ボーリングホルダの工具径調整システム
【課題】微動調整機構と粗動調整機構の2段階の調整機構を有する場合に、工具径の自動補正ができるボーリングホルダの工具径調整システムを提供する。
【解決手段】ボーリングホルダ1は、刃具70と、回転軸線から刃具70までの位置を調整可能な微動調整機構20および粗動調整機構50を備える。さらに、工具径調整システムは、ボーリングホルダ1の工具径を計測する工具径計測装置109と、工具径計測装置109により計測された工具径と目標工具径とに基づいて補正量を算出し、補正量に基づいて微動調整機構20および粗動調整機構50を動作させることにより工具径を目標工具径に一致させる制御装置108とを備える。
【解決手段】ボーリングホルダ1は、刃具70と、回転軸線から刃具70までの位置を調整可能な微動調整機構20および粗動調整機構50を備える。さらに、工具径調整システムは、ボーリングホルダ1の工具径を計測する工具径計測装置109と、工具径計測装置109により計測された工具径と目標工具径とに基づいて補正量を算出し、補正量に基づいて微動調整機構20および粗動調整機構50を動作させることにより工具径を目標工具径に一致させる制御装置108とを備える。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、工具径を調整可能なボーリングホルダの工具径調整システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、工具径を調整可能なボーリングホルダとして、例えば、特許文献1に記載されえたものがある。特許文献1には、加工した工作物の穴径を計測して、計測した穴径に基づいてボーリングホルダの工具径を補正することが記載されている。また、特許文献2には、工具径をレーザにより計測することが記載されている。
【0003】
また、工具径を調整可能なボーリングホルダとして、2段階(粗動と微動)の調整機構を有するものが特許文献3に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭57−61407号公報
【特許文献2】特開2002−254274号公報
【特許文献3】特開2001−62613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の計測結果に基づいて工具径を補正するボーリングホルダは、1段階の調整機構を有するものである。また、特許文献3に記載の2段階調整機構を有するボーリングホルダは、ダイヤルナットおよび粗動ねじを手動で回転することにより工具径を調整するものである。
【0006】
本発明は、微動調整機構と粗動調整機構の2段階の調整機構を有する場合に、工具径の自動補正ができるボーリングホルダの工具径調整システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明の特徴は、
刃具と、回転軸線から前記刃具までの位置を調整可能な微動調整機構および粗動調整機構と、を備えるボーリングホルダと、
前記ボーリングホルダの工具径を計測する工具径計測装置と、
前記工具径計測装置により計測された前記工具径と目標工具径とに基づいて補正量を算出し、前記補正量に基づいて前記微動調整機構および前記粗動調整機構を動作させることにより前記工具径を前記目標工具径に一致させる制御装置と、
を備えることである。
【0008】
請求項2に係る発明の特徴は、前記制御装置は、前記補正量に基づいて前記微動調整機構および前記粗動調整機構のうち動作させる調整機構を決定し、決定された前記調整機構を動作させることにより前記工具径を前記目標工具径に一致させることである。
請求項3に係る発明の特徴は、前記工具径調整システムは、前回計測した前記ボーリングホルダの工具径を前回工具径として記憶する前回工具径記憶手段をさらに備え、前記制御装置は、前記前回工具径記憶手段に記憶された前記前回工具径と前記目標工具径との差分を補正量として算出することである。
【0009】
請求項4に係る発明の特徴は、前記制御装置は、前記目標工具径が設定閾値より大きい場合には前記粗動調整機構のみを動作させ、前記目標工具径が前記設定閾値以下の場合には少なくとも前記微動調整機構を動作させることである。
請求項5に係る発明の特徴は、前記制御装置は、前記ボーリングホルダにより工作物を加工する際において、前記ボーリングホルダの工具径に応じて主軸の最高回転数を設定することである。
【発明の効果】
【0010】
上記のように構成した請求項1に係る発明によれば、微動調整機構と粗動調整機構の2段階の調整機構を有するボーリングホルダに対して、確実に自動補正ができる。ここで、微動調整機構と粗動調整機構とは、調整量が異なる。つまり、粗動調整機構による調整量は、微動調整機構による調整量より大きく設定されている。
【0011】
請求項2に係る発明によれば、補正量に応じて、微動調整機構を動作させるか、粗動調整機構を動作させるか、微動調整機構と粗動調整機構の両方を動作させるかを決定することができる。つまり、補正量に応じた適切な動作を実行できる。
請求項3に係る発明によれば、前回工具径を利用するため、工具径を補正する際に毎回工具径を計測する必要がない。従って、工具径の補正に係る時間を短縮することができる。
【0012】
一般に、工作物の穴径が大径の場合には加工公差が大きくなり、工作物の穴径が小径の場合には加工公差が小さくなる。そこで、請求項4に係る発明によれば、工作物の穴径が小径の場合には必ず微動調整機構を用い、工作物の穴径が大径の場合には粗動調整機構のみにより調整することとしている。つまり、工作物の穴径に応じて適切な調整機構の動作を行うことができる。
【0013】
請求項5に係る発明によれば、ボーリングホルダの工具径に応じて主軸の回転数制限を適切にかけることができる。例えば、ボーリングホルダの工具径が大径であるほど、主軸の最高回転数は小さく設定される。なお、「ボーリングホルダの工具径に応じて」とは、「それぞれのボーリングホルダの最大工具径に応じて」の場合や、「ボーリングホルダの現在の工具径に応じて」の意味を含む。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第一実施形態:ボーリングホルダの軸方向の部分断面図である。
【図2】粗動調整機構の軸方向の拡大断面図である。
【図3】図2のA−A断面図である。
【図4】微動調整機構を調整した状態を示すボーリングホルダの軸方向の部分断面図である。
【図5】粗動調整機構の動作:連結工程を示す図である。
【図6】粗動調整機構の動作:アンクランプ工程を示す図である。
【図7】粗動調整機構の動作:当接工程を示す図である。
【図8】粗動調整機構の動作:調整工程を示す図である。
【図9】粗動調整機構の動作:クランプ工程を示す図である。
【図10】図9のB−B断面図である。
【図11】マシニングセンタの正面図であって、工具径計測器が上方空間に収容されている状態を示す図である。
【図12】マシニングセンタの正面図であって、工具径計測器が加工空間に位置し、工具径を計測している状態を示す図である。
【図13】工具径自動調整処理を示すフローチャートである。
【図14】第二実施形態:粗動調整機構の軸方向の拡大断面図である。
【図15】図14のC−C断面図である。
【図16】工具径自動調整処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のボーリングホルダを具体化した実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0016】
<第一実施形態>
(ボーリングホルダの構成)
第一実施形態のボーリングホルダ1の構成について、図1〜図3を参照して説明する。図1に示すように、ボーリングホルダ1は、軸線周りに回転可能な主軸2に保持されて工作物に穴などを加工する工具であって、工具径を調整可能とされている。ここで、各図において、ボーリングホルダ1のうち主軸2側を基端側といい、ボーリングホルダ1のうち刃具70が設けられる側を先端側という。
【0017】
ボーリングホルダ1は、被保持部10と、微動調整機構20と、粗動調整機構50と、刃具70とを備えている。なお、被保持部10、微動調整機構20および粗動調整機構50が、ボーリングホルダ本体に相当する。
【0018】
被保持部10は、基端側に向かって細くなるようなテーパ状に形成されたテーパシャンク部11と、テーパシャンク部11の最基端に設けられたプルスタッド12とを備えている。テーパシャンク部11は、主軸2のテーパ穴に挿入され、プルスタッド12は、主軸2のコレット(図示せず)により把持される。このようにして、被保持部10は、主軸2に保持されている。また、テーパシャンク部11の中心には、軸線方向に延びる空気流路13が形成されている。この空気流路13には、主軸2側から空気が供給される。主軸2側から供給される空気は、制御装置(図示せず)によって圧力を制御される。
【0019】
微動調整機構20は、被保持部10の先端側に取り付けられており、刃具70の軸線からの位置、すなわち工具径を微調整することができる装置である。この微動調整機構20は、基端ボディ部21(本発明の「基部」に相当する)と、弾性変形部41とを備えている。
【0020】
基端ボディ部21は、被保持部10の先端側に一体的に結合されており、内部に空油圧変換部22が形成されている。空油圧変換部22は、次のように構成されている。被保持部10の空気流路13の先端側に連通する第一シリンダ23が形成されている。この第一シリンダ23内に第一ピストン24が、摺動シール25を介して、軸線方向(図1の上下方向に)に往復スライド可能に収容されている。また、第一ピストン24のうち先端側には、連結ロッド26を介して第二ピストン27が連結されている。この第二ピストン27は、第一シリンダ23の先端側に連通する小径の第二シリンダ28内に、摺動シール29を介して、軸線方向に往復スライド可能に収容されている。
【0021】
第二ピストン27の先端側は、作動油が充填される作動油空間30を形成しており、被保持部10の空気流路13を通して空気圧が第一ピストン24に作用することで、第一ピストン24が先端側に移動し、これに伴い第二ピストン27が先端側に移動することで、作動油空間30内の油圧が増圧される。このようにして、空油圧変換部22は、被保持部10の空気流路13から供給される空気圧を、油圧に変換させると共に増圧している。作動油空間30の先端側には、連通路31が連通して形成されている。
【0022】
弾性変形部41は、基端ボディ部21の先端側に、次のように構成されている。弾性変形部41の内部には、パワーユニット42が設けられている。パワーユニット42は、凸ブロック43と凹ブロック44との間に油圧空間45が形成され、この油圧空間45と基端ボディ部21の連通路31とが、弾性変形部41の本体および凹ブロック44に形成してある油通路46を通して連通している。さらに、弾性変形部41にはS字状のスリット47が形成されており、油圧空間45に油圧が作用すると、弾性変形部41における先端側の微動部48は、弾性変形することにより、弾性変形部41のうち基端ボディ部21側に対して、図1の左方向にシフトする。
【0023】
粗動調整機構50は、微動調整機構20の先端側に取り付けられており、刃具70の軸線からの位置、すなわち工具径を粗調整することができる装置である。この粗動調整機構50による工具径の調整可能量は、微動調整機構20による工具径の調整可能量よりも大きい。この粗動調整機構50は、粗動ハウジング51と、粗動移動体52と、カウンタウエイト53と、ピニオン軸54と、流体受給ポート55と、空油圧変換部56と、クランプ部57と、付勢力発生部58とを備えている。
【0024】
粗動ハウジング51は、微動調整機構20の弾性変形部41の微動部48に取り付けられている。つまり、粗動ハウジング51は、弾性変形部41の微動部48が径方向にシフトした場合には、その動作に伴って径方向にシフトする。
【0025】
粗動移動体52は、主として円柱状に形成されている。なお、粗動移動体52は、円柱状に限られるものではなく、例えば、角柱状に形成されるようにしてもよい。この粗動移動体52の先端側(ボーリングホルダ1の径方向外側)に刃具70が設けられている。粗動移動体52の外周面には、円柱の中心軸方向に直交する方向へ延在する溝52aが、円柱の中心軸方向に複数(4個)並設されている。例えば、図1においては、4個の溝52aを形成した図を示している。この溝52aは、周方向において全範囲に形成される必要はなく、所定の位相範囲のみに形成することで足りる。このように形成された粗動移動体52は、粗動ハウジング51の先端側であって径方向に向かって貫通形成されている円形孔51aのうち一方開口側(図1の右側)に、往復スライド可能に嵌挿されている。この粗動移動体52の粗動ハウジング51に対する径方向の移動量(粗動調整量)は、微動調整機構20の弾性変形部41における微動部48の微動調整量より大きい。
【0026】
そして、粗動移動体52の外周面の溝52aが、図1の上側(ボーリングホルダ1の基端側)を向くように配置され、かつ、粗動移動体52がその円柱軸周りに回転しないように回り止めされている。さらに、粗動移動体52の円柱状の基端部には、さらに円柱軸方向に延長されるように移動体側ラック部52bが一体的に形成されている。この移動体側ラック部52bは、ラック&ピニオン機構の一部を構成するものであり、後述するピニオン軸54に噛合している。つまり、ピニオン軸54が回転すると、粗動移動体52は図1の左右方向に移動する。
【0027】
さらに、粗動移動体52の先端側には、基端側に向かって突出する基準部52cが設けられている。この基準部52cのうちボーリングホルダ1の径方向外側面は、ボーリングホルダ1の径方向を法線方向とする平面状に形成されている。そして、基準部52cは、常に粗動ハウジング51の外部に露出する位置に位置している。この基準部52cは、粗動調整を行う際に用いるものであって、後述する粗動調整ユニット80に設けられる位置調整用基準部材83に当接させるための部材である。
【0028】
カウンタウエイト53は、粗動移動体52の偏心運動によって生じる不均一な荷重を吸収するためのものである。つまり、カウンタウエイト53の形状や位置は、粗動移動体52および刃具70による慣性モーメントと等価な慣性モーメントを有するように設定される。本実施形態においては、カウンタウエイト53は、全体としてほぼ円柱状に形成されており、粗動移動体52の質量とほぼ同程度の質量を有している。
【0029】
ここで、このカウンタウエイト53は、慣性モーメントを調整することができるような機構を有している。具体的には、カウンタウエイト53は、ウエイト本体53aと、調整用ウエイト53bとを備えている。調整用ウエイト53bは、例えば、ねじなどにより、ウエイト本体53aに対してカウンタウエイト53のスライド方向に相対移動可能に設けられている。つまり、調整用ウエイト53bのウエイト本体53aに対する位置を調整することで、例えば、刃具70の交換などにより、粗動移動体52および刃具70の慣性モーメントが変更された場合に、カウンタウエイト53全体としてこれに等価な慣性モーメントを有するようにできる。また、カウンタウエイト53は、円柱状に限られるものではなく、例えば、角柱状に形成されるようにしてもよい。
