説明

ホログラフィック投影システムのための光波補正

被変調波の伝搬方向を設定する光波トラッキングシステム(M1、M2)を備えたホログラフィック投影システムは、位置制御システム及びアイファインダを使用する。本発明の目的は、特に目の現在位置(P)に依存して生じる光波の変形を補償する、調整可能な光波補正システムを提供することである。本願では、一般的収差のほかに、変調されかつ条件づけられた波の形状構造の主として動的な変化及び変形を減少させることが意図されている。これらの変化及び変形は、主として、変調され光学的に拡大され、アラインされた合焦表示スクリーンS上の波の伝搬方向の変化から結果として生じるものである。本発明によれば、光波補正システムは、調整可能な波形成手段(WFF)と、目の現在位置から得られる位置データを用いて波形成手段の光学的挙動を設定するコンピュータ手段(CU)とを備える。調整可能な波形成手段は、空間光変調手段(SLM)用の照明システムと投影システムの表示スクリーン(S)との間の光路に配置されている。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光波トラッキング手段を備えたホログラフィック投影システムにおいて用いられる光波補正に関するものである。当該システムは、変調された波(被変調波)が伝搬してシステムから出射する方向を制御するシステムであり、3次元シーンをホログラフィックに再構成することを目的とするものである。この投影システムでは位置コントローラ及びアイファインダ(eye finder)が用いられる。観察者が、ホログラフィックな再構成シーンを観ながら、自分の位置を変更した場合、これらのエレメントは、被変調波を観察者の目の方へ向け、それによって、目の現在位置とは無関係に、観察者の少なくとも片方の目にとってエラーを生じないように再構成物を可視状態にする。このような投影システムは、多数の光学手段を必要とし、これらの光学手段は、このシステムから出射する時点における被変調波の品質に影響を与え、かつ、その品質を損なう可能性もある。というのは、これらの光学手段が、被変調波の伝搬時に収差のようなエラーを引き起こす可能性があるからである。本発明は特に上記のような影響を補償する光学手段に関するものである。
【0002】
本発明は原ホログラフィック情報を提供する方法に依存するものではない。従って、本発明は多くのタイプの投影システムにおいて適用可能であり、さらに、本発明は、複数の観察者がホログラフィックに再構成されたビデオシーンを同時に観ることを可能にするシステムにおいて用いることも可能である。
【背景技術】
【0003】
本発明における意味のホログラフィック投影システムは、好適にはビデオ手段を用いて動的な3次元シーンをリアルタイムでホログラフィックに表示し、かつ、個別に制御可能な空間光変調手段を備えるものである。これらの3次元シーンは、ホログラムプロセッサによって一連のビデオホログラムでエンコードされ、これらのビデオホログラムは、ホログラフィック情報を用いた干渉の生成が可能な光波を空間的に変調することになる。この変調された光波は、局所的干渉を通じて投影システムの外側の再構成空間(即ち観察者の目の正面)にオブジェクト光点を再構成し、前記オブジェクト光点は所望の3次元シーンを光学的に再構成する。すべてのオブジェクト光点全体を表す再構成されたオブジェクトの光波は、1人以上の観察者の目の位置へ向けられて伝搬し、その結果、単数又は複数の観察者がシーンの形でこれらのオブジェクト光点を観ることが可能となる。このことは、立体鏡による表示とは対照的に、ホログラフィック表示がオブジェクトの置換を実現することを意味する。
【0004】
ホログラフィック表示の品質を満足するために、観察者は十分に広い視野範囲の中で再構成シーンを観ることができることも望ましい。従って、再構成空間は、可能な限り広ければならず、ホログラフィックに再構成されたシーンのサイズは、TV及びビデオ表示の場合と同様に対角線で少なくとも50cmのサイズとなることが望ましい。
【0005】
再構成システムにおける周知の問題として、干渉の生成に先立って所望の光波の伝搬を妨害を受けずに行わなければならないという問題がある。空間内の正確な位置に、かつ、正確な光点値でオブジェクト光点を再構成するためには、干渉する光波の少なくとも一部が、干渉を通じてオブジェクト光点を再構成する全ての位置に同時に届く必要がある。このことは、個々の所望のオブジェクト光点において、干渉を引き起こす可能なかぎり多くの光波間で空間的コヒーレンスが必要となることを意味する。
【0006】
さらに、干渉点に寄与する光波の波長は、制御可能な光学手段に起因して生じるような、相互間における制御を受けない光路長の違いを示すものであってはならない。
【0007】
以下の説明において、「光軸」という用語は反射又は屈折する光学エレメントの対称軸線と一致する直線を意味するものとする。ホログラムプロセッサによって3次元シーンのホログラフィック情報でエンコードされた空間光変調手段は「ビデオホログラム」を表示する。画像化手段を用いてコヒーレント光により照明されるビデオホログラムの相互作用は「変調された波(被変調波)」を発生させる。この被変調波は、ビデオホログラムのフーリエ変換の形で目の位置へ向かって伝搬する3次元の光分布であり、この光分布によって干渉によるシーンの再構成が行われる。上記画像化手段は「被変調波の伝搬方向」を画定する。この伝搬方向は「光波トラッキング手段」により変更することができる。光学エレメントがホログラムへ向かう途中に配置されているか、光学エレメントの有効な方向がビデオホログラムへ向かう方向である場合、光学エレメントは「ホログラム側」と呼ばれ、光学エレメントが観察者の目の位置へ向かう途中に配置されているか、光学エレメントの有効な方向が観察者の目の位置の方へ向けられている場合には、光学エレメントは「観察者側」と呼ばれる。「可視領域(visibility region)」とは、システムの射出瞳(exit pupil)として観察者側の目の位置に配置されている空間について記述する用語である。ホログラフィックに再構成されたシーンを観るために観察者の少なくとも片方の目はこの空間に位置していなければならない。本明細書における場合のように、投影システムが目の現在位置に従って被変調波をトラッキングする光波トラッキング手段を含む場合、波がトラッキングできる対象となるすべての目の位置を含む空間は「トラッキング範囲」によって画定される。この主題に関する技術文献では、このような投影システムは目をトラッキングする装置を備えた投影システムとしても知られている。
【0008】
