説明

ペロブスカイト型導電性酸化物材料及びそれを用いた電極

【課題】Coを含み、高導電率を示すペロブスカイト型導電性酸化物材料及びそれを用いた電極を提供する。
【解決手段】(RE1-xAEx)CoO3(RE:希土類元素、AE:アルカリ土類元素、0<x<1)で表されるペロブスカイト型導電性酸化物材料であって、結晶構造解析により得られたCoO6八面体が1.0025以上の歪みを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、Coを含むペロブスカイト型導電性酸化物材料、及びそれを用いた電極に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、耐熱性導電酸化物材料として、LaCo系ペロブスカイト型複合酸化物が知られている(特許文献1,2、非特許文献1)。例えば、特許文献1には、(La,Sr)CoO3の比抵抗の変化が室温から1000℃の温度域で少ないことが記載されている。又、非特許文献1には、(La,Sr)CoO3を大気中、1200℃で7日間焼成して製造し、300℃の比抵抗が0.1〜1/1000(Ω・cm)程度(導電率で1000 S/cm程度)となることが記載されている。
なお、高導電率の導電性酸化物材料は導電性材料として利用可能であり、例えば、アルミナ、ジルコニア等のセラミック体上に電極として形成し、物理量センサ、化学量センサ、ヒータ等に適用することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開昭51-52409号公報
【特許文献2】特開2000-252104号公報
【非特許文献1】大谷ら、" Electrical resistivity and thermopower of (La1-xSrx)MnO3 and (La1-xSrx)CoO3 at elevated temperatures ",Journal of the European Ceramic Society 20, p2721-2726(2000),(Fig.5)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、物質の導電率はキャリア濃度と移動度によって決まることが知られている。そして、ペロブスカイト型導電性酸化物材料のキャリア濃度は、Aサイトのドーパント量((La,Sr)CoO3の場合はSr)を多くするほど高くなるが、実測されるキャリア濃度は、単に上記したドーパント量(ペロブスカイト型導電性酸化物の組成)だけでなく、焼成等の製造条件によっても変動する。従って、仮に同一の組成であっても作製条件が異なれば所望の導電率が得られず、導電率がバラツキ、歩留まりも低下するという問題がある。また、酸化物材料を焼成した際に、クラックが発生する場合もある。
そこで、本発明は、(RE1-xAEx)CoO3(RE:希土類元素、AE:アルカリ土類元素、0<x<1)で表され、高導電率を示すペロブスカイト型導電性酸化物材料及びそれを用いた電極を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するため、本発明のペロブスカイト型導電性酸化物材料は、(RE1-xAEx)CoO3(RE:希土類元素、AE:アルカリ土類元素、0<x<1)で表され、結晶構造解析により得られたCoO6八面体が1.0025以上の歪みを有することを特徴とする。
このような酸化物材料によれば、CoO6八面体の歪みによって導電率を見積もることができ、多大の試行錯誤を経なくとも高導電率を示すペロブスカイト型導電性酸化物材料の組成や製造条件を見出すことができる。そして、CoO6八面体の歪みを管理することにより、高導電率を示すペロブスカイト型導電性酸化物材料を容易かつ安定して得られる。
【0006】
本発明のペロブスカイト型導電性酸化物材料において、単位格子内で隣接する前記CoO6八面体間のCo-O-Coの結合角が162度以上180度未満であることが好ましい。
Co-O-Coの結合角が広いほど移動度が高くなるので、より高い導電率を示すペロブスカイト型導電性酸化物材料が得られる。
【0007】
0.2≦x≦0.5であることが好ましい。
このような酸化物材料によれば、クラックが生じさせずに安定して酸化物材料を製造することができる。
【0008】
本発明の電極は、前記ペロブスカイト型導電性酸化物材料が用いられ、セラミック体上に形成されたものである。
【発明の効果】
【0009】
