説明

ボルト端部処理装置

【課題】切粉の飛散を防止しつつ、ボルト端部を切削或いは研削可能なボルト端部処理装置及びボルト端部処理方法を提供する。
【解決手段】施工されたボルト端部を滑らかな面に加工する可搬式のボルト端部処理装置10であって、ボルト1に締結したナット2に対して先端部が略隙間なく外嵌可能な外装スリーブ12と、外装スリーブ12に一定の隙間をあけて相対回転自在に内装され、ボルト1の先端部1aを切削する第1刃物13Aと、第1刃物13Aに外嵌固定され、ボルト1の先端外周部1aを面取りする第2刃物13Bと、両刃物13を回転させる駆動手段14とを備えた。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、トルシア形ボルトの端部処理に好適に利用可能なボルト端部処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
橋梁や高層ビルなどの鉄骨構造物における鉄骨同士の結合は、鉄骨に形成したボルト孔にボルトを挿通させて、ボルト端部にナットを締結することにより行われている。鉄骨を結合するためのボルトとしては、ボルトの先端近傍部に破断溝を形成し、破断溝よりも先端側のピンテールを保持しながらナットを締め付け可能となし、締め付けトルクが設定トルク以上になったときに、破断溝が破断してピンテールが脱落するように構成した所謂トルシア形ボルトが、締め付け反力をピンテールで受け止めて、ボルトの共回りを防止できること、所望の締め付けトルクを確実に確保できること、などの利点を有することから広く採用されている(例えば、特許文献1参照。)。
【0003】
【特許文献1】特開平8−105422号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで、前記トルシア形ボルトでは、破断溝に沿ってピンテールを破断させることから、ピンテールの破断後のボルトの先端部は、表面の粗い破断面となり、手指が接触すると、怪我をする可能性があること、ボルトの先端部が防錆処理等の施されていない地肌となるので、雨水等が付着して腐食し易いこと、などの問題がある。また、腐食を防止するため、ピンテールを破断してからボルト端部に、防錆塗料等を塗布することも実施されているが、ボルトの先端部が粗面であることから防錆塗料の乗りが悪くなったり、塗膜が剥離し易くなったりするなどの塗装不良が発生し易く、防錆効果を十分に確保できないという問題があった。
【0005】
一方、グラインダーでボルトの先端部を滑らかに面に研削してから、防錆塗料を塗布することも可能であるが、市販されている簡易なグラインダーでは、切粉が飛散してしまい、作業環境が悪化したり、飛散した切粉が錆びて、鉄骨の耐久性を低下させたり、施工現場付近に駐車している車両の上に切粉が付着して、車両の塗膜を傷つけたりするなど、多くの問題があった。しかも、グラインダーによる研削では、ボルト1本当たり、30秒〜60秒程度の加工時間を要し、比較的小型な橋梁であっても、数千本ものボルトが使用されることから、研削作業に多大な時間を要するという問題もある。
【0006】
本発明の目的は、切粉の飛散を防止しつつ、ボルト端部を切削或いは研削可能なボルト端部処理装置及びボルト端部処理方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明に係るボルト端部処理装置は、施工されたボルト端部を滑らかな面に加工する可搬式のボルト端部処理装置であって、前記ボルトに締結したナットに対して先端部が略隙間なく外嵌可能な外装スリーブと、前記外装スリーブに一定の隙間をあけて相対回転自在に内装され、前記ボルトの先端部を切削する第1刃物と、前記第1刃物を回転させる駆動手段とを備えたものである。
【0008】