本発明の出願人は、「ビデオホログラム及びビデオホログラムを再構成する装置」というタイトルの特許文献1において、ホログラフィックな再構成システムをすでに開示している。これはホログラフィックな再構成シーンをトラッキングする1つの可能性について記述するものである。
【0009】
上記再構成システムにおいて、波は空間光変調手段によってホログラフィック情報で変調される。被変調波は、ホログラフィックシステムの外側の仮想的な再構成空間に干渉による3次元シーンを再構成する。前記再構成空間は単数又は複数の観察者の片方又は両方の目の正面に配置される。これを行うために、被変調波は、空間光変調手段を通じて再構成システムの観察者側から出射する。広い視野範囲を達成するために、システムの射出瞳の表面積を可能なかぎり広くすることが望ましい。次いで、光変調手段の解像度を効率良く利用するために、再び合焦手段を用いて、瞳孔の寸法に合わせて再構成空間のサイズを目の近くで縮小するようにすることができる。そのために、この再構成空間は、再構成シーンまでの観察者との間の距離が大きくなるにつれて、3次元シーンの大きなオブジェクト全体を示すことができるように、可能なかぎり広い頂角(apex angle)を持つ錐台(frustum)の形状を有していることが望ましい。観察者の少なくとも1つ以上の目が再構成シーンを観るために位置していなければならない可視領域は、合焦光学系(focussing optical system)のフーリエ平面において再構成空間の観察者側の終端部における目の位置から始まる。空間光変調手段の照明装置はこの領域において画像化される。この領域は、本願発明者の以前の出願の多くにおいて観察者ウインドウとも呼ばれているものである。
【0010】
合焦に起因して錐台形状(frustum-shaped)となる再構成空間は、観察者の目が可視領域の内部に完全に位置していない場合、3次元再構成の視認性に伴う問題を引き起こすことになる。観察者のわずかな横への動きが、視認性の消失、口径食(vignetting)、又は空間周波数スペクトルの歪みのような結果を引き起こすことになる場合がある。さらに、目の位置が可視領域の外側に在る観察者には再構成空間の境界が見わけ難くなる。このため、観察者が移動する場合、波の出射方向を仮想的な再構成空間と共に新たな目の位置に適応させることが望ましい。上記を達成するために、ホログラフィックな再構成システムは、光変調手段の照明装置全体又はその個々の部分を変位させることができる。
【0011】
非特許文献1には、ホログラフィックな再構成シーンをトラッキングするための他の光学的トラッキング手段についての記載がある。2つの小型の空間光変調器が、空間的に多重化されたプロセスにおいて被変調波を個々に発生させるが、これは観察者の個々の目の位置に対して再構成シーンを提供するためである。垂直方向及び水平方向に回転可能なトラッキングミラーが再構成シーンの中心に、即ち、ホログラフィック表示の外側に、又は、さらに詳しく言えば表示パネルと観察者との間に配置される。従って、当該システムは、再構成シーンの周りの切り取られた円形路上でトラッキングできる2つの狭い観察者用ゾーンを同時に生成して、観察者の次の横への動きに追従できるようにする。上記トラッキングミラーの外部にある位置の他に、別の問題点として、観察者の視方向がミラーからの偏向に起因して横方向になるという問題点、並びに、当該視方向が円形路に沿った側部セグメントに実質的に限定されるという問題点が挙げられる。当該再構成システムは、上記出願の解決手段の場合のように、光変調器の照明装置を変位させることによって、目の位置の長手方向の動きを補償するものとなる。
【0012】
「適応光学系(adaptive optics)を備える顕微鏡」というタイトルの特許文献2には、適応的に制御可能な光学系が開示されている。オブジェクトと対物レンズとの間の軸方向の距離を変えることなくオブジェクト空間の内部において焦点を移動させることができるように光波を変更するための波面変調器が、顕微鏡の光学的観察と照明経路とにおける接眼レンズと対物レンズとの間に配置される。この波面変調器は位相変調を実現し、それによって対物レンズの瞳孔平面において、あるいは、瞳孔平面に相当する平面において画像波面を球形に変形する。さらに、光学系は、対物レンズの影響に起因して曲げられた波面を、適宜局所的に適応させる変調器の調整によって修正することができる。
【0013】
波面変調のための光学系は、電気的に制御される変形可能なミラーを用いるような反射型の光学系であってもよいし、あるいは、LCDパネルを用いるような透過型の光学系であってもよい。光学系は個別に可動なセグメントを含むものであってもよい。これらのセグメントは波面における局所的収差を補償できるように制御可能である。オブジェクトにおける焦点の位置は波面の球面補正によって軸方向に変位され、波面は横方向の変位に起因して傾斜される。適応型光学系は、角度固有の収差を修正できるように、複数のセグメントにおいて制御可能でなければならない。上記とは別に、異なる瞳孔平面に配置される2つの独立した変調器が用いられる。すべての操作が光路の瞳孔平面において実行される。
【0014】
「シーンのホログラフィック再構成のための投影装置及び投影方法」というタイトルの特許文献3には、平面光波LWが、干渉を生成可能な光で空間光変調器の表面全体を照明するホログラフィック投影システムについての記載がある。ホログラムプロセッサHPが、所望の3次元シーンのホログラフィック情報で光変調器を動的にエンコードする。従って、エンコードされた変調器は動的なビデオホログラムを表示することになる。光変調器は透過モードで機能する(即ち干渉を生成可能な波が変調器の中を通過する際、その波を変調する)ことができる。あるいは、光変調器は制御可能な反射器としての役割を果たすことができる。
【0015】
本発明の理解のためには投影システムの機能的な原理についての知識が必須であるため、図1を参照しながら典型的な投影システムについて説明する。しかし、本発明の着想は他の投影システムを用いて理解することも可能である。
【0016】