この発明によれば、(RE1-xAEx)CoO3(RE:希土類元素、AE:アルカリ土類元素、0<x<1)で表され、高導電率を示すペロブスカイト型導電性酸化物材料が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】XRDによる結晶構造解析によるCoO6八面体の歪みと、隣接するCoO6八面体間のCo-O-Coの結合角とを示す模式図である。
【図2】実施例4の試料のXRDによる結晶構造解析結果を示す図である。
【図3】各実施例及び比較例のCoO6八面体の歪みとキャリア濃度拡張比率との関係を示す図である。
【図4】各実施例及び比較例のCo-O-Coの結合角と移動度との関係を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態について説明する。
本発明の実施形態に係るペロブスカイト型導電性酸化物材料は、(RE1-xAEx)CoO3(RE:希土類元素、AE:アルカリ土類元素、0<x<1)で表される基本組成を有している。(RE1-xAEx)CoO3は、Coの異常原子価、酸素Oの欠損又は過剰により、高い導電率を示す組成である。つまり、Coが4+とならず、酸素が量論組成である3からずれ、伝導を司る電子、ホールに影響していることが考えられる。また、酸素量とCoの価数には相関があり、これらは連動して変化する。つまり、上記ペロブスカイト型酸化物の導電率は酸素量とCoの価数によって大きく変化するため、その作製(合成)条件の影響を受け、仮に同一の組成であっても作製条件が異なれば所望の導電率が得られない。
又、ペロブスカイト型導電性酸化物の導電率を向上させるためにはキャリア濃度と移動度とを高くすることが有効である。そして、キャリア濃度は、AサイトのAE元素のドーパント量(つまり、x)を多くするほど高くなるが、実測されるキャリア濃度は、単にドーパント量(ペロブスカイト型導電性酸化物の組成)だけでなく、焼成等の製造条件によっても変動する。従って、仮に同一の組成であっても作製条件が異なれば所望の導電率が得られず、導電率がバラツキ、歩留まりも低下するという問題がある。また、酸化物材料を焼成した際に、クラックが発生する場合もある。
【0012】
このようなことから、本発明者は、上記ペロブスカイト型酸化物の導電率を向上することが出来る指標として、結晶構造解析により得られたCoO6八面体の歪みを見出した。ここで、CoO6八面体の歪みは、ペロブスカイト型酸化物の粉末X線回折(XRD)を行い、結晶構造(空間群)を単斜晶I2/a(No.15)と置いて各原子の原子間距離を計算して求める。
具体的には、ペロブスカイト型構造の単斜晶系I2/a(No.15)の単位格子は図1(a)に示すようになっていて、Coを中心とする八面体の頂点にそれぞれOが配置されたCoO6八面体が単位格子中に4個存在する。ここで、CoO6八面体に歪みが無い場合、Co原子と6個のO原子との距離はすべて等しいが、歪みが生じるとこれらCo-O原子間距離(結合距離)d1、d2、d3が変化する(図1(b))。従って、個々のCoO6八面体のうち、(最長のCo-O原子間距離)/(最短のCo-O原子間距離)で表される値をCoO6八面体の歪みとする。なお、1個の単位格子内に存在する4つのCoO6八面体はすべて同じ形状、大きさとなる。
【0013】
図2は、実施例4の試料のXRDによる結晶構造解析結果(Rietveld解析結果)を示す図である。XRDによる所定の回折角のピーク位置に加え、全データを用い、コンピュータにて非線型最小二乗法で計算し、結晶構造を解析する。格子定数の他、分率座標などの結晶構造パラメーターを計算することができ、CoO6八面体の歪み及び単位格子内で隣接するCoO6八面体間のCo-O-Coの結合角が得られる。
【0014】
ここで、キャリア濃度は単位体積当りのキャリア量であることから、AE元素のドーパント量を、上記した結晶構造解析から得られた単位体積で除した値で予測することができる(キャリア濃度計算値)。なお、単位体積は、結晶構造解析で得られた単位胞体積を、その単位胞内に含まれる化学式単位で除した体積とする。一方、キャリア濃度の実測値はHall測定で求めることができ、キャリア濃度の実測値とキャリア濃度計算値とは必ずしも一致しない。
そこで、キャリア濃度拡張比率=(キャリア濃度の実測値)/(キャリア濃度計算値)と定義すると、上記したCoO6八面体の歪みが大きいほど、キャリア濃度拡張比率が大きくなることを本発明者は見出した。つまり、CoO6八面体の歪みが大きいほど、AE元素のドーパント量が同一であっても導電率が高くなり、これは上記したようにドーパント量が多すぎると酸化物焼結体にクラックが生じるためにドーパント量が制限される場合に有効である。又、ドーパント量が多くなってクラックが生じる条件では、CoO6八面体の歪みも小さくなることも判明した。