【0030】
このカウンタウエイト53は、粗動ハウジング51の先端側に貫通形成されている円形孔51aのうち他方開口側(図1の左側)に、往復スライド可能に嵌挿されている。そして、カウンタウエイト53は、その円柱軸周りに回転しないように粗動ハウジング51に回り止めされている。カウンタウエイト53の円柱状の基端部には、さらに円柱軸方向に延長されるようにウエイト側ラック部53aが一体的に形成されている。このウエイト側ラック部53aは、ラック&ピニオン機構の一部を構成するものであり、後述するピニオン軸54に噛合している。つまり、ピニオン軸54が回転すると、カウンタウエイト53は図1の左右方向に移動する。
【0031】
ピニオン軸54は、粗動ハウジング51の先端側に貫通形成されている円形孔51aのほぼ中央に、粗動ハウジング51の回転軸線回りに回転可能に支持されている。そして、ピニオン軸54は、移動体側ラック部52bとウエイト側ラック部53aに噛合している。そして、図3において、ピニオン軸54が左回りに回転すると、移動体側ラック部52bが図3の右側、すなわち粗動移動体52が径方向外側に移動し、かつ、ウエイト側ラック部53aが図3の左側、すなわちカウンタウエイト53が粗動移動体52の移動方向とは反対側の径方向外側に移動する。一方、ピニオン軸54が右回りに回転すると、移動体側ラック部52bが図3の左側、すなわち粗動移動体52が径方向内側に移動し、かつ、ウエイト側ラック部53aが図3の右側、すなわちカウンタウエイト53が粗動移動体52の移動方向とは反対側の径方向内側に移動する。つまり、ピニオン軸54が回転すると、粗動移動体52とカウンタウエイト53は、同期して、両者が反対方向に連動する。
【0032】
流体受給ポート55は、粗動ハウジング51の基端側の外周面に設けられている。この流体受給ポート55は、外部の粗動調整ユニット80に連結され、粗動調整ユニット80から供給される空気圧を供給される。さらに、流体受給ポート55は、第一ポートと第二ポートを有している。第一ポートは、後述する空気滞留空間51b側へ空気(本発明の「第二流体」に相当する)を供給するポートであって、第二ポートは、後述する空油圧変換部56側へ空気(本発明の「第一流体」に相当する)を供給するポートである。
【0033】
ここで、粗動ハウジング51には、粗動移動体52の基端(ボーリングホルダ1の径方向内側の端部)とカウンタウエイト53の基端(ボーリングホルダ1の径方向内側の端部)との間には、空気滞留空間51bが形成されている。この空気滞留空間51bと流体受給ポート55の第一ポートとの間には、両者を連通する空気流路51cが形成されている。つまり、空気滞留空間51bには、粗動調整ユニット80から供給される空気圧によって粗動移動体52とカウンタウエイト53が動作する。具体的には、粗動調整ユニット80から空気圧が供給されて空気滞留空間51bの空気圧が高まると、粗動移動体52は、径方向外側、すなわち刃具70の位置が回転軸線から遠ざかる方向へスライドする。粗動移動体52の動作と同時にかつ連動して、カウンタウエイト53が径方向外側へスライドする。また、空気滞留空間51bに供給された空気は、粗動ハウジング51の円形孔51aと粗動移動体52との間に形成されている僅かな隙間、および、当該円形孔51aとカウンタウエイト53との間に形成されている僅かな隙間から外部へ排出される。
【0034】
空油圧変換部56は、粗動ハウジング51の内部に形成され、後述する粗動調整ユニット80から流体受給ポート55の第二ポートを介して供給される空気圧を油圧に変換している。この空油圧変換部56は、粗動ハウジング51の内部に径方向に向かって形成された段付きシリンダ56aと、この段付きシリンダ56a内に径方向に往復スライド可能に収容されているピストン56bとを備えている。ピストン56bは、大径円盤部と小径ロッド部とを有している。段付きシリンダ56aのうちピストン56bの大径円盤部より図2の右側空間には、流体受給ポート55から空気圧が供給される。また、段付きシリンダ56aのうちピストン56bの小径ロッド部の図2の左側空間は、作動油空間を形成している。つまり、流体受給ポート55の第二ポートを介して供給される空気圧がピストン56bの大径円盤部に作用することで、ピストン56bが図2の左側へ移動し、これに伴い作動油空間内の油圧が増圧される。このようにして、空油圧変換部56は、空気圧を油圧に変換させると共に増圧している。
【0035】
クランプ部57は、L字型のレバーからなり、粗動ハウジング51内に支持されている。このクランプ部57は、粗動移動体52の外周面を押圧することにより、粗動ハウジング51に対する粗動移動体52の位置をクランプする。一方、クランプ部57は、粗動移動体52の外周面の押圧を解除することにより、粗動ハウジング51に対する粗動移動体52の位置をアンクランプする。つまり、クランプ部57は、粗動移動体52のクランプとアンクランプの切り替えレバーの役割を有する。なお、クランプ部57は、粗動移動体52のクランプとアンクランプの切り替えを行うのみであって、粗動移動体のスライド動作を行うものではない。つまり、クランプ部57によるクランプ/アンクランプの切り替え動作は、粗動移動体52のスライド動作とは独立して行われる。
【0036】
このクランプ部57は、ほぼL字型の一端側に位置し、粗動ハウジング51に形成された回転支持部51dにほぼ回転可能に支持された支持部57aと、L字型の他端側に位置し、粗動移動体52の外周面を押圧し複数の溝52aの何れかに係合する爪57b(押圧部)とを備えている。つまり、クランプ部57は、支持部57aを中心に揺動することで、爪57bが粗動移動体52の溝52aと係合する状態(クランプ状態)と、爪57bが粗動移動体52の溝52aと係合しない状態(アンクランプ状態)とを切り替え動作する。このクランプ部57は、粗動ハウジング51に配置された第一スプリング60によって、爪57bが粗動移動体52の溝52aと係合しない状態となる方向に付勢されている。
【0037】
さらに、クランプ部57のうち基端側(付勢力発生部58側)には、傾斜面を有する係合突起部57cが形成されている。この係合突起部57cは、図2の状態において、右側の突起量が左側の突起量に比べて小さくなるように形成されている。
【0038】
付勢力発生部58は、クランプ部57が粗動移動体52をクランプする方向(押圧する方向)への付勢力をクランプ部57に対して発生させる。この付勢力発生部58は、第二スプリング58aと、付勢部材58bとを備えている。第二スプリング58aは、粗動ハウジング51のうちボーリングホルダ1の回転軸方向のほぼ中央付近に、径方向に向かって形成された円形孔51eの一端に支持されている。
【0039】
この第二スプリング58aの他端に付勢部材58bが当接している。付勢部材58bは、ほぼ有底筒状をなし、その筒底面に第二スプリング58aが当接し付勢している。一方、付勢部材58bのうち第二スプリング58aと反対側には、作動油空間51fが形成されている。この作動油空間51fは、空油圧変換部56の作動油空間(段付きシリンダ56aのピストン56bの小径ロッド部より図2の左側空間)から、連通路51gを介して供給される作動油が収容される。つまり、付勢部材58bは、第二スプリング58aの付勢力と作動油の圧力とが相互に対抗するように力を受け、両者の力に応じてスライド方向の位置が決定される。
【0040】
この付勢部材58bの外周面には、さらに、図2の左側に向かって縮径するテーパ部58cが形成されている。このテーパ部58cは、付勢部材58bの周方向において全範囲に形成される必要はなく、所定の位相範囲のみに形成することで足りる。このテーパ部58cには、クランプ部57の係合突起部57cの傾斜面が常に当接している。つまり、テーパ部58cとクランプ部57の係合突起部57cとは、くさび係合している。そして、付勢部材58bのスライド位置に応じて、クランプ部57の係合突起部57cの傾斜面が当接する位置が異なる。つまり、付勢部材58bのスライド位置に応じて、クランプ部57が粗動移動体52に対してクランプする方向への付勢力が調整される。
【0041】
(微動調整機構による工具径の微調整方法)
次に、微動調整機構による工具径の微調整方法について、図1および図4を参照してより詳細に説明する。主軸2側から制御された所定の圧力の空気が供給されるとする。そうすると、この空気圧に応じて空油圧変換部22の第一ピストン24が、ボーリングホルダ1の先端側に向かってスライドする。第一ピストン24の移動に伴って、第二ピストン27も、ボーリングホルダ1の先端側に向かってスライドする。この第二ピストン27の移動によって、作動油空間30に充填される作動油の圧力が高まる。作動油の圧力が高まることで、連通路31および油通路46を介して、弾性変形部41の油圧空間45の油圧が高くなる。その結果、弾性変形部41における先端側の微動部48が、図4に示すように、左側へシフトする。
【0042】
このようにして弾性変形部41の微動部48が基端ボディ部21に対して径方向に微動することにより、弾性変形部41の微動部48側に取り付けられている粗動調整機構50全体が、基端ボディ部21に対して径方向に微動する。つまり、粗動移動体52に取り付けられている刃具70の回転軸線に対する位置、すなわち工具径は、微動調整機構20の動作によって微動調整される。
【0043】
微動調整量を変更する場合には、主軸2側から供給される空気の圧力を調整することにより行う。ここで、微動調整機構20は、空油圧変換部22により主軸2側から供給する空気圧を増幅している。従って、小さな空気圧によって、弾性変形部41の弾性変形を可能とする。また、微動調整量をゼロに戻す場合には、主軸2側から供給する空気圧をゼロにすればよい。この微動調整機構20による微動調整は、弾性変形部41の弾性変形によるものであるため、この微動調整量はそれほど大きなものではない。逆に言うと、微動調整機構20は、非常に微小な調整を高精度に行うことができる。
【0044】
(粗動調整機構による工具径の粗調整方法)
次に、粗動調整機構50の動作について、図5〜図10を参照して説明する。粗動調整機構50の動作に際して、粗動調整ユニット80を用いるため、まずは、粗動調整ユニット80について説明する。
【0045】
粗動調整ユニット80は、図5に示すように、流体供給装置81と、流体供給スライドポート82と、位置調整用基準部材83とを備える。流体供給装置81は、空気を供給することができ、かつ、供給する空気圧を制御可能な装置である。この流体供給装置81は、例えば、マシニングセンタのベッド(図示せず)に固定されている。ここで、本実施形態においては、例えば、主軸2がベッドに対して移動可能に構成されるマシニングセンタを適用する場合には、粗動調整ユニット80の流体供給装置81は、主軸2に対して相対的に移動可能に設けられていることになる。
【0046】
流体供給スライドポート82は、粗動調整機構50の流体受給ポート55に連結することができ、流体供給装置81から供給される空気を流体受給ポート55へ供給するポートである。この流体供給スライドポート82は、流体供給装置81に対して、図5の左右方向にスライド可能に設けられている。さらに、流体供給スライドポート82は、流体受給ポート55の第一ポートに対応した第一連結ポートと、流体受給ポート55の第二ポートに対応した第二連結ポートとを備えている。そして、流体供給装置81は、流体供給スライドポート82の第一連結ポートから空気圧を供給するか、第二連結ポートから空気圧を供給するかの切り替えを行うことができる。位置調整用基準部材83は、流体供給装置81に固定されており、粗動移動体52に設けられた基準部52cに当接可能に設けられている。
【0047】
次に、粗動調整機構50による工具径の調整方法について説明する。まず、図5に示すように、主軸2と粗動調整ユニット80とを相対的に移動させて、粗動調整ユニット80の流体供給スライドポート82と、粗動調整機構50の流体受給ポート55とを連結させる(連結工程)。具体的には、流体供給スライドポート82の第一連結ポートを流体受給ポート55の第一ポートに連結し、流体供給スライドポート82の第二連結ポートを流体受給ポート55の第二ポートに連結する。このとき、粗動調整ユニット80の流体供給スライドポート82は、図5の左側に最もスライドした状態としている。さらに、この状態において、粗動移動体52の基準部52cは、粗動調整ユニット80の位置調整用基準部材83に対向するように位置している。
【0048】
続いて、図6に示すように、流体供給装置81が、流体供給スライドポート82の第二連結ポートおよび流体受給ポート55の第二ポートを介して、空油圧変換部56の段付きシリンダ56aのうちピストン56bの大径円盤部の右側空間に空気圧を供給する。そうすると、空油圧変換部56のピストン56bが図6の左側へ移動し、段付きシリンダ56a内のピストン56bの小径ロッド部より図6の左側空間および作動油空間51fの油圧が高まる。この作動油の圧力の高騰により、付勢部材58bが、第二スプリング58aの付勢力に抗して、図6の右側へスライドする。そうすると、付勢部材58bの外周面に形成されているテーパ部58cの位置が、図6の右側へスライドする。これに伴って、クランプ部57の係合突起部57cとテーパ部58cとの接触可能位置が図6の上方に移動する。そのため、第一スプリング60の付勢力により、クランプ部57は、支持部57aを中心として、図6の反時計回りに揺動し、爪57bが粗動移動体52の溝52aから係合を離脱する。つまり、粗動移動体52は、粗動ハウジング51に対してアンクランプされる(アンクランプ工程)。そして、流体供給装置81は、流体供給スライドポート82の第二連結ポート側へ供給している空気圧を一定の状態を維持しておく。
【0049】
続いて、図7に示すように、流体供給装置81が、流体供給スライドポート82の第一連結ポートおよび流体受給ポート55の第一ポートを介して、空気流路51cに空気圧を供給する。そうすると、空気滞留空間51bの空気圧が高まり、空気滞留空間51bの体積を拡大するような力を発生する。つまり、空気滞留空間51bの空気圧の高騰により、粗動移動体52およびカウンタウエイト53が離れる方向、すなわち、径方向外側へスライドする。このとき、粗動移動体52、カウンタウエイト53およびピニオン軸54は、ラック&ピニオン機構を構成している。従って、粗動移動体52の径方向外側へのスライド動作と、カウンタウエイト53の径方向外側へのスライド動作とは、同期しかつ連動している。さらに、粗動移動体52のスライド量とカウンタウエイト53のスライド量とは同一である。
【0050】
