説明

ボールペン用油性インキ

【目的】 安全性が高く、且つ、ペン先を大気中に長期間露出しても最初の書き出し時にカスレを生じにくい油性ボールペンインキが得られる。
【構成】 C.I.アシッドバイオレット17と塩基性物質との造塩染料と、有機溶剤と、ポリオキシエチレン硬化ひまし油を使用する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、筆記部材としてインキを紙面等の被筆記面に転写するボールと、このボールを先端開口部から一部臨出させて回転自在に抱持するボールホルダーとから少なくともなるボールペンチップをペン先としたボールペンに収容されたボールペン用油性インキに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、油性ボールペンにおいて黒色のインキの着色剤として一般的に油溶性のクロム含金染料であるC.I.ソルベントブラック29(特許文献1)や、C.I.Basic Violet1の造塩染料である紫色染料(特許文献2)が使用されている。さらにはこれらの染料の他に顔料であるカーボンブラックを使用したものもある(特許文献3)
水性インキではC.I.アシッドバイオレット17を使用したインキが知られている(特許文献4〜6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2007−002163号公報第7頁〜8頁、表1及び表2。
【特許文献2】特開2003−321638号公報第5頁1行〜14行。
【特許文献3】特開平06−313144号公報第5頁、表1。
【特許文献4】特開平10−330672号公報第3頁第3欄33行〜35行。
【特許文献5】特開2010−037369号公報第4頁40行。
【特許文献6】特開2002−138237号公報第3頁41行〜第4頁17行。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、C.I.ソルベントブラック29は染料中にクロムを含有しているためこれを使用したインキは安全性が問題視されている。また、特許文献2のC.I.Basic Violet1を造塩した染料はC.I.Basic Violet1が発ガン性物質であるミヒラーズケトンを含有している可能性がありこれを使用したインキは安全性が問題視されている。
【0005】
さらに着色剤にカーボンブラックを使用した場合ペン先を下向きに保管するとカーボンブラックが沈降してカスレを発生するおそれがある。
【0006】
また、特許文献4〜6に使用出来る染料として記載されているC.I.アシッドバイオレット17は、造塩していない酸性染料であり、有機溶剤には溶解しにくいのでそのまま油性ボールペンインキに使用することは出来ない。そのため、C.I.アシッドバイオレット17を油性ボールペン用インキに使用するには、塩基性物質で造塩した造塩染料とする必要がある。しかしながら、このC.I.アシッドバイオレット17の造塩染料は、色調が黒ではなく暗い紫であるため添加量を多くしないと筆跡が黒と認識されない。油性ボールペンにこの造塩染料を大量に使用すると、ペン先を大気中に露出して長期間放置して溶剤が揮発した後ペン先で染料が析出してインキが流れなくなり書き出しで筆跡がかすれる不具合が発生しやすい問題点がある。
【0007】
本発明は、安全性が高く、且つ、ペン先を大気中に露出して長期間放置した後の書き出しがかすれにくくスムーズに筆記出来る黒色の油性ボールペンインキを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
即ち、本発明は、少なくとも着色剤としてC.I.アシッドバイオレット17と塩基性物質との造塩染料と、有機溶剤とポリオキシエチレン硬化ひまし油とから少なくともなる黒色油性ボールペン用インキを要旨とする。
【発明の効果】
【0009】
着色剤としてC.I.アシッドバイオレット17と塩基性物質との造塩染料を用いるとC.I.アシッドバイオレット17はその構造から発ガン性のミヒラーズケトンを中間体に使用せず、また、染料が分解してもミヒラーズケトンを生成するおそれが無いことと、クロムとの錯塩でもないので重金属を含まず安全である。
【0010】
