説明

ヘルメットの製造方法及びヘルメット

【課題】帽体の外表面の仕上げ処理を短時間で簡単に行うことができるとともに、色や形状、更には模様や絵柄が異なる帽体を所望により多品種、小ロット製造することができ、しかも帽体の外表面の耐衝撃性、耐候性を高めることが可能なヘルメットの製造方法及びそれによって製造されたヘルメットを提供する。
【解決手段】透明又は半透明の熱可塑性樹脂からなる保護シート4の一面に、無模様を含む着色層5と粘着剤層6を順次積層した被覆シート1を用い、帽体2を真空成形炉3の型位置に着脱可能に保持した後、被覆シートの粘着剤層を帽体の外表面2Aに向けて真空成形炉内に配置し、加熱しながら被覆シートの粘着剤層側を減圧して帽体の外表面に密着させ、冷却後、被覆シートの余剰部分8をトリミングにて除去する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、殻体の帽体を有するヘルメットの製造方法及びヘルメットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
ヘルメットの帽体は、頭部を保護するための耐衝撃性と耐候性に加えて、更に軽量性や耐熱性が要求され、ガラス繊維、カーボン繊維、ポリエステル繊維等の繊維と合成樹脂を混合したFRP(繊維強化樹脂)で主に成形されている。FRP製の帽体は、表面に繊維の一部が現れるので、不可避的に微小凹凸が多数発生し、表面が粗面となり、そのままでは見栄えが悪い。そこで、通常は帽体の表面に塗料やクリアーを塗布して表面コーティング層を形成して仕上げている。
【0003】
特許文献1には、液状やゲル状の光硬化樹脂又は熱硬化樹脂を、ポリカーボネート樹脂やABS樹脂からなる帽体の表面に噴霧機によって均一な厚さで吹き付け、紫外線を照射して硬化させて被膜を形成したヘルメットが開示されている。このように、表面に被膜を形成することによって、帽体表面の凹凸を埋めて均すとともに、硬くて丈夫な被膜により帽体を衝撃からの損傷や紫外線劣化から保護するのである。
【0004】
また、特許文献2には、ポリカーボネート樹脂よりなる帽体の外面全体を直接プライマー層で包囲し、該プライマー層の外面に転写法の印刷面を設けこれらをトップコートで全面被覆したヘルメットが開示されている。ここで、プライマー層の外面に転写法の印刷面を設ける方法として、水槽の液面に印刷模様面を上に向けてオブラート等の水溶性薄質膜を浮遊させ、上方よりプライマー層を形成した帽体を下降させて、液圧によって模様面を帽体の全周に付着させるのである。そして、水溶性薄質膜を水洗して除去した後、その上をトップコートで保護するのである。
【0005】
また、特許文献3には、帽体の表面に転写紙を用いて模様を転写したヘルメットが開示されている。転写紙は、熱可塑性樹脂フィルムの一面に模様をスクリーン印刷により形成し、その上に接着剤層を積層したものであり、該接着剤層を帽体の表面に接合して上から押圧し、必要により加熱して帽体表面に接着した後、フィルムを剥離するのである。
【0006】
尚、自動車部品等では、治具(型)を用いてシートを要求形状に真空成形又は真空圧空成形し、その成形したシートやフィルムをインサート成形で殻体表面に付着させ、皮膜のある製品を製作する。しかし、治具(型)を用いてシートを要求形状に真空成形又は真空圧空成形した場合、仕上り寸法の精度が低く、寸分の隙間なく殻体に嵌合被覆させることができない。インサート成形の場合、形状・深さに制限があり、帽体等の深い物には向かない。プリフォームのシートをインサートすることは可能であるが、高度な技術をともなう加工となり価格面でのデメリットがある。
【特許文献1】実用新案登録第3005407号公報
【特許文献2】特開昭58−163709号公報
【特許文献3】特開昭54−56551号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
