説明

ペイルパック用押さえ部材、ペイルパック用容器及び溶接ワイヤ収納ペイルパック

【課題】ワイヤ引き出し時のキンクの発生を防止し、引き出し不良を防止することができるペイルパック用押さえ部材、ペイルパック用容器及び溶接ワイヤ収納ペイルパックを提供する。
【解決手段】ペイルパック用押さえ部材1の押さえ板11は、環状をなし、溶接ワイヤのコイル上に配置され溶接ワイヤの跳ね上がりを防止する。筒状部材12は、押さえ板11の内側に配置されており、この筒状部材12には押さえ板11の表面を転動するローラ13が回転可能に取付けられている。このローラ13は、押さえ板11の内周に沿って移動するように、ガイド部材14により案内される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内部にコイル状の溶接ワイヤをその軸を垂直にして収納するペイルパック用容器に使用され、溶接ワイヤのコイル上に配置されるペイルパック用押さえ部材、並びにこのペイルパック用押さえ部材を使用したペイルパック用容器及び溶接ワイヤ収納ペイルパックに関し、特に、溶接ワイヤの引き出し時の跳ね上がり及び引き出し不良を防止するペイルパック用押さえ部材、ペイルパック用容器及び溶接ワイヤ収納ペイルパックに関する。
【背景技術】
【0002】
溶接ワイヤをループ状に落とし込んで収容する円筒状の容器をペイルパック用容器という。ペイルパック用容器は、溶接ワイヤを大量に収容し、使用先に輸送する場合に使用される。ペイルパック用容器には通常200乃至500kgの大容量の溶接ワイヤが収容される。
【0003】
溶接ワイヤを引き出す際には、ループ状に巻回されたコイルから溶接ワイヤを上方に引き出していくため、この引き出されたワイヤに捻れが発生しないように、ペイルパック用容器に溶接ワイヤを落とし込む際には、ワイヤに引き出し時の捻れ方向と逆方向に捻りを加えながら落とし込む方法が採用されている。この捻りが付与されたワイヤが、ワイヤ引き出し時に跳ね上がりを起こさないようにするために、溶接用ワイヤ積層体の上部に環状の押さえ板が配置される。即ち、この押さえ板の重量によりコイルを上方から押さえつけて、ワイヤの跳ね上がりを防止することが行われている(例えば、特許文献1)。
【0004】
図5(a),(b)は、従来の溶接ワイヤ収納ペイルパックを示す図であり、(a)は模式的斜視図、(b)は縦断面図である。図5に示すように、ペイルパック用容器2の内部には、溶接ワイヤ3を落とし込んでコイル状に巻回したコイル30が配置され、コイル30の内側には、内筒2aが配置されている。このコイル30の上に環状の押さえ板10が配置され、押さえ板10の重量により、コイル30を上方から押さえつけてワイヤ3の跳ね上がりを防止している。そして、溶接ワイヤ3を使用する際には、内筒2aと押さえ板10との間の隙間から溶接ワイヤ3が引き出されていく。
【0005】
しかしながら、ワイヤ引き出し時には、ワイヤが押さえ板と内筒との間の隙間から引き出されていくため、引き出されたワイヤによって内筒が巻き締められて、引き出し不良が発生することがある。このため、図6に示すように、コイル30と内筒2aとの間には所定間隔の隙間が設けられてワイヤの巻き締めによる引き出し不良を防止している。しかしながら、ワイヤ3の引き出し時に、コイル状に巻回されたワイヤ3がコイル30と内筒2aとの間の隙間に滑り落ちてしまうことがある。上述の如く、溶接ワイヤをペイルパック用容器に落とし込む際には、ワイヤには引き出し時の捻れ方向とは逆方向に捻りが加えられている。従って、溶接ワイヤの滑り落ちにより、ワイヤが折れ曲がるキンクが発生し、ワイヤの引き出し不良を生じてしまう。このようなキンクが発生すると、溶接作業を中断してキンク箇所のワイヤを切断し、再度溶接作業を開始する必要があり、溶接作業性が劣化する。又は、ペイルパックを交換して、再度溶接を開始する場合は、キンクを起こしたペイルパック内の溶接ワイヤが無駄になる。
【0006】
