説明

ホルダープレート製造方法および磁気転写装置

【課題】磁気転写の際に、転写磁界の均一性を向上させる。
【解決手段】情報を担持したマスター担体とスレーブ媒体とを密着させ、転写用磁界を印加して前記情報をスレーブ媒体に転写する際にマスター担体を保持するホルダープレートを、オーステナイト系ステンレス材をホルダープレートの形状に加工して加工体を形成し、該加工体に固溶化熱処理を行うことにより製造する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、情報を担持したマスター担体とスレーブ媒体とを密着させ、転写用磁界を印加して前記情報をスレーブ媒体に転写する際に、マスター担体を保持するホルダープレートを製造する方法および磁気転写装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ハードディスク装置やフレキシブルディスク装置等に用いられる高密度の磁気記録媒体(磁気ディスク媒体など)にプリフォーマット記録を正確にかつ効率よく行う方法として、磁気転写方法が知られている。
【0003】
磁気転写は、磁気記録媒体(スレーブ媒体)に転写すべき情報に対応する凹凸パターンを有するマスター担体を用意し、たとえば図1および図2に示すような磁気転写装置1において、スレーブ媒体2の両面にマスター担体3,4を密着させたホルダーユニット10を回転させつつ、このホルダーユニット10の両側に配設した磁界印加装置5によって磁界(外部磁界)を印加することにより、マスター担体の凹凸パターンが担持する情報に対応する磁気パターンをスレーブ媒体に転写するものである。この磁気転写は、マスター担体とスレーブ媒体との相対的な位置を変化させることなく静的に記録を行うことができ、正確なプリフォーマット記録が可能であり、しかも記録に要する時間も極めて短時間であるという利点を有している。
【0004】
特許文献1には、上記磁界印加装置5によって印加する外部磁界がスレーブ媒体の保磁力により規定される許容範囲外である場合に、マスター担体とスレーブ媒体の密着面に転写記録に適した磁界強度が確保できず、信号抜けといった転写不良が生じる点が記載されている。
【0005】
また、この外部磁界は、ホルダープレート8,9を介してマスター担体とスレーブ媒体に印加されるので、ホルダープレート8,9の磁気特性も転写性能に影響を与える点が認識されている。特許文献2では、磁界印加装置5により印加される外部磁界がホルダープレート8,9に吸い込まれたり、ホルダープレート8,9内に反磁界が発生したりしないように、ホルダープレート8,9の比透磁率や比電気抵抗を規定することが提案されている。
【0006】
また、磁気転写においては、その生産性を最大限に活かすため、マスター担体を保持した一対のホルダープレート8,9につき、数万〜数十万回の密着・離脱処理が可能であることが望まれる。上記各種要望から、ホルダープレート8,9の材料としては、強度や耐食性に優れ、かつ、非磁性材料であるオーステナイト系ステンレスが一般的に使用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2001−14667号公報
【特許文献2】特開2003−173524号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、上記従来の方法によっても、転写記録時にマスター担体とスレーブ媒体の密着面に作用される磁界(転写磁界)に乱れが生じ、転写不良が発生することがある。
【0009】
本発明は、上記事情に鑑み、転写磁界の均一性を向上させることができるホルダープレート製造方法および磁気転写装置を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
出願人は、オーステナイト系ステンレスから作製されたホルダープレートに対し、磁界を精密に調べてみた。その結果、ホルダープレートが局所的に磁性を帯びていることが分かった。オーステナイト系ステンレス材は非磁性体であるが、加工により一部の組織がマルテンサイト化し、磁性を帯びるようになったことが新たに分かった(「ステンレス鋼便覧第3版」p.1430)。このホルダープレートの局所的な磁化は微弱なものであり、従来の磁気転写においては認識されていなかったものである。
【0011】
