説明

ベロア調カーペット用捲縮糸およびベロア調カットパイルカーペット

【課題】柔らかな風合い、カーペットのカバーリング性、カーペット表面の審美性(フェルト感のなさ)等、総合的にウールやナイロンスパン捲縮糸に優るとも劣らない高級感溢れる質感を有し、かつナイロン捲縮糸特有の捲縮耐久性を保持したベロア調カーペットを提供する。
【解決手段】ポリアミドマルチフィラメントからなる実質上撚りのない捲縮糸であって、該捲縮糸を構成する捲縮糸の単糸繊度が3〜10dtex、総繊度が300〜900dtexであり、フィラメント数が90〜150本、断面が三葉で、変形度が1.5〜3.0であることを特徴とするベロア調カーペット用捲縮糸およびそれからなるカーペット。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポリアミドマルチフィラメントからなる実質上撚りのないベロア調カーペット用捲縮糸およびそれを用いたカットパイルカーペットに関する。さらに詳しくは、柔らかな風合い、カーペットカバーリング性、カーペット表面の審美性(フェルト感のなさ)等、総合的にウールやナイロンスパン捲縮糸に優るとも劣らない高級感溢れる質感を有し、かつナイロン捲縮糸特有の捲縮耐久性を保持したベロア調カーペット用捲縮糸およびそれを用いた特に高級車用ラインマットに好適なカットパイルカーペットに関する。
【背景技術】
【0002】
車用ラインマットには、その捲縮耐久性、発色性等の特徴を活かして、ポリアミド捲縮糸が好まれて使用されてきた。しかし、近年コストダウンの要求から、性能的にはやや劣るものの、ポリアミド捲縮糸からポリプロピレンやポリエステル捲縮糸への転換が、軽自動車、大衆車および小型車へと進みつつある。
【0003】
そこで、最近では、ポリアミド捲縮糸は、コストがやや高くても通用する高級車の分野での展開が期待されている。高級車のラインマットには、ウールやポリアミドスパン捲縮糸が用いられており、そのスパン糸特有のボリューム感、柔らかな風合い、深みのある色調等による高級感が好まれているが、その反面、スパン糸特有の摩耗時の毛抜けや捲縮耐久性に劣る等の欠点を有していた。カーペット摩耗時の毛抜けは、自動車用途において、ブレーキペダル付近伝達部への付着によるブレーキ性低下の重大な問題が懸念されるため、特にマルチフィラメントへの変換が求められてきた。
【0004】
しかるに、従来のポリアミド捲縮糸およびそれを用いたラインマットは、捲縮耐久性に優れ、深みのある色調等の特徴は有するものの、風合いやカーペット表面の審美性、カーペットカバーリング性といった高級感を構成する官能評価においてウールやポリアミドスパン捲縮糸に劣っていることから、ウールやポリアミドスパン捲縮糸に代わって高級分野のラインマット用カーペットに用いられることは殆どなかった。
【0005】
かかる実情に鑑み、カーペット用ポリアミド捲縮糸に係る様々な検討、例えば、深みのある色調に効果的なダルポリマの適用、ボリューム感に効果的な異形断面および高伸長弾性率を有する捲縮糸技術等が従来からなされており、最近では、単糸繊度が3.0〜7.0dtex、総繊度が200〜700dtex、沸騰水処理後の捲縮伸長率が5〜20%のポリアミドマルチフィラメント捲縮糸を、2本もしくは3本撚り合わせた撚り捲縮糸およびこの撚り捲縮糸を含むカーペットあるいはモケットが、柔らかな風合いで清涼感のある肌触りであり、かつ耐久性に優れたカーペットまたはモケットを与え得る捲縮糸、および特に春から秋にかけての高温多湿の環境下においても好ましく使用可能な家庭用ラグカーペット、家庭用モケットを提供し得る技術として注目されている(特許文献1)。
【0006】
しかしながら、当該技術で得られるポリアミドマルチフィラメント捲縮糸は、その捲縮伸長率が10.2〜10.7%と低く、また撚り数も片撚り捲縮糸で300t/m、諸撚り糸で下撚り320〜350/上撚り320〜350と高い撚り数が適用されているため、同技術が指向している家庭用ラグカーペットや家庭用モケットではそれ相応の効果を発現するものの、例えこれを車用ラインマット用カーペットに適用したとしても、サキソニータイプのカーペットであり、パイルの先端が大きく広がっているベロア調カーペットには不向きである。
