説明

ホスホン酸ポリマー及びその製造方法

【課題】ホスホン酸ポリマー、その製造方法及びその用途に関し、プロトン伝導率の良好なリン酸基含有ポリマー及びその製造方法を提供する。
【解決手段】ポリ(メタ)アクリルアミドの窒素原子に結合した芳香環と、前記芳香環に導入された複数のリン酸基と、を備えるリン酸基含有ポリ(メタ)アクリルアミド系化合物であることを特徴とするホスホン酸ポリマー。下記式(1)で表されるリン酸基含有ポリ(メタ)アクリルアミド系化合物であることが好ましい。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、ホスホン酸ポリマー及びその製造方法に関し、より詳細には、ポリ(メタ)アクリルアミドの窒素原子に結合した芳香環にリン酸基が導入されたリン酸基含有ポリマー及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ナフィオン(登録商標)に代表されるパーフルオロスルホン酸系のポリマーは、燃料電池用電解質膜として広く用いられている。しかしながら、パーフルオロスルホン酸系のポリマーは非常に高価であるため、これに代わる材料に関し、種々の提案がなされているところである。
【0003】
例えば、特許文献1には、一般式HC=CR´COO(CHCHR´O)PO(OH)(R´はHまたはCH、R´はH、CHまたはCHCl、nは1〜10の整数)で表されるリン酸基含有(メタ)アクリル酸エステルモノマー(モノマー(A))(なお、本発明において、「(メタ)アクリル」とは、アクリル及びメタクリルを意味する。以下同じ。)と、α−メチルスチレンホスホン酸、スチレンホスホン酸、α−メチルスチレンアルキルホスホン酸及びスチレンアルキルホスホン酸から選択される一種類以上のリン酸基含有スチレン系モノマー(モノマー(B))の共重合体が開示されている。この共重合体は、上記モノマー(A)と、上記モノマー(B)とを溶液中でラジカル重合して得られたものであり、その実施例において、上記共重合体の電解質膜が、温度50℃、湿度90%の測定条件下において、10−3S/m程度のプロトン伝導率を示したことが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2006−49003号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
一方、上記特許文献1の比較例に開示されているように、上記モノマー(A)を単独重合して得られたリン酸基含有ポリ(メタ)アクリル酸エステルは、温度50℃、湿度90%の測定条件下において、10−4S/m程度のプロトン伝導率を示したことが開示されている。このことから、上記モノマー(A)と上記モノマー(B)との共重合体構造とすることで、リン酸基当たりの質量、即ちEW(equivalent weight)を小さくすることができたため、プロトン伝導率を向上できたものと推測できる。しかしながら、プロトン伝導率の更なる向上を目的とした場合、上記特許文献1の共重合体構造は依然として不十分であり、従って、リン酸基含有ポリマーの構造レベルで更なる改良を行う余地があった。
【0006】
この発明は、上述の課題を解決するためになされたもので、プロトン伝導率の良好なリン酸基含有ポリマー及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
第1の発明は、上記の目的を達成するため、ホスホン酸ポリマーであって、
ポリ(メタ)アクリルアミドの窒素原子に結合した芳香環と、
前記芳香環に導入された複数のリン酸基と、
を備えるリン酸基含有ポリ(メタ)アクリルアミド系化合物であることを特徴とする。
【0008】
また、第2の発明は、第1の発明において、
前記リン酸基含有ポリ(メタ)アクリルアミド系化合物が、下記式(1)で表されるモノマー単位を備える化合物であることを特徴とする。
【0009】
【化1】

(式(1)中、Rは水素原子またはメチル基を表す。)
【0010】
また、第3の発明は、第1または第2の発明のホスホン酸ポリマーの製造方法であって、
触媒の存在下、芳香環に複数のブロモ基が導入されたアニリンと、一般式HP(O)(OR(Rは炭素数1〜3のアルキル基を表す。以下同じ。)で表される亜リン酸アルキルエステルと、をカップリング反応させて、前記芳香環に複数のリン酸アルキルエステル基が導入されたアニリン化合物を得る工程と、
前記アニリン化合物に、(メタ)アクリルハライド化合物または無水(メタ)アクリルハライド化合物からなるアミド化剤を反応させて、前記芳香環に複数のリン酸エステル基が導入された(メタ)アクリルアミド系化合物を得る工程と、
前記(メタ)アクリルアミド系化合物を付加重合して、前記芳香環に複数のリン酸エステル基が導入されたポリ(メタ)アクリルアミド系化合物を得る工程と、
前記ポリ(メタ)アクリルアミド系化合物のエステル部位を加水分解する工程と、
を備えることを特徴とする。
【0011】
また、第4の発明は、第3の発明において、
前記アニリンが下記式(2)で表されるジブロモアニリンであり、前記アニリン化合物が、下記式(3)で表される化合物であり、前記(メタ)アクリルアミド系化合物が、下記式(4)で表される化合物であり、前記ポリ(メタ)アクリルアミド系化合物が、下記式(5)で表される化合物であることを特徴とする。
【0012】
【化2】

