説明

ポックスウイルスまたは他の感染性因子に対する免疫の急速な誘導に改変ポックスウイルスを使用する方法

本発明は、ヒトを含む動物において複製能力のないポックスウイルスを前記のヒトを含む動物に接種することによる、ポックスウイルスおよびポックスウイルス感染、例えば天然痘に対する防御免疫応答の急速な誘導に関する。前記のポックスウイルスの例としては、改変ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)が挙げられる。本発明はさらに、ウイルス、例えば、異種抗原および/または抗原エピトープを発現する組み換えMVAを接種されるヒトを含む動物において複製能力のない組み換えポックスウイルスを、前記の異種抗原および/または抗原エピトープに対する、例えば、感染性因子の一部である抗原および/または抗原エピトープに対する防御免疫応答の急速な誘導に使用する方法に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒトを含む動物において複製能力のないポックスウイルスを前記のヒトを含む動物に接種することによる、ポックスウイルスおよびポックスウイルス感染、例えば天然痘に対する防御免疫応答の急速な誘導に関する。前記のポックスウイルスの例としては、改変ワクシニアウイルスアンカラ(Modified vaccinia virus Ankara:MVA)が挙げられる。本発明はさらに、ウイルス、例えば、異種抗原および/または抗原エピトープを発現する組み換えMVAを接種されるヒトを含む動物において複製能力のない組み換えポックスウイルスを、前記の異種抗原および/または抗原エピトープに対する、例えば、感染性因子の一部である抗原および/または抗原エピトープに対する防御免疫応答の急速な誘導に使用する方法に関する。
【背景技術】
【0002】
多くの疾患、例えば感染症用に、ワクチンが開発されており、または開発の途中にある。これらのワクチンは特定の期間内に防御免疫応答を誘導する。ほとんどのワクチンは、集団においてはむしろまれである疾患に対する予防接種に使用されているため、通常は、免疫応答の発生が特に急速である必要はない。しかしながら、免疫応答、例えば、防御免疫応答が出来るだけ早くに発生すべき状況が存在する。これは、天然痘またはその他のヒトのポックスウイルス疾患の大発生における場合が考えられる。
【0003】
天然痘の原因因子は、オルトポックスウイルス属の一員である天然痘ウイルス(variola virus)である。同様にポックスウイルス科におけるオルトポックス属の一員であるワクシニアウイルスは、天然痘に対して免疫状態にするための生ワクチンとして使用されてきた。世界的規模のワクシニアウイルスを用いた予防接種の成功により、天然痘ウイルスの根絶が達成された(天然痘の世界的根絶。非特許文献1)。その間に、ほとんどの感染性天然痘ウイルスの系統は撲滅された。しかし、天然痘または天然痘様疾患を誘発するポックスウイルスが重大な健康問題となる可能性を排除することはできない。さらに、動物のポックスウイルス疾患がヒトに広がる危険性も存在する。
【非特許文献1】Final report of the global commission for the certification of smallpox eradication; History of Public Health, No. 4, Geneva: World Health Organization, 1980
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
さらに、急速な免疫応答の誘導が望ましい他の状況もまたあり得ることであり、例えば、急に世界のある地域へ旅行する必要がある場合には、このような地域の風土病である疾患に対する急速な免疫応答の誘導が望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、ヒトを含む動物に、このヒトを含む動物において複製能力のないポックスウイルスを投与する段階を含む、ヒトを含む動物において防御免疫応答を急速に誘導するための方法に関する。本発明はさらに、前記の複製能力のないポックスウイルスを防御免疫応答の急速な誘導のためのワクチンの製造に使用する方法、および防御免疫応答の急速な誘導のためのワクチンとしてのポックスウイルスに関し、前記のポックスウイルスは前記のヒトを含む動物において複製能力がない。
【0006】
「複製能力のないポックスウイルス」という語句および「感染性の子孫ウイルスを複製することができない」ウイルスという同義の語句は、ワクチン接種される動物の細胞においては全く複製することができないポックスウイルス、および、ポックスウイルスを投与されるヒトを含む動物の免疫系により制御される複製活性がわずかに残っているウイルスを表す。
【0007】
本発明の1つの実施態様において、複製能力のないポックスウイルスは、該ウイルスをワクチンとして使用するヒトを含む動物の細胞に感染できないウイルスである。「細胞に感染できない」ウイルスは、ウイルスまたは少なくともウイルスゲノムが宿主細胞に組み込まれる程度には、宿主細胞と相互作用することができるウイルスである。本発明に使用されるウイルスは、ワクチン接種されるヒトを含む動物の細胞に感染することができるが、ワクチン接種される動物の細胞中で感染性の子孫ウイルスを複製することができないか、またはポックスウイルスを投与されるヒトを含む動物の免疫系によって制御される複製活性だけがわずかに残る。
【0008】
第一の動物種の細胞に感染はできるが、この細胞中で感染性の子孫ウイルスを複製することができないウイルスは、第二の動物種で異なる挙動を示し得ると考えられる。例えばヒトにとって、MVA-BNおよびその誘導体(下記を参照)は、ヒトの細胞に感染はできるが、ヒト細胞中で感染性の子孫ウイルスを複製することができないウイルスである。同じウイルスがニワトリにおいては非常に効率的に複製され、すなわち、ニワトリにおいてMVA-BNは細胞に感染することができ、感染性の子孫ウイルスを複製することができるウイルスである。特定の動物種に対してどのウイルスが選択されるべきかは当業者に公知である。ウイルスがマウス中で複製できるか否かを判定できる試験が国際公開第02/42480号パンフレットに記載されており、この試験はAGR129マウス株(下記を参照)、ならびに成熟BおよびT細胞を産生することができず、それ自体が重篤な免疫低下状態にあって複製ウイルスの影響を非常に受けやすいその他の任意のマウス株を使用している。このマウスモデルにおいて得られた結果はヒトに対しても指標となるものである。
【0009】
本発明の1つの実施態様において、本発明のウイルスは少なくとも1種の動物種の少なくとも1種のタイプの細胞において複製することができる。従って、ワクチン接種および/または治療される動物への投与前にウイルスを増幅させることが可能である。例としては、CEF(ニワトリ胚線維芽細胞)中で増幅させることができるが、ヒト中で感染性の子孫ウイルスを複製することができないウイルスであるMVA−BNが挙げられる。
【0010】
本発明の1つの実施態様においては、改変ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)がヒトおよび数種の動物種、例えばマウスおよびヒト以外の霊長類において使用される。MVAは極めて安全であることが知られている。MVAは、ワクシニアウイルスのアンカラ株(CVA)をニワトリ胚線維芽細胞で長期間にわたり連続継代することによって作出された(概要については「Mayr, A., Hochstein-Mintzel, V. and Stickl, H. [1975] Infection 3, 6-14; Swiss Patent No. 568, 392」を参照のこと)。ブダペスト条約の要件に従って寄託されており、本発明の実施に有用なMVAウイルスの例としては、1994年1月27日に欧州動物細胞カルチャーコレクション(European Collection of Animal Cell Cultures(ECACC):ソールズベリー、UK)に寄託番号ECACC 94012707で寄託されたMVA 572、2000年12月7日にECACC 0120707で寄託されたMVA 575、および2000年8月30日にECACC番号 00083008で寄託されたMVA-BNが挙げられる。
