説明

ボールのトス装置

【課題】テニスボールを安定して打点位置に供給することができるトス装置を提供する。
【解決手段】上向きにボールを打ち上げる発射筒と、回動軸を支点として両端が交互に上下する揺動アームと、この揺動アームの一端に連結され、前記発射筒内を昇降する打撃体と、前記揺動アームの他端を押し下げ方向に付勢して前記打撃体を前記ボールの打ち上げ位置まで上昇させるクランクピンを有すると共に、自重により前記押し下げ方向から反転するカウンタウエイトと、このカウンタウエイトに前記押し下げ方向の動力を付与するモータと、このモータの動力を前記カウンタウエイトに伝達する共に、当該カウンタウエイトが前記ボールの打ち上げ位置まで回転した時点で動力伝達を切断するクラッチとを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、テニスなどのボールを打点位置に投射するトス装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来からテニスラケットの製造開発では、実際にテニスボールを打つテストスイングをして、コンピュータによるシミュレーション分析から、そのテニスラケットの性能を評価することが行われている。テストスイングは人間が行うこともあるが、これを機械的に実行させるための試打装置も開発されている。
【0003】
上記試打装置においては、テニスボールを打点位置に供給するトス装置が必須となり、トス装置を備えた試打装置が特許文献1によって提案されている。即ち、当該先行技術では、回動軸の周りで揺動する揺動部材と、揺動部材に一端が固定され、揺動部材から張り出す腕木と、腕木の一端と異なる他端に固定されるラケットと、揺動部材を回動軸周りに揺動させる駆動装置と、ラケットの打球位置にボールを供給するボール供給装置(トス装置)と、駆動装置とボール供給装置の作動を制御する制御装置とを備えたテニス練習機を提案している。
【0004】
そして、当該テニス練習機によれば、駆動装置に揺動された揺動部材により、腕木およびその端部に固定されたラケットが振られ、制御装置で制御されてボール供給装置からラケットの打球位置にボールが供給されるので、ボールをラケットで打球することによりボールを打ち出すことができ、ボール供給装置でラケットの打球位置へボールを供給するタイミングと、ラケットを振るタイミング、すなわち駆動装置を作動するタイミングとを制御装置で制御することができるので、簡単な構造となるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−5924公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の練習機においてボール供給装置は、多数のボールを収容し、順次送り出すためのボールバスケットと、ボールバスケットからボールをトスアップする位置に送り出すボールガイドと、ボールを投射することによりトスアップする投射装置とを有し、このうち投射装置は、磁性体からなる投射部(ボールを突き上げて打ち上げる部材)と、その周囲に磁場を形成するソレノイド部とを備え、ソレノイド部に電圧を印加すると投射部を上方に移動させる磁界が発生し、電圧の印加を停止すると自重にて投射部が下方に移動する構成としている。そして、ソレノイドを用いた効果として、投射部の動作の変動を小さくすることができ、トスするボールの速さ等が安定すると特許文献1では説明している。
【0007】
しかしながら、ソレノイドを用いた投射部では、電圧値を一定にして、常に同じ高さ・速さでテニスボールをトスする場合はよいが、試打装置のスイングの多様性に対応するために、高さや速さを変えようとしても、それに適した電圧値に調整することが難しい。実際、本出願人が試作機でテストしたところ、電圧値のみの変更ではトスの高さや速さを細かに調整することができず、その都度、ソレノイドの位置までも変更したが、やはりトスの態様を細かく調整することはできなかった。これは、ソレノイドアクチュエータの場合、オンオフの応答性は高い反面、ストロークの有効長が小さく、かつ、投射部の位置で磁場吸引力が変化することに起因すると考えられる。いずれにせよ、ソレノイドを用いた投射部の場合、ボールのトス高さや速さを細かく調整することは困難であり、しかも、前記試作機ではソレノイドにより投射部が移動するときの音や振動が大きく、これもトスの安定阻害要因であるという知見を得た。
【0008】
