説明

ボイラ伝熱管の腐食速度推定方法

【課題】重質油、廃タイヤ、RDF等の粗悪燃料を用いる場合であっても精度良く腐食速度を推定することができるボイラ伝熱管の腐食速度推定方法を提供する。
【解決手段】粗悪燃料の燃焼により発生させた燃焼排ガスから熱交換器にて熱回収するボイラ設備にて、熱交換器が具備する伝熱管の腐食速度を推定するボイラ伝熱管の腐食速度推定方法において、粗悪燃料の成分分析に基づいて燃焼排ガスの成分のうち伝熱管の腐食に最も影響が大きいと推定される腐食主要元素を特定し、該腐食主要元素の濃度と伝熱管の減肉速度との相関関係に基づいて腐食速度の基本推定式を導出し、伝熱管肉厚等の測定データを取得し、該測定データに応じて前記基本推定式を補正した腐食速度推定式を設定し、該腐食速度推定式に基づいて伝熱管の腐食速度を求めるようにした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、産業廃棄物を燃料としたボイラ設備にて、伝熱管が腐食して減肉する腐食速度を推定するボイラ伝熱管の腐食速度推定方法に関し、特に、重質油、廃タイヤ、スラッジ、木屑、RDF等の粗悪燃料を用いる場合であっても精度良く腐食速度を推定することができるボイラ伝熱管の腐食速度推定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、ボイラ設備においては、燃料を火炉で燃焼させ、火炉で発生した高温の燃焼排ガスからボイラにて熱回収を行なうようにしている。図10に火炉併設ボイラ設備の一例を示す。火炉51内に投入された燃料は炉内で燃焼し、高温の燃焼排ガスを発生する。燃焼排ガスは、火炉51に併設されたボイラ52に送られる。ボイラ52には、再熱器、二次過熱器、一次過熱器、節炭器などからなる熱交換器53が設けられており、ボイラ52内の排ガス通路54を通る高温の燃焼排ガスと、給水とをボイラ伝熱管を介して熱交換することにより燃焼排ガスから熱回収する構成となっている。ボイラ52にて冷却された燃焼排ガスは、必要に応じて後段の排ガス処理設備(図示略)に送られる。
【0003】
このようなボイラ設備においては、炉内構造物、特に腐食が進みやすい過熱器管等の伝熱管の腐食減肉が問題となっており、最悪の場合、運転中の漏洩トラブルに到ってしまう。これを未然に防止するためには、該当部位の腐食減肉速度を精度良く求めて、適切なタイミングで取替えを行う必要がある。
そこで腐食減肉を求める方法として、例えば特許文献1(特公平1−16364号公報)には、ボイラの水管に取り付けられたスタッドの長さを測定して管肉の減肉量を推定する方法が開示されている。スタッドの長さを測定する際には、超音波厚さ計が用いられる。これにより、管の肉厚を正確に測定でき腐食状態を把握可能であるが、この方法では炉を停止した状態でしか測定できなかった。また、腐食に影響を及ぼす燃焼灰の付着状況や燃焼ガスの流れの状態が水管本体と異なるため、推定精度の面でも問題が残っている。
【0004】
そこで他の方法として、腐食推定式を用いて腐食速度を推定する方法が提案、実用化されていた。例えば、ごみ発電用ボイラ設備においては、以下の腐食推定式が用いられていた。
ΔW = KLt (ΔW:減肉量、KL:係数、t:時間)
KL = Tg5.65×Tm7.86×HCl0.61×Cl0.37×(Cr+Mo+Ni)-0.39 ・・・(1)
尚、Tg:ガス温度、Tm:メタル温度、HCl:ガス中塩酸濃度、Cl:ガス中塩素濃度
Cr、Mo、Ni:材料(鉄鋼)中のそれぞれクロム、モリブデン、ニッケル濃度、である。
【0005】