また、C.I.アシッドバイオレット17と塩基性物質との造塩染料を使用したインキ中にポリオキシエチレン硬化ひまし油をインキに添加すると、C.I.アシッドバイオレット17と塩基性物質との造塩染料の塩を形成している部分と、ポリオキシエチレン硬化ひまし油のグリセリンと結合しているエチレンオキシドに続くアシル基部分とが親和し、更に、C.I.アシッドバイオレット17のジエチルアミノフェニル基及びそれ以外の芳香環部分と、ポリオキシエチレン硬化ひまし油のアシル基に繋がっている脂肪酸のアルキル基部分とが親和して、C.I.アシッドバイオレット17と塩基性物質との造塩染料を、ポリオキシエチレン硬化ひまし油が包み込む。
【0011】
そして、ポリオキシエチレン硬化ひまし油の末端のエチレンオキシド部分がインキ媒体である有機溶剤と親和するので、ポリオキシエチレン硬化ひまし油で包まれたC.I.アシッドバイオレット17と塩基性物質との造塩染料が、有機溶剤中に乳化溶解すると考えられる。
【0012】
ポリオキシエチレン硬化ひまし油は、構造的に分岐が多く、有機溶剤などの液媒体が揮発した際には、ポリオキシエチレン硬化ひまし油で包まれたC.I.アシッドバイオレット17と塩基性物質との造塩染料は、染料の間にポリオキシエチレン硬化ひまし油が立体障害として存在するので、染料の密集した硬い析出物とはならず、柔らかさを維持するので、筆記の際のボールが回転する力で容易に崩れ、ボールの回転を阻害せず、筆跡のカスレが発生し難いものと考えられる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下に発明を詳細に説明する。
【0014】
油性インキの主媒体としては溶剤として従来一般的に使用されている有機溶剤が使用できる。その一例を挙げるとフェニルグリコール、フェニルジグリコール、ベンジルモノグリコール、ベンジルジグリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、エチレングリコールモノ2−エチルヘキシルエーテル、エチレングリコールモノアリルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル、ジエチレングリコールモノ2−エチルヘキシルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールモノブチルエーテル、ポリエチレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノプロピルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールターシャリブチルエーテル、プロピレングリコールモノフェニルエーテル、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールモノプロピルエーテル、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノエチルエーテル、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル、3−メチル−3−メトキシ−1−ブチルアセテート等のグリコールエーテル類、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ヘキシレングリコール、オクチレングリコール、グリセリン、ポリエチレングリコール、3−メチル−1,3ブタンジオール、1,3−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、1,5−ペンタンジオール等のグリコール類、ベンジルアルコール、β−フェニルエチルアルコール、α−メチルベンジルアルコール、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、1−ブタノール、2−ブタノール、3−メトキシ−1−ブタノール、3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノール、3−メチル−3−メトキシペンタノール、ラウリルアルコール、トリデシルアルコール、イソデシルアルコール、イソトリデシルアルコール等のアルコール類、メチルイソプロピルエーテル、エチルエーテル、エチルプロピルエーテル、エチルブチルエーテル、イソプロピルエーテル、ブチルエーテル、ヘキシルエーテル、2−エチルヘキシルエーテル等のエーテル類、酢酸−2−エチルヘキシル、イソ酪酸イソブチル、乳酸エチル、乳酸ブチル等のエステル類、N−メチル−2−ピロリドンなどがある。