本発明は上述した課題に鑑みなされたもので、その目的とするところは、テニスボールを安定して打点位置に供給することができるトス装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述した目的を達成するために本発明では、上向きにボールを打ち上げる発射筒と、回動軸を支点として両端が交互に上下する揺動アームと、この揺動アームの一端に連結され、前記発射筒内を昇降する打撃体と、前記揺動アームの他端を押し下げ方向に付勢して前記打撃体を前記ボールの打ち上げ位置まで上昇させるクランクピンを有すると共に、自重により前記押し下げ方向から反転するカウンタウエイトと、このカウンタウエイトに前記押し下げ方向の動力を付与するモータと、このモータの動力を前記カウンタウエイトに伝達する共に、当該カウンタウエイトが前記ボールの打ち上げ位置まで回転した時点で動力伝達を切断するクラッチとを備える。
【0010】
揺動アームは回動軸を支点としてシーソーのように揺動するもので、一端に設けた打撃体を昇降動作させる回転−直線運動変換の機能を有する。揺動アームは、その他端にモータ動力により回転するカウンタウエイトのクランクピンが当接することで、打撃体を上昇させる方向に揺動するよう付勢される。この打撃体の上昇運動によって発射筒内のボールは突き上げられて上向きに投射される。本発明では、動力源としてモータを使用するため、電圧値を変更することで、従来のソレノイド方式に比べて、ボールの打ち上げ高さや速度を容易かつ確実に調整することができる。例えば、テニスボールであれば、硬式用ボールと軟式用ボールの2種類があり、仮に同じ力で打ち上げたとすれば高さや速さが違ってくるが、本発明の場合、モータの印加電圧を変更するで、これらボールの種類に対応して、打ち上げ高さや速さを調整することができる。これと同時に、モータとしてギアドモータを用いれば、その減速比に応じてボールの打ち上げ高さ等を調整できるため好ましく、さらにサーボモータを用いれば、細かい調整が可能となるため、より好ましいものである。なお、発射筒が上向きとは、真上のほか、斜め上を含む概念で、発射筒の角度によってボールの投射角度を調整することができる。
【0011】
本発明では、揺動アームの揺動(シーソーのような動き)によってボールを打ち上げるが、この動きを実現するためにカウンタウエイトを一回転させることなく、当該カウンタウエイトを30〜45度の範囲で回転させれば十分である。そこで、本発明では、カウンタウエイトに対するモータ動力の伝達をクラッチを介して行い、カウンタウエイトの回転角度が所定角度となれば当該伝達を遮断するように構成している。この所謂クラッチが切れた状態では、カウンタウエイトは無負荷となり、自重によって反転方向に回転する。このとき揺動アームも打撃体の重みによって反対方向に揺動し、ボールの発射準備状態に復帰する。また、モータを直接オンオフした場合には、慣性によってタイムラグが生じるが、本発明ではクラッチをオンオフするため、カウンタウエイトの回転を確実に制御することができる。
【0012】
このようなトス装置において、ボールの連続トスを可能とするためには、発射筒にボールを投入する傾斜状のガータを備えることが好ましい。また、揺動アームと連動して、ガータ内に上端のボールストッパを出没自在に昇降するゲートをさらに備えることによって、と、ゲートにあるボールを一つずつ発射筒に供給することができる。
【0013】
より確実にボールを一つずつ発射筒に供給するためには、ガータの下面にゲートのボールストッパが挿通する孔を設け、この孔に前記ゲートの下降時に前記ガータにある先頭のボールが一時的に嵌り込むように構成することが好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明では、ボールを突き上げて発射する打撃体を、揺動アームおよびカウンタウエイトを介してモータにより昇降させるようにしたので、ソレノイドのように位置で磁力が変化するような不安定要素が無く、安定したトスが可能となった。また、モータの出力を変えることで、トスの高さや速度を容易に調整することができる。
【0015】
また、揺動アームの回動軸とクランクピン間に、その揺動と連動してガータのボール通過を規制するゲートを設けたので、ボールを発射筒に一つずつ適正な間隔で供給できることから、試打装置の運転と連動させることにより、テニスラケット等の連続的なテストスイングが可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明の一実施形態に係るトス装置の側面図
【図2】同、平面図
【図3】同、斜視図
【図4】同、動作説明図
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明の好ましい実施の形態を添付した図面に従って説明する。図1は本発明の一実施形態を示すトス装置の側面図、図2は平面図、図3は斜視図であって、図中、1は上段の大径部1aをボールBの載置部として直立したボールBの発射筒、2は発射筒1にボールBを投入するよう傾斜したガータ、3は発射筒1の下段小径部1b内に昇降自在に設けられ、大径部1a(載置部)にあるボールBを突き上げにより発射させる打撃体、4は打撃体3の下部に先端部4aをピン4bにより軸支し、回動軸4cを支点とする回転運動(揺動)を打撃体3の昇降運動(上下方向の直線運動)に変換する揺動アーム、5は揺動アーム4の基端部4dに当接するクランクピン5aを有するカウンタウエイトである。
