説明

ボルト又はナットの緩め方法及び装置

【課題】ボルトの緩め作業の際に、ねじ切り口を潰してしまう不具合を回避する。
【解決手段】ロボット12のアームに支持されたナットランナ16とによって、ボルト22のねじ頭に対するソケット18の位置合わせ、ソケット18のボルト22への押付け、ソケット18の回転駆動が、自動的かつ正確に行われる。又、振動センサ20は、ナットランナ16を介して、おねじのねじ山端部とめねじのねじ山端部とが衝突して発生する振動を検出する。おねじとめねじとを軸方向に押圧した状態で緩め方向にボルト22を回転させる。この緩め作業が進行して、おねじのねじ山端部とめねじのねじ山端部とが衝突して発生する振動の発生を受けて、緩め作業の完了を正確に把握する。そして、おねじとめねじとの相対回転を、直ちに停止することにより、ねじ切り口を潰してしまうことなく、ボルト22の緩め作業を確実に行うことができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボルト又はナットの緩め方法及び装置に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来から、ボルトやナット等のねじ部材の締付作業のみならず、ねじ部材を緩める作業についても、ナットランナやインパクトレンチ等が用いられている。そして、ねじ部材を緩める作業の自動化を促進するために、緩め作業時のナットランナやインパクトレンチの回転停止のタイミングを計るための技術が開発されている。かかる技術は、ねじ部材の締込長さと、ねじピッチとから、緩め作業に必要な回転数を計算し、なおかつ、ねじ部材の緩めが不十分になることを防ぐために、計算された回転数に回転余裕分を加えて、ねじ部材を緩めるものである(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平10−80828号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
さて、ねじ部材を緩める作業において、ナットランナやインパクトレンチに装着されたソケットとねじ部材との係合が外れてしまうことを防ぐために、ボルト又はナットにソケットを押付けて緩め作業が行われる。ところが、上記従来の技術では、計算された回転数に回転余裕分を加えて緩め作業を行うことから、おねじとめねじとが軸方向に押圧された状態で余分に相対回転することにより、ねじ部材の互いのねじ切り口(おねじのねじ山端部とめねじのねじ山端部)が何度も衝突し、それによってねじ切り口を潰してしまう虞がある。そして、ねじ部材のねじ切り口を潰してしまうと、再度の締付時に正常な締付を行うことかできないことから、ねじ部材の交換を余儀なくされる場合もある。
本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、ボルト又はナットの緩め作業の自動化を促進しつつ、ねじ切り口を潰してしまうという不具合を回避することにある。
【課題を解決するための手段】
【0005】
上記課題を解決するために、本発明のボルト又はナットの緩め方法は、おねじとめねじとを軸方向に押圧した状態で緩め方向に相対回転させてボルト又はナットを緩め、この際に、緩め作業の完了を、おねじのねじ山端部とめねじのねじ山端部とが衝突して発生する振動から正確に把握することにより、回転数が不足することでねじの緩めが不十分となることなく、かつ、余分に回転させて何回もおねじのねじ山端部とめねじのねじ山端部とが衝突することによりねじ切り口を潰してしまうという不具合を回避し、ボルト又はナットの緩め作業を確実に行うものである。
又、本発明のボルト又はナットの緩め装置は、ボルト頭部又はナットにソケットを係合させて、ソケットをボルト又はナットに押付け、おねじとめねじとを軸方向に押圧した状態で緩め方向に相対回転させてボルト又はナットを緩める際に、緩め作業の完了を、おねじのねじ山端部とめねじのねじ山端部とが衝突して発生する振動から正確に把握し、適切なタイミングでソケットの回転を停止させるための、各手段を備えるものである。
【0006】
(発明の態様)
以下の発明の態様は、本発明の構成を例示するものであり、本発明の多様な構成の理解を容易にするために、項別けして説明するものである。各項は、本発明の技術的範囲を限定するものではなく、発明を実施するための最良の形態を参酌しつつ、各項の構成要素の一部を置換し、削除し、又は、更に他の構成要素を付加したものについても、本願発明の技術的範囲に含まれ得るものである。
【0007】
