説明

ベントストリンガ、航空機の主翼

【課題】耐雷性を高めるとともに、翼の製作を効率よくかつ高精度に行うことのできるベントストリンガ、航空機の主翼を提供することを目的とする。
【解決手段】ベントストリンガ20を、翼パネル11の内表面11aに直交する方向に立ち上がる一対のリブ21、21と、これらリブ21、21の先端部上に設けられたカバー22とから形成した。リベット23が翼パネル11の外表面11bに露出していないため、落雷時にリベット23を通して主翼10の内部に設けられた燃料タンク30にスパークが生じるのを防ぐ。さらに、リブ21は、翼パネル11と一体に削り出して形成されるため、翼パネル11の湾曲形状に合せて高精度に形成される。一方、カバー22は、帯状の部材を翼パネル11およびリブ21の形状に合わせて湾曲させるのみでよい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、航空機の主翼に設けられるベントストリンガ、航空機の主翼に関する。
【背景技術】
【0002】
航空機の主翼の内部には燃料タンクが設けられている。また、主翼には、燃料タンク内の燃料が減少したときに、タンク内の圧力が負圧になるのを防ぐため、燃料タンク内に空気を外部から導入するベント部材が設けられている。また、ベント部材は、地上での再給油時にタンク内が過加圧となるのを防ぐ機能も果たしている。ベント部材は、主翼の外部に空気導入ダクトを有し、この空気導入ダクトから取り入れた空気を燃料タンク内に供給する。
【0003】
ベント部材は、主翼の外表面を形成する翼パネルの内周面側に、主翼の翼長方向に沿って連続するよう設けられている(例えば、非特許文献1参照。)。このようなベント部材には、チューブ状の配管を主翼パネルの内周面に取り付けたベントチューブと、主翼パネルの内周面を流路壁の一部として利用したベントストリンガとがある。
【0004】
図7に示すように、ベントストリンガ1は、翼パネル2の内周面2aに、溝状のストリンガ部材3を取り付けることで構成される。ストリンガ部材3は、略U字状断面の本体部3aを有し、本体部3aの開口端側に、側方に広がるフランジ部3bを有している。そして、フランジ部3bを翼パネル2の内周面2aに突き当て、フランジ部3bと翼パネル2の内周面2aをリベット4等の締結部材で締結している。このようにして、ストリンガ部材3が翼パネル2の内周面2aに固定されることで、ストリンガ部材3の本体部3aの内周面3cと、翼パネル2の内周面2aとにより、主翼の外部から燃料タンク5内に導入される空気の流路が形成されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Michael C. Y. Niu 「Airframe Structural Design」 Conmilit Press Ltd. 1988年 p.259, Fig.8.3.7(c)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかし、上述したような構成においては、耐雷性の面で課題を有する。すなわち、ストリンガ部材3を翼パネル2の内周面2aに固定するために、フランジ部3bと翼パネル2の双方を貫通するリベット4等の締結部材が用いられている。そして、このリベット4は、一端が翼パネル2の外周面2bに露出し、他端が燃料タンク5内に露出する。
したがって、落雷した場合、リベット4等の締結部材を通して、主翼内の燃料タンク5内でアーク放電(スパーク)が発生する可能性がある。このため、被雷時における燃料タンク5内におけるアーク放電の発生を確実に抑える必要がある。
【0007】
また、リベット4による締結作業は、例えば翼パネル2の外周面2b側からリベット材を挿入し、内周面2a側でかしめ作業を行う等、翼パネル2の内周面2a側と外周面2b側とで行わなければならず、手間がかかるという問題もある。
【0008】
さらに、翼パネル2やストリンガ部材3は、主翼の形状に合わせて湾曲成形する必要がある。これらを湾曲成形するには、ピーニング法(Peen forming)をはじめとして、様々な手法が用いられているが、いずれの場合も、翼パネル2とストリンガ部材3とを、それぞれ精度良く所定形状に成形する必要がある。しかし、特にストリンガ部材3は、略U字状の断面形状を有しているため、剛性が高く、残留応力による変形の戻り等もあるため、翼パネル2とストリンガ部材3とがその全体で平均して突き当たるように成形するのが非常に困難となっている。
