説明

ホタテ貝加工機の加熱開口装置

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、ホタテ貝の原貝より生食用貝柱を分離する貝柱加工機に関し、特にセンタリングした原貝を開口させるべく、上側貝殻内面と貝柱端面との間に形成される貝殻締結力を外部よりの温水照射により麻痺低下させ、貝殻内部への熱的汚染を伴うことなく開口させる斜め起立手段を持つホタテ貝加工機の加熱開口装置に関する。
【0002】
【従来の技術】
ホタテ貝からの生食用貝柱の分離は、女工さんの手作業で主として行なわれ、長時間の立作業、多量の水を扱う厳しい作業環境においては3K職場からの女工さんの就業人口の減少、老齢化によってますますこのような水産加工業は労働力確保の問題をもちつつある。そこで従来より、熱的機械的またはそれらの併用による貝柱の分離剥き取りが種々提案されてきた。
【0003】
例えば、 特開昭50−3899号公報には、ホタテ貝の一方の貝殻の貝柱に対応する部位をバーナにより局部的に加熱して、蝶番部位より開口させ、貝柱を分離することを特徴とした提案が開示されている。しかし具体的な開口装置は開示されていない。
また、特開昭52−13900号公報には、2枚貝を直立状に挟持する搬送用枠体を持つベルト状搬送帯と、該搬送帯の搬送路に設け貝殻の貝柱の対応部位に蒸気、熱湯などの加熱加水を行なう蒸気噴出装置とにより均一で生身に近い損傷の少ない貝身を得るようにした提案が開示されている。而してこの場合も熱により分離した貝身の自然落下による分離手段が示されているのみである。
また、特開昭64−39931号公報には、プラズマアークにより2枚貝の貝柱の外側で貝殻を加熱して貝柱を分離するようにした提案が開示されている。また、この場合も加熱により開口した後の脱殻及び貝身の取出しに関する具体的な開示はされていない。
【0004】
そこで、最近特開平5−3751号には、上記先行技術に対処して、貝柱のうち子柱部位と他の部位に分け、貝柱の全領域にわたって均一に加熱するのではなく強弱を付け、子柱部位に対応する貝殻の外側よりバーナによる加熱する加熱手段を設け、移送手段の移送につれ半開きの上側貝殻を開口させ脱殻させる強制的脱殻手段が開示されている。その開示内容に付き、特に本発明に関連する加熱開口手段に付き下記に詳細に検討する。
上記提案における発明では、原貝供給手段、センタリング手段、加熱手段を経て開口させている。
【0005】
上記加熱手段は、例えばバーナによる火炎、レーザ光、赤外線、ハロゲン光の光線、赤熱された金属、あるいは高温蒸気等を熱源とし、図4に示すように無絞筋部位11aである所謂子柱に強く所謂貝柱を形成する有絞筋部位11に弱く熱線が当たるようにしてそれぞれ貝殻外側より加熱するようにし、例えばバーナ等の火炎や光源による加熱を使用する場合は無絞筋部位に火炎中心や照射中心が当たるようにし、そこから有絞筋部位に火炎や照射が流れるように加熱する。
なお、上記加熱はコンベヤを停止させ、ガスバーナの場合3〜7秒間加熱し加熱終了後コンベヤ走行時中冷却水を上側貝殻に散布冷却するようにしてある。
【0006】
ところで、上記提案においても種々問題点があり、貝柱を迅速大量に供給する貝柱分離方法としての形態は保たれているが、生食用貝柱品質の安定確保の点で特に下記に記載する問題点がある。特に原貝の開口を前提とする加熱手段についは下記問題点がある。即ち、
a、温水以外の熱源を使用し、バーナの場合3〜7秒間の照射をすることとしているが、火炎の温度及び上記照射時間の管理をどうしているか不明で、単に3〜7秒にわたる加熱により子柱部位に強く貝柱部位に弱く加熱するよう
にする構成は品質管理面で問題がある。
b、下側貝殻は加熱時には冷却していないため、加熱時の熱が貝柱下部にも蓄
積され、貝柱の品質に悪影響を与える問題がある。
【0007】
そこで、本発明者等は上記問題解決のため、上下貝殻の結合力を弛緩させる程度に加熱し、しかも二律背反関係にある加熱と冷却を駆使して分離した貝柱に生活機能を維持させ良質の生食用貝柱の提供をすべく、非公知の特願平7−264742において、その提案がなされているが、該提案による原貝の開口のための加熱冷却手段の構成は下記の通りである。