(1)締結されたボルト又はナットの緩め方法であって、おねじとめねじとを軸方向に押圧した状態で緩め方向に相対回転させてボルト又はナットを緩め、おねじのねじ山端部とめねじのねじ山端部とが衝突して発生する振動の発生を受けて、おねじとめねじとの相対回転を停止するボルト又はナットの緩め方法(請求項1)。
本項に記載のボルト又はナットの緩め方法は、おねじとめねじとを軸方向に押圧した状態で緩め方向に相対回転させてボルト又はナットを緩め、この緩め作業が進行して、おねじのねじ山端部とめねじのねじ山端部とが衝突して発生する振動の発生を受けて、緩め作業の完了を正確に把握する。そして、おねじとめねじとの相対回転を、直ちに停止することにより、ねじ切り口を潰してしまうことなく、ボルト又はナットの緩め作業を確実に行うものである。
【0008】
(2)前記おねじとめねじとを軸方向に押圧した状態で緩め方向に相対回転させてボルト又はナットをゆるめる際に、締結されたボルトのねじ頭又はナットにソケットを押付け、比較的低トルクにてソケットを回転させて、ソケットとボルトのねじ頭又はナットとを係合させ、続いて、比較的高トルクにてソケットを回転させるボルト又はナットの緩め方法(請求項2)。
本項に記載のボルト又はナットの緩め方法は、締結されたボルトのねじ頭又はナットにソケットを押付け、比較的低トルクにてソケットを回転させて、ソケットとボルトのねじ頭又はナットとを係合させることにより、ソケットとボルトのねじ頭又はナットとの係合を確実に行うものである。そして、ソケットとボルトのねじ頭又はナットとを係合させた後に、比較的高トルクにてソケットを回転させることで、ボルト又はナットの緩め作業を開始するものである。
【0009】
(3)前記比較的低トルクにてソケットを回転させてソケットとボルトのねじ頭又はナットとを係合させる際に、前記ソケットを締付方向へと回転させるボルト又はナットの緩め方法(請求項3)。
本項に記載のボルト又はナットの緩め方法は、比較的低トルクにてソケットを回転させてソケットとボルトのねじ頭又はナットとを係合させる際に、ソケットを締付方向へと回転させることで、ソケットとボルトのねじ頭又はナットとの係合を行うものである。この際、一旦締付方向にソケットを回転させることで、ボルト又はナットの実際の締付トルクの如何に係わらず、ソケットの回転が停止することを以って、ソケットとボルトのねじ頭又はナットとの係合が確実に行われたことを把握するものである。
【0010】
(4)前記比較的低トルクにてソケットを回転させてソケットとボルトのねじ頭又はナットとを係合させる際に、設定された比較的低トルクでのソケットの回転が停止した時点で、比較的高トルクにてソケットを回転させるボルト又はナットの緩め方法(請求項4)。
本項に記載のボルト又はナットの緩め方法は、比較的低トルクにてソケットを回転させてソケットとボルトのねじ頭又はナットとを係合させる際に、設定された比較的低トルクで、ソケットとボルトのねじ頭又はナットとの係合を行うことで、ボルトのねじ頭又はナットにソケットによるかじりを生じることなく、確実に係合を行うものである。そして、設定された比較的低トルクでのソケットの回転が停止された時点、すなわちソケットとボルトのねじ頭又はナットとの係合を完了した時点で、比較的高トルクにてソケットを回転させることにより、ボルト又はナットの緩め作業を開始するものである。
【0011】
(5)締結されたボルト又はナットの緩め装置であって、ボルト頭部又はナットに係合するソケットと、該ソケットを回転駆動する駆動手段と、前記ソケットをボルト又はナットに押付け、おねじとめねじとを軸方向に押圧した状態で緩め方向に相対回転させてボルト又はナットを緩めることにより、おねじのねじ山端部とめねじのねじ山端部とが衝突して発生する振動を検出する振動センサと、該振動センサの検出信号を受けて、前記駆動手段を停止させる制御手段とを備えるボルト又はナットの緩め装置。
本項に記載のボルト又はナットの緩め装置は、ソケットがボルト頭部又はナットに係合され、ソケットがボルト又はナットに押付けられることによって、おねじとめねじとを軸方向に押圧した状態で、駆動手段により、緩め方向に相対回転させてボルト又はナットを緩める。そして、緩め作業が進行し、おねじのねじ山端部とめねじのねじ山端部とが衝突する際に発生する振動の発生が、振動センサにより検出され、振動センサの検出信号を制御手段によって受けることによって、緩め作業の完了が正確に把握される。そして制御手段によって駆動手段が停止され、おねじとめねじとの相対回転を直ちに停止することにより、ねじ切り口を潰してしまうことなく、ボルト又はナットの緩め作業を確実に行うものである。