このように、粗動移動体52が径方向外側へスライドすることに伴って、粗動移動体52の基準部52cが、粗動調整ユニット80の位置調整用基準部材83に当接する(当接工程)。このとき、刃具70の位置は、ボーリングホルダの回転軸線から遠ざかる方向の所定位置(例えば、最も遠ざかる位置)に移動している。つまり、流体供給スライドポート82が流体供給装置81に対して図7の最も左側に位置する状態であって、流体供給スライドポート82が流体受給ポート55に連結された状態であって、粗動移動体52の基準部52cが位置調整用基準部材83に当接した状態において、刃具70の回転軸線に対する位置、すなわち工具径は、既知である。この状態を基準状態とする。
【0051】
続いて、図8に示すように、基準状態から、主軸2と位置調整用基準部材83との相対的な位置を近接する方向に変更する。例えば、主軸2を移動させる駆動軸があるマシニングセンタにおいては、その駆動軸を用いて主軸2を位置調整用基準部材83に近接する方向に移動する。ここで、基準状態における工具径は既知であって、目標工具径は把握できている。そこで、目標工具径と基準状態における工具径との差分だけ、主軸2を位置調整用基準部材83に近接する方向へ移動させる。このようにして、回転軸線に対する刃具70の位置、すなわち工具径を粗調整する(調整工程)。
【0052】
この調整工程において、回転軸線に対する刃具70の位置を調整する際に、刃具70の位置が回転軸線から遠ざかる方向へ粗動移動体52を粗動ハウジング51に対してスライドさせるために供給された空気は、粗動移動体52およびカウンタウエイト53と粗動ハウジング51に形成された円形孔51aとの僅かな隙間から外部へ排出している。
【0053】
続いて、図9および図10に示すように、流体供給装置81が、流体供給スライドポート82の第二連結ポートおよび流体受給ポート55の第二ポートを介して供給していた空気圧を低下させる。そうすると、空油圧変換部56のピストン56bが図9の右側へ移動し、段付きシリンダ56a内のピストン56bの小径ロッド部より図9の左側空間および作動油空間51fの油圧が低下する。この作動油の圧力の低下により、付勢部材58bが、第二スプリング58aの付勢力により、図9の左側へスライドする。そうすると、付勢部材58bの外周面に形成されているテーパ部58cの位置が、図9の左側へスライドする。これに伴って、クランプ部57の係合突起部57cとテーパ部58cとの接触可能位置が図9の下方に移動する。そのため、第一スプリング60の付勢力に抗して、クランプ部57は、支持部57aを中心として、図9の時計回りに揺動し、爪57bが粗動移動体52の外周面を押圧する。このとき、爪57bは、粗動移動体52の溝52aを押圧しながら係合する。つまり、粗動移動体52は、粗動ハウジング51に対してクランプされる(クランプ工程)。
【0054】
(マシニングセンタにおける具体的適用例)
次に、上述したボーリングホルダ1および粗動調整ユニット80を搭載したマシニングセンタ100について図11および図12を参照して説明する。図11に示すように、マシニングセンタ100は、横型マシニングセンタを例示しており、主軸2を回転可能に支持する主軸台102がベッド101に固定されているコラム103に対してX軸方向およびY軸方向に移動可能とされている。また、工作物を載置するテーブル104は、ベッド101の上にZ軸方向に移動可能とされている。さらに、複数の工具を保管する工具マガジン105が、正面から見て、コラム103の左側に設けられている。そして、主軸2に装着されている工具と工具マガジン105に保管されている工具との交換を行う工具交換装置106が、工具マガジン105とコラム103の間に設けられている。本実施形態においては、工具交換装置106により交換される次工具は、工具マガジン105に保管されている工具を90°旋回させて、次工具交換位置に移動される。そして、粗動調整ユニット80は、ベッド101の右端付近から立設された支持柱107に固定されている。この粗動調整ユニット80は、マシニングセンタ100の加工エリアに設けられている。そして、制御装置108がコラム103の右側面に設けられている。
【0055】
この場合、粗動調整機構50による工具径の粗調整を行う際には、まず、粗動調整ユニット80の流体供給スライドポート82のY軸高さと、粗動調整機構50の流体受給ポート55のY軸高さが一致するように、主軸台102をY軸方向に移動する。続いて、主軸台102をX軸方向に移動することで、流体供給スライドポート82に流体受給ポート55が連結される。その後、クランプ工程、当接工程、調整工程およびアンクランプ工程を順に実行する。
【0056】
ここで、主軸台102をX軸、Y軸に移動する駆動機構は、刃具70により工作物を加工する際に位置決めに用いるものである。そして、粗動調整ユニット80を加工エリアに配置することで、粗動調整機構50による工具径の粗調整に際しても、この駆動機構を用いて粗調整している。つまり、工具径の粗調整に際して、主軸台102の位置決めに用いる駆動手段、例えば、ボールねじとモータにより構成される駆動手段を利用している。従って、専用の駆動手段を用いることなく、工具径の調整を行うことができる。
【0057】
さらに、マシニングセンタ100は、主軸台102の上方であって、コラム103の上面に位置する高さに、上面カバー111が設けられている。この上面カバー111の上方には、シリンダ110が設けられており、シリンダ110の移動シャフトの上端に上下スライド体112が取り付けられている。さらに、この上下スライド体112の下端であって、左右に工具径計測器109が取り付けられている。この工具径計測器109は、左右で一対をなし、レーザによりボーリングホルダ1の工具径を計測できる装置である。この状態において、工具径計測器109は、上面カバー111の上方空間に位置している。
【0058】
そして、上下スライド体112は、図12に示すように、シリンダ110の移動シャフトを下方に移動させることにより、下方へスライドする。そうすると、上下スライド体112の左右下端に取り付けられている工具径計測器109は、加工エリアに移動する。つまり、工具径計測器109は、図12に示す位置において、ボーリングホルダ1の工具径を計測することができる状態となる。
【0059】
(工具径自動調整処理)
次に、上述したマシニングセンタ100(本発明の「工具径調整システム」に相当する)において、ボーリングホルダ1の工具径の自動調整処理について、図13のフローチャートを参照して説明する。
【0060】
まず、現在調整する対象となるボーリングホルダ1に取り付けられている刃具70の使用回数が、予め設定された規定回数に達したか否かを判定する(S1)。この判定は、刃具70の使用回数が、規定回数に達するまでは、刃具70の摩耗による工具径調整は行わないものとし、刃具70の使用回数が規定回数に達した場合には、刃具70の摩耗による工具径調整を行うようにするための判定である。
【0061】
そして、ステップS1において、刃具70の使用回数が規定回数に達していない場合には、前回既に工具径が記憶されているか否かを判定する(S2)。ここで、後述するが、一度工具径の調整を行うと、ステップS10において、現在の工具径を記憶しておく。つまり、前回工具径を調整したボーリングホルダ1が、今回調整対象となる場合には、前回記憶した工具径の情報を用いて調整を行うために、このような判定を行っている。そして、前回工具径が記憶されている場合には(S2:Y)、前回工具径を現在工具径として認定し、現在工具径と目標工具径との差ΔDを算出する(S4)。この差ΔDが補正量となる。
【0062】
ここで、ステップS1において、刃具70の使用回数が規定回数に達した場合には(S1:Y)、摩耗を無視できない状態であると考え、現在の工具径を計測する(S3)。この工具径の計測は、図12を用いて上述したように、工具径計測器109を下降させてボーリングホルダ1の工具径を計測する。また、ステップS2において、前回工具径として記憶されていない場合にも(S2:N)、現在の工具径を計測する(S3)。ステップS3において、工具径を計測した後には、計測した工具径を現在の工具径と認定して、現在工具径と目標工具径との差ΔDを算出する(S4)。
【0063】
続いて、算出された差である補正量ΔDが、微動調整機構20による微調整可能範囲Dfine未満であるか否かを判定する(S5)。この微調整可能範囲Dfineは、予め設定された値である。そして、補正量ΔDが微調整可能範囲Dfine未満である場合には(S5:Y)、微動調整機構20により補正量ΔDだけ微動調整を行う(S9)。
【0064】
そして、補正後の工具径を現在工具径として記憶する(S10)。ここで記憶する現在工具径は、上述したように、ステップS2において用いる情報である。続いて、調整された工具径に応じて主軸2の最高回転数を設定し、処理を終了する(S11)。ここで、工具径が大きいほど最高回転数が小さくなるように設定される。そして、実際に加工に際して、制御装置108が主軸2の回転数を制御する際に、ここで設定された主軸2の最高回転数によって制限されることになる。
【0065】
ステップS5において、差である補正量ΔDが、微動調整機構20による微調整可能範囲Dfine以上である場合には(S5:N)、粗動調整機構50による粗動調整を行う(S6)。ここで、本実施形態においては、粗動調整機構50による粗動調整は、粗動移動体52に形成された溝52aの位置に依存する。従って、目標の補正量ΔDに一致するような粗動調整ができない。つまり、ここにおける粗動調整は、補正量ΔDに最も近い位置に可能な補正量だけ粗動調整することになる。
【0066】
そこで、粗動調整の後には、粗動調整後のボーリングホルダ1の工具径を計測する(S7)。この工具径の計測は、図12を用いて上述したように、工具径計測器109を下降させてボーリングホルダ1の工具径を計測する。そして、再び、計測された現在工具径と目標工具径との差ΔDを算出する(S8)。
【0067】
この差ΔDが、次に行う微動調整による補正量となる。続いて、微動調整機構20により、今回新たに算出された補正量ΔDだけ微動調整を行う(S9)。そして、補正後の工具径を現在工具径として記憶する(S10)。続いて、調整された工具径に応じて主軸2の最高回転数を設定し、処理を終了する(S11)。このようにして、工具径の自動調整を行う。
【0068】
(本実施形態の効果)
以上説明したボーリングホルダ1によれば、主軸2側から先端に向かって、被保持部10、微動調整機構20、粗動調整機構50、刃具70の順に取り付けられている。つまり、粗動調整機構50によって粗動移動体52が径方向に移動したとしても、微動調整機構20は何ら移動しない。つまり、粗動調整機構50によって径方向に移動する部分には、粗動移動体52および刃具70となり、微動調整機構20が含まれない。そして、カウンタウエイト53は、粗動調整機構50に含まれる構成としている。従って、このカウンタウエイト53は、粗動移動体52および刃具70の質量を考慮すれば良く、微動調整機構20の質量は考慮する必要がなくなる。このように、本実施形態のボーリングホルダ1によれば、カウンタウエイト53の質量を小さくすることができる。その結果、回転体としてのボーリングホルダ1全体の質量を小さくすることができる。
【0069】
また、カウンタウエイト53を粗動ハウジング51に対して位置調整可能とする構成としているため、粗動移動体52の移動量に応じてカウンタウエイト53の位置を調整することで、より偏心運動が生じることを抑制できる。さらに、カウンタウエイト53の移動を粗動移動体52に同期して、かつ、粗動移動体52の移動量と同じ移動量だけ移動する構成とすることで、カウンタウエイト53の位置調整を自動的に行うことができる。さらに、カウンタウエイト53をクランプするための専用の機構を有することなく、粗動移動体52をクランプすることによりカウンタウエイト53を同時にクランプすることができる。
【0070】
また、微動調整機構20を弾性変形によって微動調整を行うことで、より高精度に微動調整が可能となる。また、カウンタウエイト53は、粗動調整機構50に含む構成としている。つまり、上述したカウンタウエイト53は、微動調整機構20による調整に伴う偏心運動によって生じる不均一な荷重を吸収することはできない。しかし、微動調整機構20の調整量は弾性変形範囲内であるため、非常に微小である。つまり、粗動調整機構50にカウンタウエイト53を設けることで、ボーリングホルダ1全体において偏心運動によって生じる不均一な荷重を十分に吸収することができる。
【0071】
また、クランプ部57のクランプ/アンクランプの動作と粗動移動体52のスライド動作とが、それぞれ独立した動作としている。つまり、粗動移動体52をスライドさせる手段として、クランプ部57の動作とは別の手段、本実施形態においては、流体供給装置81から供給される流体と主軸2の移動のための駆動部を適用している。このように、粗動移動体52をスライドさせる手段として選択の自由度が高まる。
【0072】
また、本実施形態においては、クランプ部57により粗動移動体52のクランプ/アンクランプの切り替え動作を、流体供給装置81から供給される空気圧の作用により行うこととしている。特に、クランプ部57が粗動移動体52を押圧することによりクランプし、クランプ部57が粗動移動体52に対する押圧を解除することによりアンクランプすることとしている。これにより、非常に簡易な手段によりクランプ部57を構成することができる。さらには、クランプ部57の爪57bにより粗動移動体52を押圧してクランプすることとしている。このように爪57bを有する構成とすることで、クランプ部57を非常に容易に形成することができる。また、クランプ部57の爪57bが複数の溝52aの何れかに係合することにより粗動移動体52をクランプしている。このことにより、確実に粗動移動体52を位置決めすることができる。
【0073】
また、付勢部材58bは、第二スプリング58aの付勢力と流体供給装置81から第二連結ポートを介して供給される空気圧との大きさに応じてスライドする。そして、付勢部材58bがスライドした場合には、付勢部材58bのスライド位置に応じた付勢力を、クランプ部57が粗動移動体52に発生する。そして、付勢部材58bとクランプ部57とはくさび係合しているため、付勢部材58bにおけるスライド方向への力がくさび係合により増幅されて、付勢部材58bからクランプ部57に対する押圧力が発生する。従って、小さな力によって、大きなクランプ力を発生することができる。
【0074】
また、粗動移動体52をスライドさせるためと、クランプ部57をクランプ/アンクランプさせるためとに、流体供給装置81から供給される空気圧を用いている。つまり、流体供給装置81から供給される空気圧を二種類に使い分けて、クランプ部57の動作と、粗動移動体52のスライド動作に用いることとしている。このように、一つの流体供給装置81を用いて、二種類の動作を行わせることで、全体として小型化を図ることができる。