【0015】
中でもグリコール系溶剤を主溶剤として用いるのが好ましい。
【0016】
これら溶剤の使用量はインキ全量に対し20〜80重量%が好ましい。20重量%未満ではインキに流動性を付与する作用が小さく十分な流動性が得られない。80重量%を超えると他の成分の添加量が確保出来ず、筆跡が薄くなったり書き味が悪くなったりインキとしての性能が低下する。
【0017】
これらの有機溶剤の他に添加している成分が不溶化を起こさない程度に水を加えることも出来る。その添加量はインキ全量に対し15重量%以下が好ましい。
【0018】
なお、一般的に油性ボールペンは置かれる環境によっては保管時に吸湿してインキ中の水分が高くなることがある。保管時に吸湿した水分でも積極的に水を添加したのと同様の状態が得られる。
【0019】
インキの乾燥防止や低温時での凍結防止などの目的で、有機溶媒を添加する事も可能である。具体的には、エタノール、1−プロパノール、2−プロパノール、ブチルアルコール等のアルコール類、エチレングリコール、1,2−プロパンジオール、1,3−ブタンジオール、ヘキシレングリコール、2−エチル1,3−ヘキサングリコール、グリセリン、トリエチレングリコール、ジプロピレングリコール、ジグリセリン、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のグリコールなどが使用出来る。
【0020】
これらは1種又は2種以上選択して併用できるものである。また、その使用量はインキ全量に対して0.5重量%以上30重量%以下の添加が好ましい。0.5重量%未満では塗布部の乾燥防止効果が弱く使用不能になる恐れがあり、30重量%を超えて添加してもその効果の向上は見られず添加することの意味が見い出せない。
【0021】
C.I.アシッドバイオレット17と塩基性物質との造塩染料は着色剤として使用するものである。この造塩体における塩基性物質としては各種のアミンが使用可能であるが、一例を挙げると、ペンチルアミン、ヘキシルアミン、オクチルアミン、ラウリルアミン、ステアリルアミン、ミリスチルアミン、メチルドデシルアミン、メチルステアリルアミン、モルホリン等の炭素数5〜25程度の脂肪族アルキルアミンや、アニリン、メチルアニリン、ジメチルアニリン、ジフェニルアミン、ベンジルアミン、ビストリルグアニジンなどの芳香族アミン、塩基性染料などが好ましく使用される。
【0022】
また、各種の脂肪族アルキルアミン、ビストリルグアニジンで造塩しても通常問題は生じないが経時的に吸湿したときに溶解が不安定になりやすい傾向が見られる。
【0023】
これらの塩基性物質を用いたC.I.アシッドバイオレット17の造塩は通常の方法で行われる。
【0024】
例えば水にC.I.アシッドバイオレット17を溶解し撹拌しながら塩酸を加えてこれに塩基性物質を等モル滴下し数時間反応させた後、濾過後乾燥することで造塩染料が得られる。
【0025】
これらの染料はインキ全量に対し5.0重量%〜30重量%が好ましい。5.0重量%未満では筆跡が薄く黒色と判断されにくく、30.0重量%を超えて添加すると溶解安定性が悪くなりペン先を大気中に露出して放置した時に筆跡がかすれやすくなる。
【0026】
本インキでは上記C.I.アシッドバイオレット17と塩基性物質との造塩染料の他にインキの色調を調整するために一般的な油性染料を併用出来る。その一例を挙げると、SPILON YELLOW C−GNH、SPILON RED C−GH、SPILON RED C−BH(以上、保土ヶ谷化学工業(株)製)などのアイゼンスピロンカラー、VALIFAST RED 1320、VALIFAST RED 1360、VALIFAST BLUE 1605、VALIFAST BLUE 1601、VALIFAST BLUE 1603、VALIFAST BLUE 1621、VALIFAST BLUE 1631、VALIFAST BLUE 2601、VALIFAST BLUE 2606、VALIFAST YELLOW 1101、VALIFAST YELLOW 1109、VALIFAST YELLOW 1171 オイルブルー613、オイルピンク312、(オリエント化学工業(株)製)などのバリファストカラー、ネオスーパーブルーC−555、ネオスーパーブルーC−558(中央合成化学(株)製)が挙げられる。