即ち図5(A)に示すように、この発明の加熱冷却手段の場合は、原貝10を水平にバキュームパッド50で支持し、温水源51より図4に示す貝柱11の周辺部位を目標にして下方に向け照射するとともに、下側貝殻10cをその下方より図示してない冷却水源により冷却水を散布して下側貝殻への熱の蓄積を防止するようにしてある。
しかし、この提案による加熱冷却手段による場合、下記問題点を内蔵する。
即ち、図5(B)に示すように、前記温水照射により上側貝殻に対する締結力低下の結果上側貝殻10aが僅かでも開口すると、その開口した間隙10dより温水は下側貝殻10cの中に流入して貝柱に熱的汚染を与え生食品質を低下させる。このため、前述のように下側貝殻に対する下部よりの冷却水散布を必要とし、貝柱部位への汚水の混入に対する懸念と節水の問題がある。
結局、先行技術の前者においては、ホタテ貝の開口作業において、貝柱と上側貝殻との間の結合力の麻痺に、上側貝殻の貝柱対応部位に対する加熱が必要であるという観点のみに立脚したものであるが、開口の際の貝柱の熱的汚染に対する技術的配慮がなく、また先行技術の後者においては前記熱的汚染防止のための冷却水の使用が確立されたが、未だ開口時の原貝の態様についての細かい検討がなされておらず、また、それに対する技術的対応は不十分であつた。
【0008】
【発明が解決しようとする課題】
そこで、本発明の請求項1記載の発明は、
ホタテ貝の原貝に、温水照射による加熱開口手段を使用する場合、結合力の弛緩による上下貝殻の間に発生する隙間からの温水の侵入を防止するとともに、下側貝殻よりの冷却水の照射を不要とした温水照射部と斜め起立手段よりなる、ホタテ貝加工機の加熱開口装置の提供を目的としたものである。
【0009】
また、請求項2記載の発明は、請求項1記載の発明の目的に加え、
請求項1記載の斜め起立手段において、原貝の斜め起立角度の精度確立、及び温水照射位置立の精度確立により、より確実な開口を可能にしたホタテ貝加工機の加熱開口装置の提供を目的としたものである。
【0010】
また、請求項3記載の発明は、請求項1記載の発明の目的に加え、
原貝を台座に着座させた場合、原貝の貝柱中心位置が所定位置に設定可能の構成となし、原貝斜め起立角度の精度確立及び温水照射位置の精度確立の前提条件の確立を図った、ホタテ貝加工機の加熱開口装置の提供を目的としたものである。
【0011】
また、請求項4記載の発明は、請求項1記載の発明の目的に加え、
温水照射について温水温度及び噴射時間を特定したホタテ貝加工機の加熱開口装置の提供を目的としたものである。
【0012】
【課題を解決するための手段】
請求項1記載の発明は、
センタリングしたホタテ貝の原貝の上側貝殻を開口させる装置において、
原貝の蝶番を上部にして斜め下向に原貝を傾斜保持する斜め起立手段と、原貝を傾斜保持した状態で上側貝殻の貝柱対応部位に温水照射をする温水照射部と、とより構成したことを特徴とするものである。
【0013】
上記原貝を蝶番を上にして斜め起立させることにより、開口に対し最も必要な子柱対応部位を温水照射位置に設定可能にするとともに、薄く半開きになった原貝の内部への温水の侵入を防止可能にしている。
【0014】
また、請求項2記載の発明は、
請求項1記載の斜め起立手段を、
中心位置設定用台座と、該台座に着座した原貝の蝶番の反対側にヒンジを持ち該蝶番に直角の両サイドに滑り止め部材を持つ上側貝殻の押圧部と、下側貝殻の略中央部位を押上げて前記ヒンジを支点に原貝の蝶番を上部にして斜め下向きに傾斜させる押上部と、より構成したことを特徴としたものである。
【0015】
上記押圧部の滑り部材とヒンジとにより、斜め起立する源貝の上側貝殻の傾斜起立角度を一意的設定を可能にしている。
【0016】
また、請求項3記載の発明は、
請求項2記載の台座を、ホタテ貝下側貝殻の表面形状に相似の傾斜接触凹面を持ち、楕円リング状弾性部材よりなる凹形台座で構成したことを、特徴としたものである。
【0017】
