説明

ペイルパック用押さえ部材、ペイルパック用容器及び溶接ワイヤ収納ペイルパック

【課題】ワイヤ引き出し時のワイヤの絡み及びもつれを防止し、ワイヤの引き出し不良を防止することができるペイルパック用押さえ部材、ペイルパック用容器及び溶接ワイヤ収納ペイルパックを提供する。
【解決手段】ペイルパック用押さえ板10は、溶接ワイヤ上に配置される環状の本体部10aと、本体部10aの下面にてコイル30の内周端からコイル軸方向に延出する押さえ代部11と、押さえ代11部の内周端にて下方に突出するように設けられた突部12と、を有する。本体部10aは、内径が200乃至470mmである。これにより内筒2aと平板部10aとの間に形成される隙間は10mm以上である。押さえ部材10は、重量が600乃至2000gである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部にコイル状の溶接ワイヤをその軸を垂直にして収納するペイルパック用容器に使用され、溶接ワイヤのコイル上に配置されるペイルパック用押さえ部材、並びにこのペイルパック用押さえ部材を使用したペイルパック用容器及び溶接ワイヤ収納ペイルパックに関し、特に、溶接ワイヤの引き出し時のコイルからの脱輪を防止するペイルパック用押さえ部材、ペイルパック用容器及び溶接ワイヤ収納ペイルパックに関する。
【背景技術】
【0002】
溶接ワイヤをループ状に落とし込んで収容する円筒状の容器をペイルパック用容器という。ペイルパック用容器は、溶接ワイヤを大量に収容し、使用先に輸送する場合に使用される。ペイルパック用容器には通常200乃至500kgの大容量の溶接ワイヤが収容される。
【0003】
溶接ワイヤを引き出す際には、ループ状に巻回されたコイルから溶接ワイヤを上方に引き出していくため、この引き出されたワイヤに捻れが発生しないように、ペイルパック用容器に溶接ワイヤを落とし込む際には、ワイヤに引き出し時の捻れ方向と逆方向に捻りを加えながら落とし込む方法が採用されている。この捻りが付与されたワイヤが、ワイヤ引き出し時に跳ね上がりを起こさないようにするために、溶接用ワイヤ積層体の上部に環状の押さえ板が配置される。即ち、この押さえ板の重量によりコイルを上方から押さえつけて、ワイヤの跳ね上がりを防止することが行われている。
【0004】
図4(a),(b)は、従来の溶接ワイヤ収納ペイルパックを示す図であり、図4(a)は模式的斜視図、図4(b)は縦断面図である。図4に示すように、ペイルパック用容器2の内部には、溶接ワイヤ3を落とし込んでコイル状に巻回したコイル30が配置され、コイル30の内側には、内筒2aが配置されている。このコイル30の上に環状の押さえ板10が配置され、押さえ板10の重量により、コイル30を上方から押さえつけてワイヤ3の跳ね上がりを防止している。そして、溶接ワイヤ3を使用する際には、内筒2aと押さえ板10との間の隙間から溶接ワイヤ3が引き出されていく。
【0005】
溶接ワイヤ3をコイル30から巻き解いていく際に、溶接ワイヤ3が絡んだり、もつれたりすることがある。この巻き解き時のワイヤ3の絡み及びもつれを防止するために、押さえ板の構成を工夫することが行われている。例えば、特許文献1には、外筒をその下端部にて底板にかしめることにより固定している構成のペイルパック容器において、押さえ板の外径を下面側にてかしめ部の内径よりも小さく形成し、上面側の外径をかしめ部の内径よりも大きく且つかしめ部以外の部分の内径よりも小さく構成することにより、溶接ワイヤの巻き解き時に押さえ板がかしめ部に保持されることを防止し、最下層の溶接ワイヤまで絡み及びもつれを発生させることなく巻き解く技術が開示されている。
【0006】
特許文献2及び3には、押さえ板の平板部分の外縁から上方に立ち上がるように堰部を設けることにより、溶接ワイヤが押さえ板と外筒との間の隙間からはみ出て、コイルの巻き状態を乱すことを防止する技術が開示されている。
【0007】
