説明

ボビン及びチョークコイル

【課題】隙間を作らずにコイルを巻くことができるボビン及びそれを用いたチョークコイルを提供する。
【解決手段】内側に角形の磁心を受け入れ、外側にコイルが巻回される筒状の芯体1aと、芯体1aの両端に形成された鍔部1bとを備えたボビンにおいて、巻回軸方向に直交する断面で見た芯体1aは、外方へ凸な複数の曲線の連続によって形成された外面を有している。例えば、芯体1aは、内面が実質的に長方形であり、外面は、当該長方形の長辺、短辺、及び、各コーナーのそれぞれに対応する3種類の半径の円弧によって形成されている。このような外面の形状は、巻回するコイルを外面に沿わせることが容易であり、外面との間の隙間を作らずにコイルを巻くことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えばチョークコイルにおいてコイルを巻回するボビンに関する。
【背景技術】
【0002】
チョークコイルは、磁心となる一対のコアと、コイルを巻回したボビンとを、互いに抱き合わせた構成となっている。このようなチョークコイルのうち、EE型と呼ばれるタイプでは、角形の中心コアをボビンに内挿する構造となっている(例えば、特許文献1参照。)。そのため、ボビンの断面における内面及び外面の形状は、長方形となっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2005−150414号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
図7は、上記のような長方形のボビンを示す断面図である。図において、ボビン101をその断面で見た場合、内面はコア形状に合わせた長方形であり、外面はコーナーにRが形成されてはいるが基本的な形状としては長方形である。このようなボビン101に銅線のコイル102を巻く場合、理想的には銅線がボビン101の外面全体に密着すればよいのであるが、実際には、線径が太いほど銅線がボビン101に沿わず、「巻き太り」の状態となる。すなわち、図示のように、ボビン101の外面の長辺部101a及び短辺部101bに銅線が密着せず、隙間ができる。隙間ができると、電流によるコイル102の発熱を、ボビン101に逃がすことが困難となり、放熱性が悪くなる。なお、隙間ができないように強い張力をかけてコイル102を巻くと、銅線が伸びて被覆が薄くなるので、好ましくない。
【0005】
かかる従来の問題点に鑑み、本発明は、隙間を作らずにコイルを巻くことができるボビン及びそれを用いたチョークコイルを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
(1)本発明は、内側に角形の磁心を受け入れ、外側にコイルが巻回される筒状の芯体と、前記コイルの巻回軸方向における前記芯体の両端に形成された鍔部と、を備えたボビンであって、前記巻回軸方向に直交する断面で見た前記芯体の外面を滑らかに繋ぐ線が、外方へ凸な複数の曲線の連続によって形成されていることを特徴とするものである。
上記のように構成されたボビンでは、芯体の外面を滑らかに繋ぐ線が、外方へ凸な複数の曲線の連続によって形成されているので、巻回するコイルを外面に沿わせることが容易である。従って、強い張力をかけなくとも、自然に、外面との間の隙間を作らずにコイルを巻くことができる。
【0007】
(2)また、前記(1)のボビンにおいて、前記断面で見た前記芯体は、内面が実質的に方形であり、外面は、当該方形の各辺及び各コーナーのそれぞれに対応する少なくとも2種類の半径の円弧によって形成されていてもよい。
この場合、最小限の種類の円弧で、近似的に、外方へ凸な複数の曲線の連続を実現することができる。また、各辺に対してはコーナーよりも大きな半径の円弧とすることにより、肉厚が必要以上に大きくならないようにすることができる。
【0008】
(3)また、前記(2)のボビンにおいて、前記各コーナーに対応する外面の半径は、巻回されるコイルの線径が大きいほど、大きくなる関係にあることが好ましい。
この場合、線径が大きくなるほど曲げにくくなるコーナーでも、容易に、コイルを巻き付けることができる。
【0009】
(4)また、前記(2)又は(3)のボビンにおいて、前記各コーナーに対応する外面の半径として、前記コイル線の断面積の少なくとも2.4倍の値を確保することが好ましい。
この場合、線径が大きくなるほど曲げにくくなるコーナーでも、容易に、かつ、確実に、コイルを巻き付けることができる。
【0010】
(5)また、本発明のチョークコイルとしては、コアと、当該コアに装着される前記(1)のボビンと、当該ボビンに巻回されたコイルとを備えたものであればよい。
この場合、コイルからボビンへの放熱性に優れたチョークコイルを提供することができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明のボビン及びこれを用いるチョークコイルによれば、芯体の外面との間に隙間を作らずにコイルを巻くことができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
【図1】EEコア型のチョークコイルの構成例を示す斜視図である。
【図2】コイルを巻回する前のボビンの斜視図である。
