説明

ペースト状食品及びその製造方法

【課題】香辛料の特徴のある風味を最大限に生かしたペースト状食品及びその製造方法を提供すること。
【解決手段】構成脂肪酸にエルカ酸を含む食用油脂と香辛料を含有することを特徴とするペースト状食品を製造してカレーなどに添加することで、上記課題を解決できる。エルカ酸を含む食用油脂としては、ナタネ油やカラシ油が、香辛料としてはクミン、しょうが、にんにく、カルダモン、クローブ、シナモン、ローレル、赤唐辛子、ターメリックからなる群より選ばれる少なくとも1種である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、香辛料を使用するペースト状食品ならびにその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
今日、一般小売店でも棚に豊富な種類の香辛料を品揃えするなど、香辛料は我々の暮らしのなかに溶け込みつつある。一般家庭の料理に香辛料を使用する場面が増えていると考えられる。特に、カレー等のスパイスを多く利用する料理も広く普及し、昨今の調理ブームにより手作りで料理をする場面も多くなっている。
【0003】
これまで、香辛料を有効に利用する方法として、以下の方法が報告されてきた。特許文献1には、動物脂に香辛料抽出物を施与して風味油脂を製造するに際し、水分4重量%以上の生動物脂を粒状に成形する工程(A)、上記成形された生動物脂と、シソ科香辛料の非揮発性抽出物とを混合する工程(B)及び上記混合物を容器に充填、密封し、殺菌する工程(C)を順次備えてなることを特徴とし、スープに添加したときに、脂粒としてスープ表面に浮かび上がり、スープに食欲をそそる外観と動物脂本来の好ましい風味を付与し得る、常温での長期安定性に優れた風味油脂が記載されている。
【0004】
また特許文献2には、炭素数18の脂肪酸を油脂全体に対して83〜99質量%、2重結合が0個の炭素数16の脂肪酸を油脂全体に対して0〜11質量%、およびこれらの炭素数18および炭素数16の脂肪酸以外の脂肪酸を油脂全体に対して0〜4質量%含有し、かつ炭素数18の脂肪酸が特定の脂肪酸組成を有するとともに、特定の特性を備えた植物油脂(但し、油脂全体を100質量%とする)に香辛料を配合した香辛料油脂組成物を用いて、当初の香り、辛味などの特性が維持された状態で長期にわたり安定保存が可能な旨を記載している。
【0005】
さらに特許文献3には、マスタードシード等の種子香辛料を動植物油脂中において80℃〜180℃に加熱し、ついで磨砕した組成物並びに更に香辛料抽出物及び/又は香味油を加えた組成物をカレーに添加することにより、再加熱調理やレトルト殺菌等の加熱工程後も全体に一体感があり、ナチュラルで且つカレーの香味を増強させることが可能である旨を記載している。
【0006】
しかしながら、何れの方法でも香辛料の風味を最大限に利用できているとはいえない。
【特許文献1】特開平6−303903号公報
【特許文献2】特開2003−102382号公報
【特許文献3】特開2000−224969号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、香辛料の特徴のある風味を最大限に引き出したペースト状食品及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは上記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、特定の油脂中に特定の香辛料を添加し、加熱することでこれまでにない香りに優れたペースト状食品を提供することが可能になることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0009】
即ち、本発明の第一は、構成脂肪酸にエルカ酸を含む食用油脂と香辛料を含有することを特徴とするペースト状食品に関する。好ましい実施態様は、香辛料が、クミン、しょうが、にんにく、カルダモン、クローブ、シナモン、ローレル、赤唐辛子、ターメリックからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする上記記載のペースト状食品に関する。より好ましくは、エルカ酸の含有量が食用油脂の構成脂肪酸全体中1.0重量%〜50重量%であることを特徴とする上記記載のペースト状食品、更に好ましくは、食用油脂が、カラシ油及び/又はナタネ油であることを特徴とする上記記載のペースト状食品、最も好ましくは香辛料の含有量がペースト状食品全体中0.1重量%〜60重量%であることを特徴とする請求項1〜4何れかに記載のペースト状食品、に関する。本発明の第二は、構成脂肪酸としてエルカ酸を含有する食用油脂を30℃〜100℃に加熱し、これに香辛料を加えてさらに5〜60分間加熱することを特徴とするペースト状食品の製造方法に関する。