また、溶接ワイヤの巻き解き時には、ワイヤが押さえ板と内筒との間の隙間から引き出されていくため、特許文献1乃至3のように、コイルを内筒の外周面に極めて近い部分まで巻回している構成の溶接ワイヤペイルパックにおいては、引き出されたワイヤによって内筒が巻き締められて、引き出し不良が発生することがある。このため、図5に示すように、コイル30と内筒2aとの間には所定間隔の隙間が設けられてワイヤの巻き締めによる引き出し不良を防止している。しかしながら、ワイヤ3の引き出し時に、コイル状に巻回されたワイヤ3がコイル30と内筒2aとの間の隙間に滑り落ちてしまう(脱輪する)ことがある。このワイヤの脱輪は、引き出し時のワイヤの捻れの蓄積又は引き出されているワイヤとその下層に巻回されているワイヤとの間の干渉により発生する。上述の如く、溶接ワイヤをペイルパック用容器に落とし込む際には、ワイヤには引き出し時の捻れ方向とは逆方向に捻りが加えられている。従って、溶接ワイヤの滑り落ちにより、図6(a)に示すように、脱輪した溶接ワイヤ3が捻りに沿って回転して内筒2aを乗り越え、溶接ワイヤ3の引き出しの進行により、図6(b)に示すように、ワイヤが折れ曲がるキンクが発生し、ワイヤの引き出し不良を生じてしまう。このようなキンクが発生すると、溶接作業を中断してキンク箇所のワイヤを切断し、再度溶接作業を開始する必要があり、溶接作業性が劣化する。又は、ペイルパックを交換して、再度溶接を開始する場合は、キンクを起こしたペイルパック内の溶接ワイヤが無駄になる。
【0008】
更に、コイルと内筒との間に隙間を設けた場合においても、溶接ワイヤの滑り落ちが発生した場合には、図7(a)に示すように、コイル30から余剰に巻き解かれたワイヤ3が内筒2aの外周に巻き付いてしまい、図7(b)に示すように、内筒2aを巻き締めてしまい、ワイヤの引き出し不良が発生することがある。
【0009】
溶接ワイヤ引き出し時の引き出し不良を防止するための技術としては、例えば特許文献4がある。図8は、溶接ワイヤの引き出し不良を防止する従来技術を示す模式図である。特許文献4には、図8に示すように、コイル30の内側に配置する内筒2aの外径を小さくすると共に、押さえ板10の幅を内筒2aに向けて大きくすることにより、コイル30の中心側に印加する押さえ板10の重量をコイル30の外周側よりも大きくして、ワイヤ3の滑り落ちを防止することが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2005−169468号公報
【特許文献2】特開2007−029971号公報
【特許文献3】特開2007−000927号公報
【特許文献4】特開2003−238030号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、前述の従来技術には以下のような問題点がある。特許文献1乃至3に加持された技術は、上述の如く、引き出されたワイヤによって内筒を巻き締めてしまう場合がある。
【0012】
特許文献4に開示された技術は、押さえ板10を設けているものの、内筒2aとコイル30との間の空間にワイヤ3が脱輪することを十分に防止することができるものではなく、キンクの発生及び溶接ワイヤによる内筒の巻き締めによる引き出し不良を防止することができないという問題点がある。
【0013】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、ワイヤ引き出し時のワイヤの絡み及びもつれを防止し、ワイヤの引き出し不良を防止することができるペイルパック用押さえ部材、ペイルパック用容器及び溶接ワイヤ収納ペイルパックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本願発明に係るペイルパック用押さえ部材は、底板上に同軸的に配置された内筒及び外筒を備えたペイルパック用容器内で、前記内筒と外筒との間に収納されたコイル状の溶接ワイヤの上に載置されるペイルパック用押さえ部材において、前記溶接ワイヤ上に配置される環状の本体部と、この本体部の下面にて前記コイルの内周端から更にコイル軸方向に延出する押さえ代部と、この押さえ代部の内周端にて下方に突出するように設けられた突部と、を有し、前記本体部の内径は200乃至470mmであり、前記内筒の外面と前記本体部の内面との間に形成される隙間が10mm以上であり、重量が600乃至2000gであることを特徴とする。
【0015】
本願発明に係るペイルパック用容器は、底板上に同軸的に配置された内筒と外筒との間にコイル状の溶接ワイヤをその軸を垂直にして収納し、前記溶接ワイヤの引き出し時にその跳ね上がりを防止する押さえ部材が設けられたペイルパック用容器において、前記押さえ部材は、前記溶接ワイヤ上に配置される環状の本体部と、この本体部の下面にて前記コイルの内周端から更にコイル軸方向に延出する押さえ代部と、この押さえ代部の内周端にて下方に突出するように設けられた突部と、を有し、前記押さえ部材の前記本体部の内径は200乃至470mmであり、前記内筒の外面と前記押さえ部材の前記本体部の内面との間に形成される隙間が10mm以上であり、前記押さえ部材の重量が600乃至2000gであることを特徴とする。
【0016】
