ホログラム記録媒体およびその製造方法
【課題】 視点位置を変えることにより異なる原画像の再生が可能な計算機ホログラムを実現する。
【解決手段】 記録面20上に、3通りのグループのいずれかに所属する記録領域A1,B1,C1,…を定義する。3通りの原画像を三次元画像データとして用意し、第1の原画像Faから放出された物体光Oaと参照光Raとによって生じる干渉縞を演算によって求め、第1のグループである記録領域A1,A2,A3に記録する。第2の原画像から放出された物体光と参照光とによって生じる干渉縞を第2のグループである記録領域B1,B2,B3に記録し、第3の原画像から放出された物体光と参照光とによって生じる干渉縞を第3のグループである記録領域C1,C2,C3に記録する。各原画像ごとに、参照光の入射角度を変えて記録を行う。
【解決手段】 記録面20上に、3通りのグループのいずれかに所属する記録領域A1,B1,C1,…を定義する。3通りの原画像を三次元画像データとして用意し、第1の原画像Faから放出された物体光Oaと参照光Raとによって生じる干渉縞を演算によって求め、第1のグループである記録領域A1,A2,A3に記録する。第2の原画像から放出された物体光と参照光とによって生じる干渉縞を第2のグループである記録領域B1,B2,B3に記録し、第3の原画像から放出された物体光と参照光とによって生じる干渉縞を第3のグループである記録領域C1,C2,C3に記録する。各原画像ごとに、参照光の入射角度を変えて記録を行う。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホログラム記録媒体およびその製造方法に関し、特に、視点位置を変えることにより全く別な原画像が観察されるホログラム記録媒体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金券やクレジットカードについての偽造防止の用途として、ホログラムが広く利用されるに至っている。通常は、偽造防止対策を施す対象となる媒体上の一部に、ホログラムを記録する領域を設け、この領域内に立体像などをホログラムの形で記録することが行われている。
【0003】
現在、商業的に利用されているホログラムは、光学的な手法により、原画像を媒体上に干渉縞として記録したものである。すなわち、原画像を構成する物体を用意し、この物体からの光と参照光とを、レンズなどの光学系を用いて感光剤が塗布された記録面上に導き、この記録面上に干渉縞を形成させるという手法を採っている。この光学的な手法は、鮮明な画像を得るためにかなり精度の高い光学系を必要とするが、ホログラムを得るための最も直接的な手法であり、産業上では最も広く普及している手法である。
【0004】
また、最近では、計算機を用いた演算により記録面上に干渉縞を形成させ、ホログラムを作成する手法も知られており、このような手法で作成されたホログラムは、一般に「計算機合成ホログラム(CGH:Computer Generated Hologram )」、あるいは単に「計算機ホログラム」と呼ばれている。この計算機ホログラムは、いわば光学的な干渉縞の生成プロセスをコンピュータ上でシミュレーションすることにより得られるものであり、干渉縞パターンを生成する過程は、すべてコンピュータ上の演算として行われる。このような演算によって干渉縞パターンの画像データが得られたら、この画像データに基いて、実際の媒体上に物理的な干渉縞が形成される。具体的には、たとえば、コンピュータによって作成された干渉縞パターンの画像データを電子線描画装置に与え、媒体上で電子線を走査することにより物理的な干渉縞を形成する方法が実用化されている。
【0005】
コンピュータグラフィックス技術の発展により、印刷業界では、種々の画像をコンピュータ上で取り扱うことが一般化しつつある。したがって、ホログラムに記録すべき原画像も、コンピュータを利用して得られた画像データとして用意することができれば便利である。このような要求に応えるためにも、計算機ホログラムを作成する技術は重要な技術になってきており、将来は光学的なホログラム作成手法に取って代わる技術になるであろうと期待されている。このような計算機ホログラムに関する種々の技術は、たとえば、下記の特許文献1〜10などに開示されている。また、下記の特許文献11〜13などには、回折格子パターンを用いて疑似的なホログラムを作成する技術も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−319290号公報
【特許文献2】特開平10−123919号公報
【特許文献3】特開平11−24539号公報
【特許文献4】特開平11−24540号公報
【特許文献5】特開平11−24541号公報
【特許文献6】特開平11−202741号公報
【特許文献7】特開2000−214750号公報
【特許文献8】特開2000−214751号公報
【特許文献9】特開2001−013858号公報
【特許文献10】特開2001−013859号公報
【特許文献11】特開平6−337622号公報
【特許文献12】特開平8−21909号公報
【特許文献13】特開平8−75912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ホログラム記録媒体では、原画像を立体的に記録することが可能であり、視点位置を変えることにより、原画像を異なった角度から観察することができる。このように、平面上に立体画像を記録することができる点が、ホログラム記録媒体の大きな特徴である。ところが、最近では、異なった角度から観察すると、全く別の原画像が再生されるという、更なる特徴をもったホログラム記録媒体の試作も行われている。このように、1枚の媒体上に複数の原画像を重ねて記録する方法として、多重露光を行う方法が知られている。たとえば、第1の物体についての干渉縞を感光面に露光させた後、第2の物体についての干渉縞を同一感光面に重ねて露光させれば、2つの物体についての干渉縞を重ねて記録することができる。しかしながら、このような多重露光による方法では、先に記録した干渉縞の情報の一部が、後に記録した干渉縞の影響によって失われることになり、鮮明な再生像を得ることができないという問題がある。この問題は、多重露光の回数が増えれば増えるほど顕著になる。
【0008】
そこで本発明は、視点位置を変えることにより全く別な原画像を鮮明に再生させることができるホログラム記録媒体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1) 本発明の第1の態様は、ホログラム記録媒体において、記録面上に複数の記録領域を設け、各記録領域をN通りのグループ(N≧2)のいずれかに所属させ、第n番目(1≦n≦N)のグループに所属する記録領域内には、N通りのうちの第n番目の原画像からの物体光と、N通りのうちの第n番目の参照光との干渉縞を記録し、この記録時におけるN通りの参照光の記録面に対する各入射方向を互いに異なるように設定し、N通りの視点位置から観察したときに、それぞれ異なる原画像が再生されるように構成したものである。
【0010】
(2) 本発明の第2の態様は、上述の第1の態様に係るホログラム記録媒体において、
同一グループに所属する複数の記録領域を、記録面の全面に分散して配置するようにしたものである。
【0011】
(3) 本発明の第3の態様は、上述の第2の態様に係るホログラム記録媒体において、
同一グループに所属する複数の記録領域を、記録面上において一定の周期で規則的に配置するようにしたものである。
【0012】
(4) 本発明の第4の態様は、上述の第2または第3の態様に係るホログラム記録媒体において、
XY平面上に定義された記録面上に、X軸方向に細長い矩形からなる記録領域をY軸方向に多数並べ、Y軸方向に隣接する各記録領域が互いに異なるグループに所属するように構成したものである。
【0013】
(5) 本発明の第5の態様は、上述の第1〜4の態様に係るホログラム記録媒体において、
XY平面上に定義された記録面に対して入射する参照光を、YZ平面へ投影した場合、投影像と記録面に立てた法線とのなす角θyzがN通りの参照光すべてについてほぼ同一となり、XZ平面へ投影した場合、投影像と記録面に立てた法線とのなす角θxzがN通りの参照光すべてについて、異なる原画像の観察に必要な程度十分に異なるような設定を行うようにしたものである。
【0014】
(6) 本発明の第6の態様は、上述の第1〜4の態様に係るホログラム記録媒体において、
XY平面上に定義された記録面に対して入射する参照光を、YZ平面へ投影した場合、投影像と記録面に立てた法線とのなす角θyzがN通りの参照光すべてについて、異なる原画像の観察に必要な程度十分に異なり、XZ平面へ投影した場合、投影像と記録面に立てた法線とのなす角θxzがN通りの参照光すべてについてほぼ同一となるような設定を行うようにしたものである。
【0015】
(7) 本発明の第7の態様は、上述の第1〜4の態様に係るホログラム記録媒体において、
XY平面上に定義された記録面に対して入射する参照光と、この記録面に立てた法線とのなす角度が、N通りの参照光すべてについてほぼ同一となり、この参照光を記録面へ投影した場合、投影像とX軸またはY軸とのなす角度がN通りの参照光すべてについて、異なる原画像の観察に必要な程度十分に異なるような設定を行うようにしたものである。
【0016】
(8) 本発明の第8の態様は、上述の第1〜7の態様に係るホログラム記録媒体において、
干渉縞を記録する際に、原画像から記録面へ向かう物体光の広がり角を制限するようにしたものである。
【0017】
(9) 本発明の第9の態様は、上述の第1〜8の態様に係るホログラム記録媒体において、
N通りの各原画像を、一連の動画を構成するそれぞれ1コマ分の静止画像から構成し、視点位置を時間とともにN通りに変化させたときに、Nコマからなる動画が観察できるようにしたものである。
【0018】
(10) 本発明の第10の態様は、上述の第9の態様に係るホログラム記録媒体において、
同一の表示対象物を含む複数コマ分の静止画像によって動画を構成し、各コマにおける表示対象物の表示位置を異ならせることにより、表示対象物が移動してゆく状態を示す動画が観察できるようにしたものである。
【0019】
(11) 本発明の第11の態様は、上述の第1〜10の態様に係るホログラム記録媒体において、
特定のグループについては、更にM通り(M≧2)のサブグループを定義し、第m番目(1≦m≦M)のサブグループに所属する記録領域内には、それぞれ単色で着色されたM通りの単色部分原画像を組み合わせることにより構成される原画像のうち、第m番目の単色部分原画像からの物体光と、この物体光と同色の参照光との干渉縞を記録するようにし、白色の再生用照明光を照射して所定の視点位置から観察したときに、M通りの色をもったカラー画像として原画像が再生されるようにしたものである。
【0020】
(12) 本発明の第12の態様は、上述の第1〜10の態様に係るホログラム記録媒体において、
特定のグループに所属する記録領域をそれぞれT個の分割領域に分け(T≧2)、第t番目(1≦t≦T)の分割領域には、T個の色成分をもった原画像からの第t番目の色成分に対応する物体光と、この物体光と同色の参照光との干渉縞を記録するようにし、白色の再生用照明光を照射して所定の視点位置から観察したときに、T通りの色をもったカラー画像として原画像が再生されるようにしたものである。
【0021】
(13) 本発明の第13の態様は、ホログラム記録媒体において、記録面上に複数の記録領域を設け、各記録領域はN通りの干渉縞記録グループ(N≧1)およびK通りの回折格子記録グループ(K≧1)のいずれかに所属させ、第n番目(1≦n≦N)の干渉縞記録グループに所属する記録領域内には、N通りのうちの第n番目の干渉縞記録用原画像からの物体光と、N通りのうちの第n番目の参照光との干渉縞を記録し、第k番目(1≦k≦K)の回折格子記録グループに所属する記録領域内には、K通りのうちの第k番目の回折格子記録用原画像を回折格子パターンとして記録するようにしたものである。
【0022】
(14) 本発明の第14の態様は、上述の第13の態様に係るホログラム記録媒体において、
干渉縞を記録する際の参照光の記録面に対する入射方向と、回折格子を記録する際の格子線の配置方向と、の関係を調節することにより、干渉縞記録用原画像と回折格子記録用原画像とが、それぞれ異なる視点位置において観察したときに再生されるように構成したものである。
【0023】
(15) 本発明の第15の態様は、上述の第13の態様に係るホログラム記録媒体において、
干渉縞記録時に、N通り(N≧2)の参照光の記録面に対する各入射方向を互いに異なるように設定し、N通りの視点位置から観察したときに、それぞれ異なる干渉縞記録用原画像が再生されるようにしたものである。
【0024】
(16) 本発明の第16の態様は、上述の第13の態様に係るホログラム記録媒体において、
K通り(K≧2)の回折格子記録用原画像を、回折光の放射方向がそれぞれ異なる回折格子によって記録し、K通りの視点位置から観察したときに、それぞれ異なる回折格子記録用原画像が再生されるようにしたものである。
【0025】
(17) 本発明の第17の態様は、上述の第1〜第16の態様に係るホログラム記録媒体において、
干渉縞を、もしくは、干渉縞および回折格子パターンを、媒体表面に形成された微細な凹凸構造によって構成するようにしたものである。
【0026】
(18) 本発明の第18の態様は、上述の第1〜第17の態様に係るホログラム記録媒体を製造する場合に、
同一グループに所属する記録領域のみが露出するように、記録面を構成する感光板の表面を遮光マスクで覆い、露出した記録領域に1つの原画像を光学的に記録する工程を、グループの数だけ繰り返し実行するようにしたものである。
【0027】
(19) 本発明の第19の態様は、上述の第1〜第17の態様に係るホログラム記録媒体を製造する場合に、
各記録領域ごとに、その所属グループを考慮して、記録すべき干渉縞もしくは回折格子パターンに対応する画像データをコンピュータを用いた演算により求め、求めた画像データに基いて物理的な媒体にパターンを描画するようにしたものである。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係るホログラム記録媒体によれば、視点位置を変えることにより全く別な原画像を鮮明に再生させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】一般的なホログラムの作成方法を示す原理図である。
【図2】記録面20上の1点Q(x,y)に集まる物体光を示す斜視図である。
【図3】本発明に係るホログラム記録媒体に記録される3種類の原画像を示す図である。
【図4】図3に示す3種類の原画像を記録するために、記録面上に定義された記録領域を示す平面図である。
【図5】図3に示す第1の原画像Faを記録する作業を示す斜視図である。
【図6】図3に示す第2の原画像Fbを記録する作業を示す斜視図である。
【図7】図3に示す第3の原画像Fcを記録する作業を示す斜視図である。
【図8】図5〜図7に示す記録媒体20の側面図である。
【図9】図5〜図7に示す記録媒体20の上面図である。
【図10】図5〜図7に示す記録媒体20の平面図である。
【図11】原画像Fc上の1点Pの情報が、記録領域C1〜C3の全体に記録されることを示す斜視図である。
【図12】原画像Fc上に定義された単位線分L1〜L3上の点光源の情報が、それぞれ対応する記録領域C1〜C3内にのみ記録されることを示す斜視図である。
【図13】点光源Pijから放出された物体光のY軸方向の広がり角をξに制限した記録方法を示す斜視図である。
【図14】点光源Pijから放出された物体光のY軸方向の広がり角をξに制限し、X軸方向の広がり角をΨに制限した記録方法を示す斜視図である。
【図15】記録面上に、面積の異なる複数種類の記録領域を定義した状態を示す平面図である。
【図16】記録面上に、配置周期の異なる複数種類の記録領域を定義した状態を示す平面図である。
【図17】記録面上に、ひとまとまりの記録領域を定義したいくつかの例を示す平面図である。
【図18】一連の動画を構成する原画像の一例を示す図である。
【図19】表示対象物が移動する動画を構成する原画像の一例を示す図である。
【図20】モノクロ原画像と多色原画像との例を示す図である。
【図21】図20に示す2通りの原画像を記録するための記録領域を定義した状態を示す平面図である。
【図22】モノクロ原画像とカラー原画像との例を示す図である。
【図23】図22に示す2通りの原画像を記録するための記録領域を定義した状態を示す平面図である。
【図24】文字「A」を示す原画像およびその画素情報を示す図である。
【図25】原画像の1画素に割り付けるべき回折格子を有する画素パターンの平面図である。
【図26】図24に示す原画像を構成する各画素に、図25に示す画素パターンを割り付けた状態を示す平面図である。
【図27】図24に示す原画像の各画素の座標値を示す平面図である。
【図28】2通りの文字を表現した回折格子パターンを示す平面図である。
【図29】図28に示す2通りの回折格子パターンを重ね合わせることにより得られるパターンを示す平面図である。
【図30】本発明に係るホログラム記録媒体に記録される4通りの原画像を示す図である。
【図31】干渉縞と回折格子パターンとを組み合わせることにより、2通りの原画像を記録した状態を示す概念図である。
【図32】図30に示す4通りの原画像を記録するための記録領域を定義した状態を示す平面図である。
【図33】干渉縞と回折格子パターンとを組み合わせることにより、4通りの原画像を記録した記録媒体の第1の観察態様を示す平面図である。
【図34】干渉縞と回折格子パターンとを組み合わせることにより、4通りの原画像を記録した記録媒体の第2の観察態様を示す平面図である。
【図35】図30に示す4通りの原画像のうちの2つを記録するための記録領域を定義した状態を示す平面図である。
【図36】図35に示す記録領域に実際に記録を行った状態を示す平面図である。
【図37】図30に示す4通りの原画像のうちの3つを記録するための記録領域を定義した状態を示す平面図である。
【図38】図37に示す記録領域に実際に記録を行った状態を示す平面図である。
【図39】図30に示す4通りの原画像のすべてを記録するための記録領域を定義した状態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
<<< §1.ホログラムの基本原理 >>>
図1は、一般的なホログラムの作成方法を示す原理図であり、原画像10を記録媒体20上に干渉縞として記録する方法が示されている。ここでは、説明の便宜上、図示のとおりXYZ三次元座標系を定義し、記録媒体20(説明の便宜上、厚みをもたない媒体、すなわち、記録面自体と考えることにする)がXY平面上に置かれているものとする。光学的な手法を採る場合、原画像10として何らかの物体が用意され、記録媒体20として感光板が用意されることになる。そして、レーザ光のようなコヒーレント光を用意し、その一部を原画像10を構成する物体に照射し、別な一部を記録媒体20を構成する感光板に照射する。物体に照射された光は物体光Oとして記録媒体20へと向かうことになり、記録媒体20へ直接照射された光は参照光Rとして機能する。記録媒体20には、この物体光Oと参照光Rとの干渉縞が記録される。ここで、原画像10上の任意の1点Pを考えると、この任意の1点Pから発せられた物体光Oは、図示のとおり、記録媒体20の全面に向けて進行し、参照光Rとの干渉縞として記録媒体20上に記録されることになる。結局、原画像10上のすべての点が、同様にして、記録媒体20上に干渉縞として記録される。
【0031】
以上が、光学的な方法によるホログラム記録媒体の作成原理であるが、記録媒体20の位置に計算機ホログラムを作成するには、原画像10、記録媒体20、参照光Rを、コンピュータ上にデータとしてそれぞれ定義し、記録媒体20上の各位置における干渉波強度を演算すればよい。具体的には、たとえば図2に示すように、原画像10をI個の点光源P1,P2,P3,…,Pi,…,PIの集合として取り扱い、各点光源からの物体光O1,O2,O3,…,Oi,…,OIが、それぞれ演算点Q(x,y)へと進行するとともに、参照光Rが演算点Q(x,y)に向けて照射されたものとし、これらI本の物体光O1〜OIと参照光Rとの干渉によって生じる干渉波の演算点Q(x,y)の位置における振幅強度を求める演算を行えばよい。物体光および参照光は、通常、単色光として演算が行われる。記録媒体20上には、必要な解像度に応じた多数の演算点を定義するようにし、これら各演算点のそれぞれについて、振幅強度を求める演算を行えば、記録媒体20上には干渉波の強度分布が得られることになる。
【0032】
このようにして、記録媒体20上に定義された個々の演算点について、それぞれ干渉波の強度値が演算できたら、個々の演算点位置に、干渉波の強度値に応じた画素値を有する画素を定義すれば、これら画素の集合からなる干渉波画像を記録媒体20上に作成することができる。この干渉波画像は、記録媒体上に得られた干渉波の強度分布を示す画像ということになる。そこで、この干渉波画像に基づいて、実際の媒体上に物理的な濃淡パターンやエンボスパターンを形成すれば、原画像10を干渉縞として記録したホログラム記録媒体が作成できる。媒体上に高解像度の干渉縞を形成する手法としては、電子線描画装置を用いた描画が適している。電子線描画装置は、半導体集積回路のマスクパターンを描画する用途などに広く利用されており、電子線を高精度で走査する機能を有している。そこで、演算によって求めた干渉波の振幅の強度分布を示す画像データを電子線描画装置に与えて電子線を走査すれば、この振幅強度分布に応じた干渉縞パターンを描画することができる。
【0033】
ただ、一般的な電子線描画装置は、描画/非描画を制御することにより二値画像を描画する機能しか有していない。そこで、演算によって求めた強度分布を二値化して二値画像を作成し、この二値画像データを電子線描画装置に与えればよい。すなわち、干渉波の振幅強度値に対して所定のしきい値(たとえば、記録媒体20上に分布する全振幅強度値の平均値)を設定し、このしきい値以上の強度値をもつ演算点には画素値「1」を与え、このしきい値未満の強度値をもつ演算点には画素値「0」を与えるようにし、各演算点Q(x,y)を、「1」もしくは「0」の画素値をもつ画素に変換すれば、これらの画素の集合からなる二値画像が得られる。この二値画像のデータを電子線描画装置に与えて描画を行えば、物理的な二値画像として干渉縞を描画することができる。実際には、この物理的に描画された干渉縞に基づいて、たとえばエンボス版(画素値「1」をもつ画素部分を凸部、画素値「0」をもつ画素部分を凹部とするエンボス版、あるいは凹凸の関係がその逆のエンボス版)を作成し、このエンボス版を用いたエンボス加工を行うことにより、表面に干渉縞が凹凸構造として形成されたホログラムを量産することができる。
【0034】
