説明

ボビンセット装置及びそれを備える糸巻取機

【課題】供給されるボビンがボビン保持部に衝突することを防止した構成のボビンセット装置を提供する。
【解決手段】ボビンセット装置は、ボビン把持部52と、経路調整板59と、を備える。揺動アーム58は、揺動軸111に取り付けられ、当該揺動軸111を中心軸として回転することにより揺動する。ボビン把持部52は、紡績糸を巻き付けるためのボビン48を把持し、当該ボビン48を目標位置としてのボビンホルダ72に供給可能である。経路調整板59は、ボビン48がボビン把持部52により前記目標位置に供給されるときの経路(ボビン供給経路)を調整可能である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、主として、糸を巻き付けるためのボビンを、目標位置でセットするボビンセット装置及びそれを備える糸巻取機に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から、紡績機による糸の巻取作業の開始時や、紡績機から満巻のパッケージを排出した後等に、糸が巻き付いていないボビンを紡績機のボビン保持部等に供給して、巻取作業の開始のための準備(バンチ巻き等)を行うボビンセット装置が知られている。特許文献1及び特許文献2は、この種のボビンセット装置を備えた紡績機を開示する。
【0003】
特許文献1の紡績機が備える玉揚台車は、ボビンを把持するチャッカ(ボビン把持部)を備えている。このチャッカをクレードルに向けて回動させることにより、ボビンをクレードルに供給することができる。クレードルに装着されたボビンは、回転する駆動ドラム(巻取ドラム)に接触することで回転し、これによって紡績機は糸を巻き取ってパッケージを形成する。
【0004】
特許文献2の紡績機が備える玉揚台車は、シャフトを中心軸として回動可能なアーム部材を備えている。このアーム部材の先端部には、糸を巻き付けるためのボビンを把持するチャック機構が設けられている。この構成により、チャック機構にボビンを把持させた状態でアーム部材を回動させることで、ボビンをクレードルに供給することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2005−219880号公報
【特許文献2】特開平9−100066号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところで、特許文献1の紡績機はチーズ形状のパッケージを形成している。特許文献1の紡績機においてコーン形状のパッケージを形成する場合、チーズ形状のパッケージを形成する場合と同じレイアウトのボビンセット装置を使用している。その結果、供給されるボビンとクレードルとが衝突し易い。以下、その理由について図5(a)を参照して説明する。
【0007】
即ち、巻取ドラムとパッケージとを偏りなく接触させて糸の巻取りを安定的に行うため、コーン形状のパッケージを形成するときは、チーズ形状のパッケージを形成するときに比べて、例えばクレードルの向きを変更する必要がある。しかし、このようにクレードルの向きを変更する一方で、チーズ形状のパッケージの場合と同様の経路でボビンをクレードルに供給すると、例えば図5(a)に示すように、供給されるときのボビン48と、ボビン保持部としてのボビンホルダ72と、の間隔が特に小さくなる場合がある。図5(a)の例では、1対のボビンホルダ72の間にボビン48が供給される過程で、当該ボビン48の大径側の端部が一方のボビンホルダ72に極めて近接している。
【0008】
1対のボビンホルダ72の間の距離は、紡績機のレイアウト上の都合で大きくできない場合も多い。そのため、パッケージの形状が変更されるにもかかわらず同じレイアウトのボビンセット装置を使う場合、ボビンとボビンホルダとの衝突を回避するために高い位置精度でのボビンの供給が要求されることとなり、ボビンセット装置のコストアップの原因となっていた。
【0009】
なお、特許文献1及び特許文献2では、ボビンセット装置における、上記の衝突を回避するための構成等について開示されていない。従って、従来の構成においてボビンとボビンホルダとの衝突を回避するためには、ボビンセット装置全体を交換して、ボビンを供給するときの経路を変更する必要があった。そのため、煩雑な交換作業が必要になったり、ボビンを把持する機構を複数備えることによってコストアップの原因となったりしていた。
【0010】
本発明は以上の事情に鑑みてされたものであり、その目的は、供給されるボビンが目標位置に衝突することを防止した構成のボビンセット装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段及び効果】
【0011】
本発明の解決しようとする課題は以上の如くであり、次にこの課題を解決するための手段とその効果を説明する。
【0012】
本発明の第1の観点によれば、以下の構成のボビンセット装置が提供される。即ち、このボビンセット装置は、ボビン把持部と、調整部と、を備える。前記ボビン把持部は、糸を巻き付けるためのボビンを把持し、当該ボビンを目標位置に供給可能である。前記調整部は、前記ボビンが前記ボビン把持部により前記目標位置に供給されるときの経路を調整可能である。
【0013】
これにより、ボビンセット装置は、供給するボビンの形状等に応じて、ボビンが適切な経路を通るように調整することができる。
【0014】
前記のボビンセット装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記調整部は、取付部材と、固定具と、を備える。前記取付部材は、前記ボビン把持部を支持する。前記固定具は、前記取付部材の少なくとも取付向きの変更を確定する。
【0015】
これにより、ボビンセット装置は、取付部材の取付向きを変更して、その変更を固定具によって確定させることにより、ボビンが適切な経路を通るように調整することができる。
【0016】
前記のボビンセット装置においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記取付部材には、複数の選択孔が形成される。前記固定具は、前記取付部材の少なくとも取付向きの変更を確定するために、前記選択孔に位置決めされる。
【0017】
これにより、ボビンセット装置は、巻取条件等に応じて選んだ適切な選択孔に固定具を差し込んで取付部材を固定するだけで、ボビンが通る経路を調整することができる。このように調整部を簡素な構成にできるので、ボビンセット装置の部品点数を削減することができる。
