説明

ペプチド脂質化合物

【課題】 この発明は、新規なペプチド脂質化合物に関し、より詳細には、生分解性のフィルムやフッ素樹脂の接着剤として有用なペプチド脂質化合物に関する。
【解決手段】 本発明は、少なくとも3個のロイシンを含みペプチドの両端に親水基及び疎水基を有するペプチド脂質化合物であり、即ち、下記化学式
−C2n−CONH−R(−COO−C2m+1
(式中、Rは、−N(CH3−i(式中、Xはハロゲン原子を表し、iは0〜3を表す。)を表し、Rは、ロイシン3〜6個及び、そのカルボキシル基側の末端に結合するグルタミン酸及びアスパラギン酸から成る群から選択されるアミノ酸1〜2個から成るポリペプチドを表し、nは2〜12、mは12〜16を表す。)で表されるペプチド脂質化合物である。ここで−C2m+1は疎水性を示す部分であり、Rは親水性を示す部分である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、新規なペプチド脂質化合物に関し、より詳細には、生分解性のフィルムやフッ素樹脂の接着剤として有用なロイシンを少なくとも3個含むペプチド脂質化合物に関する。
【背景技術】
【0002】
現在の生活に欠くことができない各種の樹脂製品は、高分子化合物を素材としている。高分子化合物は分子の構造規則性を制御することで優れた機械強度と安定性を有するが、これらの特性はリサイクルや廃棄処理を考えた場合には逆に問題点となる。
一方、発明者らは、ペプチド基を部分構造にもつ両親媒性分子が水中や有機溶媒中で自己会合することを報告してきた(非特許文献1、2)。これらの会合体は例外なくペプチド部に平行β−シートを形成しているため、水素結合の連鎖方向に対して分子の配列は高次に規則的である。従って、β−シート間を何らかの相互作用で固定化できれば、水素結合の連鎖方向に直交した方向にも分子を規則配列できると考えられる。一般的な平行β−シートはプリーツ構造を持つ。この構造の場合、アミノ酸側鎖は交互にシート平面の裏表に直交して伸びている。このためアミノ酸にロイシンを用いれば、β−シートはロイシンジッパーで固定される。
【0003】
【非特許文献1】J. Am. Chem. Soc., 120, 12192-12199 (1998)
【非特許文献2】日本油化学会誌第49巻第5号(2000)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
トリペプチド型両親媒性分子及び、よりアミノ酸残基数の多いペプチド型両親媒性分子を用いれば、無極性有機溶媒中で繊維状会合体を形成させることができ、ペプチド部に安定な平行β−シートを形成する。ロイシンジッパーを形成させるためには少なくとも3個のロイシン残基を連鎖させる必要があることから、Leu-Leu-Leu基を含む分子を合成して調べたところ、生分解性のフィルムやフッ素樹脂の接着剤として有用なポリペプチド含有短分子を見出し、本発明を完成するに至った。
【課題を解決するための手段】
【0005】
ある短分子がフィルム形成するために必要なことは、いかにして分子を三次元的に固定するかであると考えられる。従来の高分子は、高分子主鎖方向にモノマーユニットが共有結合で並んでおり(一次元固定)、このひも状の分子が絡み合って樹脂を形成しているにすぎない。モノマーが3個以上の反応性原子団を有し、3つ以上のモノマーと共有結合すれば二次元、三次元固定も可能である。加硫などよく知られた高分子工業上の手段も主鎖をイオウで互いにつなぎ止めるという操作で、二次元以上の構造固定を目的に使われるものである。このように多次元で分子を固定すれば樹脂の強度は向上するが、高分子の場合、分子のどこで架橋されているかはわからない。
【0006】
本発明では、ポリペプチド含有短分子のx軸方向を「水素結合」で固定し、y軸方向を「ロイシンジッパー」で固定しようとするものである。ロイシンジッパーは生化学においてタンパクの三次構造を決定する要素の一つとして知られているように、アミノ酸の一つであるロイシン(Leu)だけが持つ特殊な効果である。ロイシンはアルファベットの"Y"型をした側鎖をもっているので、このアミノ酸を複数個持つペプチドが正対すると"Y"同士が引っかかってファスナー(ジッパー)のように結合する。この様子を図1に示す。ジッパーは長いほど強力であるように、ロイシンジッパーも"Y"の数、すなわちロイシンの数が多いほど強くなる。また、ロイシンの数が増えれば、必然的にペプチド結合(アミド結合)の数も増えるわけであるから、水素結合の強度も増す。
