説明

ホイストクレーン用走行装置

【課題】走行用モータの回生電流をホイストクレーンの始動動作に利用してホイストクレーンの省電力化を実現する。
【解決手段】ホイストクレーンは吊荷を昇降するホイストが横行自在の横行用ガーダーと、横行用ガーダーが走行自在の走行用ガーダーとを有し、横行用ガーダーは走行用モータ23が設けられた走行台車により走行する。ホイストクレーンは、交流を直流に変換する整流部32と、直流を交流に周波数変換を行う変換部としての駆動素子部35と、走行台車を減速停止させるときに走行用モータ23から発生する制動エネルギーにより充電するキャパシタ39とを有している。走行台車を始動させるときにはキャパシタ39の充電エネルギーが走行用モータ23に供給される。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重量物を吊り上げるホイストが移動自在に装着された横行ガーターを走行させるホイストクレーン用走行装置に関する。
【背景技術】
【0002】
重量物を吊荷としてこれを上下動するためのホイストつまり巻上機を水平方向に走行移動させるようにしたクレーンとしては、ホイストが移動自在に装着される横行用ガーダーを走行用ガーダーに走行自在に支持するようにしたホイストクレーンがある。横行用ガーダーは、その両端部に取り付けられたクレーンサドルつまり走行台車がそれぞれ移動自在に走行用ガーダーに支持されている。ホイストは横行用ガーダーに沿って横行移動するX方向と、横行用ガーダーを走行台車により走行ガーダーの上を横行用ガーダーの横方向させることによるY方向とに移動することになる。これにより、ホイストは水平二軸方向つまり水平面に沿う方向に搬送移動する。
【0003】
ホイストはフックが設けられたワイヤを巻き取るためのドラムを有している。ドラムを昇降用モータにより回転駆動してフックに吊り下げた吊荷を上下動させ、ホイストを横行用ガーターにより横行移動させるとともに横行用ガーダーを走行台車により走行用ガーダーの上を走行移動させることにより、重量物である吊荷を吊り下げられた状態で水平面に沿って移動することができる。
【0004】
ホイストは吊荷を上下動する際にドラムを回転駆動するための昇降用モータを有し、横行用ガーダーに掛け渡された車輪を駆動するためにホイストには横行用モータが取り付けられている。横行用ガーダーを走行用ガーダーに沿って走行移動させるために、横行用ガーダーの両端部には走行台車としてのクレーンサドルが取り付けられており、クレーンサドルには走行用ガーダーを転動する車輪とこれを駆動するための走行用モータが設けられている。それぞれのモータを誘導モータや同期モータとしてインバータ制御方式とすると、上下方向の昇降速度や水平方向の走行速度を調整することができるとともに始動時と停止時のショックを軽減することができる。
【0005】
誘導モータや同期モータをインバータ制御方式とすると、モータの減速時にはモータが発電機として作用し回生電力が発生することになる。回生電流が走行台車を初めとする種々の装置における電源回路に流れると電源回路を構成する電子部品を破壊する恐れがあるため、回生電流を制動抵抗に流すことにより回生電流を熱エネルギーに変換して消費するようにしている。例えば、特許文献1には、介護者を昇降させる昇降モータから発生する回生電流を制動抵抗に流して回生電力を消費させるようにした昇降装置が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2001−341987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
走行台車としてのクレーンサドルにおいては、従来、クレーンサドルの減速停止時に走行用モータから発生する回生電流を制動抵抗により熱エネルギーに変換して消費するようにしている。クレーンサドルは水平に敷設された走行用ガーダーの上を走行移動するので、クレーンサドルの減速停止のためには走行時の慣性力に抗した制動力をクレーンサドルに加えることになる。この制動力は重量物を吊り下げる場合に比して大きな制動力を必要としないので、回生電流を制動抵抗に流して熱エネルギーに変換することによりクレーンサドルを制動することができる。しかし、クレーンサドルの本来の吊荷を搬送するという基本的な動作や機能とは全く関係のない余分な制動エネルギーを消費するための装置が必要であった。また、クレーンサドルの減速停止動作で生じる制動エネルギーを有効に利用しない従来のホイストクレーンは、製品の省電力化、省エネルギー化に反する構成となっている。