【0075】
また、粗動調整機構による工具径の調整において、刃具70の位置を回転軸線から遠ざかる方向の所定位置に移動させた状態で、かつ、粗動移動体52の基準部52cと位置調整用基準部材83とを当接させた状態を基準状態として、この基準状態から主軸2と位置調整用基準部材83との相対的な位置を近接する方向に変更している。その結果として、回転軸線に対する刃具70の位置を基準状態から近づけることにより、回転軸線に対する刃具70の位置を調整している。このように、基準状態とするために、粗動移動体52に基準部52cを設け、かつ、位置調整用基準部材83を新たに設けることとにより、自動的に工具径を調整することができる。
【0076】
また、流体供給装置81から供給される空気圧を用いて、刃具70の位置を回転軸線から遠ざかる方向の所定位置(例えば、最も遠ざかる位置)にしている。これにより、粗動移動体52の基準部52cと位置調整用基準部材83とを当接させる当接工程を容易に実現できる。ここで、このように当接工程において、刃具を回転軸線から遠ざかる方向の所定位置に移動させるために流体を用いた場合には、当接工程および調整工程において、供給した空気を粗動移動体52およびカウンタウエイト53と粗動ハウジング51との間に形成した僅かな隙間から排出している。これにより、当該隙間から切削粉などの侵入を防止するエアパージ機能を有することになる。
【0077】
また、粗動調整ユニット80をボーリングホルダ1とは別体として設けることにより、ボーリングホルダ1自体の質量を小さくすることができる。この場合であっても、両者が連結できるような構成とすることで、確実に工具径を調整できる。
【0078】
さらに、本実施形態によれば、図13のステップS4にて算出した補正量ΔDに応じて、微動調整機構20のみを動作させるか、微動調整機構20と粗動調整機構50の両方を動作させるかを決定している。このように、補正量ΔDに応じて、微動調整機構20と粗動調整機構50との適切な動作を実行できる。
【0079】
また、図13のステップS10において、工具径の調整を行う度に、現在工具径を記憶するようにしている。そして、ステップS2において、現在工具径として記憶されている前回工具径を利用するため、工具径を補正する際に毎回工具径を計測する必要がない。従って、工具径の補正に係る時間を短縮することができる。
【0080】
また、制御装置は、ボーリングホルダ1により工作物を加工する際において、ボーリングホルダ1の工具径に応じて主軸2の最高回転数を設定している。これにより、ボーリングホルダ1の回転を安全に行うことができるようになる。なお、本実施形態においては、主軸2の最高回転数の設定に際して、調整されるボーリングホルダ1の工具径に応じて変更するようにした。しかし、これに限らず、ボーリングホルダ1の最大工具径によって、主軸2の最高回転数を設定するようにしてもよい。
【0081】
また、工具径計測器109はレーザによるものを用いて説明したが、レーザに限られず、工具径を計測できるものであれば全て適用可能である。さらに、本実施形態のように工具径を直接計測するものに限らず、間接的に工具径を計測できるものでもよい。つまり、工具径を計測する際に一度工作物を加工して、加工された工作物の穴径をタッチセンサなどにより計測するようにしてもよい。
【0082】
<第二実施形態>
第二実施形態のボーリングホルダについて、図14〜図15を参照して説明する。第二実施形態のボーリングホルダは、第一実施形態のボーリングホルダ1に対して、粗動調整機構のみ相違する。そこで、以下に、第二実施形態における粗動調整機構90のみについて説明する。また、粗動調整機構90の構成部品においても、第一実施形態の粗動調整機構50の構成部品と同一のものがあり、これらについては同一符号を付して説明を省略する。
【0083】
第二実施形態の粗動調整機構90は、微動調整機構20の先端側に取り付けられており、刃具70の軸線からの位置、すなわち工具径を粗調整することができる装置である。この粗動調整機構90による工具径の調整可能量は、微動調整機構20による工具径の調整可能量よりも大きい。この粗動調整機構90は、粗動ハウジング51と、粗動移動体92と、カウンタウエイト53と、ピニオン軸54と、流体受給ポート55と、空油圧変換部56と、クランプ部97と、付勢力発生部58とを備えている。つまり、第二実施形態の粗動調整機構90において、第一実施形態の粗動調整機構50に対して、粗動移動体92およびクランプ部97のみ相違する。
【0084】
第一実施形態における粗動移動体52には、外周面に複数の溝52aが形成されていたが、第二実施形態における粗動移動体92には、当該溝52aが形成されておらず、テーパ状に形成されている。具体的には、粗動移動体92の円柱形状の外周面のテーパ部92aは、刃具70が取り付けられる側(先端側)から基端側(後端側)に向かって、縮径するように形成されている。つまり、テーパ部92aの法線方向のうち粗動ハウジング51に対する粗動移動体92のスライド方向成分は、粗動移動体92のうち刃具70の設けられる位置(先端)と反対側(後端側)を向いている。粗動移動体92におけるその他の構成は、第一実施形態の粗動移動体52と同一である。
【0085】
第一実施形態におけるクランプ部57の爪57bは、溝52aに係合する形状に形成されていたが、第二実施形態におけるクランプ部97の押圧部97bの先端面は、粗動移動体92の外周面のテーパ部92aを押圧することができるように、テーパ部92aの形状に対応する形状に形成されている。
【0086】
そして、クランプ部97が粗動移動体92を押圧してクランプする際には、クランプ部97の押圧部97bの先端面が、粗動移動体92の外周面のテーパ部92aを押圧する。このとき、押圧部97bの押圧により粗動移動体92に作用する力のうちスライド方向成分は、加工に際して工作物から受ける力に対抗する方向となる。従って、加工中、粗動移動体92が工作物から力を受けている場合であっても、粗動移動体は安定した位置に位置決めされる。なお、テーパ部92aのテーパ角度は、押圧部97bが粗動移動体92の外周面を押圧することによっては粗動移動体92がスライド方向に移動しない程度の僅かな角度に設定されている。さらに、押圧部97bによって粗動移動体92を押圧する位置に制約がないため、粗動ハウジング51に対する粗動移動体92の位置決め位置を自由に設定することができる。
【0087】
なお、本実施形態においては、粗動移動体92の外周面をテーパ状に形成したが、クランプ部97の押圧部97bが粗動移動体92を押圧している状態において、十分なクランプ力を発生することができるのであれば、粗動移動体92の外周面を円筒状に形成してもよい。この場合、十分な摩擦力を発揮するように、粗動移動体92の外周面およびクランプ部97の押圧面に表面処理を施すなどすることで対応できる。
【0088】
(工具径自動調整処理)
次に、上述した第二実施形態の粗動調整機構90を搭載したボーリングホルダ1に対する工具径の自動調整処理について、図16のフローチャートを参照して説明する。なお、本処理は、第一実施形態において説明に対して、ステップS27が新たに追加されたものである。そのため、詳細な処理に関する説明は省略する。
【0089】
まず、現在調整する対象となるボーリングホルダ1に取り付けられている刃具70の使用回数が、予め設定された規定回数に達したか否かを判定する(S21)。そして、ステップS21において、刃具70の使用回数が規定回数に達していない場合には、前回既に工具径が記憶されているか否かを判定する(S22)。前回工具径が記憶されている場合には(S22:Y)、前回工具径を現在工具径として認定し、現在工具径と目標工具径との差ΔDを算出する(S24)。この差ΔDが補正量となる。
【0090】
ここで、ステップS21において、刃具70の使用回数が規定回数に達した場合には(S21:Y)、摩耗を無視できない状態であると考え、現在の工具径を計測する(S23)。また、ステップS22において、前回工具径として記憶されていない場合にも(S22:N)、現在の工具径を計測する(S23)。ステップS23において、工具径を計測した後には、計測した工具径を現在の工具径と認定して、現在工具径と目標工具径との差ΔDを算出する(S24)。
【0091】
続いて、算出された差である補正量ΔDが、微動調整機構20による微調整可能範囲Dfine未満であるか否かを判定する(S25)。この微調整可能範囲Dfineは、予め設定された値である。そして、補正量ΔDが微調整可能範囲Dfine未満である場合には(S25:Y)、微動調整機構20により補正量ΔDだけ微動調整を行う(S9)。そして、補正後の工具径を現在工具径として記憶する(S31)。続いて、調整された工具径に応じて主軸2の最高回転数を設定し、処理を終了する(S32)。ここで、工具径が大きいほど最高回転数が小さくなるように設定される。
【0092】
ステップS25において、差である補正量ΔDが、微動調整機構20による微調整可能範囲Dfine以上である場合には(S25:N)、粗動調整機構50による粗動調整を行う(S26)。ここで、本実施形態における粗動調整機構90は、第一実施形態の粗動調整機構50のように調整位置に制限されず、任意の位置に位置決めすることができる。従って、理論上は、ステップS26において行われる粗動調整によって、現在工具径が目標工具径に一致している状態となる。ただし、粗動調整機構90による位置決め精度によっては、多少のばらつきが生じるおそれがある。
【0093】
そこで、粗動調整の後に、目標工具径が閾値Dth未満であるか否かを判定する(S27)。そして、目標工具径が閾値Dth以上である場合には、現時点における補正後の工具径を現在工具径として記憶する(S31)。続いて、調整された工具径に応じて主軸2の最高回転数を設定し、処理を終了する(S32)。つまり、目標工具径が大径の場合には、粗動調整のみにより工具径調整を終了する。
【0094】
一方、ステップS27において、目標工具径が閾値Dth未満である場合には、粗動調整後のボーリングホルダ1の工具径を計測する(S28)。この工具径の計測は、図12を用いて上述したように、工具径計測器109を下降させてボーリングホルダ1の工具径を計測する。そして、再び、計測された現在工具径と目標工具径との差ΔDを算出する(S29)。
【0095】
この差ΔDが、次に行う微動調整による補正量となる。上述したように、粗動調整機構90は任意の位置に位置決め可能であるため、理論上は、ステップS26にて粗動調整を行うことで現在工具径と目標工具径とは一致するはずである。しかし、粗動調整機構90による位置決め精度によって生じるばらつきによって、微少なずれを生じるおそれがある。特に、目標加工径が小径の場合には、微少なずれが問題となる可能性が高い。そこで、粗動調整後における工具径を計測して再び補正量ΔDを算出している。
【0096】
そして、微動調整機構20により、今回新たに算出された補正量ΔDだけ微動調整を行う(S30)。そして、補正後の工具径を現在工具径として記憶する(S31)。続いて、調整された工具径に応じて主軸2の最高回転数を設定し、処理を終了する(S32)。このようにして、工具径の自動調整を行う。
【0097】
ここで、一般に、工作物の穴径が大径の場合には加工公差が大きくなり、工作物の穴径が小径の場合には加工公差が小さくなる。そこで、本実施形態によれば、工作物の穴径が小径の場合には必ず微動調整機構20を用い、工作物の穴径が大径の場合には粗動調整機構90のみにより調整することとしている。つまり、工作物の穴径に応じて適切な調整機構の動作を行うことができる。
【符号の説明】
【0098】
1:ボーリングホルダ、 2:主軸
10:被保持部、 11:テーパシャンク部、 12:プルスタッド、 13:空気流路
20:微動調整機構
21:基端ボディ部、 22:空油圧変換部、 23:第一シリンダ
24:第一ピストン、 25:摺動シール、 26:連結ロッド、 27:第二ピストン
28:第二シリンダ、 29:摺動シール、 30:作動油空間、 31:連通路
41:弾性変形部、 42:パワーユニット、 43:凸ブロック、 44:凹ブロック
45:油圧空間、 46:油通路、 47:S字状のスリット、 48:微動部
50:粗動調整機構
51:粗動ハウジング、 51a:円形孔、 51b:空気滞留空間
51c:空気流路、 51d:回転支持部、 51e:円形孔、 51f:作動油空間
51g:連通路
52:粗動移動体、 52a:溝、 52b:移動体側ラック部、 52c:基準部
53:カウンタウエイト、 53a:ウエイト側ラック部
54:ピニオン軸、 55:流体受給ポート
56:空油圧変換部、 56a:段付きシリンダ、 56b:ピストン
57:クランプ部、 57a:支持部、 57b:爪(押圧部)、 57c:係合突起部
58:付勢力発生部、 58a:第二スプリング、 58b:付勢部材
58c:テーパ部
60:第一スプリング、 70:刃具
80:粗動調整ユニット
81:流体供給装置、 82:流体供給スライドポート、 83:位置調整用基準部材
90:粗動調整機構、 92:粗動移動体、 92a:テーパ部
97:クランプ部、 97b:押圧部
109:工具径計測器
【技術分野】
【0001】
本発明は、工具径を調整可能なボーリングホルダの工具径調整システムに関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、工具径を調整可能なボーリングホルダとして、例えば、特許文献1に記載されえたものがある。特許文献1には、加工した工作物の穴径を計測して、計測した穴径に基づいてボーリングホルダの工具径を補正することが記載されている。また、特許文献2には、工具径をレーザにより計測することが記載されている。
【0003】
また、工具径を調整可能なボーリングホルダとして、2段階(粗動と微動)の調整機構を有するものが特許文献3に記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開昭57−61407号公報
【特許文献2】特開2002−254274号公報
【特許文献3】特開2001−62613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に記載の計測結果に基づいて工具径を補正するボーリングホルダは、1段階の調整機構を有するものである。また、特許文献3に記載の2段階調整機構を有するボーリングホルダは、ダイヤルナットおよび粗動ねじを手動で回転することにより工具径を調整するものである。
【0006】
本発明は、微動調整機構と粗動調整機構の2段階の調整機構を有する場合に、工具径の自動補正ができるボーリングホルダの工具径調整システムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決するため、請求項1に係る発明の特徴は、
刃具と、回転軸線から前記刃具までの位置を調整可能な微動調整機構および粗動調整機構と、を備えるボーリングホルダと、
