説明

ベンゾオキサジン化合物

【課題】 従来のエポキシ樹脂やフェノール樹脂に代わる新しいタイプの熱硬化性樹脂として注目されているベンゾオキサジン樹脂の前駆体を提供することを目的とする。
【解決手段】 化1の化学式(I)で示されるベンゾオキサジン化合物。
【化1】


(式中、Rは水素原子または、炭素数1〜4の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基を表す。)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ベンゾオキサジン化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
ベンゾオキサジン化合物に関する研究は古くから行われており(例えば、特許文献1)、この物質は、フェノール化合物、アミン化合物及びホルムアルデヒドを反応させることにより合成される(化1の反応式参照)。
【0003】
【化1】

【0004】
ベンゾオキサジン化合物(モノマー)は、加熱することにより開環重合して硬化物であるベンゾオキサジン樹脂(ポリマー)を生成するので、従来の熱硬化性樹脂として知られるエポキシ樹脂やフェノール樹脂に代わる新しいタイプの樹脂として注目されている。
このようなベンゾオキサジン樹脂は、優れた耐熱性、難燃性、耐水性、低熱膨張性(寸法安定性)、電気的特性等を有し、またベンゾオキサジン樹脂の成形物はベンゾオキサジン化合物の溶融体から容易に製造することができ、その成形時には、反応副生物を放出することなくベンゾオキサジン化合物が硬化するので、フェノール樹脂等に比べて歩留まりの向上や成形時の発泡を抑止できるなどの有利な特徴も備えている。また、エポキシ樹脂とは異なって、基本的には硬化剤を必要としない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開昭49−47378号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、ベンゾオキサジン樹脂としての用途が期待される新規なベンゾオキサジン化合物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記の課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、化2の化学式(I)で示される新規なベンジオキサジン化合物を合成し得ることを認め、本発明を完成するに至ったものである。
【0008】
【化2】

(式中、Rは水素原子または、炭素数1〜4の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基を表す。)
【発明の効果】
【0009】
本発明のベンゾオキサジン化合物は、ベンゾオキサジン樹脂の前駆体として有用なものである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のベンゾオキサジン化合物は、適量の溶媒中でフェノール化合物、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン及びホルムアルデヒドを加熱して脱水縮合反応させることにより、合成することができる。
【0011】
前記のフェノール化合物としては、
フェノール、
p−クレゾール、
o−クレゾール、
m−クレゾール
p−エチルフェノール、
o−エチルフェノール、
m−エチルフェノール
p−n−プロピルフェノール、
o−n−プロピルフェノール、
m−n−プロピルフェノール
p−iso−プロピルフェノール、
o−iso−プロピルフェノール、
m−iso−プロピルフェノール
p−n−ブチルルフェノール、
o−n−ブチルフェノール、
m−n−ブチルフェノール
p−sec−ブチルルフェノール、
o−sec−ブチルフェノール、
m−sec−ブチルフェノール
p−iso−ブチルフェノール、
o−iso−ブチルフェノール、
m−iso−ブチルフェノール
p−tert−ブチルルフェノール、
o−tert−ブチルフェノール、
m−tert−ブチルフェノールが挙げられる。
【0012】
前記の9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレンは、化3の化学式で示される2価のアミン化合物である。
【0013】
【化3】

【0014】
前記のホルムアルデヒドとしては、ホルマリン液(水溶液)やパラホルムアルデヒド(固体)を好適に使用することができる。
【0015】
前記の反応に使用される溶媒に特に制限はなく、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール等のアルコール系溶媒の他、ベンゼン、トルエン、キシレン、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、アセトニトリル、ジメチルスルホキシド、1,3−ジメチルイミダゾリジノンなどが挙られる。これらの溶媒は、単独または組み合わせて使用してもよい。
【0016】
前記の反応における加熱温度は、60〜130℃の範囲で適宜設定すればよく、また反応時間は1〜6時間の範囲で適宜設定すればよい。
【0017】
フェノール化合物、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン及びホルムアルデヒドの仕込み割合は、前記化1の反応式に示されるとおり化学量論的に決定されるが、必要に応じて適宜増減させることができる。
【0018】
これらの原料と溶媒の仕込み方法に特に制限はなく、通常の手段により任意の順番で反応容器中に投入すればよい。
【0019】
本発明のベンゾオキサジン化合物は、エポキシ樹脂の前駆体であるエポキシ化合物やフェノール樹脂の前駆体であるフェノール化合物と併用することも可能であり、用途に応じてシリカ、アルミナ、水酸化アルミニウム、ガラス、タルク、クレー、マイカ、炭酸カルシウム、カーボン等の充填材、ガラス繊維、カーボン繊維などの繊維状強化材や色素、離型剤など、従来公知の各種充填剤、添加剤などと共に、熱ロール法またはニーダー法などの公知の方法によって混練して、熱硬化を行う前段階の組成物とすることができる。この組成物を溶融させ、圧縮成形、トランスファー成形あるいは注型などの方法により、通常170℃以上の加熱温度で硬化成形を行なうことができる。
なお硬化助剤として、酸または塩基を触媒的に用いることにより、硬化を促進させることができる。酸としては安息香酸、p−トルエンスルホン酸のような有機酸、塩基としては2−エチル−4−メチルイミダゾールに代表されるイミダゾール化合物が挙げられる。
【0020】
また、本発明のベンゾオキサジン化合物を、トルエン、キシレン、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン等の溶剤に溶解させてワニスを調製し、該ワニスを銅箔、ポリイミドフィルム、ポリエチレンテレフタレートフィルム等の上に塗布し、加熱することによりフィルム状の硬化物を得ることもできる。
あるいは、前記のワニスをガラス繊維、カ−ボン繊維、ポリエステル繊維、ポリアミド繊維、アルミナ繊維、紙等の基材に含浸させて乾燥したプリプレグを、加熱加圧してシート状の硬化物とすることも可能である。
【0021】
本発明のベンゾオキサジン化合物は、電子部品の封止材料、注型材料、回路基板の成型材料、積層材料、塗料、接着剤、レジストインクなどの原料として好適なものである。