【0027】
これらの補色の染料はまた、染料で補色する場合、溶剤としてグリコールエーテル系の溶剤を主として使う場合、酸性染料を塩基性物質で造塩した染料よりも塩基性染料を酸性物質で造塩した染料が溶解安定性の点から好ましい。特にインドリノン系塩基性黄色染料を酸性物質、中でもアルキルベンゼンスルホン酸又はアルキルアリルベンゼンスルホン酸で造塩したものが特に溶解安定性が良く好ましい。これは、これらの染料はインキ全量に対して10重量%以下で使用するのが好ましい。
【0028】
更に、筆跡の堅牢性を高める為又は調色の為に顔料を併用する事が出来る。使用出来る顔料としては油性ボールペンに一般的に使用されている顔料は使用可能であるが、その一例を挙げると、C.I.Pigment Blue 2、同9、同15、同15:1、同15:2、同15:3、同15:4、同15:6、同16、同17、同28、同29、同36、同60、同68、同76、同80等が使用できる。
【0029】
これらの顔料の使用量はインキ全量に対し0.5重量%20重量%が好ましい。0.5重量%未満では筆跡の堅牢性を得られず、20重量%を超えて添加すると分散安定性が悪くなりペン先を下向きに経時すると顔料が沈降して目詰まりを起こすおそれがある。
【0030】
これらの顔料を安定に分散する為にブチラール樹脂、スチレンアクリル酸樹脂などの分散剤を使用出来る。
【0031】
ブチラール樹脂の一例と挙げるとエスレックBL−1BL−1H、BL−2、BL−2H、BL−5、BL−10、BL−S、BM−1、BM−2、BM−5、BM−S、BH−3、BH−6、BH−S(以上積水化学工業(株)製)、デンカブチラール#3000−1、#3000−2、#3000−4、#3000−K、#4000−2、#5000−A、#5000−D、#6000−C、#6000−EP、#6000−CS、#6000−AS(以上電気化学工業(株)製)などがある。
【0032】
スチレンアクリル酸樹脂としては、ジョンクリル67,同678、同586、同611、同680、同682、同683、同690(以上BASFジャパン(株)製)等がある。
【0033】
なかでもブチラール樹脂が顔料との親和性が強く好ましい。
【0034】
これらの分散剤の使用量は顔料10重量部に対し0.2重量部〜20.0重量部使用するのが好ましい。0.2重量部未満では顔料を安定に分散することが困難であり、20.0重量部を超えて使用してもそれ以上分散効果は上がらず添加する意味がない。
【0035】
顔料の分散性を良好なものとするために、アニオン、カチオン、ノニオン、両性の界面活性剤や、高分子樹脂を補助的に使用することができる。具体的には、高級脂肪酸、高級アルコール硫酸エステル塩類、脂肪酸硫酸エステル塩類、アルキルアリルスルホン酸類、リン酸エステル類、ポリオキシアルキレンアルキルエーテル類、ポリオキシアルキレンアルキルフェニルエーテル類、ソルビタン脂肪酸エステル類等のアニオン、ノニオン、カチオン性の界面活性剤や、ポリビニルピロリドン樹脂、ポリアクリル酸エステル樹脂、ポリメタクリル酸エステル樹脂、スチレンマレイン酸樹脂などの顔料分散用の樹脂やオリゴマーなどが挙げられる。
【0036】
これらは単独で用いても良いし、2種以上組み合わせて用いても良い。
【0037】
また、顔料を分散するには汎用されている一般的な方法を用いることが可能である。例えば、顔料と溶剤と分散剤を混合し、プロペラ撹拌機等で均一に撹拌した後、分散機で顔料を分散する。ロールミル、ボールミル、サンドミル、ビーズミル、ホモジナイザー等の分散機はインキの有機溶媒の量、顔料濃度によって適宜選択する。
【0038】
インキの粘度は所望の粘度になるよう増粘剤を適宜調整して使用することで調整できる。
【0039】
増粘剤の一例を挙げると、ポリビニルブチラール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルローズ、カルボキシエチルセルロース、HPC−SL、同L、同M、同H(以上、日本曹達(株)製)、アビセルPH−101、同102、同301、同M06、TG−101(以上、旭化成(株)製)等のセルロース類、NA−010(昭和電工(株)製)等のN−ビニルアセトアミド重合架橋物等の水溶性合成高分子などある。
【0040】
これらは単独で用いても良いし、2種以上組み合わせて用いても良い。
【0041】
