説明

ホログラム記録材料およびホログラム記録媒体

【課題】高感度を有し、記録容量を向上させることができるホログラム記録材料およびホログラム記録媒体を提供する。
【解決手段】下記一般式(1)で示されるアゾ化合物と金属との金属キレート化合物を少なくとも1種を含有することを特徴とする、ホログラム記録材料;


(式中、環Aは置換基を有してもよいピリジン環を表し、環Bは置換基を有してもよいベンゼン環を表し、R、Rはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜16のアリール基を表し、Yは活性水素を有する基を表す。)。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ホログラム記録材料およびホログラム記録媒体に関する。
【背景技術】
【0002】
光メモリーは、安価で大容量そして容易に持ち運びが可能なCDやDVDなどの光記録媒体として音楽、映像、コンピューターのデータなど様々な分野で広く使用されるようになった。昨今では、インターネットで配信される大容量の映像・音楽の記録保存、高精細ビデオゲームなどの娯楽用途、フルハイビジョン(HDTV映像)の録画用途向けに、BDやHDDVDなどの青色レーザー対応の次世代光記録媒体が普及しつつある。
【0003】
このような状況下、更なるDVDの数百倍に達するテラバイト級の大容量情報の記録再生が可能な次々世代光メモリーが望まれており、その有力な候補としてホログラム型記録技術が挙げられる。従来の光ディスクでは、情報は一度のレーザーパルスの照射によりその焦点位置に1ビット単位で平面に逐次記録される。これに対し、ホログラム光記録では、参照光と情報記録光との光強度の明暗に応じた干渉縞を媒体に定着させることで、ページデータと呼ばれる2次元空間に圧縮した数万ビットのデータの記録再生が可能であるため、記録容量を飛躍的に向上させることが可能である。また、参照光と情報記録光との相対角度を変化させることで媒体の一箇所に情報を多重化記録することができ、これにより更に容量を高めることが可能になる。データ転送速度に関してもページデータをCCDアレイ素子によって一度に再生するため大幅な向上が期待できる。
【0004】
ホログラム記録材料としては、フォトポリマー(光重合により屈折率変化:モノマー・重合開始剤・増感剤・バインダーポリマーなどで構成)、フォトリフラクティブ無機結晶(結晶内電荷分布変化による電気光学効果による屈折率変化)、光異性化材料(光異性化反応による光学異方性・複屈折の発生:アゾベンゼンなど)などが研究されている。
【0005】
ホログラム実用化の最も有力な記録材料の候補として、現在フォトポリマーが精力的に研究されている。Optoware社が提案したコリニア方式を推進する普及促進団体としてHVD(Holographic Versatile Disc)アライアンスの参画会社が中心となって現在200GB容量のディスクを開発しており、一方米国のInphase社は日立マクセル社と共同でポリトピック方式の300GBディスクと業務用ドライブを開発している。
【0006】
ホログラムの記憶容量の目標に関しては、昨今開催された光メモリーの国際会議ISOM2006で次世代の光記録媒体のロードマップが作成され、12cm径ディスク一枚当たりの目標容量が掲げられた。それによると目標値は2012〜2015年までに容量は1TB、転送速度は1Gbpsである。
【0007】
しかしながら、フォトポリマーにおいては、屈折率変化を担うモノマーが重合する際に体積収縮を生じるので、記録された干渉縞ビットデータに位置ずれが生じ、SN比(信号対ノイズ強度比)が劣化してしまうという原理的に不可避な問題が指摘されている。非特許文献1には、この課題を解決するための材料技術として、Aprillis社がCROP(Cationic Ring-opening Polymerization)モノマーを開発し、Inphase社が熱重合させた光不活性マトリックスにモノマーを含浸させた低収縮性材料の開発により0.1%以下の収縮率を達成した、と記載されている。
【0008】
また、特許文献1には、高感度で多重記録性能に優れたフォトポリマー以外の材料として、マトリックス材、光反応促進剤、及び記録光と異なる波長で吸光係数を変化させる色素を含有するホログラム材料が開示されている。しかしながら体積収縮に関しては何ら記述がなく、フォトポリマーの潜在する課題を解決する記述は認められない。つまり、体積収縮を抑制し、テラバイト以上の大容量を達成するためのホログラム記録材料は、先行文献には明らかにされていない。
【特許文献1】特開2002−297004号公報
【非特許文献1】OPTRONICS(2004)No.8
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
先行技術においてフォトポリマーが実用化目前ではあるが、重合収縮の問題のため記憶容量は未だ200〜300GBに留まっている。つまり、フォトポリマーは1TB以上の記録容量の達成には障壁があり、記録材料として不十分である。本発明の目的は1TB以上の記録容量の課題を達成するために、原理的に体積収縮の発生しない新規概念の記録材料を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意検討を重ねた結果、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明は、以下に示される。
【0011】
[1]下記一般式(1)で示されるアゾ化合物と金属との金属キレート化合物を少なくとも1種を含有することを特徴とする、ホログラム記録材料;
【化1】