ホログラフィック装置HU内の光投影システムLは、空間光変調器SLM上にエンコードされたビデオホログラムを拡大して、合焦表示スクリーンSと同一の空間を占める像平面に画像化する。これによってビデオホログラムの空間周波数スペクトルが、光投影システムLの画像側の焦点面(フーリエ平面FTL)上に形成される。変調器セルのマトリックス構成に起因して、変調器セルは空間的にかつ等距離に波を変調する。その結果、周期的な空間シーケンス内の異なる位置に存在する複数の回折次数がフーリエ平面FTLにおいて形成される。合焦表示スクリーンSは、すべての回折次数をスクリーンSの焦点面に画像化するとともに、観察者は、可視領域の外側にある一方の目でこれらの焦点面を見ることになり、即ち他方の目にはビデオホログラムのコンテンツは提供されない。フーリエ平面FTLに配置されている空間周波数フィルタAPは、当該フィルタAPが1つの回折次数を選択するとき、上記コンテンツの提供を阻止する。従って、合焦表示スクリーンSは、目の位置PE0の正面の焦点面FLに、被変調波の所望の回折次数を単に画像化することになる。観察者は、目の位置PE0の後方にある再構成された3次元シーン3DSを観ることが可能となる。
【0017】
図1aに示す例では、表示スクリーンSはレンズである。上述したように、表示スクリーンの直径は光投影システムLと比べて非常に大きくすることが望ましい。従って表示スクリーンSは好ましくは凹面ミラーであることが望ましい。
【0018】
拡大と合焦が行われた波が表示スクリーンを通ってシステムから出た際に、再構成のみが行われるようにビデオホログラムはエンコードされる。
【0019】
しかし、本システムにおいても再構成シーン3DSは再構成空間内に固定されている。そのため、観察者の少なくとも片方の目が目の位置PE0の後方にある物理的には不可視の可視領域内に直接位置していれば、この再構成シーンのみが可視状態となる。追加の波トラッキング手段が用いられる場合でも、再構成シーン3DSの視認性の喪失や制限のないシステムの正面における制限のない移動性が、再び可能となるにすぎない。
【0020】
観察者の移動時に、再構成されたシーンが何の制限もなく可視状態であれば、位置コントローラCUは、光波トラッキング手段WTDを利用して、それぞれの観察者の目に従って被変調波全体の光路をトラッキングして、図1bに示すように再構成空間の終端部が常にそれぞれの観察者の目PE1の近傍に存在するようにしなければならない。これを行うために、上記の典型的な投影システムは、観察者の目の現在位置を検出すると共に、位置コントローラCUを利用して被変調波の光路を制御する、それ自体公知のアイファインダを備え、後者の被変調波は目の現在位置PE1へ向けて送られるようになっている。個々の観察者の目に対してある特定の波を供給するシステムにおいて、所望の目の位置は、現在エンコードされたビデオホログラムに一致する観察者の目の位置の後方にある位置となる。他方の目の位置ではビデオホログラムは目に見えてはならない。
【0021】
目の位置PE1へ向かう光軸の傾きに起因して、拡大された被変調波が常に表示スクリーンSの限られたセクションを通してのみ再構成システムから出射するため、図1bでわかるように表示スクリーンSはさらに広いものでなければならない。表示スクリーンSの広いセクションA0は、移動する目の位置に従って変動するが、その場合常に未使用のままとなる。このような解決手段は、実際の使用はかなり困難で、かつ、コストがかかり、あまり使い勝手が良くない。
【0022】
本願で意味する可視領域が、観察者の少なくとも片方の目の正面における、フィルタリングされたビデオホログラムの空間周波数スペクトルの画像であることは、上記の説明から明らかになる。この領域のサイズは、再構成用として用いられる個々の変調器セル間の距離(即ち光変調器のピッチ)、及び、光学系全体の焦点の長さと光の光路長との双方に応じて決められる。後者の2つの長さ(光学系全体の焦点の長さと光の光路長)の関係は本発明の文脈において重要性を有するものである。これらの関係は、視認性及びサイズのような所望の再構成の特性が、光学系全体の焦点の長さ、及び、特に波部分の歪みを示す形状を成す被変調波の光路長に影響を与えるすべての光学パラメータに依存するという効果を有する。
【0023】
本投影システム内の光波トラッキング手段がシステムの内部に配置されていることに起因して、被変調波の伝搬方向は、目の位置Pに依存する種々の入射角に対応するスクリーンの軸線と同一の方向にはならない。波トラッキングの所望の動作範囲に依存して、この偏差は、スクリーンの法線の周り約±5度の範囲(即ちガウス領域としても知られている無収差領域をはるかに超えた範囲)になる場合もある。このことは、被変調波の光学的トラッキングを備えた投影システムでは、被変調波を空間的に拡大する完全な画像化に必要な条件から大きく外れることを意味する。
【0024】
被変調波が光学系から出射するとき、この被変調波の変動する伝搬方向は、表示スクリーンSが出射波の空間構造に対してバイアスをかけるという効果を有し、当該空間構造は実際の伝搬方向に依存する収差部分も含むものとなる。広い合焦表示スクリーンSに作用する光学的に拡大された波は、特に球面収差、コマ(非対称収差)、フィールド曲率、非点収差及び歪みのような収差に敏感に反応する。主としてフィールドサイズ(即ちフィールド収差)に依存して生じる収差は、目の位置が非常に遠くにある場合に干渉を生じる当該収差の変動部分が特に妨害を引き起こすことになる。種々の強度の収差が、目の位置に依存して垂直方向及び水平方向に出現する場合もある。合焦表示スクリーンを含む本ホログラフィックな再構成原理に基づいて、空間周波数フィルタにより選択されたビデオホログラムの回折次数の画像による再構成が実現可能となるため、再構成に先行するシステム固有の波の収差は、入射角が大きくなるにつれて極めて大きな障害を引き起こす可能性がある。
【0025】
上記説明した投影システムが、実現可能な空間光変調器を利用して回折次数のオーバラップを防止する光変調手段の特有のエンコーディングも利用するため、シーンの特定のオブジェクト光点を再構成する際に、従来の投影システムでは知られていないフィールド収差も生じることになる。この特別のケースでは、ホログラムプロセッサは限定されたホログラム領域内の光変調手段における個々のホログラム点のみをエンコードする。この結果、軸線の近くでエンコードされるオブジェクト光点とは異なり、ホログラム領域の周縁においてエンコードされたオブジェクト点は、収差による影響を受けることになる。収差及び当該収差により生じる口径食は、被変調波が向かう目の位置に大きく依存する。この結果、或る種のオブジェクト点が全く再構成されなくなるか、若しくは誤った空間深度(spatial depth)で再構成されるか、又は、個々のオブジェクト点が可視領域内に出現しなくなる。このため、表示スクリーンの領域の周縁からの光波が、個々の目の位置に対応する可視領域に必ず到達できるようにすると共に、オブジェクトの光点を正確な空間深度で再構成できるようにするための対策を講じなければならない。合焦表示スクリーンを備えた再構成システムのエンコーディングに関するさらなる詳細については、本願出願人による特許文献4に開示されている。