【0008】
本発明の目的は、走行用モータの回生電流をホイストクレーンの始動動作に利用してホイストクレーンの省電力化を実現することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明のホイストクレーン用走行装置は、吊荷を昇降するホイストが横行自在に装着される横行用ガーダーと、当該横行用ガーダーの両端部に設けられた走行台車が走行自在に装着される走行用ガーダーとを有するホイストクレーン用走行装置であって、外部電源端子から供給される交流を直流に変換する整流部と、前記整流部から供給される直流を交流に周波数変換を行う変換部と、前記走行台車に設けられた車輪を駆動する走行用モータと、前記走行台車を減速停止させるときに前記走行用モータから発生する制動エネルギーを充電するキャパシタとを有し、前記走行台車を走行させるときに前記キャパシタの充電エネルギーを前記走行用モータに供給することを特徴とする。
【0010】
本発明のホイストクレーン用走行装置は、前記走行台車を走行させるときに前記キャパシタの充電不足の場合には、前記キャパシタから前記走行用モータに対する電力供給を停止して外部電源から前記走行用モータに走行エネルギーを供給することを特徴とする。本発明のホイストクレーン用走行装置は、制動エルネギーを熱エネルギーに変換する制動抵抗と、前記キャパシタの充電電圧が充電完了電圧を越えたときには前記キャパシタに対する充電処理を停止して制動エネルギーを前記制動抵抗に供給する放熱処理に切り換える切換手段とを有することを特徴とする。本発明のホイストクレーン用走行装置は、前記整流部と前記変換部と前記制動抵抗とが設けられた走行制御ユニットの筐体に、前記キャパシタと切換手段とを後付し、外部電源からの交流のみにより前記走行台車を駆動するタイプの走行装置を、前記外部電源のエネルギーと前記キャパシタの充電エネルギーとによる前記走行台車を駆動するタイプに切り換えることを特徴とする。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、ホイストクレーンを減速停止させるときにおける走行モータの制動エネルギーを回収してキャパシタに充電し、キャパシタの充電エネルギーをホイストクレーンの走行エネルギーとして利用するようにしたので、ホイストクレーンの省電力化を達成することができる。
【0012】
キャパシタの充電電圧が充電不足であるときには外部電源から走行モータに電力を供給するようにしたので、キャパシタが充電不足であってもホイストクレーンを確実に走行させることができる。キャパシタが充電完了した後においても走行モータから制動エネルギーが出力されるときには、キャパシタには制動エネルギーを供給することなく、制動抵抗に制動エネルギーを供給して放熱処理を行うので、キャパシタの過充電発生を防止できる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】ホイストクレーンを示す斜視図である。
【図2】ホイストクレーンの制御構成を示すブロック図である。
【図3】ホイストクレーンの走行制御ユニットに設けられた制御回路を示すブロック図である。
【図4】走行制御ユニットの筐体の内部を示す正面図である。
【図5】走行装置の運転パターンに応じた走行力と走行エネルギーの変化を示すタイムチャートである。
【図6】本発明の走行装置における走行台車の走行動作処理を示すアルゴリズムである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明の実施の形態を図面に基づいて詳細に説明する。図1に示すホイストクレーン10は、インバータ式クレーンであり、重量物である吊荷を昇降移動させる巻上機つまりホイスト11を有している。ホイスト11にはフック12を備えたワイヤロープ13が設けられており、ワイヤロープ13はホイスト11内に設けられた図示しないドラムに巻き付けられている。ドラムを回転させることにより、フック12のフック爪12aに取り付けられた吊荷を昇降移動つまりZ方向に巻上げ巻下げ移動する。ドラムを回転させてワイヤロープ13により吊荷を昇降移動させるために昇降用モータ14がホイスト11に設けられている。
