説明

ホルモン療法の副作用軽減又は予防剤とホルモン療法後における月経困難症の再発抑制又は予防剤

【課題】ゴナドトロピン放出ホルモンアナログを用いたホルモン療法と、エストロゲン及びプロゲステロンを含有する混合ホルモン剤を用いたホルモン療法とにおいて、副作用を軽減若しくは予防する副作用軽減又は予防剤を提供する。さらに、それら薬剤を用いた月経困難症のホルモン療法後において、月経困難症の再発を抑制若しくは予防する再発抑制又は予防剤を提供する。
【解決手段】フランス海岸松樹皮抽出物を含有した副作用軽減又は予防剤及び再発抑制又は予防剤が提供される。臨床試験によって、フランス海岸松樹皮抽出物が、ゴナドトロピン放出ホルモンアナログの副作用とエストロゲン及びプロゲステロンを含有する混合ホルモン剤の副作用とを軽減又は予防することが明らかにされた。フランス海岸松樹皮抽出物が、これら薬剤を用いた月経困難症のホルモン療法後において、月経困難症の再発を抑制又は予防することも明らかにされた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、月経困難症や子宮内膜症などのホルモン療法において、ゴナドトロピン放出ホルモンアナログの副作用を軽減若しくは予防する副作用軽減又は予防剤と、エストロゲン及びプロゲステロンを含有するホルモン剤の副作用を軽減若しくは予防する副作用軽減又は予防剤と、ホルモン療法後における月経困難症の再発を抑制若しくは予防する再発抑制又は予防剤とに関する。
【背景技術】
【0002】
月経困難症は、月経の開始直前や月経の開始と同時に生じる下腹部や腰などの痛みであって、一般には、生理痛や月経痛と称されている。月経困難症は、器質性月経困難症と機能性月経困難症とに区別される。器質性月経困難症は、子宮内膜症、子宮筋腫、卵巣の炎症や子宮後屈などの子宮又は卵巣の疾患や異常に起因しており、機能性月経困難症は、子宮を収縮させるプロスタグランジンの過剰分泌や若い女性における子宮の未成熟などに起因している。
【0003】
器質性月経困難症の原因として大きな比重を占めているのは、子宮内膜症である。子宮内膜症は、子宮内膜及び類似組織が、卵巣、ダグラス窩や直腸などの子宮内腔以外の骨盤内臓器で増殖する疾患であり、それら臓器の炎症によって、月経時又はそれ以外でも下腹部や腰などに激しい痛みが生じる。子宮内膜及び類似組織が、子宮筋層で増殖する場合には、子宮腺筋症と称される。ダイオキシン説、月経逆流説や腹膜化性説などが主張されているが、現在において、子宮内膜症及び子宮腺筋症の直接的な原因は解明されていない。
【0004】
月経困難症、子宮内膜症、子宮腺筋症や子宮筋腫などの疾患に対しては、ホルモン療法による治療が一般的に行われている。ホルモン療法の1つに、患者を閉経状態に似た状態にして月経を停止させる偽閉経療法がある。偽閉経療法では、性腺刺激ホルモンであるゴナドトロピンの下垂体前葉における分泌が抑制されることで、患者は、女性ホルモンであるエストロゲン(卵胞ホルモン)の卵巣における分泌が抑制された低エストロゲン状態にされる。ゴナドトロピンの分泌の抑制には、スプレキュア(登録商標)やリュープリン(登録商標)などのゴナドトロピン放出ホルモンアナログ(Gn-Rh analogue)が使用される。また、テストステロン誘導体であるダナゾールを用いてエストロゲンの作用を直接抑制することで、低エストロゲン状態を作り出すことも行われている。
【0005】
また、月経困難症や子宮内膜症などのホルモン療法では、エストロゲン及びプロゲステロン(黄体ホルモン)を含む混合ホルモン剤を、或いは、このような混合ホルモン剤とエストロゲン製剤とを、継続的又は周期的に患者に投与することも行われている。混合ホルモン剤は一般にピルと称されており、エストロゲンの用量が少ない(例えば、50μg未満である)低用量ピルと、エストロゲンの用量が中程度(例えば、50μg程度)である中用量ピルと、エストロゲンの用量が多い(例えば、50μgを超える)高用量ピルとに分類される。混合ホルモン剤は、月経過多、不正性器出血や過少月経などの症状に対しても投与され、また、避妊目的でも投与される。
【0006】
月経困難症及び子宮内膜症に対しては、本件発明の発明者により、フランス海岸松抽出物を含有する治療薬が得られている(特開平11−287628号公報)。フランス海岸松抽出物は、内用、外用を問わず多彩な薬理効果を有しているが、その副作用については、ほとんど報告されておらず、本件発明の発明者によるこの治療薬も、副作用をほとんど生じないという特徴を有している。
【0007】
【特許文献1】特開平11−287628号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