【0026】
また、カラーのビデオホログラムが再構成される場合、異なる長さの光波によって、波長に対する屈折率の依存状態(散乱としても知られている)がシステム内のレンズにおいて生じることになる。この散乱は、ビデオホログラムのカラー合成に必要な三原色の色収差を引き起こすことになる。これらの色収差は、主として可視領域の異なるサイズ及び位置という形で観察者により知覚される。
【0027】
従って、表示スクリーンの正面において少なくとも1つ以上の可動なミラーを用いて波をトラッキングする投影システムは、いくぶん異なる位置固有の出射波のジオメトリ(geometry)の変化をもたらすという効果を有し、波の方向の個々のシフトが、一方で観察者の位置の変化の結果として生じると共に、他方で異なる目の位置の間での時分割多重化されたスイッチング処理の結果として生じることになる。特定の露出した(exposed)目の位置の場合、ジオメトリの変化が重要となる場合があり、この変化に起因してシーンの良好な再構成を行うことができなくなる場合もある。従って、所望のトラッキング範囲内における観察者の個々の目の位置について、及び、三原色の各々について、波形のある特定の補正処理を実現し、それによって波が恒常的な幾何学特性と光学特性とを有するようにする波形補正手段が望まれることになる。本ケースにおいて、光波補正部は、特に、時分割多重化処理時に異なる目の位置の間で切り替えを行う投影システムにおいて、異なる補正設定の間で非常に高速に切り替えを行うことが可能である必要がある。
【0028】
所望の広いトラッキング範囲において、多くの干渉する異なる収差の相互作用によって引き起こされる累積収差が、個々の目の位置の間で大幅に変動する可能性があるため、一定の光学手段を利用した収差補正は不可能となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0029】
【特許文献1】国際公開第2004/044659号
【特許文献2】国際公開第1999/06856号
【特許文献3】国際公開第2006/119760号
【特許文献4】国際公開第2006/119920号
【非特許文献】
【0030】
【非特許文献1】N. Fukay et al.,“Eye-Position Tracking Type Electro-Holographic Display Using Liquid Crystal Device”, published in Asia Display 1995, pp. 963-964, XP002940561.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0031】
本発明は、一連のビデオホログラムでエンコードされた空間光変調手段が、ホログラフィック情報で干渉を生成可能な波を変調するホログラフィックな再構成システムに基づくものである。被変調波は、観察者の少なくとも片方の目に対応し、かつ、3次元シーンを好適に再構成するためのホログラフィック情報を含む。再構成シーンは、観察者側の再構成システムの外側の、表示スクリーンの正面に出現する。
【0032】
さらに、ビデオホログラムを画像化する画像化手段と、光波をトラッキングする位置コントローラとがシステムの内部に追加的に配置される。波トラッキング手段は、被変調波が対応する観察者の目の現在位置に従って被変調波の伝搬方向を調整する。位置コントローラは、波トラッキング手段を動的に制御するために、目の現在位置を表す位置情報を用いる。これによって、所望のトラッキング範囲内において観察者の個々の位置が変動している間、被変調波の伝搬方向が観察者の目に追従するようにする。
【0033】
特許文献3に開示されているような投影システムにおけるアプリケーションの場合、所望のホログラフィックな再構成シーンが表示スクリーンとシステムの画像側の焦点との間にある再構成空間に出現するように、表示スクリーンは被変調波を合焦する必要がある。
【0034】
要約すれば、本発明の目的は、目の現在位置とは独立に実現される光波トラッキング部と、計算手段を用いてリアルタイムに制御され得る制御可能な光波補正部とを有するホログラフィック投影システムを提供することである。本明細書において、「リアルタイム」という用語は、システムが異なる目の位置に対してビデオホログラムを出力する同一のホログラム周波数で、ということを意味する。一般的収差に加えて、変調され処理された波の構造における動的変化と変形とを、波補正処理によってできる限りさらに低減することが望ましい。これらの動的変化と変形とは、主として、合焦表示スクリーンにより影響を受ける、変調され、光学的に拡大され、かつ、方向付けられた波の伝搬方向の変化から結果として生じるものである。
【0035】
さらに、波補正処理は、波トラッキング装置と一体として、可能なかぎり広いトラッキング範囲内にある、非常に離れた位置間における迅速な位置変更をサポートできることが望ましい。再構成されたシーンは、エラーを伴うことなくかつ一定の品質で、所望のトラッキング範囲内にある任意の可能な目の位置から可視状態となることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0036】
本発明によれば、光波補正部は、制御可能な波形成手段と、目の現在位置を表す位置情報に基づいて波形成手段の光学的挙動を制御する計算手段とを備える。制御可能な波形成手段は、空間光変調手段用の照明装置と投影システムの表示スクリーンとの間にある光路に配置される。所望の目の位置を表す位置情報に基づいて、計算手段が、波形成手段の少なくとも位相制御と方向制御とを修正する波形成手段用の制御データを、波トラッキング装置が制御する個々の目の位置毎に計算し、それによって、目の位置の後方に知覚される再構成された3次元シーンが、可能な場合、目の現在位置とは無関係に常に同一の表示ジオメトリと、原シーンの光学的品質とを保持するようにする。この同一の表示ジオメトリが意味することは、再構成空間内で個々の観察者の目が同じ距離になるようにして、光点の空間的位置に関して観察者の目から可能なかぎり正確に見ることが可能な光点がシステムにより再構成されるということである。
【0037】