本発明は、このような技術的課題に基づいてなされたもので、耐雷性を高めるとともに、翼の製作を効率よくかつ高精度に行うことのできるベントストリンガ、航空機の主翼を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
かかる目的のもと、本発明のベントストリンガは、翼の外表面を形成する翼パネルにおいて、翼の内側に面する内表面に一体に形成され、翼の翼長方向に連続する一対のリブと、一対のリブの先端部間を塞ぐよう設けられたカバーと、を備えることを特徴とする。
リブとカバーは、どのように締結しても良いが、例えば、リブの先端部に形成されたフランジ部にカバーを突き当て、カバーとフランジ部とを締結部材により一体に締結することができる。
このようにして、リブとカバーは、翼パネルよりも翼の内側で締結することができる。
ここで、リブは、翼パネルと同じ金属母材から削り出して形成するのが好ましい。
【0010】
ところで、カバーは、リブへの取り付け作業時の作業性、取扱い性から、翼の翼長方向にカバーを区分した複数枚のカバー部材によって構成することがある。
この場合、カバーが、翼の翼長方向に複数枚のカバー部材を並べて接合することにより形成され、翼長方向において互いに前後するカバー部材どうしの端部に、それぞれベントストリンガの外方に向けて立ち上がるフランジが設けられるとともに、互いに前後するカバー部材のフランジどうしが、翼長方向に軸線を有する接合ピンにより接合された構成とすることもできる。
【0011】
また、本発明は、翼の外表面を形成する翼パネルと、上記したようなベントストリンガと、を備えることを特徴とする航空機の主翼とすることもできる。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、リブとカバーは、翼パネルよりも翼の内側で締結することができる。これにより、リベット等の締結部材が翼の外表面に露出しないため、落雷時に締結部材を通して翼内部の燃料タンクでスパークが生じるのを防ぐことができる。リブとカバーの合わせ面も、翼外表面から翼の内側に離間しているため、リブとカバーを互いに異なる材料で形成した場合にもスパークが生じにくい。このようにして、耐雷性を大幅に高めることができる。
また、締結部材にリブとカバーの締結作業は、翼パネルの内表面側で行うことができるので、作業性に優れる。
さらに、リブは翼パネルと一体に削り出して形成することで、翼パネルの湾曲形状に合せてリブを高精度に形成できる。一方、カバーは帯状の部材を翼パネルおよびリブの形状に合わせて湾曲させるのみでよいので、リブの先端部に確実に突き合わせることができる。特に、カバーが薄板の場合、締結部材で締結していくことにより、カバーはリブの先端形状に倣って容易に変形するので、作業性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本実施の形態における航空機の主翼を構成する翼パネルを示す斜視図である。
【図2】ベントストリンガを示す断面図である。
【図3】ベントストリンガの他の例を示す断面図である。
【図4】カバー部材の一般的な連結構造を示す断面図である。
【図5】本実施の形態におけるカバー部材の連結構造を示す断面図および斜視図である。
【図6】本実施の形態におけるカバー部材の連結構造の他の例を示す断面図および斜視図である。
【図7】従来のベントストリンガを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、添付図面に示す実施の形態に基づいてこの発明を詳細に説明する。
図1は、本実施の形態における航空機の主翼10を構成する翼パネル11を示す斜視図である。
この図1に示すように、主翼10は、その上面側の翼表面を形成する翼パネル11と、主翼10内に設けられたベントストリンガ20とを備えている。
なお、本実施形態において、主翼10は、その上面側が1枚の翼パネル11によって形成されているが、これに限る物ではなく、2枚以上の翼パネル11を組み合わせても良い。
【0015】