ワイヤの滑り落ちに起因する引き出し不良を防止するためには、例えば内筒の外周面の直径をコイルの内径と同程度まで大きく設け、コイルと内筒との間の隙間を小さくすることが考えられる。しかしながら、この場合、内筒と押さえ板との間からワイヤを引き出していくことから、押さえ板が内筒側において浮き上がりやすくなり、押さえ板によるコイルへの押圧力が低下するという問題点がある。また、この場合、ワイヤの引き出し位置が内筒に近接しているため、引き出されたワイヤによる内筒の巻き締めが発生し、ワイヤの引き出し不良を生じるという問題点がある。これらの問題点を解決するためには、例えばワイヤを押さえ板と外筒との間から引き出すことが考えられるが、ワイヤを押さえ板の外周面を乗り越えて引き出していくことになり、押さえ板の外周面によってワイヤ引き出し時にワイヤに癖がついてしまい、溶接ワイヤを溶接部へ供給する際に、ワイヤの位置がずれてしまい、溶接精度が低下するという問題点がある。
【0007】
溶接ワイヤ引き出し時のワイヤの引き出し不良を防止するための技術としては、例えば特許文献1乃至3がある。図7乃至9は、溶接ワイヤの引き出し不良を防止する従来技術を示す模式図である。特許文献1には、図7に示すように、コイル30の内側に配置する内筒2aの外径を小さくすると共に、押さえ板10の幅を内筒2aに向けて大きくすることにより、コイル30の中心側に印加する押さえ板10の重量をコイル30の外周側よりも大きくして、ワイヤ3の滑り落ちを防止することが開示されている。
【0008】
特許文献2には、図8に示すように、押さえ板10を外側の環状のワイヤ押さえ部材10aと内側の環状のワイヤガイド部材10bとからなる2重環構造とし、ワイヤ押さえ部材10aとワイヤガイド部材10bとの間を柔軟性のある部材10cで連結して、ワイヤガイド部材10bの内側からワイヤ3を引き出すように構成した溶接ワイヤからまり防止装置が開示されている。また、ワイヤガイド部材10bをコイル30の中空部側に垂れ下がるように構成することにより、ワイヤ3の滑り落ちを防止することが開示されている。
【0009】
特許文献3には、図9に示すように、押さえ板10の代わりに小片状又は粒状の部材1aをコイル30上に配置すると共に、コイル30と内筒2aとの隙間をなくすことにより、小片状又は粒状部材1aの間から溶接ワイヤ3を引き出してワイヤ3のほつれを防止する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−238030号公報
【特許文献2】特開2009−107021号公報
【特許文献3】登録実用新案第3040923号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
しかしながら、前述の従来技術には以下のような問題点がある。特許文献1に記載された技術は、押さえ板10を設けているものの、内筒2aとコイル30との間の空間が大きく、この空間にワイヤ3が滑り落ちた場合においては、ワイヤの引き出し不良(キンク)を防止することができない。また、ワイヤ3の引き出し位置が従来よりもコイル30から離隔しており、押さえ板10の下面と内周面との境界部分通過時にワイヤ3に癖がついてしまい、溶接ワイヤ3を溶接部へ供給する際に、ワイヤ3の位置がずれてしまい、溶接精度が低下するという問題点がある。
【0012】
また、特許文献2の技術においても、ワイヤガイド部材10bをコイルの中空部側に垂れ下がるように構成しているため、ワイヤ引き出し時の引き出し抵抗が増加してしまう。従って、ワイヤ送給時にワイヤガイド部材10bによってワイヤ3に癖付けされてしまい、溶接ワイヤ3を溶接部へ供給する際に、ワイヤ3の位置がずれてしまい、溶接精度が低下するという問題点がある。
【0013】
更に、特許文献3の技術においては、ワイヤ3のほつれは解消されるものの、コイル30上部への部材1aの散布が煩雑であり、また、ペイルパックが傾く等の何らかの理由により小片状又は粒状部材1aがペイルパック容器2からこぼれた場合、部材1aが溶接現場に散らばって、作業者が転倒する等の事故が起きる危険性がある。