一般に、ホログラフィック情報で波が変調される位置において、波形を事前に変更することが可能である。ホログラフィック投影システムからなる従来方式の空間光変調手段は、所望の3次元シーンのホログラフィック情報により干渉を生成可能な光波の位相を変調するものであり、この空間光変調手段は非常に良好な解像度を有する。それにより、当該変調手段は、光学系内の収差に起因して生じた被変調波にバイアスがかけられる前に事前に補償を行うことができるように、光波の個々の任意の部分に対して個々に構造化された修正形態を与えることができる。これを行うために、ホログラフィック情報を含む上記空間光変調手段は少なくとも部分的に波を形成することができる。波補正処理のこの特別のケースでは、計算手段は、ホログラフィック情報に加えて、目の現在位置を表す固有の制御情報を含むホログラム値で、空間光変調手段をエンコードする
【0038】
しかし、トラッキング範囲が広い場合、波形内の多くのエラーを技術的に防止することが不可能であるため、空間光変調手段は、波補正処理を行う追加タスクを有している場合、非常に広い機械的変調範囲を実現する必要がある。この波補正処理を行うのに十分な変調範囲を有する高解像度の空間光変調器はまだ知られていない。従って、本発明によれば、光波補正手段は、被変調波を提供する空間光変調手段に加えて、被変調波ホログラムと表示スクリーンとの間における被変調波の光路に、波補正処理を行うための少なくとも1以上の制御可能な波形成装置を備えるものとなる。この場合、前記波形成装置は、空間光変調手段よりも低い解像度を有しているが、この波形成装置の光学的挙動をさらに広い変調範囲で局所的に制御することが可能である。
【0039】
本発明によれば、目の現在位置を表す位置情報に基づいて、かつ、光学的再構成システム全体における異なる目の位置への光路に関連する複素伝達関数についての内部に保存された記述(情報)を用いて、計算手段は、収差を受けている波の形状の偏差を推定する。というのは、この偏差は、システマティックな光学的エラーに起因して目の現在位置において生じることが予想されるからである。上記形状の偏差に基づいて、計算手段は、波形成手段を制御する補正データを計算し、それによって、ホログラフィックな再構成のために最適化された波形が、表示スクリーンの観察者側において目の現在位置へ向けて伝搬するようにする。ここで、前記波形は、目の現在位置の後方にある可視領域において目にとって高品質に3次元シーンを再構成する。
【0040】
制御可能な波形成手段は、光波の位相構造及び伝搬方向のエラーの局所的な修正を、波のサブ領域において意図的に行い、これによって被変調波の変形を補償する。この変形は、上記補償が行われなければ、再構成シーンが再構成空間に出現する直前に、方向付けられた被変調波が受けたであろう変形である。変調された光波のフィールド分布における光学的エラーを補正するために、光波形成手段はビデオホログラムの中間画像の平面に配置されることが望ましい。
【0041】
本発明の主要な利点として、波の変形を検出するための複雑でかつコストのかかる波センサを用いることなく、従来技術の適応型光学系において用いられているように、目の位置固有の変形を補正することが可能になるという点が挙げられる。単独で光波をトラッキングするための位置コントローラにより供給される、目の現在位置を表す情報は、光学系の保存された伝達関数を利用しつつ、ソフトウェア手段を用いて光波形成手段用の制御情報を計算するのに十分である。
【図面の簡単な説明】
【0042】
【図1a】観察者の顔によって目の第1の位置が画定されるホログラフィック投影システムを示す平面図である。このシステムは、上記説明の導入セクションにおいて本願出願人により説明されたものであり、特許文献3にすでに開示されている。
【図1b】ホログラフィックに変調された波の光軸をそれぞれの観察者の異なる目の位置へ向ける制御可能な光波トラッキング手段を備えた投影システムを示す図である。同様に、このシステムも上記説明の導入セクションにおいて説明されたものであり、独国特許出願第10 2006 024 092.8号にすでに開示されている。
【図2】図1bに示す波トラッキング手段と比較して、改良された波トラッキング手段を示す側面図である。
【図3】本発明に係る光波補正手段を備えたホログラフィック投影システムの一般的設計を例示する側面図である。
【図4】本発明に係る異なる種類の光波補正部を備えたホログラフィック投影システムの詳細図である。
【発明を実施するための形態】
【0043】
以下では、複数の実施形態及び添付図面を用いて本発明による解決手段についてさらに詳細に説明する。
【0044】
本発明に係る波補正部を備えた投影システムの典型的な実施形態において、当該投影システムは、目の位置において終端する別個の仮想的な再構成空間内にある少なくとも1つ以上の再構成シーンを個々の観察者のために提供する。これを行うために、システムは、時分割多重処理及び空間分割多重処理の少なくとも1つの処理を行う際に、少なくとも1つ以上の被変調波を個々の観察者に対して生成する。この被変調波は、異なる目の位置において表示スクリーン上の出射位置を通って、制御可能な光波トラッキング手段へ向けて送られる。
【0045】
次に図2を参照しながら本発明の基礎となる技術的問題について解明のための説明する。
【0046】
投影システムは、空間光変調器SLMを備えたホログラフィック装置HUを備える。前記装置は、上記の図1aを参照しながら説明した投影システムから実質的に公知のものである。ホログラフィック装置HUの次に、無限焦点レンズ系AFが続く。別個の再構成シーンを個々の目の位置Pに対して提供するために、ホログラムプロセッサ(図示せず)は、時分割多重化処理時に、装置HUの空間光変調器SLMを異なるビデオホログラムで交互にエンコードする。これらのビデオホログラムはそれぞれの観察者の目に対応し、さらに、観察者の両眼の間が離れている分だけ視差は異なるものになる。トラッキングミラーM1の形式の、光波トラッキング手段の第1の部分は、任意の方向に任意の度数だけ回転できるようになっており、変調された光波LWmodの中心に(好ましくは無限焦点レンズ系AFがビデオホログラムの中間画像を形成する位置に)配置される。
【0047】
本明細書において、無限焦点レンズ系は無限大の焦点距離を有するレンズ系であり、これにより当該レンズ系は、視準された光波を受信すると共に、再度視準されてこれらの光波を出射する。
【0048】
図2に示す実施形態において、トラッキングミラーM1は、位置コントローラを備えた計算手段CUとリンクされる。この位置コントローラは、アイファインダEFによって提供される位置情報に基づいてトラッキングミラーM1の傾きを制御する。計算手段CUは、目の位置Pに応じてトラッキングミラーM1の傾きを間接的に制御する。この制御によってトラッキングミラーM1は、反射方向Dの固定位置に配置されている、光波トラッキング手段の第2の部分上へ、被変調波LWmodを反射する。