ベントストリンガ20は、主翼10の翼長方向に沿って連続して設けられており、複数本が互いに平行に複数本設けられている。
【0016】
図2に示すように、ベントストリンガ20は、翼パネル11の内表面11aに直交する方向に立ち上がる一対のリブ21、21と、これらリブ21、21の先端部上に設けられたカバー22とから形成されている。
【0017】
各リブ21は、主翼10の翼長方向に沿って連続するよう形成されている。各リブ21の先端部には、対向するリブ21とは反対側に向けて延びるフランジ部21aが一体に形成されている。このようなリブ21は、翼パネル11と一体に形成されている。すなわち、翼パネル11およびリブ21は、金属母材から削り出し加工を行うことで形成される。このリブ21は、翼パネル11の面外方向への変形に対する補強要素として機能することができる。
【0018】
また、カバー22は、主翼10の翼長方向に長手方向を有する帯状である。カバー22は、その両側端部22a、22aをリブ21のフランジ部21a、21aに突き当てることで、リブ21、21間の空間を塞ぐよう設けられている。
そして、カバー22の両側端部22a、22aとリブ21のフランジ部21a、21aは、所定間隔に配置されたリベット(締結部材)23により一体に締結されている。
【0019】
なおここで、カバー22は、図2に示すように、例えば2mm以下の薄板状としても良いし、図3に示すように、厚板から形成して、リブ21、21に一体に連結されることで、翼パネル11の補強要素の一部として機能する構成とすることもできる。この場合、カバー22の一方の表面に、補強用のスティフナ22bを形成するのも有効である。
【0020】
ところで、カバー22は、翼長方向に10m程度の長さとなることがある。そこで、リブ21、21への取り付け作業時の作業性、取扱い性等の観点から、主翼10の翼長方向にカバー22を区分してなる複数枚のカバー部材によって構成することができる。
このような場合、翼の翼長方向において互いに前後するカバー部材どうしは、翼からの荷重が作用するため、この荷重を受けるために、互いに接合する必要がある。
そこで、図4に示すように、互いに前後するカバー22B、22Bの端部どうしを重ね合わせ、ボルト・ナット等の接合ピン24によりこれらを接合することが考えられる。
しかし、リブ21、21の内側に位置する接合ピン24は、その一方の端部がベントストリンガ20の内部空間側に位置することになる。ベントストリンガ20の内部空間は燃料タンクに通じるため、落雷時にスパークが生じるのを防ぐために、接合ピン24についても、その両端部をシーラント25で覆う必要が生じる。
そして、このシーラント25が脱落していないか、適宜タイミングで点検する必要があるが、航空機の組み立て時はともかく、航空機の使用開始後は、ベントストリンガ20の内部空間に作業者が入って点検等を行うのは困難である。
【0021】
そこで、図5に示すように、カバー22を、主翼10の翼長方向にカバー22を区分してなる複数枚のカバー部材22C、22C、…によって構成する。
互いに前後するカバー部材22C、22Cには、その端部に、カバー部材22Cの表面22fに直交してベントストリンガ20の外方に延びるフランジ26を形成する。
そして、互いに前後するカバー部材22C、22Cのフランジ26、26どうしを、翼長方向に軸線を有するボルト・ナット等の接合ピン27によりこれらを接合する。さらに、接合ピン27の両端部は、絶縁性材料からなるシーラント28を塗布してその全体を覆う。
【0022】
このようなベントストリンガ20は、リブ21、21と、カバー22と、翼パネル11の内表面11aとによって囲まれた空間を、外部から導入した空気の流路とする。このベントストリンガ20を通して燃料タンク30内に空気を外部から導入する。
【0023】
上記したような構成においては、リベット23が翼パネル11の外表面11bに露出していないため、落雷時にリベット23を通して主翼10の内部に設けられた燃料タンク30にスパークが生じるのを防ぐことができる。
また、リブ21とカバー22の合わせ面も、翼パネル11の外表面11bから内側に離間しているため、リブ21とカバー22を互いに異なる材料で形成した場合にも、スパークが生じにくい。
このようにして、耐雷性を大幅に高めることができる。
【0024】
