリコバクター ピロリ(Helicobacter pylori)と関連する炎症の処置若しくは予防のための剤である。
【0019】
適切なサイトカインを使用するモデル系を使用して、炎症を低下若しくは増大させる因子を決定する。本明細書に提供される実施例において、RAW 264.7マクロファージ細胞(ATCC、メリーランド州ロックビル、ATCC#TIB−71)を使用するマウスマクロファージアッセイを使用して、炎症経路に対するそれらの影響について細菌、主として乳酸杆菌の株をスクリーニングする。IL−10は本アッセイにおいて陽性対照として使用し、IL−10での処理はTNFα(腫瘍壊死因子α)のような炎症前サイトカインの阻害を示す。実験室の培地中のスクリーニングされるべき乳酸杆菌属(Lactobacillus)の株の個々の増殖後に、生存細菌細胞を濾過により除去し、そして上清液体(本明細書で「馴化培地」ともまた呼ばれる)をマクロファージアッセイで試験する。マクロファージは最初に炎症前抗原、例えば精製されたLPS(大腸菌(E.coli)由来のリポ多糖)、黄色ブドウ球菌(S.aureus)由来のリポテイコ酸(lipoteichoic acid)(LTA)または細胞を含まない大腸菌(E.coli)若しくはヘリコバクター属(Helicobacter)の馴化培地で刺激して、TNFαを包含する炎症前サイトカインを産生させる。スクリーニングされるべき細菌由来の推定の免疫調節物質を含有する乳酸杆菌属(Lactobacillus)の株からの馴化培地を、抗原で活性化したマクロファージと共インキュベートする。マクロファージの免疫応答を調節する馴化培地の能力を、細胞によるTNFα産生の変化によりモニターする。該アッセイからのTNFαプロファイルは、マクロファージによるTNFαの産生の低下において最も効果的な株の選択を可能にする。該アッセイ系におけるpH調節を伴う対照実験は、変化させたpHが観察された影響を引き起こし得る可能性を排除する。
【0020】
驚くべきことに、乳酸杆菌属(Lactobacillus)の見かけ上類似の細菌単離物および株は、非常に類似のヒト供給源から生じてもなお、炎症前抗原に応答してのマクロファージによるTNFαの産生に影響する変動するかつ広範に異なる能力を示す。これらの株は遺伝子的に98%まで類似であり得るためにそれらは遺伝子フィンガープリント法によってさえ同定し得ないが、しかしなお免疫細胞に対する非常に異なる影響を示す。かようにスクリーニングされかつマクロファージによる刺激された炎症前サイトカイン産生に対する強い阻害効果を有することが見出された株は、胃中でH.ピロリ(H.pylori)が引き起こす炎症を包含するヒトの胃腸管における炎症の処置においてとりわけ有効である。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】LPSで活性化したマクロファージによるTNFα産生に対する乳酸杆菌属(Lactobacillus)の馴化培地の影響を示す棒グラフである。45種の乳酸杆菌属(Lactobacillus)の株を試験した。
【図2】LPS単独でのマクロファージと比較した、多様な乳酸杆菌属(Lactobacillus)の株からの馴化培地とLPSの存在下におけるマクロファージのTNFα発現の倍数変化を示す棒グラフである。
【0022】
本発明の特徴は、本発明を制限するとして解釈されるべきでない、以下の実施例への参照によりより明瞭に理解されるであろう。
【実施例1】
【0023】
抗炎症性株の選択。
乳酸杆菌属(Lactobacillus)の種(例えばL.ラムノスス(L.rhamnosus)GG ATCC 53103、L.ジョンソニイ(L.johnsonii)ATCC 33200、ロイテリ菌(L.reuteri)MM2−3 ATCC PTA−4659、コリニフォルミス菌(L.coryniformis)、MM7、ATCC PTA−4660を包含する)、および大腸菌(E.coli)Nissleをそれぞれde Man、Rogosa、Sharpe(MRS)およびLuria−Bertani(LB)培地(Difco、メリーランド州スパークス)中で増殖させた。乳酸杆菌の一夜培養物を1.0のOD600(およそ10細胞/mlを表す)まで希釈し、そしてさらに10倍希釈しかつ追加の4、8および24時間増殖させた。ヘリコバクター ピロリ(Helicobacter pylori)(Sydney株SS1)およびヘリコバクター ヘパティクス(Helicobacter hepaticus)3B1(ATCC 51449)を、10%ウシ胎児血清(FBS)を補充したBrucella培地(Difco)中で48時間培養した。培養物を10倍希釈しかつ別の24および48時間増殖させた。細菌細胞を含まない馴化培地を4℃、8500rpmで10分間の遠心分離により収集した。馴化培地を細胞ペレットから分離し、そしてその後0.22μm孔のフィルター装置(Millipore、マサチューセッツ州ベッドフォード)を通して濾過した。