前記ボーリングホルダの工具径を計測する工具径計測装置と、
前記工具径計測装置により計測された前記工具径と目標工具径とに基づいて補正量を算出し、前記補正量に基づいて前記微動調整機構および前記粗動調整機構を動作させることにより前記工具径を前記目標工具径に一致させる制御装置と、
を備えることである。
【0008】
請求項2に係る発明の特徴は、前記制御装置は、前記補正量に基づいて前記微動調整機構および前記粗動調整機構のうち動作させる調整機構を決定し、決定された前記調整機構を動作させることにより前記工具径を前記目標工具径に一致させることである。
請求項3に係る発明の特徴は、前記工具径調整システムは、前回計測した前記ボーリングホルダの工具径を前回工具径として記憶する前回工具径記憶手段をさらに備え、前記制御装置は、前記前回工具径記憶手段に記憶された前記前回工具径と前記目標工具径との差分を補正量として算出することである。
【0009】
請求項4に係る発明の特徴は、前記制御装置は、前記目標工具径が設定閾値より大きい場合には前記粗動調整機構のみを動作させ、前記目標工具径が前記設定閾値以下の場合には少なくとも前記微動調整機構を動作させることである。
請求項5に係る発明の特徴は、前記制御装置は、前記ボーリングホルダにより工作物を加工する際において、前記ボーリングホルダの工具径に応じて主軸の最高回転数を設定することである。
【発明の効果】
【0010】
上記のように構成した請求項1に係る発明によれば、微動調整機構と粗動調整機構の2段階の調整機構を有するボーリングホルダに対して、確実に自動補正ができる。ここで、微動調整機構と粗動調整機構とは、調整量が異なる。つまり、粗動調整機構による調整量は、微動調整機構による調整量より大きく設定されている。
【0011】
請求項2に係る発明によれば、補正量に応じて、微動調整機構を動作させるか、粗動調整機構を動作させるか、微動調整機構と粗動調整機構の両方を動作させるかを決定することができる。つまり、補正量に応じた適切な動作を実行できる。
請求項3に係る発明によれば、前回工具径を利用するため、工具径を補正する際に毎回工具径を計測する必要がない。従って、工具径の補正に係る時間を短縮することができる。
【0012】
一般に、工作物の穴径が大径の場合には加工公差が大きくなり、工作物の穴径が小径の場合には加工公差が小さくなる。そこで、請求項4に係る発明によれば、工作物の穴径が小径の場合には必ず微動調整機構を用い、工作物の穴径が大径の場合には粗動調整機構のみにより調整することとしている。つまり、工作物の穴径に応じて適切な調整機構の動作を行うことができる。
【0013】
請求項5に係る発明によれば、ボーリングホルダの工具径に応じて主軸の回転数制限を適切にかけることができる。例えば、ボーリングホルダの工具径が大径であるほど、主軸の最高回転数は小さく設定される。なお、「ボーリングホルダの工具径に応じて」とは、「それぞれのボーリングホルダの最大工具径に応じて」の場合や、「ボーリングホルダの現在の工具径に応じて」の意味を含む。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【図1】第一実施形態:ボーリングホルダの軸方向の部分断面図である。
【図2】粗動調整機構の軸方向の拡大断面図である。
【図3】図2のA−A断面図である。
【図4】微動調整機構を調整した状態を示すボーリングホルダの軸方向の部分断面図である。
【図5】粗動調整機構の動作:連結工程を示す図である。
【図6】粗動調整機構の動作:アンクランプ工程を示す図である。
【図7】粗動調整機構の動作:当接工程を示す図である。
【図8】粗動調整機構の動作:調整工程を示す図である。
【図9】粗動調整機構の動作:クランプ工程を示す図である。
【図10】図9のB−B断面図である。
【図11】マシニングセンタの正面図であって、工具径計測器が上方空間に収容されている状態を示す図である。
【図12】マシニングセンタの正面図であって、工具径計測器が加工空間に位置し、工具径を計測している状態を示す図である。
【図13】工具径自動調整処理を示すフローチャートである。
【図14】第二実施形態:粗動調整機構の軸方向の拡大断面図である。
【図15】図14のC−C断面図である。
【図16】工具径自動調整処理を示すフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明のボーリングホルダを具体化した実施形態について図面を参照しつつ説明する。
【0016】
<第一実施形態>
(ボーリングホルダの構成)
第一実施形態のボーリングホルダ1の構成について、図1〜図3を参照して説明する。図1に示すように、ボーリングホルダ1は、軸線周りに回転可能な主軸2に保持されて工作物に穴などを加工する工具であって、工具径を調整可能とされている。ここで、各図において、ボーリングホルダ1のうち主軸2側を基端側といい、ボーリングホルダ1のうち刃具70が設けられる側を先端側という。
【0017】
ボーリングホルダ1は、被保持部10と、微動調整機構20と、粗動調整機構50と、刃具70とを備えている。なお、被保持部10、微動調整機構20および粗動調整機構50が、ボーリングホルダ本体に相当する。
【0018】
被保持部10は、基端側に向かって細くなるようなテーパ状に形成されたテーパシャンク部11と、テーパシャンク部11の最基端に設けられたプルスタッド12とを備えている。テーパシャンク部11は、主軸2のテーパ穴に挿入され、プルスタッド12は、主軸2のコレット(図示せず)により把持される。このようにして、被保持部10は、主軸2に保持されている。また、テーパシャンク部11の中心には、軸線方向に延びる空気流路13が形成されている。この空気流路13には、主軸2側から空気が供給される。主軸2側から供給される空気は、制御装置(図示せず)によって圧力を制御される。
【0019】
微動調整機構20は、被保持部10の先端側に取り付けられており、刃具70の軸線からの位置、すなわち工具径を微調整することができる装置である。この微動調整機構20は、基端ボディ部21(本発明の「基部」に相当する)と、弾性変形部41とを備えている。
【0020】
基端ボディ部21は、被保持部10の先端側に一体的に結合されており、内部に空油圧変換部22が形成されている。空油圧変換部22は、次のように構成されている。被保持部10の空気流路13の先端側に連通する第一シリンダ23が形成されている。この第一シリンダ23内に第一ピストン24が、摺動シール25を介して、軸線方向(図1の上下方向に)に往復スライド可能に収容されている。また、第一ピストン24のうち先端側には、連結ロッド26を介して第二ピストン27が連結されている。この第二ピストン27は、第一シリンダ23の先端側に連通する小径の第二シリンダ28内に、摺動シール29を介して、軸線方向に往復スライド可能に収容されている。
【0021】
第二ピストン27の先端側は、作動油が充填される作動油空間30を形成しており、被保持部10の空気流路13を通して空気圧が第一ピストン24に作用することで、第一ピストン24が先端側に移動し、これに伴い第二ピストン27が先端側に移動することで、作動油空間30内の油圧が増圧される。このようにして、空油圧変換部22は、被保持部10の空気流路13から供給される空気圧を、油圧に変換させると共に増圧している。作動油空間30の先端側には、連通路31が連通して形成されている。
【0022】
弾性変形部41は、基端ボディ部21の先端側に、次のように構成されている。弾性変形部41の内部には、パワーユニット42が設けられている。パワーユニット42は、凸ブロック43と凹ブロック44との間に油圧空間45が形成され、この油圧空間45と基端ボディ部21の連通路31とが、弾性変形部41の本体および凹ブロック44に形成してある油通路46を通して連通している。さらに、弾性変形部41にはS字状のスリット47が形成されており、油圧空間45に油圧が作用すると、弾性変形部41における先端側の微動部48は、弾性変形することにより、弾性変形部41のうち基端ボディ部21側に対して、図1の左方向にシフトする。
【0023】
粗動調整機構50は、微動調整機構20の先端側に取り付けられており、刃具70の軸線からの位置、すなわち工具径を粗調整することができる装置である。この粗動調整機構50による工具径の調整可能量は、微動調整機構20による工具径の調整可能量よりも大きい。この粗動調整機構50は、粗動ハウジング51と、粗動移動体52と、カウンタウエイト53と、ピニオン軸54と、流体受給ポート55と、空油圧変換部56と、クランプ部57と、付勢力発生部58とを備えている。
【0024】
粗動ハウジング51は、微動調整機構20の弾性変形部41の微動部48に取り付けられている。つまり、粗動ハウジング51は、弾性変形部41の微動部48が径方向にシフトした場合には、その動作に伴って径方向にシフトする。
【0025】
粗動移動体52は、主として円柱状に形成されている。なお、粗動移動体52は、円柱状に限られるものではなく、例えば、角柱状に形成されるようにしてもよい。この粗動移動体52の先端側(ボーリングホルダ1の径方向外側)に刃具70が設けられている。粗動移動体52の外周面には、円柱の中心軸方向に直交する方向へ延在する溝52aが、円柱の中心軸方向に複数(4個)並設されている。例えば、図1においては、4個の溝52aを形成した図を示している。この溝52aは、周方向において全範囲に形成される必要はなく、所定の位相範囲のみに形成することで足りる。このように形成された粗動移動体52は、粗動ハウジング51の先端側であって径方向に向かって貫通形成されている円形孔51aのうち一方開口側(図1の右側)に、往復スライド可能に嵌挿されている。この粗動移動体52の粗動ハウジング51に対する径方向の移動量(粗動調整量)は、微動調整機構20の弾性変形部41における微動部48の微動調整量より大きい。
【0026】
そして、粗動移動体52の外周面の溝52aが、図1の上側(ボーリングホルダ1の基端側)を向くように配置され、かつ、粗動移動体52がその円柱軸周りに回転しないように回り止めされている。さらに、粗動移動体52の円柱状の基端部には、さらに円柱軸方向に延長されるように移動体側ラック部52bが一体的に形成されている。この移動体側ラック部52bは、ラック&ピニオン機構の一部を構成するものであり、後述するピニオン軸54に噛合している。つまり、ピニオン軸54が回転すると、粗動移動体52は図1の左右方向に移動する。
【0027】
さらに、粗動移動体52の先端側には、基端側に向かって突出する基準部52cが設けられている。この基準部52cのうちボーリングホルダ1の径方向外側面は、ボーリングホルダ1の径方向を法線方向とする平面状に形成されている。そして、基準部52cは、常に粗動ハウジング51の外部に露出する位置に位置している。この基準部52cは、粗動調整を行う際に用いるものであって、後述する粗動調整ユニット80に設けられる位置調整用基準部材83に当接させるための部材である。
【0028】
カウンタウエイト53は、粗動移動体52の偏心運動によって生じる不均一な荷重を吸収するためのものである。つまり、カウンタウエイト53の形状や位置は、粗動移動体52および刃具70による慣性モーメントと等価な慣性モーメントを有するように設定される。本実施形態においては、カウンタウエイト53は、全体としてほぼ円柱状に形成されており、粗動移動体52の質量とほぼ同程度の質量を有している。
【0029】
ここで、このカウンタウエイト53は、慣性モーメントを調整することができるような機構を有している。具体的には、カウンタウエイト53は、ウエイト本体53aと、調整用ウエイト53bとを備えている。調整用ウエイト53bは、例えば、ねじなどにより、ウエイト本体53aに対してカウンタウエイト53のスライド方向に相対移動可能に設けられている。つまり、調整用ウエイト53bのウエイト本体53aに対する位置を調整することで、例えば、刃具70の交換などにより、粗動移動体52および刃具70の慣性モーメントが変更された場合に、カウンタウエイト53全体としてこれに等価な慣性モーメントを有するようにできる。また、カウンタウエイト53は、円柱状に限られるものではなく、例えば、角柱状に形成されるようにしてもよい。
【0030】
このカウンタウエイト53は、粗動ハウジング51の先端側に貫通形成されている円形孔51aのうち他方開口側(図1の左側)に、往復スライド可能に嵌挿されている。そして、カウンタウエイト53は、その円柱軸周りに回転しないように粗動ハウジング51に回り止めされている。カウンタウエイト53の円柱状の基端部には、さらに円柱軸方向に延長されるようにウエイト側ラック部53aが一体的に形成されている。このウエイト側ラック部53aは、ラック&ピニオン機構の一部を構成するものであり、後述するピニオン軸54に噛合している。つまり、ピニオン軸54が回転すると、カウンタウエイト53は図1の左右方向に移動する。
【0031】
ピニオン軸54は、粗動ハウジング51の先端側に貫通形成されている円形孔51aのほぼ中央に、粗動ハウジング51の回転軸線回りに回転可能に支持されている。そして、ピニオン軸54は、移動体側ラック部52bとウエイト側ラック部53aに噛合している。そして、図3において、ピニオン軸54が左回りに回転すると、移動体側ラック部52bが図3の右側、すなわち粗動移動体52が径方向外側に移動し、かつ、ウエイト側ラック部53aが図3の左側、すなわちカウンタウエイト53が粗動移動体52の移動方向とは反対側の径方向外側に移動する。一方、ピニオン軸54が右回りに回転すると、移動体側ラック部52bが図3の左側、すなわち粗動移動体52が径方向内側に移動し、かつ、ウエイト側ラック部53aが図3の右側、すなわちカウンタウエイト53が粗動移動体52の移動方向とは反対側の径方向内側に移動する。つまり、ピニオン軸54が回転すると、粗動移動体52とカウンタウエイト53は、同期して、両者が反対方向に連動する。
【0032】
流体受給ポート55は、粗動ハウジング51の基端側の外周面に設けられている。この流体受給ポート55は、外部の粗動調整ユニット80に連結され、粗動調整ユニット80から供給される空気圧を供給される。さらに、流体受給ポート55は、第一ポートと第二ポートを有している。第一ポートは、後述する空気滞留空間51b側へ空気(本発明の「第二流体」に相当する)を供給するポートであって、第二ポートは、後述する空油圧変換部56側へ空気(本発明の「第一流体」に相当する)を供給するポートである。
【0033】