近年、情報量の飛躍的な増加に伴って、磁気記録媒体の高記録密度化のニーズはますます高まっており、転写する磁気パターンの微細化(短ビット化、狭トラック幅化など)が進んでいる。これに伴い、磁気記録媒体から発生する信号磁界が小さくなり、ヘッドによる再生出力も小さくなっているため、転写磁界の許容範囲はますます狭まっている。これにより、ホルダープレートの微弱な磁化によるわずかな磁界の乱れが転写不良の原因となってきたと考えられる。そこで、出願人は、ホルダープレートの磁気特性の不均一性を解消できるホルダープレート製造方法および磁気転写装置を提供する。
【0012】
本発明のホルダープレート製造方法は、情報を担持したマスター担体とスレーブ媒体とを密着させ、転写用磁界を印加して前記情報をスレーブ媒体に転写する際に、マスター担体を保持するホルダープレートを製造する方法であって、オーステナイト系ステンレス材をホルダープレートの形状に加工して加工体を形成し、該加工体に固溶化熱処理を行うことを特徴とするものである。
【0013】
ここで、ホルダープレートの形状というのは、完全なホルダープレートの形状、またはほぼ完全なホルダープレートの形状を意味する。また、ほぼ完全なホルダープレートの形状というのは、少なくとも大きな力を作用させなければいけないような加工が全部終わっている段階でのホルダープレートの形状をいう。
【0014】
また、固溶化熱処理というのは、2種以上の元素からなる金属材料を固溶状態になるまで温度を上げて、その後所定時間維持した後、冷却する処理を意味する。
【0015】
上記製造方法において、固溶化熱処理における加熱保持温度は1010〜1150℃の範囲内であってもよい。
【0016】
また、固溶化熱処理は、加工体の上部に重りを載せた状態で行われるものであってもよい。
【0017】
ここで、加工体の上部に重りを載せた状態というのは、加工体の上部表面の1/2以上を覆うように重りを載せた状態をいう。
【0018】
また、固溶化熱処理された加工体に表面研磨処理を行ってもよい。
【0019】
本発明の磁気転写装置は、上記ホルダープレート製造方法により製造されたホルダープレートを備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0020】
本発明のホルダープレート製造方法によれば、オーステナイト系ステンレス材をホルダープレートの形状に加工して形成した加工体がその加工により磁性を帯びてしまった場合であっても、その加工体に固溶化熱処理をさらに行うようにしているので、加工体から磁性が消去でき、最終的には、その全体において磁化が均一に低い状態のホルダープレートを製造、提供することができる。
【0021】
上記製造方法において、固溶化熱処理が、加工体の上部に重りを載せた状態で行われるものである場合には、固溶化熱処理による加工体の変形を抑制することができる。
【0022】
また、固溶化熱処理された加工体に表面研磨処理をさらに行った場合には、固溶化熱処理による加工体の平坦性の低下を抑制することができる。
【0023】
本発明の磁気転写装置によれば、上記ホルダープレート製造方法により製造されたホルダープレートを備えているので、転写磁界の均一性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】磁気転写装置の転写状態を示す要部斜視図
【図2】図1のホルダーユニットの分解斜視図
【図3】図1のホルダーユニットの断面図
【図4】加工体の上部に重りを載せた状態を示す図
【図5】ホルダープレートにおいて飽和磁化を測定した位置を示す図
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、図面を参照して、本発明の一実施の形態について説明する。図1は磁気転写装置の転写状態を示す要部斜視図である。図2はホルダーユニットの分解斜視図であり、図3はホルダーユニットの断面図である。
【0026】
図1〜図3に示す磁気転写装置1は両面同時転写を行うものであり、スレーブ媒体2の両側にマスター担体3,4を密着させたホルダー10を回転させつつ、このホルダー10の両側に配設した磁界印加装置5によって転写用磁界を印加して、マスター担体3,4に担持した情報を磁気的にスレーブ媒体2の両面に同時に転写記録する。
【0027】
