説明

ポリアミドモノフィラメントおよびその用途

【課題】ブラシ用毛材、釣り糸、漁網、ガットや工業用布帛などの激しい摩擦が懸念される用途に適した、バイオマスを利用し、吸水率が低く、耐熱性に優れ、環境負荷の小さいポリアミドモノフィラメントを提供する。
【解決手段】リシン脱炭酸酵素を用いてリシンから得られたものである1,5−ジアミノペンタンを主成分として含有する脂肪族ジアミンと、セバシン酸を主成分として含有するジカルボン酸とを重縮合して得られるポリアミド樹脂を溶融紡糸してなるポリアミドモノフィラメント。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、1,5−ジアミノペンタンを主成分として含有する脂肪族ジアミンと、セバシン酸を主成分として含有するジカルボン酸を重縮合して得られるポリアミド樹脂を溶融紡糸してなるポリアミドモノフィラメントおよびその用途に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリアミドモノフィラメントは、強度、透明性、延伸性に優れており、水産資材、産業資材、建築用資材あるいは家庭用品、スポーツ・レジャー用品など、幅広い分野で用いられている。
【0003】
ポリアミドには多くの種類があるが、代表的なものとして、ε―カプロラクタムの開環重縮合で得られるナイロン6や、1,6−ジアミノヘキサン・アジピン酸塩の共縮重合で得られるナイロン66等が挙げられる。
【0004】
現在一般に広く用いられているナイロン6やナイロン66のモノフィラメントは、吸水率が高いため、吸水による物性低下や寸法変化が大きく、ブラシ用毛材、釣り糸や漁網、工業用布帛など水中や高湿度環境での用途において問題となっていた。また、石油資源を原料としているため、石油資源の枯渇問題、燃焼処理による二酸化炭素の排出などの環境負荷が懸念されている。
【0005】
吸水率の低いポリアミド樹脂としては、ナイロン11やナイロン12(例えば、非特許文献1参照)が知られている。特にナイロン11はバイオマスであるヒマシ油を原料として合成できるため、石油資源を原料としている一般的なポリアミド樹脂に比べて環境負荷を低減できる可能性がある。
【0006】
しかしながら、ナイロン11やナイロン12は融点がそれぞれ187℃、178℃であり、他のポリアミドの融点(>210℃)に比べて低いため、耐熱性に乏しく、例えばブラシ用毛材、釣り糸、漁網、ガットや工業用布帛などの激しい摩擦が懸念される用途では摩擦熱によって糸が傷つきやすく、耐久性の面で満足いくものではなかった。
【0007】
この他にバイオマスを利用したポリアミド樹脂としては、バイオマス由来炭素比率が63%であるナイロン610(例えば、特許文献1参照)や、47%のナイロン56(例えば、特許文献2参照)などが知られている。これらは従来のポリアミド樹脂に比べれば環境負荷を低減できる可能性があるが、バイオマスの部分的な使用のため十分とはいえなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2008−291095号公報
【特許文献2】特開2006−144163号公報
【非特許文献】
【0009】
【非特許文献1】「実用プラスチック用語辞典 第3版」、プラスチックス・エージ発行、1989年、第644頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上述した従来技術における問題点の解決を課題として検討した結果達成されたものである。
【0011】
したがって本発明の目的は、吸水率が低く、耐熱性に優れ、環境負荷の小さいポリアミドモノフィラメントを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記目的を達成するために本発明によれば、1,5−ジアミノペンタンを主成分として含有する脂肪族ジアミンと、セバシン酸を主成分として含有するジカルボン酸とを重縮合して得られるポリアミド樹脂を溶融紡糸してなるポリアミドモノフィラメントが提供される。
【0013】