ここで、粗動ハウジング51には、粗動移動体52の基端(ボーリングホルダ1の径方向内側の端部)とカウンタウエイト53の基端(ボーリングホルダ1の径方向内側の端部)との間には、空気滞留空間51bが形成されている。この空気滞留空間51bと流体受給ポート55の第一ポートとの間には、両者を連通する空気流路51cが形成されている。つまり、空気滞留空間51bには、粗動調整ユニット80から供給される空気圧によって粗動移動体52とカウンタウエイト53が動作する。具体的には、粗動調整ユニット80から空気圧が供給されて空気滞留空間51bの空気圧が高まると、粗動移動体52は、径方向外側、すなわち刃具70の位置が回転軸線から遠ざかる方向へスライドする。粗動移動体52の動作と同時にかつ連動して、カウンタウエイト53が径方向外側へスライドする。また、空気滞留空間51bに供給された空気は、粗動ハウジング51の円形孔51aと粗動移動体52との間に形成されている僅かな隙間、および、当該円形孔51aとカウンタウエイト53との間に形成されている僅かな隙間から外部へ排出される。
【0034】
空油圧変換部56は、粗動ハウジング51の内部に形成され、後述する粗動調整ユニット80から流体受給ポート55の第二ポートを介して供給される空気圧を油圧に変換している。この空油圧変換部56は、粗動ハウジング51の内部に径方向に向かって形成された段付きシリンダ56aと、この段付きシリンダ56a内に径方向に往復スライド可能に収容されているピストン56bとを備えている。ピストン56bは、大径円盤部と小径ロッド部とを有している。段付きシリンダ56aのうちピストン56bの大径円盤部より図2の右側空間には、流体受給ポート55から空気圧が供給される。また、段付きシリンダ56aのうちピストン56bの小径ロッド部の図2の左側空間は、作動油空間を形成している。つまり、流体受給ポート55の第二ポートを介して供給される空気圧がピストン56bの大径円盤部に作用することで、ピストン56bが図2の左側へ移動し、これに伴い作動油空間内の油圧が増圧される。このようにして、空油圧変換部56は、空気圧を油圧に変換させると共に増圧している。
【0035】
クランプ部57は、L字型のレバーからなり、粗動ハウジング51内に支持されている。このクランプ部57は、粗動移動体52の外周面を押圧することにより、粗動ハウジング51に対する粗動移動体52の位置をクランプする。一方、クランプ部57は、粗動移動体52の外周面の押圧を解除することにより、粗動ハウジング51に対する粗動移動体52の位置をアンクランプする。つまり、クランプ部57は、粗動移動体52のクランプとアンクランプの切り替えレバーの役割を有する。なお、クランプ部57は、粗動移動体52のクランプとアンクランプの切り替えを行うのみであって、粗動移動体のスライド動作を行うものではない。つまり、クランプ部57によるクランプ/アンクランプの切り替え動作は、粗動移動体52のスライド動作とは独立して行われる。
【0036】
このクランプ部57は、ほぼL字型の一端側に位置し、粗動ハウジング51に形成された回転支持部51dにほぼ回転可能に支持された支持部57aと、L字型の他端側に位置し、粗動移動体52の外周面を押圧し複数の溝52aの何れかに係合する爪57b(押圧部)とを備えている。つまり、クランプ部57は、支持部57aを中心に揺動することで、爪57bが粗動移動体52の溝52aと係合する状態(クランプ状態)と、爪57bが粗動移動体52の溝52aと係合しない状態(アンクランプ状態)とを切り替え動作する。このクランプ部57は、粗動ハウジング51に配置された第一スプリング60によって、爪57bが粗動移動体52の溝52aと係合しない状態となる方向に付勢されている。
【0037】
さらに、クランプ部57のうち基端側(付勢力発生部58側)には、傾斜面を有する係合突起部57cが形成されている。この係合突起部57cは、図2の状態において、右側の突起量が左側の突起量に比べて小さくなるように形成されている。
【0038】
付勢力発生部58は、クランプ部57が粗動移動体52をクランプする方向(押圧する方向)への付勢力をクランプ部57に対して発生させる。この付勢力発生部58は、第二スプリング58aと、付勢部材58bとを備えている。第二スプリング58aは、粗動ハウジング51のうちボーリングホルダ1の回転軸方向のほぼ中央付近に、径方向に向かって形成された円形孔51eの一端に支持されている。
【0039】
この第二スプリング58aの他端に付勢部材58bが当接している。付勢部材58bは、ほぼ有底筒状をなし、その筒底面に第二スプリング58aが当接し付勢している。一方、付勢部材58bのうち第二スプリング58aと反対側には、作動油空間51fが形成されている。この作動油空間51fは、空油圧変換部56の作動油空間(段付きシリンダ56aのピストン56bの小径ロッド部より図2の左側空間)から、連通路51gを介して供給される作動油が収容される。つまり、付勢部材58bは、第二スプリング58aの付勢力と作動油の圧力とが相互に対抗するように力を受け、両者の力に応じてスライド方向の位置が決定される。
【0040】
この付勢部材58bの外周面には、さらに、図2の左側に向かって縮径するテーパ部58cが形成されている。このテーパ部58cは、付勢部材58bの周方向において全範囲に形成される必要はなく、所定の位相範囲のみに形成することで足りる。このテーパ部58cには、クランプ部57の係合突起部57cの傾斜面が常に当接している。つまり、テーパ部58cとクランプ部57の係合突起部57cとは、くさび係合している。そして、付勢部材58bのスライド位置に応じて、クランプ部57の係合突起部57cの傾斜面が当接する位置が異なる。つまり、付勢部材58bのスライド位置に応じて、クランプ部57が粗動移動体52に対してクランプする方向への付勢力が調整される。
【0041】
(微動調整機構による工具径の微調整方法)
次に、微動調整機構による工具径の微調整方法について、図1および図4を参照してより詳細に説明する。主軸2側から制御された所定の圧力の空気が供給されるとする。そうすると、この空気圧に応じて空油圧変換部22の第一ピストン24が、ボーリングホルダ1の先端側に向かってスライドする。第一ピストン24の移動に伴って、第二ピストン27も、ボーリングホルダ1の先端側に向かってスライドする。この第二ピストン27の移動によって、作動油空間30に充填される作動油の圧力が高まる。作動油の圧力が高まることで、連通路31および油通路46を介して、弾性変形部41の油圧空間45の油圧が高くなる。その結果、弾性変形部41における先端側の微動部48が、図4に示すように、左側へシフトする。
【0042】
このようにして弾性変形部41の微動部48が基端ボディ部21に対して径方向に微動することにより、弾性変形部41の微動部48側に取り付けられている粗動調整機構50全体が、基端ボディ部21に対して径方向に微動する。つまり、粗動移動体52に取り付けられている刃具70の回転軸線に対する位置、すなわち工具径は、微動調整機構20の動作によって微動調整される。
【0043】
微動調整量を変更する場合には、主軸2側から供給される空気の圧力を調整することにより行う。ここで、微動調整機構20は、空油圧変換部22により主軸2側から供給する空気圧を増幅している。従って、小さな空気圧によって、弾性変形部41の弾性変形を可能とする。また、微動調整量をゼロに戻す場合には、主軸2側から供給する空気圧をゼロにすればよい。この微動調整機構20による微動調整は、弾性変形部41の弾性変形によるものであるため、この微動調整量はそれほど大きなものではない。逆に言うと、微動調整機構20は、非常に微小な調整を高精度に行うことができる。
【0044】
(粗動調整機構による工具径の粗調整方法)
次に、粗動調整機構50の動作について、図5〜図10を参照して説明する。粗動調整機構50の動作に際して、粗動調整ユニット80を用いるため、まずは、粗動調整ユニット80について説明する。
【0045】
粗動調整ユニット80は、図5に示すように、流体供給装置81と、流体供給スライドポート82と、位置調整用基準部材83とを備える。流体供給装置81は、空気を供給することができ、かつ、供給する空気圧を制御可能な装置である。この流体供給装置81は、例えば、マシニングセンタのベッド(図示せず)に固定されている。ここで、本実施形態においては、例えば、主軸2がベッドに対して移動可能に構成されるマシニングセンタを適用する場合には、粗動調整ユニット80の流体供給装置81は、主軸2に対して相対的に移動可能に設けられていることになる。
【0046】
流体供給スライドポート82は、粗動調整機構50の流体受給ポート55に連結することができ、流体供給装置81から供給される空気を流体受給ポート55へ供給するポートである。この流体供給スライドポート82は、流体供給装置81に対して、図5の左右方向にスライド可能に設けられている。さらに、流体供給スライドポート82は、流体受給ポート55の第一ポートに対応した第一連結ポートと、流体受給ポート55の第二ポートに対応した第二連結ポートとを備えている。そして、流体供給装置81は、流体供給スライドポート82の第一連結ポートから空気圧を供給するか、第二連結ポートから空気圧を供給するかの切り替えを行うことができる。位置調整用基準部材83は、流体供給装置81に固定されており、粗動移動体52に設けられた基準部52cに当接可能に設けられている。
【0047】
次に、粗動調整機構50による工具径の調整方法について説明する。まず、図5に示すように、主軸2と粗動調整ユニット80とを相対的に移動させて、粗動調整ユニット80の流体供給スライドポート82と、粗動調整機構50の流体受給ポート55とを連結させる(連結工程)。具体的には、流体供給スライドポート82の第一連結ポートを流体受給ポート55の第一ポートに連結し、流体供給スライドポート82の第二連結ポートを流体受給ポート55の第二ポートに連結する。このとき、粗動調整ユニット80の流体供給スライドポート82は、図5の左側に最もスライドした状態としている。さらに、この状態において、粗動移動体52の基準部52cは、粗動調整ユニット80の位置調整用基準部材83に対向するように位置している。
【0048】
続いて、図6に示すように、流体供給装置81が、流体供給スライドポート82の第二連結ポートおよび流体受給ポート55の第二ポートを介して、空油圧変換部56の段付きシリンダ56aのうちピストン56bの大径円盤部の右側空間に空気圧を供給する。そうすると、空油圧変換部56のピストン56bが図6の左側へ移動し、段付きシリンダ56a内のピストン56bの小径ロッド部より図6の左側空間および作動油空間51fの油圧が高まる。この作動油の圧力の高騰により、付勢部材58bが、第二スプリング58aの付勢力に抗して、図6の右側へスライドする。そうすると、付勢部材58bの外周面に形成されているテーパ部58cの位置が、図6の右側へスライドする。これに伴って、クランプ部57の係合突起部57cとテーパ部58cとの接触可能位置が図6の上方に移動する。そのため、第一スプリング60の付勢力により、クランプ部57は、支持部57aを中心として、図6の反時計回りに揺動し、爪57bが粗動移動体52の溝52aから係合を離脱する。つまり、粗動移動体52は、粗動ハウジング51に対してアンクランプされる(アンクランプ工程)。そして、流体供給装置81は、流体供給スライドポート82の第二連結ポート側へ供給している空気圧を一定の状態を維持しておく。
【0049】
続いて、図7に示すように、流体供給装置81が、流体供給スライドポート82の第一連結ポートおよび流体受給ポート55の第一ポートを介して、空気流路51cに空気圧を供給する。そうすると、空気滞留空間51bの空気圧が高まり、空気滞留空間51bの体積を拡大するような力を発生する。つまり、空気滞留空間51bの空気圧の高騰により、粗動移動体52およびカウンタウエイト53が離れる方向、すなわち、径方向外側へスライドする。このとき、粗動移動体52、カウンタウエイト53およびピニオン軸54は、ラック&ピニオン機構を構成している。従って、粗動移動体52の径方向外側へのスライド動作と、カウンタウエイト53の径方向外側へのスライド動作とは、同期しかつ連動している。さらに、粗動移動体52のスライド量とカウンタウエイト53のスライド量とは同一である。
【0050】
このように、粗動移動体52が径方向外側へスライドすることに伴って、粗動移動体52の基準部52cが、粗動調整ユニット80の位置調整用基準部材83に当接する(当接工程)。このとき、刃具70の位置は、ボーリングホルダの回転軸線から遠ざかる方向の所定位置(例えば、最も遠ざかる位置)に移動している。つまり、流体供給スライドポート82が流体供給装置81に対して図7の最も左側に位置する状態であって、流体供給スライドポート82が流体受給ポート55に連結された状態であって、粗動移動体52の基準部52cが位置調整用基準部材83に当接した状態において、刃具70の回転軸線に対する位置、すなわち工具径は、既知である。この状態を基準状態とする。
【0051】
続いて、図8に示すように、基準状態から、主軸2と位置調整用基準部材83との相対的な位置を近接する方向に変更する。例えば、主軸2を移動させる駆動軸があるマシニングセンタにおいては、その駆動軸を用いて主軸2を位置調整用基準部材83に近接する方向に移動する。ここで、基準状態における工具径は既知であって、目標工具径は把握できている。そこで、目標工具径と基準状態における工具径との差分だけ、主軸2を位置調整用基準部材83に近接する方向へ移動させる。このようにして、回転軸線に対する刃具70の位置、すなわち工具径を粗調整する(調整工程)。
【0052】
この調整工程において、回転軸線に対する刃具70の位置を調整する際に、刃具70の位置が回転軸線から遠ざかる方向へ粗動移動体52を粗動ハウジング51に対してスライドさせるために供給された空気は、粗動移動体52およびカウンタウエイト53と粗動ハウジング51に形成された円形孔51aとの僅かな隙間から外部へ排出している。
【0053】
続いて、図9および図10に示すように、流体供給装置81が、流体供給スライドポート82の第二連結ポートおよび流体受給ポート55の第二ポートを介して供給していた空気圧を低下させる。そうすると、空油圧変換部56のピストン56bが図9の右側へ移動し、段付きシリンダ56a内のピストン56bの小径ロッド部より図9の左側空間および作動油空間51fの油圧が低下する。この作動油の圧力の低下により、付勢部材58bが、第二スプリング58aの付勢力により、図9の左側へスライドする。そうすると、付勢部材58bの外周面に形成されているテーパ部58cの位置が、図9の左側へスライドする。これに伴って、クランプ部57の係合突起部57cとテーパ部58cとの接触可能位置が図9の下方に移動する。そのため、第一スプリング60の付勢力に抗して、クランプ部57は、支持部57aを中心として、図9の時計回りに揺動し、爪57bが粗動移動体52の外周面を押圧する。このとき、爪57bは、粗動移動体52の溝52aを押圧しながら係合する。つまり、粗動移動体52は、粗動ハウジング51に対してクランプされる(クランプ工程)。
【0054】
(マシニングセンタにおける具体的適用例)