ホルダー10は、シリンダ構造のホルダープレート8と9を備え、スレーブ媒体2の下側記録面にサーボ信号等の情報を転写するマスター担体3と、スレーブ媒体2の上側記録面にサーボ信号等の情報を転写するマスター担体4と、マスター担体3とホルダープレート8との間に介装された弾性特性を有する材料による緩衝材6と、マスター担体4とホルダープレート9との間に介装された弾性特性を有する材料による緩衝材7を収納し、これらは中心位置を合わせた状態で圧接され、スレーブ媒体2の両面にマスター担体3と4を密着させる。
【0028】
ホルダープレート8および9の一方または両方が軸方向に移動可能に設けられて図示しない開閉機構によって開閉作動される。また、ホルダーユニット10は、ホルダープレート8と9の摺接によって形成される内部空間のエアを真空吸引し、内部を減圧状態として、スレーブ媒体2とマスター担体3,4との密着力を得る不図示の真空吸引手段を備える。
【0029】
なお、図2の場合には、スレーブ媒体2の両面にマスター担体3,4が密着される両面同時転写の態様を示しているが、スレーブ媒体2の片面にマスター担体を密着させて片面逐次転写を行うようにしてもよい。
【0030】
スレーブ媒体2は、両面または片面に磁気記録部(磁性層)が形成されたハードディスク、高密度フレキシブルディスクなどの円盤状磁気記録媒体である。その磁性層は塗布型磁気記録層あるいは金属薄膜型磁気記録層で構成される。
【0031】
マスター担体3,4は、円盤状のディスクに形成され、その片面にスレーブ媒体2の記録面に密着される磁性体のパターンによる転写情報担持面を有し、これと反対側の面が緩衝材6,7に真空吸着等により保持される。
【0032】
ホルダープレート8,9は、円盤状で、マスター担体3,4の外径より大きい円形状の平面を有し、対向する面の中央部にシート状の緩衝材5,7が粘着シートにより装着され、その上にマスター担体3,4を吸着などにより保持する。ホルダープレート8の中心部には、マスター担体3及びスレーブ媒体2の中央開口部に挿通されるセンターコア31が突設されており、これによってスレーブ媒体2は、着脱自在に保持される。
【0033】
ホルダープレート8,9の外周には、対向する方向に突出する鍔部がそれぞれ設けられている。そして、ホルダープレート8の鍔部の外周にOリング33が設けられ、Oリング33によりホルダープレート8,9間の内部空間を密閉できる構成になっている。ホルダープレート8および9は図示しない回転機構に連係されて一体に回転駆動される。
【0034】
また、ホルダープレート8の鍔部より内周側で、マスター担体3,4より内周側および外周部には、内部空間に開口する真空吸引手段の吸引口27a,28aが設けられている。これらの吸引口27a,28aに連通するエア吸引路27b,28bがホルダープレート8内に形成され、外部に導出されて不図示の真空ポンプに接続される。これらの真空吸引手段によるエアの真空吸引により、マスター担体3とスレーブ媒体2を吸着するとともに、ホルダーユニット10内の内部空間を所定の真空度に制御する。
【0035】
緩衝材6,7は、弾性特性を有する材料からなり、密着圧力印加時にマスター担体3,4の弾性変形を許容し、スレーブ媒体2とマスター担体3,4との表面形状を一致させて密着性を高め、密着力を解放した際には元の状態に復元する特性を備えている。
【0036】
磁界印加装置5は、電磁コイルや永久磁石からなり、保持ユニットの両側に略対象に一対設置され、ホルダープレート8,9により保持されたマスター担体3,4及びスレーブ媒体2に対して垂直に磁界を印加する。
【0037】
上記磁気転写装置1は、同じマスター担体3,4により複数のスレーブ媒体2に対する磁気転写を行うものであり、まずホルダープレート8,9に緩衝材6,7およびマスター担体3,4を位置を合わせて保持させておく。そして、ホルダープレート8と9を離間した開状態で、予め垂直方向の一方に初期磁化したスレーブ媒体2を中心位置を合わせてセットした後、ホルダープレート9をホルダープレート8に接近移動させる。
【0038】
そして、両ホルダープレート8,9の鍔部の摺接により、ホルダーユニット10の内部空間を密閉する。真空吸引手段により内部空間のエア排出を行って減圧し、スレーブ媒体2の両側にマスター担体3,4を密着させる。
【0039】
その後、ホルダーユニット10の両側に磁界印加装置5を接近させ、ホルダーユニット10を回転させつつ磁界印加装置5によって初期磁化とほぼ反対方向に転写用磁界を印加する。これにより、スレーブ媒体2にはマスター担体3,4の転写パターンに応じた磁化パターンが転写記録される。
【0040】