【実施例】
【0022】
以下、本発明を実施例に示した合成試験によって具体的に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、合成試験において使用した主な原料は次のとおりである。
【0023】
[原料]
・p−クレゾール:和光純薬工業社製
・p−tert−ブチルフェノール:DIC社製
・9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン:JFEケミカル社製
・ホルムアルデヒド:35〜38%ホルムアルデヒド液、和光純薬工業社製
【0024】
〔実施例1〕
<3,3’−(9H−フルオレン−9−イリデンジ−4,1−フェニレン)ビス(6−メチル−3,4−ジヒドロ−2H−1,3−ベンゾオキサジン)の合成>
反応容器に、p−クレゾール8.1g(75mmol)、9,9−ビス(4−アミノフェニル)フルオレン8.71g(25mmol)及びホルムアルデヒド液11.25g(130〜140mmol)と、溶媒としてトルエン30gを投入し、撹拌しながら120℃まで昇温し、生成した水を系外へ抜きながら3時間反応を行なった。その後、反応液を10℃まで冷却し、メタノール30gを加え析出物を濾取し、メタノールにて洗浄し乾燥して、白色の結晶を15.21g(収率99.3%)得た。
【0025】
得られた結晶の融点およびH−NMRスペクトルデータは、以下のとおりであった。
・mp.
199-204℃
1H-NMR (CDCl3) δ:2.27(s, 6H, メチル基),
4.54(s, 4H, オキサジン環4位のメチレン), 5.28(s, 4H, オキサジン環の2位のメチレン), 6.7〜7.8(m, 22H, 芳香環)
IRスペクトルデータは、図1に示したチャートのとおりであった。
これらのスペクトルデータより、得られた生成物は、化4の化学式で示される3,3’−(9H−フルオレン−9−イリデンジ−4,1−フェニレン)ビス(6−メチル−3,4−ジヒドロ−2H−1,3−ベンゾオキサジンであるものと同定した。
【0026】
【化4】

【0027】
〔実施例2〕
<3,3’−(9H−フルオレン−9−イリデンジ−4,1−フェニレン)ビス(6−(1,1−ジメチルエチル)−3,4−ジヒドロ−2H−1,3−ベンゾオキサジン)の合成>
p−クレゾール8.1g(75mmol)の代わりに、p−tert−ブチルフェノール10g(67mmol)を使用した以外は、実施例1と同様にして反応を行った。次いで、反応液を室温まで冷却し、2N水酸化ナトリウム水溶液50gで1回、イオン交換水50gで2回分液洗浄を行なった。分液後の反応液を減圧下にて乾固させ、得られた乾固物をメタノールで洗浄、乾燥してクリーム色の粉末状物16.2g(収率93%)を得た。
【0028】
得られた粉末状物の重合開始温度、H−NMRスペクトルデータは、以下のとおりであった。
・重合開始温度:約240℃(TG/DTA、昇温速度10℃/分、N中)
注:融点は認められない
1H-NMR (CDCl3) δ:1.26(s, 18H,
tertブチル基), 4.55(s, 4H, オキサジン環4位のメチレン), 5.25(s, 4H,オキサジン環の2位のメチレン), 6.7〜7.8(m,
22H, 芳香環)
IRスペクトルデータは、図2に示したチャートのとおりであった。
これらのスペクトルデータより、得られた生成物は、化5の化学式で示される3,3’−(9H−フルオレン−9−イリデンジ−4,1−フェニレン)ビス(6−(1,1−ジメチルエチル)−3,4−ジヒドロ−2H−1,3−ベンゾオキサジンであるものと同定した。
【0029】
【化5】

【0030】
なお、実施例1および実施例2において合成した本発明のベンゾオキサジン化合物の有機溶媒への溶解性は、次のとおりであった。
溶解性:トルエン、アセトン、テトラヒドロフランに易溶。水、メタノールに不溶。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】実施例1で得られた生成物のIRスペクトルチャートである。
【図2】実施例2で得られた生成物のIRスペクトルチャートである。
【産業上の利用可能性】
【0032】
本発明によれば、従来のエポキシ樹脂やフェノール樹脂に代わる新しいタイプの熱硬化性樹脂として注目されているベンゾオキサジン樹脂の前駆体を提供することができる。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
化1の化学式(I)で示されるベンゾオキサジン化合物。
【化1】

(式中、Rは水素原子または、炭素数1〜4の直鎖状もしくは分岐鎖状のアルキル基を表す。)


【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2010−285348(P2010−285348A)
【公開日】平成22年12月24日(2010.12.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−117316(P2009−117316)
【出願日】平成21年5月14日(2009.5.14)
【出願人】(000180302)四国化成工業株式会社 (167)
【Fターム(参考)】