ホウ素ドープダイヤモンド電極を用いたpHの測定方法及び装置
【課題】 酸性領域のみならずアルカリ性領域においても測定可能なpH測定方法を提供する。
【解決手段】 作用極にホウ素ドープダイヤモンド電極を使用し、クロノポテンシオメトリー法により被測定試料溶液のpHを測定することにより、広範囲な測定を可能とする。特に、作用極にホウ素ドープダイヤモンドマイクロ電極を用いることにより、緩衝液の緩衝能の影響を受けずにpHの測定が可能になり、さらに、飽和の塩化カリウムの系で行うことにより、共存イオンの影響を考慮することなく測定が可能となる。
【解決手段】 作用極にホウ素ドープダイヤモンド電極を使用し、クロノポテンシオメトリー法により被測定試料溶液のpHを測定することにより、広範囲な測定を可能とする。特に、作用極にホウ素ドープダイヤモンドマイクロ電極を用いることにより、緩衝液の緩衝能の影響を受けずにpHの測定が可能になり、さらに、飽和の塩化カリウムの系で行うことにより、共存イオンの影響を考慮することなく測定が可能となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、pHの測定方法及び装置に関し、特に、ホウ素ドープダイヤモンド電極を用いたpHの測定方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、pH測定方法としては、指示薬を用いる方法、pH試験紙を用いる方法、水素電極、キンヒドロン電極、アンチモン電極などの金属電極による方法、及びガラス電極を用いる方法等が知られている。中でも、ガラス電極を用いる方法は、安価で測定が簡便であるため、最も広く用いられている方法であり、内部にpHが一定の緩衝溶液が封入されたガラス電極を用い、ガラス膜の内部および測定溶液に接触する外部にそれぞれ水素イオンが吸着し電位差を生ずることを用いる方法で、ガラス電極と参照電極との電位差をpHに換算するものである。
しかしながら、ガラス電極を用いる方法は、いくつかの問題がある。例えば、アルカリ溶液又はフッ化水素溶液中、或いは100℃以上の高温溶液中では不安定である。また、応答が遅く、ガラスの面積が応答性に影響することから小型化が困難である。特に、ガラスが有する硬さから、血液中や生体内(in vivo)での測定に適用するには課題がある。
【0003】
また、ガラス電極に限らず、電極を用いるpHの測定方法は、いわゆるpH測定領域を超えた領域では、酸誤差あるいはアルカリ誤差といわれるように、ネルンスト式の直線から大幅にずれるので、強酸あるいは強アルカリ水溶液中では使用できないという問題もある。
【0004】
こうした電極を用いる方法の課題を解決するpHの測定法として、ISFET(Ion Sensitive Field Effect Transistor)センサを用いる方法が知られている。ISFETは、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor)の金属膜に該当する部分に、イオン感応膜を配置したものであり、溶液に参照電極から所定の電位を印加した状態で、イオン感応膜で溶液中の水素イオンを検出し、水素イオンの量をFETの電流に変換する方法である(特許文献1等)。
このセンサは、ガラス電極を用いないために、割れる心配がなく、KCl等の保存液を必要とせず、面積の応答性への影響などの制約がなく、半導体技術で小型化ができ、ゲート部分被覆によって様々なイオンの検出が可能である、等の利点を有する。しかしながら、デバイスの作製に手間がかかる等の問題がある。
【0005】
一方、ホウ素をドープした導電性ダイヤモンド(BDD)電極を、種々の生化学種や環境汚染物資の電気化学的検出に用いることが提案されている。このダイヤモンド電極は、グラッシーカーボン(GC)電極、白金電極、金電極等の従来の電極とは異なる優れた性質を有していることから多くの注目が寄せられているものであり、特に、高い熱伝導率、高い硬度、および高い化学的不活性等のダイヤモンドの良く知られた特性に加えて、導電性ダイヤモンドの注目すべき特徴として、液体中及び固体中での広い電位窓、低い電気容量、優れた電気化学的安定性、及び優れた生体適合性などが知られている(特許文献2)。
本発明者等も、BDD電極を用いて、ストリッピングボルタンメトリ法により、被測定電解質中に電解質として溶解している元素を電気化学的に分析する方法を報告している(特許文献3)。
【0006】
このダイヤモンド電極をマイクロサイズで作製することが可能になれば、in vivo測定をはじめ、センサーの小型化、高感度化も期待できるため、実用に供する電極形態として注目されている。本発明者らは、タングステンワイヤ上にダイヤモンドを堆積させることにより、ダイヤモンドマイクロ電極を作製することを試み、実際に脳内での測定が可能であるサイズ(直径5μm)の電極作製に成功し、マウス脳内のドーパミンのin vivo測定にこのBDDマイクロ電極を用いた(非特許文献1)。
【0007】
さらに、本発明者等は、このBDD電極が有している、電位窓が広く、バックグラウンド電流が小さく、高い化学的耐性を有するため、苛酷な条件下でも電気化学的分析を行うことができるという利点を、電気化学的検出法に用いるだけでなく、pH測定にも応用することを検討し、報告している(非特許文献2)。すなわち、前述のGC電極、白金電極、金電極等の従来の電極ではpH測定域(2〜12)を超えた領域では正確な測定ができないという問題は、それらの電位窓が小さいことによるものであり、該課題を広い電位窓を有するBDD電極を用いることにより解決するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−94577号公報
【特許文献2】特開平11−83799号公報
【特許文献3】特許第4215132号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】A. Suzuki, Tribidasari A. Ivandini, K. Yoshimi, A. Fujishima,G.Oyama, T. Nakazato, N. Hattori, S. Kitazawa, Y.Einaga/ Anal. Chem.2007, 79,8608-8615, Fabrication, Characterization, and Application of Boron-DopedDiamond Microelectrodes for in Vivo Dopamine Detection.