(式中、環Aは置換基を有してもよいピリジン環を表し、環Bは置換基を有してもよいベンゼン環を表し、R、Rはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜16のアリール基を表し、Yは活性水素を有する基を表す。)。
【0012】
[2]前記金属は、Mg、Al、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Ru、Rh、Pd、In、Sn、Hf、Os、PtおよびHgよりなる群から1種以上選択される、[1]に記載のホログラム記録材料。
【0013】
[3]300nm以上900nm以下の範囲から選択される波長を有する記録光の照射により情報を記録するホログラム記録媒体に用いられるホログラム記録材料であって、
前記金属キレート化合物は、当該波長を有する記録光の照射により吸光度が減少する、[1]または[2]に記載のホログラム記録材料。
【0014】
[4]300nm以上900nm以下の範囲から選択される波長を有する記録光の照射により情報を記録するホログラム記録媒体に用いられるホログラム記録材料であって、
当該波長を有する記録光に感光しない透明樹脂をさらに含む、[1]乃至[3]のいずれかに記載のホログラム記録材料。
【0015】
[5]前記透明樹脂は、フェノール樹脂,ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂,ユリア樹脂,メラミン樹脂,不飽和ポリエステル樹脂,ポリウレタン,ポリイミドおよびポリビニルアセタール樹脂よりなる群から1種以上選択される、[4]に記載のホログラム記録材料。
【0016】
[6]300nm以上900nm以下の範囲から選択される波長を有する記録光の照射により情報を記録するホログラム記録媒体に用いられるホログラム記録材料であって、
300nm以上900nm以下の範囲から選択される波長を有する記録光に感光しない透明樹脂と、
前記記録光の照射によってその波長における吸光度が減少することで感光する、金属キレート化合物を少なくとも1種とを含有するホログラム記録材料。
【0017】
[7]第1透明基板と、
前記第1透明基板上に形成された、[1]乃至[5]の何れかに記載のホログラム記録材料からなるホログラム記録層と、
前記ホログラム記録層上に設けられた第2透明基板と、
を備える、レーザーで記録再生が可能なホログラム記録媒体。
【0018】
本発明において、「記録光に感光しない」とは、所定の波長を有する記録光の照射によって屈折率や透過率など光学特性が変化しないことを意味する。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、高感度を有し、原理的に体積収縮が発生しないためフォトポリマー材料よりも記録容量を向上させることができる新規なホログラム記録材料およびホログラム記録媒体を得ることが可能になる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0021】
(ホログラム記録材料)
本発明のホログラム記録材料は、下記一般式(1)で示されるアゾ化合物と金属との金属キレート化合物を少なくとも1種を含有する。
【0022】
【化2】

