説明

ペースト状食品

【課題】果実酒の搾汁滓から果実酒の風味と色合いを備えた食品を得るにあたり、搾り滓の利用度合いを高め、抗酸化物質などの機能性成分が多く含まれるようにする。
【解決手段】所定量の種を含有する果実酒の搾汁滓を種ごと破砕して平均粒径0.5mm以下のペースト状破砕物を得、それに加糖して糖濃度30〜40wt%のペースト状食品を製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、果実酒の搾り滓を利用したペースト状食品とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
葡萄酒等の果実酒の搾り滓の利用方法として、搾り滓をそのまま1ヶ月程度アルコール発酵させて飼料とすること(特許文献1)、搾り滓を乾燥及び粉砕して食用粉末とすること(特許文献2)、搾り滓を圧搾して得た液体に糖分を加えて糖質非アルコール性発酵酵素を培養し、その培養液をパンの製造に使用すること(特許文献3)などがある。しかしながら、特許文献1の飼料は食品素材として利用できるものではなく、特許文献2の食用粉末は単なるぶどう果実の皮や種の再利用であって、果実酒の風味を備えておらず、特許文献3の培養液はパンの製造などの極めて限定的な用途でしか使用することができない。
【0003】
これに対し、本発明者は、果実酒醸造後の搾り滓を粗く破砕した後に種子や茎を除去し、得られた破砕物をワイン酵母でアルコール発酵することにより、ワインの風味と色合いを備えたペースト状の食品を得ることを提案した(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−171916号公報
【特許文献2】特開2002−360208号公報
【特許文献3】特開2007−124996号公報
【特許文献4】特開2009−165427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、果実酒の搾汁滓を用いて、果実酒の風味と色合いを備えたペースト状食品を、特許文献4に記載の方法よりも簡便に得られるようにし、かつ、搾り滓の利用度合いをさらに高め、栄養素的にも抗酸化物質などの機能性成分が多く含まれるようにすることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、(i)果実酒の搾汁滓を粉砕後アルコール発酵しなくても、特定の平均粒径となるまで微細に粉砕すると、果実酒の香味を有する斬新な食感のペースト状食品を得られること、(ii)所定量の種を含有する搾汁滓を種ごと破砕して加糖すると、それにより得られるペースト状食品には、果実酒には含まれていない種由来の機能性成分が多く含まれ、かつ種の粉砕物を含有するにもかかわらず、加糖により香味が向上し、種の渋みが殆ど感じられなくなること、を見出した。
【0007】
即ち、本発明は、所定量の果実酒の搾汁滓を種ごと破砕して得られる、平均粒径0.5mm以下のペースト状破砕物であって、糖濃度30〜40wt%に加糖されているペースト状食品を提供する。
【0008】
また、本発明は、上述のペースト状発酵食品の製造方法として、所定量の種を含有する果実酒の搾汁滓を、種ごと破砕して平均粒径0.5mm以下のペースト状破砕物とし、そのペースト状破砕物が糖濃度30〜40wt%となるように加糖するペースト状食品の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のペースト状食品は、果実酒の搾汁滓に所定量の種を残存させ、搾汁滓を種ごと破砕してペースト状にすることにより製造されるので、果実酒の搾汁滓の廃棄率を極めて低減させることができ、また、極めて低コストに製造できる。
【0010】
さらに、本発明のペースト状食品は、種の破砕物を含有しているにもかかわらず、種特有の渋みが感じられず、果実酒の風味と色合いを備え、かつモッタリとしたペースト状であるという斬新性を有する。したがって、本発明のペースト状食品は、果実酒の風味を付与するために種々の食品に添加されていた果実酒の代替品として、あるいはジャム、トッピング、フルーツソースなどの主材料として、その他ワイン発酵調味料等種々の食品の副材料として、広範に使用することができる。
【0011】