【非特許文献2】N. Mitani, A. Einaga/ Jounal of Electroanalytical Chemistry 626(2009) 156-160, The simple voltammetric analysis of acids using highly boron-dopeddiamond macroelectrodes and microelectrodes.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
図15は、従来の電極とBDD電極の電位窓の幅を比較する図である。
図16は、非特許文献2に記載の方法で、すなわち、LSV法により、HCl溶液を用いて行ったpH測定の結果を示す図であり、横軸は、対極と参照電極の電位を示し、縦軸は発生した電流値を示している。なお、作用電極にBDD、対極に白金(Pt)、参照電極にAg/AgClを用いている。
該図から明らかなように、酸性領域では、pH値の違いにより、明らかな電流値の差が生じ、pH測定は可能であることがわかる。
しかしながら、アルカリ領域では同様な結果が得られないために、この方法では、酸性溶液のpH測定にしか用いることができないという問題がある。
【0011】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであって、BDD電極を用いたpH測定方法において、酸性領域のみならずアルカリ性領域においても測定可能な方法を提供すること目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者が、上記目的を達成すべく検討したところ、作用極にホウ素ドープ導電性ダイヤモンド(BDD)電極を使用し、クロノポテンシオメトリー法(以下、「CP法」ということもある。)を適用して水素発生電位から被測定試料溶液のpH(水素イオン濃度)を測定することにより、広範囲な測定が可能となることが判明した。また、更に検討した結果、作用極にBDD−M電極を用いた場合には、緩衝液の緩衝能の影響を受けずにpHの測定が可能になることを見いだした。さらに検討を重ねたところ、カリウムの飽和溶液を用いることにより、共存イオンの影響を考慮せずに、pHの測定が可能であるという知見を得た。
【0013】
本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものであり、以下の発明を提供するものである。
[1] 少なくとも、ホウ素ドープダイヤモンド電極からなる作用極、対極及び参照極を用意し、前記作用極と前記対電極と前記参照極を被測定試料に接触させ、前記作用極と前記対極との間に一定の電流を流し、所定時間経過後における前記作用極と前記参照極間の電圧値を測定し、得られた電圧値から前記試料中のpHを算出することを含んでなる、pH測定方法。
[2] 前記ホウ素ドープダイヤモンド電極からなる作用極が、マイクロ電極であることを特徴とする上記[1]のpH測定方法。
[3] 緩衝液を用いないことを特徴とする上記[2]のpH測定方法。
[4] 飽和塩化カリウム溶液を含む系でおこなうことを特徴とする上記[2]のpH測定方法。
[5] 被測定試料を収納する容器と、
該被測定試料と接触するように配置された、ホウ素ドープダイヤモンド電極からなる作用極、対極及び参照極と、
前記作用極と前記対極との間に一定の電流を流す手段、
一定電流を流してから所定時間経過後における前記作用極と前記参照極間の電圧値を測定する手段、及び
該電圧値から前記試料中のpH値を算出する手段
を少なくとも有するpH測定装置。
[6] 前記ホウ素ドープダイヤモンド電極からなる作用極が、マイクロ電極であることを特徴とする上記[5]のpH測定装置。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、強酸水溶液から強アルカリ水溶液までの、広範囲な領域におけるpHの測定が可能となる。特に、作用極にBDD−M電極を用いることにより、緩衝液の緩衝能の影響を受けずにpHの測定が可能になる。さらに、カリウムの飽和溶液を用いることにより、共存イオンの影響を考慮せずに、pHの測定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】マイクロ波プラズマCVD法によりBDD電極を製造するための装置を模式的に示す図。
【図2】マイクロ波プラズマCVD法によりBDD−M電極を製造する方法を模式的に示す図。
【図3】本発明において製造したBDD−M電極の図。
【図4】作用極にBDD平板電極を用いたpHの測定用の実験装置を模式的に示す図。
【図5】作用極にBDD−M電極を用いたpHの測定用の実験装置を模式的に示す図。
【図6】本発明のBDD−M電極を用いたpH測定装置の一態様を示す図。
【図7】本発明のBDD電極のSEM写真。
【図8】本発明のBDD−M電極のSEM写真。
【図9(a)】一定電流を流した場合のBDD電極と参照電極間の電位の時間経過による変化を表す図。
【図9(b)】図9(a)の10秒におけるpHと電位の関係を示す図。
【図10(a)】一定電流を流した場合のグラッシーカーボン(GC)電極と参照電極間の電位の時間経過による変化を表す図。
【図10(b)】図10(a)の10秒におけるpHと電位の関係を示す図。
【図11】BDD平板電極を用いた場合の10秒におけるpHと電位の関係を示す図。
【図12】BDD−M電極を用いた場合の10秒におけるpHと電位の関係を示す図。
【図13】CP法によるpH測定における共存イオンの影響を示す図。
【図14】飽和KCl:未知試料を1:5で混合した場合の、pHと、対極及び参照極間の電圧との関係を示す図。
【図15】従来の電極とBDD電極の電位窓の幅を比較する図。
【図16】BDD電極を用いてLSV法により、HCl溶液を用いて行ったpH測定の結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、作用極にホウ素ドープ導電性ダイヤモンド(以下、「BDD」ということもある。)電極を使用し、クロノポテンシオメトリー法(以下、「CP法」ということもある。)により電解液中のpH(水素イオン濃度)を測定することを特徴としている。すなわち、BDD電極からなる作用極、対極、及び参照極が、測定対象である被測定試料に接触するように配置し、作用極と対局間に一定の電流を流して定電流電解を行い、所定時間経過後の作用極と参照極間における電位を測定し、得られた電位から被測定試料中のpH値を算出することを基本的な構成としている。