【0018】
本発明の第2の観点によれば、以下の構成の糸巻取機が提供される。即ち、この糸巻取機は、前記のボビンセット装置と、巻取ユニットと、を備える。前記巻取ユニットは、前記ボビンセット装置から供給された前記ボビンを保持するボビン保持部を有する。
【0019】
これにより、糸巻取機は、供給するボビンの形状等に応じてボビンが適切な経路を通るようにボビンセット装置を調整して、ボビンとボビン保持部との衝突を減らすことができる。
【0020】
前記の糸巻取機においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記ボビンセット装置は、前記ボビン把持部を前記目標位置まで揺動させる揺動軸を備える。前記ボビン保持部は、前記ボビンの軸方向の両端部を保持する2つの保持機構を備える。当該2つの保持機構の保持中心を接続する直線を保持線としたときに、前記揺動軸の軸線が前記保持線に対して平行になるように、前記調整部は前記揺動軸の向きを調整可能である。
【0021】
即ち、保持線と揺動軸の軸線とが平行でないと、供給されるボビンがボビン保持部に衝突し易くなる。この点、上記の構成にすることにより、ボビンセット装置は、ボビン保持部の保持機構同士の間隔を有効に活用して(必要以上に間隔を広げたレイアウトにすることなく)ボビンを供給できる。従って、糸巻取機をコンパクトにすることができる。
【0022】
前記の糸巻取機においては、前記ボビンセット装置は、前記ボビン保持部を操作して、前記ボビンを前記ボビン保持部から取り外す操作部を備えることが好ましい。
【0023】
即ち、パッケージの取外し等の玉揚作業を行うときには、新たなパッケージを形成するために新たなボビンを供給する作業が必要になることが多い。この点、上記の構成では、双方の作業をボビンセット装置のみで行うことができるため、糸巻取機全体の構成をコンパクトにすることができる。
【0024】
前記の糸巻取機においては、前記ボビン把持部による前記ボビンの供給作業と、前記操作部による取外し作業と、を独立して実行可能であることが好ましい。
【0025】
これにより、糸巻取機は、玉揚作業とボビンの供給作業とを独立して行うことができる。例えば、あるパッケージが満巻きになったが、続けて新たなパッケージを形成する必要がないときに、不必要なボビンの供給作業が行われることを防止できる。従って、ボビンセット装置の作業時間を短縮して次の作業を素早く開始できるので、糸巻取機の巻取効率を向上させることが可能になる。
【0026】
前記の糸巻取機においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、この糸巻取機は、前記ボビン把持部により前記ボビン保持部に供給される前記ボビンに対して糸を捕捉して案内する糸捕捉案内装置を備える。糸巻取機は、前記ボビン把持部による前記ボビンの供給作業と、前記操作部による取外し作業と、前記糸捕捉案内装置による糸捕捉案内作業は、独立して実行可能である。
【0027】
これにより、糸巻取機は、様々な状況に応じて、不必要な動作を省略することが可能となる。従って、ボビンセット装置は、作業時間を短縮して次の作業を素早く開始できるので、糸巻取機の巻取効率を向上させることが可能になる。
【0028】
前記の糸巻取機においては、以下の構成とすることが好ましい。即ち、前記巻取ユニットは、一定方向に並べて配置される。前記ボビンセット装置は、前記巻取ユニットが並べられる方向に沿って走行可能である。
【0029】
これにより、巻取ユニット毎にボビンセット装置を設置する構成に比べて、ボビンセット装置の設置台数を減らしてコストを削減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【図1】本発明の一実施形態に係る精紡機の全体的な構成を示した正面図。
【図2】精紡機の縦断面図。
【図3】ボビン供給時のボビン供給部の構成を示した斜視図。
【図4】ボビン供給時のボビン供給部の構成を示した平面図。
【図5】従来のボビン供給時経路と本実施形態のボビン供給時経路とを比較する図。
【図6】満巻のパッケージの玉揚作業を行いつつ、サクションパイプによって紡績糸を捕捉している様子を示す縦断面図。
【図7】サクションパイプが紡績糸を吸引したまま所定位置まで移動して待機する様子を示す縦断面図。
【図8】ボビンがクレードルに供給された瞬間の様子を示す縦断面図。
【図9】クレードル操作アームを移動させる構成を説明する縦断面図。
【図10】サクションパイプを移動させる構成を説明する縦断面図。
【発明を実施するための形態】
【0031】
次に、本発明の一実施形態に係る精紡機(糸巻取機)について、図面を参照して説明する。なお、本明細書において「上流」及び「下流」とは、紡績時での糸の走行方向における上流及び下流を意味するものとする。図1は精紡機1の全体的な構成を示した正面図、図2は精紡機1の縦断面図である。
【0032】
図1に示す糸巻取機としての精紡機1は、並べて配置された多数の紡績ユニット(巻取ユニット)2を備えている。この精紡機1は、糸継台車3と、玉揚台車4と、ブロアボックス93と、原動機ボックス5と、を備えている。
【0033】
図1に示すように、各紡績ユニット2は、上流から下流へ向かって順に、ドラフト装置7と、紡績装置9と、糸貯留装置12と、巻取装置13と、を主要な構成として備えている。ドラフト装置7は精紡機1が備えるフレーム6の上端近傍に設けられている。このドラフト装置7から送られてくる繊維束8は、を紡績装置9で紡績される。紡績装置9から送出された紡績糸10は、後述のヤーンクリアラ49を通過した後、糸貯留装置12を更に通過する。そして、巻取装置13によって紡績糸10がボビン48に巻き取られることにより、パッケージ45が形成される。
【0034】
ドラフト装置7は、スライバ15を延伸して繊維束8にするためのものである。このドラフト装置7は図2に示すように、バックローラ16、サードローラ17、エプロンベルト18が装着されたミドルローラ19、及びフロントローラ20の4つのローラを備えている。
【0035】
紡績装置9の詳細な構成は図示しないが、本実施形態では、旋回気流を利用して繊維束8に撚りを与え、紡績糸10を生成する空気式のものを採用している。
【0036】
紡績装置9の下流には、糸貯留装置12が設けられている。この糸貯留装置12は、紡績糸10に所定の張力を与えて紡績装置9から引き出す機能と、糸継台車3による糸継時などに紡績装置9から送出される紡績糸10を滞留させて糸の弛みを防止する機能と、巻取装置13側の糸張力の変動が紡績装置9側に伝わらないように糸張力を調節する機能と、を有している。図2に示すように、糸貯留装置12は、糸貯留ローラ21と、糸係合部材22と、上流側ガイド23と、電動モータ25と、を備えている。