【0049】
走査ミラーとは対照的に、トラッキングミラーM1は、制御可能な反射方向Dにおける干渉に寄与する被変調波LWmodのすべての光波を同時に反射する。
【0050】
上記第2の部分は、反射面RAを有する、広い固定された傾斜ミラー(tilted mirror)M2である。当該反射面の一部は、トラッキングミラーM1の実際の傾きとは無関係に、トラッキングミラーM1から反射された波の光路の中に常に存在する。また、当該反射面は、反射波が再構成システムから出る前に、目の位置Pに反射波の方向を変更する。従って、位置コントローラは、単にトラッキングミラーM1の傾きを変えることによって、装置HU全体の動きに起因して生じるのと同一の効果を達成することになる。
【0051】
変調され、すべての所望の目の位置Pに対して方向を変更された波に関して同様の光路長を実現するために、傾斜ミラーM2の反射面MAは楕円面の一部として形成されるとともに、トラッキングミラーM1は楕円面の一方の焦点に配置され、かつ、表示スクリーンの中心は他方の焦点に配置される。傾斜ミラーM2は、このミラーが凹面ミラーであることに起因して、フィルタリングされたビデオホログラムの中間画像を拡大して表示スクリーンS上へ画像化する。それと同時に、傾斜ミラーM2は、フィルタリングされた空間周波数スペクトルを、表示スクリーンSの正面の空間に中間瞳孔(intermediate pupil)の形で画像化する。この中間瞳孔は、図2において「瞳孔」という語でマークされている。中間瞳孔の位置は、波トラッキング装置によって制御される目の位置に依存する。合焦表示スクリーンSは、目の位置PE1に対応する可視領域に、射出瞳として中間瞳孔を画像化する。ホログラフィックな再構成シーンが、表示スクリーンと目の位置PE1との間に伸びる錐台の中に出現する。図2は、表示スクリーンSが第2の中間画像を、垂直な目の位置PE0と比較して大きな画角で目の位置PE1上へ中間画像画像化することを示す。表示スクリーンSは可変の画角で出現するため、後者の第2の中間画像の画像化は、再構成処理に先行して位置固有の波の変形を引き起こす最終的な原因となる。
【0052】
本発明に係るコンピュータ制御による波補正処理を用いることによって、この波の変形を補正することが可能となる。
【実施例】
【0053】
ホログラフィック投影システムが、レンズの形式の透過型表示スクリーンを備えているか、あるいは合焦凹面ミラーの形式の反射型表示スクリーンを備えているかは、以下の実施形態において重要なことでない。両方の種類の表示スクリーンSは、同様の位置固有の波の変形を生じさせる。しかしながら、透過型表示スクリーンの場合、さらに色収差が生じる。
【0054】
波は少なくとも1つ以上の光波形成装置を用いて補正される。この光波形成装置は、一般に投影システムの内部にある光路内の種々の位置に配置され得る。しかしながら、主要な必要条件として、当該波形成装置は、空間的にフィルタリングされたビデオホログラムの中間画像が位置付けられる光路の中に配置されなければならない。
【0055】
特に効率のよい波補正処理は、光波トラッキング手段の第1の部分の正面において事前に行われる管理可能な労力によって実現される。図2に示すように、回転されるトラッキングミラーM1は、光波トラッキング手段の第1の部分である。
【0056】
図3は本発明のこのような実施形態を示す図である。一連のビデオホログラムが、光波により照明される空間光変調器SLMにおいてエンコードされる。無限焦点レンズ系AF1が、現在のビデオホログラムの空間スペクトルを変調された光波の中に生成し、さらに、空間周波数フィルタAPが、前記スペクトルの中から1つの回折次数をフィルタリングする。無限焦点レンズ系AF1は、ビデオホログラム(以後フィルタリングされたビデオホログラムと呼ぶ)のフィルタされた回折次数を無限大の空間の中へ画像化する。
【0057】
上述のコンポーネントは、そのようなものとして公知のホログラフィック装置HUを構成する。
【0058】
本発明によれば、光波補正部の一部として機能する電子的に制御可能な波形成装置WFFが、ビデオホログラムのフィルタリングされた回折次数の中間画像の中に存在し、さらに前記波形成装置が、制御値に従って、波の複数の部分において複数の光波長にわたる位相を変更することが望ましい。波形成装置WFFは、計算手段CUにより提供される制御信号に従って、変調された波面の個々の部分における位相を個別に変更する。図3に示す実施形態によれば、計算手段CUは、位置コントローラと波補正コントローラとを備える。本実施形態では同様に、計算手段CUは、観察者の目の現在位置Pを定義する位置情報をアイファインダから受信する。波形成装置WFFにより修正された中間画像を無限大の空間の中へ画像化する別の無限焦点レンズ系AF2は、変調された光波の光路の中に在る波形成装置WFFの観察者側に配置される。トラッキングミラーM1は、画像化が行われる光路の中に配置される。
【0059】
図2を参照しながら説明したように、トラッキングミラーM1は光波トラッキング手段の第1の部分である。図3に示す投影システムの残り部分は、図2に示す波トラッキング手段と同様に機能する。トラッキングミラーM1は波形成装置WFFにより修正された被変調波を凹面の楕円形ミラーM2の方へ反射し、ミラーM2は、変調され修正された平行の入射波を、拡大して表示スクリーンSの近傍の中へ画像化する。トラッキングミラーM1と同様に、表示スクリーンSは、傾斜ミラーM2の反射面を表すセグメントを有する楕円面の焦点に存在する。
【0060】
ホログラフィックな再構成シーンは、表示スクリーンSによって合焦される被変調波の焦点の錐体の、目の位置Pの正面に在る表示スクリーンSの観察者側に出現する。
【0061】
本発明によれば、複数の光学エレメント、即ち傾斜ミラーM2、表示スクリーンS及びトラッキングミラーM1によって波形が変形される前に、後者のトラッキングミラーM1が非平面の表面を有している場合、波形成装置WFFは、被変調波の波形を事前に修正する。これは、波形成装置WFFが被変調波の波形を制御し、それによって光路上で後続する光学エレメントが、波の変形を補償することを意味する。
【0062】