【特許文献1】特公平1−16364号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上記したように、ボイラ設備を安定して運転するためには、炉内構造物、特に腐食が進みやすい伝熱管の腐食減肉を的確に把握し、適切なタイミングで伝熱管の取替え、メンテナンスを行なう必要がある。しかしながら、ボイラ伝熱管或いはこれに取り付けられるスタッドを直接測定する方法では、ボイラ停止時にしか測定できないという問題があった。また、推定精度の面でも問題が残っている。
また、上記式(1)に示されるような腐食速度推定式から腐食減肉を推定する方法では、実機における減肉との乖離が大きく、実用には値しないものであった。その理由としては、上記式腐食速度推定式は元来ごみを燃料としたごみ発電用ボイラ設備を対象としていること、またガス温度、メタル温度、ガス中塩酸濃度及びガス中塩素濃度等の多種類のパラメータが存在するため、夫々の測定値に誤差が生じた場合、実際の減肉量に対して推定された減肉量が大きな乖離を生んでしまうこと、さらに、燃料中に含まれる腐食成分の定量化が不十分であるため、精度の良い結果が出ないことなどが考えられる。
従って、本発明は上記従来技術の問題点に鑑み、重質油、廃タイヤ、RDF等の粗悪燃料を用いる場合であっても精度良く腐食速度を推定することができるボイラ伝熱管の腐食速度推定方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
そこで、本発明はかかる課題を解決するために、
粗悪燃料の燃焼により発生させた燃焼排ガスから熱交換器にて熱回収するボイラ設備にて、前記熱交換器が具備する伝熱管の腐食速度を推定するボイラ伝熱管の腐食速度推定方法において、
前記粗悪燃料の成分分析に基づいて、前記燃焼排ガス及び燃焼灰の少なくとも何れか一方に含まれる成分のうち前記伝熱管の腐食に最も影響が大きいと推定される腐食主要元素を特定する工程と、
前記特定した腐食主要元素の濃度と前記伝熱管の減肉速度との相関関係に基づいて腐食速度の基本推定式を導出する工程と、
前記ボイラ設備の伝熱管肉厚を含む測定データを取得し、該測定データに応じて前記基本推定式を補正した腐食速度推定式を設定する工程と、
前記腐食速度推定式に基づいて前記伝熱管の腐食速度を求める工程とを備えたことを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、腐食速度推定式におけるパラメータを腐食主要元素の一つのみとしているため、測定時の誤差が与える影響を最小限に抑えることができる。また、腐食速度推定式は、腐食主要元素濃度と伝熱管減肉速度との相関関係に基づいて導出した腐食速度の基本推定式に対して、実機の測定データに基づき補正を行なっているため、推定精度の向上が可能となった。
【0009】
また、前記燃焼排ガス及び燃焼灰の少なくとも何れか一方に含まれる成分のうち前記腐食主要元素の次に前記伝熱管の腐食に影響が大きいと推定される腐食第2元素を特定し、該特定した腐食第2元素の減肉速度への影響度に応じて腐食第2元素濃度を腐食主要元素濃度に等価換算し、該換算にて得られた腐食主要元素濃度により前記基本推定式を補正することを特徴とする。
このように、腐食に影響を及ぼす腐食第2元素の濃度を腐食主要元素濃度に等価換算し、基本推定式を補正することにより、腐食速度の推定精度を高めることが可能となる。
さらに、前記燃焼排ガスの成分のうち前記腐食主要元素の他に前記伝熱管の腐食に影響を与える2以上の腐食要因元素を選出し、該選出した腐食要因元素の減肉速度への影響度に応じて夫々の腐食要因元素濃度を腐食主要元素濃度に等価換算し、該換算にて得られた腐食主要元素濃度により前記基本推定式を補正することを特徴とする。
このように、複数の腐食要因元素を選出して、これらの影響度に応じて腐食主要元素濃度に等価換算し、基本推定式を補正することにより、腐食速度の推定精度をより一層高めることが可能となる。