【0011】
本発明の1つの実施態様において、MVA株はMVA-BNおよびその誘導体である。MVA-BNおよびその誘導体の定義はPCT/EP01/13628に記載されている。
【0012】
簡単に述べると、PCT/EP01/13628に開示されているMVA-BNおよびその誘導体は、以下の特性:
(i)ニワトリ胚線維芽細胞(CEF)および細胞株BHKにおいて増殖的複製ができるが、ヒト細胞株では増殖的複製ができない。本発明の1つの実施態様において、ヒト細胞株は、ヒト骨肉種細胞株143B、ヒトケラチノサイト細胞株HaCat、またはヒト子宮頸部癌細胞株HeLaである。
(ii)重篤な免疫低下状態にあるマウスの生体内で複製することができない
(iii)致死攻撃感染モデルにおいて、公知の株MVA 575(ECACC V00120707)と比較して高い免疫原性を誘導する、および/または
(iv)ワクシニアウイルスプライム/ワクシニアウイルスブースト法において、DNA-プライム/ワクシニアウイルスブースト法と比較して、少なくとも実質的に同一の免疫性レベルを誘導する、
のうちの少なくとも1つ、少なくとも2つ、少なくとも3つ、または全てを有することを特徴とする。
【0013】
MVA株が上記の特徴(i)〜(iv)のうちの1つまたはそれ以上を有するかどうかの判定に使用される試験に関する詳細な説明は、国際公開第02/42480号パンフレット(PCT/EP01/13628)に示されている。この文献にはまた、所望の特性を有するウイルスをどのように得ることができるかについても開示されている。MVA株が上記の特徴のうちの1つまたはそれ以上を有し、従って、本発明の上記実施態様におけるウイルスであるかどうかを当業者が試験する方法について、下記において簡潔に概説する。下記の概説は、国際公開第02/42480号パンフレットの本願に関する関連事項を下記の記載に限定するものではない。むしろ、国際公開第02/42480号パンフレットは、参照することにより全体として本明細書中に組み込まれる。
【0014】
ヒト細胞株、例えば細胞株HaCAT(Boukamp et al. 1988, J Cell Biol 106(3): 761-71)またはHeLaにおける「増殖的複製ができない」という語句は、本願においては国際公開第02/42480号パンフレットに定義されるとおりに使用される。従って、細胞株において「増殖的複製ができない」ウイルスは、前記の細胞株において1未満の増幅比を示すウイルスである。ウイルスの「増幅比」とは、感染細胞から産生されるウイルス(アウトプット)の、最初の段階で細胞への感染に元々使用した量(インプット)に対する比率である。アウトプットとインプット間の比率が「1」とは、感染細胞から産生されるウイルスの量が細胞への感染に最初に使用された量と同一である増幅状態と定義される。本発明の1つの実施態様において、ヒト細胞株における「増殖的複製ができない」ウイルスは、上記のヒト細胞株HeLa、HaCatおよび143Bのいずれにおいても、1.0(平均値)以下または0.8(平均値)以下の増幅比を有することができる。
【0015】
本願において使用される場合に「平均」という語句は、少なくとも2、3、4、5、6、7、8、9、10回またはそれ以上の回数の実験から得られる平均値を表す。生物系の固有の可変性により、1回の実験が平均値から逸脱し得ることは、当業者において理解されているところである。
【0016】
「生体内で複製できない」という語句は、国際公開第02/42480号パンフレットに定義されるとおりに本願において使用される。従って、この語句は、国際公開第02/42480号パンフレットにおいて説明されるように、マウスモデル中で複製しないウイルスを表す。国際公開第02/42480号パンフレットにおいて使用されるマウスは、成熟B細胞およびT細胞を産生できない(AGR 129マウス)。MVA-BNおよびその誘導体は、腹腔内投与により107 pfuのウイルスをマウスに感染させた後、少なくとも45日(平均値)の平均期間内、例えば、少なくとも60日(平均値)以内、または少なくとも90日(平均値)以内はAGR 129マウスを殺害しない。本発明の1つの実施態様において、「生体内で複製できない」ウイルスはさらに、腹腔内投与により107 pfuのウイルスをマウスに感染させた後、45日(平均値)、あるいは60日(平均値)、あるいは90日(平均値)は、AGR 129の器官または組織からウイルスを回収できないことを特徴とする。AGR 129マウスの代わりに、成熟BおよびT細胞を製造することができず、それ自体が重篤な免疫低下状態にあって複製ウイルスの影響を非常に受けやすいその他の任意のマウス株を使用することができる。前記マウスモデルにおいて得られたデータはヒトに関しての予測に役立つものである。従って、1つの実施態様において、本発明のウイルス、例えばMVA-BNおよびその誘導体はヒトにおいて全く複製しない。ヒトでのMVA-BNおよびその誘導体の複製の挙動に対する「複製能力のないポックスウイルス」および「感染性の子孫ウイルスを複製できないウイルス」という語句に関連する段落における定義を用いると、これらのウイルスも、ポックスウイルスを投与されるヒトの免疫系によって制御される複製活性がわずかに残る本発明の範囲内に含まれる。
【0017】
MVA株が「公知の株MVA575と比較して高い免疫原性」を有するかどうかを測定するために用いられる致死攻撃感染実験の詳細については、国際公開第02/42480号パンフレットで説明されている。このような致死攻撃感染モデルでは、ワクチン接種されていないマウスは、複製可能なワクシニア株、例えば、Western Reserve株L929 TK+またはIHD-Jの感染後に死亡する。複製可能なワクシニアウイルスの感染を、致死攻撃感染モデルに関する記載において「攻撃感染(challenge)」と呼ぶ。攻撃感染の4日後にマウスを通常死亡させ、卵巣におけるウイルス力価をVERO細胞を用いる標準的なプラークアッセイにより測定する。ウイルス力価を、ワクチン非接種マウスならびにMVA-BNおよびその誘導体を接種したマウスに関して測定する。より具体的には、MVA-BNおよびその誘導体は、この試験において、102TCID50/mlのウイルスの接種後に、卵巣のウイルス力価がワクチン非接種マウスと比較して少なくとも70%(平均値)、あるいは少なくとも80%(平均値)、あるいは少なくとも90%(平均値)減少することを特徴とする。
【0018】
国際公開第02/42480号パンフレットに開示される「アッセイ1」および「アッセイ2」のうちの一方において測定したCTL応答が、ワクシニアウイルスプライム/ワクシニアウイルスブースト法において、DNA-プライム/ワクシニアウイルスブースト法と比較して少なくとも実質的に同一である場合には、ワクシニアウイルス、例えば、MVA株は、ワクシニアウイルスプライム/ワクシニアウイルスブースト法において、DNA-プライム/ワクシニアウイルスブースト法と比較して、少なくとも実質的に同一の免疫性レベルを誘導するとみなされる。本発明の1つの実施態様において、国際公開第02/42480号パンフレットに開示される「アッセイ1」および「アッセイ2」の両方において測定した場合に、ワクシニアウイルスプライム/ワクシニアウイルスブースト法におけるCTL応答は、DNA-プライム/ワクシニアウイルスブースト法と比較して少なくとも実質的に同一である。本発明の1つの実施態様において、ワクシニアウイルスプライム/ワクシニアウイルスブースト投与後のCTL応答は、上記アッセイのうちの少なくとも一方において、DNA-プライム/ワクシニアウイルスブースト法と比較して高い。本発明の1つの実施態様において、CTL応答は両方のアッセイにおいて高い。
【0019】
本発明の1つの実施態様において、MVA-BNの誘導体は、(i)ニワトリ胚線維芽細胞(CEF)およびベビーハムスター腎臓細胞株BHKにおいては増殖的複製ができるが、ヒト細胞株においては増殖的複製ができず、本発明の1つの実施態様におけるヒト細胞株は、ヒト骨肉種細胞株143B、ヒトケラチノサイト細胞株HaCatおよびヒト子宮頸部癌細胞株HeLaであるという点、および(ii)重篤な免疫低下状態にあるマウスの生体内において複製できないこと、により特徴付けられる。