【0015】
ホイスト11は水平方向に伸びる横行用ガーダー15に横行移動自在に装着されている。ホイスト11にはトローリつまり横行台車16が取り付けられ、横行台車16には横行用モータ17により駆動される車輪18が装着されており、横行用モータ17によりホイスト11は横行用ガーダー15に沿ってX方向に横行移動自在となっている。
【0016】
横行用ガーダー15の両端部にはクレーンサドルつまり走行台車21が設けられている。それぞれの走行台車21は横行用ガーダー15に対して直角方向となって水平に伸びる相互に平行な走行用ガーダー22を走行移動する。走行台車21には走行用モータ23により駆動される車輪24が装着されており、走行用モータ23により横行用ガーダー15は走行用ガーダー22に沿ってY方向に走行移動自在となっている。このように、ホイスト11は横行用ガーダー15に沿うX方向移動と、横行用ガーダー15の走行用ガーダー22に沿うY方向移動との二軸方向つまり水平面に沿って搬送移動する。
【0017】
ホイスト11には昇降横行制御ユニット25が設けられており、この制御ユニット25からの信号により昇降用モータ14と横行用モータ17の駆動が制御される。横行用ガーダー15には走行制御ユニット26が設けられており、この制御ユニット26からの信号により走行用モータ23の駆動が制御される。ホイスト11には入力操作部27が設けられており、この入力操作部27に設けられたキーやスイッチを作業者が操作することにより、吊荷の巻上げ動作と巻下げ動作が指令され、指令に応じて昇降用モータ14には電力が供給される。一方、入力操作部27の操作によりホイスト11の横行動作つまりX方向動作が指令されると、横行用モータ17に電力が供給される。ホイスト11の走行動作つまりY方向動作が指令されると、走行用モータ23に電力が供給される。昇降用モータ14,横行用モータ17および走行用モータ23としてはそれぞれ誘導モータが使用されている。
【0018】
図2はホイストクレーン10の制御構成を示すブロック図である。昇降用モータ14と横行用モータ17の回転を制御するために、昇降横行制御ユニット25には昇降横行インバータ制御部28が設けられている。この昇降横行インバータ制御部28は入力操作部27に接続されており、入力操作部27から昇降横行インバータ制御部28に指令信号が送られる。昇降横行インバータ制御部28からは昇降用インバータ28aと横行用インバータ28bに制御信号から送られるとともにブレーキ29a,29bに制御信号が送られる。走行用モータ23の回転を制御するために、走行制御ユニット26には走行インバータ制御部30が設けられている。この走行インバータ制御部30は入力操作部27に接続されており、入力操作部27から走行インバータ制御部30に指令信号が送られる。走行インバータ制御部30からは走行用インバータ30aに制御信号が送られるとともにブレーキ29cに制御信号が送られる。それぞれのインバータ28a,28b,30aには外部電源端子31から3相交流電力が供給される。
【0019】
昇降用インバータ28aと横行用インバータ28bは、入力操作部27からの操作指令に従って、昇降用モータ14と横行用モータ17に対して供給される印加電圧と周波数が制御される。それぞれのモータ14,17は、周波数を制御することにより回転速度が調整され、印加電圧を制御することにより出力トルクが調整される。
【0020】
吊荷をZ方向に昇降移動させるときには、昇降用のブレーキ29aは解除され、昇降用モータ14に供給される印加電圧の周波数を制御することにより昇降速度が制御される。ホイスト11をX方向に横行移動させるときには、横行用のブレーキ29bを解除した状態のもとで横行用モータ17に対する印加電圧と周波数が制御される。同様に、走行台車21の走行移動は、入力操作部27からの操作指令に従って走行インバータ制御部30により制御される。ホイスト11をY方向に走行移動させるときには、走行用のブレーキ29cを解除した状態のもとで走行インバータ制御部30からは走行用モータ23に印加される印加電圧と周波数とが制御される。
【0021】
図3はホイストクレーンの走行制御ユニットに設けられた制御回路を示すブロック図である。走行用インバータ30aは外部電源端子31に接続される整流部32を有し、外部電源からの3相交流は整流部32により直流に変換される。走行用インバータ30aは整流部32の出力端子に直流母線33,34により接続される駆動素子部35を有しており、この駆動素子部35は、直流を所定の周波数と電圧を有するU,V,W相の交流に変換して走行用モータ23に供給する変換部を構成している。
