説明

ホルムアルデヒド水溶液用安定剤

【課題】ポリビニルホルマール以外にホルマリンに含まれない成分を極力排除し、あらゆる用途にホルマリンを使用可能とするホルマリン用安定剤を提供する。
【解決手段】重合度200〜600のポリビニルアルコールとホルムアルデヒドまたはパラホルムアルデヒドとを酸触媒の存在下に溶媒中で加熱し、ホルマール化反応させて得たホルマール化度40〜70%のポリビニルホルマール化合物0.1〜1重量%、ホルムアルデヒド10〜30重量%、メタノール20〜89重量%及び水0.1〜40重量%の混合溶液からなるホルムアルデヒド水溶液用安定剤。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はホルムアルデヒド水溶液(以下においてホルムアルデヒド水溶液を「ホルマリン」と言う事がある)の安定剤に関する。さらに詳しくは、低メタノール含量の高濃度ホルマリンの貯蔵中におけるパラホルムアルデヒドの沈澱生成を効果的に防止し得るホルマリンの安定剤に関する。
【背景技術】
【0002】
ホルムアルデヒドは水溶液中では大部分が水和し、メチレングリコール、低級ポリオキシメチレングリコールの平衡混合物として存在している。
【0003】
ホルムアルデヒド濃度が高くなるにしたがってメチレングリコールを含むポリオキシメチレングリコール平衡混合物の平均重合度が高重合度側へ移り、水に不溶のパラホルムアルデヒドとして分離析出してくる結果、ホルマリンの白濁化、沈澱生成が起こり、著しい場合は全体が固化することもある。又、貯蔵温度が低くなっても同様にポリオキシメチレングリコール平衡混合物の平均重合度の高重合度側への移動による高重合度成分の増加とポリオキシメチレングリコールの水への溶解度の相対的低下が起こり、パラホルムアルデヒドの沈澱が生成する。
【0004】
貯蔵中にパラホルムアルデヒド沈澱が生成したパラホルムアルデヒド水溶液はホルムアルデヒド濃度が変化し、ホルムアルデヒド分の正確な計量把握が出来ないばかりでなく、装置配管の閉塞等の原因となるため、もはや工業原料としては利用できない。
【0005】
従来から一般にホルムアルデヒド濃度37〜42%、メタノール含有率5〜8%のホルマリンが広く市販され、工業原料として用いられており、ホルムアルデヒド濃度が47〜50%のいわゆる高濃度ホルマリンではメタノール含有率8〜10%と高く、さらに45℃以上の加熱状態で取り扱われている。メタノールが存在すると、ヘミホルマールが生成し、ポリオキシメチレングリコール末端の封鎖および重合度の低下が起こり、水への溶解性が向上する結果、パラホルムアルデヒド沈澱生成は抑制される。
【0006】
しかし、メタノールのみでは気温の低い時期には沈殿生成は完全には抑制できないため安定剤の添加は必須となる。低メタノール濃度、あるいは/又は高濃度ホルマリンの場合は尚更である。
【0007】
このようなホルマリン貯蔵中におけるパラホルムアルデヒドの沈澱生成を防止するために、種々の添加剤が考案され使用されている。
【0008】
例えば、ホルムアルデヒドとポリ酢酸ビニルあるいはポリビニルアルコールとの反応より得られるポリビニルホルマール化合物を、ホルマリンに添加してホルムアルデヒドを安定化に用いる方法は公知である。
【0009】
また(1)特公平8−2824(特許文献1)には数分子量1000〜5000のポリ酢酸ビニルをケン化してポリビニルアルコールとし、ホルムアルデヒドとの反応によりポリビニルホルマールを得る方法が記載されている。この方法では、ポリビニルホルマールを取り出すことなく溶液に調整することが可能であるが、ホルマール反応にホルマリンに含まれない1,4−ジオキサンを溶媒に使用する他、触媒として用いる硫酸を除去する為にイオン交換樹脂、あるいは硫酸と反応して沈殿する塩基を添加する等、触媒の除去が煩雑になる。
【0010】
(2)特公平8−2325(特許文献2)で硫酸を有機塩基であるアルカノールで中和する方法が示されている。この方法は(1)と比較して触媒を除去する必要がないものの硫酸イオンは使用分残留することから、硫酸イオンの残留を好まない用途では使えない欠点がある。
【0011】
(3)特許2737239(特許文献3)ではポリビニルホルマールを固体として分離するが、得られるポリビニルホルマールが熱水で柔軟となる餅状の固体であるため、不純物を除去する工程で熱水による加熱洗浄が必要である。また、安定剤を調整する際にはこの分離回収されたポリビニルホルマールを乾燥させてから粉砕、溶解させる必要があり、非常に調整が煩雑になる欠点を有している。
【特許文献1】特公平8−2324号公報
【特許文献2】特公平8−2325号公報
【特許文献3】特許2737239号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
近年、ホルマリンの用途が多様となり医薬中間体、食品・飼料添加物等の原料、或いは電子材料分野の需要が増加しており、これらの用途ではポリビニルホルマール以外のホルマリンに含まれていない1、4−ジオキサン等の溶媒や硫酸等陰イオン性物質の高濃度の混入は製品品質上から考えて好ましくない。
【0013】
本発明の目的は、ポリビニルホルマール以外にホルマリンに含まれない成分を極力排除し、あらゆる用途にホルマリンを使用可能とする安定剤を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は重合度200〜600のポリビニルアルコールとホルムアルデヒドまたはパラホルムアルデヒドとを酸触媒の存在下に溶媒中で加熱し、ホルマール化反応させて得たホルマール化度40〜70%のポリビニルホルマール化合物とホルムアルデヒド、メタノール及び水からなるホルマリンの安定剤である。
【0015】