本願発明に係る溶接ワイヤ収納ペイルパックは、底板上に内筒と外筒とが同軸的に配置されたペイルパック用容器と、前記内筒と前記外筒との間に収納されたコイル状の溶接ワイヤと、この溶接ワイヤの引き出し時にその跳ね上がりを防止する押さえ部材と、を有する溶接ワイヤ収納ペイルパックにおいて、前記押さえ部材は、前記溶接ワイヤ上に配置される環状の本体部と、この本体部の下面にて前記コイルの内周端から更にコイル軸方向に延出する押さえ代部と、この押さえ代部の内周端にて下方に突出するように設けられた突部と、を有し、前記押さえ部材の前記本体部の内径は200乃至470mmであり、前記内筒の外面と前記押さえ部材の前記本体部の内面との間に形成される隙間が10mm以上であり、前記押さえ部材の重量が600乃至2000gであり、前記溶接ワイヤが前記押さえ部材と前記筒状部材との間から引き出されて使用されるものであることを特徴とする。
【0017】
上述のペイルパック用押さえ部材、ペイルパック用容器及び溶接ワイヤ収納ペイルパックにおいて、前記押さえ部材の前記本体部は、例えば全体が平板状である。又は、前記押さえ部材の前記本体部は、平板部と、この平板部の外縁から上方に立ち上がるように形成され、下方の部分が上方の部分より小径となる段付き形状を備えた堰部を有する。
【0018】
上述のペイルパック用押さえ部材、ペイルパック用容器及び溶接ワイヤ収納ペイルパックにおいて、前記押さえ部材の前記押さえ代部の幅は、例えば5乃至135mmである。
【0019】
例えば、前記押さえ部材の前記突部の高さは0.3乃至1.5mmであり、前記突部の幅は1乃至10mmである。また、前記押さえ部材の前記突部は、その突面が湾曲していることが好ましい。更に、前記押さえ部材の前記突部には、前記本体部の中心軸側にて下方から上方に向けて内径が小さくなるように傾斜面が設けられていてもよい。
【発明の効果】
【0020】
本発明のペイルパック用押さえ部材は、溶接ワイヤ上に配置される本体部の内径が適正化され、本体部の下面にはコイルの内周端からコイル軸方向に押さえ代部が設けられ、押さえ代部の内周端に下方に突出するように突部が設けられており、溶接ワイヤの引き出し時には、ワイヤは、押さえ代部の区間をコイル軸に向かう方向に引き出され、突部を下方から乗り越えて上方に引き出される。これにより、押さえ部材は、押さえ代部の下面の領域にてワイヤを上方から押さえつけ、突部により、引き出されていくワイヤが不規則に移動しないようにワイヤをコイル中心軸側から斜め外方に向けて押さえつける。よって、押さえ部材の下方において、ワイヤの引き出し経路は一定となり、ワイヤの引き出し位置がコイル周方向に移動した場合においても、引き出されたワイヤが不規則に運動することによるワイヤの脱輪を抑制することができ、その結果、ワイヤの絡み及びもつれを防止し、ワイヤの引き出し不良を防止することができる。
【0021】
また、このとき、本発明においては、ペイルパック用押さえ部材の重量を適正な範囲としており、これにより、ワイヤを上方から押さえつける力を適正な範囲としながら、過度の押圧力により引き出し時のワイヤが塑性変形することを防止することができる。
【0022】
よって、本発明のペイルパック容器及び溶接ワイヤ収納ペイルパックによれば、ワイヤの絡み及びもつれを防止し、ワイヤの引き出し不良を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】(a),(b)は本発明の第1実施形態に係る溶接ワイヤ収納ペイルパックにおける押さえ部材を示す断面図である。
【図2】(a),(b)は本発明の第2実施形態に係る溶接ワイヤ収納ペイルパックにおける押さえ部材を示す断面図である。
【図3】本発明の第3実施形態に係る溶接ワイヤ収納ペイルパックにおける押さえ部材を示す断面図である。
【図4】(a),(b)は、従来の溶接ワイヤ収納ペイルパックを示す図であり、図4(a)は模式的斜視図、図4(b)は縦断面図である。
【図5】従来のワイヤ引き出し時の溶接ワイヤ収納ペイルパックを示す断面図である。
【図6】(a),(b)は従来の溶接ワイヤ収納ペイルパックにおいて、キンクの発生過程を示す模式図である。
【図7】(a),(b)は従来の溶接ワイヤ収納ペイルパックにおいて、ワイヤによる内筒の巻き締め過程を示す模式図である。
【図8】溶接ワイヤの引き出し不良を防止する従来技術を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本願発明の実施の形態について添付の図面を参照して詳細に説明する。先ず、本第1実施形態の溶接ワイヤ収納ペイルパックの構成について説明する。図1(a)及び図1(b)は、本発明の第1実施形態に係る溶接ワイヤ収納ペイルパックにおける押さえ部材を示す断面図である。なお、図1(a)は、ペイルパック用押さえ部材の全体を示す断面図、図1(b)は、ワイヤ引き出し時の突部を示す部分拡大図である。