上述のような方法により作成されたホログラムが記録された記録媒体を、理想的な条件の下で再生するには、記録時に用いた参照光Rと同一波長の光を同一方向から照射すればよい。すなわち、図1に示すような方向から再生用の照明光Rを照射し、これを記録媒体20の裏側から観察すれば、原画像10が立体再生像として観察されることになる。なお、クレジットカード用の偽造防止マークなどで用いられるホログラム記録媒体の場合であれば、図1に示す記録媒体20の裏側に視点を置き、参照光Rとは逆の方向(記録媒体20に対して面対称となる方向)から再生用照明光を照射して観察することになるが、この場合でも、原画像10が立体再生像として得られることになる。もっとも、通常の再生環境では、再生用照明光として、記録時に用いた参照光Rと同一波長の光を用意することは困難であり、実際には、白色に近い再生用照明光が用いられることが多い。白色の照明光を用いて再生すると、得られる再生像は白濁して観察されることになる。そこで、再生像の白濁を防ぐための一手法として、物体光の広がり角を制限する方法が知られている。この広がり角の制限手法は、本発明に係るホログラム記録媒体においても有用であるので、詳細については、§3において述べることにする。
【0035】
<<< §2.本発明の基本原理 >>>
続いて、本発明に係るホログラム記録媒体の基本原理を説明する。本発明の目的は、視点位置を変えることにより全く別な原画像を鮮明に再生させることができるホログラム記録媒体を提供することにある。そこで、ここでは、図3に示すような原画像Fa,Fb,Fcという全く別な3通りの原画像を、1枚の記録媒体上に重ねて記録し、視点位置を変えることにより特定の原画像を選択的に再生できるようにする原理を説明する。
【0036】
まず、図4に示すように、記録媒体20の記録面上に複数の記録領域を定義する。ここでは、記録面がXY平面上にあるものとし、個々の記録領域を、X軸方向に細長い矩形からなる領域として定義している。すなわち、図4の例では、9つの記録領域A1,B1,C1,A2,B2,C2,A3,B3,C3が定義されており、いずれもX軸方向に細長く、Y軸方向に幅hをもった同一の矩形領域によって構成されている。本発明では、記録対象となる原画像の数に応じて、複数のグループを定義し、各記録領域をいずれかのグループに所属させることになる。ここに示す実施例では、図3に示すように、3通りの原画像を重ねて記録するため、3通りのグループGa,Gb,Gcが定義され、各記録領域は、この3通りのグループのいずれかに所属することになる。図4の例では、記録領域A1,A2,A3がグループGaに所属し、記録領域B1,B2,B3がグループGbに所属し、記録領域C1,C2,C3がグループGcに所属することが示されている。ここでは、各記録領域の所属グループをかっこ書きで示すことにする。
【0037】
このように、各記録領域をグループに分けたら、特定の原画像に関する情報を特定のグループに所属する記録領域に記録する。たとえば、図3に示すように、原画像Fa,Fb,Fcという3通りの原画像を記録する場合、原画像FaをグループGaに所属する記録領域A1,A2,A3に記録し、原画像FbをグループGbに所属する記録領域B1,B2,B3に記録し、原画像FcをグループGcに所属する記録領域C1,C2,C3に記録する。ここで重要な点は、各グループごとに、記録媒体20の記録面に対する参照光の入射方向が異なるような設定を行って記録を行う点である。この記録方法を、図5〜図7を参照しながら具体的に説明しよう。
【0038】
まず、図5に示すように、第1の原画像Faを、グループGaに所属する記録領域A1,A2,A3に記録する。このとき、記録面に対して第1の方向から参照光Raを照射するようにし、原画像Faからの物体光Oaと参照光Raとの干渉縞が、各記録領域A1,A2,A3に記録されるようにする。図にハッチングを施した領域が、干渉縞の記録が完了した領域であり、この時点では、まだ、記録領域B1,B2,B3,C1,C2,C3には何も記録されていない。続いて、図6に示すように、第2の原画像Fbを、グループGbに所属する記録領域B1,B2,B3に記録する。このとき、記録面に対して第2の方向から参照光Rbを照射するようにし、原画像Fbからの物体光Obと参照光Rbとの干渉縞が、各記録領域B1,B2,B3に記録されるようにする。最後に、図7に示すように、第3の原画像Fcを、グループGcに所属する記録領域C1,C2,C3に記録する。このとき、記録面に対して第3の方向から参照光Rcを照射するようにし、原画像Fcからの物体光Ocと参照光Rcとの干渉縞が、各記録領域C1,C2,C3に記録されるようにする。かくして、記録媒体20上の記録面全面に干渉縞の記録が行われることになる。
【0039】
ここで重要な点は、参照光Ra,Rb,Rcが記録面に対してそれぞれ異なる入射方向から照射されている点である。このように、参照光の入射方向をそれぞれ変えて各原画像を記録しておくと、記録面に対して所定方向から再生用照明光を照射した場合に、各原画像が観察される視点位置が異なってくる。この現象は、「記録時に用いた参照光と同じ方向(もしくは記録面に対して面対称となる方向)から、この参照光と同一波長の再生用照明光を照射すると、立体再生像が得られる」というホログラムの基本原理に基く現象である。すなわち、「視点位置を固定したまま再生用照明光の入射方向を変える」という観察態様と、「再生用照明光の入射方向を固定したまま視点位置を変える」という観察態様とは、ホログラムの原理の面からは同等であり、いずれの観察態様を採った場合であっても、異なる原画像Fa,Fb,Fcが観察されることになる。
【0040】
たとえば、上述の方法により、3通りの原画像Fa,Fb,Fcを記録した記録媒体20の正面(原画像を置いた側とは反対側)に視点を置き、図5に示す参照光Raと同じ方向(もしくは、記録媒体20に対して参照光Raとは面対称となる方向)から再生用照明光を照射すれば、正面の視点位置からは原画像Faが観察されることになる。また、図6に示す参照光Rbと同じ方向(もしくは、記録媒体20に対して参照光Rbとは面対称となる方向)から再生用照明光を照射すれば、正面の視点位置からは原画像Fbが観察されることになり、図7に示す参照光Rcと同じ方向(もしくは、記録媒体20に対して参照光Rcとは面対称となる方向)から再生用照明光を照射すれば、正面の視点位置からは原画像Fcが観察されることになる。逆に、再生用照明光の照射方向を固定し、視点位置を移動させた場合も、同様の現象が起こり、ある視点位置からは原画像Faが観察され、別な視点位置からは原画像Fbが観察され、更に別な視点位置からは原画像Fcが観察される。
【0041】
なお、上述の実施例では、3通りの原画像を記録しているが、一般には複数N通りの原画像を記録する場合に本発明を利用することができる。すなわち、本発明に係るホログラム記録媒体は、媒体の記録面上に複数の記録領域が設けられており、各記録領域はN通りのグループ(N≧2)のいずれかに所属し、第n番目(1≦n≦N)のグループに所属する記録領域内には、N通りのうちの第n番目の原画像からの物体光と、N通りのうちの第n番目の参照光との干渉縞が記録されており、この記録時におけるN通りの参照光の記録面に対する各入射方向が互いに異なるように設定されていればよいことになる。このようなホログラム記録媒体では、N通りの視点位置から観察したときに、それぞれ異なる原画像が再生されることになる。
【0042】
ところで、上述の実施例では、同一グループに所属する複数の記録領域が、記録面の全面に分散して配置されている。より具体的に言えば、同一グループに所属する複数の記録領域が、記録面上において一定の周期で規則的に配置されている。たとえば、図4において、グループGaに所属する3つの記録領域A1,A2,A3は、記録媒体20の記録面全体に分散しており、一定の周期3hで規則的に配置されている。グループGb,Gcに所属する記録領域も同様である。複数の原画像を同じ空間内に重ねて記録する場合、このように、同一グループに所属する記録領域を分散配置した方が、より良質の再生像を得ることができるので好ましい。また、実用上は、同一グループに所属する記録領域を一定の周期で規則的に配置しておけば、単純な計算式で各記録領域の位置を特定することができるようになるので、記録時の作業効率を向上させることができる。
【0043】
なお、個々の記録領域の形状は、必ずしも上述の実施例のような矩形形状にする必要はないが、各記録領域を規則的に配置するためには、矩形の記録領域を用いるのが好ましい。特に、上述の実施例のように、XY平面上に定義した記録面上に、X軸方向に細長い矩形からなる記録領域をY軸方向に多数並べるようにし、Y軸方向に隣接する各記録領域が互いに異なるグループに所属するように構成すれば、同一グループに所属する記録領域を分散配置することが容易にできる。このとき、各記録領域のY軸方向の幅hは、あまり大きいと、記録面全体に横縞のストライプ模様が観察されるおそれがあるので、肉眼観察不能な幅(一般に、0.1mm以下)に設定するのが好ましい。なお、図4〜図7に示した実施形態では、説明の便宜上、記録領域の数を非常に少なく設定しているが(各グループに所属する記録領域の数はいずれも3つだけしかない)、実際には、ストライプ模様が観察されないように、Y軸方向の幅hが非常に小さな矩形領域が多数配置されることになる。
【0044】
さて、本発明に係るホログラム記録媒体を作成する上では、上述したように、各原画像ごとに、記録時の参照光の入射方向を変える必要がある。ここでは、この入射方向を変化させるいくつかの実施形態を述べておく。まず、これらの実施形態を説明するために、次のような定義を行う。図8は、記録媒体20を側方から見た側面図であり、図の右方向がZ軸方向、下方向がY軸方向、紙面に垂直方向がX軸方向になる。この図8において、記録媒体20上の点Qの位置に入射する参照光RのYZ平面への投影像をRyzとし、点Qにおいて記録媒体20の記録面上に立てた法線をNとし、法線Nと投影像Ryzとのなす角をθyzとする。一方、図9は、記録媒体20を上方から見た上面図であり、図の左方向がX軸方向、下方向がZ軸方向、紙面に垂直方向がY軸方向になる。この図9において、記録媒体20上の点Qの位置に入射する参照光RのXZ平面への投影像をRxzとし、点Qにおいて記録媒体20の記録面上に立てた法線をNとし、法線Nと投影像Rxzとのなす角をθxzとする。また、図10は、記録媒体20の平面図であり、図の右方向がX軸方向、下方向がY軸方向、紙面に垂直方向がZ軸方向になる。この図10において、記録媒体20上の点Qの位置に入射する参照光RのXY平面への投影像をRxyとし、この投影像RxyとX軸とのなす角をθxyとする(Y軸とのなす角を用いても等価である)。
【0045】
いま、N通りの原画像を記録するために、記録面に対する入射方向がそれぞれ異なるN通りの参照光を設定する必要があるものとしよう。この場合、N通りの参照光を設定する第1の実施形態は、図8で定義された角θyzが、複数N通りの参照光すべてについてほぼ同一となり、図9で定義された角θxzが、複数N通りの参照光すべてについて、異なる原画像の観察に必要な程度十分に異なるような設定である(ここで、「ほぼ同一」とは、同一の原画像が観察可能な程度に近似しているという意味である。)。別言すれば、この設定は、参照光を水平方向に振るように動かす設定ということができる。このような設定で記録された記録媒体は、再生時に視点位置を水平方向に移動させると(あるいは、記録媒体自体を横方向に傾けると)、特定の視点位置において特定の原画像が観察できることになり、いわば水平方向の視点移動により原画像の切り換えが行われることになる。
【0046】
もっとも、角θxzの差があまり小さいと、同一の視点位置において複数の原画像が同時に観察されてしまうことになるので、角θxzはある程度の差、すなわち、各原画像を別々の視点位置から観察することが可能な程度の差をもって設定する必要がある。たとえば、第1の参照光R1の角θxzと、第2の参照光R2の角θxzとの差が、わずか1°程度であったとすると、第1の参照光R1を用いて記録した第1の原画像と、第2の参照光R2を用いて記録した第2の原画像とが、同一視点位置において重なって観察される可能性が高い。角θxzの差をどの程度に設定すれば、複数の原画像が別々の視点位置から観察されるようになるかは、記録面の大きさ、各原画像の大きさ、各原画像の記録面に対する位置、などのパラメータによって異なるため、一概には決められないが、一般的な例の場合、60°程度の差があれば、各原画像を別々の視点位置から観察することが十分に可能になると思われる。参考として、図3に示す3通りの原画像Fa,Fb,Fcを実際に記録する際に用いた3通りの参照光Ra,Rb,Rcの記録面に対する入射角度の実例を掲げておくと、角θyzはいずれの参照光についても18.75°と同一であり、角θxzは、参照光Raについては62.97°、参照光Rbについては0°、参照光Rcについては−62.97°という設定を行った結果、各原画像Fa,Fb,Fcを全く別々の視点位置から観察することができた。
【0047】
N通りの参照光を設定する第2の実施形態は、上述の第1の実施形態の縦と横とを入れ替えた設定を行うものである。すなわち、図8で定義された角θyzが、複数N通りの参照光すべてについて、異なる原画像の観察に必要な程度十分に異なり、図9で定義された角θxzが、複数N通りの参照光すべてについてほぼ同一となるような設定である。別言すれば、この設定は、参照光を垂直方向に振るように動かす設定ということができる。このような設定で記録された記録媒体は、再生時に視点位置を垂直方向に移動させると(あるいは、記録媒体自体を縦方向に傾けると)、特定の視点位置において特定の原画像が観察できることになり、いわば垂直方向の視点移動により原画像の切り換えが行われることになる。この場合も、角θyzの差をある程度以上に設定するようにしないと、各原画像を別々に観察することができない。
【0048】
N通りの参照光を設定する第3の実施形態は、上述の第1の実施形態と第2の実施形態とを組み合わせた設定と言うべきものであり、記録面上の点Qに参照光が入射する場合に、この記録面上の点Qの位置に立てた法線とのなす角度が、N通りの参照光すべてについてほぼ同一となり、この参照光を記録面へ投影した場合、投影像とX軸またはY軸とのなす角度がN通りの参照光すべてについて、異なる原画像の観察に必要な程度十分に異なるような設定を行うものである。この設定は、図10に示す点Q上に法線を立て、この法線を中心軸とし、点Qを頂点とする円錐を考えた場合に、この円錐の一稜線の向きを1つの参照光の向きとする設定ということができ、いわば参照光を歳差運動中の独楽の回転軸のように動かす設定ということができる。このような設定で記録された記録媒体は、再生時に視点位置を、上述の円錐の底面の円周に沿って移動させると(あるいは、記録媒体自体を独楽の歳差運動のように運動させると)、特定の視点位置において特定の原画像が観察できることになる。この場合も、角θxyの差をある程度以上に設定するようにしないと、各原画像を別々に観察することができない。
【0049】
以上、本発明に係るホログラム記録媒体の基本原理を説明したが、このようなホログラム記録媒体は、光学的な手法により製造することも可能であるし、コンピュータを用いた計算機ホログラムの手法を用いて製造することも可能である。光学的な手法により製造するのであれば、同一グループに所属する記録領域のみが露出するように、記録面を構成する感光板の表面を遮光マスクで覆い、露出した記録領域に1つの原画像を光学的に記録する工程を、グループの数だけ繰り返し実行すればよい。たとえば、図5に示すように、第1の原画像Faを記録する際には、グループGaに所属する記録領域A1〜A3のみが露出するような遮光マスクを用いて、感光板を構成する記録媒体20を覆うようにし、原画像Faを構成する物体からの物体光Oaと参照光Raとの干渉縞を、露出した記録領域A1〜A3に対してのみ記録するようにすればよい。同様に、図6に示す工程を行う際には、グループGbに所属する記録領域B1〜B3のみが露出するような遮光マスクを用い、図7に示す工程を行う際には、グループGcに所属する記録領域C1〜C3のみが露出するような遮光マスクを用いればよい。
【0050】
もっとも、上述した光学的な手法による製造方法は、マスクの位置合わせ工程などにかなりの労力が必要となる。このため、本発明に係るホログラム記録媒体は、計算機ホログラムの手法を用いて作成するのが好ましい。計算機ホログラムの手法を利用すれば、各記録領域ごとに、その所属グループを考慮して、記録すべき干渉縞に対応する画像データをコンピュータを用いた演算により求めることができる。たとえば、図5に示すように、第1の原画像Faを記録する際には、グループGaに所属する記録領域A1〜A3内のみを演算対象として、これらの領域内の演算点についてのみ干渉波の強度値を求めるようにすればよい。全記録面について干渉波強度値を得られたら、これを二値画像データとして電子線描画装置などに与え、物理的な媒体の表面上に凹凸構造を形成すれば、ホログラム記録媒体を作成することができる。
【0051】
<<< §3.物体光の広がり角の制限 >>>
図1に示すように、ホログラムの基本原理は、原画像10上の任意の1点Pからの物体光Oと参照光Rとの干渉縞を、記録媒体20の全面に記録することにあり、1点Pの情報は、記録面の全面に記録されることになる。別言すれば、1点Pからの物体光Oは、記録面全面に広がることになる。このような考え方は、本発明に係るホログラム記録媒体の場合であっても、基本的には同じである。したがって、たとえば、図11に示すように、原画像Fcの情報を、グループGcに所属する記録領域C1〜C3に記録する作業を行う場合、原画像Fc上の任意の点Pの情報は、記録領域C1〜C3のすべてに記録されることになる。このように、原画像上の任意の1点の情報が、記録面の全面に渡って記録される点がホログラムの特徴であり、この特徴により立体再生像が得られることになる。
【0052】
しかしながら、上述したホログラムの基本原理は、もともと記録時に用いた単色光と同一波長の単色光を用いて再生を行うことを前提としたものであり、白色光を用いた再生を行った場合、厳密には本来の立体再生像を得ることはできない。ところが、現実的には、クレジットカード用の偽造防止シールなどに利用されるホログラム記録媒体の場合、白色光を用いた再生が行われるのが一般的である。再生時に白色の照明光を用いた場合、記録媒体の各部から種々の波長をもった再生光が様々な方向に放出されることになり(再生光の放出方向は、その波長に依存する)、白濁した不鮮明な再生像が観察されることになる。そこで、白色照明光を用いて再生した場合でも、鮮明な再生像が得られるようにする工夫として、記録時に物体光の広がり角を制限する手法が、前掲のいくつかの公報において提案されている。この手法は、光学的にホログラムを作成する工程に適用することは困難であるため、実用上は計算機ホログラムを前提とした手法となる。
【0053】
たとえば、図12に示すように、原画像Fc上に単位線分L1〜L3を定義する。ここでは、XZ平面に平行な3枚の切断面を定義し、この切断面で原画像Fcを切断したときの切り口に現れる線分(曲線分)として、3本の単位線分L1〜L3を定義している。また、3枚の切断面の間隔は、グループGcに所属する記録領域C1,C2,C3の配置間隔(3h)に等しく設定してある。図示の例では、原画像Fcが球体をしたサッカーボールであるため、各単位線分L1〜L3は、この球体上の円として定義される。続いて、各単位線分L1〜L3上に所定間隔をおいて多数の点光源を定義する。図示の例では、単位線分L1上には、点光源P11,P12,P13,…が定義され、単位線分L2上には、点光源P21,P22,P23,…が定義され、単位線分L3上には、点光源P31,P32,P33,…が定義されている。
【0054】
こうして、多数の点光源を定義したら、これらの点光源を原画像Fcを代表するサンプル光源として干渉縞の記録を行うことになる。すなわち、各点光源から放出される物体光と所定の参照光との干渉縞を、記録領域C1,C2,C3に記録することになる。ただし、記録領域C1内には単位線分L1上の点光源P11,P12,P13,…からの物体光に基く干渉縞のみを記録し、記録領域C2内には単位線分L2上の点光源P21,P22,P23,…からの物体光に基く干渉縞のみを記録し、記録領域C3内には単位線分L3上の点光源P31,P32,P33,…からの物体光に基く干渉縞のみを記録するようにする。このような記録方法は、別な見方をすれば、点光源から放出される物体光の広がり角を制限した記録方法と言うことができる。すなわち、図13に示すような一般的なモデルを考えると、原画像上に定義された第i番目の単位線分Li上に並んでいる第j番目の点光源Pijの情報を、記録媒体20上に定義されたY軸方向の幅hをもった矩形の記録領域Ci(図にハッチングを施して示す)内にのみ記録するということは、点光源Pijから放出された物体光のY軸方向に関する広がり角を所定角ξに制限した上で、この物体光と参照光R(図示の例では、YZ平面に平行な方向に進む平面波)とによって生じる干渉縞を記録することと等価になる。
【0055】
このように、物体光のY軸方向の広がり角を所定角ξに制限した記録を行うと、図示の例のように、YZ平面に平行な方向に進む参照光Rと同じ方向(もしくは、記録面に対してこれと面対称となる方向)から白色照明光を照射して観察した場合、点光源Pijに関する情報をもった再生光は、いずれの波長成分の光であっても、この広がり角ξに準じた方向にしか進まなくなるので、白濁した不鮮明な再生像が観察されるという現象を抑制することができる。
【0056】
図14に示す例は、更に、物体光のX軸方向の広がり角を所定角Ψに制限した例である。この場合、点光源Pijから放出された物体光は、記録媒体20上の領域S(図にハッチングを施して示す)内にのみ到達することになり、点光源Pijの情報は、この領域S内にのみ記録されることになる。この方法には、再生像の輝度むらを抑制できるというメリットがある。
【0057】
もっとも、物体光の広がり角を制限するという手法は、本来のホログラムの考え方に逆行する手法ということができる。§1で述べたように、本来のホログラムでは、原画像上の任意の1点Pの情報が、記録面の全体に干渉縞として記録されることになり、それによって原画像の立体視が可能になるのである。したがって、物体光の広がり角を制限して記録を行ったホログラムでは、再生像についての本来の立体視が生じなくなる。たとえば、図12に示す例では、記録領域C1内には単位線分L1上の点光源についての情報しか記録されておらず、記録領域C2内には単位線分L2上の点光源についての情報しか記録されておらず、記録領域C3内には単位線分L3上の点光源についての情報しか記録されていない。したがって、この記録媒体20上に記録されたホログラムを再生しても、縦方向に関する立体視は生じなくなる。更に、図14に示す例では、横方向の立体視も制限を受けることになる(X軸方向の広がり角Ψがある程度以下になると、横方向の立体視も全く生じなくなる)。
【0058】