【0014】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたものであって、ワイヤ引き出し時のキンクの発生を防止し、引き出し不良を防止することができるペイルパック用押さえ部材、ペイルパック用容器及び溶接ワイヤ収納ペイルパックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0015】
本願発明に係るペイルパック用押さえ部材は、内部にコイル状の溶接ワイヤをその軸を垂直にして収納するペイルパック用容器に使用されるペイルパック用押さえ部材において、前記溶接ワイヤのコイル上に配置され前記溶接ワイヤの跳ね上がりを防止する環状の押さえ板と、前記押さえ板の内側にその軸方向がコイル軸の方向になるように配置された筒状部材と、前記筒状部材に回転可能に取付けられ前記押さえ板の表面を転動するローラと、を有することを特徴とする。
【0016】
本願発明に係るペイルパック用容器は、内部にコイル状の溶接ワイヤをその軸を垂直にして収納し、この溶接ワイヤの引き出し時にその跳ね上がりを防止する押さえ部材が設けられたペイルパック用容器において、前記押さえ部材は、前記溶接ワイヤのコイル上に配置され前記溶接ワイヤの跳ね上がりを防止する環状の押さえ板と、前記押さえ板の内側にその軸方向がコイル軸の方向になるように配置された筒状部材と、前記筒状部材に回転可能に取付けられ前記押さえ板の表面を転動するローラと、を有することを特徴とする。
【0017】
本願発明に係る溶接ワイヤ収納ペイルパックは、ペイルパック用容器と、このペイルパック用容器の内部にその軸を垂直にして収容されたコイル状の溶接ワイヤと、この溶接ワイヤの引き出し時にその跳ね上がりを防止する押さえ部材と、を有する溶接ワイヤ収納ペイルパックにおいて、前記押さえ部材は、前記溶接ワイヤのコイル上に配置され前記溶接ワイヤの跳ね上がりを防止する環状の押さえ板と、前記押さえ板の内側にその軸方向がコイル軸の方向になるように配置された筒状部材と、前記筒状部材に回転可能に取付けられ前記押さえ板の表面を転動するローラと、を有し、前記溶接ワイヤが前記押さえ板と前記筒状部材との間から引き出されて使用されるものであることを特徴とする。
【0018】
上述のペイルパック用押さえ部材、ペイルパック用容器及び溶接ワイヤ収納ペイルパックにおいて、例えば前記押さえ板には、前記ローラを前記押さえ板の内周に沿うように移動させるガイド部材が設けられている。
【0019】
また、前記筒状部材の下端部には、前記容器の底面に転動可能の車輪が設けられているように構成することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明のペイルパック用押さえ部材は、押さえ板の内側に筒状部材がコイル軸と同軸的になるように配置されている。よって、本発明のペイルパック用押さえ部材をペイルパック内部に収納したコイル状の溶接ワイヤ上に載置すれば、溶接ワイヤがコイルと内筒との隙間に滑り落ちることを防止することができる。これにより、キンクの発生が防止され、その結果、溶接ワイヤの引き出し不良を防止することができる。
【0021】
また、筒状部材に回転可能に支持されたローラは、押さえ板本体の表面を転動するように構成されている。即ち、ペイルパック用押さえ部材をペイルパック内部に収納したコイル状の溶接ワイヤ上に載置し、ワイヤを押さえ板と筒状部材との間から引き出せば、ローラは、ワイヤの引き出しに追従して押さえ板の表面を転動する。これにより、ワイヤは内筒に対して常に一定の距離だけ離隔して引き出されていき、その結果、ワイヤが内筒を巻き締めて引き出し不良が発生することを防止することができる。
【0022】
よって、本発明のペイルパック容器及び溶接ワイヤ収納ペイルパックによれば、キンクの発生及びワイヤの引き出し不良を防止することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明の実施形態に係る溶接ワイヤ収納ペイルパックにおける押さえ部材を示す上面図である。
【図2】本発明の実施形態に係る溶接ワイヤ収納ペイルパックを示す図であり、図1におけるA−A断面図である。
【図3】本発明の実施形態に係る溶接ワイヤ収納ペイルパックにおいて、溶接ワイヤ引き出し時の押さえ部材を示す断面図である。