(式(4)及び(5)中、Rは水素原子またはメチル基を表す。)
【発明の効果】
【0013】
第1〜4の発明によれば、プロトン伝導率の良好なリン酸基含有ポリマー及びその製造方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】合成例1で得られた化合物(A)のH−NMRスペクトルである。
【図2】合成例1で得られた化合物(B)のH−NMRスペクトルである。
【図3】合成例1で得られた化合物(C)のH−NMRスペクトルである。
【図4】合成例1で得られた化合物(D)のH−NMRスペクトルである。
【図5】実施例1及び比較例1の試料のそれぞれ対し、湿度を変化させながら測定したプロトン伝導率のグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のホスホン酸ポリマー及びその製造方法について説明する。
【0016】
[ホスホン酸ポリマーの構造]
本発明のホスホン酸ポリマーは、ポリ(メタ)アクリルアミドの窒素原子に結合した芳香環と、この芳香環に導入された複数のリン酸基と、を備えるリン酸基含有ポリ(メタ)アクリルアミド系化合物であることを特徴とする。
【0017】
ポリ(メタ)アクリルアミドの窒素原子に結合した芳香環に導入されたリン酸基の数については、リン酸基数が多数であると、リン酸基当たりの質量EW(equivalent weight)を小さくすることができる。その一方で、リン酸基数が多過ぎると水を吸収し易くなるので化合物としての取り扱いが困難となる。そのため、リン酸基の数は、1つの芳香環当たり2〜4であり、2または3であることが好ましい。
【0018】
次に、本発明のホスホン酸ポリマーとして好適なリン酸基含有ポリ(メタ)アクリルアミド系化合物を下記式(1)に示す。
【0019】
【化3】

(式(1)中、Rは水素原子またはメチル基を表す。)
【0020】
上記式(1)に示すリン酸基含有ポリ(メタ)アクリルアミド系化合物は、その芳香環にリン酸基が2つ導入されているので、EWを小さく(酸部位を高密度に)することができる。従って、その詳細は実施例で後述するが、高いプロトン伝導率を示すことができる。また、化合物としての取り扱いが容易であるので、燃料電池用電解質膜等の原料として好適に用いることができる。
【0021】
[ホスホン酸ポリマーの製造方法]
次に、本発明のホスホン酸ポリマーの製造方法を、上記式(1)のリン酸基含有ポリ(メタ)アクリルアミド系化合物の製造方法を具体例として説明する。上記式(1)のリン酸基含有ポリ(メタ)アクリルアミド系化合物は、下記式(2)に示すアニリンの臭素置換体を出発物質とする。なお、上記式(1)のリン酸基含有ポリ(メタ)アクリルアミド系化合物にはリン酸基が2つ導入されているが、本発明のホスホン酸ポリマーにおいて、リン酸基の導入数を増やす場合には、所望導入数のブロモ基が芳香環に導入されたものを出発物質として用いればよい。
【0022】
【化4】

【0023】
(アニリン化合物生成工程)
本工程は、触媒の存在下、上記式(2)の出発物質と、一般式HP(O)(OR(Rは炭素数1〜3のアルキル基を表す。以下同じ。)で表される亜リン酸アルキルエステルと、をカップリング反応させて下記式(3)で表われるアニリン化合物を得る工程である。
【0024】
【化5】