【0018】
カウンタウエイト5は、図1・2に示されるように、クランクピン5aを回転軸5bの外方に偏心して設けており、回転軸5bを支点としてクランプピン5aが下方に向かって回転させることで基端部4dを押し下げ、テコの原理により揺動アーム4を揺動させるものである。
【0019】
さらに、カウンタウエイト5はクランクピン5aとほぼ対峙するようにウエイト部5cを設けて全体の重心をウエイト部5c側に設定している。したがって、無負荷のときは、ウエイト部5cが自重により垂れ下がり、クランクピン5aを上方に位置させた初期状態で安定する。
【0020】
このカウンタウエイト5の回転軸5bには、図2・3に示されるように、モータ6を連結している。このモータ6はギアドモータであることが好ましい。7はモータ6と回転軸5bの間に設けた減速部であって、カウンタウエイト5に対するモータ6の伝達動力を例えば1〜4回転/秒まで減速するものである。
【0021】
さらに、減速部7とカウンタウエイト5の回転軸5bとはクラッチ8によって連結している。このクラッチ8は、カウンタウエイト5が所定角度正方向に回転したとき、例えば角度センサやリミットスイッチ(図示せず)からの電気信号によって、減速部7とカウンタウエイト5の連結を解除する電磁式クラッチである。つまり、クラッチ8は、モータ6の動力をカウンタウエイト5に伝達するが、カウンタウエイト5の回転角度が設定以上となれば外部センサによって切れるようになっている。クラッチ8が切れるとカウンタウエイト5は無負荷の状態となるため、上述のように、ウエイト部5cの自重により初期状態に復帰する。このとき揺動アーム4もまた、打撃体3の重みによって先端部4aが下がり図1の初期状態となる。そして、この復帰状態を検知してクラッチ8が再度つながるように構成している。
【0022】
本発明のトス装置は、上記のような機構によりボールBを発射することができるのであるが、この実施形態では、ボールBを連続して発射できるように、次の構成を採用している。
【0023】
即ち、この実施形態では、ボールの発射動作と連動してガータ2内に上端部を出没させることにより、ボールBを順次、一つずつ発射筒1に供給制御するためのゲート9を備えている。具体的には、揺動アーム4の基端部4bと回動軸4c間にピン9aで連結することにより、揺動アーム4の揺動と連動して上下に伸縮する伸縮ロッド9bを備える。また、伸縮ロッド9bの上端には、ガータ2の下面に形成した挿通孔2aを挿通する円盤状(傘状)のストッパ9cを設けている。
【0024】
このゲート9は、図1の初期状態において、ストッパ9cがガータ2内に突出してボールB2を停止しており、先に発射筒1に投入されたボールB1の発射が完了すれば、下降動作によってストッパ9cがガータ2の下方に待避し、それまで停止していたガータ2内のボールB2を新たに発射筒1に投入するものである。
【0025】
以下、上記トス装置の動作を、図4の(a)〜(e)の順に説明する。まずボールBの発射動作から説明し、ボールBの供給についてはその後説明する。図4の(a)は初期状態を示しており、発射筒1には既にボールB1が投入されている。この状態から図4(b)では、モータ6を駆動することによりカウンタウエイト5を図中矢印の方向に正転させると、そのクランクピン5aが揺動アーム4の基端部4dを押し下げ、揺動アーム4が回動軸4cを支点としてカウンタウエイト5と反対方向の矢印の向きに揺動することによって、その先端部4aに軸支した打撃体3が上昇する。この打撃体3の上昇動作により、発射筒1の大径部1aに載置したボールB1が突き上げられ、打撃体3の上昇速度に見合った速度でボールB1が打ち上げられ発射(トス)が完了する。
【0026】
これ以降、図4の(c)の状態までカウンタウエイト5を正転させた時点で、その角度センサによってクラッチ8が切れ、カウンタウエイト5が無負荷の状態となるため、自重により、図4の(d)・(e)の状態を経て、図4(a)の初期状態に復帰する。この間、揺動アーム4もまた、打撃体3の重みにより図4(a)の初期状態に復帰することは上述のとおりである。
【0027】
続いて、ボールBの供給動作について説明する。図4の(a)の初期状態では、ガータ2にあるボールB2はゲート9によって停止している。即ち、ゲート9は揺動アーム4の基端部4d側に軸支され、初期状態では揺動アーム4が基端部4dを上にして傾斜しているため、ガータ2内にストッパ9cが突出してボールB2の通過を阻止している。