【図4】ペイルパック用押さえ部材におけるローラの一例を示す図である。
【図5】(a),(b)は、従来の溶接ワイヤ収納ペイルパックを示す図であり、(a)は模式的斜視図、(b)は縦断面図である。
【図6】従来のワイヤ引き出し時の溶接ワイヤ収納ペイルパックを示す断面図である。
【図7】溶接ワイヤの引き出し不良を防止する従来技術を示す模式図である。
【図8】溶接ワイヤの引き出し不良を防止する従来技術を示す模式図である。
【図9】溶接ワイヤの引き出し不良を防止する従来技術を示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本願発明の実施の形態について添付の図面を参照して詳細に説明する。図1は本発明の実施形態に係る溶接ワイヤ収納ペイルパックにおける押さえ部材を示す上面図、図2は本発明の実施形態に係る溶接ワイヤ収納ペイルパックを示す図であり、図1におけるA−A断面図、図3は本発明の実施形態に係る溶接ワイヤ収納ペイルパックにおいて、溶接ワイヤ引き出し時の押さえ部材を示す断面図である。また、図4は、ペイルパック用押さえ部材におけるローラの一例を示す図である。
【0025】
本実施形態の溶接ワイヤ収納ペイルパックは、図5に示す従来の溶接ワイヤ収納ペイルパックにおいて、押さえ板10の代わりに図1に示すペイルパック用押さえ部材1を配置したものである。図5に示すように、有底円筒状に形成されたペイルパック用容器2は、その外筒2b部分の軸が垂直になるようにして載置されている。また、ペイルパック容器2の内部には、内筒2aがその軸を垂直にして外筒2bと同軸的に載置されている。そして、この外筒2bと内筒2aとの間に捻りを加えながら上方からワイヤ3が落とし込まれ、溶接ワイヤコイル30が形成されている。又は、外筒2b内に溶接ワイヤコイル30が形成された後、コイル30内に内筒2aが挿入されている。図2に示すように、このコイル30上面のほぼ全域を覆うように、環状の押さえ板11が配置されている。また、押さえ板11の内側には筒状部材12がその中心軸をコイル軸と一致させて配置されている。筒状部材12は、その外周面が周方向全域にわたってコイル30内面の近傍となるように設けられている。更に、筒状部材12には、その外面から半径方向外側に延出するようにローラ13の回転軸(車軸13b)が取付けられており、この回転軸13bにローラ13が回転可能に支持されている。これにより、ローラ13は、押さえ板11の表面を転動することができる。このように、環状の押さえ板11と、筒状部材12と、ローラ13とにより、図1に示すペイルパック用押さえ部材1が構成されている。そして、溶接ワイヤ3を使用する際には、図2に示すように、コイル30の上端部からワイヤ3を引き出し、押さえ板11と筒状部材12との間に挿通させて、容器2の上方へとワイヤ3を引き出す。
【0026】
押さえ板11は、例えば、樹脂又はアルミニウム等の金属によって成形されている。押さえ板11の外径は、使用されるペイルパック容器の外筒2bの内周面の直径よりも小さく、例えば外径が660mmサイズのペイルパック容器の場合に635乃至655mmである。また、押さえ板11の内径は、使用されるペイルパック容器において、内筒2aの外周面の直径よりも大きく、且つ後述する筒状部材12の外周面の直径よりも大きく設けられており、例えば470乃至480mmである。また、押さえ板11の厚さは、例えば1乃至5mmである。
【0027】
本実施形態の押さえ板11には、その上面に、環状のガイド部材14が固定されている。ガイド部材14は、押さえ板11の内縁部上に配置され、押さえ板11の内縁に沿って延びると共に、その横断面が逆U字型をなしている。ガイド部材14は、内周側側部上部、頭部及び外周側側部を構成する第1部材14aと、内周側側部下部を構成する第2部材14bとから構成され、第1部材14a及び第2部材14bは、図3に示すように、夫々押さえ板11の下面から垂直上方に挿入されるボルト15a及び15bにより押さえ板11に固定されている。そして、ローラ13がガイド部材14の間に収納され、回転軸13bが第1部材14aと第2部材14bとの間の隙間を挿通し、ガイド部材14内のローラ13とガイド部材14外の筒状部材12とを連結している。ローラ13が押さえ板11上を転動するときに、ローラ13はガイド部材14の内周側側部、頭部及び外周側側部により囲まれて、ガイド部材14に案内されて移動する。ガイド部材14は、例えば、アルミニウム合金の押出型材により成形されているが、押さえ板11と同一の材質、例えば、樹脂によって形成してもよい。