【0025】
本工程においては、触媒として、パラジウム化合物と、アリールホスフィンとからなる触媒を用いることが好ましい。パラジウム化合物と、アリールホスフィンとからなる触媒を用いることで、アニリンの芳香環に導入された複数のブロモ基をリン酸アルキルエステル基(−P(O)(OR)に置換することができる。
【0026】
触媒成分としてのパラジウム化合物としては、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(Pd(PPh)、酢酸パラジウム(Pd(OAc))等を用いることができる。パラジウム化合物の使用量は、上記式(2)の出発物質の臭素原子1モルに対し、パラジウム換算で通常0.0001〜20mol%の範囲であればよく、好ましくは0.001〜10mol%の範囲であればよい。
【0027】
触媒成分としてのアリールホスフィンとしては、トリフェニルホスフィン、トリ(o−トリル)ホスフィン、トリ(m−トリル)ホスフィン、トリ(p−トリル)ホスフィン、トリメシチルホスフィン等を用いることができる。アリールホスフィンの使用量は、パラジウム化合物に対して通常0.01〜10000倍モルの範囲であればよく、好ましくはパラジウム化合物に対して0.1〜15倍モルの範囲であればよい。
【0028】
また、パラジウム系触媒存在下での上記式(2)の出発物質と、上記亜リン酸アルキルエステルとのカップリング反応は、溶媒中で行うことが好ましい。溶媒としては、反応物質に対して不活性であればどのような溶媒でもよいが、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコール系溶剤を用いることが好ましい。
【0029】
また、上記式(2)の出発物質と、上記亜リン酸アルキルエステルとのカップリング反応は、塩基を用いることが好ましい。塩基としては、反応物質と反応することなく、上記式(2)の出発物質よりも塩基性が強いものであればどのような塩基でもよいが、第三級脂肪族アミンであることが好ましく、トリエチルアミンであることがより好ましい。
【0030】
上記カップリング反応における反応温度は、特に制限はないが、−20〜60℃で反応を行うことが好ましい。また、カップリング反応時に生じる発熱の影響を防ぐため、反応容器に氷浴や恒温漕等の温度調整手段を設けておくことが好ましい。
【0031】
((メタ)アクリルアミド系化合物生成工程)
本工程は、上記アニリン化合物生成工程で得た上記式(3)のアニリン化合物に、(メタ)アクリルハライド化合物または無水(メタ)アクリルハライド化合物からなるアミド化剤を反応させて、下記式(4)で表われる(メタ)アクリルアミド系化合物を得る工程である。
【0032】
【化6】

(式(4)中、Rは水素原子またはメチル基を表す。)
【0033】
本工程においては、(メタ)アクリルハライド化合物として、(メタ)アクリル酸クロライドを用いることが好ましい。また、無水(メタ)アクリル酸化合物として、無水(メタ)アクリル酸や、アクリル酸とメタクリル酸の混合酸無水物、(メタ)アクリル酸と他の酸の混合酸無水物等を用いることが好ましい。これらのアミド化剤のうち、入手容易性の観点から、アクリル酸クロライドを用いることがより好ましい。
【0034】
本工程において、上記式(3)のアニリン化合物とアミド化剤とのモル混合比は、上記式(3)のアニリン化合物:アミド化剤=1:1〜1:10であることが好ましく、1:1〜1:10であることがより好ましい。
【0035】
(付加重合工程)
本工程は、上記(メタ)アクリルアミド系化合物生成工程で得た上記式(4)の(メタ)アクリルアミド系化合物を付加重合して、下記式(5)で表されるポリ(メタ)アクリルアミド系化合物を得る工程である。
【0036】
【化7】