ボルト端部処理装置では、ナットに外装スリーブの先端部を略隙間なく外嵌させた状態で、外装スリーブ内において第1刃物でボルトの先端部を切削するので、切粉が外部に飛散することを確実に防止できる。また、ナットに外嵌させた外装スリーブにより第1刃物の回転中心をボルトの軸心と同軸上に位置決めできるので、第1刃物とボルトとの位置関係を安定させて、ボルトの先端部を円滑に切削することができる。更に、切削によりボルトの先端部を滑らかな面に加工するので、研削により加工する場合と比較して、ボルト端部の加工時間を大幅に短縮できる。尚、切削により発生した切粉は、外装スリーブに収納箱を着脱自在に設けるなどして、該収納箱に順次排出するように構成することもできるし、後述のように、外装スリーブ内に接続した吸引機で吸引することができる。
【0009】
ここで、前記ボルト端部処理装置において、前記ボルトの先端外周部を面取りする第2刃物を第1刃物に外嵌固定し、前記第1刃物及び第2刃物を外装スリーブに一定の隙間をあけて相対回転自在に内装することもできる。ボルトの先端部を滑らかな面に加工した場合であっても、先端外周部に角部が形成されると、該角部に対する防錆塗料の膜厚が薄くなるので、ボルトの先端外周部は面取りすることが好ましい。本発明では、ボルトの先端外周部を面取りする第2刃物を第1刃物に外嵌固定して、ボルトの先端部の切削とボルトの先端外周部の切削を同時に行うようにすることで、作業性の低下を防止しつつ、ボルト端部を角部のない滑らかな面に加工できる。
【0010】
前記第1刃物に外嵌固定されるホルダ部材を設け、ホルダ部材の先端部に第2刃物を設け、第1刃物とホルダ部材間に侵入した切粉を外部へ排出する排出孔をホルダ部材に形成することも好ましい実施の形態である。このように構成することで、第1刃物とホルダ部材間に侵入した切粉を排出孔を通じて外部へ排出することが可能となり、切粉の目詰まりを防止できる。刃物の回転時における遠心力を利用して、第1刃物とホルダ部材間に侵入した切粉を円滑に外部へ排出することができる。また、第1刃物とホルダ部材間の隙間の空気を、遠心力を利用して外部へ排出して、外装スリーブ内の空気を循環できるので、両刃物を効率的に冷却して、切削時における発熱で刃物が熱劣化することを防止できる。
【0011】
前記外装スリーブ内の切粉を吸引する吸引機を設けることも好ましい実施の形態である。この場合には、ボルト端部を切削するときに発生する切粉を、吸引機で吸引できるので、切粉の飛散を確実に防止できるとともに、切粉の排出を効率的に行うことが可能となる。また、ナットと外装スリーブ間の隙間から外装スリーブ内に流入した外気により刃物を冷却できるので、切削時の発熱による温度上昇で刃物が熱劣化することを防止できる。
【0012】
前記外装スリーブの基端部を、前記駆動手段のチャックに相対回転自在に外嵌固定することも好ましい実施の形態である。外装スリーブは、駆動手段のケーシング等に固定して、切削反力をナットで受け止めるように構成することも好ましいが、本発明のように駆動手段のチャックに相対回転自在に外嵌固定すると、外装スリーブを小型に構成できるので好ましい。
【0013】
前記第1刃物と第2刃物のいずれか一方を砥石で構成し、ボルトの先端部とボルトの先端外周部のいずれか一方を研削することもできる。刃物による切削でボルトの先端部を滑らかな面に加工することが、処理時間を短縮して作業効率を高める上で好ましいが、砥石により研削することも可能である。
【0014】
前記ボルトがトルシア形ボルトであることが好ましい実施の形態である。トルシア形ボルトでは、ボルト締結時にピンテールを破断させるので、締結後のボルトの先端部に粗い表面の破断面が形成され、該破断面において錆が発生し易くなる。本発明に係るボルト端部処理装置では、このような破断面を滑らかな面に加工して防錆塗料の乗りを良くできるので、トルシア形ボルトの先端部の加工に好適である。
【0015】