【0012】
(6)前記制御手段には、前記ソケットをボルト又はナットに押付け、前記おねじとめねじとを軸方向に押圧した状態で緩め方向に相対回転させてボルト又はナットをゆるめる際に、前記駆動手段により、比較的低トルクにてソケットを回転させ、続いて、比較的高トルクにてソケットを回転させる制御ロジックが含まれるボルト又はナットの緩め装置(請求項6)。
本項に記載のボルト又はナットの緩め装置は、ソケットをボルト又はナットに押付け、おねじとめねじとを軸方向に押圧した状態で緩め方向に相対回転させてボルト又はナットをゆるめる際に、制御手段から駆動手段への指令により、ソケットは比較的低トルクにて回転駆動され、この際、ソケットとボルトのねじ頭又はナットとの係合が確実に行われる。そして、ソケットとボルトのねじ頭又はナットとが係合した後に、制御手段から駆動手段への指令により、比較的高トルクにてソケットを回転駆動されることで、ボルト又はナットの緩め作業が開始されるものである。
【0013】
(7)前記制御手段には、比較的低トルクにてソケットを回転させる際に、前記駆動手段により、前記ソケットを締付方向へと回転させる制御ロジックが含まれるボルト又はナットの緩め装置(請求項7)。
本項に記載のボルト又はナットの緩め装置は、制御手段から駆動手段への指令により、ソケットが比較的低トルクにて回転駆動され、ソケットとボルトのねじ頭又はナットとが係合する際に、一旦締付方向にソケットを回転させることにより、ボルト又はナットの実際の締付トルクの如何に係わらず、ソケットの回転が停止することを以って、ソケットとボルトのねじ頭又はナットとの係合が確実に行われたことが把握されるものである。
【0014】
(8)前記制御手段には、前記比較的低トルクにてソケットを回転させてソケットとボルトのねじ頭又はナットとを係合させる際に、設定された比較的低トルクでのソケットの回転が停止したことを前記駆動手段から把握した時点で、比較的高トルクにてソケットを回転させる制御ロジックが含まれるボルト又はナットの緩め装置(請求項8)。
本項に記載のボルト又はナットの緩め装置は、比較的低トルクにてソケットを回転させてソケットとボルトのねじ頭又はナットとを係合させる際に、設定された比較的低トルクで、ソケットとボルトのねじ頭又はナットとの係合を行うことで、ボルトのねじ頭又はナットにソケットによるかじりを生じることなく、確実に係合を行うものである。そして、設定された比較的低トルクでのソケットの回転が停止した時点、すなわちソケットとボルトのねじ頭又はナットとの係合を完了した時点で、制御手段からの指令を受けて、駆動手段により、比較的高トルクにてソケットが回転駆動されることにより、ボルト又はナットの緩め作業が開始されるものである。
【0015】
(9)前記駆動手段は、ロボットのアームに支持されたナットランナであり、前記振動センサは、前記ナットランナを介しておねじのねじ山端部とめねじのねじ山端部とが衝突して発生する振動を検出するに適した位置に設けられているボルト又はナットの緩め装置(請求項9)。
本項に記載のボルト又はナットの緩め装置は、ロボットのアームに支持されたナットランナによって、ボルトのねじ頭又はナットに対するソケットの位置合わせ、前記ソケットのボルト又はナットへの押付け、ソケットの回転駆動が行われるものである。又、前記振動センサは、前記ナットランナを介しておねじのねじ山端部とめねじのねじ山端部とが衝突して発生する振動を検出するものである。
【0016】
(10)前記ソケットは、前記ナットランナの回転軸に対し突出方向へと付勢されるように、ばねを介して装着されているボルト又はナットの緩め装置(請求項10)。
本項に記載のボルト又はナットの緩め装置は、ばねの弾性力によって、ソケットをボルトのねじ頭又はナットに押付け、おねじとめねじとを軸方向に押圧するものである。
【0017】
(11)上記(9)、(10)項において、ボルト又はナットによって組み付けられたワークアセンブリを載置する載置治具と、該治具に前記ワークアセンブリを固定するクランプ治具とを備えるボルト又はナットの緩め装置。
本項に記載のボルト又はナットの緩め装置は、載置治具にワークアセンブリを載置することで、緩め作業に係るボルト又はナットの位置を正確に位置決めし、かつ、クランプ治具によって、載置治具に対しワークアセンブリを確実に固定するものである。
【0018】
(12)上記(11)項において、前記制御手段には、振動センサコントローラと、ナットランナコントローラと、ロボットコントローラと、これらの各コントローラ及び前記クランプ治具を制御するメインコントローラとが含まれるボルト又はナットの緩め装置。