次に、ホルダープレート8,9の製造方法について説明する。ホルダープレート8,9の材料としては、SUS304に代表されるオーステナイト系ステンレスを使用する。オーステナイト系ステンレス材の中でもSUS304Lは、結晶中の炭素含有率が少ないために、粒界部でCrの炭化物が生成されにくく、オーステナイト相が安定しやすく、局所的な結晶変態が起こりにくい点から、ホルダープレート8,9の材料として特に好ましい。
【0041】
まず、オーステナイト系ステンレス材を、切削加工等の加工方法により、ホルダープレート8,9の形状に加工して加工体を形成する(加工処理)。この加工処理において、少なくとも大きな力を作用させなければいけないような加工、つまり、オーステナイト系ステンレス材にマルテンサイト化を誘起するような加工は全部終わらせておく。これにより、引き続き行われる固溶化熱処理による磁化消去後にさらにホルダープレートの磁気特性が変動してしまうことを防止できる。
【0042】
次に、加工体を電気炉内に設置し、重りを載せた状態で、1010〜1150℃の範囲内の温度に加熱して、4時間以上維持した後、急冷する(固溶化熱処理)。ここでいう急冷とは定めた温度での熱処理時間を経過した後、すぐさま少なくとも1分を超えない時間に室温以下の温度下に移動させて充分放置して冷やすことであり、ここではホルダープレートのあらゆる部位の表面温度が100℃以下まで冷却するのに要する時間が30分未満である冷却法を指すこことする。
【0043】
ここで、重りは、固溶化熱処理によって加工体に生じ得る反りや変形を矯正あるいは阻止できる重量および形状のものである必要がある。たとえば、加工体の上部表面の全体を均一な重量で覆うものであるとよい。また、重りは、加工体と熱による変形量が等しい、同じ材料からなるものであるとよい。
【0044】
図4に、加工体の上部に重りを載せた状態の一例を示す。図4に示すように、重り12は、加工体8´(9´)の表面凹凸形状と補完的な表面凹凸形状を有し、加工体の上部に乗せたときに、加工体の上部表面の全体に亘って密着した状態(隙間のない状態)になるようなものであるとよい。これにより、固溶化熱処理によって加工体が変形しようとする力を重りにより拘束することが可能となる。
【0045】
このように、加工体の上部に重りを載せた状態で、固溶化熱処理における加熱保持及び冷却を行なうことにより、熱による膨張変形や結晶変態による体積変化等による加工体の反り、うねりなどの変形を抑制することができ、加工体の平坦性を確保できる。
【0046】
なお、ここでは、加工体の上部に重りを載せた状態の一例として、加工体の上部表面の全体を覆うように重りを載せる場合について説明したが、加工体の上部表面の少なくとも1/2以上を覆うように重りを載せるようにすれば、固溶化熱処理による加工体の変形を許容可能な程度に抑制することができる。
【0047】
最後に、固溶化熱処理された加工体にラップ研磨処理等の表面研磨処理を行うことにより、ホルダープレート8,9を得る(表面研磨処理)。ラップ研磨処理においては、ラップ定盤と呼ばれる台の上にラップ材(ダイヤモンドスラリー)を砥粒として敷き詰め、その上に加工体の表面を定盤側に向けて置いて上から圧力を加えつつ摺動させることにより、加工体の表面を研磨する。
【0048】
この表面研磨処理によれば、固溶化熱処理された加工体を充分に平坦な面の上で圧力を加えながら研磨することにより、加工体の凸部のみを削ることができ、ホルダープレート(研磨処理後の加工体)の平坦性を向上できる。ここで、平坦性が高いとは、ホルダープレートを理想的に平坦な面に置いた時に、その平坦面から、加工部分を除いたホルダープレート表面までの高さのバラツキが面内全体で小さいことをいう。
【0049】
なお、上記ホルダープレート製造方法において、固溶化熱処理における加熱保持温度は、固溶化熱処理された加工体の面内飽和磁化の均一性をより向上できる点から、1100℃〜1150℃であることがより好ましい(後述する表1参照)。
【0050】
また、上記実施の形態では、固溶化熱処理された加工体に表面研磨処理を行う場合について説明したが、この表面研磨処理は省略してもよい。加工体の上部に重りを載せた状態で固溶化熱処理を行うことで、固溶化熱処理による加工体の変形を許容可能な程度に抑制することができるからである。
【0051】
また、ここでは、固溶化熱処理における加熱後の冷却が急冷である場合について説明したが、炉冷等による徐冷でもよい。ここでいう除冷は、急冷のような急激な温度変化をもたらさないような冷却法であり、ここではホルダープレートのあらゆる部位の表面温度が100℃以下まで冷却するのに要する時間が30分以上である冷却とする。炉冷とは、加熱保持時間後もホルダープレートを電気炉内に放置し、放熱による電気炉の温度降下に依存して冷却させる方法である。