【0037】
糸係合部材22は、紡績糸10に係合する(引っ掛ける)ことが可能に構成されており、紡績糸10に係合した状態で糸貯留ローラ21と一体的に回転することで、当該糸貯留ローラ21の外周面に紡績糸10を案内できるように構成されている。
【0038】
糸貯留ローラ21は、その外周面に紡績糸10を巻き付けて貯留できるように構成されている。糸貯留ローラ21は、電動モータ25によって一定の回転速度で回転駆動される。
【0039】
なお、糸係合部材22は糸貯留ローラ21に対して相対回転可能に支持されているとともに、例えば磁気的手段等からなるトルク発生手段により、糸係合部材22が糸貯留ローラ21に対し相対回転するのに抗するトルク(抵抗トルク)が発生するように構成されている。この構成で、糸係合部材22が紡績糸10と係合している場合、紡績糸10に掛かる張力がこの抵抗トルクに打ち勝つほどに強ければ、糸係合部材22は糸貯留ローラ21と独立に回転して、紡績糸10を前記糸貯留ローラ21から解舒する。反対に、紡績糸10に掛かる張力が抵抗トルクよりも弱ければ、糸係合部材22は糸貯留ローラ21と一体的に回転し、紡績糸10を前記糸貯留ローラ21に巻き付ける。
【0040】
このように、糸貯留装置12は、紡績糸10の張力が下がる(紡績糸10が弛みそうになる)と当該紡績糸10を巻き付け、紡績糸10の張力が上がると当該紡績糸10を解舒するように動作することで、紡績糸10の弛みを解消して適切な張力を付与することができる。また、上記のように糸貯留装置12と巻取装置13と間の紡績糸10に掛かる張力の変動を吸収するように糸係合部材22が働くことで、当該張力の変動が、紡績装置9から糸貯留装置12までの間の紡績糸10に影響を及ぼすことを防止できる。これにより、糸貯留装置12は、紡績装置9から紡績糸10をより安定した速度で糸貯留装置12によって引き出すことができる。
【0041】
上流側ガイド23は、糸貯留ローラ21のやや上流側に配置されている。この上流側ガイド23は、糸貯留ローラ21の外周面に対して紡績糸10を適切に案内する案内部材として構成されている。更に、上流側ガイド23は、紡績装置9から伝播してくる紡績糸10の撚りが当該上流側ガイド23よりも下流側に伝わることを防止する撚り止めの役割を兼ねている。
【0042】
精紡機1のフレーム6の前面側であって前記紡績装置9と前記糸貯留装置12との間の位置には、ヤーンクリアラ49が設けられている。紡績装置9で紡出された紡績糸10は、糸貯留装置12で巻き取られる前に前記ヤーンクリアラ49を通過するようになっている。ヤーンクリアラ49は走行する紡績糸10の太さを監視し、紡績糸10の糸欠点を検出した場合に、図示しないユニットコントローラに対して、糸欠点検出信号を送信するように構成されている。なお、ヤーンクリアラ49は、紡績糸10の太さ異常に加えて、紡績糸10に含まれる異物の有無を検出するように構成されていても良い。
【0043】
ユニットコントローラは、ヤーンクリアラ49から糸欠点検出信号を受信すると、直ちに巻取装置13を駆動させたままドラフト装置7を停止させることにより紡績糸10を切断し、更にドラフト装置7や紡績装置9等を停止させる。また、ユニットコントローラは糸継台車3に制御信号を送り、当該紡績ユニット2の前まで走行させる。その後、ユニットコントローラは、紡績装置9等を再び駆動し、前記糸継台車3に糸継ぎを行わせて巻取りを再開させるようになっている。糸貯留装置12は、紡績装置9が紡績を再開してから巻取りが再開されるまでの間、紡績装置9から連続的に送出される紡績糸10を糸貯留ローラ21に滞留させて紡績糸10の弛みを取るように構成されている。
【0044】
糸継台車3は、図1及び図2に示すように、スプライサ(糸継装置)43と、サクションパイプ44と、サクションマウス46と、走行輪42と、を備えている。糸継台車3は、ある紡績ユニット2で糸切れや糸切断が発生すると、走行輪42を駆動して、前記フレーム6に固定された走行レーン41上を走行する。そして、糸継台車3は、糸切れや糸切断が発生した紡績ユニット2の前で停止して糸継ぎを行うように構成されている。
【0045】
前記サクションパイプ44は、軸を中心に上下方向に回動可能であり、紡績装置9から送出される糸端(上糸)を吸い込みつつ捕捉して、スプライサ43へ案内できるように構成されている。サクションマウス46は、軸を中心に上下方向に回動可能であり、前記巻取装置13に支持されたパッケージ45から糸端(下糸)を吸引しつつ捕捉して、スプライサ43へ案内できるように構成されている。スプライサ43の詳細な構成については省略するが、旋回空気流によって糸端同士を撚り合わせることにより、上糸と下糸とを糸継ぎするように構成されている。
【0046】
巻取装置13は、クレードル70を備えている。このクレードル70は、支軸73と、この支軸73を中心として回動可能なクレードルアーム71と、ボビン48の両端部を保持可能な一対のボビンホルダ(ボビン保持部)72と、を備える。
【0047】
前記巻取装置13は、巻取ドラム74と、紡績糸10に係合可能なトラバースガイド76と、を備えている。巻取ドラム74は、前記ボビン48やそれに紡績糸10を巻き付けて形成されるパッケージ45の外周面に接触して駆動できるように構成されている。巻取装置13は、巻取ドラム74を図略の電動モータによって駆動することで、巻取ドラム74に接触するパッケージ45を回転させ、図略の駆動手段によってトラバースガイド76を往復動させながら、紡績糸10を綾振りしつつ巻き取るようになっている。
【0048】
なお、クレードルアーム71には図略のバネが取り付けられており、このバネは、起立方向の付勢力を常時クレードルアーム71に加えている。従って、ボビン48に紡績糸10が巻かれてパッケージ45が巻き太るに従って、クレードルアーム71は、装置正面側に倒れ、パッケージ45の軸の位置が前方へ移動する。なお、クレードルアーム71には図示しない駆動部(例えば、シリンダ)が連結されており、ユニットコントローラの指令によって、クレードルアーム71を巻取ドラム74から離れる方向及び巻取ドラム74に近づく方向に積極的に回動させるように制御することもできるようになっている。
【0049】