トラッキングミラーM1は、計算手段CUの位置コントローラとリンクされている。位置コントローラと波補正コントローラとが同じ計算手段に実装されているか否かは、本発明の機能にとって重要なことではない。波形成装置WFFとトラッキングミラーM1の双方は、アイファインダEFによって供給される、目の現在位置Pに関する同一のデータ入力を用いる。しかし、2つの異なるタイプの制御データの計算は著しく異なる。計算手段CU内の位置コントローラは、波形成装置WFFに対して位置固有の波形情報を計算する。当該波形情報は、予想される波の変形を補正する補正波形を生成するための調整パターンを表す情報である。これを行うために、計算手段CUは、補正されていない光学系の予想される波の変形を、目の現在位置に固有の光学系のための伝達関数を用いて推定しなければならない。これとは対照的に、計算手段CU内の位置コントローラは、光波トラッキング手段の中のトラッキングミラーM1の傾きを制御するための、トラッキングミラーM1用の角度データを計算する。この角度データは楕円面のパラメータに依存する。
【0063】
本発明の好ましい実施形態によれば、波形成装置は、それ自体公知のものであり、反射面の形状を局所的に変更する電気機械的アクチュエータ手段を備える少なくとも1つの制御可能なミラーである。再構成されたオブジェクト点の追加的な周期的連続(additional periodic continuations)の発生を防ぐために、ミラーは可変的に制御可能な、連続した表面形状を示すことが望ましい。この表面形状は、例えば、個々に制御可能な多数の調整位置を有する公知の電気機械的アクチュエータが、連続した弾性を有するミラー表面を可変的に変形することによって反射器の所望の形状を実現するという点で実現可能である。このような波形成装置は、ビデオホログラムがエンコードされる高解像度の空間光変調器SLMよりもさらに大きな位相シフトを実現することができる。従って、及び、連続したミラー表面に起因して、空間光変調器SLMの変調器セルと反射面との間の正確な対応によって問題が生じることはあり得ないことになる。
【0064】
本発明について、制御可能な波形成手段の機能が複数の波形成装置によって実現される実施形態も考えることができる。その場合、個々の波形成装置は中間画像の位置に配置されなければならない。ホログラム側にある第1の波形成装置は、フィルタリングされたビデオホログラムの像内に配置される。その限定された制御可能な位相の動態(dynamics)を考慮すれば、空間光変調器SLMも被変調波用の第1の波形成装置として用いることが可能である。
【0065】
観察者側の別の任意の波形成装置も、追加の画像化手段を必要とする。それまでの波形成装置により修正された後、ビデオホログラムの画像は、上記画像化手段によって次の波形成装置上へ画像化される。
【0066】
図4は、直列に接続された波形成装置WFF1及びWFF2を備えた一実施形態を示す図である。波形成装置WFF1、WFF2は連続的に制御可能なミラーである。これらの波形成装置のうちの一方として、例えば縦方向にのみ形状の調整を実現する円筒形状のミラーがある。さらに、他方の波形成装置として、横方向にのみ形状の調整を実現する円筒形状のミラーがある。相対的に容易に実現可能な技術的な解決手段を活用して、波形成装置の設計に関する限り、フィールド収差のような角度固有の変形を補償することが可能となる。波形成装置WFF2は、ビデオホログラムの画像が波形成装置WFF1により修正された後、当該画像を波形成装置WFF2上へ画像化する無限焦点レンズ系AF2を必要とする。無限焦点レンズ系AF3は、専らトラッキングミラーM1(図4には図示せず)などの波トラッキング手段上へ補償された波を画像化する。波形成装置WFF1、WFF2が異なる方向に波を変更するため、かつ、空間光変調器SLMが最終的な補正用の高解像度の波形成装置として用いられるため、計算手段CUは個々の波形成装置に対して別個の制御信号の計算を行う。計算手段CUは、空間光変調器SLM用の制御信号をビデオホログラム系列の符号上に重ね合わせる。
【0067】
本発明の好ましい拡張によれば、波形成装置WFF1、WFF2と、さらに別の波形成装置がある場合には、例えば解像度及び位相シフトの少なくとも1つに関して設計上異なるものとなる。同様に構造的な制御も異なる場合がある。これよって、計算手段がセグメントにおいて光学特性を別々に変更する場合に、既知の非対称の波形成装置が他の中間画像の位置に配置される一方で、球面の調整が行われることのみを可能にする既知の波形成装置を、例えば、中間画像の位置にあるシステムの光路に配置することが可能となる。
【0068】
本発明の好ましい実施形態によれば、複数の波形成装置を含むシステムの配置構成バージョンにおいて、計算手段は、位相構造における解像度及び位相変調のために実現すべきシフトを考慮に入れながら、計算済みの補正データを評価する。この評価処理の結果として、可変部分における補正データ成分が個々の波形成装置に対して割り当てられる。狭い変調範囲と高い構造的な解像度を特徴とする補正波形を含む第2のデータセットが空間光変調器SLM上に重ね合わせられる一方で、広い変調範囲と低い構造的な解像度を特徴とする補正波形を含む第1のデータセットが波形成装置WFF1及びWFF2に対して割り当てられる。
【0069】
本発明のさらなる実施形態によれば、計算手段は少なくとも1つの波形成装置を制御し、それによって、当該波形成装置は、目の現在位置に従って投影システムの焦点全体を制御することにより被変調波をトラッキングする。これを行うために、光波補正手段の複数の部分は、可変の焦点距離を有する、球形に制御可能な少なくとも1つのミラーを備えている。位置コントローラは、目の現在位置に関する情報に基づいて、システムの焦点の長さを目の位置Pと表示スクリーンSとの間の実際の距離に適応させるために、球形に制御可能なミラーを少なくとも部分的に制御する。このようにして、位置コントローラは投影システムの可視領域を軸方向の変位によって目の現在位置Pに適応させることが可能である。
【0070】
本発明のさらに別の実施形態によれば、目の現在位置の横方向への変化をトラッキングできるように、波形成装置の傾きが可変となるように少なくとも1つの波形成装置がサポートされている。従って、この波形成装置は、光波トラッキング手段におけるトラッキングミラーM1の機能を同時に実現することになり、結果的にこの光波トラッキング手段を省くことが可能となる。波形成装置は、波形成装置の傾きを制御可能に変化させることによって、単一のホログラフィック装置HUを用いて、異なる目の位置に対して別個の再構成空間を時分割処理で生成することが可能である。これを実現するために、ホログラムプロセッサは、ホログラフィック装置HUの空間光変調手段の変調器セルをホログラム系列を用いてエンコードする。このホログラム系列には、現在サービスを受けている目の位置と一致するホログラム情報が交互に含まれている。それぞれのホログラム情報が含まれている当該変調された光波のみを特定の目の位置へ向けて送るために、制御装置CUは単に波形成装置を動かして、それによって当該波形成装置がホログラム系列と同期して2つの角度位置の間で振動する必要がある。小型かつ軽量タイプの波形成装置が使用されるため、この振動は十分な速度で実行され得るとともに、それによって単一のホログラフィック装置HUが、ホログラフィックな再構成を時分割多重化処理においてちらつきなしで異なる目の位置に提供可能となる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ホログラフィック投影システムであって、