【0010】
さらにまた、前記伝熱管の腐食速度を推定する工程にて、前記ボイラ設備に投入される粗悪燃料の成分比率に基づいて前記腐食主要元素の濃度を算出し、該算出した腐食主要元素濃度から前記腐食速度推定式に基づいて前記伝熱管の腐食速度を求めるようにし、
所定期間内における前記腐食主要元素の平均濃度を算出し、該平均濃度から前記伝熱管の腐食速度を求めることを特徴とする。
これは、粗悪燃料中の腐食性元素の量は常に一定とは限らないため、上記したように腐食主要元素の平均濃度を用いることによって腐食速度の推定精度を向上させることが可能となる。
このとき、前記腐食主要元素及び前記腐食第2元素の等価量を算出し、前記等価量に基づいて前記基本推定式を補正することが好適である。
【0011】
また、前記熱交換器が、前記ボイラ設備に配設された過熱器であることを特徴とする。前記過熱器は、ボイラ設備に配設される伝熱管のうち最も温度条件、腐食条件が厳しいため、過熱器の腐食速度を推定することによって他の伝熱管の状況も把握することが可能となる。
さらに、前記腐食主要元素が塩素であることを特徴とする。これは、重質油、廃タイヤ、RDF等の粗悪燃料を燃焼させた燃焼排ガス中には、多量の塩素が含有されることが多く、塩素成分は腐食に最も影響度が高いことから、これを腐食主要元素とすることで、より精度よく腐食速度を推定することが可能である。
さらにまた、前記腐食第2元素が亜鉛であることを特徴とする。これにより、より一層精度よく腐食速度を推定することが可能である。
【発明の効果】
【0012】
以上記載のごとく本発明によれば、腐食速度推定式におけるパラメータを腐食主要元素の一つのみとしているため、測定時の誤差が与える影響を最小限に抑えることができる。また、腐食速度推定式は、腐食主要元素濃度と伝熱管減肉速度との相関関係に基づいて導出した腐食速度の基本推定式に対して、実機の測定データに基づき補正を行なっているため、推定精度の向上が可能となった。
また、腐食に影響を及ぼす腐食第2元素の濃度を腐食主要元素濃度に等価換算し、基本推定式を補正することにより、腐食速度の推定精度を高めることが可能となる。
さらに、複数の腐食要因元素を選出して、これらの影響度に応じて腐食主要元素濃度に等価換算し、基本推定式を補正することにより、腐食速度の推定精度をより一層高めることが可能となる。
さらにまた、腐食主要元素濃度の平均濃度を用いることによって腐食速度の推定精度を向上させることが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、図面を参照して本発明の好適な実施例を例示的に詳しく説明する。但しこの実施例に記載されている構成部品の寸法、材質、形状、その相対的配置等は特に特定的な記載がない限りは、この発明の範囲をそれに限定する趣旨ではなく、単なる説明例に過ぎない。
本実施形態は、重質油、廃タイヤ、スラッジ、木屑、RDF等の粗悪燃料を燃料としたボイラ設備に適用され、該ボイラ設備に配設される伝熱管の腐食減肉に基づく腐食速度を推定する。ボイラ設備は、循環流動床ボイラ、気泡流動床ボイラ及び他の形式のボイラ設備を含むものである。
【0014】
まず、図9を参照して、本実施形態の腐食速度推定方法が適用される装置の一例として循環流動層ボイラ設備につき説明する。
