説明

ペーパーキャリアロープシーブ

【課題】 製紙機械、特に抄紙機の通紙時使用のシート搬送に用いる従来のAl合金並の軽量型、高強度・高硬度析出硬化系ステンレス鋼のロープシーブを提供する。
【解決手段】 質量%で、C:0.07%以下、Si:1.0%以下、Mn:1.0%以下、P:0.040%以下、S:0.030%以下、Ni:3.00〜5.00%、Cr:15.00〜17.50%、Cu:3.00〜5.00%、Nb+Ti:0.15〜0.45%、残部Fe及び不可避的不純物からなるヤング率:20300以上、引張強度:1310N/mm2 以上、密度:7.7以上、硬度:375HB以上の遠心鋳造法で製造された高硬度析出硬化系ステンレス鋼で構成されたことを特徴とするペーパーキャリアロープシーブ。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、製紙工場における抄紙機のドライパート部(多筒乾燥筒群)の通紙に使用するキャリアロープをガイドする薄肉高強度ロープシーブに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、製紙業界においては、製紙用機械、特に圧延付帯設備の軽量化、低コスト化が探索されつつあり、図1に示すようなペーパーキャリアロープシーブもその例外ではない。従来、このペーパーキャリアロープシーブは、JISに規定されたAl−Si系の鋳物用共晶Al−Si合金(成分組成:Cu: ≦0.25%, Si:10.0-13.0%, Mg: ≦0.15%, Zn:≦0.30%, Fe:≦0.8%, Mn: ≦0.35%, Ni:≦0.20%, Ti:≦0.20%, Pb:≦0.10%, Sn:≦0.10%, Cr:≦0.15%,残部Al)で製造されたものが主として用いられている。この理由は、上記Al−Si系合金は、鋳造性が最も優れ、Si量と共に熱膨張係数は低下し、耐摩耗性が向上し、また、Mg,Cuの添加と熱処理により強度が改善されるため、多岐にわたる用途に使用されている。(非特許文献1参照)
【0003】
特に、ペーパーキャリアロープシーブにおいても、軽量で機械加工がし易いという優れた特性を有する材質であることからその殆どにおいて使用されている。しかしながら、その反面、強度(引張強度)が高々177N/mm2 以上、硬度:50HBと強度、硬度とも不足し、経年劣化で負荷のかかる特に軸受部には短時間でガタ付きが生じ、硬度不足のためにロープのかかる溝部分が短時間で摩耗するために、この溝部の摩耗部分にはセラミック溶射を施して補修して耐久性を確保しなければならないという問題もある。
【0004】
【非特許文献1】「アルミニウム鋳鍛造技術便覧」(軽金属協会編:1991.3.15 発行カロス出版)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、製紙機械、特に抄紙機ドライパート部(多筒乾燥群)の通紙搬送に用いる従来のAl合金並の軽量型、高強度・高硬度析出硬化系ステンレス鋼のロープシーブを提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたもので、その要旨は、質量%で、C:0.07%以下、Si:1.0%以下、Mn:1.0%以下、P:0.040%以下、S:0.030%以下、Ni:3.00〜5.00%、Cr:15.00〜17.50%、Cu:3.00〜5.00%、Nb+Ti:0.15〜0.45%、残部Fe及び不可避的不純物からなるヤング率:20300以上、引張強度:1310N/mm2 以上、密度:7.7以上、硬度:375HB以上の遠心鋳造法で製造された高硬度析出硬化系ステンレス鋼で構成されたことを特徴とするペーパーキャリアロープシーブ、である。
【発明の効果】
【0007】
上述したように、本発明によるペーパーキャリアロープシーブは、SUS630の成分組成を有する析出硬化系ステンレス鋼を遠心鋳造して製造することで、従来のAl−Si合金製ロープシーブと比べて、厚みを薄くすることができ、しかも機械的特性においては、遙に高い特性を有し、実操業においても長期間の使用に耐えうることが期待できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
図1に本発明によるペーパーキャリアロープシーブの外観を示した。(a)、(b)は何れも深溝型ロープシーブで、(a)は溝深さが350mmφ、(b)は溝深さが400mmφのもであり、(c)は浅溝型ロープシーブで溝深さが200mmφ、(d)は2本掛け用ロープシーブで溝深さが235mmφのものである。これらの殆どのロープシーブは上述したように、Al−Si系の鋳物用共晶Al−Si合金製であるために、表1に示すような低い機械的性質しか示さない。
【0009】
【表1】

