説明

ベンゾ[c]フェナンスリジン誘導体の製造法

【課題】有機スズ水素化物を用いないベンゾ[c]フェナンスリジン誘導体の製造法が求められている。
【解決手段】 下記一般式(1)
【化1】


[式中、R1、R2はそれぞれ独立して水酸基、水素原子又は低級アルコキシ基、或いはR1とR2が結合してメチレンジオキシ基を示し、Xはハロゲン原子を示し、R3は保護基を示す]で表される化合物を、有機シリル水素化物を用いる閉環反応に付し、続いて酸化剤による芳香化を行うことを特徴とする一般式(2)
【化2】


[式中、R1、R2、R3は上記と同じ意味を示す]で表されるベンゾ[c]フェナンスリジン誘導体の製造法を提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抗腫瘍活性及び血小板凝集抑制作用を有し、医薬品として期待されるベンゾ[c]フェナンスリジン中間体の新規合成法に関する。
【背景技術】
【0002】
今日、癌患者に対する化学療法にはアルキル化剤、核酸代謝拮抗剤、抗生物質、及び植物アルカロイド等が用いられている。又、血栓症は血小板の粘着及び凝集によっておこり、脳梗塞、循環器障害、癌性DIC等の他、癌の転移にも関与することが知られている。
【0003】
一般式(2)で表されるベンゾ[c]フェナンスリジン誘導体は抗腫瘍性化合物の中間体として知られており、一般式(1)で表される化合物より有機スズ水素化物による閉環反応、酸化剤での芳香化反応により得られることが報告されている(特許文献1、2)。7−ベンジルオキシ−8−メトキシ−2,3−メチレンジオキシ−ベンゾ[c]フェナンスリジンは公知化合物である(特許文献1参照)。又、その製造法は、特許文献2に記載されているが、有機スズ水素化物を用いるものである。
【0004】
【特許文献1】特開平5−208959号公報
【特許文献2】特開平7−258218号公報
【0005】
しかしながら、反応に有機スズ水素化物(以下スタナン試剤という。)を用いる方法は、スタナン試剤が毒性を有するために、工程上後処理等の安全性上大きな問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
このように抗腫瘍剤として有用なベンゾ[c]フェナンスリジンの製造において、スタナン試剤を使用することのない簡便な製造法が求められていた。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は鋭意研究を重ねた結果、抗腫瘍剤であるベンゾ[c]フェナンスリジン誘導体の中間体の製造法において毒性のあるスタナン試剤を用いずに有機シリル水素化物で有機ラジカル反応がすみやかに進行することを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は
(1)下記一般式(1)
【0009】
【化5】

【0010】
[式中、R1、R2はそれぞれ独立して水酸基、水素原子又は低級アルコキシ基、或いはR1とR2が結合してメチレンジオキシ基を示し、Xはハロゲン原子を示し、R3は保護基を示す]で表される化合物を、有機シリル水素化物を用いる閉環反応に付し、続いて酸化剤による芳香化を行うことを特徴とする一般式(2)
【0011】
【化6】

【0012】
[式中、R1、R2、R3は上記と同じ意味を示す]で表されるベンゾ[c]フェナンスリジン誘導体の製造法、
【0013】
(2)下記一般式(3)
【0014】
【化7】

【0015】
[式中、R3は保護基を示す]で表される化合物を有機シリル水素化物を用いる閉環反応に付し、続いて酸化剤による芳香化を行うことにより一般式(4)
【0016】
【化8】