なお、本発明のポリアミドモノフィラメントにおいては、
前記1,5−ジアミノペンタンが、リシン脱炭酸酵素を用いてリシンから得られたものであること、および
上記のポリアミドモノフィラメントの直径が0.03〜5mmであること
がいずれも好ましい条件であり、これらの条件を適用した場合には、さらに優れた効果の取得を期待することができる。
【0014】
また、本発明のポリアミドモノフィラメントの好ましい用途としては、
上記のポリアミドモノフィラメントをブラシ用毛材に用いたブラシ、
上記のポリアミドモノフィラメントからなる釣り糸、および
上記のポリアミドモノフィラメントを用いた布帛
が挙げられる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、以下に説明するとおり、吸水率が低く、耐熱性に優れたポリアミドモノフィラメントを得ることができる。したがって、本発明のモノフィラメントは特にブラシ、釣り糸、工業用布帛用途に極めて有用である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下本発明を詳細に説明する。
【0017】
本発明のポリアミドモノフィラメントは、1,5−ジアミノペンタンを主成分として含有する脂肪族ジアミンと、セバシン酸を主成分として含有するジカルボン酸とを重縮合して得られる、ポリペンタメチレンセバカミド(ナイロン510)を主成分とするポリアミド樹脂を溶融紡糸してなるものであるが、本発明の効果を損なわない範囲で、他の成分からなるポリアミド樹脂を混合したり、また他のモノマー成分を共重合させたりして2元、または3元以上の共重合ポリアミド樹脂としてもよい。この様な混合成分や共重合成分等の、他の成分の含有量は、本発明のモノフィラメントを構成するポリアミド樹脂成分における脂肪族ジアミンとジカルボン酸のうち、それぞれ10重量%未満、中でも5重量%未満とすることが好ましい。
【0018】
この様な他の成分としては、モノマー成分としては、6−アミノカプロン酸、11−アミノウンデカン酸、12−アミノドデカン酸、パラアミノメチル安息香酸等のアミノ酸、ε−カプロラクタム、ω−ラウロラクタムなどのラクタム、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、スベリン酸、アゼライン酸、セバシン酸、ウンデカン二酸、ドデカン二酸、ブラシリン酸、テトラデカン二酸、ペンタデカン二酸、オクタデカン二酸のような脂肪族ジカルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式ジカルボン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、ナフタレンジカルボン酸等の芳香族ジカルボン酸、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン、1,4−ジアミノブタン、1,7−ジアミノヘプタン、1,8−ジアミノオクタン、1,9−ジアミノノナン、1,10−ジアミノデカン、1,11−ジアミノウンデカン、1,12−ジアミノドデカン、1,13−ジアミノトリデカン、1,14−ジアミノテトラデカン、1,15−ジアミノペンタデカン、1,16−ジアミノヘキサデカン、1,17−ジアミノヘプタデカン、1,18−ジアミノオクタデカン、1,19−ジアミノノナデカン、1,20−ジアミノエイコサン、2−メチル−1,5−ジアミノペンタン等の脂肪族ジアミン、シクロヘキサンジアミン、ビス−(4−アミノヘキシル)メタンのような脂環式ジアミン、キシリレンジアミンのような芳香族ジアミンなどが挙げられる。またポリアミド樹脂として混合する場合は、これらを単独又は任意に組み合わせて得られるポリアミド樹脂が挙げられる。
【0019】