また、リベット23によるリブ21とカバー22の締結作業は、翼パネル11の内表面11a側で行うことができるので、作業性に優れる。
【0025】
さらに、リブ21は、翼パネル11と一体に削り出して形成されるため、翼パネル11の湾曲形状に合せて高精度に形成される。一方、カバー22は、帯状の部材を翼パネル11およびリブ21の形状に合わせて湾曲させるのみでよいので、リブ21の先端部に確実に突き合わせることができる。特に、カバー22が薄板の場合、リベット23で締結していくことにより、カバー22はリブ21の先端形状に倣って容易に変形するので、作業性が特に高い。
【0026】
加えて、カバー22を、複数枚のカバー部材22C、22C、…によって構成し、互いに前後するカバー部材22C、22Cの端部にそれぞれフランジ26を形成し、互いに前後するカバー部材22C、22Cのフランジ26、26どうしが、ボルト・ナット等の接合ピン27によって接合されている。したがって、万が一落雷時に接合ピン27でアーク放電が生じた場合,接合ピンの両端部の全体を覆った絶縁性材料からなるシーラント28でアーク放電が燃料タンク内に曝露されるのを防ぐ。そのため,シーラント28が脱落していないか適宜タイミングで点検する必要があるが,これを外部から容易に行なうことができる。また,接合ピン27によるカバー部材22C、22Cどうしの接合作業についても外部から容易に行なうことができる。
【0027】
なお、上記実施の形態では、リブ21のフランジ部21aにカバー22を突き当てる構成としたが、これ以外の形状・構成とすることもできる。例えば、リブ21にフランジ部21aを形成せず、カバー22を、その両端に、リブ21の側面に沿う立ち上がり部を形成した断面略U字状とし、立ち上がり部をリブ21の側面に締結する構成とすることもできる。
また、図6に示すように、カバー部材22Cに形成したフランジ26に、補強リブ29を設けるような構成とすることもできる。
これ以外にも、本発明の主旨を逸脱しない限り、上記実施の形態で挙げた構成を取捨選択したり、他の構成に適宜変更することが可能である。
【符号の説明】
【0028】
10…主翼、11…翼パネル、11a…内表面、20…ベントストリンガ、21…リブ、21a…フランジ部、22…カバー、22a…両側端部、22b…スティフナ、22C…カバー部材、23…リベット(締結部材)、26…フランジ、27…接合ピン、28…シーラント、29…補強リブ、30…燃料タンク

【特許請求の範囲】
【請求項1】
翼の外表面を形成する翼パネルにおいて、前記翼の内側に面する内表面に一体に形成され、前記翼の翼長方向に連続する一対のリブと、
一対の前記リブの先端部間を塞ぐよう設けられたカバーと、を備えることを特徴とするベントストリンガ。
【請求項2】
前記リブの先端部にフランジ部が形成され、
前記カバーは、前記フランジ部に突き当てられ、前記カバーと前記フランジ部とが締結部材により一体に締結されていることを特徴とする請求項1に記載のベントストリンガ。
【請求項3】
前記リブは、前記翼パネルと同じ金属母材から削り出して形成されることを特徴とする請求項1または2に記載のベントストリンガ。
【請求項4】
前記カバーが、前記翼の翼長方向に複数枚のカバー部材を並べて接合することにより形成され、
前記翼長方向において互いに前後する前記カバー部材どうしの端部に、前記ベントストリンガの外方に向けて立ち上がるフランジが設けられるとともに、
互いに前後する前記カバー部材の前記フランジどうしが、前記翼長方向に軸線を有する接合ピンにより接合されていることを特徴とする請求項1から3のいずれか一項に記載のベントストリンガ。
【請求項5】
翼の外表面を形成する翼パネルと、
請求項1から4のいずれか一項に記載のベントストリンガと、
を備えることを特徴とする航空機の主翼。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate


【公開番号】特開2012−162250(P2012−162250A)
【公開日】平成24年8月30日(2012.8.30)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−198607(P2011−198607)
【出願日】平成23年9月12日(2011.9.12)
【出願人】(508208007)三菱航空機株式会社 (32)