【0017】
[式中、R3は上記と同じ意味を示す]で表されるベンゾ[c]フェナンスリジン誘導体を得ることを特徴とする、前記(1)に記載の製造法、
【0018】
(3)有機シリル水素化物がトリス(トリメチルシリル)シランである前記(1)または(2)に記載のベンゾ[c]フェナンスリジン誘導体の製造法、
に関する。
【発明の効果】
【0019】
本発明により、抗腫瘍剤の中間体として有用なベンゾ[c]フェナンスリジン誘導体の製造において毒性を有するスタナン試剤を使用することなく、毒性の低い有機シリル水素化物で有機ラジカル反応がすみやかに進行し、目的とする化合物を簡便な装置で環境にもやさしい条件で製造することが可能となった。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明における低級アルコキシ基とは例えばメトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、i−プロポキシ、n−ブトキシ、i−ブトキシ、t−ブトキシ、ペントキシ等のC1〜C5のアルコキシ基が挙げられるが、好ましくはメトキシ、エトキシ、n−プロポキシ、i−プロポキシのC1〜C3のアルコキシ基が好ましい。
【0021】
ハロゲン原子としては塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子が使用できるが、一般的に臭素原子が使用される。
【0022】
また、一般式(1)及び(2)における保護基R3としてはヒドロキシル基の保護基であれば特に制限は無いが、例えば、アセチル、ベンゾイルのようなアシル(C2〜C8)基、C1〜C6のアルキルカルボニルまたは枝分かれしたアルキル(C3〜C6)基のようなC3〜C10炭化水素基又は置換、無置換のベンジル基が挙げられる。この中で好ましくは置換又は無置換ベンジル基のようなベンジル系保護基、または枝分かれしたアルキル(C3〜C5)基が好ましい。
【0023】
一般式(1)で表される化合物としては、例えば、以下の様な化合物が挙げられる。これによって、本発明化合物が限定されるものではない。
【0024】
N−(2’−ベンジルオキシ−6’−ブロモ−3’−メトキシベンジル)−6,7−メチレンジオキシ−1−ナフチルアミン
N−(2’−ベンジルオキシ−6’−ブロモ−3’−メトキシベンジル)−6−メトキシ−7−イソプロポキシ−1−ナフチルアミン
N−(2’−ベンジルオキシ−6’−ブロモ−3’−メトキシベンジル)−6−イソプロポキシ−7−メトキシ−1−ナフチルアミン
N−(2’−ベンジルオキシ−6’−ブロモ−3’−メトキシベンジル)−6,7−ジイソプロポキシ−1−ナフチルアミン
N−(2’−ベンジルオキシ−6’−ブロモ−3’−メトキシベンジル)−1−ナフチルアミン
【0025】
中でも一般式(3)で表される化合物が好ましく、上記ではN−(2’−ベンジルオキシ−6’−ブロモ−3’−メトキシベンジル)−6,7−メチレンジオキシ−1−ナフチルアミンが好ましい。
【0026】
一般式(2)で表される化合物としては、例えば、以下の様な化合物が挙げられる。これによって、本発明化合物が限定されるものではない。
【0027】
7−ベンジルオキシ−8−メトキシ−2,3−メチレンジオキシ−ベンゾ[c]フェナンスリジン
7−ベンジルオキシ−3−イソプロポキシ−2,8−ジメトキシ−ベンゾ[c]フェナンスリジン
7−ベンジルオキシ−2−イソプロポキシ−3,8−ジメトキシ−ベンゾ[c]フェナンスリジン
7−ベンジルオキシ−2,3−ジイソプロポキシ−8−メトキシ−ベンゾ[c]フェナンスリジン
7−ベンジルオキシ−8−メトキシ−ベンゾ[c]フェナンスリジン
【0028】
中でも一般式(4)で表される化合物が好ましく、上記では7−ベンジルオキシ−2,3−メチレンジオキシ−8−メトキシ−ベンゾ[c]フェナンスリジンが好ましい。
【0029】
一般式(1)で示される化合物は、例えば、以下のように合成することができる。
【0030】
下記一般式(5)
【0031】
【化9】

【0032】
[式中、R1、R2はそれぞれ独立して水酸基、水素原子又は低級アルコキシ基、或いはR1とR2が結合してメチレンジオキシ基を示す。]で表されるナフチルアミンと
【0033】
下記一般式(6)
【0034】
【化10】