本実施形態の精紡機1は、クレードル70を構成する部品の一部を交換することで、チーズ形状のパッケージを形成することも、コーン形状のパッケージを形成することもできるようになっている。なお、チーズ形状、コーン形状の何れのパッケージを形成する場合でも、巻取ドラム74は共通のものが用いられる。
【0050】
チーズ形状のパッケージを形成する場合、チーズ用のボビンは、その軸線が巻取ドラム74の軸線と平行になるようにクレードル70によって支持される。コーン形状のパッケージ45を形成する場合、その円錐状の外周面に巻取ドラム74を安定して接触させるために、コーン用のボビン48は、その軸線が巻取ドラム74の軸線に対して若干傾くようにしてクレードル70に支持される。従って、チーズ形状のパッケージを形成する場合と、コーン形状のパッケージを形成する場合とで、ボビンホルダ72の位置が異なることになる。なお、コーン形状のパッケージはテーパ角が異なる複数種類が存在するが、ボビン48は、そのテーパ角に応じた向きでクレードル70に支持される。
【0051】
玉揚台車4は、図1及び図2に示すように、ボビンセット装置60を備える。このボビンセット装置60は、ボビンセット作業と玉揚作業とを行うことが可能に構成されている。ボビンセット作業とは、クレードル70にボビン48を供給して紡績糸10の巻取りの準備を行う作業である。玉揚作業とは、満巻になったパッケージ45をクレードル70から取り外す作業である。玉揚台車4は、その下部に走行輪92を備えている。玉揚台車4は、ある紡績ユニット2に対してボビンセット作業又は玉揚作業を行う旨の指示を受けると、前記フレーム6に形成された走行路91上を当該紡績ユニット2まで走行する。そして、玉揚台車4は、指示を受けた紡績ユニット2の前で停止し、ボビンセット作業又は玉揚作業(又はその両方の作業)を行うように構成されている。
【0052】
ボビンセット装置60は、上記ボビンセット作業を行うための構成として、ボビン供給部50と、サクションパイプ(糸捕捉案内装置)88と、クレードル操作アーム(操作部)89と、を備えている。
【0053】
サクションパイプ88は、回動可能かつ伸縮可能に構成されており、紡績装置9から排出される紡績糸10を吸引することで捕捉して、この補捉した紡績糸10を巻取装置13まで案内するためのものである。なお、このサクションパイプ88を移動させるための構成は後述する。
【0054】
ボビン供給部50は、揺動軸111を中心として回動可能に構成されるとともに、ボビン把持部52によってボビン48を把持可能に構成されている。この構成により、ボビン48をボビン把持部52に把持させた状態でボビン供給部50を回動させて、当該ボビン48を、クレードル70が備える1対のボビンホルダ72の間の位置(目標位置)に供給することができる。また、ボビン供給部50は、バンチ巻きを行うためのバンチ巻きローラ53を備えている。ここでバンチ巻きとは、1つのパッケージを巻き始めるときに紡績糸10をボビン48に固定するために、ボビン48の周囲に紡績糸10を棒巻きすることをいう。なお、このボビン供給部50の詳細な構成は後述する。
【0055】
クレードル操作アーム89は、一方のボビンホルダ72を他方のボビンホルダ72から離間させるように、クレードルアーム71を操作することができる(離間作業)。なお、上述のようにクレードルアーム71は、ボビン48に紡績糸10が巻かれてパッケージ45が巻き太るに従ってその姿勢が変化する。この点、クレードル操作アーム89は、後述の移動機構等によってその位置を変更することが可能になっているので、満巻のパッケージ45をクレードル70から取り外す玉揚作業時(図6)においても、ボビンセット作業時(図7)においても、上記の離間作業を行うことができる。
【0056】
ボビンセット装置60は、玉揚作業を行うための構成として、前記クレードル操作アーム89のほか、図2に示す案内部61を備えている。この案内部61は、クレードル70から受け取った満巻のパッケージ45を、傾斜部81を経由して載置部82まで案内するためのものである。この案内部61は、主要な構成として、案内板69と、ボビン案内用シリンダ62と、ローラ部材67と、を備える。案内部61は、回転軸101を中心として回動可能に構成される。
【0057】
案内板69は、板状の接触部材と、板状の規制部材と、から構成されている。接触部材は、クレードル70から受け取った満巻のパッケージ45の外周面に接触しながら案内を行う。規制部材は、接触部材と、当該パッケージ45の軸方向の位置を規制してパッケージ45が接触部材から落下するのを防止する。
【0058】
ボビン案内用シリンダ62は、シリンダを伸縮させることにより作用軸104に力を加え、回転軸103を中心として案内板69を上下に回動させることができる。この構成により、案内部61は、パッケージ45の案内時における案内板69の位置を調整したり、糸の巻取りが終了した後にパッケージ45の慣性回転を停止させたりすることができる。
【0059】
ローラ部材67は、傾斜部81に沿ってパッケージ45を案内するときに、当該傾斜部81上で回転することができるように構成されている。この構成により、案内部61は、パッケージ45の案内をスムーズに行うことができる。
【0060】
次に、図3及び図4を参照して、ボビン供給部50について詳細に説明する。図3は、クレードル70にボビン48を供給する時におけるボビン供給部50の構成を示した斜視図である。図4は、ボビン48の供給時におけるボビン供給部50の構成を示した平面図である。
【0061】
図3及び図4に示すように、ボビン供給部50は、前述のボビン把持部52及びバンチ巻きローラ53に加え、固定アーム57と、経路調整板(取付部材)59と、揺動アーム58と、ボビン供給用シリンダ56と、バンチ巻きモータ54と、把持部駆動シリンダ55と、を備える。
【0062】
ボビン供給部50は、前述のように揺動軸111を中心に回動可能に構成されており、この揺動軸111には、ねじりバネ112が取り付けられている。このねじりバネ112は、ボビン48の供給動作を行うときに揺動アーム58が回動する方向と逆の方向(ボビン把持部52を玉揚台車に近づける方向)に、当該揺動アーム58を付勢している。
【0063】
ボビン供給用シリンダ56は、ボビンセット装置60の指令に基づいて伸縮可能なシリンダである。このボビン供給用シリンダ56の一端は固定アーム57の根元側に取り付けられている。ボビン供給用シリンダ56の他端には、揺動軸111を中心に回動可能な揺動アーム58が回動可能に取り付けられている。
【0064】