上記下側貝殻の表面形状は成長に起因する原貝の大きさの変化に対し相似的変化をなしているため、上記下側貝殻の表面形状に相似させた傾斜接触凹面に少なくとも台座基盤に平行に着座させた場合は、原貝の貝柱の中心位置は常に所定位置に設定可能で、爾後の温水照射の照準設定に対し再現性を確立できる。
【0018】
また、請求項4記載の発明は、
請求項1記載の温水照射を、80〜95℃の熱水をセンタリング装置にて区別した値に基づく貝殻の大きさの大、中、小にあわせ、例えば3秒、2.5秒、2秒の噴射に成るように、噴射時間を可変可能に構成し構成したことを特徴としたものである。
【0019】
【発明の実施の形態】
以下、本発明の実施例の形態を、図示例と共に説明する。ただし、この実施例に記載されている構成部品の寸法、形状、その相対的位置等は特に特定的な記載がないかぎりは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例にすぎない。
図1は本発明のホタテ貝加工機の加熱開口装置の概略の構成を示す模式図で、図2は図1のII−II視図で、図3は図1の凹形台座の正面図及び側面図である。
【0020】
図1、図2にに示すように、本発明のホタテ貝加工機の加熱開口装置は、温水照射部30と、斜め起立手段20とより構成する。
上記斜め起立手段20は、源貝10の着座用台座35と上側貝殻押圧部21と起立駆動部22と押上部40とよりなる。
【0021】
起立駆動部22は、例えばエアシリンダ等のアクチュエータ27とそれにより上下動するコの字状の駆動フレーム26とよりなる。該フレーム26の下部には原貝10の蝶番10bに平行のヒンジ部24を該蝶番の反対側に設け、上側貝殻押圧部21を上げ勝手に傾動させる支点を構成するようにしてある。
上記上側貝殻押圧部21は、前記ヒンジ部24を介して前記コの字状フレーム26に傾動自在に嵌合させ、ストッパ25により傾動最下点を規制する構成にした押圧フレーム21aを設けてある。
該押圧フレーム21aの両側には耐熱性弾性部材よりなる滑り止め部材23、23を設け、該滑り止め部材23を介して押圧フレーム21aの自重により原貝10の上側貝殻10aに接触させて、源貝の斜め起立時に下方への滑り止めをするようにしてある。
【0022】
上記着座用台座35は、楕円リング状の凹形台座37と繋止固定する繋止金具36とよりなる。
凹形台座37は図3に示すように、楕円リング状の弾性部材よりなり、上側凹面34にはホタテ貝の下側貝殻の表面形状が貝殻の大きさにの変化に対し相似する特性を利用して、接触する下側貝殻の表面形状に相似した傾斜接触凹面34を形成するようにしてある。そのため、原貝10を台座基盤に平行に着座させた場合は原貝の貝柱の中心は常に所定位置に設定できる。
なお、リング状開口部周辺部位には、スリット32を複数設けクッション性の向上を図るとともに、小さい貝の時に脱落しないようにしてある。
また、台座35の設定方向は図3に示す矢印X方向と、図1に示す工程進行方向である矢印X方向と一致させるようにし、且つ原貝10の蝶番10bが該矢印方向に対して後位で、かつ進行方向に対して直角になるよう着座させるようにしてある。
【0023】
上記押上部40は、前記台座35の中央下部に設け、アクチュエータ41とそれに回転コロ42を連設させ、該コロ42の回転方向は前記図1に示す矢印X方向に固定するようにしてある。また、アクチュエータ41の作動によりコロ42を矢印B方向に上昇させた場合はコロ42は原貝10をその中央下部を押し上げるようにしてある。
また、温水照射部30は図1に示すように、原貝10を斜め起立させたとき温水照射が矢印に示すように源貝の貝柱対応部位にできるよう設定してある。
また、温水照射部30に使用する温水照射は80〜95℃の温水を使用しセンタリング装置で判別した貝の大、中、小に対応させ、それぞれ、例えば3秒、2.5秒、2秒照射するように、噴射時間を可変可能に構成してある。
【0024】
上記構成により、使用に際しては、先ず起立駆動部22を作動させて駆動フレーム26を矢印A方向に下降させ、ヒンジ部24とストッパ25を介して押圧フレーム21aも略水平状態を維持したまま原貝10の真上に下降させる。
