説明

ベタネコールハロゲン化物の製造方法

【課題】環境に対する影響の少ない化合物を出発原料乃至反応種として使用し、さらには単離可能な安定な中間体を経由してベタネコールハロゲン化物を製造し得る方法を提供する。
【解決手段】カルバミド酸2−ジメチルアミノ−1−メチル−エチルエステルにハロゲン化メチルを反応させることにより、ベタネコールハロゲン化物を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、消化管機能促進薬として知られているベタネコールハロゲン化物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ベタネコールハロゲン化物は、下記式:
【化2】

式中、Xは、ハロゲン原子である、
で表される化合物であり、消化管機能促進薬として古くから市販されている。
【0003】
このようなベタネコールハロゲン化物は、現在、トリメチルアミンを出発原料として、これにプロピレンオキサイド(PO)及び濃塩酸を反応させてβ−メチルコリンクロライドを生成させ、次いでエチレンジクロライド(EDC)及びホスゲン(COCl)を反応させ、生成したホスゲン誘導体にアンモニアを反応させることにより製造されている(特許文献1参照)。この反応スキームは、下記式で表される。
【化3】

【特許文献1】中国特許公開公報CN1067048A
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記先行技術の製造方法は、反応種として、毒性の強いホスゲンや発がん性のベンゼンなどを使用するため、環境衛生上の問題がある。さらに、中間体であるホスゲン誘導体が極めて不安定な化合物であり、単離しにくく、このため、反応条件の調整などが困難であるという問題もある。
【0005】
従って、本発明の目的は、環境に対する影響の少ない化合物を出発原料乃至反応種として使用し、さらには単離可能な安定な中間体を経由してベタネコールハロゲン化物を製造し得る方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明によれば、下記式(1):
【化4】

で表されるカルバミド酸エステルにハロゲン化メチルを反応させてベタネコールハロゲン化物を製造する方法が提供される。
【0007】
本発明の製造方法においては、有機溶媒下で1−ジメチルアミノ−2−プロパノールにカルボニルジイミダゾールを反応させて反応液をスラリー化した後、アンモニアを作用させて前記式(1)で表されるカルバミド酸エステルを合成し、該カルバミド酸エステルに塩化メチル等のハロゲン化メチルを反応させることが好適である。この場合、有機溶媒としては、塩化メチレンが最も好適である。
【発明の効果】
【0008】
本発明においては、式(1)で表されるカルバミド酸エステル、即ち、カルバミド酸2−ジメチルアミノ−1−メチル−エチルエステルにハロゲン化メチルを反応させてベタネコールハロゲン化物を製造するものであるが、このカルバミド酸エステルや塩化メチルは、従来法で使用されているホスゲンやベンゼンのような強い毒性や発がん性を示すものではない。従って、本発明によれば、環境に悪影響を与えることなく、ベタネコールハロゲン化物を製造することができる。
【0009】
また、上記のカルバミド酸エステルは、単離可能な程度に化学的に安定な化合物であり、1−ジメチルアミノ−2−プロパノールを出発原料とし、有機溶媒下でカルボニルジイミダゾールを反応させた後、アンモニアを作用させることにより合成することができる。従って、1−ジメチルアミノ−2−プロパノールを出発原料としてベタネコールハロゲン化物を製造した場合、中間体として生成する式(1)のカルバミド酸エステルが安定なため、この生成等を容易に確認することができ、反応条件等の調整を容易に行うことができる。また、式(1)のカルバミド酸エステルの合成過程においても、環境に悪影響を与える化合物を使用しないという利点がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明において、出発原料として、1−ジメチルアミノ−2−プロパノールを使用し、式(1)のカルバミド酸エステルを中間体として経由してベタネコールハロゲン化物を製造するときの合成スキームは、例えば下記式で表される。尚、式中、CDIは、カルボニルジイミダゾールを示し、RXは、ハロゲン化メチルを示す。
【化5】