この構成により、ねじりバネ112の付勢力に打ち勝つようにボビン供給用シリンダ56を伸ばすことで、揺動軸111を中心に揺動アーム58を回動させて、ボビン48をクレードル70に供給することができる。なお、一対のボビンホルダ72は、図4に示すように、一対の(2つの)保持機構72aでボビン48の軸方向の両端部を保持できるように構成される。以下の説明では、保持機構72aの中心である保持中心72b同士を結ぶ直線を保持線L1と称する。この保持線L1は、一対のボビンホルダ72に保持された状態のボビン48の回転軸線と言い換えることもできる。また、揺動軸111の中心を通るように引いた直線を揺動軸線L2と称する。
【0065】
ボビン供給部50は、経路調整板59と固定具とで構成される調整部を備えている。経路調整板59に形成された選択孔115にボルト等の固定具を差し込むことで、ボビン供給部50は、玉揚台車4の適当な部材に固定されている。なお、経路調整板59には数個程度の選択孔115が形成されており、固定に用いる選択孔115を変更することにより、経路調整板59の位置及び向き(ひいては、揺動軸111の位置及び向き)を調整することができる。本実施形態では、図4に示すように、保持線L1と揺動軸線L2とが平行になるように、揺動軸111の向きが調整されている。
【0066】
上記のように揺動軸111の位置及び向きを調整することにより、揺動アーム58の先端部が描く軌跡が変更される。これにより、ボビンセット装置60は、ボビン48をボビンホルダ72に供給するときの当該ボビン48の経路を変えることができる。なお、以下の説明では、この経路を「ボビン供給経路」と称することがある。
【0067】
バンチ巻きモータ54は、前述のバンチ巻きローラ53を回転させるための駆動力を発生させるためのものである。このバンチ巻きモータ54が発生させた駆動力は、図略の伝達機構(例えばベルトとプーリ)によって、バンチ巻きローラ53に伝達される。
【0068】
なお、バンチ巻きを行うときは、ボビン48にバンチ巻きローラ53を接触させる必要がある。この点を考慮し、ボビン供給部50は、ボビン48に接触させるようにバンチ巻きローラ53を移動させることが可能な移動機構(具体的には、後述の把持部駆動シリンダ55)を備えている。
【0069】
前述のボビン把持部52は、固定把持部113と可動把持部114とで構成されている。可動把持部114は把持部駆動シリンダ55と連結されている。把持部駆動シリンダ55の動作によって、当該可動把持部114を固定把持部113に近づけたり固定把持部113から離したりすることができる。この構成により、ボビン把持部52によるボビン48の把持及び当該把持の解除を行うことができる。
【0070】
本実施形態では、バンチ巻きローラ53をボビン48に接触させた状態と、ボビン48から離間させた状態とを、把持部駆動シリンダ55によって切り換えることができるようになっている。ボビン把持部52の動作とバンチ巻きローラ53の動作とは連動するように構成されている。具体的には、ボビン把持部52によるボビン48の把持を行うときは、同時にバンチ巻きローラ53をボビン48から離間させる。ボビン把持部52によるボビン48の把持を解除すると、同時にバンチ巻きローラ53をボビン48に接触させる。
【0071】
次に、図5を参照して、従来のボビン供給経路と、本実施形態におけるボビン供給経路とを比較して説明する。図5は、従来のボビン供給経路と本実施形態のボビン供給経路とを比較する図である。
【0072】
従来技術において説明したように、従来では、ボビン48の供給時においてボビン48とボビンホルダ72との衝突が発生し易かった(図5(a)を参照)。この点、本実施形態のボビン供給部50は図5(b)に示すように、保持線L1と揺動軸線L2とが平行になるように調整が行われたものとなっている。従って、ボビン48が供給される過程において、当該ボビン48の中心軸と保持線L1との平行関係を維持することができる。また、保持線L1と垂直に交わる平面に沿う円弧状の経路に沿ってボビン48を供給することができる。
【0073】
これにより、ボビン供給部50は、1対のボビンホルダ72の間に、ボビン48を相対的に真っ直ぐな姿勢で収まり良く差し込むようにして供給することができる。従って、通常はあまり大きくできないボビンホルダ72間の空間を有効に活用して、供給されるボビン48とボビンホルダ72との衝突が発生しにくくできる。なお、精紡機1では、限られた設置スペースに多数の紡績ユニット2を設置しているため、隣接する紡績ユニット2のボビンホルダ72間の空間を大きくすることができない。
【0074】
ここで、本実施形態の精紡機1は上述のように、クレードル70の構成の一部を交換することで、チーズ形状のパッケージも、テーパ角の異なる複数種類のコーン形状のパッケージ45も形成することができる。これは、形成するパッケージの形状に応じて、ボビンホルダ72の位置、ひいては保持線L1の向きが変化することを意味する。この点、本実施形態のボビンセット装置60では、どの形状のパッケージを形成する場合でも、対応する選択孔115を使用して経路調整板59を取り付けることで、揺動軸線L2を保持線L1に対して平行に位置させることができるようになっている。従って、ボビンセット装置60は、様々な状況でボビン48をクレードル70に円滑に供給できる汎用性の高い装置として構成される。
【0075】
次に、図6から図8までを参照して、ボビンセット装置60が玉揚作業及びボビンセット作業を行うときの流れについて説明する。初めに図6を参照して、玉揚作業について説明する。図は、満巻のパッケージ45の玉揚作業を行いつつ、サクションパイプ88によって紡績糸10を捕捉している様子を示す縦断面図である。
【0076】
ある紡績ユニット2のパッケージ45が満巻となったことが図略のセンサによって検知されると、ユニットコントローラは紡績装置9を停止させるとともに、玉揚台車4を当該紡績ユニット2まで呼び寄せる。それとほぼ同時に、ユニットコントローラは、巻取装置13においてクレードルアーム71を図2の左側(装置正面側)へ回動することにより巻取ドラム74から満巻のパッケージ45を離し、パッケージ45の回転を停止させるように制御する。
【0077】
パッケージ45は、巻取ドラム74から離間した後においても慣性によって回転を続けている。ボビンセット装置60は、案内部61のボビン案内用シリンダ62を伸ばすことにより、案内板69を上方に回動させてパッケージ45に接触させる。これにより、パッケージ45の慣性回転を停止させることができる。
【0078】