このように、物体光の広がり角を制限して干渉縞の記録を行うという手法は、白色照明光による再生時における再生像の白濁を防ぎ、再生像をより鮮明にするというメリットが生じるものの、ホログラム本来の特性である立体像の再現という機能を損なうデメリットも生じることになるので、用途によって使い分けるのが好ましい。たとえば、クレジットカード用の偽造防止マークのような用途であれば、縦方向の立体視が失われたとしても、横方向の立体視がある程度確保されれば十分に機能を果たすことができるので、図13に示すように、Y軸方向の広がり角のみを制限した記録を行うと、実用上、十分鮮明な再生像を得ることが可能なホログラム記録媒体を実現できる。
【0059】
<<< §4.種々のバリエーション >>>
これまで、本発明に係るホログラム記録媒体の基本原理を述べてきたが、ここでは、このホログラム記録媒体についての種々の変形例を述べる。
【0060】
<<<4.1 記録領域の配置に関する変形例>>>
図4に示す実施例では、Y軸方向の幅hをもった全く同じ大きさの矩形からなる記録領域が定義されているが、各記録領域の大きさは、各グループごとに変えることも可能である。たとえば、図15に示す例では、グループGaに所属する記録領域A1〜A3およびグループGcに所属する記録領域C1〜C3は、いずれもY軸方向の幅hをもった全く同じ大きさの矩形からなる記録領域であるが、グループGbに所属する記録領域B1〜B3は、Y軸方向の幅2hをもった矩形からなる記録領域となっている。結局、グループGbに所属する記録領域の全面積は、グループGaに所属する記録領域の全面積あるいはグループGcに所属する記録領域の全面積に比べて2倍の面積となっている。この記録領域の面積は、再生像の明るさに影響を与える要因となる。すなわち、図15に示すような各記録領域の定義がなされている記録面に対して、図3に示す3通りの原画像Fa,Fb,Fcを記録すると、グループGbに記録される原画像Fbの再生像の明るさは、グループGaに記録される原画像Faの再生像の明るさ、あるいはグループGcに記録される原画像Fcの再生像の明るさに比べて2倍になる。図3に示す例では、原画像Fa,Fcが一般的な絵柄からなる画像であるのに対し、原画像Fbは「PAT」なる文字からなる画像である。このように、記録対象となる複数N通りの原画像の中に文字からなる原画像が含まれており、再生時に、この文字からなる原画像がより顕著に再生されるようにしたい、という要望がある場合には、図15に示す例のように、文字からなる原画像Fbについての記録領域の面積が多くなるような設定を行うと有効である。
【0061】
また、文字からなる原画像については、「再生像をより明るくしたい」という要望ではなく、「より解像度の高い再生像を得たい」という要望も少なからずある。このような要望に応じるためには、文字からなる原画像を記録する記録領域の空間的な配置周期を、他の原画像を記録する記録領域の空間的な配置周期よりも短く設定するとよい。そのような実施例を図16に示す。この例では、グループGbに所属する記録領域B1−1,B1−2,B2−1,B2−2,B3−1,B3−2のY軸方向の幅をhとすると、グループGaに所属する記録領域A1〜A3およびグループGcに所属する記録領域C1〜C3のY軸方向の幅は2hとなっており、2倍に設定されている。しかしながら、グループGbに所属する記録領域の空間的な配置周期が3hであるのに対し、グループGaに所属する記録領域の空間的な配置周期やグループGcに所属する記録領域の空間的な配置周期は6hと2倍になっている。このような記録領域の定義がなされている記録面に対して、図3に示す3通りの原画像Fa,Fb,Fcを記録すると、グループGbに記録される原画像Fbの再生像の解像度は、グループGaに記録される原画像Faの再生像の解像度、あるいはグループGcに記録される原画像Fcの再生像の解像度に比べて2倍になる(全記録面積は各原画像で等しくなるため、明るさは同じになる。)。結局、文字からなる原画像についてより高い解像度の再生像を得たい場合は、この文字からなる原画像を記録する記録領域の空間的な配置周期を、他の原画像を記録する記録領域の空間的な配置周期よりも短く設定すればよい。
【0062】
なお、X軸方向に細長い矩形図形によって各記録領域を構成する場合、既に述べたように、各記録領域のY軸方向の幅を肉眼観察不能な程度に設定しないと、横方向のストライプ模様が認識されてしまい、好ましくない結果となる。本願発明者が実際に図15あるいは図16に示す変形例を実施する際、h=26μm、2h=52μmに設定したところ、ストライプ模様が認識されない好ましい結果が得られた。もちろん、この寸法設定は一例であり、ストライプ模様が認識されない程度の寸法設定であれば、どのような寸法設定でもかまわない。また、意図的にストライプ模様を認識させることにより、特殊な意匠効果を狙うのであれば、各記録領域のY軸方向の幅を肉眼観察可能な程度の寸法に設定してもかまわない。
【0063】
<<<4.2 記録領域を分散配置しない変形例>>>
これまで述べてきた実施例では、いずれも同一グループに所属する複数の記録領域が、記録面の全面に分散して配置されていた。しかしながら、本発明に係るホログラム記録媒体を作成する上では、同一グループに所属する複数の記録領域を必ずしも分散配置する必要はない。図17に、1つのグループを単一の記録領域のみによって構成したいくつかの例を示す。いずれの例においても、3つの記録領域A,B,Cのみが定義されており、これらの各記録領域は、それぞれグループGa,Gb,Gcに所属する記録領域である。したがって、たとえば、図17(a) に示すような記録領域が定義された記録面に、図3に示すような3種類の原画像Fa,Fb,Fcを記録した場合、原画像Faの情報は記録領域A内にのみ記録され、原画像Fbの情報は記録領域B内にのみ記録され、原画像Fcの情報は記録領域C内にのみ記録されることになる。
【0064】
ただし、このような記録方法は、3種類の原画像Fa,Fb,Fcが、ほぼ同一の空間的な位置を占めるような場合は不適切である。たとえば、3種類の原画像Fa,Fb,Fcの縦寸法が、記録媒体の縦寸法にほぼ等しい場合、別言すれば、各原画像が記録媒体の画面内にほぼ一杯に再生されるような場合、各原画像は空間的に互いに重なった位置に再生されることになる。ところが、図17(a) に示すような記録領域が定義されていると、原画像Faの情報は、記録媒体上の上部に位置する記録領域A内にのみ記録されることになるので、原画像Faの上方の情報は適切に記録することができても、原画像Faの下方の情報は適切に記録することができなくなる。このため、再生時には、原画像Faの下方部分が不鮮明になったり、欠けてしまったりするおそれがある。特に、§3で述べた物体光の広がり角を制限する手法を利用した場合、原画像Faの下方部分の情報は全く記録されないことになる。
【0065】
したがって、図17(a) に示すような記録領域が定義されている場合は、原画像の配置も、各記録領域の配置に応じたものにする必要がある。具体的には、たとえば、図3に示す3種類の原画像Fa,Fb,Fcのそれぞれの縦寸法を、記録媒体の縦寸法の1/3程度とし、かつ、上から順に原画像Fa,Fb,Fcの順に並ぶように配置すれば、図17(a) に示すような記録領域を設定しても、適切に3種類の原画像を記録することが可能になる。
【0066】
同様の理由から、図17(b) に示すように記録領域A,B,Cを配置した場合は、原画像Faを中心に配置し、それを取り囲むように原画像Fbを配置し、更にそれを取り囲むように原画像Fcを配置するようにする必要があり、各原画像の絵柄も、そのような配置に相応しい絵柄にする必要がある。図17(c) に示す例についても同様である。
【0067】
<<<4.3 動画効果を奏する変形例>>>
本発明において記録対象となるN通りの原画像は、どのような原画像であってもかまわないので、このN通りの各原画像を、一連の動画を構成するそれぞれ1コマ分の静止画像によって構成しておくようにすれば、視点位置を時間とともにN通りに変化させたときに、Nコマからなる動画が観察できるようなホログラム記録媒体を作成することも可能になる。たとえば、図18に示すような3通りの原画像Fa,Fb,Fcは、風船が割れるという一連の動画を構成する1コマ分の静止画像であり、このような3通りの原画像を本発明に係る方法で記録すれば、第1の視点位置からは原画像Faが観察され、第2の視点位置からは原画像Fbが観察され、第3の視点位置からは原画像Fcが観察されることになる。したがって、第1の視点位置から第2の視点位置を経て第3の視点位置へ至るように、視点位置を時間とともに変化させると、風船が割れるという一連の動画が観察できる。
【0068】
また、同一の表示対象物を含む複数コマ分の静止画像によって動画を構成し、各コマにおける表示対象物の表示位置を異ならせるようにすると、この表示対象物が移動してゆく状態を示す動画が観察できるホログラム記録媒体を作成することも可能である。たとえば、図19に示すような3通りの原画像Fa,Fb,Fcは、いずれも自動車という同一の表示対象物を含んでいる。ただし、個々の原画像ごとに、この自動車の表示位置は異なっている。このような3通りの原画像を本発明に係る方法で記録すれば、上述の変形例と同様に、第1の視点位置から第2の視点位置を経て第3の視点位置へ至るように、視点位置を時間とともに変化させると、自動車が移動してゆくという一連の動画が観察できる。
【0069】
<<<4.4 多色原画像を記録する変形例>>>
一般的なホログラムを作成する場合、記録時に用いる物体光および参照光として、特定の単一波長の光が用いられる。既に述べたように、再生時にも記録時と同一の単一波長をもった照明光を用いれば、この単一波長の色をもった正しい再生像が得られるが、白色照明光を用いて再生を行うと、種々の色成分の再生光が混在し、再生像が白濁する現象が起こる。ただ、§3で述べたように、物体光の広がり角を制限する手法を採れば、この白濁現象を抑制することが可能になり、ある程度単色に近い再生像を得ることが可能になる。
【0070】
そこで、ここでは多色原画像を記録する例を述べておく。なお、以下に述べる手法は、特開2001−100622号公報に種々の実施例が開示されているので、詳細は当該公報を参照されたい。まず、ここでは、図20に示すような2通りの原画像Fa,Fbを用意する。ここで、原画像Faはモノクロ原画像であるが、原画像Fbは2色の色から構成される二色原画像である。より具体的には、原画像Fbは、上半分の単色部分原画像Fbαと、下半分の単色部分原画像Fbβとの組み合わせによって構成されており、単色部分原画像Fbαは赤色、単色部分原画像Fbβは青色に着色されているものとする。
【0071】
このような2通りの原画像Fa,Fbを記録する場合、記録面上にグループGaに所属する記録領域とグループGbに所属する記録領域とを定義するわけであるが、ここでは、グループGb内を更にサブグループGbα,Gbβの2つのサブグループに分け、サブグループGbαに所属する記録領域とサブグループGbβに所属する記録領域とを定義する。図21は、このようなグループ設定に基いて、各記録領域を定義した一例を示す図である。この例では、グループGaに所属する記録領域として、4つの記録領域A1,A2,A3,A4が定義され、グループGbに所属する記録領域として、やはり4つの記録領域Bα1,Bα2,Bβ1,Bβ2が定義されており、これらの各記録領域はいずれもY軸方向の幅hをもった矩形領域である。ただし、グループGbに所属する記録領域のうち、上方に配置された2つの記録領域Bα1,Bα2はサブグループGbαに所属し、下方に配置された2つの記録領域Bβ1,Bβ2はサブグループGbβに所属する。
【0072】
このように各記録領域を定義した後、グループGaに所属する記録領域A1〜A4内には原画像Faを記録し、グループGbに所属する記録領域Bα1,Bα2,Bβ1,Bβ内には原画像Fbを記録するという観点では、これまで述べてきた実施例と同じである。ただ、グループGbには更にサブグループが定義されており、サブグループGbαに所属する記録領域Bα1,Bα2内には単色部分原画像Fbαが記録され、サブグループGbβに所属する記録領域Bβ1,Bβ2内には単色部分原画像Fbβが記録される点が、本実施例独特の特徴である。ここで、二色原画像Fbの上半分を構成する単色部分原画像Fbαを記録するための記録領域Bα1,Bα2は、記録面の上半分の位置に配置されており、下半分を構成する単色部分原画像Fbβを記録するための記録領域Bβ1,Bβ2は、記録面の下半分の位置に配置されている。このように、個々の単色部分原画像の配置と、これを記録するための記録領域の配置との間の空間的な整合性がとれていれば、空間的な配置条件に起因して各単色部分画像が適切に記録されないような事態は生じない。
【0073】
ここで重要な点は、原画像Faを記録する際に用いる物体光および参照光の波長は任意の波長でよいが、単色部分原画像Fbαを記録する際に用いる物体光および参照光の波長を赤色に相当する波長とし、単色部分原画像Fbβを記録する際に用いる物体光および参照光の波長を青色に相当する波長とする点である。このように、原画像Fbの記録時に用いる波長を、各単色部分原画像ごとに変えるようにすると、再生時には、2つの単色部分原画像は同一の視点位置で観察されるものの、それぞれが固有の色で観察されることになる。すなわち、図示の例の場合、単色部分原画像Fbαが赤色の再生像として観察され、単色部分原画像Fbβが青色の再生像として観察されることになる。ここでは、2つの単色部分原画像Fbα,Fbβから構成される二色原画像Fbを記録する例を述べたが、3つの単色部分原画像から構成される三色原画像を記録することもできるし、それ以上の色からなる多色原画像を記録することも可能である。
【0074】
一般的には、それぞれ別の視点位置で観察されるべきN通りの原画像についてN通りのグループを定義し、このうち多色表示の対象となる特定のグループ内には、更にM通り(M≧2)のサブグループを定義するようにし、第m番目(1≦m≦M)のサブグループに所属する記録領域内には、それぞれ単色で着色されたM通りの単色部分原画像を組み合わせることにより構成される原画像のうち、第m番目の単色部分原画像からの物体光と、この物体光と同色の参照光との干渉縞を記録するようにすれば、白色の再生用照明光を照射して所定の視点位置から観察したときに、M通りの色をもった多色画像が再生されることになる。もっとも、実際には、白色照明光を用いて再生を行うと、種々の色成分の再生光が混在して再生像が白濁する現象が起こるため、各単色部分原画像は意図したとおりの色で再生されるとは限らない。しかしながら、§3で述べた物体光の広がり角を制限する手法を採れば、記録時に意図した状態に近い色再現性を得ることが可能である。
【0075】
なお、上述の実施例では、図20に示すように、モノクロ原画像Faと二色原画像Fbとを視点位置に応じて切り換えて再生することが可能なホログラム記録媒体を作成したが、もちろん、複数通りの多色原画像を用意しておき、これら多色原画像が視点位置に応じて切り換えて再生されるようなホログラム記録媒体を作成することも可能である。
【0076】
<<<4.5 カラー原画像を記録する変形例>>>
上述の実施例によれば、いくつかの部品から構成される原画像を記録する際に、個々の部品ごとに異なる色で記録することができるようになり、全体として多色原画像の記録が可能になる。ここでは、一般のカラー原画像をカラーの情報とともに記録し、カラーの情報をもたせたまま再生する方法を述べておく。このようなカラー原画像を記録する手法は、特開2000−214751号公報に種々の実施例が開示されているので、詳細は当該公報を参照されたい。まず、ここでは、図22に示すような2通りの原画像Fa,Fbを用意する。ここで、原画像Faはモノクロ原画像であるが、原画像FbはRGBの三原色の合成により表現されるカラー画像であり、赤色成分画像Fb(R),緑色成分画像Fb(G),青色成分画像(B)の3つの画像に分解することができる。
【0077】
このような2通りの原画像Fa,Fbを記録する場合、記録面上にグループGaに所属する記録領域とグループGbに所属する記録領域とを定義するわけであるが、ここでは、カラー画像を記録すべきグループGbに所属する記録領域については、それぞれを更に3個の分割領域に分けることにする。たとえば、図23に示す例では、記録面上にグループGaに所属する4つの記録領域A1〜A4と、グループGbに所属する4つの記録領域B1〜B4とが交互に定義されており、かつ、各記録領域B1〜B4については、それぞれが更に3つの分割領域に分けられている。具体的には、たとえば、記録領域B1は、3つの分割領域B1(R),B1(G),B1(B)に分けられている。
【0078】
ここで、グループGaに所属する各記録領域A1〜A4には、原画像Faの情報が記録されるが、グループGbに所属する各記録領域B1〜B4には、原画像Fbを構成する各色成分の画像に関する情報のみが記録される。すなわち、分割領域B1(R)には赤色成分画像Fb(R)から放出された物体光の干渉縞に関する情報のみが記録され、分割領域B1(G)には緑色成分画像Fb(G)から放出された物体光の干渉縞に関する情報のみが記録され、分割領域B1(B)には青色成分画像Fb(B)から放出された物体光の干渉縞に関する情報のみが記録される。このとき、分割領域B1(R)への記録には、赤色成分画像Fb(R)から放出された赤色に相当する波長の物体光と同一波長の参照光とを用いた干渉縞が演算され、分割領域B1(G)への記録には、緑色成分画像Fb(G)から放出された緑色に相当する波長の物体光と同一波長の参照光とを用いた干渉縞が演算され、分割領域B1(B)への記録には、青色成分画像Fb(B)から放出された青色に相当する波長の物体光と同一波長の参照光とを用いた干渉縞が演算される。
【0079】
このような方法で記録を行えば、白色の再生用照明光を照射して所定の視点位置から観察すると、原画像Faは単色の画像として再生されるが、原画像FbはRGBの3通りの色をもったカラー画像として再生されることになる。もちろん、カラー画像は必ずしもRGBの3原色で表現する必要はなく、一般的には、T原色で表現すればよい。この場合、このT原色で表現されたカラー原画像に対応するグループに所属する記録領域をそれぞれT個の分割領域に分け(T≧2)、第t番目(1≦t≦T)の分割領域には、T個の色成分をもった原画像からの第t番目の色成分に対応する物体光と、この物体光と同色の参照光との干渉縞を記録するようにすれば、白色の再生用照明光を照射して所定の視点位置から観察したときに、T通りの色をもったカラー画像として原画像が再生されることになる。
【0080】
もっとも、実際には、白色照明光を用いて再生を行うと、種々の色成分の再生光が混在して再生像が白濁する現象が起こるため、この実施例においても、§3で述べた物体光の広がり角を制限する手法を採るのが好ましい。また、同一方向から白色照明光を照射した場合であっても、各色成分ごとに再生光の放出方向に若干の差が生じるため、T原色の各色成分の再生光を厳密に同一視点位置に向かわせるようにするためには、記録時の参照光の入射角度に色別の補正を施すようにするのが好ましい。たとえば、図23の分割領域B1(R),B1(G),B1(B)には、それぞれ赤色,緑色,青色の物体光および参照光が照射されることになるが、ここで参照光の照射角度を赤色,緑色,青色でそれぞれ若干ずつ変える補正を行っておくと、白色照明光を照射して再生を行った場合に、分割領域B1(R)から放出される赤色再生光と、分割領域B1(G)から放出される緑色再生光と、分割領域B1(B)から放出される青色再生光と、が同一の視点位置へ向かうようにすることができる。
【0081】
なお、上述の実施例では、図22に示すように、モノクロ原画像Faとカラー原画像Fbとを視点位置に応じて切り換えて再生することが可能なホログラム記録媒体を作成したが、もちろん、複数通りのカラー原画像を用意しておき、これらカラー原画像が視点位置に応じて切り換えて再生されるようなホログラム記録媒体を作成することも可能である。
【0082】
<<< §5.回折格子パターンとの組み合わせ >>>
これまで述べてきた実施例は、複数の原画像をそれぞれ異なる記録領域内に干渉縞として記録し、視点位置に応じてそれぞれ観察される原画像を切り換えることができるようにするものであったが、ここでは、干渉縞として記録した原画像と、回折格子パターンとして記録した原画像とを、観察時に切り換えることができる形態を述べる。はじめに、原画像を回折格子パターンとして記録する手法を簡単に説明しておく。この手法は、たとえば、特開平6−337622号公報、特開平8−21909号公報、特開平8−75912号公報などに種々の実施例が開示されているので、詳細については、これらの公報を参照されたい。
【0083】
原画像を干渉縞として記録するこれまで述べてきた手法は、基本的にはホログラムの原理に基く手法であり、三次元立体像を記録することが可能である。これに対し、原画像を回折格子パターンとして記録する手法は、基本的には回折格子からなる画素の集合として画像を表現する手法であり、二次元平面像しか記録することができない。したがって、この手法で記録された媒体は、本来のホログラムではなく、疑似ホログラムというべきものである。いま、図24(a) に示すような二次元の原画像を考える。図24(b) は、この原画像の画素情報を示したものである。この原画像は7×7の画素から構成されており、個々の画素が「1」または「0」のいずれかの画素値をもつ二値画像である。
【0084】
一方、図25に示すような画素パターンを用意する。この図25では、1つの画素パターンを拡大して示してあるが、実際には、この画素パターンの大きさは、図24に示す原画像を構成する1つの画素の大きさに相当する。この画素パターンは、回折格子からなるパターンであり、内部には、線幅dの格子線Lが、所定の配置角度θをもって、ピッチpで閉領域V内に配置されている。ここで、図示のようにXY座標系を定義しておけば、各格子線Lの配置角度θは、たとえば、X軸とのなす角として定義できる。もちろん、この画素パターンは、回折格子パターンであるから、格子線Lのピッチpは、光の波長に近い寸法に設定され、格子線Lの集合が回折格子として機能する必要がある。
【0085】
さて、図24に示す原画像において、画素値「1」を有する各画素のそれぞれに、図25に示す画素パターンを割り付けると、図26に示すような回折格子パターンが得られる。このような割り付け作業は、図27に示すように、個々の画素の位置を座標値(a,b)で表現すれば、単純な演算処理で行うことができる。結局、所望の原画像を表現する回折格子パターンは、コンピュータによる演算によって、画像データとして得ることができる。このようにして得られた画像データを、たとえば、電子線描画装置などに与え、実際の媒体上に凹凸構造として回折格子パターンを形成すれば、この媒体は疑似ホログラムの記録媒体として機能することになる。すなわち、図26に示すような回折格子パターンが記録された媒体を観察すると、画素値「1」を有する画素部分が回折格子となっているため、これらの画素部分から何らかの回折光が観察されることになる。この回折光により、図26に示す例の場合「A」なる文字が認識できることになる。白色照明光の環境下で得られる回折光の強度や波長は、視点位置を動かすと(あるいは媒体自体を動かすと)変化するため、ホログラム再生像を観察したときに近い視覚的効果が得られることになる。
