説明

ホップ薬味の製造方法

【課題】ホップの毬果を用いた新規な薬味の製造方法を提供する。
【解決手段】ホップの毬果を収穫し(ステップS101)、可視光線を遮断した雰囲気において、収穫したホップの毬果に遠赤外線を照射して、80℃以上95℃以下の温度で加熱乾燥する(第1加熱工程;ステップS102)。次いで、可視光線を遮断した雰囲気において、ホップの毬果に遠赤外線を照射し、50℃以上70℃以下の温度で加熱乾燥する(第2加熱工程;ステップS103)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホップを用いた新規な薬味の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ホップ(学名:Humulus lupulus)は、アサ科の多年草で、雌雄異株の蔓性植物である。ホップの毬果は、従来より、ビールの原料として用いられており、苦味、香り、泡の要素であり、また、雑菌の繁殖を抑制して保存性を高める働きがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特願2009−255468号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、ビールの原料として用いられるのは、ビールに苦味や香りを与えるとされる毬果のルプリンと呼ばれるところであり、その他の部分は破棄されてしまう。よって、ビール以外への用途の開発が望まれていた。
【0005】
なお、出願人は、他の用途として、ホップの葉および毬果を混合して用いたホップ茶を開発している(特許文献1参照)。
【0006】
本発明は、このような問題に基づきなされたものであり、ホップの毬果を用いた新規な薬味の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明のホップ薬味の製造方法は、可視光線を遮断した雰囲気において、ホップ(Humulus lupulus)の毬果に遠赤外線を照射し、80℃以上95℃以下の温度で加熱乾燥する第1加熱工程と、第1加熱工程の後、可視光線を遮断した雰囲気において、ホップの毬果に遠赤外線を照射し、50℃以上70℃以下の温度で加熱乾燥する第2加熱工程とを含むものである。
【発明の効果】
【0008】
本発明のホップ薬味の製造方法によれば、第1加熱工程と第2加熱工程とを行うようにしたので、第1加熱工程で低温殺菌し、第2加熱工程でホップの風味を損なうことを防止しつつ、乾燥させることができる。また、第1加熱工程および第2加熱工程において可視光線を遮断した雰囲気で行うようにしたので、ホップが茶色く変色してしまうことを防止することができる。更に、第1加熱工程および第2加熱工程において遠赤外線を照射するようにしたので、ホップの色彩と風味を保つことができる。よって、ホップ本来の風味および色を生かしたホップ薬味を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】本発明の一実施の形態に係るホップ薬味の製造方法を表す流れ図である。
【図2】本発明の一実施の形態に係るホップ薬味の製造方法において用いるホップを表す図である。
【図3】毬果の中に含まれる苞およびルプリンを表す図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照して詳細に説明する。
【0011】
図1は、本発明の一実施の形態に係るホップ薬味の製造方法の流れを表すものである。図2は、本発明の一実施の形態に係るホップ薬味の製造方法において用いるホップを表すものであり、図3は、毬果の中に含まれる苞およびルプリンを表すものである。
【0012】
このホップ薬味の製造方法は、ホップの毬果を乾燥させてホップ薬味を製造するものである。ホップの毬果10は、独特の苦味と香りを有しており、毬果10に含まれる苞11の中のルプリン12は、ビールの原料に用いられている。また、ホップの毬果10は、たんぱく質や炭水化物等の栄養成分に加えて、ポリフェノールや遊離アミノ酪酸「ギャバ」等の有効成分を含んでいる。表1に乾燥させたホップ毬果10の成分分析結果を示す。よって、ホップの毬果10を用いて薬味を製造することにより、独特の苦味と香りを添加することが可能となると共に、ポリフェノールや遊離アミノ酪酸「ギャバ」等の有効成分を摂取することが可能となる。更に、ホップの毬果10の色は、黄緑色から緑色であり、料理の彩りを豊かにすることも可能となる。
【0013】
【表1】

【0014】
このホップ薬味の製造方法では、まず、例えば、ホップの毬果10を収穫し(ステップS101)、可視光線を遮断した雰囲気において、収穫したホップの毬果10に遠赤外線を照射して、80℃以上95℃以下の温度で加熱乾燥する(第1加熱工程;ステップS102)。なお、原料に用いるホップの毬果10は、直射日光を浴びて生育したものが好ましい。直射日光を浴びて生育したものは色が黄緑色できれいであるのに対して、直射日光を浴びていないものは緑色であり、また、直射日光を浴びたものは浴びてないものに比べて大きさが大きく重量も重く、優れた品質を有しているからである。表2に直射日光を浴びて生育したものと直射日光を浴びていないものの品質を示す。
【0015】
【表2】