本項に記載のボルト又はナットの緩め装置は、振動センサコントローラにより、振動センサの振動検知レベルの設定や、振動検出信号のメインコントローラへの出力がなされるものである。又、ナットランナコントローラにより、ナットランナの回転方向、回転速度、回転トルク、回転角の制御がなされるものである。又、ロボットコントローラにより、ロボットのアーム作動制御がなされるものである。更に、これらの各コントローラ及びクランプ治具は、メインコントローラにより制御されるものである。
【0019】
(13)上記(5)項において、前記駆動手段はインパクトレンチであり、前記振動センサは、前記インパクトレンチに固定されているボルト又はナットの緩め装置(請求項11)。
本項に記載のボルト又はナットの緩め装置は、ボルトのねじ頭又はナットに対するソケットの位置合わせ、前記ソケットのボルト又はナットへの押付けは、インパクトレンチを操作する作業者によって行われ、ナットの回転駆動は、インパクトレンチによって行われるものである。又、振動センサは、インパクトレンチを介しておねじのねじ山端部とめねじのねじ山端部とが衝突して発生する振動を検出するものである。
【0020】
(14)上記(13)項において、前記制御手段には、振動センサコントローラと、インパクトレンチコントローラと、これらの各コントローラを制御するメインコントローラとが含まれるボルト又はナットの緩め装置。
本項に記載のボルト又はナットの緩め装置は、振動センサコントローラにより、振動センサの振動検知レベルの設定や、振動検出信号のメインコントローラへの出力がなされるものである。又、インパクトレンチコントローラにより、インパクトレンチの回転方向、回転速度、回転トルク、回転角の制御がなされるものである。更に、これらの各コントローラは、メインコントローラにより制御されるものである。
【発明の効果】
【0021】
本発明はこのように構成したので、ボルト又はナットの緩め作業の自動化を促進しつつ、ねじ切り口を潰してしまうという不具合を回避することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明を実施するための最良の形態を添付図面に基づいて説明する。
本発明の第1の実施の形態に係る、ボルト又はナットの緩め装置10は、図1に示されるように、ロボット12のアーム先端に、ブラケット14を介して駆動手段であるナットランナ16が支持され、ナットランナ16の回転軸16aにソケット18が装着されている。又、ナットランナ16の回転軸16aには、ばね19が設けられており、ソケット18は、ばね19を介して、突出方向(図1の下方)へと付勢されるように、回転軸16aに装着されている。
又、ブラケット14には、振動センサ20(加速度検出型、速度検出型等)が固定されている。この振動センサ20は、後述のように、おねじのねじ山端部とめねじのねじ山端部とが衝突して発生する振動を、ナットランナ16を介して検出するものである。又、ボルト又はナットの緩め装置10は、ボルト22によって組み付けられたワークアセンブリ24を載置する載置治具26と、載置治具26にワークアセンブリ24を固定するクランプ治具28とを備えている。
【0023】
更に、制御手段として、メインコントローラ30と、振動センサコントローラ32と、ナットランナコントローラ34と、ロボットコントローラ36とを備えている。これらのコントローラは、パーソナルコンピュータ等の電子計算機によって構成されるものであるが、特にメインコントローラ30に関しては、PLC(プログラマブルロジックコントローラ)が用いられている。
メインコントローラ30は、各コントローラ32、34、36及びクランプ治具28の駆動シリンダ28aの動作を制御するものである。又、振動センサコントローラ32は、振動センサ20の振動検知レベルの設定や、振動検出信号のメインコントローラ30への出力を行うものである。又、ナットランナコントローラ34は、ナットランナ16の回転軸16aの回転方向、回転速度、回転トルク、回転角の制御を行うものである。又、ロボットコントローラ36は、ロボット12のアームの作動制御を行うものである。
【0024】
又、制御手段を構成するメインコントローラ30ないしナットランナコントローラ34には、後述のように、ボルト22の緩め作業時に、ナットランナ16により、最初に、比較的低トルクにてソケット18を回転させ、続いて、比較的高トルクにてソケットを回転させる制御ロジックが含まれる。
