説明

ボイラ給水系及びボイラ缶内の防食方法

【課題】ボイラ缶内のような濃縮部のみではなく、給水配管やエコノマイザ等の非濃縮部においても防食効果を発揮し、電気伝導率の上昇を抑えた経済的な運転を可能とする防食方法を提供する。
【解決手段】ボイラ給水のpHが8.0〜9.5の範囲において、ボイラ給水に、クエン酸及び/又はその塩を、クエン酸濃度として25〜75mg/Lになるように添加すると共に、カルボキシ基を有する水溶性ホモポリマー及び/又はコポリマーを添加することを特徴とする、ボイラ給水系及びボイラ缶内の防食方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイラ水系におけるエコノマイザを含む給水系及びボイラ缶内の防食方法であって、給水配管、エコノマイザ及びボイラ缶内を効果的に防食する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ボイラ系統の腐食を引き起こす主な要因としては、ボイラ給水あるいは缶水が、(1)溶存酸素濃度が高い、(2)pHの適正範囲(JIS B8223の特殊循環ボイラのボイラ水においては11.0〜11.8)から外れている、(3)塩化物イオンや硫酸イオン等の有害イオン濃度が高い、の3点が挙げられる。
したがって、ボイラ水系における缶内の水側の腐食を防止するための方法として、一般に薬剤を注入し、pHを適正範囲にコントロールしたり、溶存酸素を除去したり、又は鋼材表面に防食皮膜を形成する等の方法が行われている。この際、ボイラ缶内での濃縮を考慮して薬剤を注入するために、給水配管やエコノマイザのような非濃縮部においては、pHが低く薬剤濃度が低いため、防食皮膜の形成が不充分となる。また、これらは滞留時間が短く、ボイラ缶内と比較して低温のために、脱酸素剤による脱酸素も返応速度が遅く、脱酸素が不充分となる。このため、特にエコノマイザのように、水温が上昇するにもかかわらず溶存酸素濃度の高い箇所は腐食性が高いため、腐食・孔食発生が生じ、ボイラ稼動時の障害の原因となる。
【0003】
一方、給水配管やエコノマイザ等の非濃縮部に対して充分な薬剤量を注入すると、薬剤コストが高くなって不経済であり、さらにボイラ缶内のような濃縮部においては、pH、電気伝導率が上昇しすぎて、キャリオーバやアルカリ腐食が生じるか、又はそれを防止するために、通常よりもブロー量を増加することでエネルギーロスが生じる。
【0004】
特許文献1には、ボイラ運転時に、ボイラ缶水に添加して使用する腐食防止剤として、カルボキシ基を2個以上有する有機多塩基酸又はその塩から選ばれる一種以上の成分を含むボイラ用缶水処理剤組成物が開示されており、特許文献2には、ボイラ水中に含まれるクエン酸の濃度を、少なくとも50mg/Lに設定することにより、ボイラ伝熱管に生じる腐食を抑制するための方法が開示されている。
特許文献3には、ボイラ給水に対して、酒石酸又はその塩10〜50mg/L、クエン酸又はその塩10〜50mg/L、及びボイラ給水のpHを8〜12に調整し得る量のアルカリ剤を添加して、ボイラにおける鉄系金属の腐食・孔食を防止する方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平4−232285号公報
【特許文献2】特開2003−147556号公報
【特許文献3】特開2005−220396号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1及び2においては、いずれもボイラ缶内における評価試験しか行われておらず、非濃縮部であり、pH条件の全く異なる給水配管や、エコノマイザ等の非濃縮部についての効果については何ら示唆されていない。
また、特許文献3の技術は、酒石酸、クエン酸又はそれら塩の濃度が低いと孔食が深くなり、また後段のボイラ缶内での濃縮を考慮してpHを低くすると、防食効果は低くなり十分な処理効果が得られないという問題がある。孔食を充分に抑制するために高濃度添加したり、アルカリ剤の添加によりpHを高くすると、酒石酸、クエン酸又はそれらの塩及びアルカリ剤は、ボイラ缶水の電気伝導率やpHを上昇させキャリオーバやアルカリ腐食が生じるため、これらの不具合を防止するために、ブロー量を増加する必要があり、不経済となる。