【0023】
式(1)中、環Aは置換基を有してもよいピリジン環を表し、環Bは置換基を有してもよいベンゼン環を表し、R、Rはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜16のアリール基を表し、Yは活性水素を有する基を表す。
【0024】
このようなアゾ化合物と金属との金属キレート化合物を含むホログラム記録材料は、高感度であり、原理的に体積収縮が発生しないためフォトポリマー材料よりも記録容量を向上させることができる。
【0025】
一般式(1)で示されるアゾ化合物において、環Aは置換基を有してもよいピリジン環を表す。ピリジン環の置換基としては、例えば、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、カルボキシル基、シアノ基、ニトロ基、アセチル基、置換基を有していてもよいアミノ基、置換基を有していてもよいアルキル基、置換基を有していてもよいアルコキシ基、置換基を有していてもよいアシル基等が挙げられる。
【0026】
ピリジン環の置換基として、好ましくは、ハロゲン原子、ヒドロキシル基、カルボキシル基、シアノ基、ニトロ基、アセチル基、置換基を有していてもよいアミノ基、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数2〜7のアシル基が挙げられる。
【0027】
より具体的には、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン原子;
ヒドロキシル基;カルボキシル基;シアノ基;ニトロ基;アセチル基;アミノ基;
メチルアミノ基、エチルアミノ基、ブチルアミノ基、シクロへキシルアミノ基、フェニルアミノ基、ナフチルアミノ基、ジメチルアミノ基、ジエチルアミノ基、ジブチルアミノ基、メチルエチルアミノ基、メチルブチルアミノ基、ジフェニルアミノ基等の置換基を有するアミノ基;
メチル基、トリフルオロメチル基、エチル基、ペンタフルオロエチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等の炭素数1〜6のアルキル基;
メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;
アセチル基、プロピオル基、ブチリル基、イソブチリル基、バレリル基、イソバレリル基、ピバロイル基、ヘキサノイル基、ヘプタノイル基等の炭素数2〜7のアシル基;
が挙げられる。
【0028】
一般式(1)で示されるアゾ化合物において、環Bは置換基を有してもよいベンゼン環を表す。ベンゼン環の置換基としては、前述の環Aに置換する置換基と同様のものが挙げられ、その具体例としても前述と同様な置換基が挙げられる。
【0029】
一般式(1)で示されるアゾ化合物において、R、Rはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜16のアリール基を表す。
【0030】
炭素数1〜6のアルキル基の具体例としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基等が挙げられる。炭素数6〜16のアリール基の具体例としては、フェニル基、トリル基、キシリル基、ナフチル基等が挙げられる。
【0031】
一般式(1)で示されるアゾ化合物において、Yは活性水素を有する基を表す。
Yの具体例としては、例えば、−SH、−SOH、−SOH、−NH、−NHR、−OH、−COOH、−B(OH)、−PO(OH)、−NHCOH、−NHCOR、−NHSOR等の活性水素を有する基が挙げられる。
好ましい例としては、−SOH、−NH、−NHR、−OH、−COOH、−NHCOH、−NHSORが挙げられ、最も好ましくは、−NH、−NHR、−OHである。
ここでRとしては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、sec−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基等の炭素数1〜6のアルキル基またはフェニル基を表し、これらはフッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン基で置換されていても良い。
【0032】
このような一般式(1)で示されるアゾ化合物は通常の方法により製造することができる。
【0033】
本発明において用いられる、一般式(1)で示されるアゾ化合物と金属との金属キレート化合物は下記一般式(2)で表すことができる。
【0034】
【化3】

【0035】
一般式(2)において、環A、環B、R、Rは一般式(1)と同様である。なお、複数存在する環A、環B、R、Rは各々同一であってもよく、異なっていてもよい。
Y'は、例えば、−S−、−SO−、−SO−、−NH− 、−N(R)−、−O−、−COO−、−B(OH)O−、−PO(OH)O− 、−NHCO−、−N(COR)−、−N(SOR)−等の基が挙げられる。好ましい例としては、−SO−、−NH−、−N(R)−、−O−、−COO−、−NHCO−、−N(SOR)−が挙げられ、最も好ましくは、−NH−、−N(R)−、−O−である。
ここでRとしては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、tert−ブチル基、sec−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基等の炭素数1〜6のアルキル基またはフェニル基を表し、これらはフッ素原子、塩素原子、臭素原子等のハロゲン基で置換されていても良い。
【0036】
一般式(2)において、アゾ化合物とキレート化合物を生成させる金属Mの具体例としては、Mg、Al、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Ru、Rh、Pd、In、Sn、Hf、Os、Pt、またはHgであり、特に、Znのアゾ金属キレート化合物は、感度が優れており好ましい。
【0037】
このような一般式(2)で示される記録用色素として機能する金属キレート化合物の特に好ましい例としては、下記のNo.1−1から1−21の金属キレート化合物が挙げられる。
【0038】
【化4】