図9に示すように、循環流動層ボイラ設備1において、流動床炉2では、下方より一次空気を導入してけい砂等の流動砂と粗悪燃料を流動混合して一次燃焼を行った後、その上方のフリーボード部2aに二次空気を導入して二次燃焼を行って可燃性ガスの燃焼完結を図り、これにより高温の燃焼ガスが発生する。流動床炉2の出口側には、配管2bを介して燃焼ガスと流動砂を分離するサイクロン3が設けられている。該サイクロン3の下部には、配管4を介してシールポット5が連結され、シールポット5には配管7を介して外部熱交換器8が連結され、この外部熱交換器8は流動床火炉2の下部に連結されている。また、シールポット5は配管6を介して流動床炉2の下部に連結されている。
【0015】
サイクロン3の上部は、燃焼排ガス通路9を介してボイラ10に接続されている。ボイラ10には、再熱器、二次過熱器、一次過熱器、節炭器などからなる複数の熱交換器11、12が設けられており、ボイラ10を通過する燃焼排ガスは、熱交換器11、12への給水と熱交換することにより熱回収される。
本実施形態は、熱交換器11、12及び外部熱交換器8の腐食速度を推定する際に用いられ、好適には400℃以上の燃焼排ガス雰囲気下に設けられた過熱器に用いられる。
【0016】
また、本実施形態では、腐食速度の推定に関する各種演算処理を行なうプログラムが格納された演算装置20を備えている。該演算装置20は、後述する実施例1乃至実施例3に示す処理フローに従って演算処理を行う。また、演算装置20は記憶部21を備えており、該記憶部21には、演算装置20にて設定された腐食速度推定式が記憶される。
さらに、燃焼排ガス及び燃焼灰の少なくとも何れか一方に含まれる所定成分濃度を取得する濃度算出手段31又は濃度検出手段32の少なくとも何れか一方を備える。前記濃度算出手段31は、流動床炉2に投入される粗悪燃料の成分分析を行い、該分析結果に基づいて、これを燃焼した時に発生する燃焼排ガス及び燃焼灰の少なくとも何れか一方に含まれる前記所定成分濃度を求める手段である。前記濃度検出手段32は、燃焼排ガス又は燃焼灰を直接測定し、前記所定成分濃度を検出する手段である。
【実施例1】
【0017】
図1を参照して、本実施例1の腐食速度推定方法では、まず伝熱管の腐食に最も影響が大きいと推定される腐食主要元素を特定する(S11)。これは、各プラントで用いられる主要燃料を分析し、燃料を燃焼した際に発生する燃焼排ガス及び該燃焼排ガス中に含有する燃焼灰の少なくとも何れか一方の成分及び量を求めて、腐食主要元素を特定するとよい。尚、好適には、腐食主要元素は塩素とする。これは、重質油、廃タイヤ、RDF等の粗悪燃料を燃焼させた燃焼排ガスや燃焼灰中には多量の塩素が含有されることが多く、塩素成分は腐食に最も影響度が高いことから、これを腐食主要元素とすることで、より精度よく腐食速度を推定することが可能である。
【0018】
そして、特定した腐食主要元素の濃度と伝熱管の減肉速度との相関関係に基づいて、腐食速度の基本推定式を導出する(S12)。腐食主要元素濃度と伝熱管減肉速度の相関関係は、例えば図1(a)に示される曲線により表される。この相関関係は、実機を模擬した試験装置を用いて、腐食主要元素濃度を変化させた時の伝熱管の減肉速度を求め、グラフ化したものである。このとき、ガス中に含有される場合、付着灰中に含有される場合、その両者の場合等、実機の腐食環境に合わせて試験を行なうとよい。材料も実機に用いるものと同等のもので実施することが好ましい。
【0019】
次いで、ボイラ設備の伝熱管肉厚を含む実機測定データを取得し、この測定データに応じて前記基本推定式を補正した腐食速度推定式を設定する(S13)。これは、基本推定式に実機との相関係数項を付け加え、一定期間運転後の実機測定データより相関係数を求めて、この相関係数を相関係数項に当てはめたものを腐食速度推定式とする。
基本推定式に対して実機測定データによる補正を行った腐食速度推定式を図1(b)、(c)に示す。図1(b)は、実機測定データの補正により基本推定式よりも減肉速度が増加した場合の腐食速度推定式を示し、(c)は減肉速度が減少した場合の腐食速度推定式を示す。