前述のように、ヘルメットの帽体の少なくとも外表面は、仕上げ処理を施す必要があるが、ここで所望の色の帽体を製造するには、帽体それ自体を目的の色の樹脂材料を用いて成形し、その外表面を透明なトップコートで外被するか、あるいは帽体の外表面を所望の色の塗料で塗装した上を透明なトップコートで外被することになる。しかし、何れの場合も複数種の色のヘルメットを製造するには、その色毎に成形機や塗装機を用意するか、色が混ざらないように成形機や塗装機を長時間かけて調整することが必要であり、昨今の社会的要求である多品種、小ロットの製造には向かない。また、塗料やトップコートを塗装後に乾燥工程が必要であり、模様や絵柄を入れようとすれば、更に転写工程が必要であるのでコストの上昇は避けられない。
【0008】
そこで、本発明が前述の状況に鑑み、解決しようとするところは、帽体の外表面の仕上げ処理を短時間で簡単に行うことができるとともに、色や形状、更には模様や絵柄が異なる帽体を所望により多品種、小ロット製造することができ、しかも帽体の外表面の耐衝撃性、耐候性を高めることが可能なヘルメットの製造方法及びそれによって製造されたヘルメットを提供する点にある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明は、前述の課題解決のために、透明又は半透明の熱可塑性樹脂からなる保護シートの一面に、無模様を含む着色層と粘着剤層を順次積層した被覆シートを用い、帽体を真空成形炉の型位置に着脱可能に保持した後、前記被覆シートの粘着剤層を帽体の外表面に向けて真空成形炉内に配置し、加熱しながら前記被覆シートの粘着剤層側を減圧して帽体の外表面に密着させ、冷却後、被覆シートの余剰部分をトリミングにて除去することを特徴とするヘルメットの製造方法を構成した(請求項1)。
【0010】
また、本発明は、透明又は半透明の熱可塑性樹脂からなる保護シートの一面に、無模様を含む着色層と粘着剤層を順次積層した被覆シートを用い、帽体を圧空成形炉の型位置に着脱可能に保持した後、前記被覆シートの粘着剤層を帽体の外表面に向けて圧空成形炉内に配置し、加熱しながら前記被覆シートの保護シート側を加圧して帽体の外表面に密着させ、冷却後、被覆シートの余剰部分をトリミングにて除去することを特徴とするヘルメットの製造方法を構成した(請求項2)。
【0011】
ここで、前記被覆シートは前記帽体の鍔部を包囲して内面に沿って延び、内面側に所定幅を残した位置で切断され、該被覆シートの縁部を帽体の内面に密着させてなることが好ましい(請求項3)。
【0012】
そして、前記被覆シートは、厚さ0.3〜0.5mmの透明なポリカーボネート製の保護シートの一面に、厚さ20〜40μmの着色層を形成し、その上に厚さ30〜50μmの粘着剤層を形成したものである(請求項4)。
【0013】
また、本発明は、透明又は半透明の熱可塑性樹脂からなる保護シートの一面に、無模様を含む着色層と粘着剤層を順次積層した被覆シートを、帽体の外側面に粘着剤層を密着させて被覆シートで外被するとともに、該被覆シートの周縁部は帽体の鍔部を包囲して帽体の内面側に沿って延び該内面に密着してなることを特徴とするヘルメットを構成した(請求項5)。
【発明の効果】
【0014】
以上にしてなる請求項1又は2に係る発明のヘルメットの製造方法は、帽体の外表面に予め所望の色、絵柄等を印刷した被覆シートを真空成形炉又は圧空成形炉で帽体の外表面に被せるだけであるので、帽体の形状は任意でよく、また成形した帽体の外観に色調的不具合や微小な凹凸があっても生地として使用できる。また、帽体の外表面は保護シートで覆われているので、その下面側の着色層に傷付くことがなく、また帽体の耐衝撃性や耐候性の向上が図れるのである。従来の技術に比べて安価で効率の良い生産ができ、多品種、少ロットの要求に対応できる。
【0015】