また、本発明を構成する1,5−ジアミノペンタンの製法に制限はないが、例えば、2−シクロヘキセン−1−オンなどのビニルケトン類を触媒としてアミノ酸の一種であるリシンから合成する方法(Chemistry Letters,893(1986)、特公平4−10452)や、リシン脱炭酸酵素を用いてリシンから転換する方法(特願2001−25489)などが知られている。原料としては後者の方法によって得られた1,5−ジアミノペンタンを用いることが好ましい。これは、耐熱性を低下させる原因となる不純物である2,3,4,5−テトラヒドロピリジンやピペリジンが後者の方法で生成しにくいためである。
【0020】
後者の方法で使用するリシン脱炭酸酵素は、リシンを1,5−ジアミノペンタンに転換させる酵素であり、Escherichia coli(以下E.coliという)K12株をはじめとするエシェリシア属微生物のみならず、多くの生物に存在することが知られている。
【0021】
本発明において使用するのが好ましいリシン脱炭酸酵素は、これらの生物に存在するものを使用することができ、リシン脱炭酸酵素の細胞内での活性が上昇した組換え細胞由来のものも使用できる。
【0022】
組換え細胞としては、微生物、動物、植物、または昆虫由来のものが好ましく使用できる。例えば動物を用いる場合、マウス、ラットやそれらの培養細胞などが用いられる。植物を用いる場合、例えばシロイヌナズナ、タバコやそれらの培養細胞が用いられる。また、昆虫を用いる場合、例えばカイコやその培養細胞などが用いられる。また、微生物を用いる場合、例えば、大腸菌などが用いられる。
【0023】
また、リシン脱炭酸酵素を複数種組み合わせて使用しても良い。
【0024】
このようなリシン脱炭酸酵素を持つ微生物としては、バシラス・ハロドゥランス(Bacillus halodurans)、バシラス・サブチリス(Bacillus subtilis)、エシェリシア・コリ(Escherichia coli)、セレノモナス・ルミナンチウム(Selenomonas ruminantium)、ビブリオ・コレラ(Vibrio cholerae)、ビブリオ・パラヘモリティカス(Vibrio parahaemolyticus)、ストレプトマイセス・コエリカーラ(Streptomyces coelicolor)、ストレプトマイセス・ピロサス(Streptomyces pilosus)、エイケネラ・コロデンス(Eikenella corrodens)、イユバクテリウム・アシダミノフィルム(Eubacterium acidaminophilum)、サルモネラ・ティフィムリウム(Salmonella typhimurium)、ハフニア・アルベイ(Hafnia alvei)、ナイセリア・メニンギチデス(Neisseria meningitidis)、テルモプラズマ・アシドフィルム(Thermoplasma acidophilum)、ピロコッカス・アビシ(Pyrococcus abyssi)またはコリネバクテリウム・グルタミカス(Corynebacteriumglutamicum)等が挙げられる。
【0025】
リシン脱炭酸酵素を得る方法に特に制限はないが、例えば、リシン脱炭酸酵素を有する微生物や、リシン脱炭酸酵素の細胞内での活性が上昇した組換え細胞などを適当な培地で培養し、増殖した菌体を回収し、休止菌体として用いることも可能であり、また当該菌体を破砕して無細胞抽出液を調製して用いることも可能であり、また必要に応じて精製して用いることも可能である。
【0026】
リシン脱炭酸酵素を抽出するために、リシン脱炭酸酵素を有する微生物や組換え細胞を培養する方法に特に制限はないが、例えば微生物を培養する場合、使用する培地は、炭素源、窒素源、無機イオンおよび必要に応じその他有機成分を含有する培地が用いられる。例えば、E.coliの場合しばしばLB培地が用いられる。炭素源としては、グルコース、ラクトース、ガラクトース、フラクトース、アラビノース、マルトース、キシロース、トレハロース、リボースや澱粉の加水分解物などの糖類、グリセロール、マンニトールやソルビトールなどのアルコール類、グルコン酸、フマール酸、クエン酸やコハク酸等の有機酸類を用いることができる。窒素源としては、硫酸アンモニウム、塩化アンモニウム、リン酸アンモニウム等の無機アンモニウム塩、大豆加水分解物などの有機窒素、アンモニアガス、アンモニア水等を用いることができる。有機微量栄養素としては、各種アミノ酸、ビタミンB1等のビタミン類、RNA等の核酸類などの要求物質または酵母エキス等を適量含有させることが望ましい。それらの他に、必要に応じて、リン酸カルシウム、硫酸カルシウム、鉄イオン、マンガンイオン等が少量添加される。
