説明

ホワイトバランス制御装置

【課題】 黒体放射軌跡とその近似線との間に生じる誤差を少なくして、より精度の高いホワイトバランス制御装置を提供する。
【解決手段】 画像信号から輝度信号値Yと色差信号値(B−Y,R−Y)を算出するカメラ信号処理回路11と、色差信号値(B−Y,R−Y)を受け、その色差信号値が無彩色か否かをカラーベクトル座標上の黒体放射軌跡に基づいて判定し、無彩色と判定された色差信号値からホワイトバランス用ゲイン(Gr,Gb)を算出するホワイトバランス制御回路12と、色差信号値R−Yにホワイトバランス用ゲインGrを乗算する第1の乗算器13と、色差信号値B−Yにホワイトバランス用ゲインGbを乗算する第2の乗算器14とからなる。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、画像のホワイトバランス制御を自動的に行う装置に関する。
【0002】
【従来の技術】カメラ等により撮像された画像をディスプレイ等で表示する場合に、画面の白色領域は赤、青、緑の三原色をすべて発光させることにより表示される。そのため、上記三原色の発色具合により、白色が赤色に偏ったり、青色に偏ったりする。この三原色の発色具合を調整して、白色を正しく表示できるように画像を制御することをホワイトバランス制御という。
【0003】従来のホワイトバランス制御は以下のように行われる。まず、カメラ等で撮像された画像の各画素信号から輝度値Yと色差信号値(R−Y,B−Y)を得る。得られた色差信号値に基づいて、その画素が無彩色かどうかを判定する。この判定は、黒体放射軌跡を基準として行う。
【0004】黒体は、あらゆる波長の電磁波を完全に吸収する理想的な物体であり、常温では黒く見えるが、黒体の温度が上昇するに伴い、赤、橙、黄、白、青の順に見えるものである。これらの色は、色温度として温度単位ケルビンにより表される。黒体放射軌跡は、上記黒体の温度変化に伴う色の変化を、上記色差信号値を用いてカラーベクトル座標に表現した曲線である。カラーベクトル座標は、色差信号値(B−Y,R−Y)を座標軸とし、ベクトルの方向が色相を、ベクトルの大きさ(絶対値)が彩度を表すものである。
【0005】ある画面中の各画素を無彩色か否か判定する場合には、黒体放射軌跡を近似した直線が用いられる。図5はカラーベクトル座標上に黒体放射軌跡とその近似直線を表したものである。図において、1は黒体放射軌跡であり、2及び3は該黒体放射軌跡1の近似直線であり、ともにカラーベクトル座標の原点を通っている。判定に際しては、上記近似直線2又は3のいずれを用いてもよいが、用いるべき近似直線は予め定められている。各画素の色差信号値と近似直線2又は3との距離を求め、該距離が所定の閾値より小さい場合に、その画素は無彩色であると判定する。上記近似直線2又は3以外の適当な近似直線を用いて判定を行ってもよい。
【0006】この判定を一画面全体について行い、無彩色と判定された画素のみを用いて、カラーベクトル座標のR−Y方向及びB−Y方向のそれぞれについて一画面分積分する。一般に、低彩度の画素をR−Y方向及びB−Y方向のそれぞれについて一画面分積分すると、その結果得られた値は、黒体放射軌跡上に位置するという性質がある。この性質を利用し、上記積分の結果値と黒体放射軌跡との差を求め、該積分結果値が黒体放射軌跡上に位置するように補正する。これにより、ホワイトバランス制御が行われる。
【0007】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、上記方法を用いたホワイトバランス制御装置は、黒体放射軌跡を一つの直線で近似してホワイトバランス制御を行うものであるので、黒体放射軌跡との誤差が大きいという問題がある。
【0008】例えば、図5に示す近似直線2を用いた場合には、原点から遠ざかるに従い黒体放射軌跡との誤差が大きくなる。近似直線3を用いた場合には、座標軸(B−Y)の負領域では精度よく黒体放射軌跡を近似できるが、正領域では誤差が大きくなる。
【0009】本発明は、上記問題を鑑みてなされたものであり、黒体放射軌跡とその近似線との間に生じる誤差を少なくして、より精度の高いホワイトバランス制御装置を提供するものである。
【0010】