次に、上述したボーリングホルダ1および粗動調整ユニット80を搭載したマシニングセンタ100について図11および図12を参照して説明する。図11に示すように、マシニングセンタ100は、横型マシニングセンタを例示しており、主軸2を回転可能に支持する主軸台102がベッド101に固定されているコラム103に対してX軸方向およびY軸方向に移動可能とされている。また、工作物を載置するテーブル104は、ベッド101の上にZ軸方向に移動可能とされている。さらに、複数の工具を保管する工具マガジン105が、正面から見て、コラム103の左側に設けられている。そして、主軸2に装着されている工具と工具マガジン105に保管されている工具との交換を行う工具交換装置106が、工具マガジン105とコラム103の間に設けられている。本実施形態においては、工具交換装置106により交換される次工具は、工具マガジン105に保管されている工具を90°旋回させて、次工具交換位置に移動される。そして、粗動調整ユニット80は、ベッド101の右端付近から立設された支持柱107に固定されている。この粗動調整ユニット80は、マシニングセンタ100の加工エリアに設けられている。そして、制御装置108がコラム103の右側面に設けられている。
【0055】
この場合、粗動調整機構50による工具径の粗調整を行う際には、まず、粗動調整ユニット80の流体供給スライドポート82のY軸高さと、粗動調整機構50の流体受給ポート55のY軸高さが一致するように、主軸台102をY軸方向に移動する。続いて、主軸台102をX軸方向に移動することで、流体供給スライドポート82に流体受給ポート55が連結される。その後、クランプ工程、当接工程、調整工程およびアンクランプ工程を順に実行する。
【0056】
ここで、主軸台102をX軸、Y軸に移動する駆動機構は、刃具70により工作物を加工する際に位置決めに用いるものである。そして、粗動調整ユニット80を加工エリアに配置することで、粗動調整機構50による工具径の粗調整に際しても、この駆動機構を用いて粗調整している。つまり、工具径の粗調整に際して、主軸台102の位置決めに用いる駆動手段、例えば、ボールねじとモータにより構成される駆動手段を利用している。従って、専用の駆動手段を用いることなく、工具径の調整を行うことができる。
【0057】
さらに、マシニングセンタ100は、主軸台102の上方であって、コラム103の上面に位置する高さに、上面カバー111が設けられている。この上面カバー111の上方には、シリンダ110が設けられており、シリンダ110の移動シャフトの上端に上下スライド体112が取り付けられている。さらに、この上下スライド体112の下端であって、左右に工具径計測器109が取り付けられている。この工具径計測器109は、左右で一対をなし、レーザによりボーリングホルダ1の工具径を計測できる装置である。この状態において、工具径計測器109は、上面カバー111の上方空間に位置している。
【0058】
そして、上下スライド体112は、図12に示すように、シリンダ110の移動シャフトを下方に移動させることにより、下方へスライドする。そうすると、上下スライド体112の左右下端に取り付けられている工具径計測器109は、加工エリアに移動する。つまり、工具径計測器109は、図12に示す位置において、ボーリングホルダ1の工具径を計測することができる状態となる。
【0059】
(工具径自動調整処理)
次に、上述したマシニングセンタ100(本発明の「工具径調整システム」に相当する)において、ボーリングホルダ1の工具径の自動調整処理について、図13のフローチャートを参照して説明する。
【0060】
まず、現在調整する対象となるボーリングホルダ1に取り付けられている刃具70の使用回数が、予め設定された規定回数に達したか否かを判定する(S1)。この判定は、刃具70の使用回数が、規定回数に達するまでは、刃具70の摩耗による工具径調整は行わないものとし、刃具70の使用回数が規定回数に達した場合には、刃具70の摩耗による工具径調整を行うようにするための判定である。
【0061】
そして、ステップS1において、刃具70の使用回数が規定回数に達していない場合には、前回既に工具径が記憶されているか否かを判定する(S2)。ここで、後述するが、一度工具径の調整を行うと、ステップS10において、現在の工具径を記憶しておく。つまり、前回工具径を調整したボーリングホルダ1が、今回調整対象となる場合には、前回記憶した工具径の情報を用いて調整を行うために、このような判定を行っている。そして、前回工具径が記憶されている場合には(S2:Y)、前回工具径を現在工具径として認定し、現在工具径と目標工具径との差ΔDを算出する(S4)。この差ΔDが補正量となる。
【0062】
ここで、ステップS1において、刃具70の使用回数が規定回数に達した場合には(S1:Y)、摩耗を無視できない状態であると考え、現在の工具径を計測する(S3)。この工具径の計測は、図12を用いて上述したように、工具径計測器109を下降させてボーリングホルダ1の工具径を計測する。また、ステップS2において、前回工具径として記憶されていない場合にも(S2:N)、現在の工具径を計測する(S3)。ステップS3において、工具径を計測した後には、計測した工具径を現在の工具径と認定して、現在工具径と目標工具径との差ΔDを算出する(S4)。
【0063】
続いて、算出された差である補正量ΔDが、微動調整機構20による微調整可能範囲Dfine未満であるか否かを判定する(S5)。この微調整可能範囲Dfineは、予め設定された値である。そして、補正量ΔDが微調整可能範囲Dfine未満である場合には(S5:Y)、微動調整機構20により補正量ΔDだけ微動調整を行う(S9)。
【0064】
そして、補正後の工具径を現在工具径として記憶する(S10)。ここで記憶する現在工具径は、上述したように、ステップS2において用いる情報である。続いて、調整された工具径に応じて主軸2の最高回転数を設定し、処理を終了する(S11)。ここで、工具径が大きいほど最高回転数が小さくなるように設定される。そして、実際に加工に際して、制御装置108が主軸2の回転数を制御する際に、ここで設定された主軸2の最高回転数によって制限されることになる。
【0065】
ステップS5において、差である補正量ΔDが、微動調整機構20による微調整可能範囲Dfine以上である場合には(S5:N)、粗動調整機構50による粗動調整を行う(S6)。ここで、本実施形態においては、粗動調整機構50による粗動調整は、粗動移動体52に形成された溝52aの位置に依存する。従って、目標の補正量ΔDに一致するような粗動調整ができない。つまり、ここにおける粗動調整は、補正量ΔDに最も近い位置に可能な補正量だけ粗動調整することになる。
【0066】
そこで、粗動調整の後には、粗動調整後のボーリングホルダ1の工具径を計測する(S7)。この工具径の計測は、図12を用いて上述したように、工具径計測器109を下降させてボーリングホルダ1の工具径を計測する。そして、再び、計測された現在工具径と目標工具径との差ΔDを算出する(S8)。
【0067】
この差ΔDが、次に行う微動調整による補正量となる。続いて、微動調整機構20により、今回新たに算出された補正量ΔDだけ微動調整を行う(S9)。そして、補正後の工具径を現在工具径として記憶する(S10)。続いて、調整された工具径に応じて主軸2の最高回転数を設定し、処理を終了する(S11)。このようにして、工具径の自動調整を行う。
【0068】
(本実施形態の効果)
以上説明したボーリングホルダ1によれば、主軸2側から先端に向かって、被保持部10、微動調整機構20、粗動調整機構50、刃具70の順に取り付けられている。つまり、粗動調整機構50によって粗動移動体52が径方向に移動したとしても、微動調整機構20は何ら移動しない。つまり、粗動調整機構50によって径方向に移動する部分には、粗動移動体52および刃具70となり、微動調整機構20が含まれない。そして、カウンタウエイト53は、粗動調整機構50に含まれる構成としている。従って、このカウンタウエイト53は、粗動移動体52および刃具70の質量を考慮すれば良く、微動調整機構20の質量は考慮する必要がなくなる。このように、本実施形態のボーリングホルダ1によれば、カウンタウエイト53の質量を小さくすることができる。その結果、回転体としてのボーリングホルダ1全体の質量を小さくすることができる。
【0069】
また、カウンタウエイト53を粗動ハウジング51に対して位置調整可能とする構成としているため、粗動移動体52の移動量に応じてカウンタウエイト53の位置を調整することで、より偏心運動が生じることを抑制できる。さらに、カウンタウエイト53の移動を粗動移動体52に同期して、かつ、粗動移動体52の移動量と同じ移動量だけ移動する構成とすることで、カウンタウエイト53の位置調整を自動的に行うことができる。さらに、カウンタウエイト53をクランプするための専用の機構を有することなく、粗動移動体52をクランプすることによりカウンタウエイト53を同時にクランプすることができる。
【0070】
また、微動調整機構20を弾性変形によって微動調整を行うことで、より高精度に微動調整が可能となる。また、カウンタウエイト53は、粗動調整機構50に含む構成としている。つまり、上述したカウンタウエイト53は、微動調整機構20による調整に伴う偏心運動によって生じる不均一な荷重を吸収することはできない。しかし、微動調整機構20の調整量は弾性変形範囲内であるため、非常に微小である。つまり、粗動調整機構50にカウンタウエイト53を設けることで、ボーリングホルダ1全体において偏心運動によって生じる不均一な荷重を十分に吸収することができる。
【0071】
また、クランプ部57のクランプ/アンクランプの動作と粗動移動体52のスライド動作とが、それぞれ独立した動作としている。つまり、粗動移動体52をスライドさせる手段として、クランプ部57の動作とは別の手段、本実施形態においては、流体供給装置81から供給される流体と主軸2の移動のための駆動部を適用している。このように、粗動移動体52をスライドさせる手段として選択の自由度が高まる。
【0072】
また、本実施形態においては、クランプ部57により粗動移動体52のクランプ/アンクランプの切り替え動作を、流体供給装置81から供給される空気圧の作用により行うこととしている。特に、クランプ部57が粗動移動体52を押圧することによりクランプし、クランプ部57が粗動移動体52に対する押圧を解除することによりアンクランプすることとしている。これにより、非常に簡易な手段によりクランプ部57を構成することができる。さらには、クランプ部57の爪57bにより粗動移動体52を押圧してクランプすることとしている。このように爪57bを有する構成とすることで、クランプ部57を非常に容易に形成することができる。また、クランプ部57の爪57bが複数の溝52aの何れかに係合することにより粗動移動体52をクランプしている。このことにより、確実に粗動移動体52を位置決めすることができる。
【0073】
また、付勢部材58bは、第二スプリング58aの付勢力と流体供給装置81から第二連結ポートを介して供給される空気圧との大きさに応じてスライドする。そして、付勢部材58bがスライドした場合には、付勢部材58bのスライド位置に応じた付勢力を、クランプ部57が粗動移動体52に発生する。そして、付勢部材58bとクランプ部57とはくさび係合しているため、付勢部材58bにおけるスライド方向への力がくさび係合により増幅されて、付勢部材58bからクランプ部57に対する押圧力が発生する。従って、小さな力によって、大きなクランプ力を発生することができる。
【0074】
また、粗動移動体52をスライドさせるためと、クランプ部57をクランプ/アンクランプさせるためとに、流体供給装置81から供給される空気圧を用いている。つまり、流体供給装置81から供給される空気圧を二種類に使い分けて、クランプ部57の動作と、粗動移動体52のスライド動作に用いることとしている。このように、一つの流体供給装置81を用いて、二種類の動作を行わせることで、全体として小型化を図ることができる。
【0075】
また、粗動調整機構による工具径の調整において、刃具70の位置を回転軸線から遠ざかる方向の所定位置に移動させた状態で、かつ、粗動移動体52の基準部52cと位置調整用基準部材83とを当接させた状態を基準状態として、この基準状態から主軸2と位置調整用基準部材83との相対的な位置を近接する方向に変更している。その結果として、回転軸線に対する刃具70の位置を基準状態から近づけることにより、回転軸線に対する刃具70の位置を調整している。このように、基準状態とするために、粗動移動体52に基準部52cを設け、かつ、位置調整用基準部材83を新たに設けることとにより、自動的に工具径を調整することができる。
【0076】
また、流体供給装置81から供給される空気圧を用いて、刃具70の位置を回転軸線から遠ざかる方向の所定位置(例えば、最も遠ざかる位置)にしている。これにより、粗動移動体52の基準部52cと位置調整用基準部材83とを当接させる当接工程を容易に実現できる。ここで、このように当接工程において、刃具を回転軸線から遠ざかる方向の所定位置に移動させるために流体を用いた場合には、当接工程および調整工程において、供給した空気を粗動移動体52およびカウンタウエイト53と粗動ハウジング51との間に形成した僅かな隙間から排出している。これにより、当該隙間から切削粉などの侵入を防止するエアパージ機能を有することになる。
【0077】
また、粗動調整ユニット80をボーリングホルダ1とは別体として設けることにより、ボーリングホルダ1自体の質量を小さくすることができる。この場合であっても、両者が連結できるような構成とすることで、確実に工具径を調整できる。
【0078】
さらに、本実施形態によれば、図13のステップS4にて算出した補正量ΔDに応じて、微動調整機構20のみを動作させるか、微動調整機構20と粗動調整機構50の両方を動作させるかを決定している。このように、補正量ΔDに応じて、微動調整機構20と粗動調整機構50との適切な動作を実行できる。
【0079】
また、図13のステップS10において、工具径の調整を行う度に、現在工具径を記憶するようにしている。そして、ステップS2において、現在工具径として記憶されている前回工具径を利用するため、工具径を補正する際に毎回工具径を計測する必要がない。従って、工具径の補正に係る時間を短縮することができる。
【0080】
また、制御装置は、ボーリングホルダ1により工作物を加工する際において、ボーリングホルダ1の工具径に応じて主軸2の最高回転数を設定している。これにより、ボーリングホルダ1の回転を安全に行うことができるようになる。なお、本実施形態においては、主軸2の最高回転数の設定に際して、調整されるボーリングホルダ1の工具径に応じて変更するようにした。しかし、これに限らず、ボーリングホルダ1の最大工具径によって、主軸2の最高回転数を設定するようにしてもよい。
【0081】
また、工具径計測器109はレーザによるものを用いて説明したが、レーザに限られず、工具径を計測できるものであれば全て適用可能である。さらに、本実施形態のように工具径を直接計測するものに限らず、間接的に工具径を計測できるものでもよい。つまり、工具径を計測する際に一度工作物を加工して、加工された工作物の穴径をタッチセンサなどにより計測するようにしてもよい。