【0028】
筒状部材12は、例えば樹脂又はアルミニウム等の金属等によって成形されている。この筒状部材12の外周面の直径は、上述の押さえ板11の内径よりも小さく、例えば460乃至470mmである。筒状部材12の長さは例えば60mmであり、厚さは例えば0.6乃至2.0mmである。この筒状部材12には、例えば上端部に近接した位置において、この後に述べるローラ13の車軸13bを挿通する孔が、例えば円周面に沿って均等な間隔だけ離隔して、例えば4箇所に設けられている。本実施形態においては、図2に示すように、筒状部材12の下端部には、筒状部材12の内周面側に車輪12aが配置されており、車輪12aは車軸12bを介して筒状部材12の側面に連結されている。車輪12aは例えばベアリングを介して車軸12bに取付けられており、これにより、車輪12aが筒状部材12に回転可能に支持されている。車輪12aは、例えば筒状部材12の円周面に沿って均等間隔だけ離隔して、例えば4箇所に設けられている。
【0029】
ローラ13は、図4に示すように、例えば2個の車輪から構成され、例えば内径3mm、外径8mm、幅3mmのベアリングを介して車軸13bに回転可能に取付けられている。上述の如く、ローラ13は、ガイド部材14の間に収納され、回転軸13bが第1部材14aと第2部材14bとの間の隙間を挿通し、ガイド部材14内のローラ13とガイド部材14外の筒状部材12とを連結している。また、ローラ13が押さえ板11上を転動するときに、ローラ13はガイド部材14の内周側側部、頭部及び外周側側部により囲まれて、ガイド部材14に案内されて移動する。即ち、ローラ13は、押さえ板11上に転動可能に配置された状態でガイド部材14によって周囲を覆われ、ローラ13の移動軌跡が規制されている。
【0030】
車軸13bの端部は、上述の筒状部材12の上端部近傍に設けられた孔に挿通され、例えばナット13aにより筒状部材12に固定されている。車軸13bは、例えばM3のネジであり、長さが例えば35mmである。車軸13bの寸法は、ローラ13の寸法、及びコイル30と筒状部材12との間の距離等により、最適な大きさで選択されている。本実施形態においては、車軸13bはその頭部から所定間隔(例えば、20mm)の区間は平滑に設けられており、車軸13bを2個のローラ13の中空部に挿通させ、車軸13bの平滑部にローラ13がベアリングを介して回転可能に支持されている。そして、平滑部の端部から車軸13bの先端までの間には、ネジが設けられており、例えば1個のM3ナット13aをネジに螺合させた後、上述の筒状部材12側面に設けられた孔に挿通し、車軸13bの先端部に更にもう1個のM3ナット13aを螺合させて、1対のM3ナット13aにより筒状部材12を挟んだ状態でナット13aを締結して、車軸13bを筒状部材12に固定している。これにより、車軸13bは、筒状部材12の外面から半径方向外側に延出し、筒状部材12にローラ13が回転可能に取付けられた状態となっている。
【0031】
即ち、ローラ13が押さえ板11の表面をガイド部材14に案内されて転動することにより、車軸13bはローラ13と共に押さえ板11の内周に沿うように円運動し、従って、筒状部材12もその中心軸方向をコイル軸と一致させて中心軸周りに回転する。ローラ13の車輪は、上述の如く、例えばベアリングを介して車軸13bに取付けらており、筒状部材12及びローラ13は円滑に回転することができる。例えば、車軸13bを押さえ板11の円周方向に押圧すれば、ローラ13は、容易に押さえ板11の表面を転動し、筒状部材12及びローラ13も円滑に回転する。
【0032】