(式(5)中、Rは水素原子またはメチル基を表す。)
【0037】
上記式(5)のポリ(メタ)アクリルアミド系化合物は、公知の方法で常法に従って重合させることで得られる。公知の重合法としては、例えば、上記式(4)の(メタ)アクリルアミド系化合物をテトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、クロロホルム、トルエンといった適当な溶媒中に溶解させて、ラジカル重合開始剤を添加して約50℃〜220℃で重合させるラジカル重合法を利用できる。
【0038】
ラジカル重合法に用いるラジカル重合開始剤としては、2,2’−アゾビス(イソブチロニトリル)(AIBN)、2,2’−アゾビス−(2,4’−ジメチルバレロニトリル)、2,2’−アゾビスイソ酪酸ジメチルのようなアゾ化合物、ベンゾイルパーオキシドのような過酸化物、及び過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウムのような過硫酸塩などが利用できる。これらは単独で用いてもよいし、2種類以上組み合わせてもよい。
【0039】
(加水分解工程)
本工程は、上記式(5)のポリ(メタ)アクリルアミド系化合物のエステル部位を加水分解する工程である。本工程を経ることで、上記式(1)のリン酸基含有ポリ(メタ)アクリルアミド系化合物が製造できる。
【0040】
加水分解は、トリメチルシリルクロリド、トリエチルシリルクロリド、t−ブチルジメチルシリルクロリド、トリメチルシリルブロミド、トリメチルシリルヨージド等のトリアルキルシリルハロゲン化物等の試薬を用い、クロロメタン、1,2−ジクロロエタン等のハロゲン系溶媒中、0℃から室温で反応させる方法を用いることができる。
【0041】
トリアルキルシリルハロゲン化物の使用量は、上記式(4)の(メタ)アクリルアミド系化合物に対するモル割合として、トリアルキルシリルハロゲン化物:(メタ)アクリルアミド系化合物=1:1〜10:1であることが好ましく、1:1〜5:1であることがより好ましい。
【0042】
以上、本発明のホスホン酸ポリマーの製造方法によれば、ポリ(メタ)アクリルアミドの窒素原子に結合した芳香環に、リン酸基を多数導入することができる。また、本発明のホスホン酸ポリマーの製造方法よれば、上記芳香環に多数のリン酸基を簡便かつ安価に導入することができる。従って、製造コストの低減を図ることができる。
【実施例】
【0043】
以下、実施例に基づいて本発明をより具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0044】
[合成例1]
【化8】

<2,4−ビス(ジエチルオキシホスホノイル)アニリン(DPA)(化合物(A))の合成>
撹拌子を入れた200ml二口ナス型フラスコに、2,4−ジブロモアニリン5.0184g(20mmol)、酢酸パラジウム0.4490g、トリフェニルホスフィン1.5737g(6.0mmol)を入れ、窒素置換を行った。続いて、エタノール120mlを入れ、亜リン酸ジエチル12.4ml(96mmol)、ジシクロヘキシルメチルアミン12.7ml(60mmol)を入れ、冷却管を取り付けて、窒素雰囲気下、95℃で48時間撹拌させた。反応終了後、室温にし、溶媒を留去後、残留物を塩化メチレンに溶かし、抽出を行った。2M塩酸水溶液で4回、水1階で洗浄し、無水硫酸マグネシウムで脱水を行った。その後、溶媒を留去し、粗生成物を得た。カラムクロマトグラフィー(酢酸エチル:ヘキサン=50:1)により精製を行い、溶媒を留去、減圧乾燥し、オイル状の黄色液体5.0246g(収率68%)を得た。化合物(A)の構造については、図1に示すH−NMRスペクトルデータを用いて確認した。
【0045】
【化9】

<N−[2,4−ビス(ジエトキシホスホノイル)フェニル]アクリルアミド(化合物(B))の合成>
撹拌子を入れた30ml二口ナス型フラスコに、合成した化合物(A)2.9224g(8.0mmol)を入れ、窒素置換を行った。そこに脱水THF8ml(11.1mmol)、脱水ピリジン1.0ml(12.8mmol)を入れ、反応液を0℃に冷却した。0℃にした後、アクリロイルクロリド1.0ml(12.8mmol)を加え、室温で1時間撹拌させた。反応終了後、水を加え、塩化メチレンで抽出を行った。飽和炭酸水素ナトリウム水溶液で3回、水1回で洗浄を行った後、無水硫酸マグネシウムで水を除去し、溶媒を留去後、粗生成物を得た。カラムクロマトグラフィー(酢酸エチル)により精製を行い、溶媒を留去、減圧乾燥し、白色の結晶固体1.1195g(収率33%)を得た。化合物(B)の構造については、図2に示すH−NMRスペクトルデータを用いて確認した。
【0046】
【化10】

<ポリN−[2,4−ビス(ジエトキシホスホノイル)フェニル]アクリルアミド(化合物(C))の合成>
合成した化合物(B)を1g(0.00238mol)と、アゾイソブチロニトリル0.013g(0.0000785mol)、トルエン9gをアンプル管に加え、液体窒素で固化させた後、アルゴンガスで置換させることにより酸素を十分除去させた後、アンプル管で封印して60℃、24時間撹拌させた。撹拌後、ヘキサンで再沈殿させて目的とする化合物(C)0.4g(収率40%)を得た。化合物(C)の構造については、図3に示すH−NMRスペクトルデータを用いて確認した。
【0047】
【化11】