【0086】
実際、このように回折格子パターンとして記録した原画像は、一般的なホログラム像として記録した原画像に比べて、明るく鮮明な再生像が得られるという特徴をもつ。このため、文字やマークなど、鮮明な輪郭線が必要な平面像を記録する場合によく利用されている。
【0087】
また、複数の原画像を、それぞれ回折格子パターンとして同一記録媒体上に重畳して記録し、視点位置を変えることにより、再生される原画像を切り換えることができるようにする手法も提案されており、既に実用化されている。たとえば、図28に示すような2通りの回折格子パターンP(A),P(B)を用意する。ここで、回折格子パターンP(A)は、「A」なる文字を構成するパターンであり、回折格子パターンP(B)は、「B」なる文字を構成するパターンである。それぞれ文字を構成する部分(画素値「1」を有する画素部分)に、図25に示すような画素パターンが割り付けられている。ただし、回折格子パターンP(A)において割り付けられている画素パターンの格子線の配置角度θが45°であるのに対し、回折格子パターンP(B)において割り付けられている画素パターンの格子線の配置角度θは90°となっている。また、両回折格子パターンP(A),P(B)において、同一の座標で示される画素位置には、両パターン同時に画素パターンが割り付けられることがないように構成されているため、両回折格子パターンP(A),P(B)を重ねることにより、図29に示すような回折格子パターンP(AB)を得ることができる。
【0088】
このような回折格子パターンP(AB)を実際の媒体上に形成すると、視点位置を変えることにより、「A」なる文字が認識されたり、「B」なる文字が認識されたりする。これは、回折格子を構成する格子線の配置角度θによって、回折光の向きが定まるためである。すなわち、格子線配置角度θ=45°の回折格子からの回折光が到達する位置に視点を置いて観察すれば、図28に示す回折格子パターンP(A)のみが観察されるため、「A」なる文字が認識されるが、格子線配置角度θ=90°の回折格子からの回折光が到達する位置に視点を置いて観察すれば、図28に示す回折格子パターンP(B)のみが観察されるため、「B」なる文字が認識されることになる。
【0089】
ここで述べる実施形態は、§4までに述べてきた干渉縞による原画像の記録方法と、上述した回折格子パターンによる原画像の記録方法とを組み合わせたものである。ここでは、図30に示すように、4通りの原画像Fa,Fb,Fc,Fdが用意されているものとしよう。ここで、原画像Fa,Fcは立体原画像であり、干渉縞により記録されるべき画像であるのに対し、原画像Fb,Fdは平面原画像であり、回折格子パターンにより記録されるべき画像である。なお、ここでは説明の便宜上、干渉縞により記録すべき画像を立体像、回折格子パターンにより記録すべき画像を平面像、とした例を示すが、干渉縞により記録されるべき原画像は、必ずしも立体像である必要はない。たとえば、図30に示されている平面原画像FbやFdを干渉縞によって記録することも可能である。この場合、三次元空間内に、二次元文字列が配置されている状態が、ホログラム立体像として記録されることになる。
【0090】
図31は、図30に示す立体原画像Faを記録領域A内に干渉縞として記録し、平面原画像Fbを記録領域B内に回折格子パターンとして記録した媒体を示す概念図である。この図31では、便宜上、原画像Fa,Fbが同時に表示された状態が示されているが、記録領域A内に干渉縞を記録する際の参照光の記録面に対する入射方向と、記録領域B内に回折格子パターンを記録する際の格子線の配置方向と、の関係を調節することにより、干渉縞として記録された原画像Faと、回折格子パターンとして記録された原画像Fbとが、それぞれ異なる視点位置において観察したときに再生されるように構成することができる。
【0091】
図32は、図30に示す4通りの原画像Fa,Fb,Fc,Fdのすべてを同一の記録媒体上に記録する場合の各記録領域の構成を示す平面図であり、4通りの原画像Fa,Fb,Fc,Fdにそれぞれ対応する4通りのグループGa,Gb,Gc,Gdに所属する各記録領域が示されている。すなわち、中央部分には、干渉縞記録グループGaに所属する記録領域A1,A2,A3,A4と、同じく干渉縞記録グループGcに所属する記録領域C1,C2,C3,C4と、が交互に配置されている。ここで、記録領域A1,A2,A3,A4には、原画像Faからの物体光と所定の参照光との干渉縞が記録され、記録領域C1,C2,C3,C4には、原画像Fcからの物体光と所定の参照光との干渉縞が記録されることになる。一方、四隅には、回折格子記録グループGbに所属する記録領域B1,B2と、回折格子記録グループGdに所属する記録領域D1,D2とが配置されている。ここで、記録領域B1,B2には、それぞれ原画像Fbが回折格子パターンとして記録され、記録領域D1,D2には、原画像Fdが回折格子パターンとして記録される(記録領域B1,B2には互いに同じ内容が記録され、記録領域D1,D2にも互いに同じ内容が記録される)。
【0092】
この場合においても、記録領域A1〜A4および記録領域C1〜C4内に干渉縞を記録する際の参照光の記録面に対する入射方向と、記録領域B1,B2および記録領域D1,D2内に回折格子パターンを記録する際の格子線の配置方向と、の関係を調節することにより、特定の視点位置においてどの原画像が観察されるようにするかを任意に設定することが可能になる。たとえば、第1の視点位置から観察した場合には、図33に示すように、記録領域A1〜A4内に記録された原画像Faと、記録領域B1,B2内に記録された原画像Fbとが同時に観察され、第2の視点位置から観察した場合には、図34に示すように、記録領域C1〜C4内に記録された原画像Fcと、記録領域D1,D2内に記録された原画像Fdとが同時に観察されるような設定を行うこともできよう。もちろん、4つの異なる視点位置において、原画像Fa,Fb,Fc,Fdがそれぞれ別個に観察されるような設定も可能であるし、好みに応じて、どのような設定を行うのも自由である。要するに、干渉縞として記録される原画像については、記録時の参照光の角度を調節することにより観察可能な視点位置を自由に設定することができ、回折格子パターンとして記録される原画像については、画素位置に割り付けられる画素パターン内の格子線角度を調節することにより観察可能な視点位置を自由に設定することができる。
【0093】
ここで述べた実施形態に係るホログラム記録媒体は、結局、媒体の記録面上に複数の記録領域が設けられており、各記録領域はN通りの干渉縞記録グループ(N≧1)およびK通りの回折格子記録グループ(K≧1)のいずれかに所属し、第n番目(1≦n≦N)の干渉縞記録グループに所属する記録領域内には、N通りのうちの第n番目の干渉縞記録用原画像からの物体光と、N通りのうちの第n番目の参照光との干渉縞が記録されており、第k番目(1≦k≦K)の回折格子記録グループに所属する記録領域内には、K通りのうちの第k番目の回折格子記録用原画像が回折格子パターンとして記録されている、という特徴を有していることになる。
【0094】
ここで、複数N通りの干渉縞記録用原画像について、N通りの視点位置から観察したときに、それぞれ異なる原画像が再生されるようにするためには、干渉縞記録時におけるN通り(N≧2)の参照光の記録面に対する各入射方向を互いに異なるように設定すればよいし、複数K通りの回折格子記録用原画像について、K通りの視点位置から観察したときに、それぞれ異なる原画像が再生されるようにするためには、各原画像を、回折光の放射方向がそれぞれ異なる回折格子(別言すれば、格子線配置角度の異なる回折格子)によって記録すればよい。
【0095】
図35は、図30に示す立体原画像Faと平面原画像Fbとを、同一記録媒体上に重ねて記録する場合の各記録領域の構成を示す平面図であり、2通りの原画像Fa,Fbにそれぞれ対応する2通りのグループGa,Gbに所属する各記録領域が示されている。すなわち、この例では、干渉縞記録グループGaに所属する記録領域A1〜A6と、回折格子記録グループGbに所属する記録領域B1〜B5とが、交互に配置されている。図36は、図35に示すように各記録領域を定義した媒体上に、干渉縞あるいは回折格子パターンを実際に記録した状態を示す平面図である。この例では、各記録領域A1〜A6およびB1〜B5の縦方向の幅(具体的には50μm)が、原画像Fbを構成する画素の1画素分の縦幅に相当するように設定されているため、各記録領域B1〜B5には、それぞれ1行分の画素配列に相当する回折格子パターンが割り付けられている。もちろん、各記録領域B1〜B5の縦方向の幅を、1画素分の縦幅のW倍に設定し、各記録領域B1〜B5内に、それぞれW行分の画素配列に相当する回折格子パターンを割り付けるようにしてもかまわない。なお、各記録領域A1〜A6には、原画像Faからの物体光と所定の参照光との干渉縞が記録されることになる。
【0096】
この図36に示すような実施例においても、記録領域A1〜A6内に干渉縞を記録する際の参照光の記録面に対する入射方向と、記録領域B1〜B5内に回折格子パターンを記録する際の格子線の配置方向と、の関係を調節すれば、ある視点位置においては原画像Faのみが観察され、別な視点位置においては原画像Fbのみが観察されるような設定が可能である。
【0097】
図37は、図30に示す立体原画像Fa,Fcと平面原画像Fbとを、同一記録媒体上に重ねて記録する場合の各記録領域の構成を示す平面図であり、3通りの原画像Fa,Fb,Fcにそれぞれ対応する3通りのグループGa,Gb,Gcに所属する各記録領域が示されている。すなわち、この例では、干渉縞記録グループGaに所属する記録領域A1〜A3と、回折格子記録グループGbに所属する記録領域B1〜B5と、干渉縞記録グループGcに所属する記録領域C1〜C3と、が規則的に配置されている。図38は、図37に示すように各記録領域を定義した媒体上に、干渉縞あるいは回折格子パターンを実際に記録した状態を示す平面図である。各記録領域B1〜B5には、原画像Fbの1行分の画素配列に相当する回折格子パターンが割り付けられており、各記録領域A1〜A3には、原画像Faからの物体光と所定の参照光との干渉縞が記録されており、各記録領域C1〜C3には、原画像Fcからの物体光と所定の参照光との干渉縞が記録されている。
【0098】
この図38に示すような実施例においても、記録領域A1〜A3内に干渉縞を記録する際の参照光の記録面に対する入射方向と、記録領域C1〜C3内に干渉縞を記録する際の参照光の記録面に対する入射方向と、記録領域B1〜B5内に回折格子パターンを記録する際の格子線の配置方向と、の関係を調節すれば、ある視点位置においては原画像Faのみが観察され、別な視点位置においては原画像Fbのみが観察され、更に別な視点位置においては原画像Fcのみが観察されるような設定が可能である。
【0099】
なお、この図38に示す例のように、同一グループに所属する複数の記録領域を、記録面の全面に分散して配置するようにし、同一の干渉縞記録グループに所属する記録領域の空間的な配置周期に比べて、同一の回折格子記録グループに所属する記録領域の空間的な配置周期を短く設定すると、回折格子パターンを用いて記録する原画像の解像度を、干渉縞を用いて記録する原画像の解像度よりも高くすることができる。たとえば、図38の例の場合、干渉縞記録グループGaに所属する記録領域A1,A2,A3は4行分の周期で配置されているが、回折格子記録グループGbに所属する記録領域B1〜B5は2行分の周期で配置されており、原画像Fbの解像度が高くなっている。一般に、回折格子パターンを用いて記録した原画像は、干渉縞を用いて記録した原画像に比べて、明るく鮮明な再生像が得られるので、文字やマークなどからなる原画像の記録に利用されることが多い。したがって、回折格子パターンを用いて記録した原画像の解像度を高めれば、文字やマークの解像度を高めることができるので好ましい。
【0100】
図39は、図30に示す4通りの原画像Fa,Fb,Fc,Fdのすべてを同一の記録媒体上に記録する場合の各記録領域の構成を示す平面図であり、4通りの原画像Fa,Fb,Fc,Fdにそれぞれ対応する4通りのグループGa,Gb,Gc,Gdに所属する各記録領域が示されている。すなわち、干渉縞記録グループGaに所属する記録領域A1,A2,A3と、回折格子記録グループGbに所属する記録領域B1,B2,B3と、干渉縞記録グループGcに所属する記録領域C1,C2,C3と、回折格子記録グループGdに所属する記録領域D1,D2,D3とが、周期的に配置されている。回折格子パターンを用いて記録される原画像FbとFdとは、用いる画素パターンの格子線配置角度を変えることにより、異なる視点位置から観察できるようにすることが可能であるので、格子線配置角度や干渉縞記録時の参照光の入射方向を調整すれば、4通りの原画像Fa,Fb,Fc,Fdのすべてが、それぞれ別々の視点位置において観察されるような設定も可能である。
【0101】
以上、本発明を図示するいくつかの実施形態に基いて説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、この他にも種々の形態で実施可能である。たとえば、本発明に係るホログラム記録媒体は、実用上は、コンピュータを用いた演算による計算機ホログラムとして作成するのが好ましいが、物理的な作業が可能であれば、この作成工程の全部もしくは一部を光学的な方法で行うようにしてもかまわない。
【符号の説明】
【0102】
10…原画像
20…記録媒体(記録面)
A,A1〜A6…記録領域
B,B1〜B5,B1−1〜B3−2,Bα1,Bα2,Bβ1,Bβ2…記録領域
B1(R),B1(G),B1(B)〜B4(R),B4(G),B4(B)…分割領域
C,C1〜C4,Ci…記録領域
D1〜D3…記録領域
d…線幅
Fa,Fb,Fc,Fd…原画像
Fbα,Fbβ…単色部分原画像
Fb(R),Fb(G),Fb(B)…各色成分画像
Ga,Gb,Gc,Gd,Gbα、Gbβ…グループおよびサブグループ
h…記録領域のY軸方向の幅
L…格子線
L1〜L3,Li…単位線分
N…法線
O,O1,Oi,OI,Oa,Ob,Oc…物体光
P,P1,Pi,PI…原画像上の点光源
P11〜P33,Pij…単位線分上の点光源
P(A),P(B),P(AB)…回折格子パターン
p…格子線のピッチ
Q,Q(x,y)…記録面上の1点
R,Ra,Rb,Rc…参照光
Ryz,Rxz,Rxy…参照光の投影像
S…物体光の照射領域
V…閉領域
θ…格子線配置角度
θyz,θxz,θxy…参照光の入射方向を示す角度
Ψ…物体光のX軸方向の広がり角
ξ…物体光のY軸方向の広がり角
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホログラム記録媒体およびその製造方法に関し、特に、視点位置を変えることにより全く別な原画像が観察されるホログラム記録媒体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金券やクレジットカードについての偽造防止の用途として、ホログラムが広く利用されるに至っている。通常は、偽造防止対策を施す対象となる媒体上の一部に、ホログラムを記録する領域を設け、この領域内に立体像などをホログラムの形で記録することが行われている。
【0003】
現在、商業的に利用されているホログラムは、光学的な手法により、原画像を媒体上に干渉縞として記録したものである。すなわち、原画像を構成する物体を用意し、この物体からの光と参照光とを、レンズなどの光学系を用いて感光剤が塗布された記録面上に導き、この記録面上に干渉縞を形成させるという手法を採っている。この光学的な手法は、鮮明な画像を得るためにかなり精度の高い光学系を必要とするが、ホログラムを得るための最も直接的な手法であり、産業上では最も広く普及している手法である。
【0004】
また、最近では、計算機を用いた演算により記録面上に干渉縞を形成させ、ホログラムを作成する手法も知られており、このような手法で作成されたホログラムは、一般に「計算機合成ホログラム(CGH:Computer Generated Hologram )」、あるいは単に「計算機ホログラム」と呼ばれている。この計算機ホログラムは、いわば光学的な干渉縞の生成プロセスをコンピュータ上でシミュレーションすることにより得られるものであり、干渉縞パターンを生成する過程は、すべてコンピュータ上の演算として行われる。このような演算によって干渉縞パターンの画像データが得られたら、この画像データに基いて、実際の媒体上に物理的な干渉縞が形成される。具体的には、たとえば、コンピュータによって作成された干渉縞パターンの画像データを電子線描画装置に与え、媒体上で電子線を走査することにより物理的な干渉縞を形成する方法が実用化されている。
【0005】
コンピュータグラフィックス技術の発展により、印刷業界では、種々の画像をコンピュータ上で取り扱うことが一般化しつつある。したがって、ホログラムに記録すべき原画像も、コンピュータを利用して得られた画像データとして用意することができれば便利である。このような要求に応えるためにも、計算機ホログラムを作成する技術は重要な技術になってきており、将来は光学的なホログラム作成手法に取って代わる技術になるであろうと期待されている。このような計算機ホログラムに関する種々の技術は、たとえば、下記の特許文献1〜10などに開示されている。また、下記の特許文献11〜13などには、回折格子パターンを用いて疑似的なホログラムを作成する技術も開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−319290号公報
【特許文献2】特開平10−123919号公報
【特許文献3】特開平11−24539号公報
【特許文献4】特開平11−24540号公報
【特許文献5】特開平11−24541号公報
【特許文献6】特開平11−202741号公報
【特許文献7】特開2000−214750号公報
【特許文献8】特開2000−214751号公報
【特許文献9】特開2001−013858号公報
【特許文献10】特開2001−013859号公報
【特許文献11】特開平6−337622号公報
【特許文献12】特開平8−21909号公報
【特許文献13】特開平8−75912号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ホログラム記録媒体では、原画像を立体的に記録することが可能であり、視点位置を変えることにより、原画像を異なった角度から観察することができる。このように、平面上に立体画像を記録することができる点が、ホログラム記録媒体の大きな特徴である。ところが、最近では、異なった角度から観察すると、全く別の原画像が再生されるという、更なる特徴をもったホログラム記録媒体の試作も行われている。このように、1枚の媒体上に複数の原画像を重ねて記録する方法として、多重露光を行う方法が知られている。たとえば、第1の物体についての干渉縞を感光面に露光させた後、第2の物体についての干渉縞を同一感光面に重ねて露光させれば、2つの物体についての干渉縞を重ねて記録することができる。しかしながら、このような多重露光による方法では、先に記録した干渉縞の情報の一部が、後に記録した干渉縞の影響によって失われることになり、鮮明な再生像を得ることができないという問題がある。この問題は、多重露光の回数が増えれば増えるほど顕著になる。
【0008】
そこで本発明は、視点位置を変えることにより全く別な原画像を鮮明に再生させることができるホログラム記録媒体およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
(1) 本発明の第1の態様は、ホログラム記録媒体において、記録面上に複数の記録領域を設け、各記録領域をN通りのグループ(N≧2)のいずれかに所属させ、第n番目(1≦n≦N)のグループに所属する記録領域内には、N通りのうちの第n番目の原画像からの物体光と、N通りのうちの第n番目の参照光との干渉縞を記録し、この記録時におけるN通りの参照光の記録面に対する各入射方向を互いに異なるように設定し、N通りの視点位置から観察したときに、それぞれ異なる原画像が再生されるように構成したものである。
【0010】
(2) 本発明の第2の態様は、上述の第1の態様に係るホログラム記録媒体において、
同一グループに所属する複数の記録領域を、記録面の全面に分散して配置するようにしたものである。
【0011】
(3) 本発明の第3の態様は、上述の第2の態様に係るホログラム記録媒体において、
同一グループに所属する複数の記録領域を、記録面上において一定の周期で規則的に配置するようにしたものである。
【0012】
(4) 本発明の第4の態様は、上述の第2または第3の態様に係るホログラム記録媒体において、
XY平面上に定義された記録面上に、X軸方向に細長い矩形からなる記録領域をY軸方向に多数並べ、Y軸方向に隣接する各記録領域が互いに異なるグループに所属するように構成したものである。
【0013】
(5) 本発明の第5の態様は、上述の第1〜4の態様に係るホログラム記録媒体において、
XY平面上に定義された記録面に対して入射する参照光を、YZ平面へ投影した場合、投影像と記録面に立てた法線とのなす角θyzがN通りの参照光すべてについてほぼ同一となり、XZ平面へ投影した場合、投影像と記録面に立てた法線とのなす角θxzがN通りの参照光すべてについて、異なる原画像の観察に必要な程度十分に異なるような設定を行うようにしたものである。
【0014】
(6) 本発明の第6の態様は、上述の第1〜4の態様に係るホログラム記録媒体において、
XY平面上に定義された記録面に対して入射する参照光を、YZ平面へ投影した場合、投影像と記録面に立てた法線とのなす角θyzがN通りの参照光すべてについて、異なる原画像の観察に必要な程度十分に異なり、XZ平面へ投影した場合、投影像と記録面に立てた法線とのなす角θxzがN通りの参照光すべてについてほぼ同一となるような設定を行うようにしたものである。
【0015】
(7) 本発明の第7の態様は、上述の第1〜4の態様に係るホログラム記録媒体において、
XY平面上に定義された記録面に対して入射する参照光と、この記録面に立てた法線とのなす角度が、N通りの参照光すべてについてほぼ同一となり、この参照光を記録面へ投影した場合、投影像とX軸またはY軸とのなす角度がN通りの参照光すべてについて、異なる原画像の観察に必要な程度十分に異なるような設定を行うようにしたものである。
【0016】
(8) 本発明の第8の態様は、上述の第1〜7の態様に係るホログラム記録媒体において、
干渉縞を記録する際に、原画像から記録面へ向かう物体光の広がり角を制限するようにしたものである。
【0017】
(9) 本発明の第9の態様は、上述の第1〜8の態様に係るホログラム記録媒体において、
N通りの各原画像を、一連の動画を構成するそれぞれ1コマ分の静止画像から構成し、視点位置を時間とともにN通りに変化させたときに、Nコマからなる動画が観察できるようにしたものである。
【0018】
