説明

ペースト状食品

【課題】果実酒の搾汁滓から果実酒の風味と色合いを備えたペースト状食品を得るにあたり、搾り滓の利用度合いを高め、低コストで製造できるようにする。
【解決手段】果実酒又は果汁の搾汁滓の乾燥物を平均粒径0.5mm以下に破砕し、その破砕物と、果実酒又は果汁とを混合し、ペースト状食品とする。あるいは、果実酒又は果汁の搾汁滓の乾燥物と果実酒又は果汁とを混合し、破砕して同様のペースト状食品とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、果実酒の搾り滓又は果実の搾り滓を利用したペースト状食品とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
葡萄酒等の果実酒の搾り滓の利用方法として、搾り滓をそのまま1ヶ月程度アルコール発酵させて飼料とすること(特許文献1)、搾り滓を乾燥及び破砕して食用粉末とすること(特許文献2)、搾り滓を圧搾して得た液体に糖分を加えて糖質非アルコール性発酵酵素を培養し、その培養液をパンの製造に使用すること(特許文献3)などがある。しかしながら、特許文献1の飼料は食品素材として利用できるものではなく、特許文献2の食用粉末は単なるぶどう果実の皮や種の再利用であって、果実酒の風味を備えておらず、特許文献3の培養液はパンの製造などの極めて限定的な用途でしか使用することができない。
【0003】
これに対し、本発明者は、果実酒醸造後の搾り滓を粗く破砕した後に種子や茎を除去し、得られた破砕物をワイン酵母でアルコール発酵することにより、ワインの風味と色合いを備えたペースト状の食品を得ることを提案した(特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−171916号公報
【特許文献2】特開2002−360208号公報
【特許文献3】特開2007−124996号公報
【特許文献4】特開2009−165427号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、果実酒の搾汁滓を用いて、果実酒の風味と色合いを備えたペースト状食品を、特許文献4に記載の方法よりも低コストで得られるようにし、かつ、搾り滓の利用度合いをさらに高めることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、(i)果実酒の搾汁滓を破砕後アルコール発酵しなくても、搾汁滓の乾燥物に果実酒を添加し、破砕するか、あるいは搾汁滓の乾燥破砕物に果実酒を添加すると、搾汁滓の乾燥物が有するペクチンにより搾汁滓と果実酒の混合物との粘度が増し、その場合に破砕物が特定の平均粒径を有すると果実由来の具材感を有し、果実酒の香味と色合いも有するペースト状食品を得られること、(ii)搾汁滓を予め乾燥することで、搾汁滓における雑菌の繁殖が抑制されるので搾汁滓の保管が容易となり、ペースト状食品の製造コストを低下できること、(iii)果実酒の搾汁滓に代えて果汁の搾汁滓を使用し、果実酒に代えて果汁を添加すると、斬新な食感で果実由来の具材感と果汁の香味と色合いを有し、かつノンアルコール食品としてペースト状食品を得られること、を見出した。
【0007】
即ち、本発明は、果実酒の搾汁滓又は果実の搾汁滓の乾燥破砕物と、果実酒又は果汁が混合されてなるペースト状食品であって、ペースト状食品中の破砕物の平均粒径が0.5mm以下で、ペースト状食品中の水分含量が50〜80wt%であるペースト状食品を提供する。
【0008】
また、本発明は、上述のペースト状食品の第1の製造方法として、果実酒の搾汁滓又は果実の搾汁滓の乾燥物を果実酒又は果汁と混合し、破砕し、破砕物の平均粒径0.5mm以下のペースト状とするペースト状食品の製造方法を提供し、また、第2の製造方法として、果実酒の搾汁滓又は果実の搾汁滓の乾燥物を破砕し、破砕物と果実酒又は果汁とを混合し、破砕物の平均粒径0.5mm以下のペースト状とするペースト状食品の製造方法を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明のペースト状食品は、果実酒の搾汁滓又は果汁の搾汁滓の乾燥物を使用して製造することができるので、乾燥前の果実酒の搾汁滓又は果汁の搾汁滓を使用する場合に比してして搾汁滓に雑菌が繁殖しにくく、酸化防止も図ることができるので、常温で長期保存することが可能となり、また、搾汁滓が乾燥により軽量化するので取り扱い性も向上し、搾汁滓を原料とするペースト状食品の製造コストを低下させることができる。