<化合物(D)の合成>
合成した化合物(C)0.15gをクロロホルム15mlに溶解させ、そこにt−ブチルジメチルシリルクロリド0.51g(0.0033mol)を50℃滴下して加えた。反応溶液を40℃に加熱し、24時間反応させた後、メタノールに再沈殿させた。メタノールで洗浄後、80℃で減圧乾燥させることで目的とする化合物(D)0.565g(収率97%)を得た。化合物(D)の構造については、図4に示すH−NMRスペクトルデータを用いて確認した。
【0048】
[合成例2]
【化12】

化合物(E)0.79g(2.0mmol)、フェノール1.13g(12mmol)及び炭酸カリウム1.66g(12mmol)に1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン8mlを加え、窒素雰囲気下200℃で一晩反応させた。反応溶液を室温に冷却後、3重量%水酸化ナトリウム水溶液に再沈殿させた。得られた固体をDMFに溶解させ、水とメタノールの混合溶液(メタノール:水=4:1)に再沈殿させ、固体を回収した。80℃で減圧乾燥させることで目的の化合物(F)1.26g(収率91%)を得た。
【0049】
【化13】

化合物(F)1.11g(1.6mmol)をジクロロメタン10mlに溶解させ、−78℃に冷却した。そこに三臭化ホウ素のジクロロメタン溶液4ml(4mmol)を加え、1時間撹拌した。−78℃から室温にゆっくり戻し、さらに一晩反応させた。反応終了後、水で洗浄し、溶媒を濃縮させることで固体を得た。得られた固体をカラムクロマトグラフィー(シリカゲル、ジクロロメタン)により精製することで目的とする化合物(G)1.00g(収率94%)を得た。
【0050】
【化14】

4,4’−ジフルオロベンゾフェノン0.65g(3.0mmol)、化合物(G)1.99g(3.0mmol)及び炭酸カリウム(1.24g,9.0mmol)にシクロヘキサン4ml及びN,N−ジメチルアセトアミド6mlを加え、窒素雰囲気下100℃に加熱した。ディーンスターク装置を用いて水を除去後、シクロヘキサンを留去し、160℃で一晩撹拌した。反応終了後、水に再沈殿させ、繊維状のポリマーを得た。熱水及び熱メタノールで洗浄後、80℃で減圧乾燥させることで目的とする化合物(H)1.71g(収率97%)を得た。
【0051】
【化15】

化合物(H)0.84g(1.0mmol)をトリフルオロメタンスルホン酸8mlに溶解させ、そこに2−ヨード安息香酸1.19g(4.8mmol)を加え、室温で3時間反応させた。反応終了後、水に再沈殿させ、繊維状のポリマーを得た。3重量%重曹水、熱水及び熱メタノールで洗浄後、80℃で減圧乾燥させることで目的とする化合物(I)1.71g(収率97%)を得た。
【0052】
【化16】

窒素雰囲気下、DMF4.8mlに亜鉛粉末0.21g(3.2mmol)を加え、そこにジエチル(ブロモジフルオロメチル)ホスホネート0.85g(3.2mmol)をゆっくり滴下した。室温で2時間撹拌後、臭化銅(I)0.46g(3.2mmol)を加え、さらに30分間撹拌した。この反応溶液に化合物(I)0.70g(0.4mmol)のDMF5.3ml溶液を加え、室温で24時間反応後、希塩酸水に再沈殿させた。得られたポリマーをDMFに溶解させ、不溶部分をろ過により除去後、メタノールに再沈殿させた。メタノールで洗浄後、80℃で減圧乾燥させることで目的とする化合物(J)0.74g(収率95%)を得た。
【0053】
【化17】