本発明に係るボルト端部処理方法は、施工されたボルト端部を滑らかな面に加工するボルト端部処理方法であって、前記ボルトに締結したナットに外装スリーブの先端部を略隙間なく外嵌させて、外装スリーブの軸心をボルトの軸心と同軸上に位置決めするとともに、外装スリーブ内の切粉を吸引して集塵しながら、外装スリーブに内装した第1刃物を回転させて、第1刃物でボルトの先端部を切削するものである。
【0016】
前記ボルト端部処理方法では、ナットに外装スリーブの先端部を略隙間なく外嵌させるとともに、外装スリーブ内における切粉を吸引して集塵しながら、外装スリーブ内において第1刃物でボルトの先端部を切削するので、切粉が外部に飛散することを確実に防止することができるとともに、切粉の集塵を効率的に行うことが可能となる。また、ナットと外装スリーブ間の隙間から外装スリーブ内に流入した外気により刃物を冷却できるので、切削時の発熱による温度上昇で刃物が熱劣化することを防止できる。更に、ナットに外嵌させた外装スリーブにより第1刃物の回転中心をボルトの軸心と同軸上に位置決めできるので、第1刃物とボルトとの位置関係を安定させて、ボルトの先端部を円滑に切削することができる。更にまた、切削によりボルトの先端部を滑らかな面に加工するので、研削により加工する場合と比較して、ボルトの先端部の加工時間を大幅に短縮できる。
【0017】
ここで、前記ボルトの先端外周部を面取りする第2刃物を第1刃物に外嵌固定し、第1刃物と第2刃物でボルトの先端部と先端外周部を同時に切削することが好ましい実施の形態である。この場合には、ボルトの先端部の切削とボルトの先端外周部の切削を同時に行うことができるので、作業性を低下させることなく、ボルトの先端部をより一層滑らか面に加工することができる。
【0018】
前記第1刃物に外嵌固定されるホルダ部材を設け、ホルダ部材の先端部に第2刃物を設け、前記第1刃物とホルダ部材間に侵入した切粉をホルダ部材に形成した排出孔から排出しながら、ボルト端部を切削することもできる。この場合には、第1刃物とホルダ部材間に侵入した切粉を排出孔を通じて外部へ排出することが可能となり、切粉の目詰まりを防止できる。しかも、刃物の回転時における遠心力を利用して、第1刃物とホルダ部材間に侵入した切粉を円滑に外部へ排出することができる。また、第1刃物とホルダ部材間の隙間の空気を、遠心力を利用して外部へ排出して、外装スリーブ内の空気を循環できるので、両刃物を効率的に冷却して、切削時における発熱で刃物が熱劣化することを防止できる。
【0019】
前記第1刃物と第2刃物のいずれか一方を砥石で構成し、ボルトの先端部とボルトの先端外周部のいずれか一方を研削することができる。刃物による切削でボルトの先端部を滑らかな面に加工することが、処理時間を短縮して作業効率を高める上で好ましいが、砥石により加工することも可能である。
【0020】
前記ボルトがトルシア形ボルトであることが好ましい実施の形態である。トルシア形ボルトでは、ボルト締結時にピンテールを破断させるので、締結後のボルトの端部に粗い表面の破断面が形成され、該破断面において錆が発生し易くなる。本発明に係るボルト端部処理装置では、このような破断面を滑らかな面に加工して防錆塗料の乗りを良くできるので、トルシア形ボルトの先端部の加工に好適である。
【発明の効果】
【0021】