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、香辛料の特徴のある風味を最大限に引き出したペースト状食品及びその製造方法を提供することが可能となり、これを使用した食品類、特にシチュー、カレー等の食品に特徴のある風味を与える事ができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明につき、さらに詳細に説明する。本発明のペースト状食品は、構成脂肪酸にエルカ酸を含む食用油脂と香辛料を主に含有し、必要に応じて構成脂肪酸にエルカ酸を含まない食用油脂、酸化防止剤、香料、油溶性乳化剤などを含有させてもよい。
【0012】
本発明によるエルカ酸とは、炭素数22のcis−13−モノ不飽和脂肪酸のことであり、それを構成脂肪酸として含む食用油脂としては、ナタネ油やカラシ油が挙げられる。それら食用油脂は、どちらか1種類であっても、また両方を組み合わせて使用しても問題ない。
【0013】
エルカ酸の含有量は、食用油脂の構成脂肪酸全体中1.0重量%〜50重量%であることが好ましい。ここでいうエルカ酸の含有量とは、ペースト状食品に含まれる食用油脂中の脂肪酸全体の重量を100としたときに、含まれるエルカ酸の重量を百分率で示した値のことである。含有量が1.0重量%を下回った場合、香辛料の風味を十分抽出できない場合があり、また50重量%より多い場合、エルカ酸そのものの好ましくない風味が食品に移行し、よいペースト状食品が得られない場合がある。
【0014】
また、本発明の香辛料としては、クミン、しょうが、にんにく、カルダモン、クローブ、シナモン、ローレル、赤唐辛子、ターメリックからなる群より選ばれる少なくとも1種類が好適に用いられ、その形態として、一般にホールと呼ばれる粉砕前の状態であっても、粉砕後の粉末状であっても、発明の効果に差はないが、ホールの状態で行うのが好ましい。本発明の効果はどんな香辛料を用いても効果があるわけでなく、前記香辛料以外のものでは、香辛料由来の悪い風味が抽出され、食品に好ましい風味を付与することができない。
【0015】
これら食用油脂100重量部に対する香辛料の重量割合は0.1重量部〜60重量部であればよい。この範囲より低いと香辛料の風味の抽出度合いが低くなり、また、これより多いと油脂中に抽出される香辛料の風味が多くなり、苦味、えぐみが強調された実用性のないものが出来てしまう。より本発明を実効するには、食用油脂100重量部に対する香辛料の重量割合を40重量%〜50重量%にすることが好ましい。
【0016】
本発明のペースト状食品を製造する方法は、特に限定するわけではないが、製造例を以下に示す。構成脂肪酸にエルカ酸を含む食用油脂を準備し、調理器具に入れて加熱を開始する。このとき調理器具はなんら制限をうけるものではなく、一般家庭であれば、一般的なフライパンや片手鍋で十分であるし、より大量に工業的に製造するため、攪拌機、加熱機の付加された釜で製造することも可能である。加熱の際に用いる熱源としては、特に限定は無いが、ガスによる直火、電気式、電磁誘導式、ジャケット式の蒸気方式等が挙げられる。
【0017】
加熱温度は30℃〜100℃の間が好ましく、より好ましくは40℃〜60℃の間で加熱すると発明の実効が高い。この際、30℃未満であれば、香辛料の十分な風味が抽出できない場合があり、また、100℃を超えると、風味成分が熱により飛散し風味の抜けた好ましくない状態のものができてしまう場合がある。
【0018】
食用油脂の温度が上記加熱温度範囲に到達したら、前記香辛料を入れてゆっくりと撹拌し、5〜60分間加熱することで目的とするペースト状食品が得られる。この際、加熱時間が5分間より短いと香辛料の風味の抽出が弱い場合があり、また60分間を越えて加熱しても、それ以上の効果は得られない場合がある。
【0019】
以上を実施することで得られたペースト状食品は、これまでに無い香辛料の風味を有し、たとえば、カレーに添加した場合、香辛料の風味の充分引き出された美味しいカレーを作製することができる。
【実施例】
【0020】
以下に実施例を示し、本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。なお、実施例において「部」や「%」は重量基準である。
【0021】
(実施例1)
まず、取手つきのフライパンにカラシ油を100重量部入れ、ガスコンロに火をつけて60℃まで加熱した。次いで、クミンの原型を100重量部計量し、上記フライパンに投入した。その後、当初の温度60℃をキープできるように火加減を調整しながら、しゃもじでフライパンの中をゆっくりと撹拌した。クミンを投入後20分間の加熱処理を行った後、火を止めてペースト状食品を得た。上記のようにして得られたペースト状食品は、クミンの香りが充分引き出されており、好ましい風味を有していた。