又、メインコントローラ30ないしナットランナコントローラ34には、比較的低トルクにてソケットを回転させる際に、ナットランナ16により、ソケット18を締付方向へと回転させる制御ロジックが含まれる。
更に、メインコントローラ30ないしナットランナコントローラ34には、比較的低トルクにてソケット18を回転させる際に、設定された比較的低トルクでのソケット18の回転が停止したことを、ナットランナ16の回転角センサ、トルクセンサ等から把握した時点で、比較的高トルクにてソケット18を回転させる制御ロジックが含まれる。
【0025】
ここで、図2を参照しながら、ボルト又はナットの緩め装置10によるボルト22の緩め作業の手順を説明する。
S10:まず、搬送ロボット等によって、ワークアセンブリ24が載置治具11上にセットされる。そして、メインコントローラ30からの指令により、クランプ治具28の駆動シリンダ28aが作動して、クランプ治具28により、載置治具11にワークアセンブリ24が固定される。
S20:メインコントローラ30からの作業開始指令を受けて、ロボットコントローラ36は、ロボット12のアームを作動させ、ナットランナ16の回転軸16aに装着されたソケット18を、ボルト22のねじ頭に位置合わせして押付ける。
S30:メインコントローラ30からの、ボルト22のねじ頭に対するソケット18の挿入指令を受けて、ナットランナコントローラ34は、ナットランナ16の回転軸16aを、締付方向へと、予め設定された低速・低トルクで回転させる。すると、ボルト22のねじ頭の六角とソケット18の六角穴との位相が一致するタイミングで、ばね19の弾性力を受けて、ソケット18の六角穴にボルト22のねじ頭が係合する。この際の回転トルクは、ボルト22の締付トルクの指定値の1/10程度に設定されている。よって、ソケット18の六角穴にボルト22のねじ頭が係合した後も、ソケット18によりボルト22のねじ頭を締付ける方向の力が加えられるが、ボルト22は回転することはなく、ナットランナ16のトルクは増大する。
S40:ナットランナコントローラ34は、ナットランナ16のトルクの増加を監視し、設定トルクに達した時点で、ナットランナ16の回転軸16aを停止させる。そして、ナットランナコントローラ34から、メインコントローラ30に対し、ソケット18の挿入完了信号を出力する。メインコントローラ30は、ナットランナコントローラ34からの挿入完了信号を受けて、ソケット18とボルト22のねじ頭との係合が確実に行われたことを把握する。
【0026】
S50:メインコントローラ30は、ナットランナコントローラ34に対し、緩め動作指令を出力する。ナットランナコントローラ34は、かかる緩め動作指令を受けて、ナットランナ16の回転軸16aを、ボルト22の緩め方向へと、ボルト22を緩めることが可能な高トルクで回転させる。
S60:ボルト22の緩め作業が進行し、図3の左図のように、ボルト22のおねじのねじ山端部22aが、ワークアセンブリ24側に形成されためねじのねじ山端部24aを通過すると、ソケット18を介してばね19の弾性力がボルト22に作用していることから、図3の右図のように、ねじ山のピッチの半分(1/2P)程度、おねじのねじ山端部22aが再びめねじのねじ溝に落ち込み、おねじのねじ山端部22aとめねじのねじ山端部24aとが衝突する。この際に発生する振動が、図4に示されるような360°間隔の波形Gとして、振動センサ20により検出される。
S70:メインコントローラ30は、振動センサコントローラ32からの、おねじのねじ山端部22aとめねじのねじ山端部24aとが衝突して発生する振動の検出信号の有無を監視する。
S80:メインコントローラ30は、振動センサコントローラ32からの振動検出信号を受けて、ナットランナコントローラ34に対し、緩め動作終了信号を出力する。ナットランナコントローラ34は、かかる緩め動作終了指令を受けて、ナットランナ16の回転軸16aを、直ちに停止させる。
S90:メインコントローラ30からの作業終了指令を受けて、ロボットコントローラ36は、ロボット12のアームを作動させ、ナットランナ16を待機位置へと復帰させる。又、メインコントローラ30からの指令により、クランプ治具28の駆動シリンダ28aが作動して、クランプ治具28による載置治具11へのワークアセンブリ24の固定が解除される。更に、搬送ロボット等によって、載置治具11上からワークアセンブリ24が搬出される。
【0027】
上記構成をなす、本発明の第1の実施の形態により得られる作用効果は、以下の通りである。