【0020】
本発明の1つの実施態様において、ウイルスはクローン精製されたウイルス、例えば単一クローンのウイルスである。
【0021】
本発明の1つの実施態様において、ウイルスは、血清に含まれる因子の感染リスクを減少させるために血清を含まない条件下で産生/継代されたウイルスである。
【0022】
本発明におけるMVAは、104〜109 TCID50/mlの濃度範囲、例えば105〜5x 108 TCID50/mlの濃度範囲、または例えば106〜108 TCID50/mlの濃度範囲において投与される。実際の濃度は、ウイルスのタイプおよびワクチン接種される動物種に依存する。MVA-BNに関しては、皮下投与される場合の通常のワクチン接種用量は、5 x 107 TCID50〜5 x 108 TCID50、例えば、約1 x 108 TCID50を含む。
【0023】
本発明の1つの実施態様において、上記のように定義されるポックスウイルス、例えば、MVA株(例えばMVA-BN)およびその誘導体は、急速な防御免疫応答を誘導するために単回投与において投与される。臨床データにより、MVA-BNの単回接種によって、ワクチン接種された個体のほぼ100%において免疫応答が検出できることが示された。
【0024】
本発明の別の実施態様において、上記のように定義されるポックスウイルス、例えば、MVA株(例えばMVA-BN)およびその誘導体は、同種のプライムブースト法にも使用することができ、すなわち、MVAのようなポックスウイルスを第一のワクチン接種に使用し、そして第一のワクチン接種において使用されたものと同一のまたは同類のポックスウイルス株を投与することによって、第一のワクチン接種において発生した免疫応答を高めることができる。上記のように定義されるポックスウイルス、例えばMVA(例えばMVA-BN)およびその誘導体は、異種プライム-ブースト法にも使用することができ、この際には、1回またはそれ以上のワクチン接種を上記のように定義されるポックスウイルスで行い、1回またはそれ以上のワクチン接種を別のタイプのワクチン、例えば、別のウイルスワクチン、蛋白質もしくは核酸ワクチンで行う。
【0025】
投与形態は、静脈内、皮内、鼻腔内または皮下でよい。乱切法のようなその他の任意の投与を使用することもできる。
【0026】
本発明において使用されるポックスウイルスは、MVA株(例えばMBA-BN)およびその誘導体のような非組み換えポックスウイルスでよい。この場合には、ワクチン接種は、天然痘のようなポックスウイルス感染に対する防御免疫応答を急速に誘導するために行われる。従って、本発明において、上記のように定義されるポックスウイルス、例えば、MVA株(例えばMBA-BN)およびその誘導体は、天然痘に対する防御免疫応答の急速な誘導に適している。このことは実施例1に例示されており、ここでは、MVA-BN(本発明の株)および非MVA株(例えばDryvaxおよびElstree)を接種後、病原性のワクシニアウイルス株に対して、マウスにおいて防御免疫応答が発生するまでにどのくらいかかるかが比較されている。これらの株は、MVA-BNとは対照的に、完全に複製可能である。マウスのMVA-BN単回接種により、4、3および2日以内に著しい防御免疫応答が引き起こされる点において、MVA-BNがElsteeおよびDyvaxと比較して明らかに改善された特性を有することが示されている。このことは、例えば、MVA-BNの接種の2、3または4日後に投与された病原性ワクシニアウイルス株Western reserve(VV-WR)の力価を、肺において評価することによって実証されている。ワクチン接種の3日後にマウスに12.5 x MLD50のVV-WRを用いて攻撃感染を施した場合に、標準的用量のMVA-BNを接種されたマウスではVV-WRのウイルス力価は検出されなかったのに対し、DryvaxまたはElstree接種されたマウスは防御されず、ワクチン接種されていないコントロールマウスの力価と非常に類似した肺における力価を有していた。ワクチン接種の4日後にマウスに50 x MLD50を用いて攻撃感染を施した場合に、標準的用量のMVA-BNを接種されたマウスではVV-WRのウイルス力価は検出されなかったのに対し、DryvaxまたはElstreeを接種されたマウスは防御されず、ワクチン接種されていないコントロールマウスの力価と非常に類似した肺における力価を有していた。MLD50という語句は、接種されたマウスの50%が死亡する病原性ワクシニアウイルス株の濃度を表す。
【0027】
マウスのデータはヒトに関する予測に役立つものである。さらに、致死用量の50倍の病原性ウイルスの濃度は、通常、特に天然痘を誘発するヒトポックスウイルスに関しては本来は生じないものである。
【0028】
本発明の1つの実施態様において、「ヒトを含む動物における防御免疫応答の急速な誘導」という語句は、好ましくは、本発明のウイルス接種後、7日以内、6日以内、5日以内、4日以内、3日以内、または2日以内の防御免疫応答の発生を表す。このことは、ワクシニアウイルス株の複製に基づいて、防御免疫応答が慣用の天然痘ワクチンに対して発生するまでには少なくとも10〜14日かかることが本技術分野においては定説であったので、予期されなかったことである。防御免疫応答の誘導の速さは、実施例において記載される動物モデルにおいて評価することができる。前記モデルはまた、ヒトに関しての予測に役立つものである。従って、本発明の1つの実施態様において、ポックスウイルスワクチンは、マウスにおける急速な免疫応答を誘導するのに有効であり、マウスに有効用量のポックスウイルスワクチン、例えば、MVA(例えばMVA-BN)およびその誘導体を接種し、そしてワクチン接種の4日後にそれぞれ1x、12.5xおよび50x MLD50のVV-WRでの攻撃感染を施した場合、ウイルスの肺における力価は実施例において記載される試験系で測定すると平均5 x 103pfu(log 3.69に相当)以下である。あるいは、有効用量のポックスウイルスワクチン接種の3日後にそれぞれ1xおよび12.5x MLD50のVV-WRでの攻撃感染を施した後は、この値は平均5 x 103pfu(log 3.69に相当)以下である。大まかに言うと、ウイルスが実施例に記載の肺における力価アッセイおよび体重アッセイにおいて、MVA-BNと類似の挙動を示す場合には、このウイルスはマウスにおける防御免疫応答の急速な誘導を引き起こす。従って、実施例に記載される範囲、閾値、条件およびパラメーターは、防御免疫応答を急速に誘導するとみなされる他のポックスウイルスワクチンに関しても一般的な意味において適用される。このことより、実施例に示されるデータおよび情報を、このパラグラフにおいて欠けているデータおよび情報、例えば、試験系の記載に関する情報を補足するために通常使用できることは明らかである。
【0029】
あるいは、防御免疫応答の誘導の速さは、下記において説明される血清変換試験で評価することができる;この場合、セロコンバージョンが観察される時間点が、防御免疫応答が誘導された時間点とみなされる。
【0030】
本発明の1つの実施態様において、ヒトを含む動物は、ポックスウイルス感染に関してナイーブなヒトを含む動物であり、すなわち、ポックスウイルスに接触したことがなく、ポックスウイルスワクチンを接種されたことがないヒトを含む動物である。
【0031】
関連する実施態様において、ヒトを含む動物は、ポックスウイルスに接触し、そして/またはポックスウイルスを接種されたヒトを含む動物である。ヒトを含むこれらの動物は、ポックスウイルスおよび/またはポックスウイルスワクチン(例えばMVA)に対する免疫応答が生じ得る。
【0032】
「防御免疫応答」という語句は、ワクチン接種された動物が、病原性因子であって、それに対してワクチン接種がなされた因子の感染を制御できることを意味する。通常、発達した「防御免疫応答」を有する動物は、軽度ないし中度の臨床症状のみが現れるか、または全く症状が現れない。通常、特定の因子に対する「防御免疫応答」を有する動物は、この因子の感染の結果として死亡することはない。
【0033】