【0024】
マウス単球/マクロファージ細胞系RAW 264.7(ATCC TIB−71)およびRAW 264.7γNO(−)(ATCC CRL−2278)を、炎症応答経路を研究するためのレポーター細胞として使用した。RAW 264.7細胞は、10%FBSならびに2%抗生物質(5000単位/mlペニシリンおよび5mg/mlストレプトマイシン、Sigma)を補充したダルベッコの改変イーグル培地(野性型)若しくはRPMI培地1640(γNO−)(Gibco−Invitrogen、カリフォルニア州カールスバード)のいずれか中で80〜90%コンフルエントまで5%CO 37℃で増殖させた。およそ5×10細胞を96ウェル細胞培養クラスターに接種し、そしてリポ多糖(LPS)活性化および馴化培地の添加前2時間付着させた。ナイーブなRAW 264.7細胞を大腸菌(E.coli)血清型O127:B8(Sigma)からの精製したLPSに曝露させた。活性化培地はウェルあたり20μlの馴化培地に2ng
LPSを添加することにより作成した。マクロファージは、細胞を含まない乳酸杆菌属(Lactobacillus)の馴化培地と前若しくは共インキュベートのいずれかをした。組換えmIL−10(R&D Systems、ミネソタ州ミネアポリス)を陽性対照として使用した。細胞の生存率をトリパンブルー(Invitrogen)排除により評価した。細胞培養上清中のTNF−αの存在はサンドウィッチエンザイムイムノアッセイ、Quantikine M(R)マウスTNF−αイムノアッセイ(R & D Systems)で測定した。
【0025】
LPSで活性化したマクロファージによるTNFα産生に対する乳酸杆菌属(Lactobacillus)馴化培地の影響を図1に示し、これは試験した45株のうち数種の異なる株が活性化されたマクロファージによるTNFα産生を低下させることが可能であることを示す。図2は、LPS単独と比較した、多様な乳酸杆菌属(Lactobacillus)の株でのTNFα発現の倍数変化(fold change)を示す。その後、これらの研究の結果を使用して最も効率的な株を選択した。図中に挙げられるがしかし本文中でとりわけ挙げられない株は乳酸杆菌属(Lactobacillus)の多様な
株、主として試験したロイテリ菌(L.reuteri)である。
【0026】
本実施例において、コリニフォルミス菌(L.coryniformis)MM7、ATCC PTA−4660を、上の方法を使用することにより標準的なヨーグルトへの添加について選択した。コリニフォルミス菌(L.coryniformis)株を、乳製品工業での乳酸杆菌属(Lactobacillus)の標準的増殖方法を使用して増殖かつ凍結乾燥した。その後、本培養物を、伝統的なヨーグルト培養物を使用して、ヨーグルト1グラムあたり10E+7 CFUのレベルで、以前に醗酵させた乳に添加し、そして該ヨーグルトをH.ピロリ(H.pylori)により引き起こされる胃炎の予防としてヒトにより使用した。
【実施例2】
【0027】
馴化培地の使用
上の方法を使用して、1種の効果的にTNFαを低下させる株からの馴化培地(本実験ではロイテリ菌(L.reuteri)ATCC PTA−4659からの培地)を選択した。本培地を、de Man、Rogosa、Sharpe(MRS)(Difco、メリーランド州スパークス)中で該株を増殖させることにより、より大きなスケールで製造した。乳酸杆菌の一夜培養物を1.0のOD600(およそ10細胞/mlを表す)まで希釈し、そしてさらに10倍希釈しかつ追加の24時間増殖させた。細菌細胞を含まない馴化培地を4℃、8500rpmで10分間の遠心分離により収集した。馴化培地を細胞ペレットから分離し、そしてその後0.22μm孔のフィルター装置(Millipore、マサチューセッツ州ベッドフォード)を通して濾過した。その後、標準的方法を使用して馴化培地を凍結乾燥かつ処方して錠剤を作成した。本錠剤を、H.ピロリ(H.pylori)により引き起こされる潰瘍を治療するためにヒトにより薬物として使用した。