本発明に係るボルト端部処理装置及びボルト端部処理方法によれば、ナットに外装スリーブの先端部を略隙間なく外嵌させた状態で、外装スリーブ内において第1刃物でボルトの先端部を切削するので、切粉が外部に飛散することを防止できる。また、ナットに外嵌させた外装スリーブにより第1刃物の回転中心をボルトの軸心と同軸上に位置決めできるので、第1刃物とボルトとの位置関係を安定させて、ボルトの先端部を円滑に切削することができる。更に、切削によりボルトの先端部を滑らかな面に加工するので、研削により加工する場合と比較して、ボルト端面の加工時間を大幅に短縮できる。しかも、本発明に係るボルト端部処理方法では、外装スリーブ内の切粉を吸引して集塵しながらボルトの先端部を切削するので、切粉の集塵を効率的に行うことができるとともに、ナットと外装スリーブ間の隙間から外装スリーブ内に流入した外気により刃物を冷却できるので、切削時の発熱による温度上昇で刃物が熱劣化することを防止できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0022】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
図1に示すように、ボルト端部処理装置10は、施工されたボルト1の端部を滑らかな面に加工する可搬式の処理装置本体11と、処理装置本体11で発生した切粉を吸引する可搬式の吸引機40とを備え、例えばH型鋼5のフランジ部5aとガセットプレート6とに締結された複数のボルト1の先端部を滑らかな面に順次加工するためのものである。
【0023】
ここで、ボルト端部処理装置10で切削処理するボルト1は、トルシア形ボルトであり、図9(a)に示すように、ボルト1の先端近傍部には破断溝3が形成され、破断溝3よりも先端側にはピンテール4が形成されている。そして、例えばこのボルト1で、H型鋼5のフランジ部5aとガセットプレート6とを結合する際には、図9(a)に示すように、フランジ部5aとガセットプレート6とに形成した取付孔7にボルト1を装着して、ボルト1の先端部にナット2を螺合させ、図示外のシャーレンチのソケットにナット2とピンテール4とをそれぞれ保持させた状態で、図9(b)に示すように、破断溝3に沿ってボルト1が破断するまで、ボルト1をナット2に締め付けて、フランジ部5aとガセットプレートとを結合することになる。このため、このボルト1では、要求トルク以上のトルクで確実にボルト1を締結できるが、施工後のボルト1の先端部1aは、錆び易い破断面で構成されることになる。本発明は、このようなボルト1の先端部1aを、防錆塗料の乗り易い滑らか面に加工するのに好適なものである。但し、一般的な構成のボルトに対しても、その施工後に、このボルト端部処理装置10を用いて先端部を滑らかに加工することも可能である。
【0024】
処理装置本体11は、図1〜図7に示すように、作業者が両手で支持しながら操作可能な可搬式のもので、ボルト1に締結したナット2に対して先端部が略隙間なく外嵌可能な外装スリーブ12と、外装スリーブ12に一定の隙間をあけて相対回転自在に内装され、ボルト1の先端部を切削する刃物13と、刃物13を回転させる駆動手段14とを備えている。
【0025】
駆動手段14は、ケーシング15内に組み込んだ図示外の電動モータと減速機とを備え、減速機の出力軸16に設けたチャック17に工具を着脱自在に保持させて、押しボタン式の電源スイッチ18で、チャック17を減速回転できるように構成したもので、汎用の電動ドリル等の本体装置で構成されている。但し、駆動手段14としては、汎用の電動ドリル等の本体装置を用いることが、製作コストを安くする上で好ましいが、電動モータによりチャック17を回転駆動できるものであれば、任意の構成のものを採用することができる。
【0026】
外装スリーブ12は、チャック17の先端部に外嵌固定した固定スリーブ20と、固定スリーブ20にベアリング21を介して回転自在で且つ軸方向に移動不能に外装した連結スリーブ22と、基端部を連結スリーブ22の先端部に溶接等により内嵌固定した延長スリーブ23と、延長スリーブ23の先端部に外嵌固定したソケット保持部材24と、ソケット保持部材24に着脱自在に取り付けたソケット25とを備えている。
【0027】