【0025】
ペイルパック用容器2は、例えば円筒状の外筒2bの下端部がかしめられて、円板状の底板が固定されており、これにより、外筒2bの下端部に底板が保持された容器が構成されている。よって、外筒2bの内面はその下端部のかしめ部において、その内径が小さくなっている。底板と外筒2bとは、外筒2bのかしめ部と底板の底面を包み込む金属補強帯(図示せず)により、相互に補強的に固定されている。一般的に、ペイルパック用容器2には、200乃至500kgの溶接ワイヤが収納されるため、運搬時及び吊り下げ移送時に安全強固な構造が要求される。このため、軽量化及び電気絶縁性の観点から、本実施形態のペイルパック用容器2における外筒2bは、厚さが厚い紙等で形成されている。
【0026】
本実施形態のペイルパック用容器2においては、外筒2bの内部に外筒2bよりも直径が小さい円筒状の内筒2aが外筒2bと同軸的に配置されており、この内筒2aの下端部は底板上に固定されている。そして、この底板上には、その外筒2bと内筒2aとの間に、溶接ワイヤコイル30が載置されるようになっている。この溶接ワイヤコイル30は、溶接ワイヤ3を内筒2aと外筒2bとの間の空間に、ループ状に1回巻あたり略360°の捻りを付与して、落とし込むようにして充填することにより、収納される。
【0027】
本実施形態においては、図1に示すように、ペイルパック容器2の内筒2aの外径Dは、例えば180乃至450mmであり、外筒2bの内径は、例えば500乃至650mmである。そして、この内筒2aと外筒2bとの間に、外筒2bの内面側から70乃至95mmの幅で溶接ワイヤ3が巻回され、更に上方に積層されていき、溶接ワイヤコイル30が形成されている。
【0028】
コイル30上には内筒2a及び外筒2bと同軸的に押さえ部材10が配置されており、押さえ部材10の重量によりコイル30を上方から押さえつけて溶接ワイヤ3の跳ね上がりを防止する。本実施形態においては、押さえ部材10は、環状に平板部10aが形成され、平板部10aの下面には、コイル30の内周端からコイル軸方向に延出した押さえ代部11と、押さえ代部11の内周端にて下方に突出するように突部12が設けられており、この突部12によって、溶接ワイヤ3のコイル30からの脱輪を防止する。
【0029】
次に、上述の如く構成された溶接ワイヤ収納ペイルパックの押さえ部材10の好ましい材質及び好ましい形状寸法について説明する。押さえ部材10は、平板部10aと突部12とがオレフィン系樹脂により一体成形されたものであり、板厚(a)が0.5乃至5mmの薄肉状をなしている。このオレフィン系樹脂としては、ABS(Acrylonitrile-Butadiene-Styrene;アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン)樹脂、PP(Polypropylene;ポリプロピレン)樹脂、PS(Poly-Styrene;ポリスチレン)樹脂等があり、これを、射出成形等により成形することにより、押さえ部材10を得ることができる。突部12は、平板部10aからの突出高さが例えば0.3乃至1.5mmであり、幅が例えば1乃至10mmである。本発明においては、ペイルパック用押さえ部材10の重量は、600乃至2000gであり、好ましくは1000乃至2000gである。なお、上記材質及び形状寸法は一例であり、平板部10aの内径、重量が上述の範囲である限り、本発明はこれに限定されるものではない。
【0030】
図1に示すように、本発明のペイルパック用押さえ部材10は、平板部10aの内径Dが200乃至470mmである。これにより、ペイルパック用容器の内筒2aと押さえ部材の平板部10aとの間に形成される隙間を10mm以上とする。なお、本実施形態においては、平板部10aの外径は、例えば490.0乃至649.4mmであり、これにより、外筒2bの内面と平板部10aとの間に形成される隙間を0.3乃至5mmとする。
【0031】
本発明においては、溶接ワイヤコイル30の幅と押さえ部材10の内径との関係により、平板部10aの内周側には、溶接ワイヤコイル30が下方に配置されない押さえ代部11が形成されている。押さえ代部11の幅は、例えば5乃至135mmである。
【0032】