【課題を解決するための手段】本発明(請求項1)に係るホワイトバランス制御装置は、画像信号を入力とし、該画像信号にホワイトバランス用ゲインを乗算して、画像のホワイトバランス制御を行うホワイトバランス制御装置において、画像を構成する画素毎に、上記画像信号から輝度信号と色差信号とを算出する信号処理手段と、そのベクトルの方向及び長さが色相及び彩度を表すものであるカラーベクトル座標の原点を通過する黒体放射軌跡を、該原点を境とした二つの領域に分割し、その分割した領域毎に求めた近似直線を結合したものである近似線に基づいて、上記各画素毎の色差信号から、該近似線の近傍にある色差信号を選択し、その選択された色差信号を積分した結果と該近似線とに基づいて上記ホワイトバランス用ゲインを算出するホワイトバランス制御手段と、上記各画素毎の色差信号に上記ホワイトバランス用ゲインを乗算する乗算手段とを備えたものである。
【0011】また、本発明(請求項2)は、請求項1に記載のホワイトバランス制御装置において、上記ホワイトバランス制御手段は、上記積分結果がカラーベクトル座標の原点を含む所定領域以外にある場合は、上記積分結果と上記近似線とに基づいて、該積分結果を該近似線上に位置せしめるホワイトバランス用ゲインを算出し、上記積分結果が該領域内にある場合は、ホワイトバランス用ゲインを一定値とするものである。
【0012】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態について、説明する。図1は、本発明の実施の形態によるホワイトバランス制御装置の構成を説明するためのブロック図である。図において,100は上記ホワイトバランス制御装置であり、CCDカメラ101から出力される画像信号を入力とし、ホワイトバランス制御を行った画像信号を出力するものである。
【0013】上記ホワイトバランス制御装置100は、画像信号から輝度信号値Yと色差信号値(B−Y,R−Y)を算出するカメラ信号処理回路11と、色差信号値(B−Y,R−Y)を受け、その色差信号値が無彩色か否かをカラーベクトル座標上の黒体放射軌跡に基づいて判定し、無彩色と判定された色差信号値からホワイトバランス用ゲイン(Gr,Gb)を算出するホワイトバランス制御回路12と、色差信号値(R−Y)にホワイトバランス用ゲインGrを乗算する第1の乗算器13と、色差信号値(B−Y)にホワイトバランス用ゲインGbを乗算する第2の乗算器14とからなる。
【0014】次に動作について説明する。CCDカメラ101で撮影された画像は、画像信号として上記ホワイトバランス制御装置100に出力される。カメラ信号処理回路11は、該画像信号から画像中の各画素毎に輝度信号値Yと色差信号値(B−Y,R−Y)とを算出する。ホワイトバランス制御回路12は、上記色差信号値を受け、黒体放射軌跡に基づいてその各画素毎の色差信号値が無彩色に該当するか否かを判断する。
【0015】以下、その判断方法について記載する。図2は上記色差信号値が無彩色に該当するか否かを判断する方法を説明するための図であり、図に示された座標は、横軸を色差信号値(B−Y)と、縦軸を色差信号値(R−Y)としたカラーベクトル座標である。
【0016】図において、1は黒体放射軌跡を表す曲線であり、該曲線は座標原点を通過するものである。4は、上記曲線1の近似線であり、原点よりR−Y軸正側部分の曲線1の近似直線と、R−Y軸負側部分の曲線1の近似直線とを座標原点で結合したものである。
【0017】また、斜線で示された領域P,Qは、予め設定された無彩色領域であり、上記色差信号値がこの無彩色領域内にあるとき、その色差信号値は無彩色に該当すると判断する。
【0018】図3は、上記色差信号値が無彩色領域内にあるか否かを判断する方法を説明するための図である。まず、図3(a) に示す座標軸を用いて判断する。図において、座標軸X,Yは、カラーベクトル座標の座標軸を、そのR−Y軸と、R−Y軸正側部分の近似線4とが一致するまで反時計回りにa度回転したものであり、角度aは約30度である。
【0019】図3(b) は、上記Y軸近傍の無彩色領域Pを説明するための図である。該無彩色領域Pは、予め任意に定められた領域であり、X,Y軸成分値(Xn,Yn)が以下に示す〔式1〕を満たす領域である。
【0020】〔式1〕
−x1 <Xn<x1 ,−x1 <Yn<y1判定すべき色差成分値(B−Y,R−Y)は、以下に示す〔式2〕によりX,Y軸成分値(Xn,Yn)に変換する。
【0021】〔式2〕