【実施例3】
【0028】
ロイテリ菌(Lactobacillus reuteri)株のDNAフィンガープリント法
Lupskiらの米国特許第5,523,217号および同第5,691,136号明細書の方法を使用して、ロイテリ菌(L.reuteri)株のゲノムフィンガープリント法を行った。本方法は、細菌サンプルに一対の外側に向けられたプライマーを添加することによる細菌DNAの増幅を利用する。増幅後、生じるハイブリダイゼーションの伸長産物を大きさにより分離し、そして、大きさ分類した(sized)伸長生成物のパターンを測定することにより細菌の株を特徴付けする。Bacterial BarCodes,Inc.(テキサス州ヒューストン)により、Uprime Eプライマー(1プライマー)を使用してロイテリ菌(L.reuteri)の82種の株について二重のゲル画像を得た。二重のデータ組は比較可能であった。合計で、相互に異なった11クラスター、および独特であるようであった8種のアウトライヤー(outlier)が存在した。
【0029】
TNF−αの低下において有効であることが見出された株(図1および2を参照されたい)は、本方法を使用して一緒に集団を形成せず、この方法でDNAフィンガープリント法を使用することがTNFαを低下させる能力をもつ数種の株を見出すのに十分でないことを示した。
【実施例4】
【0030】
有効な乳酸杆菌属(Lactobacillus)株により産生されるタンパク質の特徴付け
ロイテリ菌(L.reuteri)株MM2−3の馴化培地を包含する多様な有効な乳
酸杆菌属(Lactobacillus)の馴化培地を多様な変性させる化合物で処理して、該細菌由来の推定のイムノモジュリン(immunomodulin)の性質を決定した。かように、馴化培地を反復性の凍結−融解、熱処理、DNAを消化する酵素、プロテアーゼおよび不活性化したプロテアーゼでの消化にかけた。推定のイムノモジュリンはこの方法で本来1種若しくはそれ以上のタンパク質若しくはペプチドであることが決定された。推定のタンパク質イムノモジュリンの大きさを決定するために、馴化培地を濾過により分画し、そして濾液を有効性について試験した。こうして、有効な乳酸杆菌属(Lactobacillus)株の馴化培地の有効成分は大きさがおよそ5kDa若しくはそれ未満であることが見出された。
【0031】
本発明は特定の態様に関して記述した一方、多数の変形、改変および態様が可能であり、そして従って全部のこうした変形、改変および態様は本発明の技術思想および範囲内にあるとみなされるべきであることが認識されるであろう。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
哺乳動物の胃腸管におけるヘリコバクター ピロリ(Helicobacter pylori)感染に関連する胃腸の炎症を低下させる目的で哺乳動物に投与するための乳酸菌株の選択方法であって、
a.ロイテリ菌(Lactobacillus reuteri)株を選択して培養する工程、
b.該菌株からの細胞を含まない培養上清を取得する工程、
c.該上清中でインキュベートされたレポーター細胞のTNFα産生能力について該上清の効果を評価する工程であって、対照試料と比較してレポーター細胞のTNFα産生の低下を乳酸菌株と同定する、上記の評価する工程、
d.該乳酸菌株を選択する工程
を含んでなる、上記の選択方法。
【請求項2】
請求項1に記載の方法により選択されたロイテリ菌(Lactobacillus reuteri)株の生物学的に純粋な培養物に由来するヘリコバクター ピロリ(Helicobacter pylori)に関連する炎症を低下させる成分であって、細胞を含まない上清から得られ、かつ、TNFαのレベルを低下する能力を有する、上記の成分。
【請求項3】
請求項2に記載の成分であって、かつ、タンパク質またはタンパク質の部分である上記の成分。
【請求項4】
請求項3に記載の成分であって、かつ、該タンパク質またはタンパク質の部分が5kDaより小さい、上記の成分。
【請求項5】
摂取可能な支持体、ならびに、請求項1に記載の方法により選択されたロイテリ菌(Lactobacillus reuteri)株に由来するヘリコバクター ピロリ(Helicobacter pylori)に関連する炎症を低下させる成分を含んでなる食物組成物であって、該菌株の増殖後の細胞を含まない上清から得られ、かつ、モデル系を用いて確定されるとTNFαのレベルを低下させる能力を有する、上記の食物組成物。
