説明

ホットプレス装置及びホットプレス成形方法

【課題】成形前に金型の成形面を均一に冷却し、且つ、成形時の成形体の焼き入れ速度を速くして生産性を高めるとともに上記成形体の焼き入れを均一にする。
【解決手段】加熱された鋼板10を金型2の型閉じ動作により絞り成形して得られた成形体9を型閉じ状態で冷却して焼き入れする。気泡吐出機5は、起泡剤に高圧ガス又は高圧空気を混合することにより気泡4を生成し、生成した気泡4を型開き状態の上型21及び下型22の各成形面21a、22aに吐出する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加熱した鋼板を金型の型閉じ動作により絞り成形して得られた成形体を型閉じ状態で冷却して焼き入れするホットプレス装置及びホットプレス成形方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年の自動車業界では、軽量で、且つ、安全性の高い車体構造が求められていて、この要求に対し、板厚を厚くすることなく高強度な車体構造を得るために、ホットプレス装置で高強度の成形体を得るようにしている。例えば、特許文献1では、ダイス及びポンチを備えた金型のダイス成形面に所定の間隔で複数の溝が形成されていて、該溝には、冷媒供給装置から液体冷媒が供給されるようになっている。そして、ダイス及びポンチを用いて高温に加熱した鋼板から絞り成形により成形体を得た後、型閉じ状態を保持することにより上記成形体にポンチの成形面を接触させ、その後、上記冷媒供給装置から上記溝へ液体冷媒を供給して上記成形体を上記溝に流れる液体冷媒に接触させて冷却することで焼き入れを行うようにしている。
【0003】
また、特許文献2では、ダイス成形面に無数の凸部が形成されていて、各凸部間の凹状部分には、ミスト発生装置からミスト状の冷媒が供給されるようになっている。そして、特許文献1と同様に、ダイス及びポンチを用いて高温に加熱した鋼板から絞り成形により成形体を得た後、型閉じ状態を保持することにより上記成形体にポンチの成形面を接触させ、その後、上記ミスト発生装置から上記凹状部分にミスト状の冷媒を供給して上記成形体を上記ミスト状の冷媒に接触させて冷却することで焼き入れを行うようにしている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2002−282951号公報(段落0024〜0026欄、図2)
【特許文献2】特開2008−36709号公報(段落0040欄、図1)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1、2のホットプレス装置では、成形体を冷却して焼き入れを行う際に、冷媒が接触する範囲とダイス及びポンチの成形面が接触する範囲とで上記成形体の冷却速度が異なってしまい、焼き入れの十分でない箇所が発生してしまうおそれがある。
【0006】
また、加熱された鋼板の成形を繰り返して行うと、次第に金型温度が上昇していき、温度が上昇したままの金型で成形を行うと焼き入れが十分になされなくなってしまう。したがって、成形体の焼き入れが終了した後、次の成形を行う前に、ダイスやポンチの成形面を所定の温度まで冷却したいという要望がある。
【0007】
しかし、ダイスやポンチの成形面に液体やミスト状の冷媒を吹き付けて金型を冷却しようとしても、液体やミスト状の冷媒は成形面の傾斜の大きい箇所から小さい箇所に沿って流れてしまうので均一に成形面を冷却できず、均一な温度でない成形面で焼き入れを行うことで成形体の焼き入れにばらつきが生じてしまうおそれがある。
【0008】
さらには、ホットプレスにおける鋼板の成形では、成形体を冷却するために所定時間型閉じ状態を保持する必要があり、生産性が悪いという問題がある。
【0009】
本発明は、斯かる点に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、成形前に金型の成形面を均一に冷却でき、しかも、成形時の成形体の焼き入れ速度を速くして生産性を高めることができるとともに上記成形体の焼き入れを均一にできるホットプレス装置及びホットプレス成形方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、本発明は、金型の成形面に沿って冷却用の気泡を付着させるようにしたことを特徴とする。
【0011】