加えて、本発明のペースト状食品は、搾り滓をもたらした果実酒には含まれない、種由来のプロアントシアニジン等の抗酸化物質を多く含有する。したがって、機能性食品としても有用となる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】図1は、本発明のペースト状食品の製造方法の工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、図面を参照しつつ、本発明を詳細に説明する。
図1は、本発明の発酵食品の基本的な実施例の製造方法の工程図である。
同図に示すように、本実施例のペースト状食品は、果実酒の搾汁滓を原料とする。果実酒の搾汁滓としては、赤ワイン、ブルーベリー酒、ユズ酒等の果実酒の製造過程で生じる搾汁滓を使用することができる。このような搾汁滓は、通常、梗、枝、茎、果皮、種等を含み、従来、種や茎などが取り除かれて使用されていた(特許文献4)。これに対し、本実施例では、まず、目視により虫などの異物を選別除去する。また、当該搾汁滓の提供元となるワイナリーが備える選別機の種類によって、枝や梗などが大量に含まれるため、必要に応じて篩等を用いて枝や梗なども除去する。一方、果皮、茎などはそのまま搾汁滓に含有させる。
【0014】
搾汁滓が赤ワインや葡萄の搾汁滓である場合、種は、当該搾汁滓の提供元となるワイナリーが備える選別機の種類によっても、搾汁滓の元となる果実の種類によっても、搾汁滓中の含有量が大きく異なるので、破砕前に篩により種の含有量を所定量に調整する。この場合、種の含有量は、好ましくは1〜10wt%、より好ましくは2〜5wt%である。種の含有量をこの範囲とすることにより、種に含まれるポリフェノール等の有効成分を本発明のペースト状食品に含有させつつ、渋みが感じられず、果実酒の風味も損なわれないようにすることができる。
【0015】
搾汁滓が柑橘系果実の搾汁滓である場合、ペースト状食品の香味の点から、種は除去することが好ましい。
【0016】
異物を除去し、必要に応じて種の含有量を調整した後は、水分調整をして破砕処理を行う。
【0017】
水分調整としては、破砕する搾汁滓を、予め、水分含量25〜50wt%に調整することが好ましい。水分含量が多すぎると、得られるペースト状食品が水っぽくなり、少なすぎると破砕が困難となる。また、この水分含量の調整のためには、水、果汁又はワインを添加することがこのましい。
【0018】
一方、粉砕処理としては、まず、カッター式粉砕機で平均粒径10mm以下程度に破砕し、次いで粉砕ミルで破砕して0.1〜0.3mmにすることが好ましい。このような破砕は、カッターミキサー、ミクロカッター、高速石臼型製粉機、ハンマーミル等を使用して行うことができ、微細カットに加えてすりつぶしを行うことが好ましい。
【0019】
また、粉砕処理では、種を含む搾汁滓の平均粒径が0.5mm以下、好ましくは平均粒径0.1〜0.3mmとなるように行う。これにより、破砕物は、搾汁滓の微細化と搾汁滓に含まれていたペクチンにより、一般的なフルーツジャム程度の粘度を有するペースト状となる。このペースト状搾汁滓は、種の破砕物を含んでいるにもかかわらず、滑らかな食感を有し、種由来の渋みが殆ど感じられず、特に、加糖した後は、好ましい香味となる。
これに対し、平均粒子径が0.5mmを超えると、ざらついて食感が劣ったものとなり、平均粒径が0.1mmを下回るとジャム様の具材感が乏しくなり、飲料のような食感となる。なお、本発明において、平均粒径はレーザ回折式粒度分布測定装置等により計測することができる。
【0020】
なお、本発明のペースト状食品では上述のように破砕物の平均粒径を0.5mm以下とするため、破砕後に裏ごしを行うことは不要である。
【0021】
破砕処理の後には、ペースト状搾汁滓に加糖を行う。この場合、糖としては、白砂糖、果糖等を用いることが好ましい。
また、加える糖の量は、糖濃度が30〜40wt%となるようにする。これにより、ペースト状搾汁滓の香味を向上させ、色の深みを向上させ、アルコール濃度を低減させ、品質を安定化させることができる。これに対し、糖濃度を60%程度に高くすると、市販のジャムと同様の糖濃度となるが、果実酒由来の風味が損なわれるので好ましくない。
【0022】