(10) 本発明の第10の態様は、上述の第9の態様に係るホログラム記録媒体において、
同一の表示対象物を含む複数コマ分の静止画像によって動画を構成し、各コマにおける表示対象物の表示位置を異ならせることにより、表示対象物が移動してゆく状態を示す動画が観察できるようにしたものである。
【0019】
(11) 本発明の第11の態様は、上述の第1〜10の態様に係るホログラム記録媒体において、
特定のグループについては、更にM通り(M≧2)のサブグループを定義し、第m番目(1≦m≦M)のサブグループに所属する記録領域内には、それぞれ単色で着色されたM通りの単色部分原画像を組み合わせることにより構成される原画像のうち、第m番目の単色部分原画像からの物体光と、この物体光と同色の参照光との干渉縞を記録するようにし、白色の再生用照明光を照射して所定の視点位置から観察したときに、M通りの色をもったカラー画像として原画像が再生されるようにしたものである。
【0020】
(12) 本発明の第12の態様は、上述の第1〜10の態様に係るホログラム記録媒体において、
特定のグループに所属する記録領域をそれぞれT個の分割領域に分け(T≧2)、第t番目(1≦t≦T)の分割領域には、T個の色成分をもった原画像からの第t番目の色成分に対応する物体光と、この物体光と同色の参照光との干渉縞を記録するようにし、白色の再生用照明光を照射して所定の視点位置から観察したときに、T通りの色をもったカラー画像として原画像が再生されるようにしたものである。
【0021】
(13) 本発明の第13の態様は、ホログラム記録媒体において、記録面上に複数の記録領域を設け、各記録領域はN通りの干渉縞記録グループ(N≧1)およびK通りの回折格子記録グループ(K≧1)のいずれかに所属させ、第n番目(1≦n≦N)の干渉縞記録グループに所属する記録領域内には、N通りのうちの第n番目の干渉縞記録用原画像からの物体光と、N通りのうちの第n番目の参照光との干渉縞を記録し、第k番目(1≦k≦K)の回折格子記録グループに所属する記録領域内には、K通りのうちの第k番目の回折格子記録用原画像を回折格子パターンとして記録するようにしたものである。
【0022】
(14) 本発明の第14の態様は、上述の第13の態様に係るホログラム記録媒体において、
干渉縞を記録する際の参照光の記録面に対する入射方向と、回折格子を記録する際の格子線の配置方向と、の関係を調節することにより、干渉縞記録用原画像と回折格子記録用原画像とが、それぞれ異なる視点位置において観察したときに再生されるように構成したものである。
【0023】
(15) 本発明の第15の態様は、上述の第13の態様に係るホログラム記録媒体において、
干渉縞記録時に、N通り(N≧2)の参照光の記録面に対する各入射方向を互いに異なるように設定し、N通りの視点位置から観察したときに、それぞれ異なる干渉縞記録用原画像が再生されるようにしたものである。
【0024】
(16) 本発明の第16の態様は、上述の第13の態様に係るホログラム記録媒体において、
K通り(K≧2)の回折格子記録用原画像を、回折光の放射方向がそれぞれ異なる回折格子によって記録し、K通りの視点位置から観察したときに、それぞれ異なる回折格子記録用原画像が再生されるようにしたものである。
【0025】
(17) 本発明の第17の態様は、上述の第1〜第16の態様に係るホログラム記録媒体において、
干渉縞を、もしくは、干渉縞および回折格子パターンを、媒体表面に形成された微細な凹凸構造によって構成するようにしたものである。
【0026】
(18) 本発明の第18の態様は、上述の第1〜第17の態様に係るホログラム記録媒体を製造する場合に、
同一グループに所属する記録領域のみが露出するように、記録面を構成する感光板の表面を遮光マスクで覆い、露出した記録領域に1つの原画像を光学的に記録する工程を、グループの数だけ繰り返し実行するようにしたものである。
【0027】
(19) 本発明の第19の態様は、上述の第1〜第17の態様に係るホログラム記録媒体を製造する場合に、
各記録領域ごとに、その所属グループを考慮して、記録すべき干渉縞もしくは回折格子パターンに対応する画像データをコンピュータを用いた演算により求め、求めた画像データに基いて物理的な媒体にパターンを描画するようにしたものである。
【発明の効果】
【0028】
本発明に係るホログラム記録媒体によれば、視点位置を変えることにより全く別な原画像を鮮明に再生させることが可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】一般的なホログラムの作成方法を示す原理図である。
【図2】記録面20上の1点Q(x,y)に集まる物体光を示す斜視図である。
【図3】本発明に係るホログラム記録媒体に記録される3種類の原画像を示す図である。
【図4】図3に示す3種類の原画像を記録するために、記録面上に定義された記録領域を示す平面図である。
【図5】図3に示す第1の原画像Faを記録する作業を示す斜視図である。
【図6】図3に示す第2の原画像Fbを記録する作業を示す斜視図である。
【図7】図3に示す第3の原画像Fcを記録する作業を示す斜視図である。
【図8】図5〜図7に示す記録媒体20の側面図である。
【図9】図5〜図7に示す記録媒体20の上面図である。
【図10】図5〜図7に示す記録媒体20の平面図である。
【図11】原画像Fc上の1点Pの情報が、記録領域C1〜C3の全体に記録されることを示す斜視図である。
【図12】原画像Fc上に定義された単位線分L1〜L3上の点光源の情報が、それぞれ対応する記録領域C1〜C3内にのみ記録されることを示す斜視図である。
【図13】点光源Pijから放出された物体光のY軸方向の広がり角をξに制限した記録方法を示す斜視図である。
【図14】点光源Pijから放出された物体光のY軸方向の広がり角をξに制限し、X軸方向の広がり角をΨに制限した記録方法を示す斜視図である。
【図15】記録面上に、面積の異なる複数種類の記録領域を定義した状態を示す平面図である。
【図16】記録面上に、配置周期の異なる複数種類の記録領域を定義した状態を示す平面図である。
【図17】記録面上に、ひとまとまりの記録領域を定義したいくつかの例を示す平面図である。
【図18】一連の動画を構成する原画像の一例を示す図である。
【図19】表示対象物が移動する動画を構成する原画像の一例を示す図である。
【図20】モノクロ原画像と多色原画像との例を示す図である。
【図21】図20に示す2通りの原画像を記録するための記録領域を定義した状態を示す平面図である。
【図22】モノクロ原画像とカラー原画像との例を示す図である。
【図23】図22に示す2通りの原画像を記録するための記録領域を定義した状態を示す平面図である。
【図24】文字「A」を示す原画像およびその画素情報を示す図である。
【図25】原画像の1画素に割り付けるべき回折格子を有する画素パターンの平面図である。
【図26】図24に示す原画像を構成する各画素に、図25に示す画素パターンを割り付けた状態を示す平面図である。
【図27】図24に示す原画像の各画素の座標値を示す平面図である。
【図28】2通りの文字を表現した回折格子パターンを示す平面図である。
【図29】図28に示す2通りの回折格子パターンを重ね合わせることにより得られるパターンを示す平面図である。
【図30】本発明に係るホログラム記録媒体に記録される4通りの原画像を示す図である。
【図31】干渉縞と回折格子パターンとを組み合わせることにより、2通りの原画像を記録した状態を示す概念図である。
【図32】図30に示す4通りの原画像を記録するための記録領域を定義した状態を示す平面図である。
【図33】干渉縞と回折格子パターンとを組み合わせることにより、4通りの原画像を記録した記録媒体の第1の観察態様を示す平面図である。
【図34】干渉縞と回折格子パターンとを組み合わせることにより、4通りの原画像を記録した記録媒体の第2の観察態様を示す平面図である。
【図35】図30に示す4通りの原画像のうちの2つを記録するための記録領域を定義した状態を示す平面図である。
【図36】図35に示す記録領域に実際に記録を行った状態を示す平面図である。
【図37】図30に示す4通りの原画像のうちの3つを記録するための記録領域を定義した状態を示す平面図である。
【図38】図37に示す記録領域に実際に記録を行った状態を示す平面図である。
【図39】図30に示す4通りの原画像のすべてを記録するための記録領域を定義した状態を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
<<< §1.ホログラムの基本原理 >>>
図1は、一般的なホログラムの作成方法を示す原理図であり、原画像10を記録媒体20上に干渉縞として記録する方法が示されている。ここでは、説明の便宜上、図示のとおりXYZ三次元座標系を定義し、記録媒体20(説明の便宜上、厚みをもたない媒体、すなわち、記録面自体と考えることにする)がXY平面上に置かれているものとする。光学的な手法を採る場合、原画像10として何らかの物体が用意され、記録媒体20として感光板が用意されることになる。そして、レーザ光のようなコヒーレント光を用意し、その一部を原画像10を構成する物体に照射し、別な一部を記録媒体20を構成する感光板に照射する。物体に照射された光は物体光Oとして記録媒体20へと向かうことになり、記録媒体20へ直接照射された光は参照光Rとして機能する。記録媒体20には、この物体光Oと参照光Rとの干渉縞が記録される。ここで、原画像10上の任意の1点Pを考えると、この任意の1点Pから発せられた物体光Oは、図示のとおり、記録媒体20の全面に向けて進行し、参照光Rとの干渉縞として記録媒体20上に記録されることになる。結局、原画像10上のすべての点が、同様にして、記録媒体20上に干渉縞として記録される。
【0031】
以上が、光学的な方法によるホログラム記録媒体の作成原理であるが、記録媒体20の位置に計算機ホログラムを作成するには、原画像10、記録媒体20、参照光Rを、コンピュータ上にデータとしてそれぞれ定義し、記録媒体20上の各位置における干渉波強度を演算すればよい。具体的には、たとえば図2に示すように、原画像10をI個の点光源P1,P2,P3,…,Pi,…,PIの集合として取り扱い、各点光源からの物体光O1,O2,O3,…,Oi,…,OIが、それぞれ演算点Q(x,y)へと進行するとともに、参照光Rが演算点Q(x,y)に向けて照射されたものとし、これらI本の物体光O1〜OIと参照光Rとの干渉によって生じる干渉波の演算点Q(x,y)の位置における振幅強度を求める演算を行えばよい。物体光および参照光は、通常、単色光として演算が行われる。記録媒体20上には、必要な解像度に応じた多数の演算点を定義するようにし、これら各演算点のそれぞれについて、振幅強度を求める演算を行えば、記録媒体20上には干渉波の強度分布が得られることになる。
【0032】
このようにして、記録媒体20上に定義された個々の演算点について、それぞれ干渉波の強度値が演算できたら、個々の演算点位置に、干渉波の強度値に応じた画素値を有する画素を定義すれば、これら画素の集合からなる干渉波画像を記録媒体20上に作成することができる。この干渉波画像は、記録媒体上に得られた干渉波の強度分布を示す画像ということになる。そこで、この干渉波画像に基づいて、実際の媒体上に物理的な濃淡パターンやエンボスパターンを形成すれば、原画像10を干渉縞として記録したホログラム記録媒体が作成できる。媒体上に高解像度の干渉縞を形成する手法としては、電子線描画装置を用いた描画が適している。電子線描画装置は、半導体集積回路のマスクパターンを描画する用途などに広く利用されており、電子線を高精度で走査する機能を有している。そこで、演算によって求めた干渉波の振幅の強度分布を示す画像データを電子線描画装置に与えて電子線を走査すれば、この振幅強度分布に応じた干渉縞パターンを描画することができる。
【0033】
ただ、一般的な電子線描画装置は、描画/非描画を制御することにより二値画像を描画する機能しか有していない。そこで、演算によって求めた強度分布を二値化して二値画像を作成し、この二値画像データを電子線描画装置に与えればよい。すなわち、干渉波の振幅強度値に対して所定のしきい値(たとえば、記録媒体20上に分布する全振幅強度値の平均値)を設定し、このしきい値以上の強度値をもつ演算点には画素値「1」を与え、このしきい値未満の強度値をもつ演算点には画素値「0」を与えるようにし、各演算点Q(x,y)を、「1」もしくは「0」の画素値をもつ画素に変換すれば、これらの画素の集合からなる二値画像が得られる。この二値画像のデータを電子線描画装置に与えて描画を行えば、物理的な二値画像として干渉縞を描画することができる。実際には、この物理的に描画された干渉縞に基づいて、たとえばエンボス版(画素値「1」をもつ画素部分を凸部、画素値「0」をもつ画素部分を凹部とするエンボス版、あるいは凹凸の関係がその逆のエンボス版)を作成し、このエンボス版を用いたエンボス加工を行うことにより、表面に干渉縞が凹凸構造として形成されたホログラムを量産することができる。
【0034】
上述のような方法により作成されたホログラムが記録された記録媒体を、理想的な条件の下で再生するには、記録時に用いた参照光Rと同一波長の光を同一方向から照射すればよい。すなわち、図1に示すような方向から再生用の照明光Rを照射し、これを記録媒体20の裏側から観察すれば、原画像10が立体再生像として観察されることになる。なお、クレジットカード用の偽造防止マークなどで用いられるホログラム記録媒体の場合であれば、図1に示す記録媒体20の裏側に視点を置き、参照光Rとは逆の方向(記録媒体20に対して面対称となる方向)から再生用照明光を照射して観察することになるが、この場合でも、原画像10が立体再生像として得られることになる。もっとも、通常の再生環境では、再生用照明光として、記録時に用いた参照光Rと同一波長の光を用意することは困難であり、実際には、白色に近い再生用照明光が用いられることが多い。白色の照明光を用いて再生すると、得られる再生像は白濁して観察されることになる。そこで、再生像の白濁を防ぐための一手法として、物体光の広がり角を制限する方法が知られている。この広がり角の制限手法は、本発明に係るホログラム記録媒体においても有用であるので、詳細については、§3において述べることにする。
【0035】
<<< §2.本発明の基本原理 >>>
続いて、本発明に係るホログラム記録媒体の基本原理を説明する。本発明の目的は、視点位置を変えることにより全く別な原画像を鮮明に再生させることができるホログラム記録媒体を提供することにある。そこで、ここでは、図3に示すような原画像Fa,Fb,Fcという全く別な3通りの原画像を、1枚の記録媒体上に重ねて記録し、視点位置を変えることにより特定の原画像を選択的に再生できるようにする原理を説明する。
【0036】
まず、図4に示すように、記録媒体20の記録面上に複数の記録領域を定義する。ここでは、記録面がXY平面上にあるものとし、個々の記録領域を、X軸方向に細長い矩形からなる領域として定義している。すなわち、図4の例では、9つの記録領域A1,B1,C1,A2,B2,C2,A3,B3,C3が定義されており、いずれもX軸方向に細長く、Y軸方向に幅hをもった同一の矩形領域によって構成されている。本発明では、記録対象となる原画像の数に応じて、複数のグループを定義し、各記録領域をいずれかのグループに所属させることになる。ここに示す実施例では、図3に示すように、3通りの原画像を重ねて記録するため、3通りのグループGa,Gb,Gcが定義され、各記録領域は、この3通りのグループのいずれかに所属することになる。図4の例では、記録領域A1,A2,A3がグループGaに所属し、記録領域B1,B2,B3がグループGbに所属し、記録領域C1,C2,C3がグループGcに所属することが示されている。ここでは、各記録領域の所属グループをかっこ書きで示すことにする。
【0037】
このように、各記録領域をグループに分けたら、特定の原画像に関する情報を特定のグループに所属する記録領域に記録する。たとえば、図3に示すように、原画像Fa,Fb,Fcという3通りの原画像を記録する場合、原画像FaをグループGaに所属する記録領域A1,A2,A3に記録し、原画像FbをグループGbに所属する記録領域B1,B2,B3に記録し、原画像FcをグループGcに所属する記録領域C1,C2,C3に記録する。ここで重要な点は、各グループごとに、記録媒体20の記録面に対する参照光の入射方向が異なるような設定を行って記録を行う点である。この記録方法を、図5〜図7を参照しながら具体的に説明しよう。
【0038】
まず、図5に示すように、第1の原画像Faを、グループGaに所属する記録領域A1,A2,A3に記録する。このとき、記録面に対して第1の方向から参照光Raを照射するようにし、原画像Faからの物体光Oaと参照光Raとの干渉縞が、各記録領域A1,A2,A3に記録されるようにする。図にハッチングを施した領域が、干渉縞の記録が完了した領域であり、この時点では、まだ、記録領域B1,B2,B3,C1,C2,C3には何も記録されていない。続いて、図6に示すように、第2の原画像Fbを、グループGbに所属する記録領域B1,B2,B3に記録する。このとき、記録面に対して第2の方向から参照光Rbを照射するようにし、原画像Fbからの物体光Obと参照光Rbとの干渉縞が、各記録領域B1,B2,B3に記録されるようにする。最後に、図7に示すように、第3の原画像Fcを、グループGcに所属する記録領域C1,C2,C3に記録する。このとき、記録面に対して第3の方向から参照光Rcを照射するようにし、原画像Fcからの物体光Ocと参照光Rcとの干渉縞が、各記録領域C1,C2,C3に記録されるようにする。かくして、記録媒体20上の記録面全面に干渉縞の記録が行われることになる。
【0039】
ここで重要な点は、参照光Ra,Rb,Rcが記録面に対してそれぞれ異なる入射方向から照射されている点である。このように、参照光の入射方向をそれぞれ変えて各原画像を記録しておくと、記録面に対して所定方向から再生用照明光を照射した場合に、各原画像が観察される視点位置が異なってくる。この現象は、「記録時に用いた参照光と同じ方向(もしくは記録面に対して面対称となる方向)から、この参照光と同一波長の再生用照明光を照射すると、立体再生像が得られる」というホログラムの基本原理に基く現象である。すなわち、「視点位置を固定したまま再生用照明光の入射方向を変える」という観察態様と、「再生用照明光の入射方向を固定したまま視点位置を変える」という観察態様とは、ホログラムの原理の面からは同等であり、いずれの観察態様を採った場合であっても、異なる原画像Fa,Fb,Fcが観察されることになる。
【0040】
たとえば、上述の方法により、3通りの原画像Fa,Fb,Fcを記録した記録媒体20の正面(原画像を置いた側とは反対側)に視点を置き、図5に示す参照光Raと同じ方向(もしくは、記録媒体20に対して参照光Raとは面対称となる方向)から再生用照明光を照射すれば、正面の視点位置からは原画像Faが観察されることになる。また、図6に示す参照光Rbと同じ方向(もしくは、記録媒体20に対して参照光Rbとは面対称となる方向)から再生用照明光を照射すれば、正面の視点位置からは原画像Fbが観察されることになり、図7に示す参照光Rcと同じ方向(もしくは、記録媒体20に対して参照光Rcとは面対称となる方向)から再生用照明光を照射すれば、正面の視点位置からは原画像Fcが観察されることになる。逆に、再生用照明光の照射方向を固定し、視点位置を移動させた場合も、同様の現象が起こり、ある視点位置からは原画像Faが観察され、別な視点位置からは原画像Fbが観察され、更に別な視点位置からは原画像Fcが観察される。
【0041】
なお、上述の実施例では、3通りの原画像を記録しているが、一般には複数N通りの原画像を記録する場合に本発明を利用することができる。すなわち、本発明に係るホログラム記録媒体は、媒体の記録面上に複数の記録領域が設けられており、各記録領域はN通りのグループ(N≧2)のいずれかに所属し、第n番目(1≦n≦N)のグループに所属する記録領域内には、N通りのうちの第n番目の原画像からの物体光と、N通りのうちの第n番目の参照光との干渉縞が記録されており、この記録時におけるN通りの参照光の記録面に対する各入射方向が互いに異なるように設定されていればよいことになる。このようなホログラム記録媒体では、N通りの視点位置から観察したときに、それぞれ異なる原画像が再生されることになる。
【0042】
ところで、上述の実施例では、同一グループに所属する複数の記録領域が、記録面の全面に分散して配置されている。より具体的に言えば、同一グループに所属する複数の記録領域が、記録面上において一定の周期で規則的に配置されている。たとえば、図4において、グループGaに所属する3つの記録領域A1,A2,A3は、記録媒体20の記録面全体に分散しており、一定の周期3hで規則的に配置されている。グループGb,Gcに所属する記録領域も同様である。複数の原画像を同じ空間内に重ねて記録する場合、このように、同一グループに所属する記録領域を分散配置した方が、より良質の再生像を得ることができるので好ましい。また、実用上は、同一グループに所属する記録領域を一定の周期で規則的に配置しておけば、単純な計算式で各記録領域の位置を特定することができるようになるので、記録時の作業効率を向上させることができる。
【0043】
なお、個々の記録領域の形状は、必ずしも上述の実施例のような矩形形状にする必要はないが、各記録領域を規則的に配置するためには、矩形の記録領域を用いるのが好ましい。特に、上述の実施例のように、XY平面上に定義した記録面上に、X軸方向に細長い矩形からなる記録領域をY軸方向に多数並べるようにし、Y軸方向に隣接する各記録領域が互いに異なるグループに所属するように構成すれば、同一グループに所属する記録領域を分散配置することが容易にできる。このとき、各記録領域のY軸方向の幅hは、あまり大きいと、記録面全体に横縞のストライプ模様が観察されるおそれがあるので、肉眼観察不能な幅(一般に、0.1mm以下)に設定するのが好ましい。なお、図4〜図7に示した実施形態では、説明の便宜上、記録領域の数を非常に少なく設定しているが(各グループに所属する記録領域の数はいずれも3つだけしかない)、実際には、ストライプ模様が観察されないように、Y軸方向の幅hが非常に小さな矩形領域が多数配置されることになる。
【0044】
さて、本発明に係るホログラム記録媒体を作成する上では、上述したように、各原画像ごとに、記録時の参照光の入射方向を変える必要がある。ここでは、この入射方向を変化させるいくつかの実施形態を述べておく。まず、これらの実施形態を説明するために、次のような定義を行う。図8は、記録媒体20を側方から見た側面図であり、図の右方向がZ軸方向、下方向がY軸方向、紙面に垂直方向がX軸方向になる。この図8において、記録媒体20上の点Qの位置に入射する参照光RのYZ平面への投影像をRyzとし、点Qにおいて記録媒体20の記録面上に立てた法線をNとし、法線Nと投影像Ryzとのなす角をθyzとする。一方、図9は、記録媒体20を上方から見た上面図であり、図の左方向がX軸方向、下方向がZ軸方向、紙面に垂直方向がY軸方向になる。この図9において、記録媒体20上の点Qの位置に入射する参照光RのXZ平面への投影像をRxzとし、点Qにおいて記録媒体20の記録面上に立てた法線をNとし、法線Nと投影像Rxzとのなす角をθxzとする。また、図10は、記録媒体20の平面図であり、図の右方向がX軸方向、下方向がY軸方向、紙面に垂直方向がZ軸方向になる。この図10において、記録媒体20上の点Qの位置に入射する参照光RのXY平面への投影像をRxyとし、この投影像RxyとX軸とのなす角をθxyとする(Y軸とのなす角を用いても等価である)。