まず、ボルト又はナットの緩め装置10は、ロボット12と、ロボット12のアームに支持されたナットランナ16とによって、ボルト22のねじ頭に対するソケット18の位置合わせ、ソケット18のボルト22への押付け、ソケット18の回転駆動が、自動的かつ正確に行われるものである。又、振動センサ20は、ロボット12のアーム先端にナットランナ16を固定するブラケット14に取付けられていることから、ナットランナ16を介して、おねじのねじ山端部22aとめねじのねじ山端部24aとが衝突して発生する振動を検出することができる。
【0028】
又、ナットランナ16の回転軸16aには、ソケット18がばね19を介して突出方向へと付勢されるように装着されていることから、ばね19の弾性力によって、ソケット18をボルト22のねじ頭に押付け、おねじとめねじとを軸方向に押圧することができる。
又、載置治具26にワークアセンブリ24を載置することで、緩め作業に係るボルト22の位置を正確に位置決めし、かつ、クランプ治具28によって、載置治具26に対しワークアセンブリ24を確実に固定することで、ロボット12のアームに支持されたナットランナ16に装着されたソケット18を、ボルト22のねじ頭に対し、正確に位置合わせし、ボルト22の緩め作業を円滑に行うことが可能となる。
【0029】
又、ボルト又はナットの緩め装置10は、振動センサコントローラ32により、振動センサ20の振動検知レベルの設定や、振動検出信号のメインコントローラ30への出力がなされるものである。又、ナットランナコントローラ34により、ナットランナ16の回転方向、回転速度、回転トルク、回転角の制御がなされるものである。又、ロボットコントローラ36により、ロボット12のアーム作動制御がなされるものである。更に、これらの各コントローラ32、34、36及びクランプ治具28は、メインコントローラ30により制御されることで、ボルト22の緩め作業が円滑かつ正確に行われるものである。
【0030】
そして、本発明の実施の形態では、おねじとめねじとを軸方向に押圧した状態で緩め方向に相対回転させてボルト22を緩め(S50)、この緩め作業が進行して、おねじのねじ山端部とめねじのねじ山端部とが衝突して発生する振動の発生を受けて、緩め作業の完了を正確に把握する(S70)。そして、おねじとめねじとの相対回転を、直ちに停止することにより(S80)、ねじ切り口を潰してしまうことなく、ボルト22の緩め作業を確実に行うことができる。
【0031】
又、締結されたボルト22のねじ頭にソケット18を押付け、比較的低トルクにてソケットを回転させて、ソケット18とボルト22のねじ頭とを係合させることにより(S30)、ソケット18とボルト22のねじ頭との係合を確実に行うものである。そして、ソケット18とボルト22のねじ頭とを係合させた後に(S40)、比較的高トルクにてソケット18を回転させることで(S50)、ボルト22の緩め作業を開始するものである。
【0032】
しかも、比較的低トルクにてソケット18を回転させてソケット18とボルトのねじ頭とを係合させる際に、ソケット18を締付方向へと回転させることで(S30)、ソケットとボルトのねじ頭又はナットとの係合を行うものである。この際、一旦締付方向にソケット18を回転させることで、ボルト22の実際の締付トルクの如何に係わらずソケット18の回転が停止することを以って、ソケット18とボルト22のねじ頭との係合が確実に行われたことを把握するものである(S40)。
なお、緩め作業に係るボルト22が、規定トルクで締付けられていることが保証されているような場合には、比較的低トルクにてソケット18を回転させてソケット18とボルトのねじ頭とを係合させる際に、ソケット18を緩め方向へと回転させることしてもよい。この場合、ソケット18の六角穴にボルト22のねじ頭が係合することで、ボルト22は回転することなくナットランナ16のトルクは増大し、係合完了を把握することとなるので、締付方向への回転を行う場合と同様の作用効果を得ることが可能である。
【0033】
又、比較的低トルクにてソケットを回転させてソケットとボルトのねじ頭又はナットとを係合させる際に(S40)、設定された比較的低トルクで、ソケット18とボルト22のねじ頭との係合(位相合わせ)を行うことで、ボルト22のねじ頭に、ソケット18によるかじりを生じることなく、確実に係合を行うことができる。そして、設定された比較的低トルクでのソケット18の回転が停止された時点、すなわちソケット18とボルト22のねじ頭との係合を完了した時点で(S40)、比較的高トルクにてソケット18を回転させることにより、ボルト22の緩め作業を開始するものである(S50)。
【0034】