【0010】
また、果実酒の搾汁滓や果汁の搾汁滓の乾燥破砕物は、果実酒又は果実の香味が無いか、又は殆ど感じられないが、本発明のペースト状食品によれば果実酒又は果汁の香味を復元することができ、しかも破砕物は適度な粒径を有しており、果実酒の搾汁滓又は果汁の搾汁滓自体が有するペクチンにより粘度が増すので、本発明のペースト状食品は、香味と色合いと粒度と粘度の点から、斬新で果実由来の具材感のあるペースト状食品となる。
【0011】
したがって、本発明のペースト状食品は、果実酒の風味を付与するために種々の食品に添加されていた果実酒の代替品として、あるいはジャム、トッピング、フルーツソースなどの主材料として、その他種々の食品の副材料として、広範に使用することができる。
【0012】
さらに、果実酒の搾汁滓又は果汁の搾汁滓として、種を含有したままの搾汁滓を使用すると、搾汁滓の廃棄率をより一層低減させ、かつ搾汁滓からの異物の選別が容易となり、極めて低コストに製造できる。また、種を含有したままの搾汁滓を使用した本発明のペースト状食品は、果実酒や果汁には含まれない種由来のプロアントシアニジン等の抗酸化物質を多く含有し、機能性食品としても有用となる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1A】図1Aは、本発明のペースト状食品の第1の製造方法の基本的な工程図である。
【図1B】図1Bは、本発明のペースト状食品の第2の製造方法の基本的な工程図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、図面を参照しつつ、本発明を詳細に説明する。
図1Aは、本発明のペースト状食品の第1の製造方法の基本的な工程図であり、図2Bは、本発明のペースト状食品の第2の製造方法の基本的な工程図である。
【0015】
第1の製造方法においても、第2の製造方法においても、まず、果実酒の搾汁滓又は果実の搾汁滓を乾燥させる。ここで、果実酒の搾汁滓としては、赤ワイン、ブルーベリー酒、ユズ酒等の果実酒の製造過程で生じる搾汁滓を使用することができる。また、果実の搾汁滓としては、ブドウ、ブルーベリー、ユズ、スダチ、シークワーサー等の果実の搾汁過程で生じる搾汁滓を使用することができる。これらの搾汁滓は、通常、梗、枝、茎、果皮、種等を含み、従来、種や茎などが取り除かれて使用されていた(特許文献4)。これに対し、本実施例では、まず、目視により虫などの異物を選別除去する。また、当該搾汁滓の提供元となるワイナリー等が備える選別機の種類によって、枝や梗などが大量に含まれるため、必要に応じて篩等を用いて枝や梗なども除去する。一方、果皮、茎などはそのまま搾汁滓に含有させる。
【0016】
搾汁滓が赤ワインや葡萄の搾汁滓である場合、種は、当該搾汁滓の提供元となるワイナリーが備える選別機の種類によっても、搾汁滓の元となる果実の種類によっても、搾汁滓中の含有量が大きく異なるので、破砕前に篩により種の含有量を所定量に調整する。この場合、種の含有量は、好ましくは1〜10wt%、より好ましくは2〜5wt%である。種の含有量をこの範囲とすることにより、種に含まれるポリフェノール等の有効成分を本発明のペースト状食品に含有させつつ、渋みが感じられず、果実酒の風味あるいは果実の風味も損なわれないようにすることができる。
【0017】
搾汁滓が柑橘系果実の搾汁滓である場合、ペースト状食品の香味の点から、種は除去することが好ましい。
【0018】
第1の製造方法による場合でも、第2の製造方法による場合でも、搾汁滓の乾燥は、搾汁滓を常温保存しても酸化防止と菌類の繁殖抑制を図れる程度に乾燥すればよく、当初の水分含量が70〜90wt%程度の搾汁滓を、好ましくは水分量15wt%以下、より好ましくは水分量6〜8wt%とする。そのため、果実酒の搾汁滓でも果実の搾汁滓でも、例えば、天日干しを行う場合、10月では1週間程度、12月では10〜14日程度乾燥させる。この天日干しにより水分含量を20wt%程度まで低下させることができるので、さらに人工乾燥を行い、水分含量6〜8wt%程度まで低下させる。乾燥方法として、天日干しを行うことにより、フリーズドライ等を行う場合に比して低コストで乾燥させることができる。
【0019】
なお、乾燥に伴い、果実酒の搾汁滓に含まれていたアルコール分も低減するが、搾汁滓に残存する水分にはアルコール分も残存する。
【0020】
搾汁滓の乾燥により搾汁滓では酸化や雑菌の繁殖が抑制されるので、格別の冷凍設備などを使用することなく、搾汁滓をペースト状食品へ加工するときまで常温保存することが可能となる。また、乾燥により軽量化するので、保管地から加工工場への輸送も容易となる。