【0022】
直流母線33,34の間には、整流部32からの直流を平滑化する整流コンデンサ36が接続され、直流母線間電圧Vdcの変化を検出するための電圧モニタ部37が接続されている。さらに、走行台車21を減速停止させるときに走行用モータ23から発生する制動エネルギーを熱エネルギーに変換するために、制動抵抗38が接続されている。直流母線33,34の間には、さらに、制動エネルギーを充電するために蓄電部つまりキャパシタ39が接続されている。
【0023】
制動抵抗38と直流母線34の間にはこれらを接続状態と切断状態とに切り換えるために抵抗オンオフ用のスイッチSWdが設けられており、キャパシタ39と直流母線33との間にはこれらを接続状態と切断状態とに切り換えるために充電オンオフ用のスイッチSWcが接続されている。さらに、直流母線33にはこれを接続状態と切断状態とに切り換えるために母線オンオフ用のスイッチSWrが接続されている。これらのスイッチにより切換手段が構成されており、これらのスイッチのオンオフにより、走行装置は充電モード、放熱モード、放電モードおよび外部電源モードに切り換えられる。充電モードは、走行用モータ23から発生する制動エネルギーをキャパシタ39に充電するモードであり、放熱モードは制動エネルギーを制動抵抗38に供給して熱エネルギーに変換するモードである。放電モードはキャパシタ39に充電された充電エネルギーを走行用モータ23に供給するモードであり、外部電源モードは外部からのAC電源により走行用モータ23を駆動するモードである。
【0024】
それぞれのスイッチは走行インバータ制御部30から信号線41〜43により送られる制御信号によりオンオフ制御される。走行インバータ制御部30には信号線44により電圧モニタ部37からの検出信号が送られるようになっており、キャパシタ39の充電量に応じて上述した何れかのモードが選択される。
【0025】
図4は走行制御ユニット26の蓋部材45を開いた状態における筐体46の内部を示す正面図である。筐体46内には走行インバータ制御部30と走行用インバータ30aの基板部47が取り付けられており、基板部47には変換部としての駆動素子部35,整流コンデンサ36および電圧モニタ部37に加えてスイッチSWc,SWd,SWrが内蔵されている。さらに、走行用インバータ30aは、制御信号を演算するマイクロプロセッサ、制御プログラム、演算式などが格納されるROM、一時的にデータを格納するRAM等を有している。
【0026】
本発明の走行装置はキャパシタ39とスイッチSWc,SWd,SWrが走行用インバータ30aに設けられており、上述した4つのモードの何れかがキャパシタ39の容量、走行状況等に応じて選択される。走行台車21は水平方向に移動することになり、上下方向には移動しないので、キャパシタ39は比較的小型とすることができる。したがって、従来のように、外部電源のみにより走行台車21を駆動するタイプの走行制御ユニット26の筐体46をそのまま利用して、基板部47を交換し、筐体46の内部にキャパシタ39を取り付けることにより、従来のホイストクレーン用走行装置を上述したように4つのモードを有す省エネタイプに設定することもできる。
【0027】
図5はホイスト11、横行用ガーダー15および走行台車21を含めた走行装置の運転パターンに応じた走行力と走行エネルギーの変化を示すタイムチャートである。
【0028】
運転パターンとしては、走行台車21の走行方向の一方を+Y方向とし、逆方向を−Y方向とし、走行装置を停止状態から加速時間taに渡って加速起動させた後に、一定速度Vsで走行させ、その後、tbの減速時間で減速させるようにしている。走行台車21はこの運転パターンを+Y方向と−Y方向とに繰り返すことになる。加速する際には走行用モータ23から走行装置に加速力Faが加えられ、減速する際には走行用モータ23に制動力Fbが加えられることになる。加速力Faを加えるための加速エネルギーはEaであり、制動力を加えるための制動エネルギーはEbである。
【0029】