月経困難症などのホルモン療法では、使用する薬剤の副作用が大きな問題になっている。偽閉経療法で使用されるゴナドトロピン放出ホルモンアナログは、患者を更年期と同じ低エストロゲン状態にすることから、更年期障害として知られている症状を引き起こす可能性がある。具体的には、関節痛、倦怠感、のぼせ、むくみや肩こりなどが、ゴナドトロピン放出ホルモンアナログの副作用として知られている。副作用が顕著な場合には、抑制し過ぎたエストロゲンを投与するアドバック療法が患者に処置されるが、副作用が改善しない場合が多い。また、中用量ピルや低用量ピルなどの混合ホルモン剤とエストロゲン製剤については、むくみ、体重増加、頭痛、胸焼けや乳房痛などが副作用として知られている。これらのような副作用が原因となって、月経困難症や子宮内膜症などのホルモン療法による治療を中止せざるを得ない事態や、ホルモン療法から患者が脱落した結果、子宮や卵巣などの摘出手術を患者に処置せざるを得ない事態が、往々にして起きている。
【0009】
また、月経困難症や子宮内膜症などの患者に対してホルモン療法を処置しても、ホルモン療法後において、月経困難症(又は子宮内膜症などに起因した月経困難症)が再発してしまう場合がほとんどであり、月経困難症が再発した患者に対してホルモン療法が再度処置されている。このように、ホルモン療法を繰り返し患者に処置することは、副作用の点で患者のQOL(Quality Of Life)を著しく低下させるともに、副作用に耐えられずに月経困難症や子宮内膜症などの治療の継続を断念する患者を増加させてしまう。
【0010】
本発明は、上記の問題を解決するものであり、ゴナドトロピン放出ホルモンアナログや混合ホルモン剤を用いたホルモン療法において、それら薬剤の副作用を軽減若しくは予防する副作用軽減又は予防剤を提供する。また、本発明は、ゴナドトロピン放出ホルモンアナログや混合ホルモン剤を用いた月経困難症のホルモン療法後において、月経困難症の再発を抑制若しくは予防する再発抑制又は予防剤を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記の問題を解決すべくフランス海岸松樹皮抽出物に着目したところ、フランス海岸松樹皮抽出物が、ゴナドトロピン放出ホルモンアナログ、混合ホルモン剤及びエストロゲン製剤の副作用を軽減又は予防する作用を有することと、ゴナドトロピン放出ホルモンアナログや混合ホルモン剤(又は、混合ホルモン剤とエストロゲン製剤)を用いた月経困難症のホルモン療法(月経困難症の原因となる子宮内膜症や子宮腺筋症などのホルモン療法を含む)後において、月経困難症の再発を抑制又は予防する作用を有することとを見出した。
【0012】
即ち、本発明の副作用軽減又は予防剤は、ゴナドトロピン放出ホルモンアナログを用いたホルモン療法における副作用を軽減若しくは予防する副作用軽減又は予防剤であって、フランス海岸松樹皮抽出物を有効成分として含有する。本発明の月経困難症の再発抑制又は予防剤は、ゴナドトロピン放出ホルモンアナログを用いた月経困難症のホルモン療法後において、月経困難症の再発を抑制若しくは予防する再発抑制又は防止剤であって、フランス海岸松樹皮抽出物を有効成分として含有する。
【0013】
また、本発明の副作用軽減又は予防剤は、エストロゲン及びプロゲステロンを含有するホルモン剤を用いたホルモン療法における副作用を軽減若しくは予防する副作用軽減又は予防剤であって、フランス海岸松樹皮抽出物を有効成分として含有する。そして、本発明の月経困難症の再発抑制又は防止剤は、エストロゲン及びプロゲステロンを含有するホルモン剤を用いた月経困難症のホルモン療法後において、月経困難症の再発を抑制若しくは防止する再発抑制又は防止剤であって、フランス海岸松樹皮抽出物を有効成分として含有する。
【発明の効果】
【0014】
後述するように、フランス海岸松樹皮抽出物が、ゴナドトロピン放出ホルモンアナログと混合ホルモン剤の副作用の軽減又は予防作用と、ゴナドトロピン放出ホルモンアナログ若しくは混合ホルモン剤を用いた月経困難症のホルモン療法後における月経困難症の再発抑制又は予防作用とを有することが、臨床試験によって実際に確認された。また、上述したように、フランス海岸松樹皮抽出物は副作用を生じないことから、本発明の副作用軽減又は予防剤と再発抑制又は予防剤を、ゴナドトロピン放出ホルモンアナログや混合ホルモン剤と併用しても、ホルモン療法において薬剤の副作用が連鎖的に生じることはない。そして、本発明の再発抑制又は予防剤は、ホルモン療法後において継続的且つ安全に患者に投与されて、ホルモン療法による月経困難症の治療効果を長期に渡って維持する点で極めて有効である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明の副作用軽減又は予防剤と再発抑制又は予防剤とは、フランス海岸松樹皮抽出物を有効成分として含有することを特徴とする。フランス海岸松樹皮抽出物(French maritime pine bark extracts)は、フランス西南部に植生する海岸松(学名:Pinus pinaster, Pinus maritima)の樹皮の抽出物である。フランス海岸松樹皮抽出物の薬理作用としては、抗酸化、血行促進、肝機能改善、コレステロール低下や血管壁強化などがあり、動脈硬化障害、脳血管障害、糖尿病網膜症又は糖尿病性神経障害の改善や生活習慣病の予防を目的として、現在、医薬品や健康食品などの分野で利用されている。