【0027】
培養条件にも特に制限はなく、例えばE.coliの場合、好気条件下で16〜72時間程度実施するのが良く、培養温度は30℃〜45℃に、特に好ましくは37℃に、培養pHは5〜8に、特に好ましくはpH7に制御するのがよい。なおpH調整には無機あるいは有機の酸性あるいはアルカリ性物質、さらにアンモニアガス等を使用することができる。
【0028】
増殖した微生物や組換え細胞は、遠心分離等により培養液から回収することができる。回収した微生物や組換え細胞から無細胞抽出液を調整するには、通常の方法が用いられる。すなわち、微生物や組換え細胞を超音波処理、ダイノミル、フレンチプレス等の方法にて破砕し、遠心分離により菌体残渣を除去することにより無細胞抽出液が得られる。
【0029】
無細胞抽出液からリシン脱炭酸酵素を精製するには、硫安分画、イオン交換クロマトグラフィー、疎水クロマトグラフィー、アフィニティークロマトグラフィー、ゲル濾過クロマトグラフィー、等電点沈殿、熱処理、pH処理等酵素の精製に通常用いられる手法が適宜組み合わされて用いられる。精製は、完全精製である必要は必ずしもなく、リシン脱炭酸酵素以外のリシンの分解に関与する酵素、生成物である1,5−ジアミノペンタンの分解酵素等の夾雑物が除去できればよい。
【0030】
リシン脱炭酸酵素によるリシンから1,5−ジアミノペンタンへの変換は、上記のようにして得られるリシン脱炭酸酵素を、リシンに接触させることによって行うことができる。
【0031】
反応溶液中のリシンの濃度については、特に制限はない。
【0032】
リシン脱炭酸酵素の量は、リシンを1,5−ジアミノペンタンに変換する反応を触媒するのに十分な量であればよい。
【0033】
反応温度は、通常、28〜55℃、好ましくは40℃前後である。
【0034】
反応pHは、通常、5〜8、好ましくは、約6である。1,5−ジアミノペンタンが生成するにつれ、反応溶液はアルカリ性へ変わるので、反応pHを維持するために無機あるいは有機の酸性物質を添加することが好ましい。好ましくは塩酸を使用することができる。
【0035】
反応には静置または攪拌のいずれの方法も採用し得る。
【0036】
リシン脱炭酸酵素は固定化されていてもよい。
【0037】
反応時間は、使用する酵素活性、基質濃度などの条件によって異なるが、通常、1〜72時間である。また、反応は、リシンを供給しながら連続的に行ってもよい。
【0038】
このように生成した1,5−ジアミノペンタンを反応終了後、反応液から採取する方法としては、イオン交換樹脂を用いる方法や沈殿剤を用いる方法、溶媒抽出する方法、単蒸留する方法、その他通常の採取分離方法が採用できる。
【0039】
ここで、本発明において1,5−ジアミノペンタンやセバシン酸の原料については任意であるが、石油資源を原料としている一般的なポリアミド樹脂に比べて製造・廃棄時の環境負荷を低減できる可能性があるバイオマス由来の原料を50重量%以上用いることが好ましい。より好ましくは75重量%以上であり、最も好ましくは100重量%である。例えば、1,5−ジアミノペンタンの原料となるリシンはサトウキビや大豆を、セバシン酸はヒマ(トウゴマ)を原料として作ることが可能である。
【0040】
本発明のモノフィラメントに用いるポリアミド樹脂の重合方法は特に制限はなく、従来公知の任意の方法から適宜選択、決定し、使用することが出来る。例えば製造方法の一例としては、1,5−ジアミノペンタンとセバシン酸との水溶液を高温高圧で加熱し、脱水反応を進行させる加熱重合法や、1,5−ジアミノペンタンとセバシン酸を加圧加熱重合して低次縮合物を得た後、その低次縮合物を高分子量化する方法等が挙げられる。また、1,5−ジアミノペンタンを溶解した水等の水性溶媒と、セバシン酸クロリド等のセバシン酸塩を水性溶媒と相溶性の低い有機溶媒に溶解させた溶液とを接触させ、これらの界面で重縮合させる方法(界面重合法)等も挙げられる。中でも、化学工業的に製造する為には加熱重合法による製造方法が好ましい。