次に、本実施形態のペイルパック用押さえ部材1を配置した溶接ワイヤ収納ペイルパックの作製方法について説明する。先ず、ペイルパック用容器2の内部にワイヤ3を落とし込む。このとき、図5に示すような外筒2bと内筒2aとの間の底板上に、ソリッドワイヤ又はフラックス入りワイヤ等の溶接ワイヤ3を落とし込んで、溶接ワイヤコイル30を収納していってもよいし、溶接ワイヤ3を外筒2bの底板上に落とし込んでいって溶接ワイヤコイル30を形成した後、コイル30の内側に内筒2aを挿入してもよい。溶接ワイヤ3の落とし込みの際には、ワイヤの捻れを防止するために、ワイヤ3に引き出し時の捻れ方向と逆方向に捻りを加えながら容器2の内部にワイヤ3を落とし込んでいく。また、コイル30と内筒2aとの間に、適長区間の隙間を形成しながらワイヤ3を落とし込んでいく。この溶接ワイヤコイル30は、例えば質量が200乃至500kgの重さを有する。
【0033】
所定の長さだけワイヤ3を収納して、コイル30を形成したら、コイル30上にペイルパック用押さえ部材1の押さえ板11を載置する。このとき、コイル30の上端部からワイヤ3を適長引き出し、押さえ板11の下面側からワイヤ3の端部を押さえ板11と筒状部材12との間に挿通させ、ワイヤ3を適長引き出した状態でコイル30と内筒2aとの間に筒状部材12の部分を挿入していき、押さえ板11をコイル30上に載置する。そして、ワイヤ3の弛みをなくした状態でワイヤ3の端部を、例えば押さえ板11の上面にテープ等により貼り付けておく。これにより、溶接ワイヤ収納ペイルパックが作製される。
【0034】
次に、本実施形態の溶接ワイヤ収納ペイルパックの動作について説明する。先ず、溶接ワイヤ収納ペイルパックを溶接現場に設置する。次に、押さえ板11の上面にテープ等により貼り付けられたワイヤ3の端部を引っ張り、溶接機に取り付ける。そして、溶接機により、ワイヤ3を順次引き出していく。
【0035】
ワイヤ3の引き出しにより、コイル30は上方から順次巻き解かれていき、押さえ板11と筒状部材12との間から順次引き出されていく。このとき、巻き解かれていくコイル30の内側には、その近接した位置に筒状部材12が存在する。従って、この筒状部材12の外周面によって内筒2a側へのワイヤ3の滑り落ちが防止され、キンクが発生することを防止することができ、その結果、ワイヤの引き出し不良を防止することができる。
【0036】
ワイヤ3が引き出されていくと、コイル30における引き出し位置は、コイル30の周方向に順次移動していく。本実施形態のペイルパック用押さえ部材1は、押さえ板11の表面を転動するローラ13がその回転軸となる車軸13bの端部を筒状部材12に固定されている。即ち、押さえ板11と筒状部材12との間には、車軸13bが介在する。従って、ワイヤ3の引き出し位置がコイル30の周方向に移動すると、引き出されていくワイヤ3は、車軸13bに当接する。
【0037】
ワイヤ3は、車軸13bに当接し、しかし、引き出し位置が引き続きコイル30の周方向に移動していくため、車軸13bはワイヤ3によって押圧され、ローラ13は押さえ板11の表面を転動し、筒状部材12及びローラ13は押さえ板11の内周に沿って円滑に回転する。これにより、ワイヤ3の引き出し位置は、内筒2aに対して常に一定の距離だけ離隔した状態となり、引き出されたワイヤ3による内筒2aの巻き締めが防止され、その結果、ワイヤの引き出し不良を防止することができる。
【0038】
コイル30が順次巻き解かれていくと、筒状部材12の下端部はペイルパック容器2の底部に近接していく。本実施形態のペイルパック用押さえ板1には、筒状部材12の下端部に車輪12aが設けられており、この車輪12aは車軸12bを介して筒状部材12の側面に連結されている。従って、車輪12aは、図3に示すように、やがて、ペイルパック容器2の底部に当接する。これにより、コイル30が更に巻き解かれていくと、コイル30の上端部は押さえ板11の下面から離れ、しかし、ワイヤ3の巻き解きに伴い、ワイヤ3の引き出し位置がコイル30の周方向に移動していくため、引き出されていくワイヤ3は車軸13bを押圧する。
【0039】