【0007】
ポリアミドの捲縮糸であり、総繊度が600〜2000dtexであり、無撚りによるベロア調カットパイルカーペットに関する技術も開示されている(特許文献2)。しかし、捲縮糸を構成する単糸繊度が15〜30dtexと太く、カーペットの風合いが堅いため、ウールやポリアミドのスパン繊維に比べ劣っており、高級分野のラインカーペットへの適用は不向きであった。また、実施例に記載されているように、一般的にカーペットに用いられるフィラメント数の捲縮糸であったため、単糸間の干渉が少なく膨らみに劣り、カーペットのカバーリング力がなく高級ラインマットには不向きであった。
【0008】
総繊度800〜1500dtex、単糸繊度5〜15dtex、無撚りのY型断面捲縮糸のカットパイルカーペットを対象とした技術についても、開示されている(特許文献3)。この場合、高変形度を対象としており、実施例にあるように変形度が3.2〜4.8ものもが示されている。変形度が高い場合、タフティングの際にループパイルをカットし、カットパイルとする場合やシャーリングの際にカット性が悪く、きれいに切りそろえることができないため、カーペット表面の審美性が劣る結果であった。また、変形度が高い場合にカーペットのパイルを毛起こしする工程で、断面が割れるため、毛羽だったフェルトライクな表面となり、ウールやポリアミドスパン繊維よりも劣った高級ラインマットには不向きなカーペットであった。
【特許文献1】特開2002−294525号公報
【特許文献2】特開昭58−91860号公報
【特許文献3】特開2003−193344号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果、達成されたものである。
【0010】
したがって、本発明の目的は、従来のポリアミド捲縮糸では達成できなかった柔らかな風合い、カーペットのカバーリング性、カーペット表面の審美性等、総合的にウールやナイロンスパン捲縮糸に優るとも劣らない高級感溢れる質感を有し、かつナイロン捲縮糸特有の捲縮耐久性、耐摩耗性等を保持したベロア調カーペット用捲縮糸およびそれを用いたラインマット用カットパイルカーペットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明によれば、ポリアミドマルチフィラメントからなる実質上撚りのない捲縮糸であって、該捲縮糸を構成する捲縮糸の単糸繊度が3〜10dtex、総繊度が200〜900dtexであり、フィラメント数が90〜150本、断面が三葉で、変形度が1.5〜3.0であることを特徴とする。
【0012】
なお、本発明のベロア調カーペット用捲縮糸においては、下記(a)〜(b)であることが好ましい。
(a)沸騰水収縮率が3〜8%であること
(b)捲縮伸長率が8〜18%であること。
【0013】
また、本発明のベロア調カットパイルカーペットは、前記捲縮糸を構成素材とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、以下に説明するとおり、従来のポリアミド捲縮糸では達成できなかった柔らかな風合い、カーペットのカバーリング性、カーペット表面の審美性(フェルト感のなさ)等、総合的にウールやナイロンスパン捲縮糸に優るとも劣らない高級感溢れる質感を有し、かつナイロン捲縮糸特有の捲縮耐久性を保持したベロア調カーペット用捲縮糸が提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】

以下、本発明についてさらに詳細に説明する。
【0016】