【0045】
いま、N通りの原画像を記録するために、記録面に対する入射方向がそれぞれ異なるN通りの参照光を設定する必要があるものとしよう。この場合、N通りの参照光を設定する第1の実施形態は、図8で定義された角θyzが、複数N通りの参照光すべてについてほぼ同一となり、図9で定義された角θxzが、複数N通りの参照光すべてについて、異なる原画像の観察に必要な程度十分に異なるような設定である(ここで、「ほぼ同一」とは、同一の原画像が観察可能な程度に近似しているという意味である。)。別言すれば、この設定は、参照光を水平方向に振るように動かす設定ということができる。このような設定で記録された記録媒体は、再生時に視点位置を水平方向に移動させると(あるいは、記録媒体自体を横方向に傾けると)、特定の視点位置において特定の原画像が観察できることになり、いわば水平方向の視点移動により原画像の切り換えが行われることになる。
【0046】
もっとも、角θxzの差があまり小さいと、同一の視点位置において複数の原画像が同時に観察されてしまうことになるので、角θxzはある程度の差、すなわち、各原画像を別々の視点位置から観察することが可能な程度の差をもって設定する必要がある。たとえば、第1の参照光R1の角θxzと、第2の参照光R2の角θxzとの差が、わずか1°程度であったとすると、第1の参照光R1を用いて記録した第1の原画像と、第2の参照光R2を用いて記録した第2の原画像とが、同一視点位置において重なって観察される可能性が高い。角θxzの差をどの程度に設定すれば、複数の原画像が別々の視点位置から観察されるようになるかは、記録面の大きさ、各原画像の大きさ、各原画像の記録面に対する位置、などのパラメータによって異なるため、一概には決められないが、一般的な例の場合、60°程度の差があれば、各原画像を別々の視点位置から観察することが十分に可能になると思われる。参考として、図3に示す3通りの原画像Fa,Fb,Fcを実際に記録する際に用いた3通りの参照光Ra,Rb,Rcの記録面に対する入射角度の実例を掲げておくと、角θyzはいずれの参照光についても18.75°と同一であり、角θxzは、参照光Raについては62.97°、参照光Rbについては0°、参照光Rcについては−62.97°という設定を行った結果、各原画像Fa,Fb,Fcを全く別々の視点位置から観察することができた。
【0047】
N通りの参照光を設定する第2の実施形態は、上述の第1の実施形態の縦と横とを入れ替えた設定を行うものである。すなわち、図8で定義された角θyzが、複数N通りの参照光すべてについて、異なる原画像の観察に必要な程度十分に異なり、図9で定義された角θxzが、複数N通りの参照光すべてについてほぼ同一となるような設定である。別言すれば、この設定は、参照光を垂直方向に振るように動かす設定ということができる。このような設定で記録された記録媒体は、再生時に視点位置を垂直方向に移動させると(あるいは、記録媒体自体を縦方向に傾けると)、特定の視点位置において特定の原画像が観察できることになり、いわば垂直方向の視点移動により原画像の切り換えが行われることになる。この場合も、角θyzの差をある程度以上に設定するようにしないと、各原画像を別々に観察することができない。
【0048】
N通りの参照光を設定する第3の実施形態は、上述の第1の実施形態と第2の実施形態とを組み合わせた設定と言うべきものであり、記録面上の点Qに参照光が入射する場合に、この記録面上の点Qの位置に立てた法線とのなす角度が、N通りの参照光すべてについてほぼ同一となり、この参照光を記録面へ投影した場合、投影像とX軸またはY軸とのなす角度がN通りの参照光すべてについて、異なる原画像の観察に必要な程度十分に異なるような設定を行うものである。この設定は、図10に示す点Q上に法線を立て、この法線を中心軸とし、点Qを頂点とする円錐を考えた場合に、この円錐の一稜線の向きを1つの参照光の向きとする設定ということができ、いわば参照光を歳差運動中の独楽の回転軸のように動かす設定ということができる。このような設定で記録された記録媒体は、再生時に視点位置を、上述の円錐の底面の円周に沿って移動させると(あるいは、記録媒体自体を独楽の歳差運動のように運動させると)、特定の視点位置において特定の原画像が観察できることになる。この場合も、角θxyの差をある程度以上に設定するようにしないと、各原画像を別々に観察することができない。
【0049】
以上、本発明に係るホログラム記録媒体の基本原理を説明したが、このようなホログラム記録媒体は、光学的な手法により製造することも可能であるし、コンピュータを用いた計算機ホログラムの手法を用いて製造することも可能である。光学的な手法により製造するのであれば、同一グループに所属する記録領域のみが露出するように、記録面を構成する感光板の表面を遮光マスクで覆い、露出した記録領域に1つの原画像を光学的に記録する工程を、グループの数だけ繰り返し実行すればよい。たとえば、図5に示すように、第1の原画像Faを記録する際には、グループGaに所属する記録領域A1〜A3のみが露出するような遮光マスクを用いて、感光板を構成する記録媒体20を覆うようにし、原画像Faを構成する物体からの物体光Oaと参照光Raとの干渉縞を、露出した記録領域A1〜A3に対してのみ記録するようにすればよい。同様に、図6に示す工程を行う際には、グループGbに所属する記録領域B1〜B3のみが露出するような遮光マスクを用い、図7に示す工程を行う際には、グループGcに所属する記録領域C1〜C3のみが露出するような遮光マスクを用いればよい。
【0050】
もっとも、上述した光学的な手法による製造方法は、マスクの位置合わせ工程などにかなりの労力が必要となる。このため、本発明に係るホログラム記録媒体は、計算機ホログラムの手法を用いて作成するのが好ましい。計算機ホログラムの手法を利用すれば、各記録領域ごとに、その所属グループを考慮して、記録すべき干渉縞に対応する画像データをコンピュータを用いた演算により求めることができる。たとえば、図5に示すように、第1の原画像Faを記録する際には、グループGaに所属する記録領域A1〜A3内のみを演算対象として、これらの領域内の演算点についてのみ干渉波の強度値を求めるようにすればよい。全記録面について干渉波強度値を得られたら、これを二値画像データとして電子線描画装置などに与え、物理的な媒体の表面上に凹凸構造を形成すれば、ホログラム記録媒体を作成することができる。
【0051】
<<< §3.物体光の広がり角の制限 >>>
図1に示すように、ホログラムの基本原理は、原画像10上の任意の1点Pからの物体光Oと参照光Rとの干渉縞を、記録媒体20の全面に記録することにあり、1点Pの情報は、記録面の全面に記録されることになる。別言すれば、1点Pからの物体光Oは、記録面全面に広がることになる。このような考え方は、本発明に係るホログラム記録媒体の場合であっても、基本的には同じである。したがって、たとえば、図11に示すように、原画像Fcの情報を、グループGcに所属する記録領域C1〜C3に記録する作業を行う場合、原画像Fc上の任意の点Pの情報は、記録領域C1〜C3のすべてに記録されることになる。このように、原画像上の任意の1点の情報が、記録面の全面に渡って記録される点がホログラムの特徴であり、この特徴により立体再生像が得られることになる。
【0052】
しかしながら、上述したホログラムの基本原理は、もともと記録時に用いた単色光と同一波長の単色光を用いて再生を行うことを前提としたものであり、白色光を用いた再生を行った場合、厳密には本来の立体再生像を得ることはできない。ところが、現実的には、クレジットカード用の偽造防止シールなどに利用されるホログラム記録媒体の場合、白色光を用いた再生が行われるのが一般的である。再生時に白色の照明光を用いた場合、記録媒体の各部から種々の波長をもった再生光が様々な方向に放出されることになり(再生光の放出方向は、その波長に依存する)、白濁した不鮮明な再生像が観察されることになる。そこで、白色照明光を用いて再生した場合でも、鮮明な再生像が得られるようにする工夫として、記録時に物体光の広がり角を制限する手法が、前掲のいくつかの公報において提案されている。この手法は、光学的にホログラムを作成する工程に適用することは困難であるため、実用上は計算機ホログラムを前提とした手法となる。
【0053】
たとえば、図12に示すように、原画像Fc上に単位線分L1〜L3を定義する。ここでは、XZ平面に平行な3枚の切断面を定義し、この切断面で原画像Fcを切断したときの切り口に現れる線分(曲線分)として、3本の単位線分L1〜L3を定義している。また、3枚の切断面の間隔は、グループGcに所属する記録領域C1,C2,C3の配置間隔(3h)に等しく設定してある。図示の例では、原画像Fcが球体をしたサッカーボールであるため、各単位線分L1〜L3は、この球体上の円として定義される。続いて、各単位線分L1〜L3上に所定間隔をおいて多数の点光源を定義する。図示の例では、単位線分L1上には、点光源P11,P12,P13,…が定義され、単位線分L2上には、点光源P21,P22,P23,…が定義され、単位線分L3上には、点光源P31,P32,P33,…が定義されている。
【0054】
こうして、多数の点光源を定義したら、これらの点光源を原画像Fcを代表するサンプル光源として干渉縞の記録を行うことになる。すなわち、各点光源から放出される物体光と所定の参照光との干渉縞を、記録領域C1,C2,C3に記録することになる。ただし、記録領域C1内には単位線分L1上の点光源P11,P12,P13,…からの物体光に基く干渉縞のみを記録し、記録領域C2内には単位線分L2上の点光源P21,P22,P23,…からの物体光に基く干渉縞のみを記録し、記録領域C3内には単位線分L3上の点光源P31,P32,P33,…からの物体光に基く干渉縞のみを記録するようにする。このような記録方法は、別な見方をすれば、点光源から放出される物体光の広がり角を制限した記録方法と言うことができる。すなわち、図13に示すような一般的なモデルを考えると、原画像上に定義された第i番目の単位線分Li上に並んでいる第j番目の点光源Pijの情報を、記録媒体20上に定義されたY軸方向の幅hをもった矩形の記録領域Ci(図にハッチングを施して示す)内にのみ記録するということは、点光源Pijから放出された物体光のY軸方向に関する広がり角を所定角ξに制限した上で、この物体光と参照光R(図示の例では、YZ平面に平行な方向に進む平面波)とによって生じる干渉縞を記録することと等価になる。
【0055】
このように、物体光のY軸方向の広がり角を所定角ξに制限した記録を行うと、図示の例のように、YZ平面に平行な方向に進む参照光Rと同じ方向(もしくは、記録面に対してこれと面対称となる方向)から白色照明光を照射して観察した場合、点光源Pijに関する情報をもった再生光は、いずれの波長成分の光であっても、この広がり角ξに準じた方向にしか進まなくなるので、白濁した不鮮明な再生像が観察されるという現象を抑制することができる。
【0056】
図14に示す例は、更に、物体光のX軸方向の広がり角を所定角Ψに制限した例である。この場合、点光源Pijから放出された物体光は、記録媒体20上の領域S(図にハッチングを施して示す)内にのみ到達することになり、点光源Pijの情報は、この領域S内にのみ記録されることになる。この方法には、再生像の輝度むらを抑制できるというメリットがある。
【0057】
もっとも、物体光の広がり角を制限するという手法は、本来のホログラムの考え方に逆行する手法ということができる。§1で述べたように、本来のホログラムでは、原画像上の任意の1点Pの情報が、記録面の全体に干渉縞として記録されることになり、それによって原画像の立体視が可能になるのである。したがって、物体光の広がり角を制限して記録を行ったホログラムでは、再生像についての本来の立体視が生じなくなる。たとえば、図12に示す例では、記録領域C1内には単位線分L1上の点光源についての情報しか記録されておらず、記録領域C2内には単位線分L2上の点光源についての情報しか記録されておらず、記録領域C3内には単位線分L3上の点光源についての情報しか記録されていない。したがって、この記録媒体20上に記録されたホログラムを再生しても、縦方向に関する立体視は生じなくなる。更に、図14に示す例では、横方向の立体視も制限を受けることになる(X軸方向の広がり角Ψがある程度以下になると、横方向の立体視も全く生じなくなる)。
【0058】
このように、物体光の広がり角を制限して干渉縞の記録を行うという手法は、白色照明光による再生時における再生像の白濁を防ぎ、再生像をより鮮明にするというメリットが生じるものの、ホログラム本来の特性である立体像の再現という機能を損なうデメリットも生じることになるので、用途によって使い分けるのが好ましい。たとえば、クレジットカード用の偽造防止マークのような用途であれば、縦方向の立体視が失われたとしても、横方向の立体視がある程度確保されれば十分に機能を果たすことができるので、図13に示すように、Y軸方向の広がり角のみを制限した記録を行うと、実用上、十分鮮明な再生像を得ることが可能なホログラム記録媒体を実現できる。
【0059】
<<< §4.種々のバリエーション >>>
これまで、本発明に係るホログラム記録媒体の基本原理を述べてきたが、ここでは、このホログラム記録媒体についての種々の変形例を述べる。
【0060】
<<<4.1 記録領域の配置に関する変形例>>>
図4に示す実施例では、Y軸方向の幅hをもった全く同じ大きさの矩形からなる記録領域が定義されているが、各記録領域の大きさは、各グループごとに変えることも可能である。たとえば、図15に示す例では、グループGaに所属する記録領域A1〜A3およびグループGcに所属する記録領域C1〜C3は、いずれもY軸方向の幅hをもった全く同じ大きさの矩形からなる記録領域であるが、グループGbに所属する記録領域B1〜B3は、Y軸方向の幅2hをもった矩形からなる記録領域となっている。結局、グループGbに所属する記録領域の全面積は、グループGaに所属する記録領域の全面積あるいはグループGcに所属する記録領域の全面積に比べて2倍の面積となっている。この記録領域の面積は、再生像の明るさに影響を与える要因となる。すなわち、図15に示すような各記録領域の定義がなされている記録面に対して、図3に示す3通りの原画像Fa,Fb,Fcを記録すると、グループGbに記録される原画像Fbの再生像の明るさは、グループGaに記録される原画像Faの再生像の明るさ、あるいはグループGcに記録される原画像Fcの再生像の明るさに比べて2倍になる。図3に示す例では、原画像Fa,Fcが一般的な絵柄からなる画像であるのに対し、原画像Fbは「PAT」なる文字からなる画像である。このように、記録対象となる複数N通りの原画像の中に文字からなる原画像が含まれており、再生時に、この文字からなる原画像がより顕著に再生されるようにしたい、という要望がある場合には、図15に示す例のように、文字からなる原画像Fbについての記録領域の面積が多くなるような設定を行うと有効である。
【0061】
また、文字からなる原画像については、「再生像をより明るくしたい」という要望ではなく、「より解像度の高い再生像を得たい」という要望も少なからずある。このような要望に応じるためには、文字からなる原画像を記録する記録領域の空間的な配置周期を、他の原画像を記録する記録領域の空間的な配置周期よりも短く設定するとよい。そのような実施例を図16に示す。この例では、グループGbに所属する記録領域B1−1,B1−2,B2−1,B2−2,B3−1,B3−2のY軸方向の幅をhとすると、グループGaに所属する記録領域A1〜A3およびグループGcに所属する記録領域C1〜C3のY軸方向の幅は2hとなっており、2倍に設定されている。しかしながら、グループGbに所属する記録領域の空間的な配置周期が3hであるのに対し、グループGaに所属する記録領域の空間的な配置周期やグループGcに所属する記録領域の空間的な配置周期は6hと2倍になっている。このような記録領域の定義がなされている記録面に対して、図3に示す3通りの原画像Fa,Fb,Fcを記録すると、グループGbに記録される原画像Fbの再生像の解像度は、グループGaに記録される原画像Faの再生像の解像度、あるいはグループGcに記録される原画像Fcの再生像の解像度に比べて2倍になる(全記録面積は各原画像で等しくなるため、明るさは同じになる。)。結局、文字からなる原画像についてより高い解像度の再生像を得たい場合は、この文字からなる原画像を記録する記録領域の空間的な配置周期を、他の原画像を記録する記録領域の空間的な配置周期よりも短く設定すればよい。
【0062】
なお、X軸方向に細長い矩形図形によって各記録領域を構成する場合、既に述べたように、各記録領域のY軸方向の幅を肉眼観察不能な程度に設定しないと、横方向のストライプ模様が認識されてしまい、好ましくない結果となる。本願発明者が実際に図15あるいは図16に示す変形例を実施する際、h=26μm、2h=52μmに設定したところ、ストライプ模様が認識されない好ましい結果が得られた。もちろん、この寸法設定は一例であり、ストライプ模様が認識されない程度の寸法設定であれば、どのような寸法設定でもかまわない。また、意図的にストライプ模様を認識させることにより、特殊な意匠効果を狙うのであれば、各記録領域のY軸方向の幅を肉眼観察可能な程度の寸法に設定してもかまわない。
【0063】
<<<4.2 記録領域を分散配置しない変形例>>>
これまで述べてきた実施例では、いずれも同一グループに所属する複数の記録領域が、記録面の全面に分散して配置されていた。しかしながら、本発明に係るホログラム記録媒体を作成する上では、同一グループに所属する複数の記録領域を必ずしも分散配置する必要はない。図17に、1つのグループを単一の記録領域のみによって構成したいくつかの例を示す。いずれの例においても、3つの記録領域A,B,Cのみが定義されており、これらの各記録領域は、それぞれグループGa,Gb,Gcに所属する記録領域である。したがって、たとえば、図17(a) に示すような記録領域が定義された記録面に、図3に示すような3種類の原画像Fa,Fb,Fcを記録した場合、原画像Faの情報は記録領域A内にのみ記録され、原画像Fbの情報は記録領域B内にのみ記録され、原画像Fcの情報は記録領域C内にのみ記録されることになる。
【0064】
ただし、このような記録方法は、3種類の原画像Fa,Fb,Fcが、ほぼ同一の空間的な位置を占めるような場合は不適切である。たとえば、3種類の原画像Fa,Fb,Fcの縦寸法が、記録媒体の縦寸法にほぼ等しい場合、別言すれば、各原画像が記録媒体の画面内にほぼ一杯に再生されるような場合、各原画像は空間的に互いに重なった位置に再生されることになる。ところが、図17(a) に示すような記録領域が定義されていると、原画像Faの情報は、記録媒体上の上部に位置する記録領域A内にのみ記録されることになるので、原画像Faの上方の情報は適切に記録することができても、原画像Faの下方の情報は適切に記録することができなくなる。このため、再生時には、原画像Faの下方部分が不鮮明になったり、欠けてしまったりするおそれがある。特に、§3で述べた物体光の広がり角を制限する手法を利用した場合、原画像Faの下方部分の情報は全く記録されないことになる。
【0065】
したがって、図17(a) に示すような記録領域が定義されている場合は、原画像の配置も、各記録領域の配置に応じたものにする必要がある。具体的には、たとえば、図3に示す3種類の原画像Fa,Fb,Fcのそれぞれの縦寸法を、記録媒体の縦寸法の1/3程度とし、かつ、上から順に原画像Fa,Fb,Fcの順に並ぶように配置すれば、図17(a) に示すような記録領域を設定しても、適切に3種類の原画像を記録することが可能になる。
【0066】
同様の理由から、図17(b) に示すように記録領域A,B,Cを配置した場合は、原画像Faを中心に配置し、それを取り囲むように原画像Fbを配置し、更にそれを取り囲むように原画像Fcを配置するようにする必要があり、各原画像の絵柄も、そのような配置に相応しい絵柄にする必要がある。図17(c) に示す例についても同様である。
【0067】
<<<4.3 動画効果を奏する変形例>>>
本発明において記録対象となるN通りの原画像は、どのような原画像であってもかまわないので、このN通りの各原画像を、一連の動画を構成するそれぞれ1コマ分の静止画像によって構成しておくようにすれば、視点位置を時間とともにN通りに変化させたときに、Nコマからなる動画が観察できるようなホログラム記録媒体を作成することも可能になる。たとえば、図18に示すような3通りの原画像Fa,Fb,Fcは、風船が割れるという一連の動画を構成する1コマ分の静止画像であり、このような3通りの原画像を本発明に係る方法で記録すれば、第1の視点位置からは原画像Faが観察され、第2の視点位置からは原画像Fbが観察され、第3の視点位置からは原画像Fcが観察されることになる。したがって、第1の視点位置から第2の視点位置を経て第3の視点位置へ至るように、視点位置を時間とともに変化させると、風船が割れるという一連の動画が観察できる。
【0068】
また、同一の表示対象物を含む複数コマ分の静止画像によって動画を構成し、各コマにおける表示対象物の表示位置を異ならせるようにすると、この表示対象物が移動してゆく状態を示す動画が観察できるホログラム記録媒体を作成することも可能である。たとえば、図19に示すような3通りの原画像Fa,Fb,Fcは、いずれも自動車という同一の表示対象物を含んでいる。ただし、個々の原画像ごとに、この自動車の表示位置は異なっている。このような3通りの原画像を本発明に係る方法で記録すれば、上述の変形例と同様に、第1の視点位置から第2の視点位置を経て第3の視点位置へ至るように、視点位置を時間とともに変化させると、自動車が移動してゆくという一連の動画が観察できる。
【0069】
<<<4.4 多色原画像を記録する変形例>>>
一般的なホログラムを作成する場合、記録時に用いる物体光および参照光として、特定の単一波長の光が用いられる。既に述べたように、再生時にも記録時と同一の単一波長をもった照明光を用いれば、この単一波長の色をもった正しい再生像が得られるが、白色照明光を用いて再生を行うと、種々の色成分の再生光が混在し、再生像が白濁する現象が起こる。ただ、§3で述べたように、物体光の広がり角を制限する手法を採れば、この白濁現象を抑制することが可能になり、ある程度単色に近い再生像を得ることが可能になる。
【0070】