押さえ代部11の内周端に設けられた突部12は、押さえ板10の下面から0.3乃至1.5mm、特に好ましくは0.6mmの高さで突出するように設けられており、突部12の幅は1乃至10mm、特に好ましくは3mmである。突部12の高さ及び幅を上記範囲とすることにより、押さえ板10によるワイヤの押さえが更に確実となる。そして、突部12は、突面が湾曲していることが好ましく、ワイヤ10を突部12に沿うように面接触させながら引き出すことにより、ワイヤの押さえが更に確実となる。この場合、突面の湾曲としては、例えば半径が0.3乃至5.0mm、特に好ましくは半径が2.5mmの円弧状とすることができる。
【0033】
次に、上述の如く構成された溶接ワイヤ収納ペイルパックの動作について説明する。外筒2bと内筒2aとの間の底板上に、ソリッドワイヤ又はフラックス入りワイヤ等の溶接ワイヤ3を落とし込んで、溶接ワイヤコイル30を収納する。この溶接ワイヤコイル30は例えば質量が200乃至500kgの大きさを有する。そして、図1(b)に示すように、押さえ部材10をコイル30の上に載置し、溶接ワイヤ3を押さえ部材10の内周面と内筒2aの外面との間の隙間から上方に引き出す。
【0034】
そうすると、溶接ワイヤ3が引き出されたトーチに送給されることにより、コイル30の高さが徐々に低下していき、それに伴い、コイル30上の押さえ治具2も下降していく。このとき、コイル30から引き出されていく溶接ワイヤ3は、先ず、押さえ代部11の区間をコイル30の中心軸に向かう方向に引き出される。このとき、ワイヤ3の引き出し部には、その直上に押さえ部材10の平板部10aが位置しており、平板部10aの下面の平面領域にて、ワイヤ3を上方から押さえつけてワイヤ引き出し部の位置が不規則に移動することを抑制する。
【0035】
コイル30から引き出された溶接ワイヤ3は、押さえ部材10下面の押さえ代部11の区間をコイル中心軸方向に引き出されていく。押さえ部材10の下面には、平板部10aの内周に沿って突部12が設けられているため、引き出されたワイヤ3は、平板部10aの内周面と内筒10aの外周面との間から引き出される際に、押さえ部材10の突部12を下方から乗り越える。このとき、突部12は、ワイヤをコイル中心軸側から斜め外方に向けて押さえつけてワイヤ3の引き出し経路が不規則に変化することを抑制する。
【0036】
これにより、押さえ部材10の下方において、ワイヤ3は、コイル30からの引き出し位置と突部12とにより引き出し経路が2点で押さえつけられる。よって、ワイヤ3が引き出されて、コイル30からのワイヤ引き出し位置がコイル周方向に移動した場合においても、引き出されたワイヤが不規則に運動することが防止される。
【0037】
従来のペイルパック用押さえ部材10を備えた溶接ワイヤ収納ペイルパックにおいては、ワイヤ3の引き出し時には、引き出されていくワイヤ3が引き出し位置にて不規則に運動し、これにより、引き出されていくワイヤ3が、その1又は複数巻だけコイル半径方向外方側又はコイル軸方向下層側の他の積層ワイヤを掻き出してしまい、ワイヤの脱輪が発生していた。これに対して、本実施形態のペイルパック用押さえ部材10は、引き出されていくワイヤ3を確実に押さえつけてワイヤ3の引き出し経路が不規則に変化することを防止することができるため、ワイヤが脱輪することを防止することができ、その結果、ワイヤの絡み及びもつれを防止し、ワイヤの引き出し不良を防止することができる。そして、内筒2aと平板部10aとの間に形成される隙間が10mm以上と大きく、引き出されていくワイヤ3と内筒2aとの距離が縮まることによる内筒2aの巻き締めを、より効果的に防止することができる。
【0038】
このとき、本実施形態においては、ペイルパック用押さえ部材の重量が適正な範囲であるため、ワイヤを上方から押さえつける力を適正な範囲としながら、過度の押圧力により引き出し時のワイヤが塑性変形することもない。また、突部の突面を湾曲するように設ければ、ワイヤは突部の円弧状の部分に沿うように面接触しながら上方に引き出されていくため、押さえ部材によるワイヤの押さえを更に確実に行うことができる。
【0039】
なお、本実施形態のペイルパック用押さえ部材10には、平板部10aに錘を設置することができる。これにより、ワイヤ引き出し時の押さえ部材10の動作を安定的に行うことができる。この場合に、平板部10a上に例えば3乃至4個の少数の錘を設置するよりも、押さえ部材10の全体に複数個の錘を均等に配置する等により、押さえ部材10による押圧力の増加が、局所的に大きくならないように錘を設置することが好ましい。例えば、平板部10aの上面の全体を覆うようにリング状の1個の錘を設置してもよい。また、押さえ部材10の重量を増やす場合には、平板部10aに錘を設置する代わりに、平板部10aの板厚を厚くすることにより、押さえ部材10の重量を増やしてもよい。ペイルパック用押さえ部材10には、平板部10aに下方のコイル30の状態を確認する孔を設けてもよい。