Xn=(R−Y)sin a−(B−Y)cos aYn=(R−Y)cos a+(B−Y)sin a上記〔式2〕により求めたX,Y成分値(Xn,Yn)が〔式1〕を満たせば、色差成分値(B−Y,R−Y)は無彩色領域P内にあると判断する。上記判断で、無彩色領域P内にあるとされない場合は、図3(c) に示す座標軸X’,Y’を用いて判断する。図において、座標軸X’,Y’は、カラーベクトル座標の座標軸を、そのB−Y軸と、R−Y軸負側部分の近似線4とが一致するまで時計回りにb度回転したものであり、角度bは約30度である。
【0022】図3(d) は、上記X’軸における無彩色領域Qを説明するための図である。該無彩色領域Qは、予め任意に定められた領域であり、X’,Y’軸成分値(Xn’,Yn’)が以下に示す〔式3〕を満たす領域である。
【0023】〔式3〕
−y2 <Xn’<x2 ,−y2 <Yn’<y2判定すべき色差成分値(B−Y,R−Y)は、以下に示す〔式4〕によりX’,Y’軸成分値(Xn’,Yn’)に変換する。
【0024】〔式4〕
Xn’=(R−Y)sin a−(B−Y)cos aYn’=(R−Y)cos a−(B−Y)sin a上記〔式4〕により求めたX’,Y’成分値(Xn’,Yn’)が〔式3〕を満たせば、色差成分値(B−Y,R−Y)は無彩色領域Q内にあると判断する。上記無彩色領域P又はQ内にあると判断された画素は、無彩色に該当すると判断する。
【0025】上記方法により、一画面中の各画素すべてについて無彩色に該当するか否かを判断し、無彩色と判断された画素の色差信号値成分値(R−Y,B−Y)それぞれを一画面分積分する。その積分結果を(B−Yf,R−Yf)とする。
【0026】以下、上記積分結果に基づいて、色差信号値(B−Y,R−Y)に乗算するホワイトバランス用ゲイン(Gb,Gr)を算出する方法について説明する。図4は、上記ホワイトバランス用ゲイン(Gb,Gr)を算出する方法を説明するための図であり、図に示された座標は、横軸を色差信号値(B−Y)、縦軸を色差信号値(R−Y)としたカラーベクトル座標である。
【0027】図において、4は黒体放射軌跡の近似線であり、斜線で示した領域Rは、以下に示す〔式5〕を満たすものである。
【0028】〔式5〕
−Th<B−Y<Th−Th<R−Y<Th上記積分結果(B−Yf,R−Yf)が上記領域R内にある場合は、ホワイトバランス用ゲイン(Gb,Gr)は以下に示す〔式6〕により算出する。
【0029】〔式6〕
Gb=Gr=1次に、上記積分結果(B−Yf,R−Yf)が図4(a) における点Aのような位置にある場合、すなわち領域R内にない場合であって、該積分結果のうち(B−Yf)が負である場合は、以下に示す〔式7〕により算出する。
【0030】〔式7〕
Gb=(B−Yk)/(B−Yf)=tan a・(R−Yf)/(B−Yf)
Gr=1角度aを26.5度とすれば、〔式7〕は次のような簡単な演算式となる。
【0031】〔式7’〕
Gb=0.5・(R−Yf)/(B−Yf)
Gr=1また、上記積分結果が図4(b) における点Bのような位置にある場合、すなわち領域R内にない場合であって、該積分結果のうち(B−Yf)が正である場合は、以下に示す〔式8〕により算出する。
【0032】〔式8〕
Gb=(R−Yk)/(R−Yf)=tan a・(B−Yf)/(R−Yf)
Gr=1角度aが26.5度とすれば、〔式8〕は次のような簡単な演算式となる。
【0033】〔式8’〕
Gb=0.5・(R−Yf)/(B−Yf)
Gr=1上記方法により求めたホワイトバランス用ゲイン(Gb,Gr)を、色差信号値(B−Y,R−Y)にそれぞれ乗算する。これにより、色差信号値に対して、黒体放射軌跡に基づくホワイトバランス制御を行う。
【0034】このように、本実施の形態のホワイトバランス制御装置によれば、カラーベクトル座標上の黒体放射軌跡を近似する際に、座標原点にて結合した二本の直線を近似線として用いるようにしたことにより、各近似線ごとに無彩色領域を設定して無彩色判定を行うことができるため、より精度の高いホワイトバランス制御を行うことができる。
【0035】また、本実施の形態のホワイトバランス制御装置によれば、近似線の傾きを適切に選択することにより、ホワイトバランス用ゲインを簡単な演算により求めることができる。