【0007】
水素結合の強度は10〜30 kJ/mol程度である。共有結合は数百kJ/molの強度であるから水素結合よりも1オーダー以上強いが、仮に水素結合が一つではなく四つあるとすれば、弱い共有結合と同等の強度が得られることになる。
これで、x軸とy軸方向に分子を固定できる。z軸については、分子を平坦な表面に置けば、否応なく平坦に列ばざるを得ない。そこで、平坦な表面をテンプレート(鋳型)にしてやればよい。ただし、このとき分子は同じ方向を向いて列ぶことを要するから、分子の両末端の構造を大きく変えることを要する。例えば、親水基と疎水基をペプチド基の両末端に配すると、親水性の表面に分子を置いたとき、親水基が表面に接着する。
【0008】
以上より、このような分子がフィルムを形成するためには以下の3点の構造要素が不可欠となる。
1.複数個のペプチド結合を持つこと。これは、今までの研究から3個以上あれば十分である。
2.ロイシンを有すること。ジッパーを形成するために最低3個のロイシンが必要である。この点は重要である。ロイシンとかなり構造が似ているバリンやイソロイシンといったアミノ酸を用いても有効ではなく、このような分子から生成したフィルムは割れてしまう(脆性破壊)。
3.ペプチド基両末端に全く特性が異なる官能基を持っていること。
本発明者らは、このような知見から、少なくとも3個のロイシンを含みペプチドの両端に親水基及び疎水基を有するペプチド脂質化合物に到達し、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、本発明は、下記化学式
−C2n−CONH−R(−COO−C2m+1
で表されるペプチド脂質化合物である。この炭化水素鎖−C2n−と−C2m+1は直鎖であっても分枝するものであってもよいが、直鎖であることが、分子が会合体を形成するという観点から好ましい。ここで−CmH2m+1はこの化合物中で疎水性を示す部分である。
一方、式中、Rは化合物中で親水性を示す部分であり、−N(CH3−i(式中、Xはハロゲン原子、好ましくは塩素若しくは臭素を表し、iは0〜3、好ましくは0又は3を表す。)を表す。
【0010】
は両端に結合手を有するポリペプチド残基であり、ロイシンを連続して3〜6個含むことを要する。ロイシンを3個以上含まない場合には、分子がロイシンジッパーを形成することができないため、この分子が本発明のような会合体を形成することができず、フィルムや接着剤として機能することはない。一方、ロイシンを7個以上含むと、分子が結晶化するなどして、またフィルムや接着剤として機能することができない。Rはこの連続するロイシンのみから成るペプチド鎖及びそのカルボキシル基側の末端に結合するグルタミン酸及びアスパラギン酸から成る群から選択されるアミノ酸1〜2個から成るポリペプチドを表す。このポリペプチドは、疎水基としてエステル結合を介して炭化水素鎖を2本有しており、会合体を形成する。
なお、上記化学式中の−COO−は、グルタミン酸またはアスパラギン酸のカルボキシル基を表す。
【0011】
nは2〜12、mは12〜16を表す。
また、Rが−N(CHBrを表し、Rが−Leu−Leu−Leu−Glu−を表し、該Gluのカルボン酸がCOOC1225の形でエステル鎖を有し、nが10を表し、mが12を表すものが好ましい。
また、本発明は、このペプチド脂質化合物から成るフィルム、又はこのペプチド脂質化合物を有効成分として含むフッ素樹脂用接着剤である。
【発明の効果】
【0012】
本発明のペプチド脂質化合物は、比較的堅固なフィルムを形成する一方で、生分解性であり水中で容易に分解する。また、フッ素樹脂を接着するという顕著な特性を有する。このような性質から、本発明のペプチド脂質化合物は生分解することを求められるフィルムやコーティング剤、フッ素樹脂用接着剤として用いることができる。
このように本発明のペプチド脂質化合物はこのような興味深く且つ有用ないくつかの特性を有することが明らかになったが、その特性の全容は未だ解明されたとはいえないため、今後の展開次第では、産業上有用な用途が見出される余地が十分にあると思われる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明のペプチド脂質化合物は、いかなる公知の方法で作成してもよく、例えば、酸触媒エステル化によって高級アルコールとアミノ酸のエステルを合成し、得られたアミノ酸エステルにアミノ基を保護された(例えば、Boc)ペプチドを縮合させ、その後アミノ基保護基を除去し、適当な炭素鎖を有するカルボン酸を縮合させることにより得ることができる。