ペースト状搾汁に加糖した本発明のペースト状食品は、個包装容器に充填密封し、ボイル殺菌することが好ましい。これにより搾汁滓に含まれていた酵素を失活させ、常温で長期保存が可能となる。殺菌処理したものを、冷凍保存してもよい。本発明のペースト状食品は冷凍耐性に優れるので、冷凍後に解凍すると、速やかに冷凍前のペースト状となる。
【0023】
本発明のペースト状食品は、その原料とする果実酒の搾汁滓由来のアルコール分により、果実酒の風味と色合いを有する。したがって、本発明のペースト状食品は、果実酒の風味を付与するために種々の食品において添加されていた果実酒の代替品として使用することができる。この場合、本発明のペースト状食品は極めて低コストで製造できるため、果実酒の代替として本発明のペースト状食品を使用することにより、従来果実酒の添加により製造されていた食品の製造コストを低下させることができる。
【0024】
また、本発明のペースト状食品は、果実酒の風味と色合いを備え、かつペースト状であるため、ジャム、トッピング、フルーツソースなどの主材料として、その他種々の食品の副材料や調味料などとして、広範に使用することができる。
【0025】
加えて、本発明のペースト状食品は、果実酒に含まれるポリフェノールを含有すると共に、種由来の抗酸化物質であって、果実酒には含まれていないプロアントシアニジン等を多く含有する。したがって、本発明の発酵食品は、機能性食品としても有用となる。
【実施例】
【0026】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。
実施例1
果実酒搾汁滓として、ベリーAから製造した葡萄酒の搾り滓20kg(水分50wt%、固形分50wt%)を用意した。この果実酒搾汁滓には、果皮、種、果肉等が含まれていた。
【0027】
この果実酒搾汁滓20kgに葡萄果汁を40%加え、カッターミキサー(ホバート社)で10分間粉砕し、さらに、マスコロイダーミキサーで連続破砕して平均粒径0.3mmのペースト状搾汁滓を得た。
【0028】
次に、ペースト状搾汁滓1000gに砂糖を300g加えて撹拌し、実施例1のペースト状食品を得た。得られたペースト状食品のアルコール度数は、6%であり、果実酒の風味と色合いを有していた。また、モッタリとした高粘度のジャム様で、滑らかな食感を有し、渋みが感じられなかった。
【0029】
このペースト状食品を個包装用の袋に充填密封し、30分間ボイル殺菌し、冷凍した。
冷凍保管12ヶ月後に解凍したところ、冷凍前と同様にペースト状で、果実酒の風味と色合いを有するジャム様のものとなった。
【0030】
比較例1
実施例1において、ペースト状搾汁滓を裏ごししてその平均粒径を0.01mmとする以外は実施例1を繰り返した。得られたペースト状食品のアルコール度数は12%であり、果実酒の風味と色合いを有していた。しかしながら、ペースト状搾汁滓の裏ごし時に、裏ごし用のメッシュを、搾汁滓の粉砕物に比して水分が多量に通り抜けたため、水っぽくなり、ジャム様の食感を有していなかった。
【0031】
比較例2
実施例1において、ペースト状搾汁滓の平均粒径を1mmとする以外は実施例1を繰り返した。得られたペースト状食品のアルコール度数は12%であり、果実酒の風味と色合いを有していたが、ざらつきが強く、渋みも感じられた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
所定量の種を含有する果実酒の搾汁滓を種ごと破砕して得られる、平均粒径0.5mm以下のペースト状破砕物であって、糖濃度30〜40wt%に加糖されているペースト状食品。
【請求項2】
搾汁滓が赤ワインの搾汁滓である請求項1記載のペースト状食品。
【請求項3】
搾汁滓中の種の含有量が1〜10wt%である請求項1又は2記載のペースト状食品。
【請求項4】
所定量の種を含有する果実酒の搾汁滓を、種ごと破砕して平均粒径0.5mm以下のペースト状破砕物とし、そのペースト状破砕物が糖濃度30〜40wt%となるように加糖するペースト状食品の製造方法。
【請求項5】
搾汁滓が赤ワインの搾汁滓である請求項4記載のペースト状食品の製造方法。
【請求項6】
搾汁滓中の種の含有量を1〜10wt%とする請求項4又は5記載の製造方法。
【請求項7】
破砕時に搾汁滓の水分含量が20〜50wt%となるように水又はワインを添加する請求項4〜6のいずれかに記載の製造方法。

【図1】
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