本発明のベロア調カーペット用捲縮糸に用いられるポリマは、ポリカプロアミド(ナイロン6)やポリヘキサメチレンアジパミド(ナイロン66)であり、本発明の効果を損なわない範囲であれば、共重合成分を含むことや、他のポリアミドポリマとのブレンドも可能である。共重合成分としては、ε−カプラミド、テトラメチレンアジパミド、ヘキサメチレンセバカミド、テトラメチレンイソフタルアミド、テトラメチレンテレフタラミドおよびキシリレンフタラミド等であり、またそれらからなるホモポリマをブレンドすることも可能である。また、米国特許5108684号明細書に記載されているような、アルカリ金属を含有するスルホン化した共重合ポリアミドを用いることもできる。
【0017】
本発明にかかるポリアミドベロア調カーペット用捲縮糸の単糸繊度は、3〜10dtex、好ましくは、4〜9dtexである。3dtex未満では非常に柔らかい風合いが得られるものの、腰が不足し、ボリューム感がなく、高級感にも欠けるため好ましくない。逆に9dtexを越えると、本発明の柔らかな風合い、スパン捲縮糸のような暖かみのある感触が得られないため好ましくない。
【0018】
本発明にかかるベロア調カーペット用捲縮糸は、実質上撚りのないことが必要である。実質上撚りのない捲縮糸とは、捲縮工程の際にかかる微少の単糸単位の撚りは含まない5回/m以下のものをいう。ベロア調カーペットにおける高級感、風合いを出すためにはパイルの広がりが重要であり、撚りがかかっている場合には、パイル先端の撚りをほどき揃えることが難しい。
【0019】
また、本発明にかかるベロア調カーペット用捲縮糸を構成する捲縮糸の総繊度は、300〜900dtex、好ましくは400〜800dtexであり、通常のカーペット用捲縮糸が約1000dtex以上であるのに比べて細繊度であることが特徴である。本発明の細繊度のポリアミドベロア調カーペット用捲縮糸をカーペットに用いることにより、従来のカーペットに比べ、柔らかな風合い、カーペットのカバーリング性、カーペット表面の審美性(フェルト感のなさ)有し、総合的に高級感が得られるのである。総繊度が300dtex未満の捲縮糸を用いた場合は、上記の効果が飽和するばかりか、必要な目付を確保するのにステッチ数が多くなり、タフティングの効率が低下するため好ましくない。一方、900dtexを越えると従来の捲縮糸と同レベルとなり、目的とする効果を十分に得ることができない。
【0020】
本発明にかかるベロア調カーペット用捲縮糸のフィラメント数は、90〜150本であることが必要である。フィラメント数はパイルの膨らみを形成する上で重要な要素である。かかる範囲であれば、フェルトライク防止のための、低捲縮化を実施した場合であってもパイルの膨らみを十分に発現することができる。90本未満の場合、単糸間の干渉が少ないため、パイルの横方向への膨らみが少なく、ウールやポリアミドスパンのような高級感のある風合いを得ることができない。また、150本を超えると、製糸が困難となり、紡糸中の単糸衝突による毛羽が発生するため、品位上、後工程での通過性の点で問題となりうる。
【0021】
本発明にかかるベロア調カーペット用捲縮糸の単糸断面形状は、三葉の異形断面であることが必要である。ベロア調カーペット用捲縮糸において、フェルト感を防止するため、パイルのバルキー性を持たせる手法として従来用いられている高捲縮伸長率を設定することはできない。そのため、単糸間の干渉の大きい三葉断面であることが必要である。他の四葉以上の場合には、本発明は単糸繊度が細いため、断面が壊れやすく、表面品位に劣る結果となる。
【0022】
本発明にかかるベロア調カーペット用捲縮糸の変形度は1.5〜3.0であることが必要である。変形度とは三葉断面の外接円/内接円の比である。かかる範囲であると、パイルの膨らみはもちろんのこと、細単糸であっても断面が壊れることがなく、タフティングの際にループパイルをカットし、カットパイルと成すときやカーペットをシャーリングする際に、カットがしやすく、カット面が綺麗であるため、高級感のあるカーペット表面品位を得ることができる。1.5未満であった場合には、パイルのバルキー性が不足し、3.0を超える場合には、パイルのカットが難しく、カーペットの表面品位が劣り、高級感のあるベロア調カーペットを得ることができない。