【0052】
なお、冷却が徐冷である場合には、固溶化熱処理による加工体の変形が急冷の場合よりも小さいので、固溶化熱処理された加工体に表面研磨処理を行う場合には、固溶化熱処理を行う際、加工体の上部に重りを載せなくても、固溶化熱処理による加工体の変形を許容可能な程度に抑制することができる。また、急冷の場合と同様に、加工体の上部に重りを載せた状態で固溶化熱処理を行う場合には、表面研磨処理を省略してもよい。
【0053】
また、上記実施の形態では、垂直磁気記録方式によって磁気転写を行う場合について説明したが、面内磁気記録方式によって磁気転写を行うようにしてもよい。
【0054】
次に、実施例1〜5および比較例1について説明する。
実施例1では、SUS304L材をホルダープレートの形状に加工して加工体を形成した後、該加工体を電気炉内に設置し、加工体と同じ材料からなる重りを載せた状態で、加熱により1100℃まで昇温させて5時間維持した後、室温に戻して12時間放置(急冷)することにより、ホルダープレートを製造した。
【0055】
実施例2では、ホルダープレートの材料としてSUS304を用いた点を除き実施例1と同様とした。
実施例3では、ホルダープレートの材料としてSUS304を用い、固溶化熱処理における加熱保持温度を1100℃とし、昇温後の保持時間を1時間とした点を除き、実施例1と同様とした。
実施例4では、ホルダープレートの材料としてSUS304を用い、固溶化熱処理における加熱保持温度を1010℃とし、昇温後の保持時間を5時間とした点を除き、実施例1と同様とした。
実施例5では、ホルダープレートの材料としてSUS304を用い、固溶化熱処理における加熱保持温度を1000℃とし、昇温後の保持時間を5時間とした点を除き、実施例1と同様とした。
比較例1では、SUS304材をホルダープレートの形状に加工することによりホルダープレートを製造した。
【0056】
上記各製造条件の設定下でそれぞれ製造した実施例1〜4および比較例1のホルダープレートに対して、後述する飽和磁化の測定方法により飽和磁化の最大値Msmaxおよび最小値Msminを測定した。また、その各ホルダープレートを用いて磁気転写を行い、転写記録されたスレーブ媒体を得、そのスレーブ媒体における転写信号の出力の均一性を評価した。その結果を表1に示す。
【0057】
<飽和磁化の測定>
各ホルダープレートの飽和磁化測定にはNEOARK社製垂直磁気記録層評価装置BH-810CPCを用いて行った。磁気ヒステリシス特性を測定した後、転写磁界強度付近であり、軟磁性材料として十分に飽和していると考えられるH=5000Oeに対応する磁化の値を飽和磁化Msとする。図5に示すように、ホルダープレート上の全13点の位置でそれぞれのMsを求め、その最大値をMsmax、最小値をMsminとした。なお、図中d1=60mm、d2=30mmである。
【0058】
<磁気転写>
スレーブ媒体には2.5インチ型のハードディスク媒体を用い、マスター担体には、電解めっきで作製した、Ni基板上にCoPt磁性層が成膜されたもので、半径13.5-31.5mmの領域に最小ビット長が80nm、トラック間隔150nm、高さ100nmの転写パターンを有するものを用いて、磁気転写を行った。
【0059】
<信号出力の評価方法>
磁気転写後のスレーブ媒体2をスピンドルモータの軸に取り付け、所定の回転速度で回転させ、スレーブ媒体2の表面に所定のフライングハイトで近接して設けられた磁気ヘッドにより、転写信号を取得(読み出し)した。転写信号の信号出力の均一性の評価法としては、半径13.5-31.5mmの範囲において、一周につき200点の信号を50mmピッチで取得し、全ての信号出力のS/N比を算出し、その平均値、標準偏差を求め、変動係数(Cv値:標準偏差÷平均値)を算出した。また、加工部分が多く、特に効果が大きいと考えられるr<16.0mmの内周部分についてのCv値についても別途評価した。
【0060】
【表1】

【0061】