そして、本発明の上記特徴は、pH測定にCP法を適用する場合、作用極としてホウ素ドープ導電性ダイヤモンド電極を用いることにより、他の材料からなる従来の電極を用いた場合には得られない安定したpHの測定が可能であることを見いだしたことによるものである。
【0017】
すなわち、後に記載する実施例から明らかなように、BDD電極からなる作用極、対極、及び参照極を被測定試料に接触するように配置して、CP法を適用した場合、作用極にBDD電極を用いる限り、経過時間に影響を受けずに、参照極との間に一定の安定した電位が得られるが、例えば、電気化学分析用として代表的な電極である、グラッシーカーボン電極を用いると、参照極との間に一定の安定した電位を得ることができない。
【0018】
また、本発明のもう1つの発明は、作用極にBDDマイクロ(以下、「BDD−M」ということもある。)電極を用いることにより、pH緩衝能の影響を受けない測定が可能であることを見いだしたことによるものである。
すなわち、通常、本発明のpHの測定においても、pH緩衝液(buffer solution)が用いられるが、BDDの平板電極を用いた測定では、緩衝液の緩衝能の影響をうけるが、BDD−M電極を用いた測定では、緩衝能の影響を受けない。
【0019】
本発明のさらにもう1つ発明は、複数のイオンが共存する系において、カリウムイオンが飽和状態の系において、作用極にBDD−M電極を用いて測定することにより、未知の試料中のpHを測定することができることを見いだしたことによるものである。
【0020】
本発明に用いるBDD電極は、ダイヤモンドにホウ素をドープしてダイヤモンドを導電性としたものであるが、ホウ素ドープダイヤモンドの製造方法自体は公知である。
例えば、図1に示すマイクロ波プラズマCVD法により、以下のようにして製造される。
反応室内の試料台に、シリコンプレートなどの基板を設置し、ここに水素を一定量、キャリアガスとして流す。このキャリアガスの一部はバブリング用として、反応室に到達する前に、炭素源及びホウ素源を溶液させた溶液中を通過させ、炭素、ホウ素を含ませる。この状態で反応室内にマイクロ波を一定条件で与えて、プラズマ放電を起こさせると、キャリアガス中の炭素源から炭素ラジカルが生成し、基板上に堆積してダイヤモンドの薄膜が形成される。
【0021】
図2は、BDD−M電極の製造装置の概略図方法及び製造された電極の写真である。
図2に示すとおり、BDD−M電極は、図1と同様の装置を用いて、タングステンワイヤ上にダイヤモンドを堆積させたものであり、直径が5μm程度の大きさのものである。
図3は、この電極を用いて製造した作用極の写真である。
【0022】
図4は、本発明において、作用極にBDD平板電極を用いたpHの測定用の実験装置を模式的に示す図であり、測定対象となる電解質溶液中に、対極及び参照極を配置し、電解質溶液に接触するように容器の底面に作用極を配置したものであり、作用極と対極間に一定の電流を流すことにより定電流電解を行いながら、作用極の電極電位を測定する手段を有している。
【0023】
図5は、本発明において、作用極にBDD−M電極を用いたpHの測定用の実験装置を模式的に示す図であり、測定対象となる電解質溶液に接触するように、BDD−M電極からなる作用極、対極、及び参照極を配置し、作用極と対極間に一定の電流を流すことにより定電流電解を行い、一定時間経過後の作用極と参照極の間の電極電位を測定する手段、を有している。
【0024】
図6は、本発明のBDD−M電極を用いたpH測定装置の一態様を示すものである。
測定対象となる電解質溶液中に、BDD−M電極からなる作用極、対極、及び参照極を配置し、作用極と対極間に一定の電流を流すことにより定電流電解を行い、一定時間経過後の作用極と参照極の間の電極電位を測定する手段、を有している。
【0025】
本発明において、参照極に使用される材料は、電位を安定にするものならば何を用いても良いが、好ましくは、例えば可逆水素電極、銀・塩化銀電極、飽和カロメル電極等が用いられる。また、対極には、白金、グラッシーカーボン、ダイヤモンド等、高耐食性の材料が通常用いられる。
これらの各電極は、ポテンシオスタット、乾電池、直流電源等の装置により、一定電流を流すことができるように構成されている。
【0026】
緩衝液とは、少量のH+イオンあるいはOH−イオンを加えたときに、被測定試料溶液のpHが大きく変化することに抵抗するような物質の混合溶液であるが、本発明においては、通常の衝液をそのまま用いることができ、具体的には、リン酸緩衝液(Phosphate buffer)、酢酸緩衝液(Acetate buffer)、ブリットンロビンソン広域緩衝液(Britton Robinson buffer)、ミラーゴールダー等イオン強度緩衝液(Millor
Golder buffer)等を用いることができる。
【実施例】
【0027】
以下、本発明について、実施例及び比較例を用いて説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0028】
〈試料〉
実施例及び比較例においては、以下の試料を用いた。
(1)緩衝液
ブリットンロビンソン広域緩衝液(BRB)(H3PO4:CH3COOH:HNO3=1:1:1)を用いた。
を用いた。
(2)被測定溶液
・CP法のとき
酸性の上記緩衝液BRBにNaOH又はKOHにてpHを調整した。
・LSV法のとき
KCl溶液にHClにてpHを調整した。
(3)被測定試料のpH測定
用いた被測定試料のpHは、ガラス電極を用いて測定した。
【0029】
〈BDD平板電極の製造〉
BDD電極は、図1の概要図に示す成膜装置として、ASTeX社製のマイクロ波CVD成膜装置を用い、以下に示すようにマイクロ波プラズマアシストCVD法により作製した。
まず、前記導電性基板としてシリコン基板(Si(100))を用い、そのシリコン基板表面をテクスチャー処理(例えば、0.5μmのダイヤモンド粉により研磨)した後、前記シリコン基板を成膜装置のホルダーに固定した。成膜用ソースとしては、トリメトシキボランとアセトンの混合物(液体の混合比(体積)4:50を用い、B/C比で10,000ppmとなる量を溶解したもの)を用いた。