POE硬化ひまし油はC.I.アシッドバイオレット17と塩基性物質との造塩染料の溶解性を良くしてペン先の溶剤が揮発しても染料が析出しても硬くならず柔らかい状態にのままにするために用いるものである。
【0042】
その一例を挙げるとNIKKOL HCO−5、HCO−10、HCO−20、HCO−30、HCO−40、HCO−50、HCO−60、HCO−80、HCO−100(以上、日光ケミカルズ(株)製)、EMALEX HC−5、HC−7、HC−10、HC−20、HC−30、HC−40、HC−50、HC−60、HC−80、HC−100(以上、日本エマルジョン(株)製)、ブラウノン CW−3、CW−10、CW−25、CW−40、CW−100、CW−200、RCW−20、RCW−40、RCW−60、RCW−80、RCW−100(以上、青木油脂工業(株)製)、UNIOXHC−10、HC−20、HC−40、HC−60、HC−100、HC−20ML、HC−40ML、HC−20MIS、HC−40MIS、HC−60MIS、HC−50MSU(日油(株)製)などが挙げられ、これらは使用するC.I.アシッドバイオレット17と塩基性物質との造塩染料10.0重量部に対し、1.0重量部〜20.0重量部使用するのが好ましい。1.0重量部より少ないとC.I.アシッドバイオレット17と塩基性物質との造塩染料と十分に親和出来ず書き出し時のカスレを防止出来ない。20.0重量部を超えて使用してもそれ以上の効果が期待出来ない。
【0043】
これらのポリオキシエチレン硬化ひまし油のHLBは5〜20が好ましい。HLBが5以下であると使用する有機溶剤に溶けにくくなり、HLBが20を超えると水との親和性が高くなり経時的に吸湿した時に染料を溶解させる力が弱くなる。これらは単独で用いても良いし、2種以上組み合わせて用いても良い。
【0044】
また、他必要に応じて、筆跡の定着剤としてのポリメチルメタクリレート、ポリアクリル酸エステル、ロジン変性マレイン酸樹脂、アルキッド樹脂、変性アルキッド樹脂、ケトン樹脂などの天然樹脂又は合成樹脂や、インキの浸透力の調整のためのアニオン、カチオン、ノニオン、両性界面活性剤などや、金属の腐食防止のためのベンゾトリアゾール、金属塩系、リン酸エステル系化合物などの防錆剤や、インキがカビや菌などで腐敗して変質しないようにするためのイソチアゾロン、オキサゾリジン系化合物などの防腐剤や、インキ中に発生する気泡でインキの流れが阻害されないように気泡をなくすためのシリコン系、鉱物油、フッ素系化合物などの消泡剤や、アセチレングリコール、アセチレンアルコールなどのレベリング性付与剤や、凍結防止剤などの従来公知のインキ用添加剤を併用することも可能である。さらには、筆記時のボールの回転をスムーズにするためにフォスファノールLB400、フォスファノールML−200、フォスファノールML−220、フォスファノールRD−510Y、フォスファノールRB−410、フォスファノールRD−720N、フォスファノールRL−210、フォスファノールRL−310、フォスファノールRS−410、フォスファノールRS−610、フォスファノールRS−710(以上東邦化学工業株製)、プライサーフA208B、プライサーフA219B、プライサーフA208S、プライサーフA212C、プライサーフA215C(以上第一工業製薬(株)製)等のポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸系の潤滑剤をそのまま又は中和された形で添加しても良い。なお、中和剤には有機及び無機のアミン、エタノールアミンなどのアルカノールアミン類やポリオキシエチレンアルキルアミン、ポリオキシエチレンアルキルアミド等が使用出来る。
【0045】
インキを製造するには、上記で分散した顔料と他の成分、例えば粘度調整用樹脂や溶剤、潤滑剤、水溶性多糖類等を混合し、ホモミキサー等の撹拌機にて均一になるまで溶解・混合することで得られるが、場合によって混合したインキをさらに分散機にて分散したり、得られたインキを濾過や遠心分離機に掛けて粗大粒子や不溶解成分を除いたりすることは何ら差し支えない。
【0046】
以下、実施例及び比較例に基づき更に詳細に説明する。尚、各実施例中単に「部」とあるのは「重量部」を表す。
【実施例】
【0047】
(実施例1)
VALIFAST VIOLET 1731(C.I.アシッドバイオレット17とメチン系塩基性染料との造塩体、オリエント化学工業(株)製) 20.0部