【0022】
(実施例2)
香辛料をクミン100重量部から、クミン50重量部とコリアンダー50重量部に変えた以外は実施例1と同様にペースト状食品を製造した。得られたペースト状食品は、実施例1と同様、クミン、コリアンダーの香りが合わさった好ましい風味を有するペースト状食品であった。
【0023】
(実施例3)
香辛料をクミン100重量部から、クミン50重量部、しょうが10重量部、にんにく10重量部、カルダモン5重量部、クローブ5重量部、シナモン5重量部、ローレル5重量部、赤唐辛子5重量部、ターメリック5重量部に変えた以外は、実施例1と同様にペースト状食品を製造した。得られたペースト状食品は、実施例1と同様、クミン、しょうが、にんにく、カルダモン、クローブ、シナモン、ローレル、赤唐辛子、ターメリックの香りが合わさった特徴的に好ましい風味を有するペースト状食品であった。
【0024】
(実施例4)
使用した食用油脂をカラシ油100重量部から、カラシ油50重量部とナタネ油50重量部に変えた以外は、実施例1と同様にペースト状食品を製造した。得られたペースト状食品は、実施例1と同様、クミンの好ましい風味を有するペースト状食品であった。
【0025】
(比較例1)
まず、大豆油を取手つきのフライパンに100重量部入れ、ガスコンロに火をつけて60℃まで加熱した。次いで、クミンの原型を100重量部計量し、上記フライパンに投入した。その後、当初の温度60℃をキープできるように火加減を調整しながらしゃもじでフライパンの中をゆっくりと撹拌した。クミンを投入後20分間加熱処理を行ったのち、火を止めてペースト状食品を得た。上記のようにして得られたペースト状食品は、香辛料の香りが充分抽出されているとはいえず、曖昧な風味のペースト状食品であった。
【0026】
(比較例2)
まず、カラシ油を取手つきのフライパンに100重量部入れ、ガスコンロに火をつけて60℃まで加熱した。次いで、ターメリックの原型を100重量部計量し、上記フライパンに投入した。その後、当初の温度60℃をキープできるように火加減を調整しながらしゃもじでフライパンの中をゆっくりと撹拌した。ターメリックを投入後20分間加熱処理を行ったのち、火を止めてペースト状食品を得た。上記のようにして得られたペースト状食品は、香辛料の香りが充分抽出されているとはいえず、曖昧な風味のペースト状食品であった。
【0027】
(実施例5)
実施例1で得られたペースト状食品2重量部、カレールウ(株式会社カネカサンスパイス製)10重量部、野菜、果実ペースト等の液体調味料15重量部、水73重量部を鍋中で全て混合し、90℃まで加熱攪拌し、約30分間でカレーを得た。上記で得られたカレーは、香辛料の香りに非常に優れた品質の美味しいカレーであった。
【0028】
(比較例3)
比較例1で得られたペースト状食品2重量部、カレールウ(株式会社カネカサンスパイス製)10重量部、野菜、果実ペースト等の液体調味料15重量部、水73重量部を鍋中で全て混合し、90℃まで加熱攪拌し、約30分間でカレーを得た。上記で得られたカレーは香辛料の香りがはっきりとしない特徴のないカレーであった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
構成脂肪酸にエルカ酸を含む食用油脂と香辛料を含有することを特徴とするペースト状食品。
【請求項2】
香辛料が、クミン、しょうが、にんにく、カルダモン、クローブ、シナモン、ローレル、赤唐辛子、ターメリックからなる群より選ばれる少なくとも1種であることを特徴とする請求項1に記載のペースト状食品。
【請求項3】
エルカ酸の含有量が食用油脂の構成脂肪酸全体中1.0重量%〜50重量%であることを特徴とする請求項1又は2に記載のペースト状食品。
【請求項4】
食用油脂が、カラシ油及び/又はナタネ油であることを特徴とする請求項1〜3何れか1項に記載のペースト状食品。
【請求項5】
香辛料の含有量が、ペースト状食品全体中0.1重量%〜60重量%であることを特徴とする請求項1〜4何れかに記載のペースト状食品。
【請求項6】
構成脂肪酸としてエルカ酸を含有する食用油脂を30℃〜100℃に加熱し、これに香辛料を加えてさらに5〜60分間加熱することを特徴とするペースト状食品の製造方法。

【公開番号】特開2008−306989(P2008−306989A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−158376(P2007−158376)
【出願日】平成19年6月15日(2007.6.15)
【出願人】(000000941)株式会社カネカ (3,932)
【Fターム(参考)】