【0016】
第1加熱工程は、低温殺菌をするための工程であり、ホップの毬果10を収穫してから時間を置かずにできるだけ早く行うことが好ましい。第1加熱工程において可視光線を遮断した雰囲気とするのは、ホップの毬果10が茶色に変色してしまうことを防止するためである。また、遠赤外線を照射するのは、遠赤外線の特徴を生かし、四方八方から照射することにより、乾燥のむらが小さくなり、乾燥工程で色彩と風味を保つことができるからである。第1加熱工程の温度は、80℃よりも低いと殺菌の効果が低く、95℃よりも高いと変色してしまうので好ましくない。第1加熱工程の時間は、例えば、2時間から4時間以内程度とすることが好ましい。
【0017】
次いで、第1加熱工程の後、可視光線を遮断した雰囲気において、ホップの毬果10に遠赤外線を照射し、50℃以上70℃以下の温度で加熱乾燥する(第2加熱工程;ステップS103)。第2加熱工程は、乾燥させるための工程であり、第1加熱工程から時間を置かずに連続して行うことが好ましい。第2加熱工程において可視光線を遮断した雰囲気とし、遠赤外線を照射するのは、第1加熱工程と同様の理由である。第2加熱工程の温度は、50℃よりも低いと、第1加熱工程との温度差が大きくなり、急な温度変化により風味が損なわれると共に、苞11の品質、例えば苞11の張りを保つことが難しいので好ましくなく、70℃よりも高いと、毬果10の色彩、風味、および苞11の品質が劣化してしまうので好ましくない。第2加熱工程の時間は、例えば、30分から4時間程度とすることが好ましい。
【0018】
続いて、第2加熱工程の後、後続の加工工程の前に、ホップの風味を損なわないように、自然乾燥させる(自然乾燥工程;ステップS104)。自然乾燥工程の時間は、例えば、3時間程度である。その後、乾燥させたホップの毬果10を例えば粉砕機により3mmから5mm程度の大きさに粉砕し(粉砕工程;ステップS105)、更に、例えば製粉機により0.1mm(100μm)以下程度の大きさになるまで製粉する(製粉工程;ステップS106)。これにより、粉末状のホップ薬味が得られる。
【0019】
得られたホップ薬味は、そのまま用いてもよいが、製粉したホップの毬果10を水または50度程度の微温湯で練ってペースト状にして用いるようにしてもよい。また、ペースト状にする際には、増粘多糖類を加えて練ってもよい。更に、粉砕したホップの毬果10を綿袋などに入れて煮出し、ホップ煮汁にして用いるようにしてもよい。なお、得られた粉末状のホップ薬味は、アルミニウム袋に入れて低温保管することが好ましい。ペースト状にしたものは、低温または冷凍保管することが好ましい。ホップ煮汁は、瓶詰めにて低温保管することが好ましい。
【0020】
このように本実施の形態によれば、第1加熱工程と第2加熱工程とを行うようにしたので、第1加熱工程で低温殺菌し、第2加熱工程でホップの風味を損なうことを防止しつつ、乾燥させることができる。また、第1加熱工程および第2加熱工程において可視光線を遮断した雰囲気で行うようにしたので、ホップが茶色く変色してしまうことを防止することができる。更に、第1加熱工程および第2加熱工程において遠赤外線を照射するようにしたので、ホップの色彩と風味を保つことができる。よって、ホップ本来の風味および色を生かしたホップ薬味を得ることができる。
【実施例】
【0021】
(実施例1)
直射日光を浴びて生育したホップの毬果10を収穫し(ステップS101)、遠赤外線放射率90%の麦飯石内乾燥室において、可視光線を遮断し、80℃以上95℃以下の温度で3時間加熱乾燥した(第1加熱工程;ステップS102)。次いで、同じく遠赤外線放射率90%の麦飯石内乾燥室において、可視光線を遮断し、50℃以上70℃以下の温度で2時間加熱乾燥した(第2加熱工程;ステップS103)。続いて、自然乾燥させ(自然乾燥工程;ステップS104)、粉砕(粉砕工程;ステップS105)、製粉(製粉工程;ステップS106)を行った。これにより鮮やかな黄緑色のホップ薬味が得られた。
【0022】
(比較例1−1)
第1加熱工程および第2加熱工程において、麦飯石内乾燥室を用いず、可視光線を照射した状態で加熱乾燥したことを除き、他は実施例1と同様にしてホップ薬味を作製した。その結果、ホップの毬果10が茶色に変色してしまい、黄緑色のホップ薬味を得ることができなかった。