【0015】
以上のことから、上記ペロブスカイト型酸化物のCoO6八面体の歪みが1.0025以上となると、キャリア濃度拡張比率が大きくなって導電率に優れる(1400 S/cm以上)。
【0016】
又、単位格子内で隣接するCoO6八面体間のCo-O-Coの結合角は、移動度の指標となる。ここで、図1(c)に示すように、Co-O-Coの結合角は、1個の単位格子内で隣接するCoO6八面体のそれぞれの中心のCoと、隣接頂点に位置するOとのなす角θ1、θ2であり、角θ1、θ2のうち小さい値をCo-O-Coの結合角として採用する。
後述する実験結果(表1)に示すように、Co-O-Coの結合角が広いほど移動度が高くなるが、Co-O-Coの結合角が180度になると、CoO6八面体の歪みが殆ど無くなるために移動度の向上効果が飽和する。又、Co-O-Coの結合角が180度となる組成では、ドーパント量が多くなるため、酸化物にクラックが生じて好ましくない。
これらのことから、Co-O-Coの結合角が162度以上180度未満であることが好ましく、165〜175度であることがより好ましい。Co-O-Coの結合角が162度未満であると、移動度μが1cm2/(Vs)未満に低下する。
【0017】
本発明の実施形態に係るペロブスカイト型導電性酸化物材料において、RE(希土類元素)としては、La,Pr,Ce及びGdから選ばれる1種以上が挙げられ、AE(アルカリ土類元素)としては、Sr,Baから選ばれる1種以上が挙げられる。又、xは0<x<1であればよいが、xが多くなると酸化物にクラックが生じるおそれがあるので、xの範囲は、0.2≦x<0.5とするのが好ましく、さらには、キャリア濃度拡張比率をより高める観点から0.2≦x<0.3の範囲内とすることがより好ましい。
又、本発明のペロブスカイト型導電性酸化物材料は、大気雰囲気下又は酸素雰囲気下(酸素100%)で、1250〜1450℃で1〜5時間焼成して製造することが好ましい。
焼成温度が1250℃未満であると、緻密化しないことがあるため、1400S/cm以上の導電率が得られないことがある。焼成温度が1450℃を超えると、過焼結となり緻密性が低下するため、1400 S/cm以上の導電率が得られないことがある。
【0018】
本発明の電極は、上記したペロブスカイト型導電性酸化物材料を用い、アルミナ、ジルコニア等のセラミック体上に形成させることができる。具体的には、電極としては、物理量センサ、化学量センサ、ヒータ等に適用することができる。
【0019】
本発明は上記実施形態に限定されず、本発明の思想と範囲に含まれる様々な変形及び均等物に及ぶことはいうまでもない。
【実施例1】
【0020】
まず、原料粉末として、RE2O3、AECO3、Co3O4(全て純度99%以上の市販品を用いた。)を用い、表1に示す組成の(RE1-xAEx)CoO3となるように、これら原料粉末をそれぞれ秤量した後、湿式混合して乾燥することにより、原料粉末混合物を調整した。次いで、この原料粉末混合物を大気雰囲気下、1000〜1200℃で1〜5時間仮焼して仮焼粉末を得た。次に、この仮焼粉末と適量の有機バインダとを加え、これを分散媒のエタノールと共に樹脂ポットに投入し、ジルコニア玉石を用いて湿式混合粉砕してスラリーを得た。得られたスラリーを80℃で2時間ほど乾燥し、さらに、250μmメッシュの篩を通して造粒し、造粒粉末を得た。
次いで、得られた造粒粉末をプレス機(成形圧力;98MPa)によって、4.0mm×4.0mm×高さ20mmの角柱状の成形体に成形し、その後、大気雰囲気下または酸素雰囲気下(酸素100%)で、1250〜1450℃の温度で1〜5時間焼成した。さらに得られた焼結体を平面研磨し、3.0mm×3.0mm×高さ15mmのペロブスカイト型導電性酸化物焼結体を得た。
【0021】
得られたペロブスカイト型導電性酸化物焼結体について、直流4端子法により導電率を測定した。測定に用いる電極及び電極線にはPtとAu線をそれぞれ用いた。また導電率測定は、電圧・電流発生器(エーディーシー社製のモニタ6242型)を用いた。
又、得られたペロブスカイト型導電性酸化物焼結体のHall効果(キャリア濃度nおよび移動度μ)を、Hall効果測定装置(東陽テクニカ社製、型番ResiTest8300)により測定した。試料を板状とし、印加磁場を1T、印加電流を1.0×10-6Å〜5.0×10-1Åの範囲内で試料毎に調整した。