図6は本発明の走行装置における走行台車21の走行動作処理を示すアルゴリズムである。走行台車21は図5の運転パターンに示すように、入力操作部27からの操作指令に従って、停止中、起動加速中、一定速度での走行動作中、または減速中のいずれかの状態となっている。ステップS1では母線オンオフ用のスイッチSWrはオンに設定され、充電オンオフ用のスイッチSWcと抵抗オンオフ用のスイッチSWdはそれぞれオフに設定される。ステップS2では走行台車21が運転中か否かが判定され、ステップS3では加速中か否かが判定され、ステップS4では減速中であるか否かが判定される。加速中でも減速中でもなれば、ステップS5で定速動作が実行される。減速中であると判定されれば、ステップS6でキャパシタ39の充電電圧Vcが直流母線間電圧Vdcより低いと判定されたときには充電処理(ステップS7)が実行される。この充電処理が設定されると走行装置は充電モードとなり、制動エネルギーによりキャパシタ39は充電される。
【0030】
充電処理が実行されるときには、充電オンオフ用のスイッチSWcがオンされてキャパシタ39は両方の母線33,34に接続状態となり、他のスイッチSWd,SWrはオフされた状態のもとで、充電電圧が設定電圧つまり充電完了電圧Vmを越えたと判定されるまで充電処理が継続される(ステップS8〜S10)。充電完了電圧Vmは、ステップS7がn回繰り返されたときに設定される充電電圧Vcである。ステップ10においてキャパシタ39が充電完了電圧Vmを越えたと判定されたときには、ステップS11,S12を経てステップS13が実行されてキャパシタ39に対する充電処理が停止されて制動抵抗通電処理が実行される。この制動抵抗通電処理が実行されると走行装置は放熱モードに切り換えられ、制動抵抗38に制動エネルギーが供給されて制動抵抗38により放熱処理される。このように、充電完了電圧Vmを越えてキャパシタ39が充電されることが防止されるので、キャパシタ39は過充電されることがなく、耐久性を高めることができる。
【0031】
一方、ステップS3において走行台車21が加速中であると判定されると、ステップS14の放電処理が実行されて走行装置は放電モードとなる。放電処理は、ステップS15において直流母線間電圧Vdcが充電完了電圧Vmを越えていると判定されたときに、ステップS16,S17を経てステップS18によりキャパシタ39が充電不足であると判定されるまで継続される。ステップS18では直流母線間電圧Vdcと放電電圧Vaとを比較して加速エネルギーが過不足であるか否かを判定する。放電電圧Vaは外部からの供給電源電圧Vacと1.4の積により演算される。キャパシタ39が充電不足であると判定されると、ステップS19によりスイッチSWr,SWdがオンされてステップS20が実行される。これにより、外部電源から供給される電力により走行用モータ23が駆動される。つまり、走行装置は外部電源モードとなる。なお、放電電圧Vaの値が外部の交流電源Vacの定格値以下の状態では、規定の加速時間taは起動加速動作が可能になるようにスイッチSWrをオンに切換制御を行うようにすることができる。
【0032】
次に、一般的なサイズのホイストクレーンにおける加速エネルギーEaと制動エネルギーEbを算出すると以下の通りである。
【0033】
走行台車21により走行するホイストクレーンの移動部分の総質量M(kg)を停止状態から加速起動後に速度Vs(m/s)で走行方向に移動させた後に減速停止させた場合について加速力Fa(N)と制動力Fb(N)とを求める。
【0034】
重力加速度をg(m/s2)、走行台車21と走行用ガーダー22との動摩擦係数をμ、加速起動時間をta(s)、動作速度(定格速度)をVs(m/s)とすれば走行用モータ23に必要な加速力Fa(N)は、
Fa=M・[μ・g+(Vs/ta)] (N) ・・・(1)
となる。
【0035】
式(1)の右辺の第1項は走行台車21の車輪と走行用ガーダー22との接触抵抗で生じる走行力(N)を表す。また、第2項は加速時間ta(s)で動作速度Vs(m/s)まで加速するための加速力を表す。動作速度Vs(m/s)の等速運転では走行用モータ23に必要な力は式(1)の第1項の走行力(N)に起因する。
【0036】
次に、動作速度Vs(m/s)による走行動作から減速停止時間tb(m/s)で減速停止させる場合で走行用モータ23に必要な制動力Fb(N)は、
Fb=−M・[μ・g−(Vs/tb)] (N) ・・・(2)
となる。
【0037】
