説明

ペールオープン缶

【課題】ペールオープン缶として、段積みによる大きな重量負荷が加わっても、天蓋と缶本体との間に介在するパッキン全体として復元力を喪失することがなく、パッキンの材料弾性に基づく本来の封止力を充分に発揮でき、内容物の漏れや気密破壊による変質を確実に防止できるものを提供する。
【解決手段】上端開口の周縁11が外向きに曲成された略縦円筒状の缶本体1と、周縁に下面側をパッキン収容溝22とする環状隆起部23を有する天蓋2Aと、缶本体1の上端開口に被せた天蓋2A缶本体1に対して密封状態に固定する天蓋固定手段3とを備えたペールオープン缶P1において、天蓋2Aの環状隆起部23の頂部に、局所的凹陥部5が周方向複数箇所に形成され、各局所的凹陥部5がパッキン配置溝22側で突起部6としてパッキン4に埋入している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、燃料油、潤滑油、塗料、インキ、溶剤、接着剤、食用油等の液状製品の天蓋付き容器として汎用されるペールオープン缶に関する。
【背景技術】
【0002】
一般的に、ペールオープン缶は、例えば図5(a)(b)に示すように、略縦円筒形の缶本体1の上端開口に、略円板状の天蓋2Aを断面コ字形の緊締バンド3を介して封着固定するバンドタイプのペールオープン缶P1と、例えば図6(a)(b)に示すように、同様の缶本体1の上端開口に、略円板状の天蓋2Bを周縁のラグ21─を介して封着固定するラグタイプのペールオープン缶P2とに大別される。
【0003】
両ペールオープン缶P1,P2は共に、缶本体1の上端開口の周縁は外向きに曲成されてカール部11をなす一方、天蓋2A,2Bの周縁は下面側がパッキン配置溝22となる環状隆起部23を形成しており、天蓋2A,2Bと缶本体1の周縁部同士が該天蓋2A,2Bのパッキン配置溝22に配置したパッキン4を介して嵌合する。そして、バンドタイプのペールオープン缶P1では上記周縁部同士の嵌合部分に緊締バンド3を巻き締めることにより、またラグタイプのペールオープン缶P2では天蓋2Bの周縁のラグ21─を缶本体1のカール部11の下側へ加締めて折り付けることにより、該天蓋2A,2Bを缶本体1に対して固定する。
【0004】
なお、図5(a)及び図6(a)において、12は蔓形把手であり、その両端部を缶本体1の上部外周の径方向両側に固着したイヤー部13,13に挿嵌係止することにより、該缶本体1に上下回動自在に枢着されている。また、図6(a)において、24は天蓋2Bに設けられたベロ24a付きの注出口である。
【0005】
これらペールオープン缶P1,P2では、その保管や運搬等において上下複数段(一般にパレットを介して8段程度まで)に積み重ねることが多々あり、そのために缶本体1は下端側が若干縮径して天蓋2A,2Bの環状隆起部23の内側に嵌合可能になっている。しかるに、段積み状態の下位のペールオープン缶ほど、その天蓋2A,2Bと缶本体1との間に介在するパッキン4が上位のペールオープン缶の重量負荷によって強く圧縮されて復元力を失うため、重量負荷が除かれても該パッキン4の材料弾性に基づく本来の封止力を充分に発揮できなくなり、内容物の漏れや気密破壊による内容物の変質を生じ易くなるといった問題があった。
【0006】
そこで、特にレバー式緊締バンドを用いるペールオープン缶について、天蓋の環状隆起部の天蓋内側寄り位置から環状段部としてパッキン側へ突出する突出部を設けたり(特許文献1)、加重伝達部として、天蓋側からパッキン配置部へ突出する環状凸部を設けたり、パッキン中に線材をリング状に埋設する(特許文献2)ことにより、段積み時に天蓋に加わる重量負荷を前記突出部や加重伝達部の位置で缶本体側に受け止めさせ、もってパッキンの圧縮による封止力低下を抑制することが提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−177765号公報
【特許文献2】特開2000−309365号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、前記提案の構造では、環状の突出部や加重伝達部によってパッキンの薄肉部分が周方向に連続するから、それだけ平常状態での封止性が低下する上、ペールオープン缶の段積みによる大きな重量負荷が加わった際には、その周方向に連続する薄肉部分が強く圧縮されて完全に復元力を喪失するため、封止性の低下が一層進むことになり、更には圧縮部分でパッキンが内外に断裂して気密破壊に至る懸念もある。
【0009】
本発明は、上述の事情に鑑みて、ペールオープン缶として、段積みによる大きな重量負荷が加わっても、天蓋と缶本体との間に介在するパッキン全体として復元力を喪失することがなく、該パッキンが断裂する懸念もなく、その重量負荷が除かれても該パッキンの材料弾性に基づく本来の封止力を充分に発揮でき、もって内容物の漏れや気密破壊による変質を確実に防止できるものを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記目的を達成するための手段を図面の参照符号を付して示せば、請求項1の発明は、上端開口の周縁(カール部11)が外向きに曲成された略縦円筒状の缶本体1と、周縁に下面側をパッキン収容溝22とする環状隆起部23を有する天蓋2A,2Bと、缶本体1の上端開口に被せた天蓋2A,2Bを該缶本体1に対して密封状態に固定する天蓋固定手段(緊締バンド3,ラグ21)とを備えたペールオープン缶P1,P2において、天蓋2A,2Bの環状隆起部23の頂部に、局所的凹陥部5が周方向複数箇所に形成され、各局所的凹陥部5がパッキン配置溝22側で突起部6としてパッキン4に埋入していることを特徴とする。