請求項3によれば、前記被覆シートは前記帽体の鍔部を包囲して内面側に沿って延びた位置で切断され、該被覆シートの縁部を帽体の内面に密着させてなるので、被覆シートの端部から捲れる恐れがなく、しかも帽体の鍔部を被覆シートで取り囲んで保護することができる。
【0016】
請求項4によれば、帽体の外表面には厚さ0.3〜0.5mmのポリカーボネート製の保護シートが位置するので、耐衝撃性や耐候性に優れたものとなる。
【0017】
請求項5によれば、帽体の外表面が保護シートで覆われ、その下面側の着色層によって所望の色や絵柄を設けた綺麗なヘルメットを提供することができ、また着色層は保護シートで覆われているので傷付くことがなく、しかも耐衝撃性や耐候性に優れたものとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0018】
次に、添付図面に示した実施形態に基づき、本発明を更に詳細に説明する。図1は本発明に係るヘルメットの製造方法の工程を示す簡略説明図、図2は帽体の斜視図、図3は帽体の鍔部の拡大断面図を示し、図中符号1は被覆シート、2は帽体、3は真空成形炉をそれぞれ示している。
【0019】
本発明に係るヘルメットの製造方法は、図1にその概略を示している。先ず、図1(a)に示すように、透明又は半透明の熱可塑性樹脂からなる保護シート4の一面に、無模様を含む着色層5と粘着剤層6を順次積層した被覆シート1を用意する。次に、図1(b)に示すように、前記帽体2を真空成形炉3の型位置に保持具7で着脱可能に保持した後、前記被覆シート1の粘着剤層6を帽体2の外表面2Aに向けて真空成形炉3内に配置する。それから、図1(c)に示すように、前記被覆シート1の全面を均一に加熱しながら前記被覆シート1の粘着剤層6側を減圧して帽体2の外表面2Aに密着させる。最後に、図1(d)に示すように、冷却後、被覆シート1の余剰部分8をトリミングにて除去して帽体2を製造する(図2参照)。このように、少なくとも外表面2Aが被覆シート1で覆われた帽体2に、図示しないブラケット、ハンモック、ヘッドバンド、顎紐等を装着してヘルメットを製造する。
【0020】
ここで、図2(c)、図3に示すように、前記被覆シート1の粘着剤層6側を減圧すると、前記被覆シート1は前記帽体2の外表面2Aに密着した後、該帽体2の鍔部9を包囲して内面2Bに沿って延びて密着する。従って、前記帽体2の内面2Bに沿って延びた前記被覆シート1を、内面側に所定幅を残した位置でトリミングにより切断し、該被覆シート1の縁部10を帽体2の内面2Bに密着させる。
【0021】
前記被覆シート1は、厚さ0.3〜0.5mmの透明なポリカーボネート製の保護シート4の一面に、厚さ20〜40μmの着色層5を形成し、その上に厚さ30〜50μmの粘着剤層6を形成したものである。前記着色層5と粘着剤層6は、通常の印刷法と同様な方法で保護シート4に形成される。
【0022】
本発明で使用する真空成形とは、枚葉シートを加熱軟化させ、シートと型との空間を真空状態にすることにより、シートを型に密着させ、所定の形状を得る方法である。それに対して、本発明は型の代わりに帽体2を真空成形炉3内に置き、被覆シート1を帽体2の外表面2Aに密着させるのである。図1(b)には、真空成形炉3を簡略化して示してあり、低圧側容器11と高圧側容器12とを互に気密状態で閉じることが可能である。前記帽体2を保持する保持具7は低圧側容器11内に設け、該保持具7で保持した帽体2も低圧側容器11内に納まるようにしている。前記被覆シート1は、前記低圧側容器11と高圧側容器12との間に気密状態で挟みこまれて周囲が保持される。そして、前記低圧側容器11内を真空ポンプで引いて減圧するのである。また、前記被覆シート1を加熱するために、前記低圧側容器11又は高圧側容器12の内部、若しくは両容器の内部にヒータを内蔵している。
【0023】