【0014】
本発明のペプチド脂質化合物は、いかなる溶媒にも任意の比率で溶解する。このペプチド脂質化合物は、四塩化炭素、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエンといった誘電率が2.0〜2.3の無極性有機溶媒中で繊維状の会合体を形成する。会合体の形成はフーリエ変換赤外スペクトルを測定し、水素結合の形成を調べることで簡便に検出できる(J. Am. Chem. Soc., 120, 12192-12199 (1998))。一方、水やクロロホルムは極性溶媒であるから会合体を形成しない。会合体を作る四塩化炭素溶液と会合体を作らないクロロホルム溶液とを用意し、両方からキャストフィルムを作ると、会合体を含まないクロロホルム溶液もキャストフィルムにすることで、水素結合が形成される。二つの溶液の表面構造を原子間力顕微鏡(AFM)で観察すると、同じ様式の水素結合が形成されているにもかかわらず、四塩化炭素溶液からのキャストフィルムは線維の集合体で、クロロホルム溶液からのキャストフィルムは平坦なシート構造である。つまり、キャストフィルムは溶液に含まれる会合体の構造を反映した表面構造を持つ。従って、平坦な表面構造にするためにはキャスト前の溶液が等方性溶液、すなわち会合体を含まないクロロホルム等の極性溶媒の溶液であった方がよい。濃度はキャストしたあと自然乾燥して濃縮していくので任意である。薄い溶液からは薄いフィルムが、濃い溶液からは厚いフィルムが生じる。そのときの温度も任意である。高温にすれば早くフィルムになり(蒸発が早いので)、低温ではゆっくりフィルムが形成される。
【実施例】
【0015】
以下、実施例にて本発明を例証するが、本発明を限定することを意図するものではない。
実施例1 Br- (CH3)3N+C10H20(C=O)-Leu-Leu-Leu-Glu(OC12H25)2の合成
300 ml擦り付き三角フラスコにBoc-Leu-Leu-Leu-OH(Mw = 457.60)1.04 g(2.03×10-3 mol)、L-グルタミン酸 ジドデシルエステル 塩酸塩(Mw = 520.23)1.06 g(2.03×10-3 mol)を秤量し、脱水THF 70 mlに溶解した。氷冷攪拌下で脱水トリエチルアミン(Mw = 101.19)0.25g(2.44×10-3 mol)を加え、さらにDEPC(Mw = 163.11)0.40g(2.44×10-3 mol)を脱水THF 30 mlに溶かした溶液をゆっくりと滴下した。しばらく氷冷攪拌し、その後、アルミ箔をかぶせて4日間室温攪拌した。
攪拌後、析出した白色固体(トリエチルアミン塩酸塩)を濾別した。溶媒を減圧留去し(固化した部分あり)、残渣を酢酸エチル100 mlに溶解して、200 ml分液漏斗に移し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で2回、飽和クエン酸水溶液で2回、飽和食塩水で2回洗浄した(それぞれ50mlずつ)。
有機層を無水硫酸マグネシウムで約30分程度、脱水し、自然濾過した。溶媒を減圧留去したところオイル状の残渣を得た。冷蔵庫中に放置して固化させ、アセトンから2回再結晶してN-(N-tert-ブトキシカルボニル-tri-L-ロイシル)-L-グルタミン酸 ジドデシルエステル(Boc-Leu-Leu-Leu-Glu-(OC12H25)2)の無色固体を得た。
・収量 1.67 g (理論収量 1.98 g)
・収率 85 %
・m.p. 55.2〜63.1 ℃
・TLC (Merck Kieselgel 60 F254を使用、クロロホルム:メタノール=10:1混合溶媒で展開;Rf値 0.89(単一スポット))
・IR(CCl4法)3300cm-1(ν N-H)、2920cm-1(νas CH2)、2850cm-1(νs CH2)、1740cm-1(ν C=O(エステル))、1695cm-1(ν C=O(ウレタン))1640cm-1(ν C=O(アミドI))、1540cm-1(ν δN-H(アミドII))
【0016】
次に、100 ml擦り付き三角フラスコに、Boc-Leu-Leu-Leu-Glu-(OC12H25)2(Mw=457.60)1.87g(2.03×10-3mol)を秤量し、クロロホルム10 mlに溶解した。氷冷攪拌下で、25%HBr/酢酸13.14 g(Boc-Leu-Leu-Leu-Glu-(OC12H25)2に対して20倍mol)をゆっくりと滴下し、5時間室温攪拌した。