【0011】
請求項2の発明は、上記請求項1のペールオープン缶P1,P2において、突起部6は、天蓋半径方向の基部幅W1がパッキン4の幅W2の50〜70%、該基部幅W1に対する天蓋周方向の長さLが2〜5倍である構成としている。
【0012】
請求項3の発明は、上記請求項1又は2のペールオープン缶1,P2において、突起部6は、先端6aが天蓋主面20方向に沿う平坦面をなす構成としている。
【0013】
請求項4の発明は、上記請求項1〜3の何れかのペールオープン缶1,P2において、局所的凹陥部5が天蓋周方向の6〜10箇所に形成されてなる構成としている。
【発明の効果】
【0014】
請求項1の発明に係るペールオープン缶1,P2では、天蓋2A,2Bの環状隆起部23の頂部に形成された各局所的凹陥部5がパッキン配置溝22側で突起部6としてパッキン4に埋入し、その埋入位置で該パッキン4が薄肉になるが、薄肉部分は局所的であって連続しないために平常状態での封止性低下を生じない。そして、缶の段積み等によって天蓋2A,2Bに大きな重量負荷が加わっても、その重量負荷は該天蓋2A,2Bの各突起部6の位置で缶本体1に受け止められ、パッキン4全体としての上下方向の圧縮は僅かにとどまるから、その重量負荷の除去に伴って該パッキン4が全体的に元の状態に確実に復帰して材料弾性に基づく本来の封止力を充分に発揮し、もって内容物の漏れや気密破壊による変質が確実に防止される。すなわち、該パッキン4は、各突起部6の位置では上記の重量負荷で強く圧縮されて復元力を喪失しても、その喪失部分は局所的で周方向にも幅方向にも繋がらず、全体的に復元可能な圧縮状態に維持され、また仮に過度の重量負荷で各突起部6の位置で破れることがあっても、その周囲が復元力のあるパッキン層で囲まれた形になるから、充分な封止性が維持される。
【0015】
請求項2の発明によれば、突起部6の基部幅W1と天蓋周方向の長さLならびにパッキン4の幅W2とが特定比率であるため、段積み等による封止性低下をより確実に防止できると共に、重量負荷の集中による缶本体1の開口縁部の変形を回避できる。
【0016】
請求項3の発明によれば、突起部6の先端6aが天蓋主面20方向に沿う平坦面をなすことから、天蓋2A,2B側から缶本体1への重量負荷の伝達がずれなく確実になされると共に、該重量負荷が平坦面全体に均等に加わるため、重量負荷の局部集中による缶本体1の開口縁部の変形を防止できる。
【0017】
請求項4の発明によれば、局所的凹陥部5を天蓋周方向に特定数設けることから、段積み等による重量負荷を缶本体1に対して均等に加えることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の第一実施形態に係るバンドタイプのペールオープン缶における天蓋を示し(a)は半部の平面図、(b)は(a)のX−X線の断面矢視図である。
【図2】本発明の第二実施形態に係るラグタイプのペールオープン缶における天蓋を示し(a)は半部の平面図、(b)は(a)のY−Y線の断面矢視図である。
【図3】同第一実施形態のペールオープン缶における天蓋嵌合部の縦断面図である。
【図4】同第二実施形態のペールオープン缶における天蓋嵌合部の縦断面図である。
【図5】本発明を適用するバンドタイプのペールオープン缶を示し、(a)は全体の斜視図、(b)は天蓋嵌合部の縦断面図である。
【図6】本発明を適用するラグタイプのペールオープン缶を示し、(a)は全体の斜視図、(b)は天蓋嵌合部の縦断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下に、本発明をバンドタイプのペールオープン缶に適用した第一実施形態、ならびにラグタイプのペールオープン缶に適用した第二実施形態について、図面を参照して具体的に説明する。なお、第一及び第二実施形態の両ペールオープン缶の基本構造は既述の図5及び図6で例示したペールオープン缶P1,P2と同様であるため、以下では該基本構造の各構成部分に同一符号を附して説明を省略する。
【0020】
第一実施形態のバンドタイプのペールオープン缶P1における天蓋2Aは、図1(a)(b)で示すように、周縁の環状隆起部23の頂部に、エンボス加工によって複数(図では6つ)の局所的凹陥部5─が周方向に沿って所定間隔を置いて形成されている。そして、各局所的凹陥部5は環状隆起部23の下面のパッキン配置溝22側で突起部6を構成し、該突起部6がパッキン配置溝22に配置するパッキン4に埋入している。なお、各突起部6は、先端6aが天蓋主面20方向に沿う平坦面をなしている。
【0021】
また、第二実施形態のラグタイプのペールオープン缶P2における天蓋2Bは、図2(a)(b)で示すように、やはり第一実施形態と同様に、周縁の環状隆起部23の頂部に複数(図では6つ)の局所的凹陥部5─が周方向に沿って所定間隔を置いて形成されており、各局所的凹陥部5が環状隆起部23の下面のパッキン配置溝22側で突起部6としてパッキン4に埋入している。なお、環状隆起部23の外周縁には折曲を容易にするカバーオープンホール21a付きの多数のラグ21─が全周にわたって垂設され、また主面20の周辺側には円弧状に凹陥した補強用リブ20a─が設けてある。