そこで、ここでは多色原画像を記録する例を述べておく。なお、以下に述べる手法は、特開2001−100622号公報に種々の実施例が開示されているので、詳細は当該公報を参照されたい。まず、ここでは、図20に示すような2通りの原画像Fa,Fbを用意する。ここで、原画像Faはモノクロ原画像であるが、原画像Fbは2色の色から構成される二色原画像である。より具体的には、原画像Fbは、上半分の単色部分原画像Fbαと、下半分の単色部分原画像Fbβとの組み合わせによって構成されており、単色部分原画像Fbαは赤色、単色部分原画像Fbβは青色に着色されているものとする。
【0071】
このような2通りの原画像Fa,Fbを記録する場合、記録面上にグループGaに所属する記録領域とグループGbに所属する記録領域とを定義するわけであるが、ここでは、グループGb内を更にサブグループGbα,Gbβの2つのサブグループに分け、サブグループGbαに所属する記録領域とサブグループGbβに所属する記録領域とを定義する。図21は、このようなグループ設定に基いて、各記録領域を定義した一例を示す図である。この例では、グループGaに所属する記録領域として、4つの記録領域A1,A2,A3,A4が定義され、グループGbに所属する記録領域として、やはり4つの記録領域Bα1,Bα2,Bβ1,Bβ2が定義されており、これらの各記録領域はいずれもY軸方向の幅hをもった矩形領域である。ただし、グループGbに所属する記録領域のうち、上方に配置された2つの記録領域Bα1,Bα2はサブグループGbαに所属し、下方に配置された2つの記録領域Bβ1,Bβ2はサブグループGbβに所属する。
【0072】
このように各記録領域を定義した後、グループGaに所属する記録領域A1〜A4内には原画像Faを記録し、グループGbに所属する記録領域Bα1,Bα2,Bβ1,Bβ内には原画像Fbを記録するという観点では、これまで述べてきた実施例と同じである。ただ、グループGbには更にサブグループが定義されており、サブグループGbαに所属する記録領域Bα1,Bα2内には単色部分原画像Fbαが記録され、サブグループGbβに所属する記録領域Bβ1,Bβ2内には単色部分原画像Fbβが記録される点が、本実施例独特の特徴である。ここで、二色原画像Fbの上半分を構成する単色部分原画像Fbαを記録するための記録領域Bα1,Bα2は、記録面の上半分の位置に配置されており、下半分を構成する単色部分原画像Fbβを記録するための記録領域Bβ1,Bβ2は、記録面の下半分の位置に配置されている。このように、個々の単色部分原画像の配置と、これを記録するための記録領域の配置との間の空間的な整合性がとれていれば、空間的な配置条件に起因して各単色部分画像が適切に記録されないような事態は生じない。
【0073】
ここで重要な点は、原画像Faを記録する際に用いる物体光および参照光の波長は任意の波長でよいが、単色部分原画像Fbαを記録する際に用いる物体光および参照光の波長を赤色に相当する波長とし、単色部分原画像Fbβを記録する際に用いる物体光および参照光の波長を青色に相当する波長とする点である。このように、原画像Fbの記録時に用いる波長を、各単色部分原画像ごとに変えるようにすると、再生時には、2つの単色部分原画像は同一の視点位置で観察されるものの、それぞれが固有の色で観察されることになる。すなわち、図示の例の場合、単色部分原画像Fbαが赤色の再生像として観察され、単色部分原画像Fbβが青色の再生像として観察されることになる。ここでは、2つの単色部分原画像Fbα,Fbβから構成される二色原画像Fbを記録する例を述べたが、3つの単色部分原画像から構成される三色原画像を記録することもできるし、それ以上の色からなる多色原画像を記録することも可能である。
【0074】
一般的には、それぞれ別の視点位置で観察されるべきN通りの原画像についてN通りのグループを定義し、このうち多色表示の対象となる特定のグループ内には、更にM通り(M≧2)のサブグループを定義するようにし、第m番目(1≦m≦M)のサブグループに所属する記録領域内には、それぞれ単色で着色されたM通りの単色部分原画像を組み合わせることにより構成される原画像のうち、第m番目の単色部分原画像からの物体光と、この物体光と同色の参照光との干渉縞を記録するようにすれば、白色の再生用照明光を照射して所定の視点位置から観察したときに、M通りの色をもった多色画像が再生されることになる。もっとも、実際には、白色照明光を用いて再生を行うと、種々の色成分の再生光が混在して再生像が白濁する現象が起こるため、各単色部分原画像は意図したとおりの色で再生されるとは限らない。しかしながら、§3で述べた物体光の広がり角を制限する手法を採れば、記録時に意図した状態に近い色再現性を得ることが可能である。
【0075】
なお、上述の実施例では、図20に示すように、モノクロ原画像Faと二色原画像Fbとを視点位置に応じて切り換えて再生することが可能なホログラム記録媒体を作成したが、もちろん、複数通りの多色原画像を用意しておき、これら多色原画像が視点位置に応じて切り換えて再生されるようなホログラム記録媒体を作成することも可能である。
【0076】
<<<4.5 カラー原画像を記録する変形例>>>
上述の実施例によれば、いくつかの部品から構成される原画像を記録する際に、個々の部品ごとに異なる色で記録することができるようになり、全体として多色原画像の記録が可能になる。ここでは、一般のカラー原画像をカラーの情報とともに記録し、カラーの情報をもたせたまま再生する方法を述べておく。このようなカラー原画像を記録する手法は、特開2000−214751号公報に種々の実施例が開示されているので、詳細は当該公報を参照されたい。まず、ここでは、図22に示すような2通りの原画像Fa,Fbを用意する。ここで、原画像Faはモノクロ原画像であるが、原画像FbはRGBの三原色の合成により表現されるカラー画像であり、赤色成分画像Fb(R),緑色成分画像Fb(G),青色成分画像(B)の3つの画像に分解することができる。
【0077】
このような2通りの原画像Fa,Fbを記録する場合、記録面上にグループGaに所属する記録領域とグループGbに所属する記録領域とを定義するわけであるが、ここでは、カラー画像を記録すべきグループGbに所属する記録領域については、それぞれを更に3個の分割領域に分けることにする。たとえば、図23に示す例では、記録面上にグループGaに所属する4つの記録領域A1〜A4と、グループGbに所属する4つの記録領域B1〜B4とが交互に定義されており、かつ、各記録領域B1〜B4については、それぞれが更に3つの分割領域に分けられている。具体的には、たとえば、記録領域B1は、3つの分割領域B1(R),B1(G),B1(B)に分けられている。
【0078】
ここで、グループGaに所属する各記録領域A1〜A4には、原画像Faの情報が記録されるが、グループGbに所属する各記録領域B1〜B4には、原画像Fbを構成する各色成分の画像に関する情報のみが記録される。すなわち、分割領域B1(R)には赤色成分画像Fb(R)から放出された物体光の干渉縞に関する情報のみが記録され、分割領域B1(G)には緑色成分画像Fb(G)から放出された物体光の干渉縞に関する情報のみが記録され、分割領域B1(B)には青色成分画像Fb(B)から放出された物体光の干渉縞に関する情報のみが記録される。このとき、分割領域B1(R)への記録には、赤色成分画像Fb(R)から放出された赤色に相当する波長の物体光と同一波長の参照光とを用いた干渉縞が演算され、分割領域B1(G)への記録には、緑色成分画像Fb(G)から放出された緑色に相当する波長の物体光と同一波長の参照光とを用いた干渉縞が演算され、分割領域B1(B)への記録には、青色成分画像Fb(B)から放出された青色に相当する波長の物体光と同一波長の参照光とを用いた干渉縞が演算される。
【0079】
このような方法で記録を行えば、白色の再生用照明光を照射して所定の視点位置から観察すると、原画像Faは単色の画像として再生されるが、原画像FbはRGBの3通りの色をもったカラー画像として再生されることになる。もちろん、カラー画像は必ずしもRGBの3原色で表現する必要はなく、一般的には、T原色で表現すればよい。この場合、このT原色で表現されたカラー原画像に対応するグループに所属する記録領域をそれぞれT個の分割領域に分け(T≧2)、第t番目(1≦t≦T)の分割領域には、T個の色成分をもった原画像からの第t番目の色成分に対応する物体光と、この物体光と同色の参照光との干渉縞を記録するようにすれば、白色の再生用照明光を照射して所定の視点位置から観察したときに、T通りの色をもったカラー画像として原画像が再生されることになる。
【0080】
もっとも、実際には、白色照明光を用いて再生を行うと、種々の色成分の再生光が混在して再生像が白濁する現象が起こるため、この実施例においても、§3で述べた物体光の広がり角を制限する手法を採るのが好ましい。また、同一方向から白色照明光を照射した場合であっても、各色成分ごとに再生光の放出方向に若干の差が生じるため、T原色の各色成分の再生光を厳密に同一視点位置に向かわせるようにするためには、記録時の参照光の入射角度に色別の補正を施すようにするのが好ましい。たとえば、図23の分割領域B1(R),B1(G),B1(B)には、それぞれ赤色,緑色,青色の物体光および参照光が照射されることになるが、ここで参照光の照射角度を赤色,緑色,青色でそれぞれ若干ずつ変える補正を行っておくと、白色照明光を照射して再生を行った場合に、分割領域B1(R)から放出される赤色再生光と、分割領域B1(G)から放出される緑色再生光と、分割領域B1(B)から放出される青色再生光と、が同一の視点位置へ向かうようにすることができる。
【0081】
なお、上述の実施例では、図22に示すように、モノクロ原画像Faとカラー原画像Fbとを視点位置に応じて切り換えて再生することが可能なホログラム記録媒体を作成したが、もちろん、複数通りのカラー原画像を用意しておき、これらカラー原画像が視点位置に応じて切り換えて再生されるようなホログラム記録媒体を作成することも可能である。
【0082】
<<< §5.回折格子パターンとの組み合わせ >>>
これまで述べてきた実施例は、複数の原画像をそれぞれ異なる記録領域内に干渉縞として記録し、視点位置に応じてそれぞれ観察される原画像を切り換えることができるようにするものであったが、ここでは、干渉縞として記録した原画像と、回折格子パターンとして記録した原画像とを、観察時に切り換えることができる形態を述べる。はじめに、原画像を回折格子パターンとして記録する手法を簡単に説明しておく。この手法は、たとえば、特開平6−337622号公報、特開平8−21909号公報、特開平8−75912号公報などに種々の実施例が開示されているので、詳細については、これらの公報を参照されたい。
【0083】
原画像を干渉縞として記録するこれまで述べてきた手法は、基本的にはホログラムの原理に基く手法であり、三次元立体像を記録することが可能である。これに対し、原画像を回折格子パターンとして記録する手法は、基本的には回折格子からなる画素の集合として画像を表現する手法であり、二次元平面像しか記録することができない。したがって、この手法で記録された媒体は、本来のホログラムではなく、疑似ホログラムというべきものである。いま、図24(a) に示すような二次元の原画像を考える。図24(b) は、この原画像の画素情報を示したものである。この原画像は7×7の画素から構成されており、個々の画素が「1」または「0」のいずれかの画素値をもつ二値画像である。
【0084】
一方、図25に示すような画素パターンを用意する。この図25では、1つの画素パターンを拡大して示してあるが、実際には、この画素パターンの大きさは、図24に示す原画像を構成する1つの画素の大きさに相当する。この画素パターンは、回折格子からなるパターンであり、内部には、線幅dの格子線Lが、所定の配置角度θをもって、ピッチpで閉領域V内に配置されている。ここで、図示のようにXY座標系を定義しておけば、各格子線Lの配置角度θは、たとえば、X軸とのなす角として定義できる。もちろん、この画素パターンは、回折格子パターンであるから、格子線Lのピッチpは、光の波長に近い寸法に設定され、格子線Lの集合が回折格子として機能する必要がある。
【0085】
さて、図24に示す原画像において、画素値「1」を有する各画素のそれぞれに、図25に示す画素パターンを割り付けると、図26に示すような回折格子パターンが得られる。このような割り付け作業は、図27に示すように、個々の画素の位置を座標値(a,b)で表現すれば、単純な演算処理で行うことができる。結局、所望の原画像を表現する回折格子パターンは、コンピュータによる演算によって、画像データとして得ることができる。このようにして得られた画像データを、たとえば、電子線描画装置などに与え、実際の媒体上に凹凸構造として回折格子パターンを形成すれば、この媒体は疑似ホログラムの記録媒体として機能することになる。すなわち、図26に示すような回折格子パターンが記録された媒体を観察すると、画素値「1」を有する画素部分が回折格子となっているため、これらの画素部分から何らかの回折光が観察されることになる。この回折光により、図26に示す例の場合「A」なる文字が認識できることになる。白色照明光の環境下で得られる回折光の強度や波長は、視点位置を動かすと(あるいは媒体自体を動かすと)変化するため、ホログラム再生像を観察したときに近い視覚的効果が得られることになる。
【0086】
実際、このように回折格子パターンとして記録した原画像は、一般的なホログラム像として記録した原画像に比べて、明るく鮮明な再生像が得られるという特徴をもつ。このため、文字やマークなど、鮮明な輪郭線が必要な平面像を記録する場合によく利用されている。
【0087】
また、複数の原画像を、それぞれ回折格子パターンとして同一記録媒体上に重畳して記録し、視点位置を変えることにより、再生される原画像を切り換えることができるようにする手法も提案されており、既に実用化されている。たとえば、図28に示すような2通りの回折格子パターンP(A),P(B)を用意する。ここで、回折格子パターンP(A)は、「A」なる文字を構成するパターンであり、回折格子パターンP(B)は、「B」なる文字を構成するパターンである。それぞれ文字を構成する部分(画素値「1」を有する画素部分)に、図25に示すような画素パターンが割り付けられている。ただし、回折格子パターンP(A)において割り付けられている画素パターンの格子線の配置角度θが45°であるのに対し、回折格子パターンP(B)において割り付けられている画素パターンの格子線の配置角度θは90°となっている。また、両回折格子パターンP(A),P(B)において、同一の座標で示される画素位置には、両パターン同時に画素パターンが割り付けられることがないように構成されているため、両回折格子パターンP(A),P(B)を重ねることにより、図29に示すような回折格子パターンP(AB)を得ることができる。
【0088】
このような回折格子パターンP(AB)を実際の媒体上に形成すると、視点位置を変えることにより、「A」なる文字が認識されたり、「B」なる文字が認識されたりする。これは、回折格子を構成する格子線の配置角度θによって、回折光の向きが定まるためである。すなわち、格子線配置角度θ=45°の回折格子からの回折光が到達する位置に視点を置いて観察すれば、図28に示す回折格子パターンP(A)のみが観察されるため、「A」なる文字が認識されるが、格子線配置角度θ=90°の回折格子からの回折光が到達する位置に視点を置いて観察すれば、図28に示す回折格子パターンP(B)のみが観察されるため、「B」なる文字が認識されることになる。
【0089】
ここで述べる実施形態は、§4までに述べてきた干渉縞による原画像の記録方法と、上述した回折格子パターンによる原画像の記録方法とを組み合わせたものである。ここでは、図30に示すように、4通りの原画像Fa,Fb,Fc,Fdが用意されているものとしよう。ここで、原画像Fa,Fcは立体原画像であり、干渉縞により記録されるべき画像であるのに対し、原画像Fb,Fdは平面原画像であり、回折格子パターンにより記録されるべき画像である。なお、ここでは説明の便宜上、干渉縞により記録すべき画像を立体像、回折格子パターンにより記録すべき画像を平面像、とした例を示すが、干渉縞により記録されるべき原画像は、必ずしも立体像である必要はない。たとえば、図30に示されている平面原画像FbやFdを干渉縞によって記録することも可能である。この場合、三次元空間内に、二次元文字列が配置されている状態が、ホログラム立体像として記録されることになる。
【0090】
図31は、図30に示す立体原画像Faを記録領域A内に干渉縞として記録し、平面原画像Fbを記録領域B内に回折格子パターンとして記録した媒体を示す概念図である。この図31では、便宜上、原画像Fa,Fbが同時に表示された状態が示されているが、記録領域A内に干渉縞を記録する際の参照光の記録面に対する入射方向と、記録領域B内に回折格子パターンを記録する際の格子線の配置方向と、の関係を調節することにより、干渉縞として記録された原画像Faと、回折格子パターンとして記録された原画像Fbとが、それぞれ異なる視点位置において観察したときに再生されるように構成することができる。
【0091】
図32は、図30に示す4通りの原画像Fa,Fb,Fc,Fdのすべてを同一の記録媒体上に記録する場合の各記録領域の構成を示す平面図であり、4通りの原画像Fa,Fb,Fc,Fdにそれぞれ対応する4通りのグループGa,Gb,Gc,Gdに所属する各記録領域が示されている。すなわち、中央部分には、干渉縞記録グループGaに所属する記録領域A1,A2,A3,A4と、同じく干渉縞記録グループGcに所属する記録領域C1,C2,C3,C4と、が交互に配置されている。ここで、記録領域A1,A2,A3,A4には、原画像Faからの物体光と所定の参照光との干渉縞が記録され、記録領域C1,C2,C3,C4には、原画像Fcからの物体光と所定の参照光との干渉縞が記録されることになる。一方、四隅には、回折格子記録グループGbに所属する記録領域B1,B2と、回折格子記録グループGdに所属する記録領域D1,D2とが配置されている。ここで、記録領域B1,B2には、それぞれ原画像Fbが回折格子パターンとして記録され、記録領域D1,D2には、原画像Fdが回折格子パターンとして記録される(記録領域B1,B2には互いに同じ内容が記録され、記録領域D1,D2にも互いに同じ内容が記録される)。
【0092】
この場合においても、記録領域A1〜A4および記録領域C1〜C4内に干渉縞を記録する際の参照光の記録面に対する入射方向と、記録領域B1,B2および記録領域D1,D2内に回折格子パターンを記録する際の格子線の配置方向と、の関係を調節することにより、特定の視点位置においてどの原画像が観察されるようにするかを任意に設定することが可能になる。たとえば、第1の視点位置から観察した場合には、図33に示すように、記録領域A1〜A4内に記録された原画像Faと、記録領域B1,B2内に記録された原画像Fbとが同時に観察され、第2の視点位置から観察した場合には、図34に示すように、記録領域C1〜C4内に記録された原画像Fcと、記録領域D1,D2内に記録された原画像Fdとが同時に観察されるような設定を行うこともできよう。もちろん、4つの異なる視点位置において、原画像Fa,Fb,Fc,Fdがそれぞれ別個に観察されるような設定も可能であるし、好みに応じて、どのような設定を行うのも自由である。要するに、干渉縞として記録される原画像については、記録時の参照光の角度を調節することにより観察可能な視点位置を自由に設定することができ、回折格子パターンとして記録される原画像については、画素位置に割り付けられる画素パターン内の格子線角度を調節することにより観察可能な視点位置を自由に設定することができる。
【0093】
ここで述べた実施形態に係るホログラム記録媒体は、結局、媒体の記録面上に複数の記録領域が設けられており、各記録領域はN通りの干渉縞記録グループ(N≧1)およびK通りの回折格子記録グループ(K≧1)のいずれかに所属し、第n番目(1≦n≦N)の干渉縞記録グループに所属する記録領域内には、N通りのうちの第n番目の干渉縞記録用原画像からの物体光と、N通りのうちの第n番目の参照光との干渉縞が記録されており、第k番目(1≦k≦K)の回折格子記録グループに所属する記録領域内には、K通りのうちの第k番目の回折格子記録用原画像が回折格子パターンとして記録されている、という特徴を有していることになる。
【0094】
ここで、複数N通りの干渉縞記録用原画像について、N通りの視点位置から観察したときに、それぞれ異なる原画像が再生されるようにするためには、干渉縞記録時におけるN通り(N≧2)の参照光の記録面に対する各入射方向を互いに異なるように設定すればよいし、複数K通りの回折格子記録用原画像について、K通りの視点位置から観察したときに、それぞれ異なる原画像が再生されるようにするためには、各原画像を、回折光の放射方向がそれぞれ異なる回折格子(別言すれば、格子線配置角度の異なる回折格子)によって記録すればよい。
【0095】
図35は、図30に示す立体原画像Faと平面原画像Fbとを、同一記録媒体上に重ねて記録する場合の各記録領域の構成を示す平面図であり、2通りの原画像Fa,Fbにそれぞれ対応する2通りのグループGa,Gbに所属する各記録領域が示されている。すなわち、この例では、干渉縞記録グループGaに所属する記録領域A1〜A6と、回折格子記録グループGbに所属する記録領域B1〜B5とが、交互に配置されている。図36は、図35に示すように各記録領域を定義した媒体上に、干渉縞あるいは回折格子パターンを実際に記録した状態を示す平面図である。この例では、各記録領域A1〜A6およびB1〜B5の縦方向の幅(具体的には50μm)が、原画像Fbを構成する画素の1画素分の縦幅に相当するように設定されているため、各記録領域B1〜B5には、それぞれ1行分の画素配列に相当する回折格子パターンが割り付けられている。もちろん、各記録領域B1〜B5の縦方向の幅を、1画素分の縦幅のW倍に設定し、各記録領域B1〜B5内に、それぞれW行分の画素配列に相当する回折格子パターンを割り付けるようにしてもかまわない。なお、各記録領域A1〜A6には、原画像Faからの物体光と所定の参照光との干渉縞が記録されることになる。
【0096】
この図36に示すような実施例においても、記録領域A1〜A6内に干渉縞を記録する際の参照光の記録面に対する入射方向と、記録領域B1〜B5内に回折格子パターンを記録する際の格子線の配置方向と、の関係を調節すれば、ある視点位置においては原画像Faのみが観察され、別な視点位置においては原画像Fbのみが観察されるような設定が可能である。
【0097】
図37は、図30に示す立体原画像Fa,Fcと平面原画像Fbとを、同一記録媒体上に重ねて記録する場合の各記録領域の構成を示す平面図であり、3通りの原画像Fa,Fb,Fcにそれぞれ対応する3通りのグループGa,Gb,Gcに所属する各記録領域が示されている。すなわち、この例では、干渉縞記録グループGaに所属する記録領域A1〜A3と、回折格子記録グループGbに所属する記録領域B1〜B5と、干渉縞記録グループGcに所属する記録領域C1〜C3と、が規則的に配置されている。図38は、図37に示すように各記録領域を定義した媒体上に、干渉縞あるいは回折格子パターンを実際に記録した状態を示す平面図である。各記録領域B1〜B5には、原画像Fbの1行分の画素配列に相当する回折格子パターンが割り付けられており、各記録領域A1〜A3には、原画像Faからの物体光と所定の参照光との干渉縞が記録されており、各記録領域C1〜C3には、原画像Fcからの物体光と所定の参照光との干渉縞が記録されている。