上記により設定された腐食速度推定式に実機の腐食主要元素濃度を当てはめて実機の腐食速度を推定し(S14)、想定する時間における腐食減肉量を算出する。実機の腐食主要元素濃度は、図9の濃度算出手段31又は濃度検出手段32により取得する。
【0020】
本実施例1によれば、腐食速度推定式におけるパラメータを腐食主要元素の一つのみとしているため、測定時の誤差が与える影響を最小限に抑えることができる。また、腐食速度推定式は、腐食主要元素濃度と伝熱管減肉速度との相関関係に基づいて導出した腐食速度の基本推定式に対して、実機の測定データに基づき補正を行なっているため、推定精度の向上が可能となった。
【0021】
本実施例1を用いて、2つのプラントA、Bにて、減肉推定精度を評価した表を図2に示す。図中、既存式は従来の腐食速度推定式(式(1)参照)により算出した値を示し、基本推定式、腐食速度推定式は何れも本実施例1に示した式により算出した値を示す。
尚、推定精度値=(実機の減肉量)/(推定式より求めた減肉量)である。
図2に示されるように、実施例1に示した腐食速度推定式により推定した値が最も精度が高くなり、従来の推定式を用いた場合に比べて2倍程度の精度向上が可能となった。
【実施例2】
【0022】
本実施例2では、上記した実施例1の推定方法に他の補正手段を加えた方法となっている。図3に示すように、まず実施例1と同様に、伝熱管の腐食に最も影響が大きいと推定される腐食主要元素を特定し(S11)、特定した腐食主要元素の濃度と伝熱管の減肉速度との相関関係に基づいて、腐食速度の基本推定式を導出する(S12)。
さらに、燃焼排ガス及び燃焼灰の少なくとも何れか一方に含まれる成分のうち腐食主要元素の次に伝熱管の腐食に影響が大きいと推定される腐食第2元素を特定し、該特定した腐食第2元素の減肉速度への影響度に応じて腐食第2元素濃度を腐食主要元素濃度に等価換算し、該換算にて得られた腐食主要元素濃度により前記基本推定式を補正する(S15)。腐食第2元素の特定は、腐食主要元素と同様にして特定される。尚、腐食第2元素は亜鉛とすることが好ましい。
【0023】
腐食第2元素濃度の等価換算では、試験装置により等価係数αを試験的に求め、この等価係数により腐食第2元素濃度を腐食主要元素濃度に換算する。そして、下記式(2)により、腐食主要元素等価濃度を算出する。尚、式(2)では腐食主要元素を塩素(Cl)、腐食第2元素を亜鉛(Zn)としている。
Cl=[%Cl]+α[%Zn] ・・・(2)
ここで、Clは腐食主要元素等価濃度、[%Cl]は腐食主要元素濃度、[%Zn]は腐食第2元素濃度である。
【0024】
次いで、腐食第2元素も加味した試験により、腐食主要元素と腐食第2元素の濃度と腐食速度の相関関係を示す基本推定式を導出する。これは、ガス中に含有される場合、付着灰中に含有される場合、その両者の場合等のように、実機の腐食環境に合わせて試験を実施することが好ましい。これより腐食主要元素等価濃度を求める。材料も実機に用いるものと同等のもので実施する。腐食第2元素により補正した基本推定式は、例えば図3(d)に示される。
そして、実施例1と同様に、ボイラ設備の伝熱管肉厚を含む実機測定データを取得し、この測定データに応じて前記基本推定式を補正した腐食速度推定式を設定(S13)した後、この腐食速度推定式に実機の腐食主要元素濃度を当てはめて実機の腐食速度を推定し(S14)、想定する時間における腐食減肉量を算出する。
【0025】
本実施例2のように、腐食に影響を及ぼす腐食第2元素の濃度を腐食主要元素濃度に等価換算し、基本推定式を補正することにより、腐食速度の推定精度を高めることが可能となる。