化合物(J)0.70g(0.36mmol)をクロロホルム15mlに溶解させ、そこにトリメチルシリルブロマイド(0.66g,4.3mmol)を5℃で滴下して加えた。反応溶液を40℃に加熱し、24時間反応させた後、メタノールに再沈殿させた。メタノールで洗浄後、80℃で減圧乾燥させることで目的とする化合物(K)0.57g(収率92%)を得た。
【0054】
[試料の作製]
合成例1で得られた化合物(D)、合成例2で得られた化合物(K)を、5%のDMAcに溶解させ、オーブンで48時間、60℃でキャスト法により成形することで高分子膜を得た。その後、それぞれ水に浸して微量DMAcを除去した後、真空中、室温で24時間乾燥することで試験用の試料を作製した。作製した試料について、化合物(D)から作製した試料を実施例1とし、化合物(K)から作製した試料を比較例1とした。
【0055】
<測定方法及び評価方法>
(1)EW値の測定
実施例1、比較例1の試料をそれぞれ100℃で24時間減圧乾燥後、アルゴン雰囲気のグローブボックス中に移し30分放置してから重量を測定した。これらをN,N−ジメチルアセトアミドに溶解させ、0.1mol/lの水酸化テトラメチルアンモニウム溶液で滴定を行った。pH7になった時点を当量点とし、そのとき加えた水酸化テトラメチルアンモニウムの量からEW値を計算した。
EW値[g/mol]=1000×試験用試料の重量[g]/0.1[mol/l]×水酸化ナトリウムの滴定量[ml]
その結果、実施例1の試料は、EW値が161g/molであった。一方、比較例1の試料は、EW値が437g/molであった。
【0056】
(2)80℃雰囲気下でのプロトン伝導率の測定
実施例1の試料、比較例1の試料をそれぞれ10mm×30mmの短冊状に切り取り、両端を金属板(5mm×50mm)で挟み込み、テフロン(登録商標)製の測定用プローブで挟持して積層体を作製した。次いで、80℃の雰囲気中にて、白金板間の抵抗をSOLARTRON社製、1260FREQUENCY RESPONSE ANALYSERにより測定した。測定に際しては、20%〜90%の範囲で積層体の湿度を変更した(比較例1の試料については40%〜90%)。プロトン伝導率は、次式からを求めた。
プロトン伝導率[S/cm]=白金板間隔[cm]/(試料膜幅[cm]×試料膜厚[cm]×抵抗[Ω])
【0057】
求めたプロトン伝導率の結果を図5に示す。図5から分かるように、実施例1の試料は、測定条件の全範囲において、比較例1の試料に比べて高いプロトン伝導率を示した。特に、低湿度条件(〜50%)においては、実施例1の試料は、比較例1の試料に比べ高い値を示した。このことから、実施例1の試料は、プロトン伝導率が良好であり、低湿度下でも使用可能であることが分かった。その理由としては、上記(1)で測定したように、実施例1の試料は、比較例1の試料に比べてEW値が高いためと考えられた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリ(メタ)アクリルアミドの窒素原子に結合した芳香環と、
前記芳香環に導入された複数のリン酸基と、
を備えるリン酸基含有ポリ(メタ)アクリルアミド系化合物であることを特徴とするホスホン酸ポリマー。
【請求項2】
前記リン酸基含有ポリ(メタ)アクリルアミド系化合物が、下記式(1)で表されるモノマー単位を備える化合物であることを特徴とする請求項1に記載のホスホン酸ポリマー。
【化1】

(式(1)中、Rは水素原子またはメチル基を表す。)
【請求項3】
触媒の存在下、芳香環に複数のブロモ基が導入されたアニリンと、一般式HP(O)(OR(Rは炭素数1〜3のアルキル基を表す。以下同じ。)で表される亜リン酸アルキルエステルと、をカップリング反応させて、前記芳香環に複数のリン酸アルキルエステル基が導入されたアニリン化合物を得る工程と、
前記アニリン化合物に、(メタ)アクリルハライド化合物または無水(メタ)アクリルハライド化合物からなるアミド化剤を反応させて、前記芳香環に複数のリン酸エステル基が導入された(メタ)アクリルアミド系化合物を得る工程と、
前記(メタ)アクリルアミド系化合物を付加重合して、前記芳香環に複数のリン酸エステル基が導入されたポリ(メタ)アクリルアミド系化合物を得る工程と、
前記ポリ(メタ)アクリルアミド系化合物のエステル部位を加水分解する工程と、
を備えることを特徴とする請求項1または請求項2に記載のホスホン酸ポリマーの製造方法。
【請求項4】
前記アニリンが下記式(2)で表されるジブロモアニリンであり、前記アニリン化合物が、下記式(3)で表される化合物であり、前記(メタ)アクリルアミド系化合物が、下記式(4)で表される化合物であり、前記ポリ(メタ)アクリルアミド系化合物が、下記式(5)で表される化合物であることを特徴とする請求項3に記載のホスホン酸ポリマーの製造方法。
【化2】

(式(4)及び(5)中、Rは水素原子またはメチル基を表す。)

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2011−236302(P2011−236302A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−107955(P2010−107955)
【出願日】平成22年5月10日(2010.5.10)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】