【0098】
この図38に示すような実施例においても、記録領域A1〜A3内に干渉縞を記録する際の参照光の記録面に対する入射方向と、記録領域C1〜C3内に干渉縞を記録する際の参照光の記録面に対する入射方向と、記録領域B1〜B5内に回折格子パターンを記録する際の格子線の配置方向と、の関係を調節すれば、ある視点位置においては原画像Faのみが観察され、別な視点位置においては原画像Fbのみが観察され、更に別な視点位置においては原画像Fcのみが観察されるような設定が可能である。
【0099】
なお、この図38に示す例のように、同一グループに所属する複数の記録領域を、記録面の全面に分散して配置するようにし、同一の干渉縞記録グループに所属する記録領域の空間的な配置周期に比べて、同一の回折格子記録グループに所属する記録領域の空間的な配置周期を短く設定すると、回折格子パターンを用いて記録する原画像の解像度を、干渉縞を用いて記録する原画像の解像度よりも高くすることができる。たとえば、図38の例の場合、干渉縞記録グループGaに所属する記録領域A1,A2,A3は4行分の周期で配置されているが、回折格子記録グループGbに所属する記録領域B1〜B5は2行分の周期で配置されており、原画像Fbの解像度が高くなっている。一般に、回折格子パターンを用いて記録した原画像は、干渉縞を用いて記録した原画像に比べて、明るく鮮明な再生像が得られるので、文字やマークなどからなる原画像の記録に利用されることが多い。したがって、回折格子パターンを用いて記録した原画像の解像度を高めれば、文字やマークの解像度を高めることができるので好ましい。
【0100】
図39は、図30に示す4通りの原画像Fa,Fb,Fc,Fdのすべてを同一の記録媒体上に記録する場合の各記録領域の構成を示す平面図であり、4通りの原画像Fa,Fb,Fc,Fdにそれぞれ対応する4通りのグループGa,Gb,Gc,Gdに所属する各記録領域が示されている。すなわち、干渉縞記録グループGaに所属する記録領域A1,A2,A3と、回折格子記録グループGbに所属する記録領域B1,B2,B3と、干渉縞記録グループGcに所属する記録領域C1,C2,C3と、回折格子記録グループGdに所属する記録領域D1,D2,D3とが、周期的に配置されている。回折格子パターンを用いて記録される原画像FbとFdとは、用いる画素パターンの格子線配置角度を変えることにより、異なる視点位置から観察できるようにすることが可能であるので、格子線配置角度や干渉縞記録時の参照光の入射方向を調整すれば、4通りの原画像Fa,Fb,Fc,Fdのすべてが、それぞれ別々の視点位置において観察されるような設定も可能である。
【0101】
以上、本発明を図示するいくつかの実施形態に基いて説明したが、本発明はこれらの実施形態に限定されるものではなく、この他にも種々の形態で実施可能である。たとえば、本発明に係るホログラム記録媒体は、実用上は、コンピュータを用いた演算による計算機ホログラムとして作成するのが好ましいが、物理的な作業が可能であれば、この作成工程の全部もしくは一部を光学的な方法で行うようにしてもかまわない。
【符号の説明】
【0102】
10…原画像
20…記録媒体(記録面)
A,A1〜A6…記録領域
B,B1〜B5,B1−1〜B3−2,Bα1,Bα2,Bβ1,Bβ2…記録領域
B1(R),B1(G),B1(B)〜B4(R),B4(G),B4(B)…分割領域
C,C1〜C4,Ci…記録領域
D1〜D3…記録領域
d…線幅
Fa,Fb,Fc,Fd…原画像
Fbα,Fbβ…単色部分原画像
Fb(R),Fb(G),Fb(B)…各色成分画像
Ga,Gb,Gc,Gd,Gbα、Gbβ…グループおよびサブグループ
h…記録領域のY軸方向の幅
L…格子線
L1〜L3,Li…単位線分
N…法線
O,O1,Oi,OI,Oa,Ob,Oc…物体光
P,P1,Pi,PI…原画像上の点光源
P11〜P33,Pij…単位線分上の点光源
P(A),P(B),P(AB)…回折格子パターン
p…格子線のピッチ
Q,Q(x,y)…記録面上の1点
R,Ra,Rb,Rc…参照光
Ryz,Rxz,Rxy…参照光の投影像
S…物体光の照射領域
V…閉領域
θ…格子線配置角度
θyz,θxz,θxy…参照光の入射方向を示す角度
Ψ…物体光のX軸方向の広がり角
ξ…物体光のY軸方向の広がり角
【特許請求の範囲】
【請求項1】
媒体の記録面上に複数の記録領域が設けられており、各記録領域はN通りのグループ(N≧2)のいずれかに所属し、第n番目(1≦n≦N)のグループに所属する記録領域内には、N通りのうちの第n番目の原画像からの物体光と、N通りのうちの第n番目の参照光との干渉縞が記録されており、この記録時におけるN通りの参照光の前記記録面に対する各入射方向は互いに異なるように設定されており、N通りの視点位置から観察したときに、それぞれ異なる原画像が再生されるように構成されていることを特徴とするホログラム記録媒体。
【請求項2】
請求項1に記載のホログラム記録媒体において、
同一グループに所属する複数の記録領域が、記録面の全面に分散して配置されていることを特徴とするホログラム記録媒体。
【請求項3】
請求項2に記載のホログラム記録媒体において、
同一グループに所属する複数の記録領域が、記録面上において一定の周期で規則的に配置されていることを特徴とするホログラム記録媒体。
【請求項4】
請求項2または3に記載のホログラム記録媒体において、
XY平面上に定義された記録面上に、X軸方向に細長い矩形からなる記録領域がY軸方向に多数並べられており、Y軸方向に隣接する各記録領域が互いに異なるグループに所属するように構成されていることを特徴とするホログラム記録媒体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のホログラム記録媒体において、
XY平面上に定義された記録面に対して入射する参照光を、YZ平面へ投影した場合、投影像と記録面に立てた法線とのなす角θyzがN通りの参照光すべてについてほぼ同一となり、XZ平面へ投影した場合、投影像と記録面に立てた法線とのなす角θxzがN通りの参照光すべてについて、異なる原画像の観察に必要な程度十分に異なるような設定がなされていることを特徴とするホログラム記録媒体。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載のホログラム記録媒体において、
XY平面上に定義された記録面に対して入射する参照光を、YZ平面へ投影した場合、投影像と記録面に立てた法線とのなす角θyzがN通りの参照光すべてについて、異なる原画像の観察に必要な程度十分に異なり、XZ平面へ投影した場合、投影像と記録面に立てた法線とのなす角θxzがN通りの参照光すべてについてほぼ同一となるような設定がなされていることを特徴とするホログラム記録媒体。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載のホログラム記録媒体において、
XY平面上に定義された記録面に対して入射する参照光と、この記録面に立てた法線とのなす角度が、N通りの参照光すべてについてほぼ同一となり、この参照光を記録面へ投影した場合、投影像とX軸またはY軸とのなす角度がN通りの参照光すべてについて、異なる原画像の観察に必要な程度十分に異なるような設定がなされていることを特徴とするホログラム記録媒体。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のホログラム記録媒体において、
原画像から記録面へ向かう物体光の広がり角を制限することにより得られる干渉縞が記録されていることを特徴とするホログラム記録媒体。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のホログラム記録媒体において、
N通りの各原画像が、一連の動画を構成するそれぞれ1コマ分の静止画像から構成されており、視点位置を時間とともにN通りに変化させたときに、Nコマからなる動画が観察できるように構成されていることを特徴とするホログラム記録媒体。
【請求項10】
請求項9に記載のホログラム記録媒体において、
同一の表示対象物を含む複数コマ分の静止画像によって動画が構成され、各コマにおける前記表示対象物の表示位置を異ならせることにより、前記表示対象物が移動してゆく状態を示す動画が観察できるように構成されていることを特徴とするホログラム記録媒体。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載のホログラム記録媒体において、
特定のグループについては、更にM通り(M≧2)のサブグループが定義されており、第m番目(1≦m≦M)のサブグループに所属する記録領域内には、それぞれ単色で着色されたM通りの単色部分原画像を組み合わせることにより構成される原画像のうち、第m番目の単色部分原画像からの物体光と、この物体光と同色の参照光との干渉縞が記録されており、白色の再生用照明光を照射して所定の視点位置から観察したときに、M通りの色をもったカラー画像として前記原画像が再生されるように構成されていることを特徴とするホログラム記録媒体。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれかに記載のホログラム記録媒体において、
特定のグループに所属する記録領域がそれぞれT個の分割領域に分けられており(T≧2)、第t番目(1≦t≦T)の分割領域には、T個の色成分をもった原画像からの第t番目の色成分に対応する物体光と、この物体光と同色の参照光との干渉縞が記録されており、白色の再生用照明光を照射して所定の視点位置から観察したときに、T通りの色をもったカラー画像として前記原画像が再生されるように構成されていることを特徴とするホログラム記録媒体。
【請求項13】
媒体の記録面上に複数の記録領域が設けられており、各記録領域はN通りの干渉縞記録グループ(N≧1)およびK通りの回折格子記録グループ(K≧1)のいずれかに所属し、第n番目(1≦n≦N)の干渉縞記録グループに所属する記録領域内には、N通りのうちの第n番目の干渉縞記録用原画像からの物体光と、N通りのうちの第n番目の参照光との干渉縞が記録されており、第k番目(1≦k≦K)の回折格子記録グループに所属する記録領域内には、K通りのうちの第k番目の回折格子記録用原画像が回折格子パターンとして記録されていることを特徴とするホログラム記録媒体。
【請求項14】
請求項13に記載のホログラム記録媒体において、
干渉縞を記録する際の参照光の記録面に対する入射方向と、回折格子を記録する際の格子線の配置方向と、の関係を調節することにより、干渉縞記録用原画像と回折格子記録用原画像とが、それぞれ異なる視点位置において観察したときに再生されるように構成されていることを特徴とするホログラム記録媒体。
【請求項15】
請求項13に記載のホログラム記録媒体において、
干渉縞記録時におけるN通り(N≧2)の参照光の記録面に対する各入射方向が互いに異なるように設定されており、N通りの視点位置から観察したときに、それぞれ異なる干渉縞記録用原画像が再生されるように構成されていることを特徴とするホログラム記録媒体。
【請求項16】
請求項13に記載のホログラム記録媒体において、
K通り(K≧2)の回折格子記録用原画像が、回折光の放射方向がそれぞれ異なる回折格子によって記録されており、K通りの視点位置から観察したときに、それぞれ異なる回折格子記録用原画像が再生されるように構成されていることを特徴とするホログラム記録媒体。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれかに記載のホログラム記録媒体において、
干渉縞が、もしくは、干渉縞および回折格子パターンが、媒体表面に形成された微細な凹凸構造によって構成されていることを特徴とするホログラム記録媒体。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれかに記載のホログラム記録媒体を製造する方法であって、
同一グループに所属する記録領域のみが露出するように、記録面を構成する感光板の表面を遮光マスクで覆い、露出した記録領域に1つの原画像を光学的に記録する工程を、グループの数だけ繰り返し実行することを特徴とするホログラム記録媒体の製造方法。
【請求項19】
請求項1〜17のいずれかに記載のホログラム記録媒体を製造する方法であって、
各記録領域ごとに、その所属グループを考慮して、記録すべき干渉縞もしくは回折格子パターンに対応する画像データをコンピュータを用いた演算により求め、求めた画像データに基いて物理的な媒体にパターンを描画することを特徴とするホログラム記録媒体の製造方法。
【請求項1】
媒体の記録面上に複数の記録領域が設けられており、各記録領域はN通りのグループ(N≧2)のいずれかに所属し、第n番目(1≦n≦N)のグループに所属する記録領域内には、N通りのうちの第n番目の原画像からの物体光と、N通りのうちの第n番目の参照光との干渉縞が記録されており、この記録時におけるN通りの参照光の前記記録面に対する各入射方向は互いに異なるように設定されており、N通りの視点位置から観察したときに、それぞれ異なる原画像が再生されるように構成されていることを特徴とするホログラム記録媒体。
【請求項2】
請求項1に記載のホログラム記録媒体において、
同一グループに所属する複数の記録領域が、記録面の全面に分散して配置されていることを特徴とするホログラム記録媒体。
【請求項3】
請求項2に記載のホログラム記録媒体において、
同一グループに所属する複数の記録領域が、記録面上において一定の周期で規則的に配置されていることを特徴とするホログラム記録媒体。
【請求項4】
請求項2または3に記載のホログラム記録媒体において、
XY平面上に定義された記録面上に、X軸方向に細長い矩形からなる記録領域がY軸方向に多数並べられており、Y軸方向に隣接する各記録領域が互いに異なるグループに所属するように構成されていることを特徴とするホログラム記録媒体。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のホログラム記録媒体において、
XY平面上に定義された記録面に対して入射する参照光を、YZ平面へ投影した場合、投影像と記録面に立てた法線とのなす角θyzがN通りの参照光すべてについてほぼ同一となり、XZ平面へ投影した場合、投影像と記録面に立てた法線とのなす角θxzがN通りの参照光すべてについて、異なる原画像の観察に必要な程度十分に異なるような設定がなされていることを特徴とするホログラム記録媒体。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれかに記載のホログラム記録媒体において、
XY平面上に定義された記録面に対して入射する参照光を、YZ平面へ投影した場合、投影像と記録面に立てた法線とのなす角θyzがN通りの参照光すべてについて、異なる原画像の観察に必要な程度十分に異なり、XZ平面へ投影した場合、投影像と記録面に立てた法線とのなす角θxzがN通りの参照光すべてについてほぼ同一となるような設定がなされていることを特徴とするホログラム記録媒体。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載のホログラム記録媒体において、
XY平面上に定義された記録面に対して入射する参照光と、この記録面に立てた法線とのなす角度が、N通りの参照光すべてについてほぼ同一となり、この参照光を記録面へ投影した場合、投影像とX軸またはY軸とのなす角度がN通りの参照光すべてについて、異なる原画像の観察に必要な程度十分に異なるような設定がなされていることを特徴とするホログラム記録媒体。
【請求項8】
請求項1〜7のいずれかに記載のホログラム記録媒体において、
原画像から記録面へ向かう物体光の広がり角を制限することにより得られる干渉縞が記録されていることを特徴とするホログラム記録媒体。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれかに記載のホログラム記録媒体において、
N通りの各原画像が、一連の動画を構成するそれぞれ1コマ分の静止画像から構成されており、視点位置を時間とともにN通りに変化させたときに、Nコマからなる動画が観察できるように構成されていることを特徴とするホログラム記録媒体。
【請求項10】
請求項9に記載のホログラム記録媒体において、
同一の表示対象物を含む複数コマ分の静止画像によって動画が構成され、各コマにおける前記表示対象物の表示位置を異ならせることにより、前記表示対象物が移動してゆく状態を示す動画が観察できるように構成されていることを特徴とするホログラム記録媒体。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれかに記載のホログラム記録媒体において、
特定のグループについては、更にM通り(M≧2)のサブグループが定義されており、第m番目(1≦m≦M)のサブグループに所属する記録領域内には、それぞれ単色で着色されたM通りの単色部分原画像を組み合わせることにより構成される原画像のうち、第m番目の単色部分原画像からの物体光と、この物体光と同色の参照光との干渉縞が記録されており、白色の再生用照明光を照射して所定の視点位置から観察したときに、M通りの色をもったカラー画像として前記原画像が再生されるように構成されていることを特徴とするホログラム記録媒体。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれかに記載のホログラム記録媒体において、
特定のグループに所属する記録領域がそれぞれT個の分割領域に分けられており(T≧2)、第t番目(1≦t≦T)の分割領域には、T個の色成分をもった原画像からの第t番目の色成分に対応する物体光と、この物体光と同色の参照光との干渉縞が記録されており、白色の再生用照明光を照射して所定の視点位置から観察したときに、T通りの色をもったカラー画像として前記原画像が再生されるように構成されていることを特徴とするホログラム記録媒体。
【請求項13】
媒体の記録面上に複数の記録領域が設けられており、各記録領域はN通りの干渉縞記録グループ(N≧1)およびK通りの回折格子記録グループ(K≧1)のいずれかに所属し、第n番目(1≦n≦N)の干渉縞記録グループに所属する記録領域内には、N通りのうちの第n番目の干渉縞記録用原画像からの物体光と、N通りのうちの第n番目の参照光との干渉縞が記録されており、第k番目(1≦k≦K)の回折格子記録グループに所属する記録領域内には、K通りのうちの第k番目の回折格子記録用原画像が回折格子パターンとして記録されていることを特徴とするホログラム記録媒体。
【請求項14】
請求項13に記載のホログラム記録媒体において、
干渉縞を記録する際の参照光の記録面に対する入射方向と、回折格子を記録する際の格子線の配置方向と、の関係を調節することにより、干渉縞記録用原画像と回折格子記録用原画像とが、それぞれ異なる視点位置において観察したときに再生されるように構成されていることを特徴とするホログラム記録媒体。
【請求項15】
請求項13に記載のホログラム記録媒体において、
干渉縞記録時におけるN通り(N≧2)の参照光の記録面に対する各入射方向が互いに異なるように設定されており、N通りの視点位置から観察したときに、それぞれ異なる干渉縞記録用原画像が再生されるように構成されていることを特徴とするホログラム記録媒体。
【請求項16】
請求項13に記載のホログラム記録媒体において、
K通り(K≧2)の回折格子記録用原画像が、回折光の放射方向がそれぞれ異なる回折格子によって記録されており、K通りの視点位置から観察したときに、それぞれ異なる回折格子記録用原画像が再生されるように構成されていることを特徴とするホログラム記録媒体。
【請求項17】
請求項1〜16のいずれかに記載のホログラム記録媒体において、
干渉縞が、もしくは、干渉縞および回折格子パターンが、媒体表面に形成された微細な凹凸構造によって構成されていることを特徴とするホログラム記録媒体。
【請求項18】
請求項1〜17のいずれかに記載のホログラム記録媒体を製造する方法であって、
同一グループに所属する記録領域のみが露出するように、記録面を構成する感光板の表面を遮光マスクで覆い、露出した記録領域に1つの原画像を光学的に記録する工程を、グループの数だけ繰り返し実行することを特徴とするホログラム記録媒体の製造方法。
【請求項19】
請求項1〜17のいずれかに記載のホログラム記録媒体を製造する方法であって、
各記録領域ごとに、その所属グループを考慮して、記録すべき干渉縞もしくは回折格子パターンに対応する画像データをコンピュータを用いた演算により求め、求めた画像データに基いて物理的な媒体にパターンを描画することを特徴とするホログラム記録媒体の製造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図21】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図13】
【図14】
【図20】
【図22】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図15】
【図16】
【図17】
【図18】
【図19】
【図21】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図30】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図38】
【図39】
【図13】
【図14】
【図20】
【図22】
【公開番号】特開2009−187027(P2009−187027A)
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−118282(P2009−118282)
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【分割の表示】特願平11−283005の分割
【原出願日】平成11年10月4日(1999.10.4)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成21年8月20日(2009.8.20)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年5月15日(2009.5.15)
【分割の表示】特願平11−283005の分割
【原出願日】平成11年10月4日(1999.10.4)
【出願人】(000002897)大日本印刷株式会社 (14,506)
【Fターム(参考)】
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