ボビンセット装置60は、パッケージ45の慣性回転が完全に停止するまでに、クレードル操作アーム89を図6に示す位置に移動させておく。パッケージ45の慣性回転が完全に停止すると、ボビンセット装置60は、一方のボビンホルダ72を他方のボビンホルダ72から離間させるようにクレードルアーム71をクレードル操作アーム89により操作して、満巻のパッケージ45をクレードル70から取り外す。
【0079】
取り外された満巻のパッケージ45は、案内部61の案内板69(詳細には接触部材)によって当該パッケージ45の重さが支持されながら、傾斜部81に案内される。案内部61は、パッケージ45と接触した状態を維持しつつ、当該パッケージ45を傾斜部81に沿って転がして移動する。なお、このとき、案内部61のローラ部材67は、傾斜部81上を転がっている。その後、パッケージ45は、載置部82まで案内される。
【0080】
本実施形態において、載置部82はコンベアとしての機能を有しており、紡績ユニット2が並べられる方向に沿ってパッケージ45が搬送されて、次工程へ自動的に送られるようになっている。ただし、載置部82がコンベア機能を有しないように構成して、載置部82上のパッケージ45が作業員によって手作業で回収されるようにしても良い。以上のようにして玉揚作業が行われる。
【0081】
次に、図6から図8までを参照して、ボビンセット作業について説明する。図7は、サクションパイプ88が紡績糸10を吸引したまま所定位置まで移動して待機する様子を示す縦断面図である。図8は、ボビン48がクレードル70に供給された瞬間の様子を示す縦断面図である。
【0082】
紡績ユニット2のユニットコントローラは、呼び寄せに応じて玉揚台車4が当該紡績ユニット2の前まで来ると、ドラフト装置7及び紡績装置9の駆動を再開する。これとほぼ同時に、サクションパイプ88が上方に延伸される(図6を参照)。サクションパイプ88は、紡績装置9から排出される紡績糸10の糸端を吸い込むことにより補捉する。
【0083】
ボビンセット装置60は、紡績糸10を吸い込んでいる状態のまま、サクションパイプ88を下方へ移動させる。このとき、ユニットコントローラは、サクションパイプ88が吸引している紡績糸10を糸貯留装置12に巻き付かせるように制御を行う。なお、このときのサクションパイプ88の吸引力は小さく、糸貯留装置12の前記抵抗トルクに打ち勝つことがないため、図7に示すように、紡績糸10は糸貯留装置12に貯留されていく。
【0084】
ボビンセット装置60は、サクションパイプ88を下方へ移動させた後に、所定位置で待機させ続ける(図6を参照)。ボビンセット装置60は、このサクションパイプ88の移動の前後において、クレードル操作アーム89をクレードル70の操作が行える位置に移動させておき、ボビン48の供給が行われるまでに、一方のボビンホルダ72を他方のボビンホルダ72から離間させるようにクレードルアーム71を操作しておく。
【0085】
次に、ボビンセット装置60は、玉揚台車4の上部にストックされているボビン48をボビン供給部50(ボビン把持部52)で把持した後、前述のボビン供給用シリンダ56を伸ばして揺動アーム58を回動させる。これにより、ボビンセット装置60は、玉揚台車4側からボビン供給部50を進出させてクレードル70へのボビン48の供給を行う。ボビンセット装置60は、ボビン供給部50が備える適宜の糸案内機構(図略)を動作させて、サクションパイプ88に捕捉されている紡績糸10を、ボビン48の軸方向の端部とボビンホルダ72との間に配置する。この状態で、クレードル操作アーム89が、一方のボビンホルダ72を他方のボビンホルダ72に近づけるようにクレードルアーム71を操作する。これにより、紡績糸10がボビン48の端部とボビンホルダ72との間に挟まれて固定される。
【0086】
次に、ボビンセット装置60は、把持部駆動シリンダ55を動作させて、ボビン把持部52によるボビン48の把持を解除するとともに、バンチ巻きローラ53をボビン48に接触させて、バンチ巻きを行う。なお、上述のようにこのボビン把持部52の動作とバンチ巻きローラ53の動作は連動しているため、ボビンセット装置60の機構を単純にすることができる。
【0087】
バンチ巻きが完了すると、ボビン供給用シリンダ56が縮められることにより、ボビン供給部50が玉揚台車4側へ退避する。その前後において、ユニットコントローラは、ボビン48が巻取ドラム74に接触するように(装置背面側に)、クレードル70を回動させる。これにより紡績糸10に巻取張力が付与され、糸貯留ローラ21から徐々に紡績糸10が解舒されて、巻取装置13によるパッケージ45の巻取りが開始される。
【0088】
次に、クレードル操作アーム89及びサクションパイプ88を上記のように移動させる構成について説明する。初めに、図9を参照して、クレードル操作アーム89について説明する。図9は、クレードル操作アーム89を移動させる構成を説明する縦断面図である。
【0089】
図9に示すように、ボビンセット装置60は、クレードル操作アーム89の位置を変えるための駆動機構30を備えている。この駆動機構30は、供給する空気圧を変化させることにより伸縮する第1駆動シリンダ31及び第2駆動シリンダ32を備える。また、駆動機構30は、互いに連結された第1リンク部材36と、第2リンク部材37と、第3リンク部材38と、を備えている。
【0090】
図9(a)には、待機位置におけるクレードル操作アーム89が示されている。この図9(a)の状態から第1駆動シリンダ31を伸ばすことにより、第1リンク部材36を回転させると、当該第1リンク部材36に第2リンク部材37を介して連結されている第3リンク部材38が回転する。この結果、当該第3リンク部材38に支持されているクレードル操作アーム89を下方に位置させることができる(図9(b)を参照)。この図9(b)に示す位置にあるクレードル操作アーム89は、図7に示すように、ボビン48が供給されるときのクレードルアーム71を操作することができる。
【0091】
この状態から第2駆動シリンダ32を伸ばすことにより、クレードル操作アーム89を第3リンク部材38に対して回転させ、更に下方に位置させることができる(図9(c)を参照)。この図9(c)に示す位置にあるクレードル操作アーム89は、図6に示すように、パッケージ45が満巻となったときに、クレードルアーム71からパッケージ45を取り外すことができる。
【0092】
次に、サクションパイプ88の位置を変えるための構成について、図10を参照して説明する。図10は、サクションパイプ88を移動させる構成を説明する縦断面図である。
【0093】