【0022】
そして、第一実施形態のペールオープン缶P1では、図3及び図5(a)(b)で示すように、缶本体1の上端開口の周縁をなす外向きに曲成されたカール部11上に、天蓋2Aの周縁の環状隆起部23をその下面側のパッキン配置溝22に配置するパッキン4を介して嵌合し、この周縁部同士の嵌合部分に緊締バンド3を巻き締めることにより、該天蓋2Aを缶本体1に対して封止固定する。また、第二実施形態のペールオープン缶P2では、図4及び図6(a)(b)で示すように、同様に缶本体1の開口周縁のカール部11上に天蓋2Bの周縁の環状隆起部23をパッキン4を介して嵌合し、該天蓋2Bの周縁のラグ21─を缶本体1のカール部11の下側へ加締めて折り付けることにより、該天蓋2Bを缶本体1に対して封着固定する。
【0023】
これら第一及び第二実施形態のペールオープン缶P1,P2では、天蓋2A,2Bの封着固定状態において、環状隆起部23の各局所的凹陥部5では、図3及び図5に示すように、下面側に突出した突起部6によってパッキン4が薄肉化している。しかるに、該パッキン4は、局所的凹陥部5以外では図5(b)及び図6(b)に示すように薄肉化しておらず、薄肉化部分が局所的で周方向にも幅方向にも連続しないため、平常状態での封止性低下を生じない。
【0024】
一方、これらペールオープン缶P1,P2の保管や運搬等において、上下複数段に積み重ねた場合、下位の缶には上位の缶の重量が負荷することになるが、その重量負荷は天蓋2A,2Bの各突起部6の位置で缶本体1に受け止められ、パッキン4全体としての上下方向の圧縮は該突起部6下の薄肉パッキン層6aが圧縮し得る僅かな範囲にとどまる。従って、その重量負荷が除かれると、該パッキン4が全体的に元の状態に確実に復帰して材料弾性に基づく本来の封止力を充分に発揮することになり、もって内容物の漏れや気密破壊による変質が確実に防止される。すなわち、該パッキン4は、各突起部6下の薄肉パッキン層6aが重量負荷で強く圧縮されて復元力を喪失しても、その喪失部分は局所的で周方向にも幅方向にも繋がらず、全体的に復元可能な圧縮状態に維持され、また仮に過度の重量負荷で突起部6下の薄肉パッキン層6aが破れるようなことがあっても、その周囲を復元力のあるパッキン層で囲まれているから、充分な封止性が維持される。
【0025】
ここで、天蓋2A,2Bの突起部6としては、天蓋半径方向の基部幅W1がパッキン4の幅W2の50〜70%程度、該基部幅W1に対する天蓋周方向の長さLが2〜5倍程度であることが好ましい。この基部幅W1がパッキン4の幅W2に対して大き過ぎたり、長さLが長過ぎては、缶の段積み等による重量負荷で復元力を喪失するパッキン領域が過大になるにしたがって封止力の低下をきたし易くなる。逆に該基部幅W1がパッキン4の幅W2に対して小さ過ぎたり、長さLが短過ぎては、缶の段積み等による重量負荷の集中によって缶本体1のカール部11の変形を生じ易くなる。
【0026】
また、本発明においては該突起部6の先端6aを種々の形状に設定できるが、実施形態のように天蓋主面20方向に沿う平坦面とすることが推奨される。すなわち、突起部6の先端6aが尖った形状では、その先端6aが何らかの要因で缶本体1のカール部11の頂部位置からずれた場合に、缶の段積み等による重量負荷が該カール部11の頂端から外れて加わり、その分力によって該カール部11が内側又は外側へ変形したり、上記位置ずれがない場合でも、重量負荷の局部集中で該カール部11が凹むように変形したりする懸念がある。しかるに、該突起部6の先端6aが平坦面であれば、天蓋2A,2B側から缶本体への重量負荷の伝達がずれなく確実になされると共に、該重量負荷が平坦面全体に均等に加わるため、該カール部の変形を防止できる。
【0027】
更に、突起部6つまり環状隆起部23に設ける局所的凹陥部5は、段積み等による重量負荷を缶本体1に対して均等に加える上で少なくとも天蓋周方向の3箇所に等配する必要があるが、特に加重負荷の分散と位置精度の緩和の観点より6〜10箇所程度とするのがよい。このように局所的凹陥部5を天蓋周方向の6〜10箇所程度に設ける場合は、必ずしも相互間隔を均等にせずに、締着バンド3のレバーやボルトによる締付位置、天蓋の注出口24や缶本体1のシーム溶接部の位置等に応じて、経験的に変形や封止破壊を生じ易い部位への加重負荷が軽減されるように、局所的凹陥部5を配置設定すればよい。
【0028】
なお、本発明のペールオープン缶においては、缶本体1及び天蓋2の細部形状、缶本体1に対する天蓋2の固定手段、注出口24や把手12等の付属部分の構造、締付バンドの締付方式等、細部構成については実施形態以外に種々設計変更可能である。
【符号の説明】
【0029】
1 缶本体
11 カール部(上端開口の周縁)
2A,2B 天蓋
20 天蓋主面
21 ラグ(天蓋固定手段)
22 パッキン収容溝
23 環状隆起部
3 緊締バンド(天蓋固定手段)
4 パッキン
5 局所的凹陥部
6 突起部
6a 先端
L 突起部の天蓋周方向の長さ
P1,P2 ペールオープン缶
W1 突起部の基部幅
W2 パッキンの幅