【0041】
本発明のモノフィラメントに用いるポリアミド樹脂の重合度は、特に制限はなく、目的に応じて、適宜選択し、決定すればよい。一般的には相対粘度が低すぎると実用的強度が不十分である場合があり、また高すぎてもポリアミド樹脂の流動性が低下し、成形加工性が損なわれる場合があるので、その相対粘度としてポリアミド樹脂含有量を0.01g/mLとした98%硫酸溶液の25℃における相対粘度が、1.5〜8であることが好ましく、中でも1.8〜5であることが好ましい。
【0042】
本発明のポリアミドモノフィラメントの直径は任意であるが、0.03〜5mmが好ましい。さらに好ましくは、0.04〜4mm、最も好ましくは0.05〜3mmである。
【0043】
なお、本発明のポリアミドモノフィラメントには、本発明の効果を損なわない範囲で、諸機能を向上させる添加剤を含んでいてもよい。例えば酸化防止剤や耐熱安定剤(ヒンダードフェノール系、ヒドロキノン系、ホスファイト系およびこれらの置換体、ハロゲン化銅、ヨウ素化合物等)、耐候剤(レゾルシノール系、サリシレート系、ベンゾトリアゾール系、ベンゾフェノン系、ヒンダードアミン系等)、離型剤及び滑剤(脂肪族アルコール、脂肪族アミド、脂肪族ビスアミド、ビス尿素及びポリエチレンワックス等)、顔料(硫化カドミウム、フタロシアニン、カーボンブラック等)、染料(ニグロシン、アニリンブラック等)、結晶核剤(タルク、シリカ、カオリン、クレー等)、可塑剤(p−オキシ安息香酸オクチル、N−ブチルベンゼンスルホンアミド等)、帯電防止剤(アルキルサルフェート型アニオン系帯電防止剤、4級アンモニウム塩型カチオン系帯電防止剤、ポリオキシエチレンソルビタンモノステアレートのような非イオン系帯電防止剤、ベタイン系両性帯電防止剤等)、難燃剤(メラミンシアヌレート、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム等の水酸化物、ポリリン酸アンモニウム、臭素化ポリスチレン、臭素化ポリフェニレンオキシド、臭素化ポリカーボネート、臭素化エポキシ樹脂あるいはこれらの臭素系難燃剤と三酸化アンチモンとの組み合わせ等)、充填剤(グラファイト、硫酸バリウム、硫酸マグネシウム、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム、酸化アンチモン、酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化亜鉛、酸化鉄、硫化亜鉛、亜鉛、鉛、ニッケル、アルミニウム、銅、鉄、ステンレス、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維、ベントナイト、モンモリロナイト、合成雲母等の粒子状、繊維状、針状、板状充填材)、他の重合体(他のポリアミド、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリフェニレンエーテル、ポリフェニレンスルフィド、液晶ポリマー、ポリスルホン、ポリエーテルスルホン、ABS樹脂、SAN樹脂、ポリスチレン等)が挙げられる。これらは、ポリアミド樹脂を製造する工程や、ポリアミドモノフィラメントの成型工程など、添加量、添加工程等を適宜選択、決定して添加すればよい。
【0044】
また、本発明のポリアミドモノフィラメントの断面形状は、必ずしも円形断面だけに限定はされず、その目的に応じて、三角断面、四角断面などの多角形断面や多葉断面などの異形断面であってもよく、さらにはポリアミドモノフィラメント同士を撚り合わせたり、単糸に縒りを掛けたりするなどの2次加工したものであってもよい。
【0045】
本発明のポリアミドモノフィラメントは、公知の方法を用いて得られるものであり、製造方法には特に制限はなく、例えば、以下の様な方法で得られる。ポリアミドモノフィラメントを溶融紡糸するに際しては、例えばエクストルダー型溶融紡糸機を使用して、ポリマー温度、押出圧力、口金口径、紡糸速度などの各条件を適宜選択することができる。