そして、前記成膜用ソースは、その成膜用ソースに対しキャリアガスとして純H2ガスを通してからチャンバー内に導入した。前記チャンバー内は、予め別ラインから水素を流量300sscmで流すことにより、120Torrとなるように調整した。その後、前記チャンバー内にて、2.45GHzのマイクロ波電力により放電させ、その電力が5kWとなるように調整した。
前記電力が安定した後、前記成膜用ソースにキャリアガスとして純H2ガスを流し、成膜速度1〜4μm/hで成膜を行った。そして、反応時間約8hで厚さ約15μmの膜(電極面積が1cm2未満)から成る導電性ダイヤモンド電極を得た。基板の温度は定常状態で約850〜950℃であった。
得られたBDD電極をSEMを用いて観察した。図7はそのSEM写真である。
【0030】
〈BDD−M電極の製造〉
図2の概要図に示すように、タングステンワイヤを用い、圧力を60Torr、電力を2.5kW、成膜時間を3hとした以外は、前述と同様な条件にて作製した。
得られたBDD−M電極を、SEMを用いて観察した。図8は、そのSEM写真である。
【0031】
〈装置〉
図4及び図5に示す装置を用いた。
対極としてはPt電極、参照極としては、[Ag/AgCl]電極を用いた。
【0032】
(実施例1:BDD電極とGC電極の比較)
CP法による水素発生電位について、BDD電極を用いた場合と、市販のグラッシーカーボン(GC)電極(東海カーボン社製)を用いた場合とを比較した。
緩衝液には、0.1MBRBを使用し、−1μAの電流を20秒間流した。
図9は、BDD電極を用いた場合を示すものであり、(a)図は、一定電流を流した場合のBDD電極と参照電極間の電位の時間経過による変化を表したものであり、(b)図は、(a)図の10秒におけるpHと電位の関係を示すものである。
図10は、グラッシーカーボン(GC)電極を用いた場合を示すものであり、(a)図は、一定電流を流した場合のグラッシーカーボン(GC)電極と参照電極間の電位の時間経過による変化を表したものであり、(b)図は、(a)図の10秒におけるpHと電位の関係を示すものである。
【0033】
図9及び図10から明らかなように、BDD電極を用いた場合には、作用電極と参照電極間の電位は、時間が経緯しても安定しており、pHと電位の間に明瞭な相関関係が得られるが、グラッシーカーボン(GC)電極を用いた場合には、作用電極と参照電極間の電位は、時間の経緯途とも変化し不安定であり、pHと電位の間に明瞭な関係が得られないことがわかる。
このことから、本発明において、BDD電極を用いることと、CP法を採用することに、密接な技術的意義があることが理解される。
【0034】
(実施例2:緩衝能の影響について)
BDD平板電極を用いた場合とBDD−M電極を用いた場合のそれぞれについて、緩衝能の影響を0.01MBRBとO.1MBRBとを用いて調べた。
電流は−1μAの電流を20秒間流した。
図11は、BDD平板電極を用いた場合の10秒におけるpHと電位の関係を示すものであり、図12は、BDD−M電極を用いた場合の10秒におけるpHと電位の関係を示すものである。
【0035】
図11から明らかなように、BDD平板電極を用いた場合、O.1MBRBを用いた場合には、高い緩衝能が得られるが、0.01MBRBを用いた場合には、緩衝能が低いことがわかる。
一方、図12のBDD−M電極を用いた場合、O.1MBRBを用いても、或いは、0.01MBRBを用いても、同様に高い緩衝能が得られることがわかる。
このことから、MDD−M電極によるpH測定は、用いる緩衝液が影響しないことが明らかであり、支持電解質を用いずとも測定が可能であることを示している。
【0036】
(実施例3:共存イオンの影響について)
共存イオンの影響を調べるために、0.1M BRB・0.01M BRB Na+、0.1M BRB・0.01MBRB K+、及び0.1M BRB・1MBRB K+の3種の試料溶液を調製し、作用極にBDD−M電極を用いて、CP法を適用して、pHを測定した。測定には、−1μAの電流を20秒間流した。
図13は、その結果を示すものであり、縦軸が電圧、横軸がpH値である。
図から明らかなように、三種の試料間で、傾きに差があることが分かる。また、K+は、イオン半径が大きいことが分かる。
このことは、被測定試料中に共存するイオンがある場合、共存イオンの種類及び共存イオンの濃度が影響することを意味している。
また、未知試料のpH測定は、イオン半径の大きいK+を過剰に含む系でBDD−M電極を用いて測定すればよいことを意味している。
【0037】
(実施例4:未知試料のpH測定)
そこで、飽和KCl溶液:未知試料を1:5(容量比)で混合した場合の、pHと、対極及び参照極間の電圧との関係を調べた。測定には、−1μAの電流を20秒間流した。
図14は、その結果を示す図である。
図14から明らかなように、飽和KCl溶液の測定系で、BDD−M電極を用いてCP法に測定による、未知試料のpHの測定が可能であることがわかる。
【技術分野】
【0001】
本発明は、pHの測定方法及び装置に関し、特に、ホウ素ドープダイヤモンド電極を用いたpHの測定方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、pH測定方法としては、指示薬を用いる方法、pH試験紙を用いる方法、水素電極、キンヒドロン電極、アンチモン電極などの金属電極による方法、及びガラス電極を用いる方法等が知られている。中でも、ガラス電極を用いる方法は、安価で測定が簡便であるため、最も広く用いられている方法であり、内部にpHが一定の緩衝溶液が封入されたガラス電極を用い、ガラス膜の内部および測定溶液に接触する外部にそれぞれ水素イオンが吸着し電位差を生ずることを用いる方法で、ガラス電極と参照電極との電位差をpHに換算するものである。
しかしながら、ガラス電極を用いる方法は、いくつかの問題がある。例えば、アルカリ溶液又はフッ化水素溶液中、或いは100℃以上の高温溶液中では不安定である。また、応答が遅く、ガラスの面積が応答性に影響することから小型化が困難である。特に、ガラスが有する硬さから、血液中や生体内(in vivo)での測定に適用するには課題がある。
【0003】
また、ガラス電極に限らず、電極を用いるpHの測定方法は、いわゆるpH測定領域を超えた領域では、酸誤差あるいはアルカリ誤差といわれるように、ネルンスト式の直線から大幅にずれるので、強酸あるいは強アルカリ水溶液中では使用できないという問題もある。