具体的には、上型及び下型からなる金型を備え、加熱された鋼板を上記金型の型閉じ動作により絞り成形して得られた成形体を型閉じ状態で冷却して焼き入れするホットプレス装置において、次のような解決手段を講じた。
【0012】
すなわち、第1の発明では、起泡剤に高圧ガス又は高圧空気を混合することにより生成した気泡を型開き状態の上型及び下型の各成形面に吐出する気泡吐出手段を備えていることを特徴とする。
【0013】
第2の発明では、第1の発明において、上記気泡吐出手段は、上記金型の側方と上記型開き状態の上型と下型との間とで伸縮するアーム部と、該アーム部先端に設けられ、上記気泡を吐出する吐出部とを備えていることを特徴とする。
【0014】
第3の発明では、第1の発明において、上記気泡吐出手段は、上記上型及び下型の少なくとも一方の型内部から上記型開き状態の上型と下型との間に出没するアーム部と、該アーム部先端に設けられ、上記気泡を吐出する吐出部とを備えていることを特徴とする。
【0015】
また、本発明は、加熱された鋼板を上型及び下型からなる金型の型閉じ動作により絞り成形して成形体を得た後、型閉じ状態で上記成形体を冷却して焼き入れするホットプレス成形方法をも対象とし、次のような解決手段を講じた。
【0016】
すなわち、第4の発明は、起泡剤に高圧ガス又は高圧空気を混合して生成した気泡を型開き状態の上型及び下型の成形面に吐出して付着させた後、加熱された鋼板を上記金型の型閉じ動作により絞り成形することを特徴とする。
【発明の効果】
【0017】
第1及び第4の発明では、金型の冷却に気泡を用いているので、上型及び下型の各成形面の形状が複雑であっても気泡が表面張力により当該各成形面に沿って均一に付着するようになる。したがって、気泡が成形面の熱を均一に吸収するようになり、当該成形面を均一に冷却することができる。また、上型及び下型の各成形面に均一に付着した気泡は、絞り成形時に成形体の表裏面に均一に接触するので、成形体の表裏面を均一に冷却して当該成形体の焼き入れを均一に行うことができる。さらには、絞り成形時において、成形体と各成形面との間で気泡が挟まれることにより、気泡の外壁を構成する液状部分が急激に気化して吸熱反応を起こすとともに、気泡内部の気体部分が外部に放出されることで熱が発散されるようになるので、成形体を急速に冷却して、焼き入れ速度を速くし、生産性を高めることができる。
【0018】
第2の発明では、アーム部が略水平方向に伸縮することで吐出部が上型及び下型の各成形面に沿って移動し易くなるので、各成形面への気泡の付着を確実に均一とすることができる。
【0019】
第3の発明では、気泡吐出手段のアーム部及び吐出部が未使用時に金型内部に収まるようになるので、第2の発明に比べて金型周辺の設備レイアウトをコンパクトにできる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】本発明の実施形態1に係るホットプレス装置を示す。
【図2】本発明の実施形態1に係るホットプレス装置を示し、金型の成形面に気泡を付着させている状態を示す断面図である。
【図3】本発明の実施形態1に係るホットプレス装置を示し、金型の成形面に気泡が付着している状態で金型に鋼板を搬入した直後の状態を示す断面図である。
【図4】本発明の実施形態1に係るホットプレス装置を示し、(a)は、気泡が成形面に付着した状態の金型を用いて鋼板の絞り成形をしている状態を示す断面図であり、(b)は、(a)のA部拡大図である。
【図5】本発明の実施形態1に係るホットプレス装置を示し、焼き入れした成形体を脱型した直後の状態を示す断面図である。
【図6】本発明の実施形態2に係る図2相当図である。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明の実施形態を図面に基づいて詳細に説明する。尚、以下の好ましい実施形態の説明は、本質的に例示に過ぎない。
《発明の実施形態1》
図1は、本発明の実施形態1に係るホットプレス装置1を示す。該ホットプレス装置1は、上型21及び下型22からなる金型2を備えていて、図示しない昇降手段で上記金型2の上型21を下型22に対して上下動させることにより、ホットプレスによる鋼板10の成形を行えるようになっている。
【0022】