【0035】
[式中、Xはハロゲン原子を示す。R3は保護基を示す]で表されるベンズアルデヒドをトルエンまたはベンゼン中80℃から110℃に1時間から3時間加熱後濃縮し、アミノ基とアルデヒド基の縮合により副生する水を、トルエンまたはベンゼンとの共沸により効果的に系外に除く。望ましくは濃縮残留物に新たにトルエンまたはベンゼンを加えて加熱後濃縮という上記操作を2ないし4回繰り返し、脱水縮合生成物(シッフ塩基)をほぼ定量的に得る。
【0036】
脱水縮合生成物の縮合部位二重結合を還元剤により還元して、一般式(1)で表される化合物が得る。還元剤はCN二重結合を還元するものならどれでも良いが、特に水素化ほう素シアノナトリウム又はジメチルアミノボランを使い、反応温度を−10℃から40℃の低温にするのが望ましい。
【0037】
次いで、本発明の製造法について説明する。
【0038】
一般式(1)で示される化合物を有機溶媒中で有機シリル水素化物たとえば炭化水素(C1〜C10)シリル水素化合物、好ましくは炭化水素(C1〜C3)シリル水素化物、たとえばトリス(トリメチルシリル)シラン、トリエチルシリルヒドリド、またはジ−炭化水素(C1〜C3)シリル水素化物、例えばジフェニルシリルヒドリドを用い閉環(ハロゲン化水素の脱離反応による縮合反応)を行う。この中で通常用いられる好ましい有機シリル水素化物はトリス(トリメチルシリル)シランである。この反応を行うには一般式(1)で示される化合物と1当量から6当量、好ましくは1.5当量から3当量の有機シリル水素化物を有機溶媒、好ましくはC6〜C10の炭化水素系溶媒、例えばトルエン、キシレンまたはベンゼンに溶解し、好ましくはラジカル反応開始剤、例えば、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、2,2’−アゾビス(2,4’−ジメチルバレロニトリル)、または過酸化ベンゾイルなどを加えて60℃から150℃、好ましくは80℃から150℃で、2分〜4時間好ましくは5分〜2時間加熱し、閉環を完結する。
【0039】
その後、好ましくは反応混合液から生成物を分離することなしに、酸化剤による閉環部の酸化的芳香化を0から100℃好ましくは10〜40℃の範囲の温度で、1〜120分好ましくは5〜50分間行い一般式(2)で示される化合物を得る。この反応には種々の酸化剤を使うことが出来、例えば活性二酸化マンガン、四酢酸鉛、酢酸水銀またはジクロロジシアノベンゾキノン(DDQ)、好ましくは活性二酸化マンガンが使用される。
【0040】
必要に応じて通常の有機合成反応に用いられる単離・精製法により反応物から目的化合物が得られる。
【0041】
以上でベンゾ[c]フェナンスリジン骨格の構築が完成する。本発明の製造法では従来の製造法で用いる有毒なスタナン試薬の代わりに有機シリル水素化物を使用することによって、反応性・収率を損なうことなく後処理等の安全性が確保される。得られた一般式(2)もしくは一般式(4)で表されるベンゾ[c]フェナンスリジン誘導体は特許文献1、2に記載の方法を用いて抗腫瘍活性を有するベンゾ[c]フェナンスリジニウム誘導体に導くことができる。
【実施例】
【0042】
以下に本発明化合物の製造例について、実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら制限されるものではない。
【0043】
実施例1
7−ベンジルオキシ−8−メトキシ−2,3−(メチレンジオキシ)−ベンゾ[c]フェナンスリジンの合成
N−(2’−ベンジルオキシ−6’−ブロモ−3’−メトキシベンジル)−6,7−メチレンジオキシ−1−ナフチルアミン10g(20.3mmol)をトルエン1Lに溶解し、還流させた。この溶液にトリス(トリメチルシリル)シラン7.57g(30.5mmol)、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)5.85g(30.5mmol)を加えた。1.5時間後、反応液を室温まで冷却し、活性二酸化マンガン12gを加えて3.5時間かき混ぜた。次にマンガンをろ別して減圧濃縮後、残留物を酢酸エチル300mL、炭酸水素ナトリウム水溶液300mLを加えて分液ロートに移し、酢酸エチルで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで脱水後、ろ過、濃縮した。残留物を少量のクロロホルムで加温しながら溶解し、溶解を確認後、これにヘキサン180mLを徐々に加え、生成する結晶をろ取し、ヘキサンで洗浄後乾燥して目的化合物4.1g(9.94mmol)を得た。
【0044】
淡黄白色粉末
H−NMR(200MHz、CDCl)ppm:
4.07(s,3H),5.32(s,2H),6.13(s,2H),7.26(s,1H),7.34〜7.46(m,3H),7.58(dd,J=8.0,1.5Hz,2H),7.61(d,J=9.1Hz,1H),7.84(d,J=9.1Hz),8.34(d,J=9.0Hz,1H),8.36(d,J=8.9Hz,1H),8.70(s,1H),9.75(s,1H)
【0045】
実施例1から明らかなように、有機シリル水素化物を用いる本発明の製造法により従来の製造法で用いられてきた有毒なスタナン試薬を使用せずとも、反応性・収率を損なうことなく後処理等の安全性が確保された上で、ベンゾ[c]フェナンスリジン誘導体を得ることができる。得られた一般式(2)もしくは一般式(4)で表されるベンゾ[c]フェナンスリジン誘導体は特許文献1、2に記載の方法を用いて抗腫瘍活性を有するベンゾ[c]フェナンスリジニウム誘導体に導くことができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)
【化1】

[式中、R1、R2はそれぞれ独立して水酸基、水素原子又は低級アルコキシ基、或いはR1とR2が結合してメチレンジオキシ基を示し、Xはハロゲン原子を示し、R3は保護基を示す]で表される化合物を、有機シリル水素化物を用いる閉環反応に付し、続いて酸化剤による芳香化を行うことを特徴とする一般式(2)
【化2】

[式中、R1、R2、R3は上記と同じ意味を示す]で表されるベンゾ[c]フェナンスリジン誘導体の製造法。
【請求項2】
下記一般式(3)
【化3】

[式中、R3は保護基を示す]で表される化合物を、有機シリル水素化物を用いる閉環反応に付し、続いて酸化剤による芳香化を行うことにより一般式(4)
【化4】

[式中、R3は上記と同じ意味を示す]で表されるベンゾ[c]フェナンスリジン誘導体を得ることを特徴とする、請求項1に記載の製造法。
【請求項3】
有機シリル水素化物がトリス(トリメチルシリル)シランである請求項1または2に記載のベンゾ[c]フェナンスリジン誘導体の製造法。

【公開番号】特開2006−143625(P2006−143625A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−333763(P2004−333763)
【出願日】平成16年11月17日(2004.11.17)
【出願人】(000004086)日本化薬株式会社 (921)
【Fターム(参考)】