本発明は、このような状況下になされたものであり、ボイラ缶内のような濃縮部のみではなく、給水配管やエコノマイザ等の非濃縮部においても防食効果を発揮し、後段のボイラ缶水の電気伝導率やアルカリ濃度の上昇を抑えた経済的な運転を可能とする防食方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究を重ねた結果、ボイラ給水に対して、クエン酸やその塩を、特定範囲の濃度になるように添加すると共に、カルボキシ基を有する水溶性ポリマーを添加することにより、両者の相乗効果によって、低いpHにおいて従来の防食剤よりも低濃度で防食効果を発揮することを見出した。
本発明は、かかる知見に基づいて完成したものである。
【0008】
すなわち、本発明は、次の(1)〜(4)を提供するものである。
(1)ボイラ給水のpHが8.0〜9.5の範囲において、ボイラ給水にクエン酸及び/又はその塩を、クエン酸濃度として25〜75mg/Lになるように添加すると共に、カルボキシ基を有する水溶性ホモポリマー及び/又はコポリマーを添加することを特徴とするボイラ給水系及びボイラ缶内の防食方法。
(2)カルボキシ基を有する水溶性ホモポリマー及び/又はコポリマーが、アクリル酸、マレイン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸及びそれらの塩の中から選ばれる少なくとも一種のモノマーを用いて得られたホモポリマー、コポリマー及び該モノマーとイソブチレンとのコポリマーから選ばれる一種以上のポリマーである、上記(1)のボイラ給水系及びボイラ缶内の防食方法。
(3)ボイラ給水に、カルボキシ基を有する水溶性ホモポリマー及び/又はコポリマーを、その濃度が5〜50mg/Lになるように、かつクエン酸濃度との合計濃度が45mg/L以上になるように添加する、上記(1)又は(2)のボイラ給水系及びボイラ缶内の防食方法。
(4)カルボキシ基を有する水溶性のホモポリマー又はコポリマーの数平均分子量が200〜50,000である、上記(1)〜(3)のいずれかのボイラ給水系及びボイラ缶内の防食方法。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、ボイラ給水に対して、クエン酸やその塩を、所定範囲の濃度になるように添加すると共に、カルボキシ基を有する水溶性ポリマーを添加することにより、両者の相乗効果によって、低いpHにおいても従来の防食剤よりも低濃度で高い防食効果を発揮することができる。このため、ボイラ缶内のような濃縮部のみではなく、給水配管やエコノマイザ等の非濃縮部においても高い防食効果を発揮し、そして、低pH、低濃度で防食効果が発揮されることで、防食剤に起因する電気伝導率の上昇が少なくなるため、ブロー量を増加することなく、キャリオーバやアルカリ腐食を防止でき、経済的な運転が可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【図1】本発明の試験例で用いた、試験液1Lを収容してなる1.2Lの蓋付き半密閉容器の概要図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明のボイラ給水系及びボイラ缶内の防食方法(以下、単に「本発明の防食方法」ともいう)は、ボイラ給水のpHが8.0〜9.5の範囲においてボイラ給水に、クエン酸及び/又はその塩を、クエン酸濃度として25〜75mg/Lになるように添加すると共に、カルボキシ基を有する水溶性ホモポリマー及び/又はコポリマーを添加することを特徴とする。
本発明の防食方法における対象水系は、ボイラ水系システムであって、給水種としては、純水給水、逆浸透(RO)給水、軟水給水のいずれも適用可能である。
ボイラの形式は特に制限されず、特殊循環ボイラ、水管ボイラ、丸ボイラ、排熱回収ボイラ等のボイラにおいて広範に使用することができる。
適用するボイラの圧力に特に制限はないが、圧力が高くなりすぎるとクエン酸及び/又はその塩が熱分解し易くなるため、好ましくは3.0MPa以下、より好ましくは2.0MPa以下の圧力下で使用することが好ましい。
【0012】
[クエン酸及び/又はその塩]
本発明の防食方法においては、ボイラ給水に対して、クエン酸及び/又はその塩が添加される。
本発明で使用するクエン酸塩は、クエン酸のカルボキシ基の水素原子を、例えば、ナトリウム、カリウム等のアルカリ金属、NH4+で置換して得られる塩であり、具体的には、クエン酸ナトリウム、クエン酸水素ナトリウム、クエン酸カリウム、クエン酸水素カリウム、クエン酸アンモニウム等の塩及びそれらの水和物等が挙げられる。