【0004】
こうした電極を用いる方法の課題を解決するpHの測定法として、ISFET(Ion Sensitive Field Effect Transistor)センサを用いる方法が知られている。ISFETは、MOSFET(Metal Oxide Semiconductor)の金属膜に該当する部分に、イオン感応膜を配置したものであり、溶液に参照電極から所定の電位を印加した状態で、イオン感応膜で溶液中の水素イオンを検出し、水素イオンの量をFETの電流に変換する方法である(特許文献1等)。
このセンサは、ガラス電極を用いないために、割れる心配がなく、KCl等の保存液を必要とせず、面積の応答性への影響などの制約がなく、半導体技術で小型化ができ、ゲート部分被覆によって様々なイオンの検出が可能である、等の利点を有する。しかしながら、デバイスの作製に手間がかかる等の問題がある。
【0005】
一方、ホウ素をドープした導電性ダイヤモンド(BDD)電極を、種々の生化学種や環境汚染物資の電気化学的検出に用いることが提案されている。このダイヤモンド電極は、グラッシーカーボン(GC)電極、白金電極、金電極等の従来の電極とは異なる優れた性質を有していることから多くの注目が寄せられているものであり、特に、高い熱伝導率、高い硬度、および高い化学的不活性等のダイヤモンドの良く知られた特性に加えて、導電性ダイヤモンドの注目すべき特徴として、液体中及び固体中での広い電位窓、低い電気容量、優れた電気化学的安定性、及び優れた生体適合性などが知られている(特許文献2)。
本発明者等も、BDD電極を用いて、ストリッピングボルタンメトリ法により、被測定電解質中に電解質として溶解している元素を電気化学的に分析する方法を報告している(特許文献3)。
【0006】
このダイヤモンド電極をマイクロサイズで作製することが可能になれば、in vivo測定をはじめ、センサーの小型化、高感度化も期待できるため、実用に供する電極形態として注目されている。本発明者らは、タングステンワイヤ上にダイヤモンドを堆積させることにより、ダイヤモンドマイクロ電極を作製することを試み、実際に脳内での測定が可能であるサイズ(直径5μm)の電極作製に成功し、マウス脳内のドーパミンのin vivo測定にこのBDDマイクロ電極を用いた(非特許文献1)。
【0007】
さらに、本発明者等は、このBDD電極が有している、電位窓が広く、バックグラウンド電流が小さく、高い化学的耐性を有するため、苛酷な条件下でも電気化学的分析を行うことができるという利点を、電気化学的検出法に用いるだけでなく、pH測定にも応用することを検討し、報告している(非特許文献2)。すなわち、前述のGC電極、白金電極、金電極等の従来の電極ではpH測定域(2〜12)を超えた領域では正確な測定ができないという問題は、それらの電位窓が小さいことによるものであり、該課題を広い電位窓を有するBDD電極を用いることにより解決するものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平8−94577号公報
【特許文献2】特開平11−83799号公報
【特許文献3】特許第4215132号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】A. Suzuki, Tribidasari A. Ivandini, K. Yoshimi, A. Fujishima,G.Oyama, T. Nakazato, N. Hattori, S. Kitazawa, Y.Einaga/ Anal. Chem.2007, 79,8608-8615, Fabrication, Characterization, and Application of Boron-DopedDiamond Microelectrodes for in Vivo Dopamine Detection.
【非特許文献2】N. Mitani, A. Einaga/ Jounal of Electroanalytical Chemistry 626(2009) 156-160, The simple voltammetric analysis of acids using highly boron-dopeddiamond macroelectrodes and microelectrodes.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
図15は、従来の電極とBDD電極の電位窓の幅を比較する図である。
図16は、非特許文献2に記載の方法で、すなわち、LSV法により、HCl溶液を用いて行ったpH測定の結果を示す図であり、横軸は、対極と参照電極の電位を示し、縦軸は発生した電流値を示している。なお、作用電極にBDD、対極に白金(Pt)、参照電極にAg/AgClを用いている。
該図から明らかなように、酸性領域では、pH値の違いにより、明らかな電流値の差が生じ、pH測定は可能であることがわかる。
しかしながら、アルカリ領域では同様な結果が得られないために、この方法では、酸性溶液のpH測定にしか用いることができないという問題がある。
【0011】
本発明は、以上のような事情に鑑みてなされたものであって、BDD電極を用いたpH測定方法において、酸性領域のみならずアルカリ性領域においても測定可能な方法を提供すること目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者が、上記目的を達成すべく検討したところ、作用極にホウ素ドープ導電性ダイヤモンド(BDD)電極を使用し、クロノポテンシオメトリー法(以下、「CP法」ということもある。)を適用して水素発生電位から被測定試料溶液のpH(水素イオン濃度)を測定することにより、広範囲な測定が可能となることが判明した。また、更に検討した結果、作用極にBDD−M電極を用いた場合には、緩衝液の緩衝能の影響を受けずにpHの測定が可能になることを見いだした。さらに検討を重ねたところ、カリウムの飽和溶液を用いることにより、共存イオンの影響を考慮せずに、pHの測定が可能であるという知見を得た。
【0013】
本発明は、これらの知見に基づいて完成されたものであり、以下の発明を提供するものである。