上記で指摘のように、ヒトにおいて天然痘に対する防御免疫応答を発生させるためのMVA-BNまたはその誘導体の濃度は、5 x 107TCID50〜5 x 108TCID50の範囲内、例えば1 x 108TCID50であり、該ウイルスは皮下または筋肉内に投与することができる。
【0034】
上記で定義されるようなポックスウイルス、例えばMVA株(例えばMVA-BN)およびその誘導体を接種した後の急速な免疫防御の発達のメカニズムは、ワクチン接種されたヒトを含む動物がナイーブな動物(以前にポックスウイルスに接触したことがない動物)、または以前にポックスウイルスに接触していない動物(例えば、ワクチン接種により)であるかどうかに依存しているようである。ナイーブなヒトを含む動物において、本発明のポックスウイルス、例えばMVA-BNまたはその誘導体を投与すると、ワクチン接種後の最初の2、3日は中和抗体が検出されないとしても、免疫系が有効に感作される。病原性ウイルスの感染は、有効に初回抗原刺激を受けた免疫系が前記の感染を思いのほか効率的にそして速く制御できるように免疫系を高める。本発明のウイルスを接種されたナイーブな動物は、単回ワクチン接種のみを行った後、病原性ウイルスであって、これに対してワクチン接種がなされたウイルスの感染に対して、容易に防御することができる。
【0035】
本発明において定義されるウイルス、例えばMVA-BNおよびその誘導体はまた、防御免疫応答がこの状況でも急速に発生するように、思いのほか効率的にそして速く、以前にポックスウイルスと接触したことのある動物における先のワクチン接種の効果を高める。
【0036】
防御免疫応答の誘導の速さはまた、ヒトを含む動物の本発明のウイルス、例えばMVA(例えばMVA-BN)およびその誘導体の接種後における、思いのほか速いセロコンバージョンによっても反映される。ヒト以外の霊長類において、セロコンバージョンが10日以内、例えば7日以内に起こることが示されており、これは、Elstreeのような他の天然痘ワクチンの接種後におけるセロコンバージョンよりも1週間早い。MVA-BNおよびその誘導体の接種後におけるセロコンバージョンをどのように評価するかについては下記に記載されるとおりである。その他のウイルスを接種した後にセロコンバージョンの試験を行う場合には、同一の試験原理を必要な変更を加えて適用する。前記の他のウイルスにより誘導されるセロコンバージョンを評価するのに必要な改変は、MVA-BN特異的IgG抗体の全量を定量化する代わりに前記の他のウイルスに特異的なIgG抗体の全量を定量化することだけである。サンプルが陽性かどうかを評価するためのcut off値および基準は、本技術分野の技術水準内にある任意の小さな改変を伴って、基本的に同一の方法で決定される。MVA-BN(またはその誘導体)を用いたワクチン接種後におけるセロコンバージョンを評価するために、MVA-BN (R)特異的IgG抗体の全量を試験血清において直接ELISA法を用いて定量化する。ELISAは、血清における抗体の検出に使用される感度の高い方法である。MVA-BN (R)特異的ELISAは、試験用ヒト血清におけるIgG抗体の全量を検出するために使用される標準的な結合ELISAである。ELISAの結果は、対数の傾向線を直接分析することにより得られるエンドポイントの抗体力価として表される。cut offまたはエンドポイントの吸光度を0.35と定義した。サンプルのエンドポイント力価は、例えば、市販のコンピュータープログラムExcel(y軸に光学密度(OD)、そしてx軸に血清希釈系列のlog)を使用することにより対数プロットを作成することによって決定する。また、ヒト以外の霊長類におけるデータはヒトに対する予測に役立つものである。試験サンプルの1:50希釈において該サンプルのODが0.35より大きい場合には、試験サンプルは陽性であるとみなされる。幾何平均力価(GMT)は、Log 10に変換した力価の平均の真数をとることにより計算される。GMTは通常、ELISA力価として報告される力価である。セロコンバージョン率は、最初にセロネガティブであって、MVA特異的IgG ELISAにおいて1:50以上の抗体力価が出現する被験者のパーセントとして定義される。従って、本発明の実施態様において、「ヒトを含む動物における防御免疫応答の急速な誘導」という語句は、本発明のウイルスの接種後10日以内、7日以内、6日以内、5日以内、4日以内、3日以内または2日以内の、上記のように定義される試験とともに上記のように定義されるセロコンバージョンを表す。
【0037】
上記のように定義されるポックスウイルス、例えば、MVA株(MVA-BN)およびその誘導体は、組み換えMVA-BNおよびその誘導体のような組み換えポックスウイルスであってもよい。本発明の組み換えウイルス、例えば、組み換えMVA-BNおよびその誘導体は、少なくとも1種の異種核酸配列を含むことができる。本明細書において使用される「異種」という語句は、通常は実在のウイルスに密接に関連しては見られない核酸配列の任意の組み合わせに対して用いられる。異種配列は、非ワクシニア源から選択される抗原エピトープまたは抗原であってもよい。本発明の1つの実施態様において、前記の組み換えウイルスは、感染性因子由来の抗原エピトープまたは抗原である抗原エピトープまたは抗原を1種またはそれ以上発現する。該感染性因子は、いずれの感染性因子でもよく、例えば、ウイルス、真菌、病原性単細胞真核および/または原核生物、または寄生生物であってもよい。感染性因子の例としては、熱帯熱マラリア原虫、ミコバクテリア、インフルエンザウイルス、フラビウイルス、パラミクソウイルス、肝炎ウイルス、ヒト免疫不全ウイルス、出血熱を引き起こすウイルス、例えば、ハンタウイルスまたはフィロウイルス、すなわち、エボラウイルスまたはマルブルクウイルスが挙げられる。
【0038】
この実施態様において、上記のように定義される組み換えポックスウイルスは、ポックスウイルス感染に対する急速な免疫応答を誘導するために使用できるだけでなく、さらに(または二者択一的に)、組み換えウイルスに含まれる異種核酸から発現した異種抗原エピトープ/抗原に対する急速な免疫応答を誘導するために使用することもできる。従って、一例として、組み換えMVAがHIVエピトープまたは黄熱病ウイルスエピトープを発現する場合には、組み換えMVAをそれぞれHIVおよび黄熱病ウイルスに対する急速な免疫応答の誘導に使用することができる。
【0039】
代わりにMVAの免疫原性をさらに増加させる抗原エピトープ/抗原を発現することができる組み換えウイルスもまた、本発明の範囲内に含まれる。
【0040】
本発明において使用される組み換えウイルスは、治療用化合物を発現する異種遺伝子/核酸を含むこともできる。ウイルス中において異種核酸によりコードされる「治療用化合物」は、例えば、アンチセンス核酸のような治療用核酸、または所望の生物学的活性を有するペプチドまたは蛋白質であってもよい。
【0041】
本発明の1つの実施態様において、異種核酸配列の発現は、ポックスウイルスプロモーターの転写制御下にあってもよい。好適なポックスウイルスプロモーターの例は、牛痘ATIプロモーターである(国際公開第03/097844号パンフレット参照)。
【0042】
本発明の1つの実施態様において、異種核酸配列の挿入は、ウイルスゲノムの非必須領域中になされる。本発明のもう1つの実施態様において、異種核酸配列は、MVAゲノムの天然に存在する欠失部位に挿入される(PCT/EP96/02926に開示されている)。あるいは、異種配列は、ポックスウイルスゲノムの遺伝子間領域に挿入することができる(国際公開第03/097845号パンフレット参照)。ポックスウイルスゲノムへの異種配列の挿入方法は、当業者に公知である。
【0043】
非組み換えウイルスに関する実施態様についての上述の定義は全て、組み換えウイルスに関する実施態様にも適用される。
【0044】
<本発明の概要>
ヒトを含む動物における防御免疫応答を急速に誘導するためのワクチンの製造にポックスウイルスを使用する方法であって、ポックスウイルスが前記のヒトを含む動物において複製能力がない、前記の使用方法。
【0045】
ヒトを含む動物に、前記のヒトを含む動物において複製能力がないポックスウイルスを投与する段階を含む、ヒトを含む動物において防御免疫応答を急速に誘導する方法。