クエン酸及び/又はその塩の添加量は、ボイラ給水中のクエン酸濃度が25〜75mg/Lとなる量である。クエン酸としての濃度が25mg/L未満であると十分な腐食及び孔食防止効果が得られず、75mg/Lを超えるとボイラ水の電気伝導率が増加して、キャリオーバが起こることがある。該濃度が上記範囲内にあれば、優れた腐食及び孔食防止効果が得られる。クエン酸及び/又はその塩の添加量は、クエン酸濃度として30〜65mg/Lであることがより好ましい。
【0013】
[水溶性ポリマー]
本発明の防食方法においては、ボイラ給水に対して、前述したクエン酸及び/又はその塩と共に、カルボキシ基を有する水溶性ホモポリマー及び/又はコポリマーが添加される。
このカルボキシ基を有する水溶性ホモポリマー及び/又はコポリマーとしては、例えばアクリル酸、メタアクリル酸、マレイン酸、2−ヒドロキシ−3−アリルオキシ−1−プロパンスルホン酸(HAPS)、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸(AMPS)、3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸及びそれらの塩から選ばれるモノマーを用いて得られたホモポリマー、コポリマー、及び該モノマーとイソブチレンとのコポリマーから選ばれる一種以上のポリマーが挙げられる。
【0014】
カルボキシ基を有する水溶性ホモポリマー又はコポリマーは、防食効果の面から数平均分子量が200〜50,000の範囲にあるものが好ましく、500〜20,000の範囲にあるものがより好ましい。この数平均分子量が小さすぎる場合、防食効果が充分ではなく、大きすぎる場合、水溶液の粘度が高くなって、ハンドリング性が低下し、好ましくない。
なお、上記数平均分子量は、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)法により測定される、標準ポリスチレン換算の値である。
【0015】
カルボキシ基を有する水溶性ホモポリマー及び/又はコポリマーのボイラ給水に対する添加量は、防食効果の観点から、ボイラ給水中の濃度が5〜50mg/Lになる量が好ましく、10〜30mg/Lになる量がより好適であり、かつクエン酸濃度との合計濃度が45mg/L以上になる量であることが好ましく、45〜80mg/Lの範囲になる量であることがより好ましい。
カルボキシ基を有する水溶性ホモポリマー及び/又はコポリマーのボイラ給水中の濃度が小さすぎると防食効果が不充分であり、多すぎても添加量に相当する効果を得ることができず不経済となる。
クエン酸及び/又はその塩、並びにカルボキシ基を有する水溶性ホモポリマー及び/又はコポリマーの使用方法は、予め調合した水溶液として添加してもよいし、別々に同一水系に添加してもよいが、系内で均一濃度となるように、エコノマイザの上流より、ボイラ給水に対して流量比例で添加することが好ましく、これにより給水配管、エコノマイザ及びボイラ缶内を併せて効果的に防食することができる。
【0016】
[ボイラ給水のpH]
本発明の防食方法ではボイラ給水のpHを8.0〜9.5の範囲に維持するが、pH8.5〜9.5の範囲に維持することが好ましい。
pHが8.0未満であると十分な腐食及び孔食抑制効果が得られず、9.5を超えるとボイラ水の電気伝導率が増加してキャリオーバが生じたり、アルカリ濃度が上昇しすぎてアルカリ腐食が生じたりすることがある。ボイラ給水のpHがこの範囲を下回る場合は、アルカリ剤を添加して調整する。
アルカリ剤としては、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム等のアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩、リン酸三ナトリウム、リン酸水素ナトリウム等のアルカリ金属リン酸塩等が挙げられる。これらの中では、pH調整効果及び熱分解により二酸化炭素を発生させない観点から、アルカリ金属水酸化物が好ましく、経済性の観点から、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等がより好ましい。