まず、ポリビニルホルマールはポリビニルアルコールを溶解させ酸触媒を添加後、ホルマリン或いはパラホルムアルデヒドを添加し製造する。ポリビニルアルコールは重合度200〜600、好ましくは300〜600のものを用いる。ケン化度は特に限定されないが、調剤時の取り扱い上好ましくは85%以上、さらには95%以上のものが好ましいと言える。
【0016】
ポリビニルアルコールの溶媒はポリビニルアルコールが溶解するものであれば使用できるが、ポリビニルアルコールのホルマール化度の上昇に伴い溶媒に対する溶解度が小さくなる傾向があるため、ある程度のホルマール化度で溶解するものが好ましい。ホルマール化反応溶媒としてはメタノール、或いはこれの水溶液が好ましい。ホルムアルデヒドはホルマリンでも、パラホルムアルデヒドでもよい。酸としては特に硫酸、パラトルエンスルホン酸が好ましい。ホルマール化反応はポリビニルアルコールのホルマール化度が40〜70%、好ましくは45〜65%未満となるように行う。ホルマール化度の調整は反応時間を規定する事で行う事ができる。ホルマール化度はJIS L1023-1959に従って分析を行い決定する。
【0017】
ホルムアルデヒドの使用量は、好ましくはポリビニルアルコール1モルに対して200〜1000モルの範囲である。200モルを下回った場合、或いは1000モルを上回った場合には所定のホルマール化度に調整することが難しい為に好ましくない。
【0018】
反応温度としては20〜50℃の範囲が好ましい。20℃を下回った場合には、反応時間が長くなるばかりか所定のホルマール化度に到達しない場合があり、50℃を上回った場合には得られるポリビニルホルマールがゴム状の塊となる等、次工程に影響を与える為に好ましくない。
【0019】
この様な条件で合成したポリビニルホルマールは、適度な大きさの粒子の状態で得られる為、簡単にろ過により捕集することができる。ろ過により捕集した粒子を水で洗浄することにより、粒子に付着した硫酸等の不純物を容易に除去することが出来る。
【0020】
得られたポリビニルホルマールはメタノールとホルムアルデヒドを含む水溶液に溶解させる。この際、ポリビニルホルマール化合物の濃度は0.1〜1%、好ましくは0.1〜0.5%となるように調整する。メタノールは20〜89%、好ましくは30〜65%、水が0.1〜40%、好ましくは9.5〜40%の範囲となるように調整し、ホルムアルデヒドを10〜30%、好ましくは15〜25%となるように添加する。%はいずれも重量%である。これらの濃度を外れた水溶液の場合、水溶液を低温下で保存した場合のポリビニルホルマールの溶解安定性が小さく好ましくない。
【発明の効果】
【0021】
このようにして得られたポリビニルホルマール水溶液は、半年以上室温で保存しても変質がなく安定である。そしてホルマリンに極少量添加しても、当該水溶液の貯蔵中におけるパラホルムアルデヒド沈澱の生成を効果的に防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下に実施例および比較例を挙げて本発明をさらに説明する。
【実施例1】
【0023】
攪拌機を付けた反応器に重合度500、ケン化度98%のポリビニルアルコール 4.0kg、純水35kg及び98%硫酸 7.5kg、メタノール 12.7リットルを仕込む。40℃に昇温後、37%ホルマリン 7.5kgを加えて44時間反応させた。析出した粒子をろ過により捕集し、十分に水で洗浄した。得られたポリビニルホルマールのホルマール化度は57%であった。このポリビニルホルマールは水分を60%含む針状の結晶であり、含まれるNa, Ca, Cr, Fe, Ni, Zn等の金属イオンはいずれも5重量ppm未満であった。また硫酸イオンは20重量ppm未満であった。
【0024】
メタノールとホルムアルデヒドを所定の割合で調製した混合液に、実施例1で得られたポリビニルホルマールを0.4wt%含むように溶解させてホルマリンの安定剤を調製した。
【実施例2】
【0025】
原料に実施例1とケン化度が同じで重合度のみ異なる、重合度300、ケン化度98%のポリビニルアルコールを用いた以外は実施例1と同様にポリビニルホルマールの合成を行った。得られたポリビニルホルマールのホルマール化度は64%であった。
【実施例3】
【0026】
原料に実施例1と重合度が同じでケン化度のみ異なる、重合度500、ケン化度88%のポリビニルアルコールを用いた以外は実施例1と同様にポリビニルホルマールの合成を行った。得られたポリビニルホルマールのホルマール化度は61%であった。
【0027】
[比較例1]
重合度1700、ケン化度98%のポリビニルアルコールを用いた以外は実施例1と同様に行った。得られたポリビニルホルマールのホルマール化度は61%であった。
【0028】
このポリビニルホルマールはメタノール:ホルムアルデヒド=47:23の割合で調製した水溶液に完全に溶解せず、安定剤の調製が出来なかった。
【0029】
[比較例2]
重合度2400、ケン化度98%のポリビニルアルコールを用いた以外は実施例1と同様に行った。得られたポリビニルホルマールのホルマール化度は51%であった。
【0030】
このポリビニルホルマールはメタノール:ホルムアルデヒド=47:23の割合で調製した水溶液に完全に溶解せず、安定剤の調製が出来なかった。
【0031】
[比較例3]
平均重合度950、ケン化度90%のポリビニルアルコールを用いた以外は実施例1と同様に行った。得られたポリビニルホルマールのホルマール化度は81%であった。
【0032】
このポリビニルホルマールはメタノール:ホルムアルデヒド=47:23の割合で調製した水溶液に完全に溶解せず、安定剤の調製が出来なかった。
【0033】
表1に示すとおりに、実施例1〜3で合成したポリビニルホルマールは低温下安定に溶解したのに対し、比較例1〜3で合成したポリビニルホルマールは完全には溶解せず、低温下で速やかに結晶が析出し安定剤として製剤する事が出来なかった。
【0034】
【表1】