【図3】図2に示すボビンの水平断面図である。
【図4】図3に示すボビンの芯体の断面形状のみを示す図である。
【図5】ボビンの芯体の断面形状をさらに拡大した図である。
【図6】ボビンの芯体の変形例を示す図である。
【図7】従来の長方形のボビンを示す断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
図1は、EEコア型のチョークコイル10の構成例を示す斜視図である。図において、このチョークコイル10は、上下一対のコア3と、角形のボビン1と、コイル2とを備えている。ボビン1は、外側にコイル2が巻回される筒状の芯体1aと、コイル2の巻回軸方向(図の矢印Aの方向)における芯体1aの両端に形成された鍔部1bとを有している。コア3は、側面から見て「E」の字を成す形状であり、中央の磁心となる凸部3aと、両側の磁心となる凸部3bとを有している。ボビン1の芯体1aは、その内側にコア3の凸部3aを受け入れるように内寸法が設定されている。コア3は、例えば、鋼板、フェライト、ダストコア(圧粉磁心)により形成される。ボビン1は、例えばPBT(ポリブチレンテレフタレート)を材質とする成型品又は、成型品を接合して成るものである。
【0014】
上記の構成において、芯体1aの内側に上下一対のコア3の中央の凸部3aを入れ、かつ、外側の凸部3b同士を当接させた状態で全体を固定すれば、チョークコイル10が出来上がる。なお、例えば、外側の凸部3b同士を当接させた状態で、中央の凸部3a同士は当接せず、一定のギャップを形成するように構成されている。ギャップを設けることで、磁気飽和を抑制することができる。
【0015】
図2は、コイル2を巻回する前のボビン1の斜視図、図3は、図2に示すボビン1の水平断面図(芯体1aについて、コイル2の巻回軸方向に直交する断面で見た図)である。図2,図3において、ボビン1の芯体1aは、その外面に角(かど)が無く、コイル2の巻回方向へ丸みを帯びている。
【0016】
図4は、芯体1aの断面形状のみを示す図である。図4において、コイル2の巻回軸方向に直交する断面で見た芯体1aは、その内面が実質的に長方形(長辺側の内寸法b、短辺の内寸法a)である。ここで「実質的に」とは、厳密な意味の長方形のみならず、例えば4つのコーナーに小さなアールを形成する場合もあるが、その程度のアールがあった場合でも、対向する長辺・短辺を有する長方形の概念に含まれる、という意味である。
【0017】
また、芯体1aの外面は、外方へ凸な複数の曲線の連続によって形成された外面を有している。このような外面であれば、巻回するコイル2を沿わせることが容易である。従って、強い張力をかけなくとも、自然に、外面との間に隙間を作らずにコイルを巻くことができる。隙間無く巻回されたコイルの発生する熱は、ボビン1へ伝導し易いので、コイル2からボビン1への放熱性に優れたチョークコイル10を提供することができる。
【0018】
上記のような外面は、近似的に、例えば、図示のように、長方形の長辺、短辺、及び、各コーナーのそれぞれに対応する3種類の半径R2,R1及びRの円弧によって形成することができる。これらの半径の一例を挙げると、線径φが2.1mmの場合、R=5mm、R1=35mm、R2=60mmである。すなわち、長辺に対応する半径R2は、短辺に対応する半径R1より大きい(曲率が小さい。)。また、コーナーに対応する半径は、最も小さい(最も曲率が大きい。)。このような3種類すなわち、最小限の種類の円弧で、近似的に、外方へ凸な複数の曲線の連続を実現することができる。また、長辺及び短辺に対してはコーナーよりも大きな半径の円弧とすることにより、肉厚が必要以上に大きくならないようにすることができる。
【0019】
上記3種類の円弧のうち、隙間の無いコイル巻回に最も寄与するのは、コーナーに対応する半径Rであると考えられる。そこで、線径と、このRの値との、あるべき関係について調査した。調査は、3種類の線径の銅線を手巻き(張力は小さい。)で図7に示すような従来のボビン101の芯体に巻き付け、自然にできるRの値を調べた。
【0020】
その結果、
線径φ=1.6mm(断面積S=2.01mm)のとき、R=5.0mm
線径φ=1.8mm(断面積S=2.54mm)のとき、R=6.5mm
線径φ=2.1mm(断面積S=3.46mm)のとき、R=8.5mm
となった。これらの値の相関性を、例えば、半径Rが線径φの2次関数であるとして近似すると、
R=1.78φ+0.34φ ・・・(1)
となる。
【0021】
また、より実用的な関係を求めるべく、半径Rをコイル線の断面積の1次関数であるとして、
R=K・S ・・・(2)
とし、上記の数値を代入して、係数Kの値を求めると、
断面積S=2.01mm、R=5.0mmのとき、K=2.49
断面積S=2.54mm、R=6.5mmのとき、K=2.56
断面積S=3.46mm、R=8.5mmのとき、K=2.46
となる。上記の3つのKの値は良く近似しており、Kの値として2.4以上を設定するのが好ましいと解される。これは、実際に手巻きをしたデータに基づいているので、コイル線の断面積に対して少なくとも2.4倍の半径を、Rの値とすることにより、線径が大きくなるほど曲げにくくなるコーナーでも、容易に、かつ、確実に、コイルを巻き付けることができる。