【0046】
溶融紡糸機から紡出されたポリマー溶融物は、短い気体ゾーンを通過した後、例えば水、グリセリン、ポリエチレングリコールなどの冷却媒体中で冷却固化されて、未延伸糸となる。
【0047】
冷却固化された未延伸糸は、引き続き1段乃至多段延伸される。この際、未延伸糸は、温水、ポリエチレングリコール、グリセリンおよびシリコーンオイルなどの熱媒体浴、熱気体浴、または水蒸気浴中で、全延伸倍率3.0倍以上、好ましくは4.0倍以上に延伸される。
【0048】
さらに、延伸されたポリアミドモノフィラメントは、延伸歪みの除去を目的として、適宜定長および/または弛緩熱処理を行なってもよい。
【0049】
こうして得られたポリアミドモノフィラメントは、引張強度が1〜10cN/dtex、さらには3〜8cN/dtexであることが好ましく、その用途によって適宜選択できる。
【0050】
上記のように本発明のポリアミドモノフィラメントは、従来のポリアミドモノフィラメントに比べて吸水率が低く、耐熱性に優れたものとなることから、水中や高湿度環境で使用されるモノフィラメントとして好適である。その中でもブラシ用毛材、釣り糸、および工業用布帛として使用した場合には寸法安定性に優れるという効果を得ることができる。
【実施例】
【0051】
以下に実施例を示し、本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれら実施例の記載に限定されるものではない。
【0052】
以下の実施例における各特性の測定方法は下記のとおりである。
【0053】
[融点]
JIS K7121の規定に準じてセイコー電子工業社製DSC22を使用して、5.00mgのチップサンプルを昇温速度10℃/分で常温から300℃まで上昇させ、一回目(1stラン)の融点ピークを測定した。
【0054】
[吸水率]
JIS K7209に準じて樹脂の吸水率を測定した。
【0055】
[繊度]
JIS L1013(2008)8.3のB法に準じて測定した。
【0056】
[乾引張強度及び乾結節強度]
JIS L1013(2008)8.5.1および8.6.1に準じて測定した。
【0057】
[乾湿ヤング率及び低下率]
乾ヤング率はJIS L1013(2008)8.10に準じて初期引張抵抗度を測定し、見掛けヤング率に換算した。湿ヤング率はJIS L1013(2008)8.5.2の方法で試料を準備したこと以外は上記の乾ヤング率と同様に求めた。また、乾ヤング率(Y)に対する湿ヤング率(Y)の低下率[%]を式(Y−Y)/Y×100により求めた。
【0058】
[吸水寸法安定率]
20℃、65%RHの環境に16時間以上放置したモノフィラメントを500mmにカットし、20℃、65%RHの環境に置かれた水中に100時間完全浸漬した後その長さLを測定した。式(L/500×100)により吸湿寸法安定率[%]を求めた。
【0059】
[実施例1]
リシン脱炭酸酵素の調整および1,5−ジアミノペンタンの合成を以下の方法で行った。E.coli JM109株をLB培地5mLに1白金耳植菌し、30℃で24時間振とうして前培養を行った。次に、LB培地50mLを500mLの三角フラスコに入れ、予め115℃、10分間蒸気滅菌した。この培地に前培養した上記菌株を植え継ぎ、振幅30cmで、180rpmの条件下で、1N塩酸水溶液でpHを6.0に調整しながら、24時間培養した。こうして得られた菌体を集め、超音波破砕および遠心分離により無細胞抽出液を調製した。リシンを基質とした場合、本来の主経路と考えられるリシンモノオキシゲナーゼ、リシンオキシダーゼおよびリシンムターゼによる転換が起こり得るので、この反応系を遮断する目的で75℃で5分間、E.coli JM109株の無細胞抽出液を加熱した。さらにこの無細胞抽出液を40%飽和および55%飽和硫酸アンモニウムにより分画して粗精製リシン脱炭酸酵素を得た。
【0060】