【0016】
フランス海岸松樹皮抽出物には、主要成分であるプロアントシアニジン(Proanthocyanidin)と、エピカテキンやガロカテキンなどのカテキン類と、カフェイン酸、桂皮酸、フマル酸及びバニリン酸などの各種有機酸とが含まれている。プロアントシアニジンは、フラバン−3−オール及び/又はフラバン−3,4−ジオールが縮合又は重合した化合物であり、強力な抗酸化作用やその他の生理活性を有している。また、プロアントシアニジンの中でも、重合度が低いオリゴメリック・プロアントシアニジン(Oligomeric proanthocyanidin)が、より高い生理活性を有することが知られている。
【0017】
本発明の副作用軽減又は予防剤及び再発抑制又は予防剤に使用されるフランス海岸松樹皮抽出物の抽出方法は特に限定されず、水又は有機溶媒など(メタノール、エタノールやアセトン等)を用いて既存の抽出方法で抽出されたフランス海岸松樹皮抽出物が使用されてよい。例えば、フランス海岸松の樹皮を温水抽出した後、酢酸エチルによる溶出とクロロホルム添加による沈殿を繰り返すことで、フランス海岸松樹皮抽出物が得られる(米国特許第3436407号、米国特許第4698360号)。
【0018】
本発明の副作用軽減又は予防剤及び再発抑制又は予防剤に含有されるフランス海岸松樹皮抽出物として、市販のフランス海岸松樹皮抽出物が使用されてよい。例えば、ホーファー・リサーチ・リミテッド社(本社スイス)が製造・販売するピクノジェノール(登録商標)は、現在、世界で最も広く利用されている著名なフランス海岸松樹皮抽出物である。ピクノジェノールには、オリゴメリック・プロアントシアニジンが豊富なプロアントシアニジン(60重量%以上)と、カテキン類(5重量%程度)と、約40種類の有機酸とが含まれている。
【0019】
本発明の副作用軽減又は予防剤及び再発抑制又は予防剤は、錠剤、丸剤、被覆錠剤、顆粒剤、カプセル剤、若しくは液剤などの経口剤とされてよい。製剤に当たっては、各種の賦形剤、結合剤、滑沢剤、崩壊剤、崩壊抑制剤、吸収促進剤、乳化剤、被包剤などが使用されてよい。本発明の副作用軽減又は予防剤及び再発抑制又は予防剤には、着色剤、保存剤、香料、甘味剤などが必要に応じて含まれてよく、さらに、ビタミンC(アスコルビン酸)などの薬効成分が、医学的に許容されることを条件に含まれてもよい。なお、本発明の副作用軽減又は予防剤と再発抑制又は予防剤は、健康食品や機能性食品などの形態で患者に投与されてもよい。
【0020】
本発明の副作用軽減又は予防剤の投与法、投与量や投与期間は、本発明の目的を達成できる限りにおいて特に制限されず、患者の年齢や症状の程度などに応じて適宜調整又は変更されてよい。しかしながら、ホルモン療法による治療がなされている間、本発明の副作用軽減又は予防剤は毎日投与されるのが好ましく、さらに、治療終了後においても、適当な期間、副作用軽減又は予防剤が(好ましくは毎日)投与されるのが好ましい。例えば、偽閉経療法においてリュープリンが用いられる場合、リュープリンは、4週間毎に患者に皮下注射されるが、その周期でリュープリンが患者に投与されている間、そしてリュープリンが患者に最後に投与された後も例えば6ヶ月程度、副作用軽減又は予防剤が(好ましくは毎日)投与されるのが好ましい。
【0021】
また、本発明の再発抑制又は予防剤の投与法、投与量や投与期間も、本発明の目的を達成できる限りにおいて特に制限されず、患者の年齢や症状の程度などに応じて適宜調整又は変更されてよい。本発明の再発抑制又は予防剤は、ホルモン療法による治療後に適当な期間(好ましくは毎日)投与されるが、ホルモン療法による治療中でも、ゴナドトロピン放出ホルモンアナログや混合ホルモン剤などのホルモン療法で使用される薬剤と併用されるのが好ましい(毎日投与されるのが好ましい)。
【0022】
以下、本発明の臨床試験の結果について詳細に説明する。臨床試験には、1カプセル当たり、フランス海岸松樹皮抽出物(ピクノジェノール)25.00mg、賦形剤(オリーブ油)146.10mg、乳化剤(グリセリン脂肪酸エステル)11.00mg、及び、被包剤として豚ゼラチン107.75mg及びグリセリン40.94mgなどを含むカプセル剤を使用した。
【0023】
[臨床試験1:ゴナドトロピン放出ホルモンアナログの副作用軽減又は予防]
ゴナドトロピン放出ホルモンアナログの副作用について、フランス海岸松樹皮抽出物の副作用軽減又は予防作用を臨床的に試験した。月経困難症及びその他の症状を生じている2組の被験者群に、ゴナドトロピン放出ホルモンアナログとしてリュープリンを用いた偽閉経療法を処置した。一方の組(以下、「併用群」と称する)には上述のカプセル剤をリュープリンと併用して投与し、他方の組(以下、「対照群」と称する)には、リュープリンのみを投与した。併用群と対照群の被験者数と症例を表1に示す。
【0024】
【表1】