固定スリーブ20は2本の固定ネジ26を用いてチャック17に固定され、固定スリーブ20にはベアリング21が軸方向に移動不能に外嵌固定されている。ソケット25は、シャーレンチ用のソケットで構成され、ソケット25の内周面にはナット2に嵌合する12本の係合溝25aが軸方向に形成されている。ソケット25の外周部にはリング状の鍔部27が外方へ突出状に形成され、鍔部27には周方向に間隔をあけて4つの係合切欠部28が形成されている。ソケット保持部材24の先端部には係合切欠部28に係合する係合突部29が突出状に形成され、ソケット25は、係合切欠部28を係合突部29に係合させて、2本の固定ネジ30を締結することで、ソケット保持部材24に対して相対回転不能に取り付けられている。尚、連結スリーブ22と延長スリーブ23とソケット保持部材24とソケット25とは一体部材で構成することも可能であるが、少なくともソケット25は、嵌合させるナット2の寸法に応じて取替可能に構成するため別部材で構成することが好ましい。また、本実施の形態では、チャック17に対して外装スリーブ12を回転自在に取り付けたが、固定スリーブ20及びベアリング21を省略して、連結スリーブ22の基端部を駆動手段14のケーシング15に固定することも可能である。この場合には、刃物13による切削反力をケーシング15及び外装スリーブを介してナット2で受け止めることができる。
【0028】
刃物13について説明すると、図3〜図7に示すように、チャック17に着脱自在に固定保持した軸部31を有する有底円筒状のホルダ部材32が設けられ、ホルダ部材32の途中部と外装スリーブ12間にはベアリング33が設けられ、ホルダ部材32は、ベアリング33を介して外装スリーブ12に回転自在で同軸上に設けられている。ホルダ部材32内にはボルト1の先端部1aを切削するための第1刃物13Aが内嵌装着されている。第1刃物13Aは、一般的なエンドミルで構成され、2本の固定ネジ34でホルダ部材32に対して着脱自在に固定され、この第1刃物13Aの先端でボルト1の先端部1aを切削することになる。ホルダ部材32の先端部にはボルト1の先端外周部を面取りするための第2刃物13Bが設けられている。第2刃物13Bは、周方向に一定間隔おきにロウ付けした12枚の略三角形状のチップ35を備え、これらのチップ35によりボルト1の先端外周部1bを切削により傾斜状に面取りできるように構成したものである。チップ35の枚数は任意に設定できるが、第1刃物13Aと第2刃物13Bの切削効率が同じになるように、6〜12枚に設定することが好ましい。第1刃物13Aと第2刃物13Bとは、ボルト1の先端部1aと先端外周部1bとを同時に切削加工できる位置関係に設けられている。また、刃物13でボルト1の先端部1aを切削できるように、刃物13をボルト1の先端部1aに当接させた状態で、ソケット25の先端部とナット2のワッシャ8間に、少なくとも切削に必要な送り量に相当する隙間Tが形成されるように、刃物13は外装スリーブ12内に配置されている。
【0029】
ホルダ部材32の長さ方向の途中部には切粉を排出するための排出孔36が周方向に間隔をあけて複数形成され、第1刃物13Aとホルダ部材32間の隙間に侵入した切粉は、刃物13の回転時における遠心力で、排出孔36からホルダ部材32外へ排出されるように構成されている。また、この排出孔36を通じて第1刃物13Aとホルダ部材32間の隙間の空気がホルダ部材32外へ排出され、外装スリーブ12内に空気の流れが形成されるので、該空気の流れにより刃物13を冷却して、切削時における発熱で刃物13が熱劣化することを防止できる。特に、吸引機40により、切粉を吸引する場合には、刃物13の冷却効率を一層高めることができる。排出孔36としては、任意の形状の孔を形成することが可能で、例えば楕円形や軸方向或いは周方向に細長い長孔を設けることができる。
【0030】