図10に示すように、ボビンセット装置60は、クレードル操作アーム89の位置を変えるための構成として、連結アーム123と、供給する空気圧を変化させることにより伸縮するサクションシリンダ124と、を備えている。
【0094】
連結アーム123は、玉揚台車4の適宜の位置に配置された回動支点121を介して、回動可能に支持されている。この連結アーム123には、連結アーム123を駆動するための、例えばモータとカムからなる駆動機構が連結されている。連結アーム123の先端側には、回動支点122を介して、サクションシリンダ124及びサクションパイプ88が回動可能に取り付けられている。
【0095】
サクションパイプ88は、例えば2重の筒状に形成されることによって伸縮可能に構成されている。サクションパイプ88の先端にはサクションシリンダ124が接続されている。サクションシリンダ124に供給する空気圧を変更することにより、サクションパイプ88を伸縮させることができる。
【0096】
図10(a)には、待機位置におけるサクションパイプ88が示されている。この状態から、連結アーム123を巻取装置13側に回動させつつ、サクションシリンダ124を伸ばすことにより、サクションパイプ88を、紡績装置9から送出される紡績糸10を捕捉できる位置に移動させることができる(図10(b)及び図6を参照)。この状態から、回動支点122を中心にクレードル操作アーム89及びサクションシリンダ124を回動させることにより、捕捉した紡績糸10を下方に案内することができる(図10(b)及び図7を参照)。
【0097】
なお、クレードル操作アーム89の駆動機構30においては、第1駆動シリンダ31及び第2駆動シリンダ32を駆動させることで、当該クレードル操作アーム89を単独で動作させることができる。サクションパイプ88についても、駆動機構及びサクションシリンダ124を駆動させることで、サクションパイプ88を単独で(他の部材の移動を伴わせることなく)必要な位置に移動させることができる。
【0098】
このように、本実施形態の構成では、従来では相互に連動していたボビン供給部50、クレードル操作アーム89、及びサクションパイプ88を、別個に(独立して)移動させることが可能となる。従って、例えば、満巻きとなったパッケージ45を取り外したいが新しいボビン48の供給は必要ないといった状況において、ボビン供給部50及びサクションパイプ88の動作は停止させたままクレードル操作アーム89だけを動かすことが可能になる。この結果、ボビンセット装置60は、不要な動作を省略してサイクルタイムの短縮を実現できる。
【0099】
以上に説明したように、本実施形態のボビンセット装置60は、ボビン把持部52と、経路調整板59と、を備える。ボビン把持部52は、紡績糸10を巻き付けるためのボビン48を把持し、当該ボビン48を目標位置としてのボビンホルダ72(詳細には、1対のボビンホルダ72の間の位置)に供給可能である。経路調整板59は、ボビン48がボビン把持部52によりボビンホルダ72に供給されるときの経路(ボビン供給経路)を調整可能である。
【0100】
これにより、ボビンセット装置60は、供給するボビン48の形状等に応じて、ボビン48が適切な経路を通るように調整することができる。この調整を行うことにより、ボビンセット装置60がボビン48をボビンホルダ72に供給するときに、ボビン48がボビンホルダ72と衝突することを防止できる。
【0101】
また、本実施形態のボビンセット装置60において、調整部は、経路調整板59と固定具とを備える。経路調整板59は、ボビン把持部52を支持する。固定具は、経路調整板59の少なくとも取付向きの変更を確定する。
【0102】
これにより、ボビンセット装置60は、経路調整板59の取付向きを変更して、その変更を固定具によって確定させることにより、ボビン48が適切な経路を通るように調整することができる。
【0103】
また、本実施形態のボビンセット装置60において、経路調整板59には、複数の選択孔115が形成される。固定具は、経路調整板59の少なくとも取付向きの変更を確定するために選択孔115に位置決めされる。
【0104】
これにより、ボビンセット装置60は、巻取条件等に応じて選んだ適切な選択孔115に固定具を差し込んで経路調整板59を固定するだけで、ボビン48の供給時に当該ボビン48が通る経路を調整することができる。このようにボビン供給経路を調整する調整部を簡素な構成にできるので、ボビンセット装置60の部品点数を削減することができる。
【0105】
また、本実施形態の精紡機1は、ボビンセット装置60と、紡績ユニット2と、を備える。紡績ユニット2は、ボビンセット装置60から供給されたボビン48を保持する一対のボビンホルダ72を有する。
【0106】
これにより、精紡機1は、ボビン48の供給経路を調整して、ボビン48とボビンホルダ72との衝突を防止することができる。
【0107】
また、本実施形態の精紡機1においては、一対のボビンホルダ72は、ボビン48の軸方向の両端部を保持する一対の保持機構72aを備える。この保持機構72aの中心である保持中心72b同士を接続する線を保持線L1としたときに、経路調整板59は、揺動軸111の揺動軸線L2が保持線L1に対して平行になるように、当該揺動軸111の向きを調整可能である。
【0108】
即ち、保持線と揺動軸111とが平行でないと、供給されるボビン48がボビンホルダ72に衝突し易くなる。この点、上記の構成にすることにより、ボビンホルダ72の保持機構72a同士の間隔を必要以上に広げたレイアウトにすることなく、ボビンセット装置60は、ボビン48を円滑に供給できる。従って、精紡機1をコンパクトにすることができる。
【0109】
また、本実施形態の精紡機1において、ボビンセット装置60は、クレードル70を操作して、クレードル70のボビンホルダ72からボビン48を取り外すクレードル操作アーム89を備える。
【0110】
即ち、パッケージ45の取外し等の玉揚作業を行うときには、新たなパッケージ45を形成するために新しいボビン48を供給する作業が必要になることが多い。この点、上記の構成では、双方の作業を1つの装置で行うことができるため、精紡機1の全体の構成をコンパクトにすることができる。
【0111】
また、本実施形態の精紡機1は、ボビン供給部50によるボビン48の供給作業と、クレードル操作アーム89による取外し作業と、を独立して実行可能である。
【0112】