式(1)と同様に、式(2)の右辺の第1項は走行台車21の車輪と走行用ガーダー22との接触抵抗で生じる走行負荷に対する走行力(N)を表す。また、第2項は減速時間tb(m/s)でVs(m/s)から減速停止させるまでの減速力(N)を示す。
【0038】
式(2)の制動力Fb(N)で定格速度Vs(m/s)から減速時間tb(s)で移動距離Lb(m)移動して停止する場合には、制動力Fb(N)のなす仕事量Wb(J)は、
Wb=Fb・Lb (J) ・・・(3)
また、減速時の移動距離Lb(m)は、
Lb= (1/2)・Vs・tb (m) ・・・(4)
式(2)、式(4)を式(3)で表すと、
Wb=(1/2)・M・(Vs)2−(1/2)・μ・M・g・Vs・tb (J) ・・・(5)
式(5)の右辺第1項は搬送物も含めた総質量M(kg)のホイストクレーンの速度Vs(m/s)で持つ運動エネルギーを表す。第2項は走行台車21の車輪と走行用ガーダー22との接触抵抗で生じる走行負荷に対する走行力(N)がなす仕事量を表す。
【0039】
式(5)より総質量M(kg)のホイストクレーンを減速時間tb(s)で停止させるために、走行用モータ23に仕事量Wb(J)に相当する制動エネルギーEb(J)を生じさせることになる。
【0040】
Wb=Eb (J) ・・・(6)
ホイストクレーンの減速停止動作で走行用モータ23に生じる制動エネルギーEb(J)をキャパシタ39に充電させるための充電容量Cd(F)の計算例を示すと以下の通りである。
【0041】
キャパシタ39の充電電圧をVcとし、式(5)、式(6)より、
Eb=(1/2)・M・(Vs)2−(1/2)・μ・M・g・Vs・tb
≒(1/2)・Cd・(Vs)2 (J) ・・・(7)
が成立する。
【0042】
式(7)よりCd(F)は、
Cd=M・Vs・tb・[(Vs/tb)−μ・g]/(Vc)2 (J)・・・(8)
ホイストクレーンの1回の減速停止動作で充電するキャパシタ39の容量Cd(F)の計算例としては、
ホイスト11の定格荷重を5000(kg)、ホイスト11と横行用ガーダー15の自重を10000(kg)、走行台車21の自重を1000(kg)、減速時間tbを2(s)、走行の定格速度Vsを0.5(m/s)、充電電圧Vcを360(V)、動摩擦係数μを0.01、重力加速度gを9.8(m/s2)を使用し、これらを式(8)に代入すると、キャパシタ39の充電容量Cd(F)は、Cd≒0.02(F)となる。
【0043】
次に、走行台車21の起動加速時に必要な起動加速エネルギーEa(J)を図4を参照しつつ説明する。
【0044】
式(1)より走行用モータ23に必要な加速力Fa(N)は減速停止動作と同様に考えて総質量Mを加速時間ta(s)で定格速度Vs(m/s)まで加速するために必要な加速エネルギーEa(J)は、
Ea=(1/2)・M・(Vs)2+(1/2)・μ・M・g・Vs・ta (J) ・・・(9)
式(9)の右辺第1項は搬送物を含めた総質量M(kg)のホイストクレーンの移動部分を静止状態から速度Vs(m/s)まで加速するために必要な加速エネルギーを表す。第2項は定格速度Vs(m/s)まで加速するために必要な加速エネルギーを表す。式(9)より起動加速時間ta(s)の起動加速動作時の加速エネルギーEa(J)を供給するために必要なキャパシタ39の放電容量Caは放電電圧をVa(v)とすれば、式(8)と同様な考えで以下のように表される。
【0045】
Ca=M・Vs・tb・[(Vs/ta)+μ・g]/(Va)2 (J)・・・(10)
減速停止動作と同様にホイストクレーンの1回の起動加速動作で放電すべきキャパシタ39の容量Ca(F)の計算例としては、
ホイスト11の定格荷重を5000(kg)、ホイスト11と横行用ガーダー15の自重を10000(kg)、走行台車21の自重を1000(kg)、加速時間taを2(s)、走行の定格速度Vsを0.5(m/s)、放電電圧Vaを250(V)、動摩擦係数μを0.01、重力加速度gを9.8(m/s2)を使用し、これらを式(10)に代入すると、キャパシタ39の放電容量Ca(F)は、Ca≒0.09(F)となる。
【0046】
上述した計算例では、キャパシタ39の物理的な充電容量Cd(F)を放電容量Ca(F)の容量(0.09F)のキャパシタ39を備えれば、約5回の減速停止動作を行えば1回分の2秒間の起動動作に必要な走行エネルギーをキャパシタ39で補償することができる。