【0022】
又、得られたペロブスカイト型導電性酸化物焼結体を乳鉢で粉末にし、粉末X線回折を行った。X線測定装置は、Rigaku社製の型番RINT TTR-III(ゴニオ半径285mm)を用い、光学系:集中型光学系ブラッグ-ブレンターノ型、x線出力 50kV-300mA、発散SLIT:1/3°、発散縦制限SLIT:10mm、散乱SLIT:1/3°、受光SLIT:0.3mm、走査モード:FT、計数時間:2.0sec、ステップ幅:0.0200°、走査軸:2θ/θ、走査範囲:20.00°〜120.00°で測定した。回転は有とした。
測定後、所定の解析ソフトウェア(RIETAN2000;ウェブサイト上で公開)を用い、結晶構造(空間群)を単斜晶I2/a(No.15)と置いて各原子の原子間距離及びを計算して求めた。又、単位格子内で隣接するCoO6八面体間のCo-O-Coの結合角も計算した。これらの計算結果から、(最長のCo-O原子間距離)/(最短のCo-O原子間距離)で表される値をCoO6八面体の歪みとして求めた。
【0023】
又、ペロブスカイト型導電性酸化物を複数個焼結し、焼結体のクラックの有無を目視判定した。そして、(クラックの発生した試料数)/(焼結した全試料数)によりクラック発生頻度(%)を求めた。
【0024】
得られた結果を表1、図1〜図4に示す。
【0025】
【表1】

【0026】
表1、図1〜図4から明らかなように、結晶構造解析により得られたCoO6八面体が1.0025以上の歪みを有する各実施例1〜6の場合、1400 S/cm以上の高い導電率が得られた。
【0027】
一方、導電性酸化物中のSrドーピング量(x)が0.1mol%未満の比較例1の場合、移動度μが1cm2/(Vs)未満に低下した。
導電性酸化物中のSrドーピング量(x)が0.5mol%を超えた比較例2〜5、及び導電性酸化物中のBaドーピング量(x)が0.4mol%を超えた比較例6の場合、CoO6八面体の歪みが1.0025未満となり、キャリア濃度拡張比率が低下して導電率の向上効果が飽和したと共に、焼結体にクラックが発生した。なお、Srの方がBaよりドーピング量を多くしてもクラックが生じ難い。
【0028】
図3は、各実施例及び比較例のCoO6八面体の歪みとキャリア濃度拡張比率との関係を示す。CoO6八面体の歪みが大きくなるほど、キャリア濃度拡張比率が高くなることがわかる。
図4は、各実施例及び比較例のCo-O-Coの結合角と移動度との関係を示す。各実施例のCo-O-Coの結合角が162度以上180度未満であり、この範囲ではCo-O-Coの結合角が大きくなるほど、移動度が高くなることがわかる。又、Co-O-Coの結合角が180度になると(つまり、CoO6八面体の歪みが殆ど無くなると)、移動度が低下することがわかる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(RE1-xAEx)CoO3(RE:希土類元素、AE:アルカリ土類元素、0<x<1)で表されるペロブスカイト型導電性酸化物材料であって、
結晶構造解析により得られたCoO6八面体が1.0025以上の歪みを有することを特徴とするペロブスカイト型導電性酸化物材料。
【請求項2】
単位格子内で隣接する前記CoO6八面体間のCo-O-Coの結合角が162度以上180度未満であることを特徴とする請求項1に記載のペロブスカイト型導電性酸化物材料。
【請求項3】
0.2≦x≦0.5であることを特徴とする請求項1又は2に記載のペロブスカイト型導電性酸化物材料。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか記載のペロブスカイト型導電性酸化物材料が用いられ、セラミック体上に形成された電極。

【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図1】
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【公開番号】特開2012−56810(P2012−56810A)
【公開日】平成24年3月22日(2012.3.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−202672(P2010−202672)
【出願日】平成22年9月10日(2010.9.10)
【出願人】(000004547)日本特殊陶業株式会社 (2,912)
【Fターム(参考)】