【0040】
次に、本発明の第2実施形態のペイルパック用押さえ部材について説明する。図2(a)及び図2(b)は、本発明の第2実施形態に係る溶接ワイヤ収納ペイルパックにおける押さえ部材を示す断面図である。なお、図2(a)は、ペイルパック用押さえ部材の全体を示す断面図、図2(b)は、ワイヤ引き出し時の突部を示す部分拡大図である。図2に示すように、本実施形態においては、第1実施形態のペイルパック用押さえ部材10において、突部12の内周面に下方から上方へと徐々に内径が小さくなるように傾斜面12aを設けている。
【0041】
本実施形態においては、突部12の内周面に傾斜面12aを設置することにより、コイルの脱輪を防止する押さえ部材10において、ワイヤ3の引き出し作業性を改善したものである。即ち、内筒2aと平板部10aとの間を引き出されていくワイヤ3は、突部12に当接時に、コイルの半径方向中央へ向かう経路からコイル中心軸方向上方へ向かう経路へと方向が転換される。このとき、コイル3には、経路変更に伴い、突部12との間に摩擦を生じ、更に、斜め上方からコイル中心軸へ向かう方向に応力を受ける。本実施形態においては、突部12の内周面に傾斜面12aが設けられているため、突部12への当接時の摩擦力が低減され、更に、斜め上方からコイル中心軸へ向かう方向への応力も小さくなる。従って、コイル3の引き出し方向の転換が円滑に行われるようになり、コイルの引き出し作業性が向上する。このとき、本実施形態においても、突部12の突面を湾曲するように設ければ、押さえ部材によるワイヤの押さえを更に確実に行うことができる。
【0042】
また、ワイヤ3が突部12から受ける応力が低減されるため、突部12を乗り越える際のコイル3の塑性変形をより効果的に防止することができ、コイル3に不均一に曲げが生じることによる内筒の巻き締めを防止することができる。
【0043】
更に、本実施形態においては、押さえ部材10により溶接ワイヤコイル30の上面の大部分を覆っているため、溶接ワイヤコイル30の内部に湿気が入りにくく、溶接ワイヤの防錆効果が優れているという副次的な効果を得ることもできる。
【0044】
なお、本実施形態のペイルパック用押さえ部材10においても、第1実施形態と同様の種々の変形を行うことができる。
【0045】
次に、本発明の第3実施形態のペイルパック用押さえ部材について説明する。図3は、本発明の第3実施形態に係る溶接ワイヤ収納ペイルパックにおける押さえ部材を示す断面図である。図3に示すように、本実施形態においては、第2実施形態のペイルパック用押さえ部材10の平板部10aの外縁部から上方に立ち上がる段付き形状の堰部10bが設けられており、例えば堰部10b、平板部10a及び突部12がオレフィン系樹脂により一体成形されている。その他の構成については、第2実施形態と同様である。
【0046】
堰部10bはその下方部分の直径が上方部分の直径よりも小さく、下方部分と上方部分との間に段差が形成されている。なお、堰部10bの下方部分及び上方部分は、平板部10aに対して必ずしも垂直ではなく、いずれも、より上方部分が大径となっており、外側に向けて傾斜している。
【0047】
本実施形態においては、押さえ部材10に堰部10bを設けているため、第1及び第2実施形態における効果に加え、溶接ワイヤ3が引き出されるときの溶接ワイヤ3の暴れにより、溶接ワイヤ3が押さえ部材10と外筒2bとの間の隙間から押さえ部材10の上方に飛び出ることを防止することができる。即ち、ワイヤ3の引き出し時には、押さえ部材10はワイヤ3の引き出しに伴ってコイル30の高さの変化に追従して徐々に下降していく。このとき、本実施形態の押さえ部材10の堰部10bの上方部分と外筒2bとの間には、例えば0.5乃至5.0mmの間隙しかなく、押さえ部材10はほぼ外筒1の内面に摺動して下降する。この場合に、平板部10aと平板部10aの外周から立ち上がる堰部10bがリング状をなして外筒2bの内面にほぼ接触しているので、この押さえ部材10と外筒2bとの間の隙間から溶接ワイヤ3が飛び出してしまうことが防止される。
【0048】
また、本実施形態の押さえ部材10を使用すれば、溶接ワイヤ3の残量が少なくなり、溶接ワイヤコイル30の高さが外筒2bのかしめ部より低くなっても、押さえ部材10の下方部分がかしめ部に囲まれた部分に入り込むので、かしめ部内の溶接ワイヤコイル30の上面を依然として押さえ部材10が押さえることができる。このため、容器内のワイヤ3の残量が少なくなっても、押さえ部材10は確実に溶接ワイヤコイル30を押さえることができ、最下層の溶接ワイヤまで絡み及びもつれを生じることなく、円滑に巻き解くことができる。