TLCで反応の過程を確認した後(TLCが原点になっていることを確認)、氷冷下でゆっくりと飽和炭酸水素ナトリウム水溶液を加え中和した。500 ml分液漏斗に移し、クロロホルム50mlで3回抽出し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で3回、飽和食塩水で1回洗浄した(それぞれ70mlずつ)。
有機層を無水硫酸マグネシウムで約30分程度、脱水し、自然濾過した。溶媒を減圧留去してオイル状の残渣を得た。冷蔵庫中に放置して固化させ、少量のメタノールを含む酢酸エチルから2回再結晶してN-(tri-L-ロイシル)-L-グルタミン酸 ジドデシルエステル(H-Leu-Leu-Leu-Glu-(OC12H25)2)の無色固体を得た。
・収量 1.05 g (理論収量 1.52 g)
・収率 70.1 %
・TLC (Merck Kieselgel 60 F254を使用、クロロホルム:メタノール=10:1混合溶媒で展開;Rf値 0.49(単一スポット))
・IR(CCl4法)3350cm-1(ν N-H)、2920cm-1(νas CH2)、2850cm-1(νs CH2)、1740cm-1(ν C=O(エステル))、1620cm-1(ν C=O(アミドI))、1540cm-1(ν δN-H(アミドII))
【0017】
次に、100 ml擦り付きナスフラスコにH-Leu-Leu-Leu-Glu-(OC12H25)2(Mw=823.24)0.60g(7.29×10-4mol)、11-ブロモウンデカン酸(Mw = 265.19)0.19 g(7.29×10-4 mol)を秤量し、脱水THF 20 mlに溶解した。氷冷攪拌下で脱水トリエチルアミン(Mw = 101.19)0.08 g(8.25×10-4 mol)を加え、さらにDEPC(Mw = 163.11)0.14 g(8.25×10-4 mol)を脱水THF 20 mlに溶かした溶液をゆっくりと滴下した。しばらく氷冷攪拌し、その後アルミ箔をかぶせて遮光し、4日間室温攪拌した。
攪拌後、析出した白色固体を濾別した。溶媒を減圧留去し、残渣をクロロホルム100 mlに溶解して、200 ml分液漏斗に移し、飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で2回、飽和クエン酸水溶液で2回、飽和食塩水で1回洗浄した(それぞれ50 mlずつ)。
有機層を無水硫酸マグネシウムで約30分程度、脱水し、自然濾過した。溶媒を減圧留去したところオイル状の残渣を得た。フリーザー内に一晩置いたところ固化した。これをアセトン単一溶媒で1回、メタノール単一溶媒で1回、再結晶し、N-[N-(11-ブロモウンデカノイル)-tri-L-ロイシル]-L-グルタミン酸 ジドデシルエステル(Br-C10H20(C=O)-Leu-Leu-Leu-Glu-(OC12H25)2)の無色の固体を得た。
・収量 1.00 g (理論収量 0.78 g)
・収率 128.2% (溶媒及び、微量の不純物を含んでいると思われる。)
・m.p. 53.9〜66.5℃
・TLC (Merck Kieselgel 60 F254を使用、クロロホルム:メタノール=10:1混合溶媒で展開;Rf値 0.93(単一スポット))
・IR(CCl4法)3350cm-1(ν N-H)、2930cm-1(νas CH2)、2850cm-1(νs CH2)、1735cm-1(ν C=O(エステル))、1625cm-1(ν C=O(アミドI))、1545cm-1(ν δN-H(アミドII))
【0018】
次に、100 ml擦り付きナスフラスコにBr-C10H20(C=O)-Leu-Leu-Leu-Glu-(OC12H25)2(Mw = 1070.41)1.00 g(9.34×10-4 mol)を秤量し、脱水THF 60 mlに溶解した。氷冷攪拌下でトリメチルアミンガス約15 mlを吹き込んだ後、密栓をして2週間暗所に保存した。
ドラフト中で溶媒を減圧留去し、無色の固体(N-[N-(11-トリメチルアンモニオウンデカノイル)-tri-L-ロイシル]-L-グルタミン酸ジドデシルエステルブロマイド)を得た。
【0019】
実施例2
実施例1で作製した無色の固体(N-[N-(11-トリメチルアンモニオウンデカノイル)-tri-L-ロイシル]-L-グルタミン酸ジドデシルエステルブロマイド)を室温でクロロホルムに10ml/リットルの濃度で溶解させ、シリコン製の剥離紙上にキャストし、風乾させ、この剥離紙から剥がすことによりフィルムを得た。