【0023】
本発明にかかるポリアミド撚り捲縮糸の沸騰水収縮率は3〜8%であることが好ましい。これは、適度な熱延伸工程での分子鎖の配向と捲縮加工時の熱処理を反映した特性である。つまり、沸騰水収縮率が3%未満では、後述する捲縮伸長率が得られにくくなり、一方、8%を越えると、収縮率が高すぎて染色工程で捲縮がフェルト状となり易く、ボリューム感のない捲縮となる傾向が招かれるからである。
【0024】
本発明にかかるベロア調カーペット用捲縮糸の捲縮伸長率は、8〜18%、特に12〜16%であることが好ましい。つまり、本発明にかかるポリアミド捲縮糸は、比較的高い捲縮伸長率を有することが特徴である。捲縮伸長率が8%未満では、ボリューム感に欠け、捲縮耐久性のある捲縮が得られにくくなり、一方、18%を越える捲縮伸長率になると、捲縮が高すぎて縮こまってしまったり、フェルト状になるなどかえって嵩高性が失われたりすることがある。
【0025】
本発明のベロア調カーペット用捲縮糸はポリアミド捲縮糸の上記特性は、それぞれ個別の特性を従来技術によっても満足させることは可能であったが、全ての特性を満足する捲縮糸の安定な生産は、例えば特開2004−84080号公報に開示された「捲縮ノズルは流体供給部と連通した加熱導入孔を有するハウジングと、糸条導入孔を有しハウジングの一端に取り付けられたニードルと、噴出孔を有しハウジングの他端に取り付けられたベンチュリーにより、糸条導入孔、流体供給部及び噴射ノズル部を形成した糸条の捲縮ノズルであって、ベンチュリー側の先端における前記ニードルの糸条導入孔の直径が1mm以上2mm以下であり、また前記ニードルとベンチュリーが偏心しており、ベンチュリー噴出孔の中心値を基準として、捲縮加工ノズルから排出される糸条を進行させる方法をプラスの偏心方向と定義した場合に、前記ニードルがプラス方向に偏心し、かつその偏心量H(mm)が下記式(1)を満足することを特徴とする捲縮加工ノズル。0.02≦H/N≦0.05(1)式中N(mm)は、ベンチュリー噴出孔の最狭隘部分の直径である」を利用することが好ましい。これまで、カーペット用捲縮糸を製造するにおいて、細繊度での流体噴射捲縮加工は操業上の点で安定して得ることが困難であったため、これまで開発に着手する事が難しかった。また、細繊度を対象とした衣料用における仮より捲縮加工では200〜900dtexは太すぎるため、十分な捲縮をかけることができなかった。該捲縮ノズルを用いることで、本発明における高級ベロア調カーペットに適した細繊度捲縮糸を安定して得ることが容易である。
【0026】
本発明のベロア調カーペット用捲縮糸の効果を最も効率的に発現できる用途は、カットパイルカーペットに仕上げた車用ラインマットである。また、同様に高級感の特徴を活かせる用途である応接室等カーペット、客室用カーペット、家庭用ラグ等としても好適である。
【0027】
本発明のベロア調カーペット用捲縮糸は、目付550〜1000g/m、パイル高さ 5〜8mmであることが好ましい。かかる範囲であれば、高級感とコストパフォーマンスを両立したカーペットを得ることが容易である。
【0028】
次に、本発明の高級車用ラインマットとして好適なカットパイルカーペットおよびそれに用いられるベロア調カーペット用捲縮糸の製造方法について以下に該述する。
【0029】
先ず、ポリアミド捲縮糸は、ポリアミドポリマを公知の溶融紡糸、冷却、給油、延伸、および捲縮処理の各工程からなる通常の捲縮糸製造工程を通すことにより得られる。溶融紡糸装置としては、エクストルーダー型紡糸機でもプレッシャーメルター型紡糸機でも使用可能であるが、製品の均一性、製糸収率等の点ではエクストルーダー型紡糸機の使用が好ましく、特に原着ポリマー等をブレンド紡糸する場合は有利である。
【0030】