【0028】
ここから発射動作に入ると、カウンタウエイト5により揺動アーム4の基端部4dが押し下げられることに伴い、ゲート9の伸縮ロッド9bが短縮し、ストッパ9cが挿通孔2aを通過してガータ2外に下降する途中、ボールB2はストッパ9cの上面を通過して発射筒1側に移動する(図4(b)参照)。
【0029】
ここで、本実施形態では、ガータ2の挿通孔2aを発射筒1寄りに拡大して設けている。このためボールB2は、上述した発射動作に伴う伸縮ロッド9bのさらなる短縮により、ストッパ9cが完全に挿通孔2aから離脱した時点で挿通孔2aに嵌り込む(図4(c)参照)。
【0030】
このように図4(c)の発射完了時点で、ガータ2の先頭のボールB2は挿通孔2aに一時停止の状態にあるが、上述したクラッチ8の遮断によりカウンタウエイト5が復帰動作に入ると、揺動アーム4の基端部4dの上昇と連動して、ゲート9の伸縮ロッド9bが伸長し、ストッパ9cが再度ガータ2内に突出するように上昇する。この上昇途中でボールB2はストッパ9cに突き上げられて挿通孔2aから脱出し、発射筒1へと転動すると共に(図4(d)参照)、その次のボールB3はストッパ9cにより停止され、先頭のボールB2のみを発射筒1に投入することができる(図4(e)参照)。なお、図4(d)の状態で、ストッパ9cにより突き上げられたボールB2がゲート2の外に飛び出さないよう、挿通孔2aの反対面には天井面2bを設けておくことが好ましい。
【0031】
これ以降、図4(a)に戻り、再び同じ動作を繰り返すことで、ボールを一つずつ発射筒1に供給して、連続トスが可能となる。
【0032】
なお、この実施形態において、ボールの打ち上げ高さは、打撃体3の上昇速度によって調整することができ、そのためにはモータ6の印加電圧等を変更する他、減速部7の減速比を変更することが可能である。
【0033】
また、上記実施形態では、発射筒1にボールBを一つずつ自動的に供給するため、ガータ2およびゲート9を装備したが、手作業でボールBを発射筒1にセットする場合は、これらガータ2およびゲート9を省略して、発射機能だけのトス装置とすることも可能である。
【0034】
このほか、この実施形態では、ゲート9の昇降動作を安定させるために、伸縮ロッド9bの下端と中途の二カ所にガイドブッシュ9d・9eを設けているが、最も簡便には、ロッド9bの下端を揺動アーム4の基端部4dに直接軸支してもよい。さらに、ゲート2にボールを供給する手段としては、ホッパやバスケットが該当するが、特に限定するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0035】
本発明のトス装置は、テニスの試打装置と連動して、その打点位置にテニスボールを供給するのに好適であるが、人間の練習機として単独で使用することもできる。また、野球や卓球にも応用することが可能である。
【符号の説明】
【0036】
1 発射筒
2 ガータ
3 打撃体
4 揺動アーム
5 カウンタウエイト
6 モータ
7 減速部
8 クラッチ
9 ゲート

【特許請求の範囲】
【請求項1】
上向きにボールを打ち上げる発射筒と、回動軸を支点として両端が交互に上下する揺動アームと、この揺動アームの一端に連結され、前記発射筒内を昇降する打撃体と、前記揺動アームの他端を押し下げ方向に付勢して前記打撃体を前記ボールの打ち上げ位置まで上昇させるクランクピンを有すると共に、自重により前記押し下げ方向から反転するカウンタウエイトと、このカウンタウエイトに前記押し下げ方向の動力を付与するモータと、このモータの動力を前記カウンタウエイトに伝達する共に、当該カウンタウエイトが前記ボールの打ち上げ位置まで回転した時点で動力伝達を切断するクラッチとを備えたことを特徴とするボールのトス装置。
【請求項2】
発射筒にボールを投入する傾斜状のガータを備えた請求項1記載のボールのトス装置。
【請求項3】
揺動アームと連動して、ガータ内に上端のボールストッパを出没自在に昇降するゲートをさらに備えた請求項2記載のトス装置。
【請求項4】
ガータの下面にゲートのボールストッパが挿通する孔を設け、この孔に前記ゲートの下降時に前記ガータにある先頭のボールが一時的に嵌り込む請求項3記載のトス装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2013−106892(P2013−106892A)
【公開日】平成25年6月6日(2013.6.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−256220(P2011−256220)
【出願日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【出願人】(000137878)株式会社ミヤマエ (16)