【0047】
次に、本発明の走行装置による省エネ効果を計算した。計算に用いたホイストクレーンの動作モデルは、走行台車21を停止状態から2秒間加速し、10秒間定格速度で走行した後に、2秒減速して停止させた場合である。ホイスト11を含むホイストクレーンの移動部分の総質量、動摩擦係数、重力加速度等は上述した値を使用した。その計算結果は、以下の通りである。
【0048】
加速エネルギー:Ea(J) 3568 ・・・(a)
加速時出力: Pa(kW) 1.8
減速エネルギー:Eb(J) 1216 ・・・(b)
減速時出力: Pb(kW) 0.6
走行エネルギー:Es(J) 7840 ・・・(c)
走行時出力: Ps(kW) 0.8
総エネルギー: ΣE(J) 12624 ・・・(d)
平均出力: Ps(kW) 0.90
蓄電効率を1.0とすれば、省エネ効果(Σb/ΣE)は、
(Σb/ΣE)=[(b)/(d)]×100(%)
=9.6%
となった。
【0049】
本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。上述した実施の形態においては、キャパシタ39に蓄えられた走行エネルギーを走行台車21を加速する際に利用しているが、一定速度で走行する際に走行エネルギーを利用するようにしても良い。
【符号の説明】
【0050】
10…ホイストクレーン、11…ホイスト、12…フック、12a…フック爪、13…ワイヤロープ、14…昇降用モータ、15…横行用ガーダー、16…横行台車、17…横行用モータ、18…車輪、21…走行台車、22…走行用ガーダー、23…走行用モータ、24…車輪、25…昇降横行制御ユニット、26…走行制御ユニット、27…入力操作部、28…昇降横行インバータ制御部、28a…昇降用インバータ、28b…横行用インバータ、29a〜29c…ブレーキ、30…走行インバータ制御部、30a…走行用インバータ、31…外部電源端子、32…整流部、33,34…直流母線、35…駆動素子部、36…整流コンデンサ、37…電圧モニタ部、38…制動抵抗、39…キャパシタ、41〜44…信号線、45…蓋部材、46…筐体。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
吊荷を昇降するホイストが横行自在に装着される横行用ガーダーと、当該横行用ガーダーの両端部に設けられた走行台車が走行自在に装着される走行用ガーダーとを有するホイストクレーン用走行装置であって、
外部電源端子から供給される交流を直流に変換する整流部と、
前記整流部から供給される直流を交流に周波数変換を行う変換部と、
前記走行台車に設けられた車輪を駆動する走行用モータと、
前記走行台車を減速停止させるときに前記走行用モータから発生する制動エネルギーを充電するキャパシタとを有し、
前記走行台車を走行させるときに前記キャパシタの充電エネルギーを前記走行用モータに供給することを特徴とするホイストクレーン用走行装置。
【請求項2】
請求項1記載のホイストクレーン用走行装置において、前記走行台車を走行させるときに前記キャパシタの充電不足の場合には、前記キャパシタから前記走行用モータに対する電力供給を停止して外部電源から前記走行用モータに走行エネルギーを供給することを特徴とするホイストクレーン用走行装置。
【請求項3】
請求項1または2記載のホイストクレーン用走行装置において、制動エルネギーを熱エネルギーに変換する制動抵抗と、前記キャパシタの充電電圧が充電完了電圧を越えたときには前記キャパシタに対する充電処理を停止して制動エネルギーを前記制動抵抗に供給する放熱処理に切り換える切換手段とを有することを特徴とするホイストクレーン用走行装置。
【請求項4】
請求項3記載のホイストクレーン用走行装置において、前記整流部と前記変換部と前記制動抵抗とが設けられた走行制御ユニットの筐体に、前記キャパシタと切換手段とを後付し、外部電源からの交流のみにより前記走行台車を駆動するタイプの走行装置を、前記外部電源のエネルギーと前記キャパシタの充電エネルギーとによる前記走行台車を駆動するタイプに切り換えることを特徴とするホイストクレーン用走行装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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