[1] 少なくとも、ホウ素ドープダイヤモンド電極からなる作用極、対極及び参照極を用意し、前記作用極と前記対電極と前記参照極を被測定試料に接触させ、前記作用極と前記対極との間に一定の電流を流し、所定時間経過後における前記作用極と前記参照極間の電圧値を測定し、得られた電圧値から前記試料中のpHを算出することを含んでなる、pH測定方法。
[2] 前記ホウ素ドープダイヤモンド電極からなる作用極が、マイクロ電極であることを特徴とする上記[1]のpH測定方法。
[3] 緩衝液を用いないことを特徴とする上記[2]のpH測定方法。
[4] 飽和塩化カリウム溶液を含む系でおこなうことを特徴とする上記[2]のpH測定方法。
[5] 被測定試料を収納する容器と、
該被測定試料と接触するように配置された、ホウ素ドープダイヤモンド電極からなる作用極、対極及び参照極と、
前記作用極と前記対極との間に一定の電流を流す手段、
一定電流を流してから所定時間経過後における前記作用極と前記参照極間の電圧値を測定する手段、及び
該電圧値から前記試料中のpH値を算出する手段
を少なくとも有するpH測定装置。
[6] 前記ホウ素ドープダイヤモンド電極からなる作用極が、マイクロ電極であることを特徴とする上記[5]のpH測定装置。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、強酸水溶液から強アルカリ水溶液までの、広範囲な領域におけるpHの測定が可能となる。特に、作用極にBDD−M電極を用いることにより、緩衝液の緩衝能の影響を受けずにpHの測定が可能になる。さらに、カリウムの飽和溶液を用いることにより、共存イオンの影響を考慮せずに、pHの測定が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】マイクロ波プラズマCVD法によりBDD電極を製造するための装置を模式的に示す図。
【図2】マイクロ波プラズマCVD法によりBDD−M電極を製造する方法を模式的に示す図。
【図3】本発明において製造したBDD−M電極の図。
【図4】作用極にBDD平板電極を用いたpHの測定用の実験装置を模式的に示す図。
【図5】作用極にBDD−M電極を用いたpHの測定用の実験装置を模式的に示す図。
【図6】本発明のBDD−M電極を用いたpH測定装置の一態様を示す図。
【図7】本発明のBDD電極のSEM写真。
【図8】本発明のBDD−M電極のSEM写真。
【図9(a)】一定電流を流した場合のBDD電極と参照電極間の電位の時間経過による変化を表す図。
【図9(b)】図9(a)の10秒におけるpHと電位の関係を示す図。
【図10(a)】一定電流を流した場合のグラッシーカーボン(GC)電極と参照電極間の電位の時間経過による変化を表す図。
【図10(b)】図10(a)の10秒におけるpHと電位の関係を示す図。
【図11】BDD平板電極を用いた場合の10秒におけるpHと電位の関係を示す図。
【図12】BDD−M電極を用いた場合の10秒におけるpHと電位の関係を示す図。
【図13】CP法によるpH測定における共存イオンの影響を示す図。
【図14】飽和KCl:未知試料を1:5で混合した場合の、pHと、対極及び参照極間の電圧との関係を示す図。
【図15】従来の電極とBDD電極の電位窓の幅を比較する図。
【図16】BDD電極を用いてLSV法により、HCl溶液を用いて行ったpH測定の結果を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明は、作用極にホウ素ドープ導電性ダイヤモンド(以下、「BDD」ということもある。)電極を使用し、クロノポテンシオメトリー法(以下、「CP法」ということもある。)により電解液中のpH(水素イオン濃度)を測定することを特徴としている。すなわち、BDD電極からなる作用極、対極、及び参照極が、測定対象である被測定試料に接触するように配置し、作用極と対局間に一定の電流を流して定電流電解を行い、所定時間経過後の作用極と参照極間における電位を測定し、得られた電位から被測定試料中のpH値を算出することを基本的な構成としている。
そして、本発明の上記特徴は、pH測定にCP法を適用する場合、作用極としてホウ素ドープ導電性ダイヤモンド電極を用いることにより、他の材料からなる従来の電極を用いた場合には得られない安定したpHの測定が可能であることを見いだしたことによるものである。
【0017】
すなわち、後に記載する実施例から明らかなように、BDD電極からなる作用極、対極、及び参照極を被測定試料に接触するように配置して、CP法を適用した場合、作用極にBDD電極を用いる限り、経過時間に影響を受けずに、参照極との間に一定の安定した電位が得られるが、例えば、電気化学分析用として代表的な電極である、グラッシーカーボン電極を用いると、参照極との間に一定の安定した電位を得ることができない。
【0018】
また、本発明のもう1つの発明は、作用極にBDDマイクロ(以下、「BDD−M」ということもある。)電極を用いることにより、pH緩衝能の影響を受けない測定が可能であることを見いだしたことによるものである。
すなわち、通常、本発明のpHの測定においても、pH緩衝液(buffer solution)が用いられるが、BDDの平板電極を用いた測定では、緩衝液の緩衝能の影響をうけるが、BDD−M電極を用いた測定では、緩衝能の影響を受けない。
【0019】
本発明のさらにもう1つ発明は、複数のイオンが共存する系において、カリウムイオンが飽和状態の系において、作用極にBDD−M電極を用いて測定することにより、未知の試料中のpHを測定することができることを見いだしたことによるものである。
【0020】
本発明に用いるBDD電極は、ダイヤモンドにホウ素をドープしてダイヤモンドを導電性としたものであるが、ホウ素ドープダイヤモンドの製造方法自体は公知である。
例えば、図1に示すマイクロ波プラズマCVD法により、以下のようにして製造される。
反応室内の試料台に、シリコンプレートなどの基板を設置し、ここに水素を一定量、キャリアガスとして流す。このキャリアガスの一部はバブリング用として、反応室に到達する前に、炭素源及びホウ素源を溶液させた溶液中を通過させ、炭素、ホウ素を含ませる。この状態で反応室内にマイクロ波を一定条件で与えて、プラズマ放電を起こさせると、キャリアガス中の炭素源から炭素ラジカルが生成し、基板上に堆積してダイヤモンドの薄膜が形成される。
【0021】
図2は、BDD−M電極の製造装置の概略図方法及び製造された電極の写真である。