【0082】
<第二実施形態>
第二実施形態のボーリングホルダについて、図14〜図15を参照して説明する。第二実施形態のボーリングホルダは、第一実施形態のボーリングホルダ1に対して、粗動調整機構のみ相違する。そこで、以下に、第二実施形態における粗動調整機構90のみについて説明する。また、粗動調整機構90の構成部品においても、第一実施形態の粗動調整機構50の構成部品と同一のものがあり、これらについては同一符号を付して説明を省略する。
【0083】
第二実施形態の粗動調整機構90は、微動調整機構20の先端側に取り付けられており、刃具70の軸線からの位置、すなわち工具径を粗調整することができる装置である。この粗動調整機構90による工具径の調整可能量は、微動調整機構20による工具径の調整可能量よりも大きい。この粗動調整機構90は、粗動ハウジング51と、粗動移動体92と、カウンタウエイト53と、ピニオン軸54と、流体受給ポート55と、空油圧変換部56と、クランプ部97と、付勢力発生部58とを備えている。つまり、第二実施形態の粗動調整機構90において、第一実施形態の粗動調整機構50に対して、粗動移動体92およびクランプ部97のみ相違する。
【0084】
第一実施形態における粗動移動体52には、外周面に複数の溝52aが形成されていたが、第二実施形態における粗動移動体92には、当該溝52aが形成されておらず、テーパ状に形成されている。具体的には、粗動移動体92の円柱形状の外周面のテーパ部92aは、刃具70が取り付けられる側(先端側)から基端側(後端側)に向かって、縮径するように形成されている。つまり、テーパ部92aの法線方向のうち粗動ハウジング51に対する粗動移動体92のスライド方向成分は、粗動移動体92のうち刃具70の設けられる位置(先端)と反対側(後端側)を向いている。粗動移動体92におけるその他の構成は、第一実施形態の粗動移動体52と同一である。
【0085】
第一実施形態におけるクランプ部57の爪57bは、溝52aに係合する形状に形成されていたが、第二実施形態におけるクランプ部97の押圧部97bの先端面は、粗動移動体92の外周面のテーパ部92aを押圧することができるように、テーパ部92aの形状に対応する形状に形成されている。
【0086】
そして、クランプ部97が粗動移動体92を押圧してクランプする際には、クランプ部97の押圧部97bの先端面が、粗動移動体92の外周面のテーパ部92aを押圧する。このとき、押圧部97bの押圧により粗動移動体92に作用する力のうちスライド方向成分は、加工に際して工作物から受ける力に対抗する方向となる。従って、加工中、粗動移動体92が工作物から力を受けている場合であっても、粗動移動体は安定した位置に位置決めされる。なお、テーパ部92aのテーパ角度は、押圧部97bが粗動移動体92の外周面を押圧することによっては粗動移動体92がスライド方向に移動しない程度の僅かな角度に設定されている。さらに、押圧部97bによって粗動移動体92を押圧する位置に制約がないため、粗動ハウジング51に対する粗動移動体92の位置決め位置を自由に設定することができる。
【0087】
なお、本実施形態においては、粗動移動体92の外周面をテーパ状に形成したが、クランプ部97の押圧部97bが粗動移動体92を押圧している状態において、十分なクランプ力を発生することができるのであれば、粗動移動体92の外周面を円筒状に形成してもよい。この場合、十分な摩擦力を発揮するように、粗動移動体92の外周面およびクランプ部97の押圧面に表面処理を施すなどすることで対応できる。
【0088】
(工具径自動調整処理)
次に、上述した第二実施形態の粗動調整機構90を搭載したボーリングホルダ1に対する工具径の自動調整処理について、図16のフローチャートを参照して説明する。なお、本処理は、第一実施形態において説明に対して、ステップS27が新たに追加されたものである。そのため、詳細な処理に関する説明は省略する。
【0089】
まず、現在調整する対象となるボーリングホルダ1に取り付けられている刃具70の使用回数が、予め設定された規定回数に達したか否かを判定する(S21)。そして、ステップS21において、刃具70の使用回数が規定回数に達していない場合には、前回既に工具径が記憶されているか否かを判定する(S22)。前回工具径が記憶されている場合には(S22:Y)、前回工具径を現在工具径として認定し、現在工具径と目標工具径との差ΔDを算出する(S24)。この差ΔDが補正量となる。
【0090】
ここで、ステップS21において、刃具70の使用回数が規定回数に達した場合には(S21:Y)、摩耗を無視できない状態であると考え、現在の工具径を計測する(S23)。また、ステップS22において、前回工具径として記憶されていない場合にも(S22:N)、現在の工具径を計測する(S23)。ステップS23において、工具径を計測した後には、計測した工具径を現在の工具径と認定して、現在工具径と目標工具径との差ΔDを算出する(S24)。
【0091】
続いて、算出された差である補正量ΔDが、微動調整機構20による微調整可能範囲Dfine未満であるか否かを判定する(S25)。この微調整可能範囲Dfineは、予め設定された値である。そして、補正量ΔDが微調整可能範囲Dfine未満である場合には(S25:Y)、微動調整機構20により補正量ΔDだけ微動調整を行う(S9)。そして、補正後の工具径を現在工具径として記憶する(S31)。続いて、調整された工具径に応じて主軸2の最高回転数を設定し、処理を終了する(S32)。ここで、工具径が大きいほど最高回転数が小さくなるように設定される。
【0092】
ステップS25において、差である補正量ΔDが、微動調整機構20による微調整可能範囲Dfine以上である場合には(S25:N)、粗動調整機構50による粗動調整を行う(S26)。ここで、本実施形態における粗動調整機構90は、第一実施形態の粗動調整機構50のように調整位置に制限されず、任意の位置に位置決めすることができる。従って、理論上は、ステップS26において行われる粗動調整によって、現在工具径が目標工具径に一致している状態となる。ただし、粗動調整機構90による位置決め精度によっては、多少のばらつきが生じるおそれがある。
【0093】
そこで、粗動調整の後に、目標工具径が閾値Dth未満であるか否かを判定する(S27)。そして、目標工具径が閾値Dth以上である場合には、現時点における補正後の工具径を現在工具径として記憶する(S31)。続いて、調整された工具径に応じて主軸2の最高回転数を設定し、処理を終了する(S32)。つまり、目標工具径が大径の場合には、粗動調整のみにより工具径調整を終了する。
【0094】
一方、ステップS27において、目標工具径が閾値Dth未満である場合には、粗動調整後のボーリングホルダ1の工具径を計測する(S28)。この工具径の計測は、図12を用いて上述したように、工具径計測器109を下降させてボーリングホルダ1の工具径を計測する。そして、再び、計測された現在工具径と目標工具径との差ΔDを算出する(S29)。
【0095】
この差ΔDが、次に行う微動調整による補正量となる。上述したように、粗動調整機構90は任意の位置に位置決め可能であるため、理論上は、ステップS26にて粗動調整を行うことで現在工具径と目標工具径とは一致するはずである。しかし、粗動調整機構90による位置決め精度によって生じるばらつきによって、微少なずれを生じるおそれがある。特に、目標加工径が小径の場合には、微少なずれが問題となる可能性が高い。そこで、粗動調整後における工具径を計測して再び補正量ΔDを算出している。
【0096】
そして、微動調整機構20により、今回新たに算出された補正量ΔDだけ微動調整を行う(S30)。そして、補正後の工具径を現在工具径として記憶する(S31)。続いて、調整された工具径に応じて主軸2の最高回転数を設定し、処理を終了する(S32)。このようにして、工具径の自動調整を行う。
【0097】
ここで、一般に、工作物の穴径が大径の場合には加工公差が大きくなり、工作物の穴径が小径の場合には加工公差が小さくなる。そこで、本実施形態によれば、工作物の穴径が小径の場合には必ず微動調整機構20を用い、工作物の穴径が大径の場合には粗動調整機構90のみにより調整することとしている。つまり、工作物の穴径に応じて適切な調整機構の動作を行うことができる。
【符号の説明】
【0098】
1:ボーリングホルダ、 2:主軸
10:被保持部、 11:テーパシャンク部、 12:プルスタッド、 13:空気流路
20:微動調整機構
21:基端ボディ部、 22:空油圧変換部、 23:第一シリンダ
24:第一ピストン、 25:摺動シール、 26:連結ロッド、 27:第二ピストン
28:第二シリンダ、 29:摺動シール、 30:作動油空間、 31:連通路
41:弾性変形部、 42:パワーユニット、 43:凸ブロック、 44:凹ブロック
45:油圧空間、 46:油通路、 47:S字状のスリット、 48:微動部
50:粗動調整機構
51:粗動ハウジング、 51a:円形孔、 51b:空気滞留空間
51c:空気流路、 51d:回転支持部、 51e:円形孔、 51f:作動油空間
51g:連通路
52:粗動移動体、 52a:溝、 52b:移動体側ラック部、 52c:基準部
53:カウンタウエイト、 53a:ウエイト側ラック部
54:ピニオン軸、 55:流体受給ポート
56:空油圧変換部、 56a:段付きシリンダ、 56b:ピストン
57:クランプ部、 57a:支持部、 57b:爪(押圧部)、 57c:係合突起部
58:付勢力発生部、 58a:第二スプリング、 58b:付勢部材
58c:テーパ部
60:第一スプリング、 70:刃具
80:粗動調整ユニット
81:流体供給装置、 82:流体供給スライドポート、 83:位置調整用基準部材
90:粗動調整機構、 92:粗動移動体、 92a:テーパ部
97:クランプ部、 97b:押圧部
109:工具径計測器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
刃具と、回転軸線から前記刃具までの位置を調整可能な微動調整機構および粗動調整機構と、を備えるボーリングホルダと、
前記ボーリングホルダの工具径を計測する工具径計測装置と、
前記工具径計測装置により計測された前記工具径と目標工具径とに基づいて補正量を算出し、前記補正量に基づいて前記微動調整機構および前記粗動調整機構を動作させることにより前記工具径を前記目標工具径に一致させる制御装置と、
を備えることを特徴とするボーリングホルダの工具径調整システム。
【請求項2】
請求項1において、
前記制御装置は、前記補正量に基づいて前記微動調整機構および前記粗動調整機構のうち動作させる調整機構を決定し、決定された前記調整機構を動作させることにより前記工具径を前記目標工具径に一致させることを特徴とするボーリングホルダの工具径調整システム。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記工具径調整システムは、前回計測した前記ボーリングホルダの工具径を前回工具径として記憶する前回工具径記憶手段をさらに備え、
前記制御装置は、前記前回工具径記憶手段に記憶された前記前回工具径と前記目標工具径との差分を補正量として算出することを特徴とするボーリングホルダの工具径調整システム。
【請求項4】
請求項2において、
前記制御装置は、前記目標工具径が設定閾値より大きい場合には前記粗動調整機構のみを動作させ、前記目標工具径が前記設定閾値以下の場合には少なくとも前記微動調整機構を動作させることを特徴とするボーリングホルダの工具径調整システム。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項において、
前記制御装置は、前記ボーリングホルダにより工作物を加工する際において、前記ボーリングホルダの工具径に応じて主軸の最高回転数を設定することを特徴とするボーリングホルダの工具径調整システム。
【請求項1】
刃具と、回転軸線から前記刃具までの位置を調整可能な微動調整機構および粗動調整機構と、を備えるボーリングホルダと、
前記ボーリングホルダの工具径を計測する工具径計測装置と、
前記工具径計測装置により計測された前記工具径と目標工具径とに基づいて補正量を算出し、前記補正量に基づいて前記微動調整機構および前記粗動調整機構を動作させることにより前記工具径を前記目標工具径に一致させる制御装置と、
を備えることを特徴とするボーリングホルダの工具径調整システム。
【請求項2】
請求項1において、
前記制御装置は、前記補正量に基づいて前記微動調整機構および前記粗動調整機構のうち動作させる調整機構を決定し、決定された前記調整機構を動作させることにより前記工具径を前記目標工具径に一致させることを特徴とするボーリングホルダの工具径調整システム。
【請求項3】
請求項1または2において、
前記工具径調整システムは、前回計測した前記ボーリングホルダの工具径を前回工具径として記憶する前回工具径記憶手段をさらに備え、
前記制御装置は、前記前回工具径記憶手段に記憶された前記前回工具径と前記目標工具径との差分を補正量として算出することを特徴とするボーリングホルダの工具径調整システム。
【請求項4】
請求項2において、
前記制御装置は、前記目標工具径が設定閾値より大きい場合には前記粗動調整機構のみを動作させ、前記目標工具径が前記設定閾値以下の場合には少なくとも前記微動調整機構を動作させることを特徴とするボーリングホルダの工具径調整システム。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか一項において、
前記制御装置は、前記ボーリングホルダにより工作物を加工する際において、前記ボーリングホルダの工具径に応じて主軸の最高回転数を設定することを特徴とするボーリングホルダの工具径調整システム。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【公開番号】特開2011−104700(P2011−104700A)
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−261394(P2009−261394)
【出願日】平成21年11月16日(2009.11.16)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年6月2日(2011.6.2)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年11月16日(2009.11.16)
【出願人】(000001247)株式会社ジェイテクト (7,053)
【Fターム(参考)】
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