【0046】
防御免疫応答が7日以内に発生する、上記の使用方法または方法。
【0047】
ポックスウイルスが改変ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)である、上記の使用方法または方法。
【0048】
MVAがMVA株のMVA 575、MVA 572およびMVA-BNから選択される、上記の使用方法または方法。
【0049】
ウイルスがクローン精製されたウイルスである、上記の使用方法または方法。
【0050】
ウイルスが血清を含まない培養工程において得られている、上記の使用方法または方法。
【0051】
ポックスウイルスが105〜5x108TCID50/mlの用量で投与される、上記の使用方法または方法。
【0052】
ポックスウイルスが静脈内、筋肉内または皮下に投与される、上記の使用方法または方法。
【0053】
防御免疫応答がポックスウイルス感染に対する防御免疫応答である、上記の使用方法または方法。
【0054】
免疫応答が天然痘感染に対するものである、上記の使用方法または方法。
【0055】
ポックスウイルスが組み換えポックスウイルスである、上記の使用方法または方法。
【0056】
組み換えポックスウイルスが少なくとも1種の異種核酸配列を含む、上記の使用方法または方法。
【0057】
異種核酸配列が少なくとも1種の抗原、抗原エピトープ、および/または治療用化合物をコードする配列である、上記の使用方法または方法。
【0058】
抗原エピトープおよび/または抗原が感染性因子の抗原エピトープおよび/または抗原である、上記の使用方法または方法。
【0059】
抗原因子がウイルス、真菌、病原性の単細胞真核および/または原核生物、寄生生物から選択される、上記の使用方法または方法。
【0060】
ウイルスが、インフルエンザウイルス、フラビウイルス、パラミクソウイルス、肝炎ウイルス、ヒト免疫不全ウイルスの科から、または出血熱を引き起こすウイルスから選択される、上記の使用方法または方法。
【0061】
免疫防御が、抗原エピトープおよび/または抗原が由来する感染性因子に対するものである、上記の使用方法または方法。
【0062】
<図面の簡単な説明>
図1:1x MLD50のVV-WRでの鼻腔内攻撃感染後における、異なるワクチンを接種したマウスの体重変化。BALB/cマウスの皮下に、MVA-BN(R)、Elstree、Dryvax、または生理食塩水(PBS)を、マウスあたり4 x 104TCID50のVV-WRを用いる攻撃感染の4日前に、あるいはMVA-BN(R)を攻撃感染の3日または2日前に接種した。体重を攻撃感染(0日目)の前に測定し、その後、攻撃感染後に毎日、各日同じ時間に測定した。グラフは、正規化された個々の値(0日目をベースラインの値とした)を用いて、時間に対する群あたりの平均体重の変化を表す。
【0063】
図2:12.5x MLD50のVV-WRでの鼻腔内攻撃感染後における、異なるワクチンを接種したマウスの体重変化。BALB/cマウスの皮下に、MVA-BN(R)、Elstree、Dryvax、または生理食塩水(PBS)を、マウスあたり5 x 105TCID50のVV-WRを用いる攻撃感染の4日前に、あるいはMVA-BN(R)を攻撃感染の3日前に接種した。体重を攻撃感染(0日目)の前に測定し、その後、攻撃感染後に毎日、各日同じ時間に測定した。グラフは、正規化された個々の値(0日目をベースラインの値とした)を用いて、時間に対する群あたりの平均体重の変化を表す。
【0064】
図3:50x MLD50のVV-WRでの鼻腔内攻撃感染後における、異なるワクチンを接種したマウスの体重変化。BALB/cマウスの皮下に、MVA-BN(R)、Elstree、Dryvax、または生理食塩水(PBS)を、マウスあたり2 x 106TCID50のVV-WRを用いる攻撃感染の4日前に、あるいはMVA-BN(R)を攻撃感染の3日前に接種した。体重を攻撃感染(0日目)の前に測定し、その後、攻撃感染後に毎日、各日同じ時間に測定した。グラフは、正規化された個々の値(0日目をベースラインの値とした)を用いて、時間に対する群あたりの平均体重の変化を表す。
【0065】
図4、5および6:1x MLD50のVV-WR(図4)、12.5x MLD50のVV-WR(図5)または50x MLD50のVV-WR(図6)での鼻腔内攻撃感染後の、死亡時または屠殺時の肺におけるウイルス量。各動物から肺を回収し、ウイルス量をベロ細胞における標準的なプラークアッセイを用いて測定した。バーは、群あたりの肺における平均力価±標準誤差を表す。
【実施例】
【0066】
以下の実施例により本発明をさらに詳細に説明する。これらの実施例は、本発明をこの実施例に限定することを意図するものではない。
【0067】
実施例1:1x、12.5xまたは50x MLD50のワクシニアウイルスVV-Western Reserve(VV-WR)で攻撃感染を施された、MVA-BN、ElstreeまたはDryVax接種マウスにおける防御の開始
1.イントロダクション
天然痘ワクチン候補品の有効性の試験を行うために、マウスの鼻腔内ワクシニア攻撃感染モデルを開発した。このモデルにおいては、有効性を測定すべきワクチンを用いてマウスにワクチン接種を行う。コントロールマウスは、ワクチンの代わりに生理食塩水コントロールを受ける。ワクチン接種の数日後に、マウスに病原性ワクシニアウイルス株、例えば、ワクシニアウイルス株Western Reserve(VV-WR)を感染させる。ワクシニアウイルス株Western Reserve(VV-WR)のマウス致死用量50(MLD50)を測定したところ、ワクチン接種していないマウスにおいては3.6x104TCID50であった。予備試験において、25xまたは50x MLD50のVV-WRで攻撃感染を施したMVA-BN接種BALB/cマウスは、ウイルスの攻撃感染から迅速に回復し、臨床症状の明確な兆候を示さず、これらの動物の肺には病変が存在しないことが示された。別の予備試験においては、VV-WRでの致死攻撃感染からの防御の確立に必要なワクチン接種後の時間を調べた: MVA-BN(R)接種マウスにおける、ワクチン接種の3日後の、致死下用量(sub-lethal dose)のVV-WR(5x103TCID50/マウス)を用いた攻撃感染では、防御が認められた(体重減少およびウイルスの肺における力価に関して)。この実施例の目的は、VV-WRでの致死攻撃感染後の防御の獲得に必要なMVA-BN(R)(またはElstreeもしくはDryvax)接種後の時間を絞り込むことにある。
【0068】
2.ウイルスおよびコントロール:
<試験ワクチン1>
5.0E+08 TCID50/mlの濃度の改変ワクシニアアンカラ-バーバリアンノルディック(MVA-BN(R))。処方:10mM Tris、140mM NaCl (pH7.4)中。
【0069】
MVA-BN(R)接種群では、MVA-BN(R)ストックをさらに希釈せずに、200μlを皮下に投与した結果、最終用量は1.0E+08 TCID50となった。
【0070】
<試験ワクチン2>
1.0E+08 TCID50/mlの公称濃度(nominal concentration)を有するワクシニアウイルス株Elstree;処方:10mM Tris、140mM NaCl (pH7.4)中。
【0071】
Elstreeストックをさらに希釈せずに、2.5μlを各マウスの尾に乱切法により投与した結果、最終用量は2.5E+05 TCID50となった。
【0072】
<試験ワクチン3>
2.9E+07 TCID50/mlの公称濃度を有するDryVax;処方:10mM Tris、140mM NaCl (pH7.4)中。
【0073】
DryVaxストックをさらに希釈せずに、8μlを各マウスの尾に乱切法により投与した結果、最終用量は2.5E+05 TCID50となった。
【0074】
試験ワクチン1〜3をそれぞれ最適な用量および投与経路で投与した。
【0075】
<攻撃感染ウイルス>
4.0E+08 TCID50/mlの公称濃度を有するワクシニアウイルスWestern Reserve(VV-WR)。
【0076】