図2に示すとおり、BDD−M電極は、図1と同様の装置を用いて、タングステンワイヤ上にダイヤモンドを堆積させたものであり、直径が5μm程度の大きさのものである。
図3は、この電極を用いて製造した作用極の写真である。
【0022】
図4は、本発明において、作用極にBDD平板電極を用いたpHの測定用の実験装置を模式的に示す図であり、測定対象となる電解質溶液中に、対極及び参照極を配置し、電解質溶液に接触するように容器の底面に作用極を配置したものであり、作用極と対極間に一定の電流を流すことにより定電流電解を行いながら、作用極の電極電位を測定する手段を有している。
【0023】
図5は、本発明において、作用極にBDD−M電極を用いたpHの測定用の実験装置を模式的に示す図であり、測定対象となる電解質溶液に接触するように、BDD−M電極からなる作用極、対極、及び参照極を配置し、作用極と対極間に一定の電流を流すことにより定電流電解を行い、一定時間経過後の作用極と参照極の間の電極電位を測定する手段、を有している。
【0024】
図6は、本発明のBDD−M電極を用いたpH測定装置の一態様を示すものである。
測定対象となる電解質溶液中に、BDD−M電極からなる作用極、対極、及び参照極を配置し、作用極と対極間に一定の電流を流すことにより定電流電解を行い、一定時間経過後の作用極と参照極の間の電極電位を測定する手段、を有している。
【0025】
本発明において、参照極に使用される材料は、電位を安定にするものならば何を用いても良いが、好ましくは、例えば可逆水素電極、銀・塩化銀電極、飽和カロメル電極等が用いられる。また、対極には、白金、グラッシーカーボン、ダイヤモンド等、高耐食性の材料が通常用いられる。
これらの各電極は、ポテンシオスタット、乾電池、直流電源等の装置により、一定電流を流すことができるように構成されている。
【0026】
緩衝液とは、少量のH+イオンあるいはOH−イオンを加えたときに、被測定試料溶液のpHが大きく変化することに抵抗するような物質の混合溶液であるが、本発明においては、通常の衝液をそのまま用いることができ、具体的には、リン酸緩衝液(Phosphate buffer)、酢酸緩衝液(Acetate buffer)、ブリットンロビンソン広域緩衝液(Britton Robinson buffer)、ミラーゴールダー等イオン強度緩衝液(Millor
Golder buffer)等を用いることができる。
【実施例】
【0027】
以下、本発明について、実施例及び比較例を用いて説明するが、本発明は、これらに限定されるものではない。
【0028】
〈試料〉
実施例及び比較例においては、以下の試料を用いた。
(1)緩衝液
ブリットンロビンソン広域緩衝液(BRB)(H3PO4:CH3COOH:HNO3=1:1:1)を用いた。
を用いた。
(2)被測定溶液
・CP法のとき
酸性の上記緩衝液BRBにNaOH又はKOHにてpHを調整した。
・LSV法のとき
KCl溶液にHClにてpHを調整した。
(3)被測定試料のpH測定
用いた被測定試料のpHは、ガラス電極を用いて測定した。
【0029】
〈BDD平板電極の製造〉
BDD電極は、図1の概要図に示す成膜装置として、ASTeX社製のマイクロ波CVD成膜装置を用い、以下に示すようにマイクロ波プラズマアシストCVD法により作製した。
まず、前記導電性基板としてシリコン基板(Si(100))を用い、そのシリコン基板表面をテクスチャー処理(例えば、0.5μmのダイヤモンド粉により研磨)した後、前記シリコン基板を成膜装置のホルダーに固定した。成膜用ソースとしては、トリメトシキボランとアセトンの混合物(液体の混合比(体積)4:50を用い、B/C比で10,000ppmとなる量を溶解したもの)を用いた。
そして、前記成膜用ソースは、その成膜用ソースに対しキャリアガスとして純H2ガスを通してからチャンバー内に導入した。前記チャンバー内は、予め別ラインから水素を流量300sscmで流すことにより、120Torrとなるように調整した。その後、前記チャンバー内にて、2.45GHzのマイクロ波電力により放電させ、その電力が5kWとなるように調整した。
前記電力が安定した後、前記成膜用ソースにキャリアガスとして純H2ガスを流し、成膜速度1〜4μm/hで成膜を行った。そして、反応時間約8hで厚さ約15μmの膜(電極面積が1cm2未満)から成る導電性ダイヤモンド電極を得た。基板の温度は定常状態で約850〜950℃であった。
得られたBDD電極をSEMを用いて観察した。図7はそのSEM写真である。
【0030】
〈BDD−M電極の製造〉
図2の概要図に示すように、タングステンワイヤを用い、圧力を60Torr、電力を2.5kW、成膜時間を3hとした以外は、前述と同様な条件にて作製した。
得られたBDD−M電極を、SEMを用いて観察した。図8は、そのSEM写真である。
【0031】
〈装置〉
図4及び図5に示す装置を用いた。
対極としてはPt電極、参照極としては、[Ag/AgCl]電極を用いた。
【0032】
(実施例1:BDD電極とGC電極の比較)
CP法による水素発生電位について、BDD電極を用いた場合と、市販のグラッシーカーボン(GC)電極(東海カーボン社製)を用いた場合とを比較した。
緩衝液には、0.1MBRBを使用し、−1μAの電流を20秒間流した。
図9は、BDD電極を用いた場合を示すものであり、(a)図は、一定電流を流した場合のBDD電極と参照電極間の電位の時間経過による変化を表したものであり、(b)図は、(a)図の10秒におけるpHと電位の関係を示すものである。
図10は、グラッシーカーボン(GC)電極を用いた場合を示すものであり、(a)図は、一定電流を流した場合のグラッシーカーボン(GC)電極と参照電極間の電位の時間経過による変化を表したものであり、(b)図は、(a)図の10秒におけるpHと電位の関係を示すものである。
【0033】
図9及び図10から明らかなように、BDD電極を用いた場合には、作用電極と参照電極間の電位は、時間が経緯しても安定しており、pHと電位の間に明瞭な相関関係が得られるが、グラッシーカーボン(GC)電極を用いた場合には、作用電極と参照電極間の電位は、時間の経緯途とも変化し不安定であり、pHと電位の間に明瞭な関係が得られないことがわかる。
このことから、本発明において、BDD電極を用いることと、CP法を採用することに、密接な技術的意義があることが理解される。
【0034】
(実施例2:緩衝能の影響について)