【0023】
(比較例1−2)
第1加熱工程および第2加熱工程において、麦飯石内乾燥室を用いず、遠赤外線を照射せずに加熱乾燥したことを除き、他は実施例1と同様にしてホップ薬味を作製した。その結果、乾燥にむらができ、風味が低下し、苞11の品質も劣化した。
【0024】
(比較例1−3)
第1加熱工程の温度を95℃よりも高くしたことを除き、他は実施例1と同様にしてホップ薬味を作製した。その結果、第1加熱工程でホップの毬果10が変色してしまい、黄緑色のホップ薬味を得ることができなかった。
【0025】
(比較例1−4,1−5)
第2加熱工程の温度を比較例1−4では50℃よりも低くし、比較例1−5では70℃よりも高くしたことを除き、他は実施例1と同様にしてホップ薬味を作製した。その結果、比較例1−4では苞11が硬くなって品質が低下してしまい、比較例1−5では毬果10の色が変色してしまった。
【0026】
(実施例2)
実施例1で得られた粉末状のホップ薬味と他の薬味とを50:50の重量比で混合した。他の薬味としては、山葵、唐辛子、生姜、辛子、胡椒、ねぎをそれぞれ用いた。各混合薬味を試食したところ、いずれもホップ薬味による苦味が加わった新しい風味が得られた。
【0027】
(実施例3)
実施例1で得られた粉末状のホップ薬味5gに50℃の温湯80gを入れて練りペースト状とした。ペースト状としたホップ薬味についても試食したところ、粉末状のホップ薬味と同様に、苦味の風味を得ることができた。また、ペースト状のホップ薬味と、山葵または生姜とを50:50の重量比で混合した混合薬味を試食したところ、ホップ薬味による苦味が加わった新しい風味が得られた。
【0028】
(実施例4−1,4−2)
実施例4−1として、実施例1で得られた粉末状のホップ薬味20gと、増粘多糖類(キサンタン)2gと、水78gとをミキサーで混合し、ペースト状とした。実施例4−2として、実施例1で得られた粉末状のホップ薬味15gと、増粘多糖類(ウルトラ寒天)2gと、水78gとをミキサーで混合し、ペースト状とした。得られた実施例4−1,4−2のペースト状のホップ薬味についても試食したところ、粉末状のホップ薬味と同様に、苦味の風味を得ることができた。
【0029】
(実施例5)
実施例1で粉砕した粉末状のホップ薬味20gを綿袋に入れ、1リットルのお湯で、90℃〜100℃において5分間煮出した。得られたホップ煮汁10ミリリットルを他のだし汁100ミリリットルに加えた。他のだし汁としては、そばだし汁、ラーメンだし汁、天つゆ、煮物だし汁、吸い物汁、寄せ鍋だし汁をそれぞれ用いた。各混合だし汁を試食したところ、いずれもホップ薬味による苦味が加わった新しい風味が得られた。
【0030】
(実施例6)
実施例1で粉砕した粉末状のホップ薬味10gを綿袋に入れ、500ミリリットルのお湯で、90℃〜100℃において5分間煮出した。得られたホップ煮汁10ミリリットルを調味料50ミリリットルに加えた。調味料としては、醤油、お酢、みりんをそれぞれ用いた。各混合調味料を試食したところ、いずれもホップ薬味による苦味が加わった新しい風味が得られた。
【0031】
以上、実施の形態を挙げて本発明を説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、種々変形可能である。例えば、上記実施の形態では各工程について具体的に説明したが、全ての工程そ含んでいなくても、また、他の工程を含んでいてもよい。
【産業上の利用可能性】
【0032】
ホップを用いた薬味に用いることができる。
【符号の説明】
【0033】
10…ホップの毬果、11…苞、12…ルプリン

【特許請求の範囲】
【請求項1】
可視光線を遮断した雰囲気において、ホップ(Humulus lupulus)の毬果に遠赤外線を照射し、80℃以上95℃以下の温度で加熱乾燥する第1加熱工程と、
第1加熱工程の後、可視光線を遮断した雰囲気において、ホップの毬果に遠赤外線を照射し、50℃以上70℃以下の温度で加熱乾燥する第2加熱工程と
を含むことを特徴とするホップ薬味の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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