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上端開口の周縁が外向きに曲成された略縦円筒状の缶本体と、周縁に下面側をパッキン収容溝とする環状隆起部を有する天蓋と、缶本体の上端開口に被せた天蓋を該缶本体に対して密封状態に固定する天蓋固定手段とを備えたペールオープン缶において、
前記天蓋の環状隆起部の頂部に、局所的凹陥部が周方向複数箇所に形成され、各局所的凹陥部が前記パッキン配置溝側で突起部としてパッキンに埋入していることを特徴とするペールオープン缶。
【請求項2】
前記突起部は、天蓋半径方向の基部幅が前記パッキンの幅の50〜70%、該基部幅に対する天蓋周方向の長さが2〜5倍である請求項1記載のペールオープン缶。
【請求項3】
前記突起部は、先端が天蓋主面方向に沿う平坦面をなす請求項1又は2に記載のペールオープン缶。
【請求項4】
前記局所的凹陥部が天蓋周方向の6〜10箇所に形成されてなる請求項1〜3の何れかに記載のペールオープン缶。

【図1】
image rotate

【図2】
image rotate

【図3】
image rotate

【図4】
image rotate

【図5】
image rotate

【図6】
image rotate


【公開番号】特開2011−148520(P2011−148520A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−10635(P2010−10635)
【出願日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【出願人】(399031643)株式会社長尾製缶所 (6)
【Fターム(参考)】