ボルト1の先端部1aは、図8(a)に示すように、第1刃物13Aによりボルト1の先端部1aをボルト1の軸方向に対して直交する平坦面に切削し、第2刃物13Bによりボルト1の先端外周部1bを傾斜面に切削することになるが、ボルト1の外周面と傾斜面との境界部と、傾斜面と平坦面との境界部とに角部1cが形成され、この角部1cにおいて防錆塗料の膜厚がどうしても薄くなるので、図8(b)に示すように、角部1cにアール1dを形成して、ボルト1の外周面と平坦面とが滑らかに連なるように切削することが好ましい。また、図8(c)に示すように、刃物13の形状を調整することで、先端側へ行くにしたがって小径となる先細り状の先端部1eに切削することもできるし、図8(d)に示すように、部分球面状や半球状の先端部1fに形成することも可能である。
【0031】
尚、ボルト1の先端部1aの切削後の形状は、ボルト1の端部への防錆塗装の乗りが悪くなったり、塗膜が部分的に薄くなったりすることを防止して、一様な厚さの塗膜が形成されるように構成されていれば、任意の形状に設定できる。また、刃物13として、ホルダ部材32及び第2刃物13Bを省略して、第1刃物13Aをチャック17に対して直接的に保持させたものを用い、ボルト1の先端部1aのみを切削することも可能である。また、第1刃物13Aと第2刃物13Bの少なくとも一方に代えて砥石を設け、ボルト1の先端部1aを研削することもできる。
【0032】
吸引機40は、図1に示すように、外装スリーブ12内の切粉を吸引するもので、キャスターで移動可能なキャニスタータイプの掃除機を採用することも可能であるが、建築現場等においては床面が平坦でなかったり、建築用資材が床面に設置されていたりするので、肩に掛けて或いは背負って使用可能な掃除機で構成することが好ましい。また、集塵方式としては、サイクロンタイプを採用することも可能であるが、金属製の切粉を効率的に吸引できるように、吸引力の高いフィルタータイプの掃除機を採用することが好ましい。
【0033】
吸引機40のホース41は、図2〜図4に示すように、外装スリーブ12の途中部に接続され、吸引機40を作動させることで、外装スリーブ12内の切粉が空気とともに吸引されるように構成されている。外装スリーブ12に対するホース41の接続位置は、切粉を効率的に吸引できるように、刃物13の先端部付近に設定することが好ましいが、ベアリング33よりも前側であれば任意の位置に設けることができる。本実施の形態では、ナット2に外嵌するソケット25として汎用品を使用できるようにするため、延長スリーブ23の先端近傍部に接続している。また、吸引機40により外装スリーブ12内の切粉を空気とともに吸引することで、ナット2とソケット25間の隙間から外装スリーブ12内に外気が導入されるので、切削時の発熱による刃物13の温度上昇を抑制して、刃物13の熱劣化を防止できるので好ましい。但し、吸引機40は必ずしも設ける必要はなく、ボルト1の先端部を切削する毎に、ソケット25側を下側にして、外装スリーブ12内の切粉をゴミ箱等に排出することも可能である。また、ソケット25の下部に切粉排出用の開口を形成するとともに、ソケット25の下側に該開口から排出される切粉を一時的に収納する収納ケースを着脱自在に設けることもできる。
【0034】
ボルト端部処理装置10でボルト1の先端部を切削する際には、先ず、図1に示すように、吸引機40を背負うとともに、処理装置本体11を両手で保持しながら、処理装置本体11に取り付けた外装スリーブ12の先端のソケット25をナット2に差し込んで、刃物13の軸心をボルト1の軸心に合致させる。このとき、ソケット25は、図6に示すように、刃物13の先端がボルト1の先端部に当接することから、ナット2の基端部までは差し込むことはできないが、ナット2の軸方向の80〜90%、差し込むことができるので、刃物13の軸心とボルト1の軸心とを容易に合致させることができる。
【0035】