【0025】
併用群及び対照群の各被験者には、リュープリン3.75mgが、4週間毎に合計6回、皮下注射された。併用群の各被験者には、リュープリンの投与開始時から、上記カプセル剤が1日当たり4錠投与された(フランス海岸松樹皮抽出物100mg/日)。また、カプセル剤の投与は、リュープリンの投与終了後も継続して行われ、偽閉経療法中及び偽閉経療法後において、カプセル剤は、被験者に毎日投与された。併用群及び対照群を問わず、強い月経痛(腰痛又は腹痛)を訴える被験者には、鎮痛剤(ボルタレン(登録商標)(1錠25mg)又はロキソニン(登録商標)(1錠60mg))が適宜投与された。なお、低エストロゲン状態が顕著な被験者に対してはアドバック療法が処置されて、エストロゲン製剤であるプレマリン(登録商標)が投与された(1.25mg/日)。
【0026】
リュープリン、つまり、ゴナドトロピン放出ホルモンアナログの副作用である(ゴナドトロピン放出ホルモンアナログの投与に起因した)全身の関節痛と全身の倦怠感とについて、表2に示すスコアリングにて、外来診察時に各被験者を直接問診して評価した。
【0027】
【表2】

【0028】
併用群及び対照群の各々について、偽閉経療法の処置中における全身の関節痛のスコアの平均値を、表3に示す。また、併用群及び対照群の各々について、偽閉経療法の処置中における全身の倦怠感のスコアの平均値を、表4に示す。スコアの平均値は、リュープリンの最初の投与時(偽閉経療法の開始時)と、投与周期の4週間毎とについて示されている。併用群及び対照群の差は、Wilcoxon順位差和検定又はstudent-tを用いて、統計学的に評価した(表3及び表4以外の表に示すスコアについても同様)。なお、偽閉経療法を途中で終了した被験者については、終了時までのスコアを有効として使用している。
【0029】
【表3】