上記下型22には、断面視で上方に膨出して緩やかに湾曲する下側成形面22aが形成されていて、上記上型21には、上記下型22の下側成形面22aに対応するように上方に凹陥する上側成形面21aが形成されている。そして、加熱された鋼板10を下型22の下側成形面22a上にセットして上記金型2の型閉じ動作により絞り成形して得られた成形体9を型閉じ状態で冷却して焼き入れするようにしている。
【0023】
上記金型2の側方には、気泡4(図2乃至図4に示す)を吐出する気泡吐出機(気泡吐出手段)5が配置されている。
【0024】
該気泡吐出機5は、地面に沿って延びる板状ベース部材51に載置された箱形ケース50を備えていて、該箱形ケース50内部には、起泡剤に高圧ガス又は高圧空気を混合することにより気泡4を生成する気泡生成部52が設けられている。尚、高圧ガスには、アルゴンガスや二酸化炭素等の不燃性ガスを用いるのが好ましい。さらには、起泡剤には、泡沫消火器などに用いられる植物油系のものが好ましい。
【0025】
また、上記箱形ケース50には、エアシリンダで構成されたアーム部53が設けられている。該アーム部53は、上記箱形ケース50の内部上方に配置された水平方向に延びるシリンダ本体部53aと、該シリンダ本体部53aの長手方向一端(金型2側)から上記箱形ケース50を貫通して外側方に延びるロッド部53bとを備えていて、上記ロッド部53bが上記金型2の側方と型開き状態の上型21と下型22との間とで伸縮するようになっている。
【0026】
上記ロッド部53bの先端には、上記気泡生成部52で生成された気泡4を吐出する吐出部54が設けられている。
【0027】
該吐出部54は、上記気泡生成部52に配管55で接続されたノズル部54aを備えていて、該ノズル部54aは、上記気泡生成部52で生成された気泡4を外部へ吐出するようになっている。
【0028】
また、上記吐出部54は、回転軸心をロッド部53bの軸心方向に向けた第1モータ54bと、回転軸心をロッド部53bの軸心と交差する方向に向けた第2モータ54cとを備えていて、上記第1モータ54b及び第2モータ54cを駆動させることにより上記ノズル部54aの吐出方向を自由に変更でき、これにより、型開き状態の上型21及び下型22の成形面21a、22aに沿って気泡4を吐出できるようになっている。
【0029】
次に、上記ホットプレス装置1を用いてホットプレスにより鋼板10から成形体9を製造する方法について説明する。
【0030】
まず、図2に示すように、型開きした状態の上型21と下型22との間に向かってアーム部53を伸ばし、上記吐出部54を上型21及び下型22の間に位置付ける。そして、上記アーム部53を伸縮させ、且つ、上記第1モータ54b及び第2モータ54cを回転駆動させつつ上記ノズル部54aから気泡4を吐出させることにより、上型21及び下型22の成形面21a、22aに沿って気泡4が付着する。このように、金型2の冷却に気泡4を用いているので、上型21及び下型22の各成形面21a、22aの形状が複雑であっても上記気泡4は表面張力により上記各成形面21a、22aに沿って均一に付着するようになる。したがって、気泡4が成形面21a、22aの熱を均一に吸収するようになり、当該成形面21a、22aを均一に冷却することができる。
【0031】
また、アーム部53が略水平方向に伸縮することで上記吐出部54が上型21及び下型22の各成形面21a、22aに沿って移動し易くなるので、各成形面21a、22aへの気泡4の付着を確実に均一とすることができる。
【0032】
次に、図3に示すように、成形面21a、22aに気泡4が付着した状態で加熱された鋼板10を上型21及び下型22の間に搬入する。
【0033】
しかる後、図4(a)に示すように、上型21を下降させることにより上記鋼板10の絞り成形を行う。すると、鋼板10の表裏面全体に気泡4が均一に接触しつつ上記鋼板10が金型2により絞り成形されるので、成形体9の表裏面を均一に冷却して当該成形体9の焼き入れを均一に行うことができる。また、絞り成形時において、図4(b)に示すように、成形体9と各成形面21a、22aとの間で気泡4が挟まれることにより、気泡4の外壁を構成する液状部分4aが急激に気化して吸熱反応を起こすとともに、気泡4内部の気体部分4bが外部に放出されることで熱が発散されるようになり、成形体9を急速に冷却して、焼き入れ速度を速くし、生産性を高めることができる。
【0034】
そして、型閉じ状態で所定時間経過した後、図5に示すように、焼き入れがなされた成形体9を脱型し、その後、順次ホットプレスの成形を繰り返す。