【0039】
【化5】

【0040】
このような一般式(2)で示される金属キレート化合物は、通常の方法に従って製造することができる。
【0041】
金属キレート化合物を含むホログラム記録材料から形成された記録層を有する記録媒体は、300nm以上900nm以下の範囲から選択される波長を有する記録光の照射により情報が記録される。本発明に用いられる金属キレート化合物は、当該波長を有する記録光の照射により吸光度が減少する。かかる記録波長における吸光度の減少は、その変化する機構・原理が色素分子の光分解によるものあっても、分子配向変化や会合などによって吸光度の最大波長が異なる波長へ移動するものであってもよい。
【0042】
本発明のホログラム記録材料は、上記の金属キレート化合物の他に、上記の波長を有する記録光に感光しない透明樹脂を含むことができる。
【0043】
本発明において用いられる透明樹脂は、記録光の照射により光重合などによって感光するモノマー成分などを含まず、かつ金属キレート化合物や溶剤と相溶性が良好であり、記録層中に色素を均一に分散させることができる。かかる透明樹脂を用いることにより、金属キレート化合物や溶剤と混合時に透明性を保ち白濁などの発生を抑制することができる。透明樹脂は熱硬化性樹脂であり、加熱乾燥などの後処理で固形化する。
【0044】
本発明において用いられる透明樹脂は、具体的には、フェノール樹脂,ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、ポリウレタン、ポリイミドおよびポリビニルアセタール樹脂よりなる群から1種以上選択して用いることができる。
【0045】
本発明のホログラム記録材料は、その他の成分として、溶剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、クエンチャーなどを含むことができる。
溶剤としては、テトラフルオロプロパノール、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール、アリルアルコール、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、テトラフルオロプロパノール、オクタフルオロペンタノール等のアルコール系溶媒、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、シクロヘキサン、メチルシクロヘキサン、エチルシクロヘキサン、ジメチルシクロヘキサン等の脂肪族または脂環式炭化水素系溶媒、トルエン、キシレン、ベンゼン等の芳香族炭化水素系溶媒、四塩化炭素、クロロホルム、テトラクロロエタン、ジブロモエタン等のハロゲン化炭化水素系溶媒、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジオキサン等のエーテル系溶媒、アセトン、3−ヒドロキシ−3−メチル−2−ブタノン等のケトン系溶媒、酢酸エチル、乳酸メチル等のエステル系溶媒、水等が挙げられる。これらは単独で用いてもよく、あるいは、複数混合して用いてもよい。
【0046】
本発明のホログラム記録材料における、金属キレート化合物の含有量に関しては特に制限はないが、記録再生する波長での媒体透過率が80%以上になるように金属キレート化合物と透明樹脂を混合することが好ましい。
【0047】
(ホログラム記録材料の製造方法)
本発明のホログラム記録材料は、色素である金属キレート化合物と透明樹脂を混合することにより得ることができる。
【0048】
例えば、まず、所定の溶媒に金属キレート化合物を溶解して得られた色素溶液と、所定の溶媒に透明樹脂を溶解して得られた樹脂溶液を準備する。金属キレート化合物を溶解する溶媒と透明樹脂を溶解する溶媒は、同一の溶媒を用いることが好ましい。溶媒としては、上記のものを用いることができる。
【0049】
そして、この樹脂溶液に媒体透過率が80%以上となるように色素溶液を少量ずつ添加し、撹拌して得ることができる。
【0050】
(ホログラム記録媒体)
【0051】
本発明のホログラム記録媒体は、レーザー光により記録および再生が可能である新規な光記録媒体、特に従来の平面的にビットを2次元的に記録するCD、DVDなどの光ディスクと比べて、媒体体積中に3次元的に大容量の情報を記録再生可能である。
【0052】
以下、図面に基づいて本発明の実施の形態に係るホログラム記録媒体について説明するが、必ずしもこの形態に限定されるものではない。
【0053】
図1は本実施形態のホログラム記録媒体の概略縦断面図である。
図1に示すように、本発明のホログラム媒体は、第1透明基板1と、第1透明基板1上に形成されたホログラム記録層3と、ホログラム記録層3上に設けられた第2透明基板4と、第1透明基板1と第2透明基板4との間に設けられたスペーサー2と、を備える。
【0054】