上記表1の結果より、[比較例1]のホルダープレートに比べて、本発明[実施例1〜5]のホルダープレートの方が、最大値Msmaxと最小値Msminの差が小さく、S/N比のCv値が小さい結果が得られた。これは、[比較例1]のホルダープレートに比べて、本発明[実施例1〜5]のホルダープレートの方が、面内飽和磁化の均一性が高く、スレーブ媒体における転写信号の出力の均一性も高いことを意味する。特に、加工部が多く、面内飽和磁化の均一性が低い内周部分(r<16.0mm)において算出したS/N比のCv値からは、上記結果がより顕著に確認できる。また、加熱保持温度を1100℃とし、昇温後の保持時間を5時間とした実施例1〜2における総合評価の判断は◎であり、より好ましい結果が得られている。
【0062】
次に、実施例1-1〜1-5について説明する。実施例1-1〜1-5では、SUS304L材をホルダープレートの形状に加工して加工体を形成した後、該加工体を電気炉内に設置し、加熱により1100℃まで昇温させて5時間維持した後、冷却することにより、ホルダープレートを製造する際に、表2に示すように、冷却方法、固溶化熱処理におけるおもり有無、固溶化熱処理後における表面研磨有無の条件を設定してホルダープレートを製造した。そして、製造された各実施例1-1〜1-5のホルダープレートに対して、後述する平坦性の評価方法により平坦性を評価し、その結果を表2に示した。
【0063】
<平坦性の評価>
各ホルダープレートの平坦度評価には、キーエンス社レーザー変位計を用いて行った。X方向Y方向共に200mm間隔にて各ホルダープレートの全面変位測定を行った。ここでいう変位とはレーザー光源からその鉛直下方向に当たるホルダープレート表面までの距離を指す。レーザー光源が全表面をなぞるように移動しても光源と測定ステージ間の距離は常に一定に保つような機構になっているため、ホルダープレートと光源の距離を各地点で測定することで、高さの相対値を知ることができる。そして、その測定された変位値中の最大変位値と最小変位値の差(PV値)を平坦性の指標とした。PV<1mmである場合を◎とし、1≦PV<1.5mmである場合を○とし、1.5≦PV<2mmである場合を△とし、PV≧2mmである場合を×とした。
【0064】
ホルダープレートの平坦性が不十分である場合には、ホルダープレートの保持されるマスター担体の平坦性も不十分となりやすいため、スレーブ媒体との密着不良が発生しやすく、信号抜けといった転写不良が生じる。検討により、ホルダープレートのPV値と転写不良には相関があり、PV値2mm以上の場合には転写不良を生じる頻度が格段に上昇するため、PV≧2mmである場合を×とした。
【0065】
【表2】

【0066】
上記表2の結果より、ホルダープレートの製造方法において、固溶化熱処理における加熱後の冷却を急冷とするとともに、固溶化熱処理を加工体の上部に重りを載せた状態で行うことにより、あるいは、固溶化熱処理における加熱後の冷却を除冷とするとともに、固溶化熱処理された加工体に表面研磨処理をさらに行うことにより、ホルダープレートにとって好適な平坦性を確保できることが確認できた。
【符号の説明】
【0067】
1 磁気転写装置
2 スレーブ媒体
3,4 マスター担体
5 磁界印加装置
6,7 緩衝材
8,9 ホルダープレート
12 重り
27b エア吸引路
28b エア吸引路
31 センターコア
33 O-リング

【特許請求の範囲】
【請求項1】
情報を担持したマスター担体とスレーブ媒体とを密着させ、転写用磁界を印加して前記情報を前記スレーブ媒体に転写する際に、前記マスター担体を保持するホルダープレートを製造する方法であって、
オーステナイト系ステンレス材を前記ホルダープレートの形状に加工して加工体を形成し、
該加工体に固溶化熱処理を行うことを特徴とするホルダープレート製造方法。
【請求項2】
前記固溶化熱処理における加熱保持温度が1010〜1150℃の範囲内であることを特徴とする請求項1記載のホルダープレート製造方法。
【請求項3】
前記固溶化熱処理が、前記加工体の上部に重りを載せた状態で行われるものであることを特徴とする請求項1または2記載のホルダープレート製造方法。
【請求項4】
前記固溶化熱処理された加工体に表面研磨処理を行うことを特徴とする請求項1から3のいずれか1項記載のホルダープレート製造方法。
【請求項5】
請求項1から4のいずれか1項記載のホルダープレート製造方法により製造されたホルダープレートを備えたことを特徴とする磁気転写装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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