【0030】
【表4】

【0031】
表3に示すように、リュープリン投与開始から16週間後、20週間後及び24週間後(最後の投与から4週後)の各々において、併用群と対照群の間に有意差(p<0.05)が認められており、フランス海岸松樹皮抽出物を患者に投与することで、リュープリン投与に起因した全身の関節痛が軽減又は予防されることが分かる。また、表4に示すように、リュープリン投与開始から12週間後、16週間後及び24週間後の各々において、併用群に改善傾向(p<0.1)が認められると共に、20週間後に、併用群と対照群の間に有意差(p<0.05)が認められており、フランス海岸松樹皮抽出物を患者に投与することで、リュープリン投与に起因した全身の倦怠感が軽減又は予防されることが分かる。
【0032】
なお、併用群においては、偽閉経療法中に(倦怠感が原因で)アドバック療法を処置した被験者数は1名であったのに対して、対照群では、アドバック療法を処置した被験者数は3名であり、さらに、倦怠感が原因で偽閉経療法から脱落した被験者数は1名であった。このことからも、フランス海岸松樹皮抽出物を患者に投与することで、リュープリンの副作用が軽減又は予防されて、偽閉経療法中における患者のQOLの低下が抑制されると共に、副作用が原因で偽閉経療法が中断する事態も防止されることが分かる。
【0033】
[臨床試験2:ゴナドトロピン放出ホルモンアナログを用いた偽閉経療法後における月経困難症の再発抑制又は予防]
月経困難症について、ゴナドトロピン放出ホルモンアナログを用いた偽閉経療法後におけるフランス海岸松樹皮抽出物の再発抑制又は防止作用を臨床的に試験した。上述した併用群及び対照群の各被験者について、表5に示すスコアリングにて、月経困難症(腰痛又は腹痛)の程度を、外来診察時に直接問診して評価した。なお、表1に示すように、併用群及び対照群の全ての被験者について、月経困難症が認められている。
【0034】
【表5】

【0035】
月経困難症について、偽閉経療法中におけるスコアの平均値を表6に、偽閉経療法後におけるスコアの平均値を表7に示す。なお、リュープリンの6回目の投与から4週間後までは、偽閉経療法中として取り扱っており(表6の「24週後」)、表7の「4週後」は、偽閉経療法終了から4週後(リュープリンの6回目の投与から8週間後)を意味している。
【0036】
【表6】

【0037】
【表7】

【0038】
表7に示すように、偽閉経療法終了から20週間後において、併用群と対照群の間に有意差(p<0.05)が認められ、24週間後において、併用群に改善傾向(p<0.1)が認められた。このように、フランス海岸松樹皮抽出物を患者に投与することで、リュープリンを用いた偽閉経療法後における月経困難症の再発が抑制又は防止されることが分かる。
【0039】
併用群では、1名の被験者に対して、偽閉経療法後に子宮筋腫核出術を処置されたのに対して、対照群では、3名の被験者に対して、偽閉経療法後に子宮全摘出手術が処置された。このことから、フランス海岸松樹皮抽出物を患者に投与することで、リュープリンを用いた偽閉経療法の有効性が高められて、偽閉経療法後に外科的な処置が患者に施される事態が低減されると思われる。
【0040】
[臨床試験3:エストロゲン製剤とエストロゲンとプロゲステロンを含有する混合ホルモン剤(中用量ピル)の周期的投与(中用量ピル療法)における副作用軽減又は予防]
月経困難症及び/又はその他の症状を生じている2組の被験者群に、中用量ピル投与療法を処置した。一方の組(併用群)には中用量ピル療法と併用して上述のカプセル剤を投与し、他方の組(対照群)には、中用量ピル療法のみを処置した。併用群と対照群の被験者数と症例を、表8に示す。なお、避妊目的で中用量ピル療法が処置された被験者も、併用群と対照群に加えてある。
【0041】
【表8】

【0042】
中用量ピル投与療法は、連続して合計3クール行われ、各クールにおいて、併用群及び対照群の各被験者には、月経開始5日目より、エストロゲン製剤であるプレマリン(0.675mg/錠を1日1錠)が10日間投与され、引き続いて中用量ピルであるロ・リンデオール(登録商標)(1日1錠)が11日間投与された。なお、併用群の各被験者には、最初のクールにおけるプレマリン投与開始時から、上記カプセル剤が1日当たり4錠投与された(フランス海岸松樹皮抽出物100mg/日)。カプセル剤の投与は、中用量ピル投与療法後も継続して行われ、中用量ピル投与療法中及び中用量ピル投与療法終了後において、カプセル剤は、併用群の各被験者に毎日投与された。先と同様に、併用群及び対照群を問わず、強い月経痛を訴える被験者には、鎮痛剤が適宜投与された。
【0043】
中用量ピルとエストロゲン製剤の副作用であるむくみについて、表9に示すスコアリングにて、外来診察時に各被験者を直接問診して評価した。さらに、体重増加も中用量ピルとエストロゲン製剤の副作用であることから、被験者の体重を外来診察時に測定し、診察時における体重と、第1クールにおけるプレマリン投与開始時における体重との差について評価した。なお、評価されたむくみは薬剤性浮腫であり、通常のむくみとは異なり、中用量ピル(及びエストロゲン製剤)の投与に起因している。また、中用量ピル投与療法中の被験者の食事量、内容に特段の変化はなく、 評価された体重の変化は、ステロイドホルモンの薬剤性のメタボリック作用であり、中用量ピル(及びエストロゲン製剤)の投与に起因している。
【0044】
【表9】