本発明の光記録媒体に使用される第1透明基板1は、記録再生光の波長に対して透明で耐熱性を有していれば何れの材料から構成されていてもよい。例えば、石英ガラス、青板ガラス、パイレックス(登録商標)ガラスやポリカーボネートや光硬化性樹脂や熱硬化性樹脂、フッ素系樹脂などから形成されていてもよい。
【0055】
これらの中でも、記録再生光に対する透過率が高く、表面の光学散乱・損失を少なく抑制でき、平滑性や高い機械的寸法安定性から透明ガラス板が好適である。
【0056】
第1透明基板1の寸法は厚さが0.5〜1.0mm、外形が30〜50mmの正方形であるが、ホログラム評価装置の台上に固定できる寸法であればこれに限定されるものではない。なお、第2透明基板4としては、第1透明基板1と同一のものを用いることができる。
【0057】
スペーサー2は、第1透明基板1と第2透明基板4とによりホログラム記録層3を内包している。スペーサー2は、例えばフッ素樹脂等からなる。
【0058】
ホログラム記録層3は、本発明のホログラム記録材料から形成されており、ホログラム記録層3の厚さは適宜選択される。
【0059】
本発明の金属キレート化合物(色素)は、本発明の実施例で使用したYAG第2高調波のレーザー波長である532nmと半導体ブルーレーザー波長である405nmに吸収がある。そのため、ホログラム記録時には、情報信号を搬送する記録光と所定の角度をなす参照光が干渉して光の強度分布の明暗縞が媒体中に発生し、色素分子が分解していない暗部(吸光度A0)と色素分子が光分解して吸光度が減少し透過率が上昇した明部(吸光度A1)が媒体中に定着する。
【0060】
そして、ホログラム再生時には、記録時より弱いパワーで参照光のみを照射する。その場合、濃淡部の縞部で回折光が記録光と同じ方向へ発生し、それをCCDなどの光検出機で検知し電気信号へ変換して信号出力を得る。この信号を復号することにより情報を再生することができる。
【0061】
(ホログラム記録媒体の製造方法)
本実施形態のホログラム記録媒体は、以下のように製造することができる。
まず、本発明のホログラム記録材料を、第1透明基板1へ滴下する。この際、第1透明基板1の周縁部には、スペーサー2が設けられている。スペーサー2により、ホログラム記録層3の厚さを決定し、ホログラム記録層3を第1透明基板1に固定支持することができる。
【0062】
ホログラム記録材料を滴下した後、クリーンオーブンへ入れ、記録材料を加熱乾燥し十分に残留溶剤を蒸発させ、樹脂成分を硬化させる。これにより、ホログラム記録層3が形成される。この場合加熱条件は熱硬化させる樹脂のガラス転移温度を超える条件で十分加熱しておく。
【0063】
樹脂成分の硬化が完了し、オーブンから取り出し室温まで冷却する。そして、スペーサー2上に所定の接着層を介して第2透明基板4を固定する。これにより、第1透明基板1と第2透明基板4とによりホログラム記録層3を挟みこみ、ホログラム記録媒体が形成される。
【0064】
次に、図2を参照して、ホログラム記録材料の性能測定方法について説明する。
固体レーザー光源(Laser1:YAG第2高調波)11から出射された532nmのレーザー光は、光路上に順に配置されたシャッター12、2分の1波長板13、ビームスプリッター14、ミラー15、空間フィルター16,コリメーターレンズ17,2分の1波長板13、ミラー15を通過する。
【0065】
そして、ビームスプリッター14により記録光(物体光)と参照光の二つの経路へ別々に分けられ、二光束干渉法によりホログラム記録媒体18を設置したステージ19上で干渉させる。この場合、光検知器20aで参照光を、光検知器20bで記録光強度を検出する。ホログラム記録媒体18中では干渉による光強度に応じて干渉縞が形成されるので、記録光をシャッター12で瞬間的に遮断することで、干渉縞から発生する回折光を光検知器20bで検出する。その回折光強度Idfを光検知器20aで検出した透過光強度ItrとIdfの和で割り算して回折効率を求める。
【0066】
このホログラムの記録再生光のレーザー発振波長としては、300〜900nmの範囲が好ましいが、具体的に得られるレーザー発振波長としての代表的なものを挙げると、GaAlAs系半導体の780〜820nm、AlGaInP系半導体の630〜660nm、He―Neの632nm、Krの647、413、407nm、Arの514.5、488nm、YAG第2高調波の532nm、He―Cdの442nm、GaN系半導体の405nmなどがある。特に記録密度を上げるには短波長化が好ましいので、特に350〜550nmの範囲が好適である。
【実施例】
【0067】
以下に本発明の実施例を示すが、本発明はこれによりなんら限定されるものではない。
[合成例1]
【0068】
金属キレート化合物(1−1)の合成
メタノール180gに下記式(1−1L)で示される化合物(株式会社同人化学研究所製 5−Br−PADAP)6.98gを分散し、60〜65℃で酢酸亜鉛 2.20gを加えて、同温度で3時間攪拌した。析出した結晶を濾別、水洗、乾燥して、具体例化合物(1−1)3.73gを得た。
【0069】
【化6】