次に、処理装置本体11の駆動手段14により刃物13を回転させながら、刃物13の先端部をボルト1の端部に圧接させて、ボルト1の端部を切削加工することになる。具体的には、第1刃物13Aにより、ボルト1の先端部1aを滑らかな面に切削するとともに、ボルト1の先端外周部1bに角部1cが形成されないように、ボルト1の先端外周部1bを面取りすることになる。刃物13による切削は、外装スリーブ12内においてなされ、しかも外装スリーブ12の先端開口部は、ナット2により閉鎖されるので、切削時に発生する切粉は外装スリーブ12内に残留し、外部へ飛散することはない。また、切粉の一部は、第1刃物13Aとホルダ部材32間の隙間に侵入するが、刃物13の回転時における遠心力で排出孔36を通じて外装スリーブ12内に排出され、目詰まりすることはない。
【0036】
一方、このボルト1の先端部1aの切削時に、吸引機40を作動させて、切削時に発生する切粉を吸引し、吸引機40の図示外の集塵袋等に集めることになる。外装スリーブ12内の切粉を吸引しているとき、外装スリーブ12内には、ソケット25とナット2間の隙間を通じて外気が導入されることになる。このため、切粉がソケット25とナット2間の隙間から外部へ零れ落ちることが防止されるとともに、外装スリーブ12内に導入される外気により、刃物13が冷却されて、刃物13の熱劣化が防止されることになる。しかも、外装スリーブ12内に導入された外気の一部は、第1刃物13Aとホルダ部材32間の隙間を通って排出孔36から外装スリーブ12内に再び戻るので、この第1刃物13Aとホルダ部材32間の隙間を流れる空気によっても、刃物13が効率的に冷却されることになる。吸引機40は、手動操作により必要に応じて作動させることも可能であるし、駆動手段14と連動させて作動させることも可能である。尚、このようにしてボルト1の先端部1a及び先端外周部1bを滑らかな面に順次加工した後、加工面に防錆塗料を塗布する作業を順次行って、ボルト1の腐食を防止することになる。
【0037】
このボルト端部処理装置10では、ナット2にソケット25を差し込んで、刃物13の軸心をボルト1の軸心に合わせた状態で、ボルト1の先端部を切削できるので、ボルト1の先端部1a及び先端外周部1bを円滑に切削することができ、一様な品質の綺麗な加工面を得ることができるとともに、刃物13がボルト1に対して傾いた状態で圧接されることによる、刃物13の破損を防止できる。また、外装スリーブ12内においてボルト1の端部を切削するので、切削時に発生する切粉の飛散を防止できる。しかも、吸引機40により、切削時に発生した切粉を吸引するので、切粉を容易に集塵できるとともに、外装スリーブ12内に導入された外気により刃物13を冷却できるので、切削時における発熱で刃物13が熱劣化することを防止できる。更に、切削によりボルト1の先端部を滑らかな面に加工するので、研削により加工する場合と比較して、ボルト1の先端部の加工時間を大幅に短縮できる。
【図面の簡単な説明】
【0038】
【図1】ボルト端部処理装置の説明図
【図2】処理装置本体の側面図
【図3】外装スリーブ及び刃物の分解斜視図
【図4】外装スリーブ付近においける処理装置本体の縦断面図
【図5】刃物の分解説明図
【図6】ボルト端部処理装置の使用方法の説明図
【図7】刃物の正面図
【図8】(a)〜(d)はボルトの先端部の形状を示す側面図
【図9】(a)(b)はトルシア形ボルトの締結方法の説明図
【符号の説明】
【0039】
1 ボルト 1a 先端部
1b 先端外周部 1c 角部
1d アール 1e 先端部
1f 先端部
2 ナット 3 破断溝
4 ピンテール 5 H型鋼
5a フランジ部 6 ガセットプレート
7 取付孔 8 ワッシャ
10 ボルト端部処理装置 11 処理装置本体
12 外装スリーブ 13 刃物
13A 第1刃物 13B 第2刃物
14 駆動手段 15 ケーシング
16 出力軸 17 チャック