そして、ワイヤ3の押圧により、ローラ13が押さえ板11の表面を転動するか、又はペイルパック用押さえ部材1自身がその中心軸、即ち、押さえ板11の中心軸を回転軸として、全体的に円運動するように車輪12aが容器2の底面を転動する。これにより、ワイヤ3は内筒2aに対して一定の距離を維持した状態で円滑に引き出されていき、その結果、ワイヤが内筒を巻き締めて引き出し不良が発生することを防止することができる。
【0040】
本実施形態のペイルパック用押さえ部材1は、溶接ワイヤ上に容易に設置することができ、溶接ワイヤ収納ペイルパックに使用した場合において、筒状部材12により、ワイヤ3引き出し時のコイル30の滑り落ちを確実に防止することができ、キンクが発生することを防止することができ、その結果、ワイヤの引き出し不良の発生を防止することができる。
【0041】
また、本実施形態の溶接ワイヤ収納ペイルパックによれば、ワイヤ3は内筒2aに対して常に一定の距離だけ離隔して引き出されていく。その結果、ワイヤ3が内筒2aを巻き締めて引き出し不良が発生することを防止することができる。
【0042】
更に、本実施形態においては、押さえ板11には、ローラ13を押さえ板11の内周面に沿って移動させるガイド部材14が設けられており、ローラ13がガイド部材14の付設方向に沿って移動するため、ローラ13の移動経路が正確な円となり、筒状部材12をその中心軸をコイル30の中心軸と一致させて回転させることができる。従って、ワイヤの引き出しが安定し、引き出し不良の発生を更に防止することができる。
【0043】
更にまた、本実施形態においては、筒状部材12の下端部に車輪12aが設けられている。これにより、ワイヤ1の引き出しが進行し、筒状部材12の下端部がペイルパック容器2の底部に近接し、やがて車輪12aが容器2の底部に当接した場合においても、ローラ13が押さえ板11の表面を転動するか、又はペイルパック用押さえ部材1自身が全体的に円運動するように車輪12aが容器2の底面を転動する。従って、ワイヤの引き出しが終盤にかかった場合においても、ワイヤ3は内筒2aに対して一定の距離を維持した状態で円滑に引き出されていき、その結果、ワイヤが内筒を巻き締めて引き出し不良が発生することを防止することができる。
【0044】
なお、本実施形態においては、押さえ板11の下面において、ワイヤを引き出す位置、即ち、押さえ板11の下面と内周面との境界部分を平滑又は円弧状に設ければ、ワイヤの引き出しが更に円滑となり、キンク及び引き出し不良の発生を更に防止することができる。
【0045】
また、本実施形態においては、ガイド部材14を押さえ板11の上面に設けたが、ガイド部材14を押さえ板11の下面に設けたり、押さえ板11の内周面に設けてもよく、第1部材14a及び第2部材14bからなるガイド部材14を例えば1部品によって構成してもよい。更に、ガイド部材14を設ける代わりに、例えば、押さえ板11の内周面に沿って溝を設け、ローラ13がこの溝に嵌り込んだ状態で溝に沿って転動するように構成してもよい。
【0046】
更に、筒状部材12については、その下端部に車輪12aを設けたが、車輪12aはベアリングを介して車軸12bに連結されたものに限らず、例えば、車輪12aと車軸12bとを1部品により構成し、筒状部材12にベアリングを介して連結してもよい。また、車輪12aの個数についても、4個に限らず、容器2の底部上を円滑に転動することができる範囲において適宜増減することができ、ワイヤの引き出し不良が生じない限り、筒状部材12に車輪12aを設けなくてもよい。
【0047】
更にまた、ローラ13についても、ベアリングを介して車輪を車軸13bに連結したものに限らず、例えば、ローラ13と車軸13bとを1部品により構成し、車軸13b部分を筒状部材12にベアリング等を介して連結してもよく、ローラ13が筒状部材12に対して回転可能に支持されている範囲において、その形態は限定されない。また、車軸13bについても、有頭のネジではなく、棒状部材の両端にネジが形成されたものであってもよく、筒状部材12にローラ13を回転可能に連結することができる範囲において、形状及び材質は限定されない。
【符号の説明】
【0048】