【0049】
なお、本実施形態のペイルパック用押さえ部材10においても、平板部10aに錘を設置して、ワイヤ引き出し時の押さえ部材10の動作を安定的に行うことができる。この場合に、本実施形態においても、平板部10a上に例えば3乃至4個の少数の錘を設置するよりも、押さえ部材10の全体に複数個の錘を均等に配置する等により、押さえ部材10による押圧力の増加が、局所的に大きくならないように錘を設置することが好ましい。例えば、平板部10aの上面の全体を覆うようにリング状の1個の錘を設置してもよく、本実施形態においては、例えば、堰部10bの段差上にリング状の1個の錘を設置してもよい。また、押さえ部材10の重量を増やす場合には、平板部10aに錘を設置する代わりに、平板部10aの板厚を厚くすることにより、押さえ部材10の重量を増やしてもよい。更に、ペイルパック用押さえ部材10には、平板部10aに下方のコイル30の状態を確認する孔を設けてもよい。
【実施例】
【0050】
以下、本発明のペイルパック用押さえ部材について、その効果を比較例と対比して説明する。ペイルパック用容器としては、2種類の容器A(内径500mm、高さ820mm、内筒高さ765mm)及び容器B(内径650mm、高さ770mm、内筒高さ715mm)を使用し、この容器A及びBの内筒と外筒との間に、溶接ワイヤを1周回あたり360°捻りながら、各容器内に溶接ワイヤ(JIS Z 3322 YGW18、ワイヤ直径1.2mm)をループ状に落とし込んで、溶接ワイヤコイルを作製した。このとき、容器Aについては、溶接ワイヤコイルの重量が300kgとなるように積層し、容器Bについては、溶接ワイヤコイルの重量が400kgとなるように積層した。そして、溶接ワイヤコイル上に種々の重量及び平板部内径を有する押さえ部材を載置して、実施例及び比較例の溶接ワイヤ収納ペイルパックとした。なお、このとき、内筒の外径を押さえ部材ごとに変更することにより、平板部と内径との間の隙間を調節した。各実施例及び比較例の溶接ワイヤ収納ペイルパックについて、容器直径、押さえ部材の重量、平板部の内径、内筒の外径及び突部の有無について、表1に示す。
【0051】
【表1】

【0052】
そして、各実施例及び比較例の溶接ワイヤ収納ペイルパックについて、最上層から溶接ワイヤを引き出し、CO溶接により自動溶接を行った。なお、このときの溶接条件を表2に示す。
【0053】
【表2】

【0054】
各実施例及び比較例の溶接ワイヤ収納ペイルパックについて、コイルからの溶接ワイヤの脱輪回数を計測した。そして、脱輪が発生した場合については、脱輪から通常の引き出し状態に回復するまでに送給したワイヤの長さを計測した。また、ワイヤ引き出し時に、発生した絡み及びもつれの発生回数と、溶接ビードの蛇行の有無を確認した。そして、各実施例及び比較例についてワイヤの絡み及びもつれが発生せず、溶接ビードに蛇行が発生しなかった場合に合格(○)とした。各実施例及び比較例について、測定結果と評価とを下記表3に示す。
【0055】
【表3】

【0056】
実施例No.1乃至9は、押さえ部材の重量、平板部の内径、及び平板部内周面と内筒との間の隙間が本発明の範囲を満足するので、ワイヤ引き出し時の絡み及びもつれは発生せず、溶接ビードの蛇行も発生しなかった。
【0057】
比較例No.10は、押さえ部材の重量が本発明の範囲よりも小さく、コイルからの脱輪の発生回数が多く、ワイヤの絡みが発生した。比較例No.11は、押さえ部材の重量が本発明の範囲を超え、押さえ部材によりワイヤを押さえつける力が大きく、ワイヤが塑性変形して溶接ビードが蛇行した。比較例No.12は、平板部の内径が本発明の範囲よりも小さく、押さえ代部の幅は十分にあったが、脱輪から通常の溶接状態に回復するまでに送給されるワイヤの長さが大きく、ワイヤの絡みが発生した。比較例No.13は、平板部の内径が本発明の範囲を超え、押さえ代部不足により、引き出されるワイヤの押さえつけが不十分となり、ワイヤの絡みが発生した。
【0058】
比較例No.14は、押さえ部材の重量及び本体部の内径共に本発明の範囲であったが、突部が設けられておらず、ワイヤを押さえつける力が不足してワイヤの絡みが発生した。比較例No.15は、内筒の外面と押さえ部材本体部の内周面との間に形成される隙間が10mm未満であったため、ワイヤの引き出し抵抗が高くなり、送給性が不安定となって溶接ビードの蛇行が発生した。