18 電源スイッチ
20 固定スリーブ 21 ベアリング
22 連結スリーブ 23 延長スリーブ
24 ソケット保持部材 25 ソケット
25a 係合溝 26 固定ネジ
27 鍔部 28 係合切欠部
29 係合突部 30 固定ネジ
31 軸部 32 ホルダ部材
33 ベアリング 34 固定ネジ
35 チップ 36 排出孔
40 吸引機 41 ホース


【特許請求の範囲】
【請求項1】
施工されたボルト端部を滑らかな面に加工する可搬式のボルト端部処理装置であって、
前記ボルトに締結したナットに対して先端部が略隙間なく外嵌可能な外装スリーブと、
前記外装スリーブに一定の隙間をあけて相対回転自在に内装され、前記ボルトの先端部を切削する第1刃物と、
前記第1刃物を回転させる駆動手段と、
を備えたボルト端部処理装置。
【請求項2】
前記ボルトの先端外周部を面取りする第2刃物を第1刃物に外嵌固定し、前記第1刃物及び第2刃物を外装スリーブに一定の隙間をあけて相対回転自在に内装した請求項1記載のボルト端部処理装置。
【請求項3】
前記第1刃物に外嵌固定されるホルダ部材を設け、ホルダ部材の先端部に第2刃物を設け、第1刃物とホルダ部材間に侵入した切粉を外部へ排出する排出孔をホルダ部材に形成した請求項2記載のボルト端部処理装置。
【請求項4】
前記外装スリーブ内の切粉を吸引する吸引機を設けた請求項1〜3のいずれか1項記載のボルト端部処理装置。
【請求項5】
前記外装スリーブの基端部を、前記駆動手段のチャックに相対回転自在に外嵌固定した請求項1〜4のいずれか1項記載のボルト端部処理装置。
【請求項6】
前記第1刃物と第2刃物のいずれか一方を砥石で構成し、ボルトの先端部とボルトの先端外周部のいずれか一方を研削する請求項1〜5のいずれか1項記載のボルト端部処理装置。
【請求項7】
前記ボルトがトルシア形ボルトである請求項1〜6のいずれか1項記載のボルト端部処理装置。
【請求項8】
施工されたボルト端部を滑らかな面に加工するボルト端部処理方法であって、
前記ボルトに締結したナットに外装スリーブの先端部を略隙間なく外嵌させて、外装スリーブの軸心をボルトの軸心と同軸上に位置決めするとともに、外装スリーブ内の切粉を吸引して集塵しながら、外装スリーブに内装した第1刃物を回転させて、第1刃物でボルトの先端部を切削するボルト端部処理方法。
【請求項9】
前記ボルトの先端外周部を面取りする第2刃物を第1刃物に外嵌固定し、第1刃物と第2刃物でボルトの先端部と先端外周部を同時に切削する請求項8記載のボルト端部処理方法。
【請求項10】
前記第1刃物に外嵌固定されるホルダ部材を設け、ホルダ部材の先端部に第2刃物を設け、前記第1刃物とホルダ部材間に侵入した切粉をホルダ部材に形成した排出孔から排出しながら、ボルト端部を切削する請求項9記載のボルト端部処理方法。
【請求項11】
前記第1刃物と第2刃物のいずれか一方を砥石で構成し、ボルトの先端部とボルトの先端外周部のいずれか一方を研削する請求項8〜10のいずれか1項記載のボルト端部処理方法。
【請求項12】
前記ボルトがトルシア形ボルトである請求項8〜11のいずれか1項記載のボルト端部処理方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2008−290242(P2008−290242A)
【公開日】平成20年12月4日(2008.12.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−195722(P2008−195722)
【出願日】平成20年7月30日(2008.7.30)
【分割の表示】特願2007−103510(P2007−103510)の分割
【原出願日】平成19年4月11日(2007.4.11)
【出願人】(398075781)ジロー株式會社 (16)
【Fターム(参考)】