【0036】また、本実施の形態のホワイトバランス制御装置によれば、無彩色判定により無彩色と判定された画素の色差信号値の積分結果が、カラーベクトル座標の原点付近領域以外の領域にある場合は、該色差信号値の積分結果を上記近似線上に位置するようなホワイトバランス用ゲインを算出し、また、上記色差信号値の積分結果がカラーベクトル座標の原点付近領域内にある場合は、ホワイトバランス用ゲインを一定値とするようにしたことにより、ホワイトバランス用ゲインが必要以上に大きな値になることを防止することができる。
【0037】
【発明の効果】本発明(請求項1)によれば、画像信号を入力とし、該画像信号にホワイトバランス用ゲインを乗算して、画像のホワイトバランス制御を行うホワイトバランス制御装置において、画像を構成する画素毎に、上記画像信号から輝度信号と色差信号とを算出する信号処理手段と、そのベクトルの方向及び長さが色相及び彩度を表すものであるカラーベクトル座標の原点を通過する黒体放射軌跡を、該原点を境とした二つの領域に分割し、その分割した領域毎に求めた近似直線を結合したものである近似線に基づいて、上記各画素毎の色差信号から、該近似線の近傍にある色差信号を選択し、その選択された色差信号を積分した結果と該近似線とに基づいて上記ホワイトバランス用ゲインを算出するホワイトバランス制御手段と、上記各画素毎の色差信号に上記ホワイトバランス用ゲインを乗算する乗算手段とを備えたものとしたので、黒体放射軌跡とその近似線との間に生じる誤差を少なくすることができる。これにより、精度の高いホワイトバランス制御を行うことができる。
【0038】また、本発明(請求項2)によれば、請求項1に記載のホワイトバランス制御装置において、上記ホワイトバランス制御手段は、上記積分結果がカラーベクトル座標の原点を含む所定領域以外にある場合は、上記積分結果と上記近似線とに基づいて、該積分結果を該近似線上に位置せしめるホワイトバランス用ゲインを算出し、上記積分結果が該領域内にある場合は、ホワイトバランス用ゲインを一定値とするものであるので、ホワイトバランス用ゲインが必要以上に大きな値になることを防止することができる。これにより、一層精度の高いホワイトバランス制御を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【図1】 本発明の実施の形態によるホワイトバランス制御装置の構成を示すブロック図である。
【図2】 色差信号値の判断方法を説明するためカラーベクトル座標を示す図である。
【図3】 色差信号値が無彩色領域内にあるか否かを判断する方法を説明するためのカラーベクトル座標を示す図である。
【図4】 ホワイトバランス用ゲインを算出する方法を説明するためのカラーベクトル座標を示す図である。
【図5】 従来のホワイトバランス制御装置によるホワイトバランス制御方法を説明するためのカラーベクトル座標を示す図である。
【符号の説明】
11 カメラ信号処理回路
12 ホワイトバランス制御回路
13 第1の乗算器
14 第2の乗算器
100 ホワイトバランス制御装置
101 CCD

【特許請求の範囲】
【請求項1】 画像信号を入力とし、該画像信号にホワイトバランス用ゲインを乗算して、画像のホワイトバランス制御を行うホワイトバランス制御装置において、画像を構成する画素毎に、上記画像信号から輝度信号と色差信号とを算出する信号処理手段と、そのベクトルの方向及び長さが色相及び彩度を表すものであるカラーベクトル座標の原点を通過する黒体放射軌跡を、該原点を境とした二つの領域に分割し、その分割した領域毎に求めた近似直線を結合したものである近似線に基づいて、上記各画素毎の色差信号から、該近似線の近傍にある色差信号を選択し、その選択された色差信号を積分した結果と該近似線とに基づいて上記ホワイトバランス用ゲインを算出するホワイトバランス制御手段と、上記各画素毎の色差信号に上記ホワイトバランス用ゲインを乗算する乗算手段とを備えたことを特徴とするホワイトバランス制御装置。
【請求項2】 請求項1に記載のホワイトバランス制御装置において、上記ホワイトバランス制御手段は、上記積分結果がカラーベクトル座標の原点を含む所定領域以外にある場合は、上記積分結果と上記近似線とに基づいて、該積分結果を該近似線上に位置せしめるホワイトバランス用ゲインを算出し、上記積分結果が該領域内にある場合は、ホワイトバランス用ゲインを一定値とするものであることを特徴とするホワイトバランス制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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