得られたフィルムは透明性が高く、折り曲げても折れず元に戻る。即ち、脆性破壊を起こさず、塑性変形も起こさない。感触は"パラフィルム"似ている。
また、このフィルムを水に投入した場合には、フィルムの状態ではかなりフレキシブルであるにもかかわらず、水を加えると数秒でバラバラになる(加熱の必要はない。室温でこの変化を起こす)。これは、溶けるのではなく、一辺が1 mm程度の断片にわかれる。この溶液には数日でカビが生え、生分解性を持つことがわかった。
また、実施例1で作製した無色の固体(N-[N-(11-トリメチルアンモニオウンデカノイル)-tri-L-ロイシル]-L-グルタミン酸ジドデシルエステルブロマイド)を室温でクロロホルムに10ml/リットルの濃度で溶解させた溶液をフッ化カルシウム基板に塗布し、フィルムを形成させ、このフィルムをフーリエ変換赤外分光器(Nicolet社製、Nexus 670)でスペクトル分析した結果を図2に示す。
図2のフーリエ変換赤外スペクトルから、すでに報告したと同様に(J. Am. Chem. Soc., 120, 12192-12199 (1998))、1632cm-1付近のアミドI吸収帯と1543cm-1のアミドII吸収帯が観測され、これは平行β−シートが形成されていることを示し、これらの吸収が半値幅の小さいシャープな吸収であることは、β−シートの構造がきわめて整ったものであることを示している。即ち、ここで得たフィルムは分子配列が二次元的に整ったものであることがわかる。
【0020】
実施例3
実施例1で作製した無色の固体(N-[N-(11-トリメチルアンモニオウンデカノイル)-tri-L-ロイシル]-L-グルタミン酸ジドデシルエステルブロマイド)を室温でクロロホルムに10ml/リットルの濃度で溶解させ、フッ素樹脂シート(ニチアス株式会社製ポリテトラフルオロエチレン、膜厚0.05 mm (JIS K6887, approud No. 7857))の上に塗布したところ、このフッ素樹脂シートから剥がれないことから、このペプチド脂質化合物は、フッ素樹脂表面のコーティング性に優れていることがわかった。
次に、このフッ素樹脂シート2.5 cm×5.0 cmを2枚用意し、それぞれの2.5 cm×3.0 cm部分に上記溶液をキャストした。半乾きの状態でキャスト部分をあわせ、指で強く圧着した。30分ほど室温に放置したあとクリップで片側を支持し、反対側に分銅を結びつけたクリップを取り付けた。おもりの重さを100 g、200 g、500 gとしたが、接着部分は剥がれなかった。指で剥がすと2枚のフッ素樹脂シートに分けることができるが、少なくともずり方向の強度はかなり高かった。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【図1】本発明のペプチド脂質化合物が会合する様子を示す図である。
【図2】本発明のペプチド脂質化合物から作製したフィルムのフーリエ変換赤外スペクトルを示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式
−C2n−CONH−R(−COO−C2m+1
(式中、Rは、−N(CH3−i(式中、Xはハロゲン原子を表し、iは0〜3を表す。)を表し、Rは、ロイシン3〜6個及び、そのカルボキシル基側の末端に結合するグルタミン酸及びアスパラギン酸から成る群から選択されるアミノ酸1〜2個から成るポリペプチドを表し、nは2〜12、mは12〜16を表す。)で表されるペプチド脂質化合物。
【請求項2】
請求項1に記載のペプチド脂質化合物から成るフィルム。
【請求項3】
請求項1に記載のペプチド脂質化合物を有効成分として含むフッ素樹脂用接着剤。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2007−112807(P2007−112807A)
【公開日】平成19年5月10日(2007.5.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−319561(P2006−319561)
【出願日】平成18年11月28日(2006.11.28)
【分割の表示】特願2001−255576(P2001−255576)の分割
【原出願日】平成13年8月27日(2001.8.27)
【出願人】(503360115)独立行政法人科学技術振興機構 (1,734)
【Fターム(参考)】