【0045】
併用群及び対照群の各々について、中用量ピル投与療法中におけるむくみのスコアの平均値を、表10に示す。また、併用群及び対照群の各々について、中用量ピル投与療法中における体重差の平均値(kg)を表11に示す。
【0046】
【表10】

【0047】
【表11】

【0048】
表10に示すように、第1クールにおけるプレマリンの投与開始から4週間後及び12週間後において、併用群に改善傾向(p<0.1)が認められ、8週間後において併用群と対照群の間に有意差(p<0.05)が認められており、フランス海岸松樹皮抽出物を患者に投与することで、中用量ピル(及びエストロゲン製剤)の投与に起因したむくみが軽減又は予防されることが分かる。また、表11に示すように、4週間後、8週間後、及び12週間後において、併用群と対照群の間に有意差(p<0.05)が認められたことから、フランス海岸松樹皮抽出物を患者に投与することで、中用量ピル(及びエストロゲン製剤)の投与に起因した体重増加が軽減又は予防されることが分かる。
【0049】
[臨床試験4:中用量ピル投与療法後における月経困難症の再発抑制又は予防]
月経困難症について、中用量ピル投与療法後におけるフランス海岸松樹皮抽出物の再発抑制又は予防作用を、臨床的に試験した。上述した併用群に含まれる月経困難症の被験者と、上述した対照群に含まれる月経困難症の被験者とについて、先と同様に、表5に示すスコアリングにて、月経困難症(腰痛又は腹痛)の程度を、外来診察時に直接問診して評価した。月経困難症について、中用量ピル投与療法中におけるスコアの平均値を表12に、中用量ピル投与療法後におけるスコアの平均値を表13に示す。また、腰痛又は腹痛を訴える月経困難症の被験者に対して投与された鎮痛剤(ボルタレンとロキソニン)の錠数について、中用量ピル投与療法中における患者1人当たりの錠数の平均値を表14に、中用量ピル投与療法後における平均値を表15に示す(ボルタレン1錠又はロキソニン1錠を1スコアとする)。なお、表14に記載されている「投与開始時」における平均値は、中用量ピル投与療法を処置する前の月経時に患者に投与された鎮痛剤の錠数の平均値であり、「4週後」、「8週後」及び「12週後」の平均値は、夫々、第1クール、第2クール及び第3クールにおいて月経時に患者に投与された鎮痛剤の錠数の平均値である。表15の「1ヶ月後」、「2ヶ月後」及び「3ヶ月後」の平均値は、夫々、第3クール終了から1ヶ月後の間、1ヶ月後から2ヶ月後の間、及び2ヶ月後から3ヶ月後の間にて、月経時に患者に投与された鎮痛剤の錠数の平均値である。なお、鎮痛剤が投与された各患者について、臨床試験中に投与された鎮痛剤の種類は同じにされた。
【0050】
【表12】

【0051】
【表13】

【0052】
【表14】

【0053】
【表15】

【0054】
月経困難症については、表12に示すように、第1クールにおけるプレマリンの投与開始から12週間後において、併用群と対照群の間に有意差(p<0.05)が認められた。さらに、表13に示すように、第3クール終了から1ヶ月後において、併用群と対照群の間に有意差(p<0.05)が認められ、2ヶ月後と3ヶ月後において、併用群と対照群の間に有意な減少(p<0.01)が認められた。また、鎮痛剤の錠数については、表15に示すように、第3クール終了から1ヶ月後の間に投与された錠数について、併用群と対照群の間に有意差(p<0.05)が認められ、1ヶ月後から2ヶ月後の間に投与された錠数と、2ヶ月後から3ヶ月後の間に投与された錠数とについて、併用群に有意な減少(p<0.01)が認められた。このように、フランス海岸松樹皮抽出物を患者に投与することで、中用量ピル投与療法後における月経困難症の再発が抑制又は防止されることが分かる。
【0055】
[臨床試験5:エストロゲン及びプロゲステロンを含有する混合ホルモン剤(低用量ピル)の周期的投与(低用量ピル療法)における副作用軽減又は予防]
月経困難症及び/又はその他の症状を生じている2組の被験者群に、低用量ピルを周期的に投与する低用量ピル投与療法を処置した。一方の組(併用群)には上述のカプセル剤を低用量ピルと併用して投与し、他方の組(対照群)には、低用量ピルのみを投与した。併用群と対照群の被験者数と症例を、表16に示す。なお、避妊目的で低用量ピルが投与された被験者も、併用群と対照群に加えてある。
【0056】
【表16】