【0022】
図5は、ボビン1の芯体1aの断面形状をさらに拡大した図である。図において、まず、角度90度のコーナーを45度で2等分する線分Lを設定し、この線分上に半径Rの円弧の中心Oがあるようにする。コーナーでの芯体1aの厚さtは、1mmを確保するものとすれば、中心Oが決まり、半径Rの円弧が決まる。この円弧が決まれば、後は、半径R1,R2の各円弧と滑らかに、凹部が生じないように繋げばよい。なお、逆に言えば、半径R1,R2で互いに端点が接近している2つの円弧を、R1,R2より小さい値の半径Rにより面取りした形となる。
【0023】
半径Rの円弧と、半径R1の円弧との接点C1までの角度をα、半径Rの円弧と、半径R2の円弧との接点C2までの角度をβとすると、例えば、以下の式により、角度α及びβを定めることができる。
α=(π/6)−(π/6)(1−exp(1−(b/a))
β=(π/6)+(π/12)(1−exp(1−(b/a))
接点C1,C2の位置は、それぞれ角度α,βによって決まる。また、半径R1の円弧の中心、及び、半径R2の円弧の中心は、それぞれ、ボビン芯体1aの中心線CLb,CLa上に位置する。従って、半径R1,R2の値は自然に決まってくる。このように、コイル線径に基づいて、式(2)により、コーナーのRを決めてから、短辺と長辺の比例関係をもって、短辺に対応する円弧の半径R1、長辺に対応する円弧の半径R2を決定することができる。
【0024】
このようにして決定された半径R1の円弧は、接点C1において半径Rの円弧と交わり、かつ、半径Rの円弧と交わる角(小さい方)が0に近いことにより滑らかに繋がる円弧、となる。同様に、半径R2の円弧は、接点C2において半径Rの円弧と交わり、かつ、半径Rの円弧と交わる角が0に近いことにより滑らかに繋がる円弧、となる。
【0025】
なお、上記実施形態では、芯体1aの外面を構成する曲線が円弧によって構成される例を示したが、複数の楕円弧による構成や、円弧と楕円弧との組み合わせによる構成も、可能である。楕円の場合、複数ではなく1つの楕円によって外面全体を構成することもできるが、この場合は、芯体1aの肉厚が必要以上に厚くなり易く、また、厚・薄の差が大きくなり易いので、好ましくないと解される。
【0026】
また、芯体1aの外面を構成する円弧(楕円弧でも可)のうち例えば長辺・短辺に対応する円弧には、図6に示すように、必要に応じて例えば小さな溝1dを設けても、コイル2の巻きやすさには影響しない。要するに、芯体1aの外面を滑らかに繋ぐ線(コイル2の巻回という観点からの芯体1aの最外形状を表す線)が、外方へ凸な複数の曲線の連続によって形成されていればよい。
【0027】
また、上記実施形態では、芯体1aの内面が長方形である例を示したが、コア3の形状によっては正方形もあり得る。すなわち、芯体1aの内面は方形(長方形又は正方形)であるとも言える。正方形の場合には、コーナーの1種類の円弧と、辺に対応する1種類の円弧との計2種類のみで、芯体1aの外面の曲線を構成することができる。
【0028】
なお、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味及び範囲内での全ての変更が含まれることが意図される。
【符号の説明】
【0029】
1 ボビン
1a 芯体
1b 鍔部
2 コイル
3 コア(磁心)
10 チョークコイル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
内側に角形の磁心を受け入れ、外側にコイルが巻回される筒状の芯体と、
前記コイルの巻回軸方向における前記芯体の両端に形成された鍔部と、を備えたボビンであって、
前記巻回軸方向に直交する断面で見た前記芯体の外面を滑らかに繋ぐ線が、外方へ凸な複数の曲線の連続によって形成されていることを特徴とするボビン。
【請求項2】
前記断面で見た前記芯体は、内面が実質的に方形であり、外面は、当該方形の各辺及び各コーナーのそれぞれに対応する少なくとも2種類の半径の円弧によって形成されている請求項1記載のボビン。
【請求項3】
前記各コーナーに対応する外面の半径は、巻回されるコイルの線径が大きいほど、大きくなる関係にある請求項2記載のボビン。
【請求項4】
前記各コーナーに対応する外面の半径として、前記コイル線の断面積の少なくとも2.4倍の値を確保した請求項2又は3に記載のボビン。
【請求項5】
コアと、当該コアに装着される請求項1記載のボビンと、当該ボビンに巻回されたコイルとを備えたチョークコイル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【公開番号】特開2013−45937(P2013−45937A)
【公開日】平成25年3月4日(2013.3.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−183537(P2011−183537)
【出願日】平成23年8月25日(2011.8.25)
【出願人】(000002130)住友電気工業株式会社 (12,747)
【出願人】(000183406)住友電装株式会社 (6,135)
【出願人】(395011665)株式会社オートネットワーク技術研究所 (2,668)
【Fターム(参考)】