また、真空成形の他に圧空成形も使用することができる。ここで、圧空成形とは、枚葉シートを加熱軟化させ、3〜5kg/cm2の圧縮空気により、シートを型に密着させ、所定の形状を得る方法である。本発明では、型の代わりに帽体2を圧空成形炉内に置き、被覆シート1を帽体2の外表面2Aに密着させるのである。図示しないが、圧空成形炉は前述の真空成形炉3と基本的に同じ構造である。前述の高圧側容器12の内部にコンプレッサーや加圧ポンプから圧縮空気を送り込み加圧するのである。即ち、前記被覆シート1の両面に圧力差を設けて、圧力の高い側から低い側へ変形させて、帽体2の外表面2Aに密着させる原理は同じである。
【0024】
また、真空成形炉3と圧空成形炉を複合化した圧空真空成形炉を用いることも可能である。この圧空真空成形炉では、前記高圧側容器12の内部に圧縮空気を送り込んで加圧するとともに、前記低圧側容器11内を排気して減圧するのである。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】ヘルメットの製造方法の工程を示し、(a)は被覆シートの斜視図、(b)は真空成形炉内に帽体と被覆シートをセットした状態の配置図、(c)は真空成形の途中の状態の簡略断面図、(d)は被覆シートの余剰部分をトリミングにて切断した状態の簡略断面図をそれぞれ示している。
【図2】帽体の外表面を被覆シートで外被した状態の斜視図である。
【図3】帽体の鍔部の拡大断面図である。
【符号の説明】
【0026】
1 被覆シート
2 帽体
2A 外表面
2B 内面
3 真空成形炉
4 保護シート
5 着色層
6 粘着剤層
7 保持具
8 余剰部分
9 鍔部
10 縁部
11 低圧側容器
12 高圧側容器


【特許請求の範囲】
【請求項1】
透明又は半透明の熱可塑性樹脂からなる保護シートの一面に、無模様を含む着色層と粘着剤層を順次積層した被覆シートを用い、帽体を真空成形炉の型位置に着脱可能に保持した後、前記被覆シートの粘着剤層を帽体の外表面に向けて真空成形炉内に配置し、加熱しながら前記被覆シートの粘着剤層側を減圧して帽体の外表面に密着させ、冷却後、被覆シートの余剰部分をトリミングにて除去することを特徴とするヘルメットの製造方法。
【請求項2】
透明又は半透明の熱可塑性樹脂からなる保護シートの一面に、無模様を含む着色層と粘着剤層を順次積層した被覆シートを用い、帽体を圧空成形炉の型位置に着脱可能に保持した後、前記被覆シートの粘着剤層を帽体の外表面に向けて圧空成形炉内に配置し、加熱しながら前記被覆シートの保護シート側を加圧して帽体の外表面に密着させ、冷却後、被覆シートの余剰部分をトリミングにて除去することを特徴とするヘルメットの製造方法。
【請求項3】
前記被覆シートは前記帽体の鍔部を包囲して内面に沿って延び、内面側に所定幅を残した位置で切断され、該被覆シートの縁部を帽体の内面に密着させてなる請求項1又は2記載のヘルメットの製造方法。
【請求項4】
前記被覆シートは、厚さ0.3〜0.5mmの透明なポリカーボネート製の保護シートの一面に、厚さ20〜40μmの着色層を形成し、その上に厚さ30〜50μmの粘着剤層を形成したものである請求項1〜3何れかに記載のヘルメットの製造方法。
【請求項5】
透明又は半透明の熱可塑性樹脂からなる保護シートの一面に、無模様を含む着色層と粘着剤層を順次積層した被覆シートを、帽体の外側面に粘着剤層を密着させて被覆シートで外被するとともに、該被覆シートの周縁部は帽体の鍔部を包囲して帽体の内面側に沿って延び該内面に密着してなることを特徴とするヘルメット。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2007−100272(P2007−100272A)
【公開日】平成19年4月19日(2007.4.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−294415(P2005−294415)
【出願日】平成17年10月7日(2005.10.7)
【出願人】(000107619)スターライト工業株式会社 (62)
【Fターム(参考)】