8.0E+04 TCID50/mlおよび4.0E+07 TCID50/mlの最終ワーキングストックを作製するために、VV-WR(4.0E+08 TCID50/ml)を以下のように希釈した:1x MLD50のVV-WR/マウス(8.0E+05 TCID50/mlのワーキングストック懸濁液):100μlのVV-WRストック(4.0E+08 TCID50/ml)を900μlのPBSに添加し、ボルテックスにより混合し(4.0E+07 TCID50/mlの濃度を得る)、この懸濁液の100μlを900μlのPBSに移し、再度ボルテックスにより混合し(4.0E+06 TCID50/mlの濃度を得る)、この懸濁液の600μlを2400μlのPBSに移し、ボルテックスで混合することにより、8.0E+05 TCID50/mlの最終濃度を得た。50x MLD50のVV-WR/マウス(4.0E+07 TCID50/mlのワーキングストック懸濁液):300μlのVV-WRストック(4.0E+08 TCID50/ml)を2700μlのPBSに添加し、ボルテックスにより混合することによって、4.0E+07 TCID50/mlの最終濃度を得た。
【0077】
<生理食塩水コントロール>
生理食塩水コントロール群においては、200μlのPBS(製造業者から供給)を個々のマウスへの皮下注射に使用した。
【0078】
3.方法および実験設計
【0079】
<試験系>
特定病原体フリー(SPF)の雌のBalb/cマウスH-2dをTaconic M&B(P.O. Box 1079, DK-8680 Ry, デンマーク)から入手した。試験における動物の数:60匹。攻撃感染の開始週齢:9週。攻撃感染の開始時における体重範囲:18〜23グラム。BALB/cマウスは、天然痘ワクチンの免疫原性および有効性の試験に広く使用されている。この系統はVV-WR攻撃感染に対して高い感受性を有する。
【0080】
実験はデンマークの動物実験委員会(Dyreforsogstilsynet)に従って実施した。
【0081】
処置群への割当:到着時に動物を無作為に、試験群あたり(およびケージあたり)5匹の動物からなる処置群に割り当てた。
【0082】
用量レベルの根拠:MVA-BN(R)は、マウスにおいて強力な液性免疫応答および細胞性免疫応答を誘導することがこれまでの実験において実証されている最適用量で使用した。ElstreeおよびDryvaxは、ヒトに関して提唱されている用量で使用した。
【0083】
<ワクチン接種および攻撃感染スケジュール>
全部で80匹のマウスをこの試験において使用した(下記の表を参照のこと)。マウスに、MVA-BN(R)またはElstreeまたはDryvaxのうちのいずれかを接種した4日後に、1x、12.5xまたは50x MLD50のVV-WRで攻撃感染を施した。追加の群においては、MVA-BN(R)を接種した3日後に、1x、12.5xまたは50x MLD50のVV-WRでマウスに攻撃感染を施すか、またはMVA-BN(R)を接種した2日後に、1x MLD50のVV-WRでマウスに攻撃感染を施した。コントロール群では、前もってワクチンを接種することなしに、1x、12.5xまたは50x MLD50のVV-WRでマウスに攻撃感染を施した。1x、12.5xまたは50x MLD50のVV-WRを受けたコントロール動物は、 もし最初の体重からの体重の減少が20%を超える場合には、または、もし呼吸困難を患った場合には、攻撃感染の5または4日後にそれぞれ屠殺した。これは苦痛を減らすために行った。
【0084】
【表1】

【0085】
<群のサイズの根拠>
この試験の一次エンドポイントは、VV-WRでの鼻腔内攻撃感染の4または5日後での防御レベルにより測定される有効性であった。以前の前臨床の知見に基づくと、攻撃感染後にワクチン接種群の少なくとも95%が防御されるのに対し、プラセボ処置群はわずか5%が防御されると考えられた。Fisherの正確確率検定(Fisher’s Exact test)を用いると、5対5の群サイズは、有意水準(両側)α= 0.05において80%を超える検出力で有意差を実証するのに十分である。
【0086】
<ワクチン接種用試験物質の投与>
ワクチン接種は、生物学的安全キャビネット(SW 1000 40/class II, Holten Lamin Air)中で行った。200μlのMVA-BN(R)(1 x 108 TCID50/ml)または生理食塩水コントロール(200μlのPBS)で、1mlの29Gツベルクリン・インスリン用注射器(テルモ製)を用いて、後肢の皮膚のしわにおける皮下経路によりマウスにワクチン接種を施した。ElstreeおよびDryVaxを受けるマウスは、尾の乱切の前に麻酔を施された:75mgのケタミン、5 mgのキシラジンおよび水を含むフレッシュな混合物を調製し、80μlの麻酔薬を1mlの27Gインスリン用注射器を用いて皮下経路で投与した。1つのケージに属する全てのマウスに、ワクチン投与前に麻酔を行った。2.5μlまたは8μlのElstreeまたはDryvaxを尾での乱切により投与した。
【0087】
<肺の攻撃感染モデル>
生物学的安全キャビネット(SW 1000 40/class II, Holten Lamin Air)において、麻酔を施したマウスの鼻腔内経路により試験物質(すなわちVV−WR)を投与した。
【0088】
水における75mgのケタミン、5 mgのキシラジンのフレッシュな混合物を麻酔薬として調製した。80μlの麻酔薬を1mlの29Gインスリン用注射器を用いて皮下経路で投与した。1つのケージに属する全てのマウスに、VV-WR試験物質の投与前に麻酔を行った。
【0089】
生物学的安全キャビネット(SW 1000 40/class II, Holten Lamin Air)において、鼻腔内攻撃感染を実施した。攻撃感染ウイルスのワーキング希釈液を氷から取り出し、2、3秒間の穏やかなボルテックスにより混合した。50μlの希釈VV-WR試験物質を100μlのピペットを用いて計量した。麻酔を施したマウスの首の後側の皮膚/柔皮を持ち、同じ手の掌で体を支えた。試験物質をマウスの片方の外鼻孔にゆっくりと添加した。あえぎが止むまで、上述のようにマウスを持っていた。
【0090】
健康障害のいずれかの兆候を観察するために、攻撃感染前(0日目)の動物、および攻撃感染後の動物を毎日観察した。攻撃感染前(0日目)および攻撃感染後の解剖の日まで毎日、疾患の進行を観察するために体重を測定した。
【0091】
50x MLD50のVV-WRを受けた生理食塩水群は、Dyreforsogstilsynにより設定されたcut off体重を超え、攻撃感染後4日目に屠殺した。1x または12.5x MLD50のVV-WRを受けた生理食塩水群は、Dyreforsogstilsynにより設定されたcut off体重を超え、攻撃感染後5日目に屠殺した。1x MLD50のVV-WRで攻撃感染を施されたワクチン接種動物は、攻撃接種後5日目に屠殺されたのに対し、12.5xまたは50x MLD50のVV-WRで攻撃感染を施されたMVA-BN(R)接種動物は、攻撃感染後最後の8日目に屠殺された。
【0092】
肺を除去し、肺におけるウイルスの全量をベロ細胞における標準的なプラークアッセイを用いて測定した。肺における力価が、ベロ細胞で我々のウイルス滴定の方法を用いたときに検出可能な最も低い力価である5 x 103 pfu以下の場合に、動物は完全に防御されているとみなした。
【0093】
4.結果および考察
【0094】
<体重変化>
1x MLD50のワクシニアウイルス株Western Reserve(VV-WR)による4日後の攻撃感染後における、種々の天然痘ワクチンでのワクチン接種の効果を、この試験のいくつかの群において調べた。図1に示すように、1x MLD50のVV-WRで攻撃感染を施したワクチン非接種(生理食塩水コントロール)マウスの群における体重減少は、攻撃感染の3日後に最初に検出された。5日目に屠殺するまで、平均開始時体重から平均20.9%減少したところまで体重減少が続いた。類似の体重減少が、VV-WRでの攻撃感染の4日前にElstreeまたはDryvaxを接種した群において検出された:これらの群では、屠殺の日における平均体重が、開始時体重からそれぞれ23.2%または21.1%減少していた。VV-WRでの攻撃感染の2日前にMVA-BN(R)を接種した群においては、最初の体重減少(平均開始時体重の約4%)は攻撃感染の2日後に検出された。この群では、攻撃感染4日後まで、開始時の平均体重から平均体重が17.6%減少したところまで平均体重の減少が続いた。攻撃感染後5日目には、平均体重の減少は続かず、開始時の平均体重から16.7%の減少であった。攻撃感染の3日前にMVA-BN(R)を接種した群においては、小さな体重減少のみが攻撃感染後3日目から検出され、攻撃感染後4日目において最も大きく減少し、開始時体重から4.2%減少した。この群においては、体重が5日目に最初の値まで回復した。攻撃感染の4日前にMVA-BN(R)を接種した群は、1x MLD50のVV-WRでの攻撃感染後にいずれの体重減少も示さなかった。