溶融紡糸された糸条は、冷風によって冷却固化され、次いで油剤を付与した後、所定の引き取り速度で回転する引き取りローラに捲回して引き取る。引き取り速度は 300〜1000m/分が好ましい。引き取った糸条は、通常、引き続き延伸および捲縮加工を連続して行う。別の方法として、未延伸糸で一旦巻き取った後、別工程で延伸および捲縮加工を行う方法、あるいは延伸糸を一旦巻き取った後、別工程で捲縮加工を行う方法も可能である。
【0031】
本発明にかかるベロア調カーペット用捲縮糸は8〜18%の捲縮伸長率を有するが、そのためには延伸工程で十分な分子鎖の配向を高めてから捲縮加工することが必要である。延伸倍率は2.0〜4.0倍の範囲で行い、伸度が30〜80%となるよう延伸することが好ましい。
【0032】
次いで、延伸された糸条を捲縮付与装置に通して捲縮加工処理する。捲縮は加熱流体加工処理によって行われる。本発明のベロア調カーペット用捲縮糸は900dtex以下の細い総繊度であるため、通常の捲縮加工装置では捲縮特性および捲縮加工性が劣るため困難である。好ましい捲縮装置は、特開2004−84080号公報に開示された捲縮加工ノズル装置であり、該装置を用いた捲縮加工方法によって達成される。通常は、前記の捲縮加工ノズルを有するジェットノズル方式で捲縮加工され、ニードル内を通過する糸条に周囲から加熱蒸気等の高圧の高温流体を接触させ、大気中に放出し冷却することにより捲縮を付与する。さらに、捲縮を固定する目的で、捲縮ノズルを通過した捲縮糸に冷風を吹きつけたり、内部に吸引するロータリーフィルターの表面に捲縮糸を堆積させたりして冷却する方法等も採用される。
【0033】
捲縮加工された捲縮糸に適度なストレッチを与えて、捲縮を一部潜在化させた後、巻き取り機で巻き取る。捲縮糸は巻き取り前に集束性を付与するため交絡処理を与えることもある。
【0034】
このようにして得られる本発明のベロア調カーペット用捲縮糸は、タフティングしてカットパイルカーペットとされる。タフティングは公知の通常の方法で行うことが可能であるが、ベロア調カーペット用捲縮糸の繊度や捲縮特性等を考慮して、ステッチ、ゲージ、パイル高さ等を決定する。本発明のカットパイルカーペットは車用ラインマットであって、カットパイルにタフトするが、特に高級感を発現させるためのタフト規格は、例えば、目付550〜1000g/m、ステッチ30〜50個/インチ、ゲージ1/8〜1/15G、パイル高さ5〜8mmであることが好ましい。
【0035】
そして、タフトされたカットパイルカーペットは、公知の方法により染色およびバッキングが行われる。染色は連続染色、ウィンス染色、あるいはロープ染色等、いずれも可能である。勿論、原着捲縮糸やチーズ染色糸を用いたカーペットは染色することなく、バッキングすることができる。
【0036】
次に、ベロア調カーペット用捲縮糸の集束性を少し乱してボリューム感をだす目的で、起毛処理またはウォータージェットパンチ処理を施すこともある。これらの処理は、バッキング工程に連続して実施しても、別工程で行っても良い。タフト反を一定速度で移動させながら、針または高圧水流を機械的にカットパイル面に衝突させ、ベロア調カーペット用捲縮糸の表層部分の単糸を分離させる。また、表面品位を揃える上で、シャーリングによるパイル表面カットを施しても良い。
【0037】
かくして、本発明のベロア調カーペット用捲縮糸およびそれを用いてなるカットパイルカーペットが得られる。本発明にかかる捲縮糸は、前記本発明で特定した特性を有し、かつそれを用いてなるベロア調カーペット用捲縮糸およびカットパイルカーペットは、柔らかな風合いで肌触りが良く、カーペットのカバーリング性、カーペット表面品位の審美性(フェルト感のなさ)高級感等に優れたカーペットであり、特に高級車用ラインマットとして好適である。
【実施例】
【0038】
以下、実施例により本発明を詳細に説明する。本発明における各特性の定義および測定法は以下の通りである。
【0039】
[硫酸相対粘度]