上記アルカリ剤は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0017】
[他の添加成分]
本発明の防食方法においては、他の添加成分として、既存のスケール防止剤、スケール除去剤、脱酸素剤、防食剤、中和性アミン等を併用することができる。これらの他の添加成分は、本発明の目的を阻害しない範囲において、任意に混合してボイラ水系に添加してもよく、また別々に添加してボイラ水系内で混合してもよい。
【0018】
(スケール防止剤、スケール除去剤)
スケール防止剤、スケール除去剤としては、例えば各種リン酸塩や、ポリアクリル酸、ポリマレイン酸、及びそれらのナトリウム塩等の水溶性高分子化合物、ホスホン酸塩,キレート剤等が挙げられる。
【0019】
(脱酸素剤)
脱酸素剤としては、例えばヒドラジン、カルボヒドラジド、1−アミノピロリジン、1−アミノ−4−メチルピペラジン、N,N−ジエチルヒドロキシルアミン、タンニン(酸)及びその塩、エルソルビン酸及びその塩、アスコルビン酸及びその塩等が挙げられる。
上記脱酸素剤は、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
また、窒素置換式、膜式、真空式等の酸素除去装置と併用してもよい。
【0020】
(中和性アミン)
中和性アミンとしては、例えばモノエタノールアミン(MEA)、シクロへキシルアミン(CHA)、モルホリン(MOR)、ジエチルエタノールアミン(DEEA)、モノイソプロパノールアミン(MIPA)、3−メトキシプロピルアミン(MOPA)、2−アミノ−2−メチル−1−プロパノール(AMP)等を用いることができる。
上記中和性アミンは、一種単独で又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0021】
[水質の調整]
ボイラ給水のM−アルカリ度やシリカが不足する場合には、アルカリ剤及びケイ酸塩(Na2SiO2等)を、クエン酸及び/又はその塩とカルボキシ基を有する水溶性ホモポリマー及び/又はコポリマーと併せて添加することで、防食効果がさらに改善される。
アルカリ剤及びケイ酸塩の添加濃度は、M−アルカリ度が5mgCaCO3/L以上、かつシリカが5mgSiO2/L以上、好ましくはM−アルカリ度が10mgCaCO3/L以上、かつシリカが10mgSiO2/L以上、より好ましくはM−アルカリ度が15mgCaCO3/L以上、かつシリカが15mgSiO2/L以上となるように、薬注量を調節するのがよい。
【実施例】
【0022】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、これらの例によってなんら限定されるものではない。
【0023】
実施例1〜9及び比較例1〜8
(1)試験例1
下記の条件で、比較例1〜3、実施例1及び2について、試験用ボイラを運転し、24時間後にブロー水を25℃に冷却しながら採取し、電気伝導率を測定した。その後、試験用ボイラを停止し、テストチューブを取り出し、目視により錆こぶの有無を確認した。その結果を第1表に示す。
<試験条件>
・試験装置:試験用ボイラ(電気ヒータ式)
・給水種:合成水
・蒸発量:8L/h
・試験圧力:0.6MPa
・濃縮倍数N=8
・ボイラ給水pH:9.0又は10.0(25℃)となるようにNaOHを別途添加し、調整した。
・テストチューブ:炭素鋼製(外径30mm、長さ300mm、肉厚5mm、外面をエメリー紙#400研磨)、内側に電気ヒータを挿入し設置した。
《合成水の組成》
ベース :純水
NaHCO3 :CaCO3として40mg/L
HCl及びNaCl :Cl-として40mg/L
Na2SO4 :SO42-として40mg/L
Na2SiO3 :SiO2として30mg/L
【0024】
(2)試験例2
下記の条件で、比較例1及び2と実施例1について、小型貫流ボイラを、ボイラ水電気伝導率が300mS/mとなるように連続ブロー量を変化して運転させた。その際の給水量と連続ブロー量を測定し、濃縮倍数を算出した。比較例1及び2は濃縮倍数7.6倍、8.9倍、実施例1は9.8倍であった。
<試験条件>
・試験装置:小型貫流ボイラ
・給水種:軟水給水(野木市水を軟化、軟水水質;pH7.5、電気伝導率;21.4mS/m)
・蒸発量:250L/h
・試験圧力:0.6MPa