画像化手段は、空間光変調器上にエンコードされたビデオホログラムを画像化し、
少なくとも1つの変調された波は、表示スクリーンの観察者側に3次元シーンをホログラフィックに再構成し、
位置コントローラは、前記変調された光波の波面が位置の変化と無関係に前記観察者側における所望の目の位置に現れるように、前記表示スクリーンの正面におけるホログラム側に配置された光波トラッキング手段を制御するために、目の現在位置の位置情報を使用し、
前記ホログラフィック投影システムは、
前記表示スクリーンの正面における前記ホログラム側に配置され、前記変調された波の形状について光波の補正を行う、制御可能な波形成手段と、
波の伝搬方向に追従する合焦表示スクリーンの収差を補償するように、目の現在位置の位置情報に基づいて、前記波形成手段の光学的挙動を制御するとともに、前記変調された波が目の現在位置とは無関係に当該目の現在位置から可視状態であるシーンのオリジナルのジオメトリに従ってシーンの光学的な外観を再構成するように、前記変調された波の光伝搬における少なくとも位相誤差を補正する計算手段と
を備えることを特徴とするホログラフィック投影システム。
【請求項2】
前記波形成手段は、
空間的にフィルタリングされた前記ビデオホログラムの中間画像の位置に、少なくとも1つの分離した波形成装置から成ることを特徴とする請求項1に記載のホログラフィック投影システム。
【請求項3】
中間画像を有する様々な位置に配置された複数の波形成装置をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のホログラフィック投影システム。
【請求項4】
前記波形成装置は、反射面の形状を局所的に変更する制御手段を有する、少なくとも1つの制御可能なミラーであることを特徴とする請求項2に記載のホログラフィック投影システム。
【請求項5】
少なくとも1つの波形成装置は、前記変調された波の断面の複数の部分を別々に変更するために、個別的に制御可能な複数のセクションを備えることを特徴とする請求項3に記載のホログラフィック投影システム。
【請求項6】
角度固有の誤差、及びフィールド固有の誤差の少なくとも1つを補正するために、異なる規模で互いに独立に制御される複数の波形成装置をさらに備えることを特徴とする請求項1に記載のホログラフィック投影システム。
【請求項7】
前記計算手段は、前記波形成手段が波形の補正と前記変調された波のトラッキングとの両方を実行するように、前記波形成手段を制御することを特徴とする請求項1に記載のホログラフィック投影システム。
【請求項8】
前記計算手段は、前記波形成手段が波形を補正するのに加えて、前記ホログラフィック投影システムの合焦手段を、前記目の現在位置と前記表示スクリーンとの間の距離に適応させるように、前記波形成手段をエンコードすることを特徴とする請求項7に記載のホログラフィック投影システム。
【請求項9】
1つの波形成装置は、前記目の現在位置の横方向の変化をトラッキングできるように、当該波形成装置の傾きが可変であるようにサポートされていることを特徴とする請求項8に記載のホログラフィック投影システム。
【請求項10】
前記波形成装置は、楕円形のミラーの焦点に位置することを特徴とする請求項9に記載のホログラフィック投影システム。
【請求項11】
請求項3に記載のホログラフィック投影システムにおいて変調された波の形状を光学的に補正する方法であって、
前記空間光変調手段は、前記波形成手段の機能をサポートし、
前記計算手段は、前記光学系の収差によって前記変調された波に歪みが引き起こされる前の事前の補正用に、光波の各セクションに対して、個別的に構造化された補正処理を行うために、3次元シーンのホログラフィック情報に加えて、前記位置制御手段の前記位置情報から得られる制御情報を含むホログラム値を用いて、前記空間光変調手段をエンコードすることを特徴とする方法。
【請求項12】
前記計算手段は、
前記目の現在位置の位置情報に基づいて、及び内部に保存された、異なる目の位置に対応する個別の光路の光学再構成システム全体の複素伝達関数の情報を使用して、前記光学系の収差に起因して前記目の現在位置に生じる収差の影響を受けた波形について、予想される形状の偏差を推定し、
前記計算手段は、
前記形状の偏差に基づいて前記波形成手段のための補正データを計算すること
を特徴とする請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記計算手段は、
構造的な解像度及び変調範囲に関する前記計算された補正データを評価するとともに、広い変調範囲及び低い構造的な解像度によって特徴付けられる補正波形を含む第1のデータセットと、狭い変調範囲及び高い構造的な解像度によって特徴付けられる補正波形を含む第2のデータセットとを提供し、
前記計算手段は、
前記第2のデータセットを前記空間光変調手段のエンコーディングに重ね合わせること
を特徴とする請求項12に記載の方法。

【図1a】
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【図1b】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公表番号】特表2010−517107(P2010−517107A)
【公表日】平成22年5月20日(2010.5.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−547683(P2009−547683)
【出願日】平成20年1月30日(2008.1.30)
【国際出願番号】PCT/EP2008/051125
【国際公開番号】WO2008/092892
【国際公開日】平成20年8月7日(2008.8.7)
【出願人】(507230267)シーリアル テクノロジーズ ソシエテ アノニム (89)
【氏名又は名称原語表記】SEEREAL TECHNOLOGIES S.A.
【Fターム(参考)】