【0070】
【化7】

【0071】
下記の分析結果より、目的物であることを確認した。
元素分析値(C3032BrZn)
【0072】
【表1】

【0073】
MS(m/e) :758(M
このようにして得られた化合物(1−1)は、トルエン溶液中において526.0nmに吸収極大を示し、グラム吸光係数は1.04×10ml/g.cmであった。
【0074】
[合成例2]
金属キレート化合物(1−4)の合成
メタノール180gに下記式(1−4L)で示される化合物(株式会社同人化学研究所製 5−Cl−PADAP)6.10gを分散し、60−65℃で酢酸亜鉛 2.20gを加えて、同温度で3時間攪拌した。析出した結晶を濾別、水洗、乾燥して、具体例化合物(1−4)5.82gを得た。
【0075】
【化8】

【0076】
【化9】

【0077】
下記の分析結果より、目的物であることを確認した。
元素分析値(C3032ClZn)
【0078】
【表2】

【0079】
MS(m/e) :670(M
このようにして得られた化合物(No.1−4)は、トルエン溶液中において526.5nmに吸収極大を示し、グラム吸光係数は1.66×10ml/g.cmであった。
【0080】
[実施例1]
5mlのスクリュービンに、TFP(テトラフルオロプロパノール)4mlに対して、合成例1で得られた金属キレート化合物(No.1−1)を80mg添加した。そして、水を入れた超音波槽にて1時間超音波処理し、金属キレート化合物を溶解させて色素溶液を得た。
【0081】
次に、ブチラール樹脂(積水化学:製品名エスレックB・K)の粉体200mgを別のスクリュービンに入れ、同じくTFPの4mlを加えてスターラで1時間撹拌し、ブチラール樹脂を溶解させた。これに金属キレート化合物(色素)のブチラール樹脂に対する重量混合比率が10%になるように色素溶液を少量ずつ添加し、スパチュラーで色素がブチラール樹脂に均一に分散するまで撹拌し混合物(ホログラム記録材料)を得た。
【0082】
そして、ピペットで混合物を吸い上げて、ガラス基板(第1透明基板1)へ滴下した。このガラス基板の縁部には、予め0.4mm厚の両面テープ(コニシ:製品名BOND TAPE[型番WF702])をスペーサー2として接着させておいた。両面テープの片側の粘着剤の面を露出してガラス基板の各辺へ接着し、もう一方の粘着剤の面は露出せずテープを添付したままにしておいた。混合物を滴下した後、クリーンオーブンへ入れ90℃で1時間ほど加熱して硬化させ、ホログラム記録層3を形成した。オーブンから取り出し室温まで冷却した後、スペーサー2の片側のシールを剥がし、粘着剤を露出させた。スペーサー2の粘着剤により、第1透明基板1と同一のガラス基板(第2透明基板4)を接着して、ホログラム記録層3を挟みこみ記録媒体を作成した。
【0083】
完成したホログラム媒体の性能評価には、パルステック社製のホログラム材料評価装置:製品名Shot−500(レーザー発振波長=532nm)を使用した。その結果、10,000mJ/cmの露光エネルギーに達する時間の照射で回折効率0.5%になった。
【0084】
[比較例1]
色素を樹脂に添加しない(色素の重量混合比率0%)以外は実施例1と同じ方法でホログラム記録媒体を形成し評価したところ、全く回折効率は観測されなかった。
【0085】
[実施例2]
色素として、合成例2で得られた金属キレート化合物(No.1−4)を用いた以外は実施例1と同じ方法でホログラム記録媒体を作成し評価した。その結果、50,000mJ/cmの露光エネルギーに達する時間の照射で回折効率10%になった。
【0086】
[実施例3]
色素として金属キレート化合物(No.1−4)を用い、かつ色素の重量混合比率を2.5%にした以外は実施例1と同じ方法でホログラム媒体を形成し評価した。その結果、10,000mJ/cmの露光エネルギーに達する時間の照射で回折効率0.3%になった。
【0087】
[実施例4]
ここで光源を波長405nmのブルーレーザーに変更した以外は実施例3と同じ方法で評価したところ、80,000mJ/cmの露光エネルギーに達する時間の照射で回折効率6.7%になった。
【0088】
この405nmでの記録の方が532nmでの記録よりノイズが低く回折効率も高かったので多重露光記録を試みた。同じ媒体の別の未露光の個所に、ある基準角度で第一回目の記録を行い、回折効率が3.5%になった。次に角度を基準より+8度に増加させて第2回目の記録をしたところ、1.0%の回折効率を観測した。次に角度を基準より−8度に減少して第3回目の記録を行い回折効率が0.1%になった。
【0089】
以上の結果から、この光分解する色素を光に未反応の樹脂に混合した新しいホログラム記録材料において、最初の記録において未分解で残った色素が次の記録で分解することで、記録容量を向上させるために必須な多重記録が可能であることを示した。
【産業上の利用可能性】
【0090】
本発明のホログラム記録材料組成物を用いた体積ホログラムを利用し、光メモリー、光学素子、3次元立体画像ディスプレイ、干渉計測、画像・情報処理などに利用できる。
【図面の簡単な説明】
【0091】
【図1】本発明のホログラム記録媒体の概略縦断面図である。
【図2】本発明のホログラム測定方法の一構成例を示す模式図である。
【符号の説明】
【0092】
1 第1透明基板
2 スペーサー
3 ホログラム記録層
4 第2透明基板
11 固体レーザー光源(YAG:532nm)
12 シャッター
13 2分の1波長板
14 ビームスプリッター
15 ミラー
16 空間フィルター
17 コリメーターレンズ
18 ホログラム記録媒体
19 ステージ
20a,20b 光検知器