SPILON YELLOW C−GNH(インドリノン系塩基性染料と酸性物質の造塩体、保土谷化学工業(株)製) 5.6部
イソプロピルグリコール 18.0部
ジエチレングリコールモノメチルエーテル 29.7部
フェニルセロソルブ 20.4部
フォスファノールLB400(ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸、活性剤、東邦化学工業(株)製) 1.5部
ナイミーンL201(ポリエチレングリコール−1ラウリルアミン、日油(株)製)
1.0部
ニッコールHCO−10(ポリオキシエチレン(10)硬化ひまし油、活性剤、HLB6.5、日光ケミカルズ(株)製)
2.5部
エスレックBH−3(ポリビニルブチラール、積水化学工業(株)製) 1.3部
上記成分を70℃で3時間攪拌してボールペン用油性インキを得た。
(実施例2)
プリンテックス35(カーボンブラック、エボニック・デグサジャパン(株)製)
5.0部
C.I.アシッドバイオレット17とビストリルグアニジンとの造塩体 15.0部
VARIFAST YELLOW1171(C.I.ACID YELLOW42のビストリルグアニジンとの造塩染料、オリエント化学工業(株)製) 4.5部
3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノール 44.5部
フェニルセロソルブ 13.0部
ジョンクリル678(スチレン−アクリル酸共重合体、ジョンソンポリマー(株)製)
10.0部
エスレックBH3(ポリビニルブチラール、増粘剤、積水化学工業(株)製) 1.5部
ニッコール HCO−5(ポリオキシエチレン(5)硬化ひまし油、活性剤、HLB6.0、日光ケミカルズ(株)製) 4.0部
フォスファノールLP710(ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸、東邦化学工業(株)製) 1.0部
アミート105(ポリオキシエチレンココナットアミン、(株)花王製) 0.5部
ニッコールTOP−0(トリオレイルリン酸、活性剤、日光ケミカルズ(株)製)
1.0部
上記成分のうち、3−メチル−3−メトキシ−1−ブタノールの全量と、ジョンクリル678の全量を70℃で攪拌、混合溶解した後、これを室温まで放冷してからプリンテックス35の全量を加えダイノーミル(ビーズミル、(株)シンマルエンタープライズ製)
で直径0.3mmのジルコニアビーズを用い10回通しを行い黒色のペーストを得た。
【0048】
次いで、このペーストに残りの材料の全量を加え、70℃で3時間攪拌してボールペン用油性インキを得た。
(実施例3)
C.I.アシッドバイオレット17とビストリルグアニジンとの造塩体 16.0部
SPILON YELLOW C−GNH 2.8部
オイルブルー 613(C.I.ソルベントブルー5と樹脂の混合体、オリエント化学工業(株)製) 2.0部
SPIRON RED C−GH(保土谷化学工業(株)製) 2.0部
ジエチレングリコールモノメチルエーテル 35.6部
エチレングリコールモノイソプロピルエーテル 24.8部
フォスファノールLB400(ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸、活性剤、東邦化学工業(株)製) 1.5部
ナイミーンL201(ポリエチレングリコール−1ラウリルアミン、日油(株)製)
1.0部
エスレックBH−3 0.8部
エマノーンCH−25(ポリオキシエチレン(25)硬化ひまし油、活性剤、HLB10.7、花王(株)製) 10.0部
水 3.5部
上記成分を70℃で3時間攪拌してボールペン用油性インキを得た。
(実施例4)
実施例1においてニッコールHCO−10を1.3に減じその分フェニルセロソルブを増やした以外は同様に為してボールペン用油性インキを得た。
(実施例5)
実施例3においてエマノーンCH25の代わりにニッコールHCO−100(ポリオキシエチレン硬化ひまし油、活性剤。HLB16.5,日光ケミカルズ(株)製)を添加した以外は同様に為してボールペン用油性インキを得た。
(実施例6)
実施例3においてエマノーンCH25を22重量部に増量し、その分ジエチレングリコールモノメチルエーテルを減じた以外は同様に為しボールペン用油性インキを得た。
(実施例7)