BDD平板電極を用いた場合とBDD−M電極を用いた場合のそれぞれについて、緩衝能の影響を0.01MBRBとO.1MBRBとを用いて調べた。
電流は−1μAの電流を20秒間流した。
図11は、BDD平板電極を用いた場合の10秒におけるpHと電位の関係を示すものであり、図12は、BDD−M電極を用いた場合の10秒におけるpHと電位の関係を示すものである。
【0035】
図11から明らかなように、BDD平板電極を用いた場合、O.1MBRBを用いた場合には、高い緩衝能が得られるが、0.01MBRBを用いた場合には、緩衝能が低いことがわかる。
一方、図12のBDD−M電極を用いた場合、O.1MBRBを用いても、或いは、0.01MBRBを用いても、同様に高い緩衝能が得られることがわかる。
このことから、MDD−M電極によるpH測定は、用いる緩衝液が影響しないことが明らかであり、支持電解質を用いずとも測定が可能であることを示している。
【0036】
(実施例3:共存イオンの影響について)
共存イオンの影響を調べるために、0.1M BRB・0.01M BRB Na+、0.1M BRB・0.01MBRB K+、及び0.1M BRB・1MBRB K+の3種の試料溶液を調製し、作用極にBDD−M電極を用いて、CP法を適用して、pHを測定した。測定には、−1μAの電流を20秒間流した。
図13は、その結果を示すものであり、縦軸が電圧、横軸がpH値である。
図から明らかなように、三種の試料間で、傾きに差があることが分かる。また、K+は、イオン半径が大きいことが分かる。
このことは、被測定試料中に共存するイオンがある場合、共存イオンの種類及び共存イオンの濃度が影響することを意味している。
また、未知試料のpH測定は、イオン半径の大きいK+を過剰に含む系でBDD−M電極を用いて測定すればよいことを意味している。
【0037】
(実施例4:未知試料のpH測定)
そこで、飽和KCl溶液:未知試料を1:5(容量比)で混合した場合の、pHと、対極及び参照極間の電圧との関係を調べた。測定には、−1μAの電流を20秒間流した。
図14は、その結果を示す図である。
図14から明らかなように、飽和KCl溶液の測定系で、BDD−M電極を用いてCP法に測定による、未知試料のpHの測定が可能であることがわかる。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも、ホウ素ドープダイヤモンド電極からなる作用極、対極及び参照極を用意し、前記作用極と前記対電極と前記参照極を被測定試料に接触させ、前記作用極と前記対極との間に一定の電流を流し、所定時間経過後における前記作用極と前記参照極間の電圧値を測定し、得られた電圧値から前記試料中のpHを算出することを含んでなる、pH測定方法。
【請求項2】
前記ホウ素ドープダイヤモンド電極からなる作用極が、マイクロ電極であることを特徴とする請求項1に記載のpH測定方法。
【請求項3】
緩衝液を用いないことを特徴とする請求項2に記載のpH測定方法。
【請求項4】
飽和塩化カリウム溶液を含む系でおこなうことを特徴とする請求項2に記載のpH測定方法。
【請求項5】
被測定試料を収納する容器と、
該被測定試料と接触するように配置された、ホウ素ドープダイヤモンド電極からなる作用極、対極及び参照極と、
前記作用極と前記対極との間に一定の電流を流す手段、
一定電流を流してから所定時間経過後における前記作用極と前記参照極間の電圧値を測定する手段、及び
該電圧値から前記試料中のpH値を算出する手段
を少なくとも有するpH測定装置。
【請求項6】
前記ホウ素ドープダイヤモンド電極からなる作用極が、マイクロ電極であることを特徴とする請求項5に記載のpH測定装置。
【請求項1】
少なくとも、ホウ素ドープダイヤモンド電極からなる作用極、対極及び参照極を用意し、前記作用極と前記対電極と前記参照極を被測定試料に接触させ、前記作用極と前記対極との間に一定の電流を流し、所定時間経過後における前記作用極と前記参照極間の電圧値を測定し、得られた電圧値から前記試料中のpHを算出することを含んでなる、pH測定方法。
【請求項2】
前記ホウ素ドープダイヤモンド電極からなる作用極が、マイクロ電極であることを特徴とする請求項1に記載のpH測定方法。
【請求項3】
緩衝液を用いないことを特徴とする請求項2に記載のpH測定方法。
【請求項4】
飽和塩化カリウム溶液を含む系でおこなうことを特徴とする請求項2に記載のpH測定方法。
【請求項5】
被測定試料を収納する容器と、
該被測定試料と接触するように配置された、ホウ素ドープダイヤモンド電極からなる作用極、対極及び参照極と、
前記作用極と前記対極との間に一定の電流を流す手段、
一定電流を流してから所定時間経過後における前記作用極と前記参照極間の電圧値を測定する手段、及び
該電圧値から前記試料中のpH値を算出する手段
を少なくとも有するpH測定装置。
【請求項6】
前記ホウ素ドープダイヤモンド電極からなる作用極が、マイクロ電極であることを特徴とする請求項5に記載のpH測定装置。
【図9(a)】
【図9(b)】
【図10(a)】
【図10(b)】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図16】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図15】
【図9(b)】
【図10(a)】
【図10(b)】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図16】
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図15】
【公開番号】特開2011−174822(P2011−174822A)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−39407(P2010−39407)
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
【公開日】平成23年9月8日(2011.9.8)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年2月24日(2010.2.24)
【出願人】(899000079)学校法人慶應義塾 (742)
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