【0057】
併用群及び対照群の各被験者には、低用量ピルとしてトリキュラー錠28(登録商標)を、連続して合計3クールに渡って投与した。1クールは28日間であって、その間、トリキュラー錠28が用法に応じて毎日投与された。併用群の各被験者には、トリキュラー錠28の投与開始時から、上記カプセル剤が1日当たり4錠投与され(フランス海岸松樹皮抽出物100mg/日)、カプセル剤の投与は、トリキュラー錠28の投与終了後も継続して行われた。低用量ピル投与療法中及び低用量ピル投与療法後において、カプセル剤は、被験者に毎日投与された。先と同様に、併用群及び対照群を問わず、月経痛を訴える被験者には、鎮痛剤が適宜投与された。
【0058】
低用量ピルの副作用であるむくみについて、表9に示すスコアリングにて、外来診察時に各被験者を直接問診して評価した。併用群及び対照群の各々について、低用量ピルを用いた低用量ピル投与療法後におけるむくみのスコアの平均値を、表17に示す。なお、評価されたむくみは薬剤性浮腫であり、通常のむくみとは異なり、低用量ピルの投与に起因している。
【0059】
【表17】

【0060】
表17に示すように、低用量ピルの投与終了から1ヶ月後において、併用群と対照群に有意差(p<0.05)が認められたことから、フランス海岸松樹皮抽出物を投与することで、低用量ピルの投与に起因したむくみが軽減又は予防されることが分かる。
【0061】
[臨床試験6:低用量ピル投与療法後における月経困難症の再発抑制又は予防]
月経困難症について、低用量ピル投与療法後におけるフランス海岸松樹皮抽出物の再発抑制又は予防作用を臨床的に試験した。上述した併用群に含まれる月経困難症の被験者と、上述した対照群に含まれる月経困難症の被験者とについて、先と同様に、表5に示すスコアリングにて、月経困難症(腰痛又は腹痛)の程度を、外来診察時に直接問診して評価した。月経困難症について、低用量ピル投与療法中におけるスコアの平均値を表18に、低用量ピル投与療法後におけるスコアの平均値を表19に示す。また、腰痛又は腹痛を訴える月経困難症の被験者に対して投与された鎮痛剤(ボルタレンとロキソニン)の錠数について、低用量ピル投与療法中における平均値を表20に、低用量ピル投与療法後における平均値を表21に示す。表20の「投与開始時」における平均値は、低用量ピルの投与前の月経時に患者に投与された鎮痛剤の錠数に関しており、「4週後」、「8週後」及び「12週後」の平均値は、夫々、第1クール、第2クール及び第3クールにおいて月経時に患者に投与された鎮痛剤の錠数の平均値である。表21の平均値については、表15と同様である。なお、鎮痛剤が投与された各患者について、臨床中に投与された鎮痛剤の種類は同じにされた。
【0062】
【表18】