さらにまた、本実施例2では腐食に影響を及ぼす腐食第2元素までを考慮したが、第3元素、第4元素、・・・と2以上の腐食要因元素を選出し、これらに基づき基本推定式を補正してもよい。この場合、選出した複数の腐食要因元素の減肉速度への影響度に応じて夫々の腐食要因元素濃度を腐食主要元素濃度に等価換算し、該換算にて得られた腐食主要元素濃度により基本推定式を補正する。これにより、腐食速度の推定精度をより一層高めることが可能となる。
本実施例2を用いて、減肉推定精度を評価した表を図4に示す。同図に示されるように、上記実施例2の腐食速度推定式を用いた値が最も精度が高くなり、従来の推定式を用いた場合に比べて2倍程度の精度向上が可能となった。
【実施例3】
【0026】
本実施例3は、上記した実施例1の推定方法に対して、平均濃度を用いて腐食速度を算出するようにしたものである。これは、粗悪燃料中の腐食性元素の量は常に一定とは限らないため、腐食速度推定式において平均濃度を用いることで推定精度を上げるようにした。
腐食主要元素平均濃度の算出方法を以下に示す。
予め、使用される各種燃料の腐食主要元素量を把握しておく。これは、腐食環境に合わせてガス中濃度、灰中濃度等を分析することにより得られる。次いで、腐食量推定時(総運転時間)までの各種燃料の使用量割合より、期間中の平均主要元素濃度を算出する。
そして、上記の平均主要元素濃度を実施例1にて求められた腐食速度推定式に当てはめて腐食速度を求め、想定する時間における腐食減肉量を算出する。腐食主要元素平均濃度により補正した腐食速度推定式は、例えば図5(e)、(f)に示される。
【0027】
本実施例によれば、腐食主要元素濃度の平均濃度を用いることによって腐食速度の推定精度を向上させることが可能となる。
本実施例3を用いて、各プラントA、プラントBにおいて減肉推定精度を評価した表を図6に示す。同図に示されるように、実施例3の腐食速度推定式を用いた値が最も精度が高くなり、従来の推定式を用いた場合に比べて2〜3倍程度の精度向上が可能となった。
【0028】
さらに本実施例3において、腐食速度推定式にて腐食主要元素と腐食第2元素の等価量を用いて演算を行なうことが好ましい。
腐食第2元素を扱う場合の等価量の算出方法を以下に示す。
予め、使用される各種燃料の腐食主要元素量を把握しておく。これは、腐食環境に合わせてガス中濃度、灰中濃度等を分析することにより得られる。
次いで、実機を模擬した試験装置で、腐食に及ぼす腐食主要元素と腐食第2元素の相関係数を把握し、腐食主要元素の等価量の形で表現する。この試験は、材料も実機に用いるものと同等のもので実施する。
腐食量推定時(総運転時間)までの各種燃料の使用量割合より、期間中の主要元素等価量平均濃度を算出する。そして、上記の主要元素等価量平均濃度を実施例1にて求められた腐食速度推定式に当てはめて腐食速度を求め、腐食減肉量を算出する。第2元素を考慮して主要元素等価量平均濃度により補正した式は、例えば図7に示される。
【0029】
本実施例によれば、腐食第2元素の腐食主要元素への等価係数を求め、減肉速度との関係を主要元素等価量平均濃度で表すことによって、腐食速度の推定精度を高めることが可能となる。
上記構成を用いて、プラントAの減肉推定精度を評価した表を図8に示す。同図に示されるように、本構成の腐食速度推定式を用いた値が最も精度が高くなり、従来の推定式を用いた場合に比べてより一層精度向上が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の実施例1に係る腐食速度推定方法を説明する図である。
【図2】実施例1における腐食推定精度を比較する表である。
【図3】本発明の実施例2に係る腐食速度推定方法を説明する図である。