【請求項6】
請求項5に記載の食物組成物であって、ロイテリ菌(Lactobacillus reuteri)株の生物学的に純粋な培養物の細胞を含む、上記の食物組成物。
【請求項7】
摂取可能な支持体、ならびに、請求項1に記載の方法により選択されたロイテリ菌(Lactobacillus reuteri)株に由来するヘリコバクター ピロリ(Helicobacter pylori)に関連する炎症を低下させる成分を含んでなる栄養補助食品であって、該菌株の増殖後の細胞を含まない上清から得られ、かつ、モデル系を用いて確定されるとTNFαのレベルを低下させる能力を有する、上記の栄養補助食品。
【請求項8】
請求項7に記載の栄養補助食品であって、ロイテリ菌(Lactobacillus reuteri)株の生物学的に純粋な培養物の細胞を含む、上記の栄養補助食品。
【請求項9】
製薬学的担体、ならびに、請求項1に記載の方法により選択されたロイテリ菌(Lactobacillus reuteri)株に由来するヘリコバクター ピロリ(Helicobacter pylori)に関連する炎症を低下させる成分を含んでなる栄養補助食品であって、該菌株の増殖後の細胞を含まない上清から得られ、かつ、モデル系を用いて確定されるとTNFαのレベルを低下させる能力を有する、上記の製薬学的組成物

【請求項10】
請求項9に記載の製薬学的組成物であって、ロイテリ菌(Lactobacillus
reuteri)株の生物学的に純粋な培養物の細胞を含む、上記の製薬学的組成物。
【請求項11】
請求項1に記載の方法により選択された乳酸桿菌(Lactobacillus)株からの抗炎症成分を含んでなるヘリコバクター ピロリ(Helicobacter pylori)に関連する炎症を治療または予防するための薬剤であって、該成分が該菌株の増殖後の細胞を含まない培養上清から得られ、かつ、モデル系を用いて確定されるとTNFαのレベルを低下させる能力を有する、ことに特徴を有する上記の薬剤。
【請求項12】
請求項1に記載の方法により選択された乳酸菌株の細胞を有効成分として含んでなるヘリコバクター ピロリ(Helicobacter pylori)に関連する炎症を治療または予防するための製剤であって、該菌株が哺乳動物の胃腸管におけるヘリコバクター ピロリ(Helicobacter pylori)感染に関連する胃腸の炎症を低下できることに特徴がある上記の製剤。
【請求項13】
細胞が経口で投与されるものである、請求項12に記載の製剤。
【請求項14】
細胞が直腸に投与されるものである、請求項12に記載の製剤。
【請求項15】
請求項12に記載の製剤であって、該菌株が炎症性サイトカイン活性の低下に関連するタンパク質をならし培地で生産するものである、上記の製剤。
【請求項16】
タンパク質が5kDaより小さいことに特徴を有する請求項15に記載の製剤。
【請求項17】
a.ロイテリ菌(Lactobacillus reuteri)株を選択して培養する工程、
b.該菌株からの細胞を含まない培養上清を取得する工程、
c.該上清中でインキュベートされたレポーター細胞のTNFα産生能力について該上清の効果を評価する工程であって、対照試料と比較してレポーター細胞のTNFα産生の低下を乳酸菌株と同定する、上記の評価する工程、
d.該乳酸菌株を選択する工程、および
e.工程d.で選択された乳酸菌株を含む組成物を製造する工程
を含んでなり、かつ、該組成物が哺乳動物の胃腸管におけるヘリコバクター ピロリ(Helicobacter pylori)感染に関連する胃腸の炎症を低下させる目的で哺乳動物に投与されるためのものであることを特徴とする組成物の製造方法。
【請求項18】
請求項17に記載の製造法で製造された乳酸菌株の細胞を含んでなる組成物。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−21015(P2011−21015A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−181713(P2010−181713)
【出願日】平成22年8月16日(2010.8.16)
【分割の表示】特願2004−541392(P2004−541392)の分割
【原出願日】平成15年10月6日(2003.10.6)
【出願人】(504186725)バイオガイア・エイ・ビー (4)
【Fターム(参考)】