ポリマー試料を98%硫酸に1重量%の濃度で溶解し、オストワルド粘度計を用いて25℃で測定した。
【0040】
[総繊度]
JIS L1090の方法で正量繊度を測定した。
【0041】
[沸騰水収縮率]
JIS L1017(2002)によって測定した。
【0042】
[捲縮伸長率]
かせ状にした糸条を、20℃、65%RHの室内に3時間放置して放縮させる。次いで、沸騰水中に20分間浸漬して沸騰水処理を行う。沸騰水処理したかせ状の糸条を12時間前述の室内で放置乾燥させる。次に、該糸条を1m程度の長さに切り取り、糸条の総繊度をA(dtex)とすると、17.7A(μN)(1.8A(mg))の初荷重を30秒間加えた後の糸条の長さL1を先ず測定する。
次に、883A(μN)(90A(mg))の定荷重を30秒間加えた後の糸条の長さL2を測定する。本発明における捲縮伸長率G(%)はL1,L2より、以下の式から求める。
G=((L2−L1)/L1)×100(%)。
【0043】
[単糸断面変形度]
単糸断面を切断後、光学顕微鏡を用いて単繊維凸部を外接円の直径(A)と単繊維凹部の内接円の直径(B)を測定し、A/Bにより算出した。単繊維10本の測定の平均値とする。
【0044】
[カーペット評価(1)官能評価]
外観評価による、風合い(柔らかさ)、カバーリング性、表面の審美性(フェルト感のなさ)、腰について、それぞれ以下の通り5段階評価した。
◎:ポリアミドスパン使いベロア調カーペット以上のレベル
○:ポリアミドスパン使いベロア調カーペット同等レベル
△:ポリアミドスパン使いベロア調カーペットにやや劣るレベル
×:従来のBCFベロア調カーペットレベル。
【0045】
[カーペット評価(2)実用評価]
a.捲縮耐久性:JIS L1022の7.に従って、500回繰り返し圧縮後の厚さ減少を測定し、厚さ減少率を求めて以下のとおり評価した。
○:0〜15%
△:16〜30%
×:31%以上。
【0046】
[実施例1]
硫酸相対粘度2.8、酸化チタン0.5重量%を含むナイロン6ポリマを、エクストルーダー型紡糸機を用いて溶融紡糸した。紡糸温度は250℃、Y型孔を有する口金を用いて、変形度が2.6で、捲縮糸の総繊度660dtex、フィラメント数136、単糸繊度4.9dtexとなるよう製糸した。紡糸速度は1400m/分、延伸倍率2.2倍、延伸温度195℃で熱延伸した。次いで、延伸糸条を連続して捲縮ノズルで捲縮処理したのち、0.12cN/dtexをかけてストレッチし、捲縮を潜在化した後、交絡ノズルを通して、約15個/mの交絡を付与して巻き取った。得られた捲縮糸の物性を表1に示した。
【0047】
得られたベロア調カーペット用捲縮糸を、次のタフト規格でタフティングして、カットパイルカーペットとした。
目付:700g/m、ゲージ:1/10G、パイル高さ:8mm、ステッチ数:35個/インチ、パイル:カットパイル。
【0048】
上記カットパイルを、98℃×60分でウインス染色を行い、乾燥して本発明のカットパイルカーペットを得た。得られた本発明カットパイルカーペットの、外観検査および官能テストを行った結果を表1に示した。ポリアミドスパン糸に比べて、風合い、カバーリング性、表面の審美性、腰について良好なものが得られた。
【0049】
[実施例2〜4]
捲縮糸の物性を変えて実施例1と同じタフト規格と染色条件にて、カットパイルカーペットを製造したものについて、実施例2〜4として、表1に示した。実施例2や4の様に単糸繊度を太くすると風合いが硬くなる方向である。一方、実施例3の様に変形度を小さくすると嵩高性が低下するためカバーリング性が無くなる方向である。
【0050】
[比較例1]
総繊度を変えて実施例1と同じタフト規格と染色条件にて、カットパイルカーペットを製造したものについて、比較例1として、表2に示した。総繊度を太くすると、風合い・カバーリング性ともにポリアミドスパン品(比較例7)よりも劣る。
【0051】
[比較例2]