続いて、図5を参照しながら、本発明の第2の実施の形態に係るボルト又はナットの緩め装置38についての説明を行う。なお、本発明の第1の実施の形態と同一部分、若しくは相当する部分には同一符号を付し、詳しい説明を省略する。
本発明の第2の実施の形態に係るボルト又はナットの緩め装置38は、図5に示されるように、インパクトレンチ40に振動センサ20が取付けられた構成を有している。又、制御手段として、振動センサコントローラ32と、インパクトレンチコントローラ42と、これらの各コントローラを制御するメインコントローラ30とが含まれる。インパクトレンチコントローラ42は、インパクトレンチ40の回転停止制御を行うものである。これらのコントローラは、パーソナルコンピュータ等の電子計算機によって構成されるものであるが、本実施の形態に係るメインコントローラ30に関しては、必ずしもPLCが用いられる必要は無く、より簡易のコントローラとすることも可能である。
【0035】
又、ボルト又はナットの緩め装置38によるボルト22の緩め作業の手順は、以下の通りである。
まず、作業者がインパクトレンチ40を手で持ち、ボルト22のねじ頭にソケット18を係合させる。このとき、作業者はソケット18を、インパクトレンチ40を持っていない手の指で回して、ソケット18をボルト22のねじ頭の六角と係合させる。そして、スイッチ40bを押すと、インパクトレンチ40自身が緩め方向に回転し、ボルト22の緩め作業が開始される。この際、作業者は、インパクトレンチ40の回転軸40aに装着されたソケット18とボルト22のねじ頭との係合が外れることを防ぐために、ソケット18をボルト22のねじ頭に押付けるように操作する。
【0036】
そして、ボルト22の緩め作業が進行し、図3の左図のように、ボルト22のおねじのねじ山端部22aが、ワークアセンブリ24側に形成されためねじのねじ山端部24aを通過すると、ソケット18を介してばね19の弾性力がボルト22に作用していることから、図3の右図のように、ねじ山のピッチの半分(1/2P)程度、おねじのねじ山端部22aが再びめねじのねじ溝に落ち込み、おねじのねじ山端部22aとめねじのねじ山端部24aとが衝突する。この際に発生する振動が、図4に示されるような360°間隔の波形Gとして、振動センサ20により検出される。
【0037】
メインコントローラ30は、振動センサコントローラ32からの、おねじのねじ山端部22aとめねじのねじ山端部24aとが衝突して発生する振動の検出信号の有無を監視しており、かかる振動検出信号を受けて、インパクトレンチコントローラ42に対し、緩め動作終了信号を出力する。インパクトレンチコントローラ42は、かかる緩め動作終了指令を受けて、インパクトレンチ40の回転軸40aを、直ちに停止させる。
すなわち、通常のインパクトレンチ40では、押したスイッチ40bを離すことにより、回転軸40aの回転が停止するが、本発明の第2の実施の形態に係るボルト又はナットの緩め装置38においては、スイッチ40bを押した状態でも、緩め動作終了を検知すると、回転軸40aの回転が、直ちに停止するものである。
【0038】
以上のように構成されていることから、本発明の第2の実施の形態に係るボルト又はナットの緩め装置38においても、本発明の第1の実施の形態に係るボルト又はナットの緩め装置10と同様に、ねじ切り口を潰してしまうことなく、ボルト22の緩め作業を確実に行うことができる。
なお、インパクトレンチ40は、作業者が手に持ってボルト22の操作を行うものであることから、高トルクが必要な緩め作業の初期段階では、比較的大きな振動が発生する。しかしながら、ある程度ボルト22が緩んでしまえば、ボルト22を緩め回転させることによる振動は無くなる。したがって、本発明の第2の実施の形態の場合には、メインコントローラ30ないし振動センサコントローラ32において、緩め作業の初期段階の振動を検出しないような制御ロジックを構成することで、ノイズの混入を防ぎ、より円滑な緩め作業を行うことが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0039】
【図1】本発明の第1の実施の形態に係るボルト又はナットの緩め装置の概略図である。
【図2】図1に示されるボルト又はナットの緩め装置による、ボルトの緩め作業の手順を示すフローチャートである。
【図3】図1に示されるボルト又はナットの緩め装置による、ボルトの緩め作業が進行し、おねじのねじ山端部がめねじのねじ山端部を通過する様子を左側に、おねじのねじ山端部が再びめねじのねじ溝に落ち込み、おねじのねじ山端部とめねじのねじ山端部とが衝突する様子を右側に示した図である。