【符号の説明】
【0059】
10:ペイルパック用押さえ部材、10a:平板部、10b:堰部、11:押さえ代部、12:突部、12a:傾斜面、2:ペイルパック用容器、2a:内筒、2b:外筒、3:(溶接用)ワイヤ、30:コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
底板上に同軸的に配置された内筒及び外筒を備えたペイルパック用容器内で、前記内筒と外筒との間に収納されたコイル状の溶接ワイヤの上に載置されるペイルパック用押さえ部材において、
前記溶接ワイヤ上に配置される環状の本体部と、この本体部の下面にて前記コイルの内周端から更にコイル軸方向に延出する押さえ代部と、この押さえ代部の内周端にて下方に突出するように設けられた突部と、を有し、
前記本体部の内径は200乃至470mmであり、前記内筒の外面と前記本体部の内面との間に形成される隙間が10mm以上であり、重量が600乃至2000gであることを特徴とするペイルパック用押さえ部材。
【請求項2】
前記本体部は、全体が平板状であることを特徴とする請求項1に記載のペイルパック用押さえ部材。
【請求項3】
前記本体部は、平板部と、この平板部の外縁から上方に立ち上がるように形成され、下方の部分が上方の部分より小径となる段付き形状を備えた堰部を有することを特徴とする請求項1に記載のペイルパック用押さえ部材。
【請求項4】
前記押さえ代部の幅は5乃至135mmであることを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項に記載のペイルパック用押さえ部材。
【請求項5】
前記突部の高さは0.3乃至1.5mmであり、前記突部の幅は1乃至10mmであることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項に記載のペイルパック用押さえ部材。
【請求項6】
前記突部は、その突面が湾曲していることを特徴とする請求項1乃至5のいずれか1項に記載のペイルパック用押さえ部材。
【請求項7】
前記突部には、前記本体部の中心軸側にて下方から上方に向けて内径が小さくなるように傾斜面が設けられていることを特徴とする請求項1乃至6のいずれか1項に記載のペイルパック用押さえ部材。
【請求項8】
底板上に同軸的に配置された内筒と外筒との間にコイル状の溶接ワイヤをその軸を垂直にして収納し、前記溶接ワイヤの引き出し時にその跳ね上がりを防止する押さえ部材が設けられたペイルパック用容器において、
前記押さえ部材は、前記溶接ワイヤ上に配置される環状の本体部と、この本体部の下面にて前記コイルの内周端から更にコイル軸方向に延出する押さえ代部と、この押さえ代部の内周端にて下方に突出するように設けられた突部と、を有し、
前記押さえ部材の前記本体部の内径は200乃至470mmであり、前記内筒の外面と前記押さえ部材の前記本体部の内面との間に形成される隙間が10mm以上であり、前記押さえ部材の重量が600乃至2000gであることを特徴とするペイルパック用容器。
【請求項9】
底板上に内筒と外筒とが同軸的に配置されたペイルパック用容器と、前記内筒と前記外筒との間に収納されたコイル状の溶接ワイヤと、この溶接ワイヤの引き出し時にその跳ね上がりを防止する押さえ部材と、を有する溶接ワイヤ収納ペイルパックにおいて、
前記押さえ部材は、前記溶接ワイヤ上に配置される環状の本体部と、この本体部の下面にて前記コイルの内周端から更にコイル軸方向に延出する押さえ代部と、この押さえ代部の内周端にて下方に突出するように設けられた突部と、を有し、
前記押さえ部材の前記本体部の内径は200乃至470mmであり、前記内筒の外面と前記押さえ部材の前記本体部の内面との間に形成される隙間が10mm以上であり、前記押さえ部材の重量が600乃至2000gであり、
前記溶接ワイヤが前記押さえ部材と前記筒状部材との間から引き出されて使用されるものであることを特徴とする溶接ワイヤ収納ペイルパック。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2011−136346(P2011−136346A)
【公開日】平成23年7月14日(2011.7.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−296335(P2009−296335)
【出願日】平成21年12月25日(2009.12.25)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】