【0021】
本発明の第1の製造方法では、果実酒の搾汁滓又は果実の搾汁滓の乾燥後、まず、その乾燥物に果実酒を混合し、搾汁滓に果実酒の香味と色合いを復元させる。あるいは同様に、搾汁滓の乾燥物に果汁を混合して搾汁滓に果汁の香味と色合いを復元させる。そして、果実酒又は果汁の香味と色合いの復元後、果実酒又は果汁との混合物を破砕する。なお、果実酒又は果汁の香味と色合いの復元に、果実酒と果汁を混合して用いても良い。また、本発明のペースト状食品として、アルコールフリーの食品を得る場合には、果実の搾汁滓の乾燥物を果汁で復元することが好ましい。
【0022】
乾燥物の復元に使用する果実酒又は果汁の液量としては、水分含量が60〜80wt%となるようにすることが好ましい。
【0023】
復元後の破砕は、破砕物の平均粒径0.5mm以下、好ましくは0.1〜0.3mmとなるように行う。これにより、ざらつかず、かつ、果実由来の具材感を有するジャム様の食感のペースト状物を得ることができる。これに対し粒径が大きすぎると食感にざらつきが感じられ、反対に過度に微細に破砕すると、果実由来の具材感が損なわれ、飲料のような食感となる。
なお、本発明において、平均粒径はレーザ回折式粒度分布測定装置等により計測することができる。
【0024】
破砕処理により、搾汁滓の乾燥物と、果実酒又は果汁との混合物は、搾汁滓由来のペクチンにより、硬めのフルーツジャムと同程度の粘度のペースト状となる。
【0025】
破砕処理は、搾汁滓の乾燥物と、果実酒又は果汁との混合物を、まず、カッター式破砕機で平均粒径10mm以下程度に破砕し、次いで粉砕ミルで破砕して平均粒径0.5mm以下、好ましくは0.1〜0.3mmにすることが好ましい。このような破砕は、カッターミキサー、ミクロカッター、高速石臼型製粉機、ハンマーミル等を使用して行うことができ、微細カットに加えてすりつぶしを行うことが好ましい。なお、破砕物を上述の粒径に調整することにより、破砕機による破砕後に裏ごしを行うことは不要となる。
【0026】
一方、本発明の第2の製造方法では、図1Bに示すように、果実酒の搾汁滓又は果実の搾汁滓の乾燥後、まず、乾燥物を破砕処理して乾燥破砕物を得、次いで乾燥破砕物と果実酒又は果汁とを混合して乾燥破砕物に果実酒又は果汁の香味と色合いを復元させると共に、混合物をペースト状にする。この場合も復元に、果実酒と果汁を混合して用いてもよい。また、本発明のペースト状食品として、アルコールフリーの食品を得る場合には、果実の搾汁滓の乾燥破砕物を果汁で復元することが好ましい。
【0027】
第2の製造方法において、乾燥破砕物の粒度は、第1の製造方法による復元物の破砕と同様に平均粒径0.5mm以下、好ましくは0.1〜0.3mmとする。乾燥破砕物に果実酒又は果樹を混合する前と混合した後とで破砕物の粒径は殆ど変わらないからである。ただし、第2の製造方法では、乾燥物を破砕するので、第1の製造方法よりも破砕に要する時間を短縮することができる。したがって、製法的には、復元物を破砕する第1の方法よりも、乾燥物を破砕する第2の方法が好ましい。
【0028】
また、第2の製造方法において、果実酒又は果汁の香味と色合いの復元に使用する果実酒又は果汁の液量は、前述の第1の製造方法と同様に、混合物における水分量が60〜80wt%となるようにすることが好ましい。
【0029】
本発明のペースト状食品には、第1、第2のいずれの製造方法による場合でも、必要に応じて、糖類等を適宜含有することができる。
【0030】
本発明のペースト状食品は、個包装容器に充填密封し、ボイル殺菌することが好ましい。これにより常温でより長期の保存が可能となる。殺菌処理したものを、冷凍保存してもよい。本発明のペースト状食品は冷凍耐性に優れるので、冷凍後に解凍すると、速やかに冷凍前のペースト状となる。
【0031】
本発明のペースト状食品において、搾汁滓の乾燥物の復元に果実酒を使用したものは、従来、種々の食品に果実酒の風味を付与するために用いられている果実酒の代替品として使用することができる。また、搾汁滓の乾燥物の復元に果汁を使用した本発明のペースト状食品は、従来、種々の食品に果実の風味を付与するために用いられている果物ペースト又はジャムの代替品として使用することができる。この場合、本発明のペースト状食品は極めて低コストで製造できるため、果実酒あるいは果実の風味が付与された食品の製造コストを低下させることができる。
【0032】