【0063】
【表19】

【0064】
【表20】

【0065】
【表21】

【0066】
月経困難症については、表18に示すように、低用量ピルの投与開始から12週間後に併用群に改善傾向(p<0.1)が認められ、表19に示すように、低用量ピルの投与終了から1ヶ月後において、併用群と対照群の間に有意差(p<0.05)が認められ、2ヶ月後及び3ヶ月後において、併用群に有意な減少(p<0.01)が認められた。鎮痛剤の錠数については、表20に示すように、12週間後、つまり第3クール中の錠数について、併用群に改善傾向(p<0.1)が認められた。また、表21に示すように、低用量ピルの投与終了から1ヶ月後の間、1ヶ月後から2ヶ月後の間、2ヶ月後から3ヶ月後の間に夫々投与された鎮痛剤の錠数について、併用群に有意な減少(p<0.01)が認められた。このように、フランス海岸松樹皮抽出物を患者に投与することで、低用量ピル投与療法後における月経困難症の再発が抑制又は予防されることが分かる。
【0067】
[まとめ]
臨床試験1の結果から、フランス海岸松樹皮抽出物が、ゴナドトロピン放出ホルモンアナログの副作用を軽減又は予防する作用を有しており、フランス海岸松樹皮抽出物を有効成分として含有する剤が、当該副作用の軽減又は予防剤として使用できることが明らかにされた。臨床試験1では、ゴナドトロピン放出ホルモンアナログとしてリュープリンが使用されているが、スプレキュア、ナサニール(登録商標)又はゾラデックス(登録商標)などのゴナドトロピン放出ホルモンアナログについても、リュープリンと同様に低エストロゲン状態に起因した副作用が生じることから、フランス海岸松樹皮抽出物が、これらの副作用を軽減する作用を有していることは明らかであろう。なお、閉経前乳癌などのホルモン治療においてリュープリンやゾラデックスが使用される場合も、本発明の副作用軽減又は予防剤が投与されてもよい。
【0068】
臨床試験2の結果から、フランス海岸松樹皮抽出物が、ゴナドトロピン放出ホルモンアナログを用いたホルモン療法後における月経困難症の再発を抑制又は予防する作用を有しており、フランス海岸松樹皮抽出物を有効成分として含有する剤が、月経困難症の再発抑制又は予防剤として使用できることが明らかにされた。臨床試験2では、ゴナドトロピン放出ホルモンアナログとしてリュープリンが使用されているが、スプレキュアなどのゴナドトロピン放出ホルモンアナログを用いたホルモン療法についても、リュープリンと同様に、低エストロゲン状態にすることで症状の改善が図られることから、フランス海岸松樹皮抽出物が、ホルモン療法後における月経困難症の再発を抑制又は予防する作用を有していることは明らかであろう。
【0069】
臨床試験3及び5の結果から、フランス海岸松樹皮抽出物が、エストロゲン及びプロゲステロンを含有する混合ホルモン剤(及びエストロゲン製剤)の副作用を軽減又は予防する作用を有しており、フランス海岸松樹皮抽出物を有効成分として含有する剤が、当該副作用の軽減又は予防剤として使用できることが明らかにされた。月経困難症などの治療ではなく避妊を目的としてエストロゲン及びプロゲステロンを含有する混合ホルモン剤が使用される場合も、本発明の副作用軽減又は予防剤が投与されてもよい。また、臨床試験3で行われたような中用量ピル投与療法と臨床試験5で行われた低用量ピル投与療法は、ピルの周期的投与で患者の月経を正常に起こす点に特徴があるが、本発明の副作用の軽減又は予防剤は、中用量ピルなどの混合ホルモン剤を用いて患者を偽妊娠状態にする偽妊娠療法などにも使用されてもよい。
【0070】
臨床試験4及び6の結果から、フランス海岸松樹皮抽出物が、エストロゲン及びプロゲステロンを含有する混合ホルモン剤(又は、混合ホルモン剤とエストロゲン製剤)を用いたホルモン療法後における月経困難症の再発を抑制又は予防する作用を有しており、フランス海岸松樹皮抽出物を有効成分として含有する剤が、月経困難症の再発抑制又は予防剤として使用できることが明らかにされた。また、臨床試験4で行われたような中用量ピル投与療法と臨床試験6で行われたような低用量ピル投与療法とに加えて、本発明の再発抑制又は予防剤は、混合ホルモン剤を用いた偽妊娠療法などにも使用されてもよい。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
フランス海岸松樹皮抽出物を有効成分として含有しており、ゴナドトロピン放出ホルモンアナログを用いたホルモン療法における副作用を軽減若しくは予防する副作用軽減又は予防剤。
【請求項2】
ホルモン療法は、月経困難症の偽閉経療法である、請求項1に記載の副作用軽減又は予防剤。
【請求項3】
フランス海岸松樹皮抽出物を有効成分として含有しており、ゴナドトロピン放出ホルモンアナログを用いた月経困難症のホルモン療法後において月経困難症の再発を抑制若しくは予防する月経困難症の再発抑制又は予防剤。
【請求項4】
フランス海岸松樹皮抽出物を有効成分として含有しており、エストロゲン及びプロゲステロンを含有するホルモン剤を用いたホルモン療法における副作用を軽減若しくは予防する副作用軽減又は予防剤。
【請求項5】
ホルモン療法は、月経困難症の中用量ピル投与療法若しくは低用量ピル投与療法である、請求項4に記載の副作用軽減又は予防剤。
【請求項6】
フランス海岸松樹皮抽出物を有効成分として含有しており、エストロゲン及びプロゲステロンを含有する含有するホルモン剤を用いた月経困難症のホルモン療法後において月経困難症の再発を抑制若しくは予防する月経困難症の再発抑制又は予防剤。

【公開番号】特開2010−100547(P2010−100547A)
【公開日】平成22年5月6日(2010.5.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−271891(P2008−271891)
【出願日】平成20年10月22日(2008.10.22)
【出願人】(599142615)
【出願人】(508316829)株式会社サイエンス・サプリ (1)
【出願人】(503403629)特定非営利活動法人代替医療科学研究センター (1)
【Fターム(参考)】