【図4】図1に示されるボルト又はナットの緩め装置の、振動センサにより検出される振動波形を示す図である。
【図5】本発明の第2の実施の形態に係るボルト又はナットの緩め装置の概略図である。
【符号の説明】
【0040】
10、38:ボルト又はナットの緩め装置、 12:ロボット、16:ナットランナ、 18:ソケット、19:ばね、20:振動センサ、22:ボルト、24:ワークアセンブリ、30:メインコントローラ、32:振動センサコントローラ、34:ナットランナコントローラ、36:ロボットコントローラ、40:インパクトレンチ、42:インパクトレンチコントローラ

【特許請求の範囲】
【請求項1】
締結されたボルト又はナットの緩め方法であって、おねじとめねじとを軸方向に押圧した状態で緩め方向に相対回転させてボルト又はナットを緩め、おねじのねじ山端部とめねじのねじ山端部とが衝突して発生する振動の発生を受けて、おねじとめねじとの相対回転を停止することを特徴とするボルト又はナットの緩め方法。
【請求項2】
前記おねじとめねじとを軸方向に押圧した状態で緩め方向に相対回転させてボルト又はナットをゆるめる際に、締結されたボルトのねじ頭又はナットにソケットを押付け、比較的低トルクにてソケットを回転させて、ソケットとボルトのねじ頭又はナットとを係合させ、続いて、比較的高トルクにてソケットを回転させることを特徴とする請求項1記載のボルト又はナットの緩め方法。
【請求項3】
前記比較的低トルクにてソケットを回転させてソケットとボルトのねじ頭又はナットとを係合させる際に、前記ソケットを締付方向へと回転させることを特徴とする請求項2記載のボルト又はナットの緩め方法。
【請求項4】
前記比較的低トルクにてソケットを回転させてソケットとボルトのねじ頭又はナットとを係合させる際に、設定された比較的低トルクでのソケットの回転が停止した時点で、比較的高トルクにてソケットを回転させることを特徴とする請求項2又は3記載のボルト又はナットの緩め方法。
【請求項5】
締結されたボルト又はナットの緩め装置であって、ボルト頭部又はナットに係合するソケットと、該ソケットを回転駆動する駆動手段と、前記ソケットをボルト又はナットに押付け、おねじとめねじとを軸方向に押圧した状態で緩め方向に相対回転させてボルト又はナットを緩めることにより、おねじのねじ山端部とめねじのねじ山端部とが衝突して発生する振動を検出する振動センサと、該振動センサの検出信号を受けて、前記駆動手段を停止させる制御手段とを備えることを特徴とするボルト又はナットの緩め装置。
【請求項6】
前記制御手段には、前記ソケットをボルト又はナットに押付け、前記おねじとめねじとを軸方向に押圧した状態で緩め方向に相対回転させてボルト又はナットをゆるめる際に、前記駆動手段により、比較的低トルクにてソケットを回転させ、続いて、比較的高トルクにてソケットを回転させる制御ロジックが含まれることを特徴とする請求項5記載のボルト又はナットの緩め装置。
【請求項7】
前記制御手段には、比較的低トルクにてソケットを回転させる際に、前記駆動手段により、前記ソケットを締付方向へと回転させる制御ロジックが含まれることを特徴とする請求項6記載のボルト又はナットの緩め装置。
【請求項8】
前記制御手段には、前記比較的低トルクにてソケットを回転させてソケットとボルトのねじ頭又はナットとを係合させる際に、設定された比較的低トルクでのソケットの回転が停止したことを前記駆動手段から把握した時点で、比較的高トルクにてソケットを回転させる制御ロジックが含まれることを特徴とする請求項6又は7記載のボルト又はナットの緩め装置。
【請求項9】
前記駆動手段は、ロボットのアームに支持されたナットランナであり、前記振動センサは、前記ナットランナを介しておねじのねじ山端部とめねじのねじ山端部とが衝突して発生する振動を検出するに適した位置に設けられていることを特徴とする請求項5から8のいずれか1項記載のボルト又はナットの緩め装置。
【請求項10】
前記ソケットは、前記ナットランナの回転軸に対し突出方向へと付勢されるように、ばねを介して装着されていることを特徴とする請求項5から8のいずれか1項記載のボルト又はナットの緩め装置。
【請求項11】
前記駆動手段はインパクトレンチであり、前記振動センサは、前記インパクトレンチに固定されていることを特徴とする請求項5項記載のボルト又はナットの緩め装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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