また、本発明のペースト状食品は、果実酒又は果汁の香味と色合いを備え、かつペースト状であるため、ジャム、トッピング、フルーツソースなどの主材料として、その他種々の食品の副材料や調味料などとして、広範に使用することができる。
【0033】
加えて、本発明のペースト状食品で使用する果実酒又は果汁の搾汁滓の破砕物に、搾汁滓に本来的に含まれる種の破砕物が含まれる場合には、本発明のペースト状食品は、搾汁滓に由来するポリフェノールを含有すると共に、種由来の抗酸化物質であって、果実酒には含まれていないプロアントシアニジン等を多く含有する。したがって、本発明のペースト状食品は、機能性食品としても有用となる。
【実施例】
【0034】
以下、実施例に基づいて本発明を具体的に説明する。
実施例1
果実酒搾汁滓として、ベリーAから製造した赤ワインの搾り滓20kg(水分85wt%、固形分15wt%)を用意した。この果実酒搾汁滓には、果皮、種、果肉等が含まれていた。
【0035】
この果実酒搾汁滓20kgを山梨県北部で12月20日から1月10日までの快晴の21日間の天日干しにより、水分量20wt%に乾燥した。次に、破砕機としてカッターミキサー(ホバート社)を使用し、5分間破砕し、さらに、微粉砕ミキサーで連続破砕して平均粒径0.1mmの乾燥破砕物を得た。
【0036】
次に、乾燥破砕物1000gに赤ワインを1000gと果汁1000gを加えて撹拌し、実施例のペースト状食品を得た。得られたペースト状食品のアルコール度数は、6%であり、果実酒の風味と色合いを有していた。また、果実由来の具材感を有する高粘度のジャム様で、滑らかな食感を有し、渋みが感じられなかった。
【0037】
このペースト状食品を個包装用の袋に充填密封し、30分間ボイル殺菌し、冷凍した。
冷凍保管12ヶ月後に解凍したところ、冷凍前と同様にペースト状で、果実酒の風味と色合いを有するジャム様のものとなった。
【0038】
実施例2
実施例1と同様にして赤ワインの絞り滓の乾燥物を得、これに赤ワイン1000g、果汁1000gを加えて赤ワインの香味と色味を復元した。次いで、破砕機で5分間破砕し、さらに、微粉砕ミキサーで連続破砕して平均粒径0.1mmのペースト状の破砕物を得た。
【0039】
このペースト状食品を個包装用の袋に充填密封し、30分間ボイル殺菌し、冷凍した。
冷凍保管12ヶ月後に解凍したところ、冷凍前と同様にペースト状で、果実酒の風味と色合いを有するジャム様のものとなった。
【0040】
比較例1
実施例1において、乾燥破砕物の平均粒径を0.01mmとする以外は実施例1を繰り返した。得られたペースト状食品のアルコール度数は12%であり、果実酒の風味と色合いを有していたが、果実由来の具材感がなく、糊様で飲料のような食感となっていた。
【0041】
比較例2
実施例1において、乾燥破砕物の平均粒径を1mmとする以外は実施例1を繰り返した。得られたペースト状食品のアルコール度数は12%であり、果実酒の風味と色合いを有していたが、ざらつきが強く、渋みも感じられた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
果実酒の搾汁滓又は果実の搾汁滓の乾燥破砕物と、果実酒又は果汁が混合されてなるペースト状食品であって、ペースト状食品中の破砕物の平均粒径が0.5mm以下で、ペースト状食品中の水分含量が60〜80wt%であるペースト状食品。
【請求項2】
ペースト状食品中の破砕物の平均粒径が0.1〜0.3mmである請求項1記載のペースト状食品。
【請求項3】
果実酒の搾汁滓又は果実の搾汁滓の乾燥前における種の含有量が1〜10wt%である請求項1記載のペースト状食品。
【請求項4】
果実酒の搾汁滓又は果実の搾汁滓の乾燥物と果実酒又は果汁とを混合し、破砕し、破砕物の平均粒径0.5mm以下のペースト状とするペースト状食品の製造方法。
【請求項5】
果実酒の搾汁滓又は果実の搾汁滓の乾燥物を破砕し、破砕物と果実酒又は果汁とを混合し、破砕物の平均粒径0.5mm以下のペースト状とするペースト状食品の製造方法。
【請求項6】
破砕物を平均粒径0.1〜0.3mmとする請求項4又は5記載のペースト状食品の製造方法。
【請求項7】
果実酒の搾汁滓又は果実の搾汁滓の破砕前に、搾汁滓における種の含有量を1〜10wt%に調整する請求項4〜6のいずれかに記載のペースト状食品の製造方法。

【図1A】
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【図1B】
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