1:ペイルパック用押さえ部材、1a:小片状又は粒状部材、2:ペイルパック用容器、2a:内筒、2b:外筒、3:(溶接用)ワイヤ、10:押さえ板、10a:ワイヤ押さえ部材、10b:ワイヤガイド部材、11:押さえ板、12:筒状部材、12a:車輪、12b:車軸、13:ローラ、13a:ナット、13b:車軸、14:ガイド部材、14a:第1部材、14b:第2部材、15a:ボルト、15b:ボルト、30:コイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内部にコイル状の溶接ワイヤをその軸を垂直にして収納するペイルパック用容器に使用されるペイルパック用押さえ部材において、
前記溶接ワイヤのコイル上に配置され前記溶接ワイヤの跳ね上がりを防止する環状の押さえ板と、前記押さえ板の内側にその軸方向がコイル軸の方向になるように配置された筒状部材と、前記筒状部材に回転可能に取付けられ前記押さえ板の表面を転動するローラと、を有することを特徴とするペイルパック用押さえ部材。
【請求項2】
前記押さえ板には、前記ローラを前記押さえ板の内周に沿うように移動させるガイド部材が設けられていることを特徴とする請求項1に記載のペイルパック用押さえ部材。
【請求項3】
前記筒状部材の下端部には、前記容器の底面に転動可能の車輪が設けられていることを特徴とする請求項1又は2に記載のペイルパック用押さえ部材。
【請求項4】
内部にコイル状の溶接ワイヤをその軸を垂直にして収納し、この溶接ワイヤの引き出し時にその跳ね上がりを防止する押さえ部材が設けられたペイルパック用容器において、
前記押さえ部材は、前記溶接ワイヤのコイル上に配置され前記溶接ワイヤの跳ね上がりを防止する環状の押さえ板と、前記押さえ板の内側にその軸方向がコイル軸の方向になるように配置された筒状部材と、前記筒状部材に回転可能に取付けられ前記押さえ板の表面を転動するローラと、を有することを特徴とするペイルパック用容器。
【請求項5】
前記押さえ板には、前記ローラを前記押さえ板の内周に沿うように移動させるガイド部材が設けられていることを特徴とする請求項4に記載のペイルパック用容器。
【請求項6】
前記筒状部材の下端部には、前記容器の底面に転動可能の車輪が設けられていることを特徴とする請求項4又は5に記載のペイルパック用容器。
【請求項7】
ペイルパック用容器と、このペイルパック用容器の内部にその軸を垂直にして収容されたコイル状の溶接ワイヤと、この溶接ワイヤの引き出し時にその跳ね上がりを防止する押さえ部材と、を有する溶接ワイヤ収納ペイルパックにおいて、
前記押さえ部材は、前記溶接ワイヤのコイル上に配置され前記溶接ワイヤの跳ね上がりを防止する環状の押さえ板と、前記押さえ板の内側にその軸方向がコイル軸の方向になるように配置された筒状部材と、前記筒状部材に回転可能に取付けられ前記押さえ板の表面を転動するローラと、を有し、
前記溶接ワイヤが前記押さえ板と前記筒状部材との間から引き出されて使用されるものであることを特徴とする溶接ワイヤ収納ペイルパック。
【請求項8】
前記押さえ板には、前記ローラを前記押さえ板の内周に沿うように移動させるガイド部材が設けられていることを特徴とする請求項7に記載の溶接ワイヤ収納ペイルパック。
【請求項9】
前記筒状部材の下端部には、前記容器の底面に転動可能の車輪が設けられていることを特徴とする請求項7又は8に記載の溶接ワイヤ収納ペイルパック。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate

【図7】
image rotate

【図8】
image rotate

【図9】
image rotate


【公開番号】特開2011−56515(P2011−56515A)
【公開日】平成23年3月24日(2011.3.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−205743(P2009−205743)
【出願日】平成21年9月7日(2009.9.7)
【出願人】(000001199)株式会社神戸製鋼所 (5,860)
【Fターム(参考)】