次に、50mM リシン塩酸塩(和光純薬工業製)、0.1mM ピリドキサルリン酸(和光純薬工業製)、40mg/L−粗精製リシン脱炭酸酵素(上記の方法で調製)となるように調製した水溶液1000mLを、0.1N塩酸水溶液でpHを5.5〜6.5に維持しながら、45℃で48時間反応させ、1,5−ジアミノペンタン塩酸塩を得た。この水溶液に水酸化ナトリウムを添加することによって1,5−ジアミノペンタン塩酸塩を1,5−ジアミノペンタンに変換し、クロロホルムで抽出して、減圧蒸留(10mmHg、60℃)することにより、1,5−ジアミノペンタンを得た。
【0061】
この1,5−ジアミノペンタンを用いてナイロン510樹脂の合成を以下の方法で行った。1,5−ジアミノペンタンとセバシン酸の等モル塩の50重量%水溶液と、フェニルホスホン酸を等モル塩に対してリン原子換算で70ppm仕込み、重合缶内を窒素パージしながら熱媒温度を200℃に設定し加熱を開始し、缶内圧力を0.2MPaに制圧しながら、缶内温度が160℃到達まで1,5−ジアミノペンタンとセバシン酸の等モル塩を濃縮した。その後、重合釜を密閉し、熱媒温度を245℃に設定し、加熱を開始した。缶内圧力が1.7MPaに到達した後、缶内圧力を1.7MPaで制圧し、缶内温度が245℃となるまで維持した。そして熱媒温度を255℃に設定し、1時間かけて缶内圧力を常圧に放圧した後、缶内圧力が0.088MPaまで減圧して、20分間保ち、加熱を停止してポリマーを吐出し、水冷してナイロン510樹脂を得た。
【0062】
上記の方法で得られたナイロン510樹脂をエクストルダー型紡糸機に供給し、270℃の紡糸温度で溶融混練して、紡糸口金からポリマー溶融物を紡出した。
【0063】
そして、このポリマー溶融物を20℃の冷水中で冷却固化して未延伸糸とし、さらにこの未延伸糸を60℃の湯浴中で3.0倍の一段目延伸を行い、次に120℃の乾熱浴中で全延伸倍率が4.8倍となるように二段目延伸を行い、引き続いて185℃の乾熱浴中で0.90倍の熱処理を施すことにより、直径0.2mmのポリアミドモノフィラメントを得た。
【0064】
[実施例2]
リシン塩酸塩20g(和光純薬工業製)をシクロヘキサノール100mL(シグマアルドリッチジャパン製)に懸濁し、次いで28%ナトリウムメトキジド/メタノール溶液21.2mL(シグマアルドリッチジャパン製)、2−シクロヘキセン−1−オン1mL(シグマアルドリッチジャパン製)を加え、155℃で3時間加熱攪拌した。反応終了後、反応混合物に塩化水素4g(シグマアルドリッチジャパン製)を加え、析出した生成物を回収し、乾燥することにより1,5−ジアミノペンタン塩酸塩を得た。この水溶液に水酸化ナトリウム水溶液を添加することによって1,5−ジアミノペンタン塩酸塩を1,5−ジアミノペンタンに変換し、クロロホルムで抽出して、減圧蒸留(10mmHg、60℃)することにより、1,5−ジアミノペンタンを得た。
【0065】
この1,5−ジアミノペンタンを用いたこと以外は実施例1と同様にしてポリアミドモノフィラメントを得た。
【0066】
[比較例1]
原料樹脂を東レ製ナイロン6樹脂“アミラン”ポリアミドCM1010に変更した以外は実施例1と同様にしてポリアミドモノフィラメントを得た。
【0067】
[比較例2]
原料樹脂を東レ製ナイロン610樹脂“アミラン”ポリアミドCM2001に変更した以外は実施例1と同様にしてポリアミドモノフィラメントを得た。
【0068】
[比較例3]
原料樹脂をアルケマ製ナイロン11樹脂“RilsanB”に変更した以外は実施例1と同様にしてポリアミドモノフィラメントを得た。
【0069】
以上の各ポリアミドモノフィラメントの原料特性およびフィラメント特性を表1に示す。
【0070】
【表1】

【0071】
表1から明らかなように、本発明のポリアミドモノフィラメント(実施例1,2)は、吸水率が低く、ヤング率の低下率が小さく、しかも吸水寸法安定率に優れることから、水中や高湿度環境での使用に適しており、さらに耐熱性にも優れる。100%バイオマス由来であることから製造・廃棄の際の環境負荷が小さい。以上のことからバランスの取れたポリアミドモノフィラメントであることがわかる。
【0072】