【0035】
この安定剤を用いたホルマリンの安定性試験を、メタノール5%を含む37%ホルマリンを用いて行った。具体的には、ポリビニルホルマールの濃度が2.5重量ppmおよび5重量ppmとなるように安定剤をホルマリン溶液に添加し、5℃で1週間静置した後にパラホルムアルデヒドの析出による白濁または沈殿が観察されるか否かを確認した。
【0036】
表2に示すとおり、安定剤を添加しないホルマリンは試験開始1日で既にパラホルムアルデヒドの沈殿が生じたのに対して、実施例1〜3で合成したポリビニルホルマールから調製した安定剤を添加した場合、1週間後でもパラホルムアルデヒドの析出による白濁または沈殿は観察されず、十分な安定効果を発揮した。
【0037】
【表2】


【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合度200〜600のポリビニルアルコールとホルムアルデヒドまたはパラホルムアルデヒドとを酸触媒の存在下に溶媒中で加熱し、ホルマール化反応させて得たホルマール化度40〜70%のポリビニルホルマール化合物0.1〜1重量%、ホルムアルデヒド10〜30重量%、メタノール20〜89重量%及び水0.1〜40重量%の混合溶液からなるホルムアルデヒド水溶液用安定剤。
【請求項2】
ポリビニルホルマール化合物のホルマール化度が45%以上65%未満であることを特徴とする請求項1に記載のホルムアルデヒド水溶液用安定剤。

【公開番号】特開2007−91680(P2007−91680A)
【公開日】平成19年4月12日(2007.4.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−285960(P2005−285960)
【出願日】平成17年9月30日(2005.9.30)
【出願人】(000005887)三井化学株式会社 (2,318)
【Fターム(参考)】