【0010】
これらのロープシーブにおいて、ロープシーブの歪み解析を行ったところ、図2に示すように、ロープを牽引した際のシーブ頂部においてシーブのX,Y,Z方向の何れにおいても歪みが最大値を示していることが判明した。そして、この最大歪み値を示す頂部で最も摩耗が激しく、短時間で亀裂が生じ、最悪の場合にはシーブの破壊が起こる。これは、上述したように、ロープシーブの材質が軟質のAl−Si合金であるために、軽量であっても強度、硬度が不足した結果と考えられる。また、Al−Si合金のロープシーブのロープ走行溝面にセラミック糸の溶射を施し、研磨仕上したものは粒子の突起物でロープ寿命が短かくなる。また、SUS630成分組成のものの走行面は熱処理により硬度の上昇(Hr900)した研磨鏡面状態のためロープ寿命を延すと共に、方向転換部分のロープとの摩擦もAl−Si合金の溶射面に比べて滑らかな分切断も減少する。
【0011】
そこで、本発明者らは、高強度で、高硬度のロープシーブの材質を鋭意検討した結果、汎用の機械構造用鋼として用いられているステンレス鋼、特に析出硬化系ステンレス鋼に着目した。この析出硬化系ステンレス鋼は、その成分組成として、質量%で、C:0.07%以下、Si:1.0%以下、Mn:1.0%以下、P:0.040%以下、S:0.030%以下、Ni:3.00〜5.00%、Cr:15.00〜17.50%、Cu:3.00〜5.00%、Nb+Ti:0.15〜0.45%、残部Fe及び不可避的不純物からなる鋼であることがJISで規定されている。
【0012】
しかしながら、上述した成分組成を有する市販の析出硬化系ステンレス鋼は、その殆どは鋳造−熱延−冷延−焼鈍等の工程を経て製造され、一部の機械構造用部材、タービン等が鋳型による鋳造で製造されているが、通常の鋳型による鋳造ではAl−Si系合金に比べ著しく鋳造性が劣るため形状不良および内部欠陥が生じ、安定して製品を鋳造することができないという問題を抱えている。
【0013】
そこで、本発明者らは、ロープシーブの車輪形状が以下の特徴を具備する遠心鋳造法の設計に理想的である事に着目した。
この遠心鋳造法は、車輪形状鋳型の中心より鋳造し、同時にこの中心を軸に回転させながら製造するものであり、溶湯金属は、遠心力によって外輪方向に対して強い圧力鋳造となる。そして、この効果により溶湯金属の鋳造法は著しく改善され、薄肉鋳造が可能となり、更にこの遠心力は引け巣等の内部欠陥の発生を抑え、軽い非金属介在物を浮遊させ、回転軸中心(製品より切断除去)に排除する効果も期待できるとされている。
以上の事から、本発明者らは遠心鋳造法を採用し、ロープシーブの鋳造を遠心鋳造法で実施した結果、析出硬化系ステンレス鋼SUS−630の鋳造性は改善され、薄肉鋳造が可能となり、内部欠陥のない製品を安定して鋳造する事に成功した。
【0014】
このように、ロープシーブを製造するために、上記成分組成を有するSUS630析出硬化系ステンレス鋼を遠心鋳造法で鋳造してロープシーブを製作するということは未だかって行われていない。
【0015】
図3に、本発明で製造したロープシーブの一部断面を従来のAl−Si系の鋳物用共晶Al−Si合金製ロープシーブの厚みと比較した。この図から分かるように、従来の深溝型で直径:350mmのロープシーブでは、その厚みを12〜15mm必要であったものが、本発明の遠心鋳造法で製造されたSUS630析出硬化系ステンレス鋼のロープシーブでは、その厚みを3.5〜4.5mmと約50%も薄くすることができる。
【実施例】
【0016】
次に、本発明によるロープシーブを実施例を用いて説明する。
【0017】
先ず、表2に示す成分組成を有するSUS630析出硬化系ステンレス鋼の溶湯を高周波溶解炉によって製造した。
【0018】
【表2】

【0019】
遠心鋳造は、ロープシーブの中心に湯口を付けて造型した鋳型を、水平な回転盤の上に、回転軸と鋳型中心が同軸になるように固定し、溶湯を湯口より注湯開始すると同時に鋳型を回転させ鋳造した。
鋳型の回転速度は、ロープシーブの大きさによって50〜400RPMの範囲で適正に調整し鋳造した。
【0020】
遠心鋳造されたロープシーブは、その後、析出硬化の熱処理(JIS:H900)を施し、次いで表面研磨を行って直径:350mm、溝深さ:50mmφ、各部位の厚み:4.5mm、重量:7.9kgのロープシーブを製作した。得られたロープシーブの機械的性質を表3に示した。
【0021】
【表3】

【0022】
このようにして得られたロープシーブは、表3に示すように、重量は従来のAl−Si合金製ロープシーブと大差ないものの、構造上ではロープシーブの各部位の厚みを従来のAl−Si合金製ロープシーブの約半分と極めて薄くすることができ、しかも機械的特性においては、ヤング率が約3倍、引張強度が約8倍、硬度が約8倍と優れた値を示していることが分かる。従って、実操業において本発明によるペーパーキャリアロープシーブとして稼働させた場合には、その使用寿命において何らのメンテナンスを行うことなく長期間の使用に耐えうることが期待できる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【図1】本発明によるロープシーブの外観を示すもので、(a)、(b)、(c)は何れも深溝型ロープシーブ、(d)は2本掛け用ロープシーブの図である。
【図2】ペーパーキャリアロープシーブの歪み解析例を示す図。
【図3】本発明によるロープシーブの厚みと従来のAl−Si合金製ロープシーブの一部断面における厚み比較を示す図。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
質量%で、C:0.07%以下、Si:1.0%以下、Mn:1.0%以下、P:0.040%以下、S:0.030%以下、Ni:3.00〜5.00%、Cr:15.00〜17.50%、Cu:3.00〜5.00%、Nb+Ti:0.15〜0.45%、残部Fe及び不可避的不純物からなるヤング率:20300以上、引張強度:1310N/mm2 以上、密度:7.7以上、硬度:375HB以上の遠心鋳造法で製造された高硬度析出硬化系ステンレス鋼SUS630で構成されたことを特徴とするペーパーキャリアロープシーブ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−291385(P2006−291385A)
【公開日】平成18年10月26日(2006.10.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−112296(P2005−112296)
【出願日】平成17年4月8日(2005.4.8)
【出願人】(591274299)新報国製鉄株式会社 (3)
【出願人】(505130260)新成産業株式会社 (1)
【Fターム(参考)】