これにより、玉揚作業とボビン48の供給作業とを独立して行うことができる。例えば、あるパッケージ45が満巻きになったが、続けて新たなパッケージ45を形成する必要がないときに、不必要なボビン48の供給作業が行われることを防止できる。従って、ボビンセット装置60は、作業時間を短縮でき、玉揚台車4は他の紡績ユニット2に移動して次の作業を素早く開始できる。その結果、精紡機1による紡績糸10の巻取効率を向上させることが可能になる。
【0113】
また、本実施形態の精紡機1は、ボビン把持部52によりボビンホルダ72に供給されるボビン48に対して紡績糸10を捕捉して案内するサクションパイプ88を備える。精紡機1は、ボビン把持部52によるボビン48の供給作業と、クレードル操作アーム89による取外し作業と、サクションパイプ88による糸捕捉案内作業と、を独立して実行可能である。
【0114】
これにより、精紡機1は、様々な状況に応じて、不必要な動作を省略することが可能となる。従って、ボビンセット装置60は作業時間を短縮して次の作業を素早く開始できるので、精紡機1による紡績糸10の巻取効率を向上させることが可能になる。
【0115】
また、本実施形態の精紡機1において、紡績ユニット2は、一定方向に並べて配置される。ボビンセット装置60は、紡績ユニット2が並べられる方向に沿って走行可能である。
【0116】
これにより、紡績ユニット2毎にボビンセット装置60を設置する構成に比べて、ボビンセット装置60の設置台数を減らしてコストを削減することができる。
【0117】
以上に本発明の好適な実施の形態を説明したが、上記の構成は例えば以下のように変更することができる。
【0118】
精紡機1の構成は事情に応じて適宜変更することができる。例えば、上記実施形態の精紡機1が備える糸貯留装置12に代えて、あるいは糸貯留装置12に加えて、1対のローラからなる糸送り装置を紡績装置9の下流側に配置する構成に変更することができる。
【0119】
本発明の適用範囲は精紡機に限られず、ボビンを供給して当該ボビンに糸を巻き付ける構成であれば、精紡機以外の糸巻取機にも適用することができる。
【0120】
上記実施形態では、糸欠点が検出されたとき等において、巻取装置13を駆動させたままドラフト装置7を停止させることにより紡績糸10を切断しているが、この構成に代えて、ヤーンクリアラ49の近傍にカッタを備え、このカッタによって紡績糸10を切断する構成にすることができる。
【0121】
上記実施形態では、精紡機1は、経路調整板59に形成された選択孔115にボルト等の固定具が差し込まれることで、ボビン供給部50が玉揚台車4に固定される構成である。この構成に代えて、精紡機1は、経路調整板59が設置される面に突起部が形成され、選択孔にこの突起部が挿入された後にナット等で固定される構成にしても良い。上記の他にも、調整部は、少なくとも経路調整板59の取付向き(ボビン供給経路)を調整できる構成であればこの構成に限られず、適宜の構成を用いることができる。また、揺動軸111の位置及び向きを調整する構成に代えて、向きだけを調整できる構成に変更することもできる。
【0122】
上記実施形態では、案内部61がボビンホルダ72から離れる動作と、ボビン供給部50がボビンホルダ72に向かって近づく動作と、が同時並行で行われているが、玉揚作業を完成させてからボビンセット作業を行うようにしても良い。ただし、精紡機1の稼動効率の観点からは、玉揚作業とボビンセット作業とを同時並行で行うことが望ましい。
【符号の説明】
【0123】
1 精紡機(糸巻取機)
2 紡績ユニット(巻取ユニット)
4 玉揚台車
13 巻取装置
50 ボビン供給部
52 ボビン把持部
58 揺動アーム
59 経路調整板(取付部材)
60 ボビンセット装置
61 案内部
70 クレードル
88 サクションパイプ(糸捕捉案内装置)
89 クレードル操作アーム(操作部)
111 揺動軸
L1 保持線
L2 揺動軸線

【特許請求の範囲】
【請求項1】
糸を巻き付けるためのボビンを把持し、当該ボビンを目標位置に供給可能なボビン把持部と、
前記ボビンが前記ボビン把持部により前記目標位置に供給されるときの経路を調整可能な調整部と、
を備えることを特徴とするボビンセット装置。
【請求項2】
請求項1に記載のボビンセット装置であって、
前記調整部は、
前記ボビン把持部を支持する取付部材と、
前記取付部材の少なくとも取付向きの変更を確定する固定具と、
を備えることを特徴とするボビンセット装置。
【請求項3】
請求項2に記載のボビンセット装置であって、
前記取付部材には、複数の選択孔が形成され、
前記固定具は、前記取付部材の少なくとも取付向きの変更を確定するために、前記選択孔に位置決めされることを特徴とするボビンセット装置。
【請求項4】
請求項1から3までの何れか一項に記載のボビンセット装置と、
前記ボビンセット装置から供給された前記ボビンを保持するボビン保持部を有する巻取ユニットと、
を備えることを特徴とする糸巻取機。
【請求項5】
請求項4に記載の糸巻取機であって、
前記ボビンセット装置は、前記ボビン把持部を前記目標位置まで揺動させる揺動軸を備え、
前記ボビン保持部は、前記ボビンの軸方向の両端部を保持する2つの保持機構を備え、
当該2つの保持機構の保持中心を接続する直線を保持線としたときに、前記揺動軸の軸線が前記保持線に対して平行になるように、前記調整部は前記揺動軸の向きを調整可能であることを特徴とする糸巻取機。
【請求項6】
請求項4又は5に記載の糸巻取機であって、
前記ボビンセット装置は、前記ボビン保持部を操作して、前記ボビンを前記ボビン保持部から取り外す操作部を備えることを特徴とする糸巻取機。
【請求項7】
請求項6に記載の糸巻取機であって、
前記ボビン把持部による前記ボビンの供給作業と、前記操作部による取外し作業は、独立して実行可能なことを特徴とする糸巻取機。
【請求項8】
請求項6に記載の糸巻取機であって、
前記ボビン把持部により前記ボビン保持部に供給される前記ボビンに対して、糸を捕捉して案内する糸捕捉案内装置を備え、
前記ボビン把持部による前記ボビンの供給作業と、前記操作部による取外し作業と、前記糸捕捉案内装置による糸捕捉案内作業は、独立して実行可能なことを特徴とする糸巻取機。
【請求項9】
請求項4から8までの何れか一項に記載の糸巻取機であって、
前記巻取ユニットは、一定方向に並べて配置され、
前記ボビンセット装置は、前記巻取ユニットが並べられる方向に沿って走行可能であることを特徴とする糸巻取機。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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