C.I.アシッドバイオレット17とビストリルグアニジンとの造塩体 10.0部
ジエチレングリコールモノメチルエーテル 40.6部
エチレングリコールモノイソプロピルエーテル 29.8部
フォスファノールLB400(ポリオキシエチレンアルキルエーテルリン酸、活性剤、東邦化学工業(株)製) 1.5部
ナイミーンL201(ポリエチレングリコール−1ラウリルアミン、日油(株)製)
1.0部
エスレックBH−3 0.8部
エマノーンCH−25(ポリオキシエチレン(25)硬化ひまし油、活性剤、HLB10.7、花王(株)製) 10.0部
水 3.5部
上記成分を70℃で3時間攪拌してボールペン用油性インキを得た。
(比較例1)
実施例1においてHCO−10の代わりにニッコールBC−2(ポリオキシエチレンセチルエーテル、活性剤、HLB8.8、日光ケミカルズ(株)製)を加えた以外は同様に為しボールペン用油性インキを得た。
(比較例2)
実施例2においてHCO−5を抜いてその分ニッコールSO−10V、ソルビタンモノオレエート、HLB4.3,日光ケミカルズ(株)製)を加えた以外は同様に為しボールペン用油性インキを得た。
(比較例3)
実施例1においてHCO−10を抜いてその分フェニルセロソルブを添加した以外は同様に為してボールペン用油性インキを得た。
(比較例4)
実施例1においてVALIFAST VIOLET 1731(C.I.アシッドバイオレット17とメチン系塩基性染料との造塩体)の代わりにVARIFAST BLACK3806(C.I.SOLVENT BLACK29、オリエント化学工業(株))を用い、SPILON YELLOW C−GNHを抜いてその分ジエチレングリコールモノメチルエーテルを増やした以外は同様に為してボールペン用油性インキを得た。
【0049】
以上、実施例、比較例で得たインキについて、下記の試験を行った。結果を表1に示す。
(試験用油性ボールペンの作製)
上記実施例1〜6及び比較例1〜6で得たボールペン用油性インキを市販の油性ボールペン(.e−ball、製品符号 BK127、ぺんてる(株)製(ボール径φ0.7))と同構造の筆記具に0.3g充填し、遠心機にて遠心力(1000rpm、5分間)を加えてインキ中の気泡を脱気して、試験用ボールペンを作製した。
初筆カスレ試験
試験用ボールペンのペン先を大気中に露出し、無風の室温に24時間放置した後トリニティラボ製静・動摩擦測定機TL201Saを用いて筆記角度70°、荷重150g、筆記速度7cm/secで上質紙に直線を7cm筆記した時のかすれた長さを測定した。試験は実施例、比較例共各5本行いそのかすれた長さの平均値を測定値とした。
筆跡の反射率測定
初筆カスレ試験に用いたサンプルを同じ静・動摩擦測定機TL201Saで直動0.1mm/sec、螺旋機7cm/sec、荷重1472mN、角度70°で螺旋筆記させた時の一回書きの部分の反射率(Y値)をスガ試験機製カラーコンピューターSM5にて測定した。
【0050】
各試験の結果を表1に示す。
【0051】
【表1】

以上、詳細に説明したように、本発明のインキは、安全性が高く、且つ、ペン先を大気中に長期間露出しても最初の書き出し時にカスレを生じにくい油性ボールペンインキに関するものである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも着色剤としてC.I.アシッドバイオレット17と塩基性物質との造塩染料と、有機溶剤と、ポリオキシエチレン硬化ひまし油とから少なくともなる油性ボールペン用黒色インキ。
【請求項2】
C.I.アシッドバイオレット17と塩基性物質との造塩染料10.0重量部に対しポリオキシエチレン硬化ひまし油が1.0〜20重量部である請求項1記載のボールペン用油性インキ。
【請求項3】
C.I.アシッドバイオレット17と塩基性物質との造塩染料をインキ全量に対し15.0〜30.0重量部含有する請求項1又は請求項2に記載のボールペン用油性インキ。

【公開番号】特開2012−12475(P2012−12475A)
【公開日】平成24年1月19日(2012.1.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−149771(P2010−149771)
【出願日】平成22年6月30日(2010.6.30)
【出願人】(000005511)ぺんてる株式会社 (899)
【Fターム(参考)】