【図4】実施例2における腐食推定精度を比較する表である。
【図5】本発明の実施例3に係り、平均濃度補正をした腐食速度推定式を表す図である。
【図6】実施例3における腐食推定精度を比較する表である。
【図7】図5に加えて、第2元素等価補正をした腐食速度推定式を表す図である。
【図8】実施例3における腐食推定精度を比較する表である。
【図9】本発明の実施形態が適用されるボイラ設備を示す概略構成図である。
【図10】従来のボイラ設備の概略構成図を示す。
【符号の説明】
【0031】
1 循環流動層ボイラ設備
2 流動床炉
2b 4、6、7 配管
3 サイクロン
5 シールポット
8 外部熱交換器
10 ボイラ
11、12 熱交換器
20 演算装置
21 記憶部
31 濃度算出手段
32 濃度検出手段
51 火炉
52 ボイラ
53 熱交換器
54 排ガス通路

【特許請求の範囲】
【請求項1】
粗悪燃料の燃焼により発生させた燃焼排ガスから熱交換器にて熱回収するボイラ設備にて、前記熱交換器が具備する伝熱管の腐食速度を推定するボイラ伝熱管の腐食速度推定方法において、
前記粗悪燃料の成分分析に基づいて、前記燃焼排ガス及び燃焼灰の少なくとも何れか一方に含まれる成分のうち前記伝熱管の腐食に最も影響が大きいと推定される腐食主要元素を特定する工程と、
前記特定した腐食主要元素の濃度と前記伝熱管の減肉速度との相関関係に基づいて腐食速度の基本推定式を導出する工程と、
前記ボイラ設備の伝熱管肉厚を含む測定データを取得し、該測定データに応じて前記基本推定式を補正した腐食速度推定式を設定する工程と、
前記腐食速度推定式に基づいて前記伝熱管の腐食速度を求める工程とを備えたことを特徴とするボイラ伝熱管の腐食速度推定方法。
【請求項2】
前記燃焼排ガス及び燃焼灰の少なくとも何れか一方に含まれる成分のうち前記腐食主要元素の次に前記伝熱管の腐食に影響が大きいと推定される腐食第2元素を特定し、該特定した腐食第2元素の減肉速度への影響度に応じて腐食第2元素濃度を腐食主要元素濃度に等価換算し、該換算にて得られた腐食主要元素濃度により前記基本推定式を補正することを特徴とする請求項1記載のボイラ伝熱管の腐食速度推定方法。
【請求項3】
前記燃焼排ガスの成分のうち前記腐食主要元素の他に前記伝熱管の腐食に影響を与える2以上の腐食要因元素を選出し、該選出した腐食要因元素の減肉速度への影響度に応じて夫々の腐食要因元素濃度を腐食主要元素濃度に等価換算し、該換算にて得られた腐食主要元素濃度により前記基本推定式を補正することを特徴とする請求項1記載のボイラ伝熱管の腐食速度推定方法。
【請求項4】
前記伝熱管の腐食速度を推定する工程にて、前記ボイラ設備に投入される粗悪燃料の成分比率に基づいて前記腐食主要元素の濃度を算出し、該算出した腐食主要元素濃度から前記腐食速度推定式に基づいて前記伝熱管の腐食速度を求めるようにし、
所定期間内における前記腐食主要元素の平均濃度を算出し、該平均濃度から前記伝熱管の腐食速度を求めることを特徴とする請求項1乃至3の何れかに記載のボイラ伝熱管の腐食速度推定方法。
【請求項5】
前記熱交換器が、前記ボイラ設備に配設された過熱器であることを特徴とする請求項1乃至4の何れかに記載のボイラ伝熱管の腐食速度推定方法。
【請求項6】
前記腐食主要元素が塩素であることを特徴とする請求項1乃至5の何れかに記載のボイラ伝熱管の腐食速度推定方法。
【請求項7】
前記腐食第2元素が亜鉛であることを特徴とする請求項1乃至6の何れかに記載のボイラ伝熱管の腐食速度推定方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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