【0095】
第二の群においては、マウスに12.5x MLD50のVV-WRで攻撃感染を施し、マウスの体重をこの場合も攻撃感染前および攻撃感染後に毎日測定した。図2に示すように、ワクチン非接種(生理食塩水コントロール)マウスの群における体重減少は、攻撃感染の2日後に最初に検出された。5日目に屠殺するまで、平均開始時体重から平均23.3%減少したところまで体重減少が続いた。従って、1x MLD50のVV-WRで攻撃感染を施したワクチン非接種群におけるよりも、1日早く体重減少が検出され、屠殺する日における体重減少はより顕著であった(図1参照)。VV-WRによる攻撃感染の4日前にElstreeまたはDryvaxを接種した群では、ワクチン非接種マウスに類似した体重減少が検出された。VV-WRでの攻撃感染の3日前にMVA-BN(R)を接種した群においては、最初のわずかな体重減少(平均開始時体重から約1.7%)が攻撃感染の2日後に検出された。この群では、攻撃感染4日後まで、開始時の平均体重から平均体重が16.1%減少したところまで平均体重の減少が続いた。この群ではその後、平均体重が回復し始め、攻撃感染後8日目には平均開始時体重から2.3%減少した平均体重が検出された。攻撃感染の4日前にMVA-BN(R)を接種したマウスの群においては、平均開始時体重と比較して10.8%の平均体重の減少が検出された。13.8%という最も大きな平均体重の減少が、攻撃感染後3日目に検出された。体重の回復が次の日に認められ、攻撃感染後8日目に検出された平均体重は攻撃感染前と同程度であった。
【0096】
第三の群においては、マウスに50x MLD50のVV-WRで攻撃感染を施し、マウスの体重を今回も攻撃感染前および攻撃感染後に毎日測定した。図3に示すように、ワクチン非接種(生理食塩水コントロール)マウスの群における体重減少は、攻撃感染の1日後にすでに検出された。4日目に屠殺するまで、平均開始時体重から平均20.1%減少したところまで体重減少が続いた。従って、1xまたは12.5xMLD50のVV-WRで攻撃感染を施したワクチン非接種群におけるよりも、それぞれ2日または1日早く体重減少が検出された。ElstreeまたはDryvaxを接種した群では、攻撃感染後2日目に体重減少が検出され始め、そして、この群では攻撃接種4日後までに、それぞれ開始時体重から20.1%または19.7%の平均体重減少が認められた。VV-WRでの攻撃感染の3日前にMVA-BN(R)を接種した群においては、最初の体重減少(平均開始時体重から約1.6%)は攻撃感染後1日目に検出された。この群では、攻撃感染後4日目に屠殺するまで、開始時の平均体重から平均体重が24.0%減少したところまで平均体重の減少が続いた。攻撃感染の4日前にMVA-BN(R)を接種した群においては、最初の体重減少は攻撃感染後1日目に検出され、平均体重は、攻撃感染後4日目に平均開始時体重から22.5%減少したところまで減少し続けた。次の日には体重の回復が検出され、攻撃感染後8日目には、平均体重は平均開始時体重から5.1%の減少であることが確認された。
【0097】
<肺における力価>
マウスの死または屠殺後、肺を除去し、この組織中のウイルスの全量をベロ細胞における標準的なプラークアッセイを用いて測定した。肺における力価が、ベロ細胞で我々のウイルス滴定の方法を用いたときに検出可能な最も低い力価であるlog10 3.69(5 x 103pfu)以下の場合に、動物は完全に防御されているとみなした。第一の群において、1x MLD50のVV-WRで攻撃感染を施したマウスを比較した。図4に示すように、ワクチン非接種マウスは、log10 7.81の平均ウイルス量(virus load)を示した。攻撃感染の4日前にElstreeまたはDryvaxを接種したマウスは、log10 7.75およびlog10 6.68の平均肺ウイルス量を示した。従って、Elstree接種マウスは肺におけるウイルス感染を防ぐことができず、Dryvax接種マウスはある程度だけ肺におけるウイルス感染を防ぐことができた。攻撃感染の4日前にMVA-BN(R) を接種したマウスの群においては、肺でのウイルス力価は検出できず、従って、1x MLD50のVV-WRでの鼻腔内攻撃感染後のウイルス感染から完全に防御されている。MVA-BN(R)の接種とVV-WRでの攻撃感染との間の間隔を4日から3または2日に短くすると、ウイルス陽性の肺の数が5匹のうちの1匹、または5匹のうちの4匹に増加し、これらはそれぞれlog10 3.77またはlog10 4.68の平均肺ウイルス力価を有していた。
【0098】
第二の群において、12.5xMLD50のVV-WRで攻撃感染を施したマウスを比較した。図5に示すように、ワクチン非接種マウスは、log10 8.38の平均ウイルス量を示した。攻撃感染の4日前にElstreeまたはDryvaxを接種したマウスは、log10 8.17およびlog10 8.00の平均肺ウイルス量を示した。従って、Elstree接種マウスおよびDryvax接種マウスは肺におけるウイルス感染を防ぐことができなかった。攻撃感染の4または3日前にMVA-BN(R) を接種したマウスの群においては、肺でのウイルス力価は検出できず、従って、12.5x MLD50のVV-WRでの鼻腔内攻撃感染後のウイルス感染から完全に防御されている。第三の群において、50xMLD50のVV-WRで攻撃感染を施したマウスを比較した。図6に示すように、ワクチン非接種マウスは、log10 8.59の平均ウイルス量を示した。攻撃感染の4日前にElstreeまたはDryvaxを接種したマウスは、log10 8.49およびlog10 8.25の平均肺ウイルス量を示した。従って、Elstree接種マウスおよびDryvax接種マウスは肺におけるウイルス感染を防ぐことができなかった。
【0099】
MVA-BN(R) を接種したマウスの群においては、攻撃感染の4日前にワクチン接種を施した場合には、肺でのウイルス力価は検出されなかった。従って、これらのマウスは、50xMLD50のVV-WRでの鼻腔内攻撃感染後のウイルス感染から完全に防御されている。MVA-BN(R)の接種とVV-WRでの攻撃感染との間の間隔を3日にしたマウスの群においては、log10 7.63の平均ウイルス量が検出された。従って、この群はある程度だけウイルス感染から防御されている。
【0100】
5.結論
VV-WRでの致死的な鼻腔内攻撃感染からの「防御」を示すために、今回の試験では、体重減少からの回復、およびウイルスの肺における力価を測定した。
【0101】
1x、12.5xまたは50x MLD50のVV-WRで攻撃感染を施されたコントロール動物では、体重の継続的な減少が認められ、死後の肺において高いウイルス量を有していた(攻撃感染の用量が高くなると、肺で検出されるウイルス量も高くなる)。従って、これらのマウスは感染を制御することができなかった。
【0102】