・ボイラ給水pH:実施例1及び比較例2は9.0(25℃)、比較例1は10.0(25℃)となるようにNaOHを別途添加し、調整した。
【0025】
(3)試験例3
図1に示す容量約1.2Lの蓋付き半密閉容器1内に、下記の試験液2を1L満たし、pH7.5又は9.0となるように調整したのち、支持棒3の両端に固定したテストピース[「SPCC−SB」、エメリー紙#400研磨]4を浸漬し、その後、容器を60℃に加温した湯浴に設置し、1分間に150回転させた。
46時間後にテストピースを取り出し、JIS K 100に準じてテストピースの後処理を行い、腐食速度を算出した。その結果を第2表に示す。
<試験液>
下記の合成水に、第2表に示す濃度となるように、薬剤を添加した液
《合成水の組成》
ベース :純水
NaHCO3 :CaCO3として40mg/L
HCl及びNaCl :Cl-として40mg/L
Na2SO4 :SO42-として40mg/L
Na2SiO3 :SiO2として30mg/L
【0026】
(4)試験例4
試験液のM−アルカリ度及びシリカ濃度を変えた以外は、試験例3と同様な条件で試験を実施した。その結果を第3表に示す。
【0027】
【表1】

【0028】
【表2】

【0029】
【表3】

【0030】
第1表の結果から、比較例1〜3よりも実施例1及び2の方が電気伝導率の上昇を抑制しながら、ボイラ缶内の腐食を抑制することが可能であることが分かる。
また、前記の試験例2の結果より、比較例1及び2は濃縮倍数が7.6倍、8.9倍であり、給水pHを10.0に上げた比較例1は特に不経済であった。これに対し、実施例1は濃縮倍数が9.8倍と高く、実施例1の方が高い濃縮を維持し、経済的に運転することが可能であることが分かる。
第2表の結果から、クエン酸と、ポリアクリル酸ナトリウムや、アクリル酸と2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸とのコポリマー(AA−AMPS)、イソブチレンとマレイン酸のコポリマーを併用し、pHが8.0〜9.5の範囲にあった実施例1〜9は、防食効果が高くなることが分かる。
第3表の結果より、M−アルカリ度が5mgCaCO3/L以上、かつシリカ濃度が5mgCaCO3/L以上において、クエン酸とポリアクリル酸ナトリウムの併用による防食効果が高まることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0031】
本発明の防食方法は、ボイラ水系におけるエコノマイザを含む給水系及びボイラ缶内の防食方法であって、給水配管、エコノマイザ及びボイラ缶内を効果的に防食することができる。
【符号の説明】
【0032】
1 蓋付き半密閉容器
2 試験液
3 支持棒
4 テストピース

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ボイラ給水のpHが8.0〜9.5の範囲において、ボイラ給水に、クエン酸及び/又はその塩を、クエン酸濃度として25〜75mg/Lになるように添加すると共に、カルボキシ基を有する水溶性ホモポリマー及び/又はコポリマーを添加することを特徴とする、ボイラ給水系及びボイラ缶内の防食方法。
【請求項2】
カルボキシ基を有する水溶性ホモポリマー及び/又はコポリマーが、アクリル酸、マレイン酸、2−アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸、3−アリロキシ−2−ヒドロキシプロパンスルホン酸及びそれらの塩の中から選ばれるモノマーを用いて得られたホモポリマー、コポリマー、及び該モノマーとイソブチレンとのコポリマーから選ばれる一種以上のポリマーである、請求項1に記載のボイラ給水系及びボイラ缶内の防食方法。
【請求項3】
ボイラ給水に、カルボキシ基を有する水溶性ホモポリマー及び/又はコポリマーを、その濃度が5〜50mg/Lになるように、かつクエン酸濃度との合計濃度が45mg/L以上になるように添加する、請求項1又は2に記載のボイラ給水系及びボイラ缶内の防食方法。
【請求項4】
カルボキシ基を有する水溶性のホモポリマー又はコポリマーの数平均分子量が200〜50,000である、請求項1〜3のいずれかに記載のボイラ給水系及びボイラ缶内の防食方法。

【図1】
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