以下、上記工程を順に追って説明する。
【0011】
先ず、本発明においては、1−ジメチルアミノ−2−プロパノール(以下、APAと略す)にカルボニルジイミダゾール(CDI)を反応させる。これにより、イミダゾールが脱離しての縮合反応によりAPAのカルバメート誘導体(1−ジメチルアミノ−2−(イミダゾール−1−イルカルボニルオキシ)−プロパン)が生成する。
【0012】
上記の縮合反応は、通常、有機溶媒下で行われ、例えば、APAの有機溶媒溶液にCDIを添加して攪拌混合することにより行われる。この場合、有機溶媒としては、特に塩化メチレン、クロロホルム等のハロゲン化炭化水素が副反応を防止するという点で好適であり、メタノール等のアルコール系溶媒はCDIとの反応が生じてしまうため適当でない。また、APA有機溶媒溶液のAPA濃度は、一般に、1乃至40重量%程度の範囲がよい。
【0013】
また、上記の縮合反応は、通常、50℃以下、特に−30乃至40℃の温度で行うことが好ましい。反応温度を必要以上に高くすると、CDIの分解を生じたり、また副反応が生じ易くなる。さらに、過度に低温にすると、反応速度が低下し、生産効率の低下を生じてしまう。
【0014】
尚、縮合反応(APAのカルバメート化)に際して使用するCDIは、APAに対して化学量論量或いはやや過剰とする。
【0015】
縮合反応の進行に伴い、カルバメート誘導体が生成するが、これに伴い、反応液がスラリー溶液から黄色澄明溶液へと変化する。このような状態となった段階で、アンモニアを反応液中に供給して反応させる。
【0016】
即ち、上記工程で生成したAPAのカルバメート誘導体がアンモニアと反応することにより、該カルバメート誘導体中のイミダゾリル基がアミノ基と置換し、これにより、中間体である前記式(1)で表されるカルバミド酸エステル(カルバミド酸2−ジメチルアミノ−1−メチル−エチルエステル)が得られる。
【0017】
アンモニアの反応液中への供給は、例えばアンモニアのアルコール溶液(例えばイソプロパノール溶液)を上記反応液に添加したり、或いはアンモニアガスを反応液に吹き込むことにより行われる。供給するアンモニア量は、化学量論量或いはやや過剰とするのがよい。反応は、前記と同様、50℃以下、特に−30乃至40℃の温度で攪拌下に行われる。
【0018】
上記のようにして得られる式(1)のカルバミド酸エステルは、白色の結晶であるが、次の反応のために、反応液から溶媒及び未反応のアンモニアを留去し、さらにカラムクロマトグラフィー等による精製処理によって、反応液中に含まれるイミダゾールを除去する。
【0019】
かくして得られるカルバミド酸エステル(カルバミド酸2−ジメチルアミノ−1−メチル−エチルエステル)に、ハロゲン化メチル(即ち、塩化メチル、ヨウ化メチル或いは臭化メチル)を反応させ、ジメチルアミノ基の窒素原子を第4級化することにより、目的とするベタネコールハロゲン化物を得ることができる。
【0020】
ハロゲン化メチルを用いての第4級化は、有機溶媒下でカルバミド酸エステル及び過剰量のハロゲン化メチルを混合し、攪拌下に10乃至50℃程度で反応する。用いる有機溶媒は、第4級アンモニウム化反応を阻害しないものであればよく、例えば、メタノール、エタノール、i−ブタノール、2−エトキシエタノール等のアルコール類、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、i−オクタン等の脂肪族炭化水素類、トルエン、キシレン、ナフタレン等の芳香族炭化水素類、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン等のケトン類、ジエチルエーテル、メチル
t−ブチルエーテル、ジベンジルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル等のエーテル類、クロロホルム、塩化メチレン等のハロゲン化炭化水素類などを使用することができる。
【0021】
上記の反応後、析出した結晶をろ過分離し、減圧乾燥等の処理を行うことによってベタネコールハロゲン化物が得られる。
【実施例】
【0022】
本発明の製造方法を次の実験例で説明する。
【0023】
(中間体製造例1)
この例では、1−ジメチルアミノ−2−プロパノールを原料とし、下記スキームで中間体であるカルバミド酸2−ジメチルアミノ−1−メチル−エチルエステルを合成した。
【化6】

【0024】
3−ジメチルアミノ−2−プロパノール1g(9.69mmol)を塩化メチレン30gに溶解させ、10℃でカルボニルジイミダゾール1.57g(9.69mmol)を加え、30分攪拌し白色結晶の析出を確認した。さらに30分、10℃で攪拌すると反応液は黄色澄明溶液へと変化した。
【0025】
その後、2mol/L−アンモニア/イソプロピルアルコール溶液4.9ml(9.69mmol)を加え、10℃で3時間、室温で7時間攪拌した。反応終了後、反応液を留去し、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製したところ、カルバミド酸2−ジメチルアミノ−1−メチル−エチルエステル0.99gを得た。収率70%。
生成物の確認は1H−NMRにより行った。
【0026】
<1H−NMR>
σ1.25(3H、m)、2.40(7H、m)、2.60(1H、m)、4.88(1H、m)、6.47(2H、s)
【0027】
(中間体製造例2)
溶媒として、塩化メチレンの代わりにメタノールを用いた以外は、中間体製造例1と同様に反応を行ったところ、目的物であるカルバミド酸2−ジメチルアミノ−1−メチル−エチルエステルは全く得られなかった。
【0028】
(中間体製造例3)
2mol/L−アンモニア/イソプロピルアルコール溶液の代わりに、アンモニアガス0.16g(9.69mmol)を吹き込んだ以外は、中間体製造例1と同様にして反応を行い、カルバミド酸2−ジメチルアミノ−1−メチル−エチルエステル1.13gを得た。収率80%。
【0029】
(実施例1)
中間体製造例1で得られたカルバミド酸2−ジメチルアミノ−1−メチル−エチルエステルを用い、下記スキームでベタネコール塩化物を合成した。
【化7】

中間体製造例1で得られたカルバミド酸2−ジメチルアミノ−1−メチル−エチルエステル0.1g(0.68mmol)をメチルt−ブチルエーテル10gに溶解させ、メチルクロライド0.034g(9.52mmol)を加え室温で7日間攪拌した。反応終了後、析出した結晶をろ過し、50℃で12時間、減圧乾燥しベタネコール塩化物0.09gを得た。収率70%。ベタネコール塩化物の同定は元素分析及び1H−NMRにより行った。
【0030】
<元素分析> (下記表1の通り。)
【表1】

<1H−NMR>
σ1.25(3H、m)、3.21(9H、s)、3.70(2H、m)、5.10(1H、m)、6.83(2H、s)

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1):
【化1】

で表されるカルバミド酸エステルにハロゲン化メチルを反応させてベタネコールハロゲン化物を製造する方法。
【請求項2】
有機溶媒下で1−ジメチルアミノ−2−プロパノールにカルボニルジイミダゾールを反応させて反応液をスラリー化した後、アンモニアを作用させて前記式(1)で表されるカルバミド酸エステルを合成し、該カルバミド酸エステルにハロゲン化メチルを反応させる請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記有機溶媒として、塩化メチレンを使用する請求項2に記載の製造方法。

【公開番号】特開2008−150321(P2008−150321A)
【公開日】平成20年7月3日(2008.7.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−339995(P2006−339995)
【出願日】平成18年12月18日(2006.12.18)
【出願人】(000003182)株式会社トクヤマ (839)
【Fターム(参考)】