天然痘ワクチン候補品IMVAMUNETM(MVA-BN(R))は、50x MLD50までのVV-WRを用いた鼻腔内攻撃感染に対して防御をすることができた。この防御は初期の体重減少後の体重回復に関連しており、そして肺においてウイルスが存在しないことにも関連している。VV-WRの攻撃感染用量を高くすると、攻撃感染の4日前にMVA-BN(R)を接種されたマウスにおいて体重回復に必要な攻撃感染後期間は長くなる:12.5x MLD50のVV-WRを用いて攻撃感染を施した場合には、体重の回復が攻撃感染後4日目に検出されたのに対し、50x MLD50のVV-WRを用いて攻撃感染を施した場合には、体重の回復は攻撃感染後5日目に検出された。さらに、この研究では、マウスへのMVA-BN(R)の接種と1x MLD50のVV-WRでの攻撃感染との間の時間間隔を2日まで減らすことができ、この時間間隔は、1x MLD50のVV-WRでの攻撃感染後の体重を安定化し、肺におけるウイルス力価を低下させるのに十分であることが明らかに示された。さらに、攻撃感染用量を増加すると、致死攻撃感染からの防御を得るために必要とされる、MVA-BN(R)の接種と攻撃感染との間の時間間隔も延長される:50x MLD50のVV-WRでの攻撃感染の場合には、3日間の間隔では不十分であるが、12.5x MLD50のVV-WRでの攻撃感染の場合には、防御を獲得するためにはワクチン接種と攻撃感染との間の時間間隔は3日で十分であった。
【0103】
MVA-BN(R)とは対照的に、第一および第二世代の天然痘ワクチンDryvaxおよびElstreeはそれぞれ、攻撃感染の4日前に投与した場合に、50x MLD50までのVV-WRでの鼻腔内攻撃感染に対して防御することができなかった。この相違の理由は、投与経路の相違によるものであるかもしれない:MVA-BN(R)はマウスの皮下に投与したのに対し(ヒトに対する臨床試験では皮下に投与される)、DryvaxおよびElstreeは乱切法によりマウスに投与した(ヒトへも乱切法により投与された)。
【0104】
まとめると、この試験により、防御の発現に関して、DryvaxおよびElstreeに対するMVA-BN(R)の優位性が明確に実証された。
【図面の簡単な説明】
【0105】
【図1】1x MLD50のVV-WRでの鼻腔内攻撃感染後において、異なるワクチンを接種したマウスの体重変化を示す。
【図2】12.5x MLD50のVV-WRでの鼻腔内攻撃感染後において、異なるワクチンを接種したマウスの体重変化を示す。
【図3】50x MLD50のVV-WRでの鼻腔内攻撃感染後において、異なるワクチンを接種したマウスの体重変化を示す。
【図4】1x MLD50のVV-WRでの鼻腔内攻撃感染後の、死亡時または屠殺時の肺におけるウイルス量を示す。
【図5】12.5x MLD50のVV-WRでの鼻腔内攻撃感染後の、死亡時または屠殺時の肺におけるウイルス量を示す。
【図6】50x MLD50のVV-WRでの鼻腔内攻撃感染後の、死亡時または屠殺時の肺におけるウイルス量を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
ヒトを含む動物における防御免疫応答を急速に誘導するためのワクチンの製造にポックスウイルスを使用する方法であって、ポックスウイルスが前記のヒトを含む動物において複製能力がない、前記の使用方法。
【請求項2】
防御免疫応答が7日以内に発生する、請求項1記載の使用方法。
【請求項3】
ポックスウイルスが改変ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)である、請求項1または2のいずれか1つに記載の使用方法。
【請求項4】
MVAがMVA株のMVA 575、MVA 572またはMVA-BNから選択される、請求項3記載の使用方法。
【請求項5】
ウイルスがクローン精製されたウイルスである、請求項1〜4のいずれか1つに記載の使用方法。
【請求項6】
ウイルスが血清を含まない培養工程において得られている、請求項1〜5のいずれか1つに記載の使用方法。
【請求項7】
ポックスウイルスが105〜5x108TCID50/mlの用量で投与される、請求項3〜6のいずれか1つに記載の使用方法。
【請求項8】
ポックスウイルスが静脈内、筋肉内または皮下に投与される、請求項1〜7のいずれか1つに記載の使用方法。
【請求項9】
防御免疫応答がポックスウイルス感染に対する防御免疫応答である、請求項1〜8のいずれか1つに記載の使用方法。
【請求項10】
免疫応答が天然痘感染に対するものである、請求項9記載の使用方法。
【請求項11】
ポックスウイルスが組み換えポックスウイルスである、請求項1〜10のいずれか1つに記載の使用方法。
【請求項12】
組み換えポックスウイルスが少なくとも1種の異種核酸配列を含む、請求項11記載の使用方法。
【請求項13】
異種核酸配列が少なくとも1種の抗原、抗原エピトープおよび/または治療用化合物をコードする配列である、請求項12記載の使用方法。
【請求項14】
抗原エピトープおよび/または抗原が感染性因子の抗原エピトープおよび/または抗原である、請求項13記載の使用方法。
【請求項15】
抗原因子がウイルス、真菌、病原性の単細胞真核および/または原核生物、寄生生物から選択される、請求項14記載の使用方法。
【請求項16】
ウイルスが、インフルエンザウイルス、フラビウイルス、パラミクソウイルス、肝炎ウイルス、ヒト免疫不全ウイルスの科から、または出血熱を引き起こすウイルスから選択される、請求項15記載の使用方法。
【請求項17】
免疫防御が、抗原エピトープおよび/または抗原が由来する感染性因子に対するものである、請求項14〜16のいずれか1つに記載の使用方法。
【請求項18】
ヒトを含む動物に、前記のヒトを含む動物において複製能力がないポックスウイルスを投与する段階を含む、ヒトを含む動物において防御免疫応答を急速に誘導する方法。
【請求項19】
防御免疫応答が7日以内に発生する、請求項18記載の方法。
【請求項20】
ポックスウイルスが改変ワクシニアウイルスアンカラ(MVA)である、請求項18または19のいずれか1つに記載の方法。
【請求項21】
MVAがMVA株のMVA 575、MVA 572またはMVA-BNから選択される、請求項20記載の方法。
【請求項22】
ウイルスがクローン精製されたウイルスである、請求項18〜21のいずれか1つに記載の方法。
【請求項23】
ウイルスが血清を含まない培養工程において得られている、請求項18〜22のいずれか1つに記載の方法。
【請求項24】
ポックスウイルスが105〜5x108TCID50/mlの用量で投与される、請求項20〜23のいずれか1つに記載の方法。
【請求項25】
ポックスウイルスが静脈内、筋肉内または皮下に投与される、請求項18〜24のいずれか1つに記載の方法。
【請求項26】
防御免疫応答がポックスウイルス感染に対する防御免疫応答である、請求項18〜25のいずれか1つに記載の方法。
【請求項27】
免疫応答が天然痘感染に対するものである、請求項26記載の方法。
【請求項28】
ポックスウイルスが組み換えポックスウイルスである、請求項18〜27のいずれか1つに記載の方法。
【請求項29】
組み換えポックスウイルスが少なくとも1種の異種核酸配列を含む、請求項28記載の方法。
【請求項30】
異種核酸配列が少なくとも1種の抗原、抗原エピトープおよび/または治療用化合物をコードする配列である、請求項29記載の方法。
【請求項31】
抗原エピトープおよび/または抗原が感染性因子の抗原エピトープおよび/または抗原である、請求項30記載の方法。
【請求項32】
抗原因子がウイルス、真菌、病原性の単細胞真核および/または原核生物、寄生生物から選択される、請求項31記載の方法。
【請求項33】
ウイルスが、インフルエンザウイルス、フラビウイルス、パラミクソウイルス、肝炎ウイルス、ヒト免疫不全ウイルスの科から、または出血熱を引き起こすウイルスから選択される、請求項32記載の方法。
【請求項34】
免疫防御が、抗原エピトープおよび/または抗原が由来する感染性因子に対するものである、請求項31〜33のいずれか1つに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2008−531489(P2008−531489A)
【公表日】平成20年8月14日(2008.8.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−555533(P2007−555533)
【出願日】平成18年2月17日(2006.2.17)
【国際出願番号】PCT/EP2006/001447
【国際公開番号】WO2006/089690
【国際公開日】平成18年8月31日(2006.8.31)
【出願人】(502240076)バヴァリアン・ノルディック・アクティーゼルスカブ (18)
【Fターム(参考)】