【0035】
尚、本発明の実施形態1では、アーム部53をシリンダ構造としているがこれに限らず、例えば、産業用ロボットのアーム部分のようなもので伸縮させてもよい。
《発明の実施形態2》
図6は、本発明の実施形態2に係るホットプレス装置1を示す。この実施形態2では、気泡吐出機5のアーム部53及び吐出部54が金型2内部に収められるようになっている点が実施形態1と異なるだけでその他は実施形態1と同じであるため、以下、実施形態1と異なる部分のみを詳細に説明する。
【0036】
上記下型22中央には、上下に延びる凹部22bが形成されていて、該凹部22bには、上記アーム部53及び吐出部54が収容されるようになっている。そして、上記アーム部53は下型22内部から上記型開き状態の上型21と下型22との間に出没するようになっていて、上記アーム部53を下型22から出没させて上記吐出部54から気泡4を吐出させることにより、成形面21a、22aに気泡4を付着させるようにしている。
【0037】
尚、実施形態2に係るホットプレス装置1を用いて鋼板10から成形体9を製造する方法は、アーム部53及び吐出部54が下型22から出没する以外は実施形態1と同じであるので詳細な説明は省略する。
【0038】
したがって、本発明の実施形態2によれば、気泡吐出機5のアーム部53及び吐出部54が未使用時に金型2内部に収まるようになるので、実施形態1に比べて金型2周辺の設備レイアウトをコンパクトにできる。
【0039】
尚、本発明の実施形態2では、下型22に凹部22bを設けてアーム部53及び吐出部54を収容するようにしているが、これに限らず、例えば、上型21の内部にアーム部53及び吐出部54を収容するようにしてもよく、上型21及び下型22の少なくとも一方にアーム部53及び吐出部54を設けるようにすればよい。
【産業上の利用可能性】
【0040】
本発明は、加熱した鋼板を金型の型閉じ動作により絞り成形して得られた成形体を型閉じ状態で冷却して焼き入れするホットプレス装置及びホットプレス成形方法に適している。
【符号の説明】
【0041】
1 ホットプレス装置
2 金型
4 気泡
5 気泡吐出機(気泡吐出手段)
9 成形体
10 鋼板
21 上型
21a 上側成形面
22 下型
22a 下側成形面
53 アーム部
54 吐出部

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上型及び下型からなる金型を備え、
加熱された鋼板を上記金型の型閉じ動作により絞り成形して得られた成形体を型閉じ状態で冷却して焼き入れするホットプレス装置であって、
起泡剤に高圧ガス又は高圧空気を混合することにより生成した気泡を型開き状態の上型及び下型の各成形面に吐出する気泡吐出手段を備えていることを特徴とするホットプレス装置。
【請求項2】
請求項1に記載のホットプレス装置であって、
上記気泡吐出手段は、上記金型の側方と上記型開き状態の上型と下型との間とで伸縮するアーム部と、該アーム部先端に設けられ、上記気泡を吐出する吐出部とを備えていることを特徴とするホットプレス装置。
【請求項3】
請求項1に記載のホットプレス装置であって、
上記気泡吐出手段は、上記上型及び下型の少なくとも一方の型内部から上記型開き状態の上型と下型との間に出没するアーム部と、該アーム部先端に設けられ、上記気泡を吐出する吐出部とを備えていることを特徴とするホットプレス装置。
【請求項4】
加熱された鋼板を上型及び下型からなる金型の型閉じ動作により絞り成形して成形体を得た後、型閉じ状態で上記成形体を冷却して焼き入れするホットプレス成形方法であって、
起泡剤に高圧ガス又は高圧空気を混合して生成した気泡を型開き状態の上型及び下型の成形面に吐出して付着させた後、加熱された鋼板を上記金型の型閉じ動作により絞り成形することを特徴とするホットプレス成形方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−171006(P2012−171006A)
【公開日】平成24年9月10日(2012.9.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−38108(P2011−38108)
【出願日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【出願人】(590000721)株式会社キーレックス (20)