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で示されるアゾ化合物と金属との金属キレート化合物を少なくとも1種を含有することを特徴とする、ホログラム記録材料;
【化1】

(式中、環Aは置換基を有してもよいピリジン環を表し、環Bは置換基を有してもよいベンゼン環を表し、R、Rはそれぞれ独立に水素原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数6〜16のアリール基を表し、Yは活性水素を有する基を表す。)。
【請求項2】
前記金属は、Mg、Al、Ti、V、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、Cu、Zn、Zr、Ru、Rh、Pd、In、Sn、Hf、Os、PtおよびHgよりなる群から1種以上選択される、請求項1に記載のホログラム記録材料。
【請求項3】
300nm以上900nm以下の範囲から選択される波長を有する記録光の照射により情報を記録するホログラム記録媒体に用いられるホログラム記録材料であって、
前記金属キレート化合物は、当該波長を有する記録光の照射により吸光度が減少する、請求項1または2に記載のホログラム記録材料。
【請求項4】
300nm以上900nm以下の範囲から選択される波長を有する記録光の照射により情報を記録するホログラム記録媒体に用いられるホログラム記録材料であって、
当該波長を有する記録光に感光しない透明樹脂をさらに含む、請求項1乃至3のいずれかに記載のホログラム記録材料。
【請求項5】
前記透明樹脂は、フェノール樹脂,ジアリルフタレート樹脂、エポキシ樹脂,ユリア樹脂,メラミン樹脂,不飽和ポリエステル樹脂,ポリウレタン,ポリイミドおよびポリビニルアセタール樹脂よりなる群から1種以上選択される、請求項4に記載のホログラム記録材料。
【請求項6】
300nm以上900nm以下の範囲から選択される波長を有する記録光の照射により情報を記録するホログラム記録媒体に用いられるホログラム記録材料であって、
300nm以上900nm以下の範囲から選択される波長を有する記録光に感光しない透明樹脂と、
前記記録光の照射によってその波長における吸光度が減少することで感光する、金属キレート化合物を少なくとも1種とを含有するホログラム記録材料。
【請求項7】
第1透明基板と、
前記第1透明基板上に形成された、請求項1乃至5の何れかに記載のホログラム記録材料からなるホログラム記録層と、
前記ホログラム記録層上に設けられた第2透明基板と、
を備える、レーザーで記録再生が可能なホログラム記録媒体。

【図1】
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【図2】
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