ついで、押上部40を作動させコロ42を矢印B方向に上昇させれば、原貝10は押圧フレーム21aに設けてある滑り止め部材23、23により斜め起立する。この際原貝10の上側貝殻の起立時の斜め起立角度は原貝の大小に係わらず一定に保持できる。
また、台座35をホタテ貝の下側貝殻の表面形状に相似の傾斜接触凹面を持つ構成としてあるため、原貝10を水平(台座35の基盤を水平にセット)にセットする限り原貝の貝柱の中心は常に所定位置に設定できる。そのため、斜め起立状態にある原貝の貝柱中心位置も常に所定位置に設定でき、従って温水照射位置も原貝の大小に係わらず例えば子柱対応部位に再現性を以て設定でき、開口不良を解消する。
また、斜め起立状態で温水照射を行なうため、加熱により半開き状態にある貝殻内への温水の侵入を防止できる。
【0025】
【発明の効果】
以上記載した如く本発明によれば、従来必要とした下側貝殻より冷却手段を不用となり、従来方法に比較し余分の冷却水の使用は必要がなくなり大きな節水効果を持つ。
また、温水照射時における貝殻内部への温水侵入を防止する構成としたため、貝柱に対しても熱的汚染を皆無とし、且つ生食品としての新鮮度の維持を可能とした。
斜め起立角度精度及び温水照射位置精度が一意的に確立する方式としたため、開口歩留まりの向上とともに、システム全体の稼働効率も向上させることが出来る。
【図面の簡単な説明】
【図1】本発明のホタテ貝加工機の加熱開口装置の概略の構成を示す模式図である。
【図2】図1のII−II視図である。
【図3】図1に示す凹形台座の構成を示す正面図及び側面図である。
【図4】ホタテ貝の上側貝殻を除去したあとの下側貝殻内の貝柱や内臓の位置を示す正面図である。
【図5】従来の加熱開口手段の概略の構成を示す図で、
(A);温水照射開始時の状況を示す図である。
(B);温水照射により半開きになったときの温水の下側貝殻への侵入の状況を示す図である。
【符号の説明】
10 原貝
20 斜め起立手段
21 上側貝殻押圧部
22 起立駆動部
23 滑り止め部材
24 ヒンジ部
27、41 アクチュエータ
30 温水照射部
35 台座
40 押上部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホタテ貝の原貝の上側貝殻を開口させる装置において、
原貝の蝶番を上部にして斜め下向に原貝を傾斜保持する斜め起立手段と、原貝を傾斜保持した状態で上側貝殻の貝柱対応部位に温水照射をする温水照射部と、とより構成したことを特徴としたホタテ貝加工機の加熱開口装置。
【請求項2】
前記斜め起立手段は、
所定位置に原貝の中心位置を設定する台座と、該台座に着座した原貝の蝶番の反対側にヒンジを持ち該蝶番に直角の両サイドに滑り止め部材を持つ上側貝殻の押圧部と、下側貝殻の略中央部位を押上げて前記ヒンジを支点に原貝の蝶番を上部にして斜め下向きに傾斜させる押上部とより構成した請求項1記載のホタテ貝加工機の加熱開口装置。
【請求項3】
前記台座は、ホタテ貝下側貝殻の表面形状に相似の傾斜接触凹面を持ち、楕円リング状弾性部材よりなる凹形台座で構成された、請求項2記載のホタテ貝加工機の加熱開口装置。
【請求項4】
前記温水照射は80〜95℃の熱水を貝殻の大、中、小にあわせ、噴射時間を可変可能に構成した請求項1記載のホタテ貝加工機の加熱開口装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【特許番号】特許第3549667号(P3549667)
【登録日】平成16年4月30日(2004.4.30)
【発行日】平成16年8月4日(2004.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願平8−120794
【出願日】平成8年4月19日(1996.4.19)
【公開番号】特開平9−275888
【公開日】平成9年10月28日(1997.10.28)
【審査請求日】平成14年8月12日(2002.8.12)
【出願人】(000148357)株式会社前川製作所 (267)
【参考文献】
【文献】特開昭51−145793(JP,A)
【文献】特開昭52−13900(JP,A)