総繊度を変えて実施例1と同じタフト規格と染色条件にて、カットパイルカーペットを製造したものについて、比較例2として、表2に示した。総繊度を290dtexにまで細くすると目付を700g/mにするのにステッチを80個/インチまで多くする必要がある。この場合、タフト機の運転速度が遅いのでタフト生産効率が低下するので好ましくない。
【0052】
[比較例3〜4]
総繊度が同じでフィラメント数を変えて実施例1と同じタフト規格と染色条件にて、カットパイルカーペットを製造したものについて、比較例3,4として、表2に示した。フィラメント数の少ないものと多いものを比較例3と4に示した。少ないものは風合いが硬くなる。多いものは腰がなくパイルが倒れてしまい好ましくない。
【0053】
[比較例5]
変形度を変えて実施例1と同じタフト規格と染色条件にて、カットパイルカーペットを製造したものについて、比較例5として、表2に示した。変形度が大きいものを比較例5に示した。単糸繊度が小さく変形度が大きいものは、タフティングの際にループパイルをカットし、カットパイルとする場合やシャーリングの際にカット性が悪く、きれいに切りそろえることができないため、カーペット表面の審美性が劣る結果であった。また、変形度が高い場合にカーペットのパイルを毛起こしする工程で、断面が割れるため、毛羽だったフェルトライクな表面となり、ウールやポリアミドスパン繊維よりも劣り高級ラインマットには不向きなカーペットであった。
【0054】
[比較例6]
変形度を変えて実施例1と同じタフト規格と染色条件にて、カットパイルカーペットを製造したものについて、比較例6として、表2に示した。変形度が小さいものを比較例6に示した。変形度が小さいものは表面の審美性は問題ないが、カバーリング性が劣ってしまうので好ましくない。
【0055】
[比較例7]
比較のため代表的なポリアミドスパン使いのカーペットを表2に比較例7として示した。
【0056】
【表1】

【0057】
【表2】

【0058】
本発明で特定した全ての条件を満たす実施例1〜4のカットパイルカーペットは、本発明が目的とする効果を発揮するが、そうではない比較例1〜7のベロア調カーペット用捲縮糸およびカットパイルカーペットでは、本発明が目的とする効果が得られないことが明白である。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明は、ポリアミドマルチフィラメントからなる実質上撚りのないベロア調カーペット用捲縮糸およびそれを用いたカットパイルカーペットであり、それを用いた特に高級車用ラインマットに好適に使用可能である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリアミドマルチフィラメントからなる実質上撚りのない捲縮糸であって、該捲縮糸の単糸繊度が3〜10dtex、総繊度が300〜900dtexであり、フィラメント数が90〜150本、断面が三葉で、変形度が1.5〜3.0であることを特徴とするベロア調カーペット用捲縮糸。
【請求項2】
捲縮糸を構成する捲縮糸の沸騰水収縮率が3〜8%、捲縮伸長率が8〜18%であることを特徴とする請求項1に記載のベロア調カーペット用捲縮糸。
【請求項3】
請求項1または2記載のベロア調カーペット用捲縮糸を構成素材とすることを特徴とするベロア調カットパイルカーペット。
【請求項4】
カーペットが目付550〜1000g/m、パイル高さ5〜8mmであることを特徴とする請求項3記載のベロア調カットパイルカーペット。

【公開番号】特開2007−254927(P2007−254927A)
【公開日】平成19年10月4日(2007.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−82845(P2006−82845)
【出願日】平成18年3月24日(2006.3.24)
【出願人】(000003159)東レ株式会社 (7,677)
【Fターム(参考)】