一方、ナイロン6のポリアミドモノフィラメント(比較例1)は、耐熱性に優れるものの、吸水率が高く、ヤング率の低下率が大きいことに加え、吸湿寸法安定性にも劣っており、水中や高湿度環境での使用に適さない。さらに、石油資源を原料とするため、製造・廃棄時の環境負荷も大きい。
【0073】
ナイロン610のモノフィラメント(比較例2)は、耐熱性、吸水率、ヤング率の低下率、吸水寸法安定率の点において本発明と大きな差は見られなかったが、一部石油資源を原料とするため、環境負荷の面で十分満足できるとはいえない。
【0074】
ナイロン11のモノフィラメント(比較例3)は、吸水率、ヤング率の低下率、吸水寸法安定率において優れており、環境負荷も小さいものの、耐熱性の面で劣っている。
【0075】
[実施例3、比較例4]
実施例1および比較例1で得られたモノフィラメントを用いて歯ブラシを作成し、毛開き耐久性試験(植毛部開き率)を行った。歯ブラシハンドルのヘッド部に、植毛面積S=0.8〜1.5cm、植毛密度35〜45%の条件を満たすように23穴の植毛穴(直径1.6mmの丸穴)を形成し、これら植毛穴のそれぞれに、モノフィラメントを平線(厚さ0.25mm)を用いて1穴当たり19本(折り返しで38本)ずつ植毛した後、毛丈が9.5mmとなるようにカッターで平切りし、歯ブラシを作製した。
【0076】
上記各歯ブラシをモデル耐久性試験機にセットし、刷掃回数の増加による植毛部開き率を測定した。試験方法は、歯ブラシヘッド部を金属製の波板(波高3mm、波幅8mm)上に位置して刷毛先端が波板表面に接するように波板と平行に対向配置し、この状態で歯ブラシヘッド部と波板の全体を37℃(略口腔内温度)の温水中に浸漬し、歯ブラシヘッド部を波板の波と直交する向きに往復動する。試験条件は、歯ブラシヘッド部に500gの荷重をかけた状態で、往復速度150回/分、刷掃ストローク40mmで1万回まで刷掃し、5千回刷掃時点と1万回刷掃時点の2回、それぞれの歯ブラシについて植毛部開き率を測定した。なお、植毛部開き率[%]はモデル耐久試験前のブラシ幅をa、試験後のブラシ幅をbとしたとき、式(b−a)/a×100にて求めた。この結果を表2に示す。
【0077】
【表2】

【0078】
表2から明らかなように、本発明のモノフィラメントは、歯ブラシとして使用したとき毛開きしにくく、耐久性に優れている。さらに、バイオマス原料を使用しているため、製造・廃棄時の環境負荷が小さい。
【0079】
一方、ナイロン6モノフィラメントを使用した歯ブラシ(比較例4)は、すぐに毛が開いてしまい、本発明のモノフィラメントを用いた歯ブラシに比べてライフタイムが約半分であった。
【0080】
[実施例4、比較例5]
実施例1および比較例1で得られたモノフィラメントを釣糸の一部に用いて、魚釣りを行った。すなわち、各モノフィラメントを沖釣りにおけるハリスとして使用した場合の性能を評価した。
【0081】
その結果、本発明のモノフィラメントは、吸水率が低く、コシがあるため、ハリスに適しており、釣果も上がった。
【0082】
一方、ナイロン6モノフィラメントを用いたハリス(比較例5)は、吸水率が高く、当たりが分かりにくいばかりか、しなやか過ぎて他のエダスと絡み合ってしまい、釣果が上がらなかった。
【0083】
[実施例5、比較例6、7]
実施例1および比較例1、3で得られたモノフィラメントを用いて工業用布帛の実用評価を行った。すなわち、各モノフィラメントをそれぞれ平織りにし、190℃で熱セットした。この布帛を直径5cmの円形枠に張り、100時間水に浸漬した後、布帛の状態を目視観察した。
【0084】
その結果、本発明のモノフィラメントを用いた布帛(実施例5)は、上記の処理後でも平面を保っており、問題なく使用できた。さらに、バイオマス原料を使用しているため、製造・廃棄時の環境負荷が小さい。
【0085】
一方、ナイロン6モノフィラメントを用いた布帛(比較例6)は、処理後にうねり、ゆるみが出てしまったばかりか、石油資源を原料としているので製造・廃棄時の環境負荷が大きい。また、ナイロン11モノフィラメントを用いた布帛(比較例7)は、熱セットに耐えられず融解してしまい、布帛を得ることができなかった。
【産業上の利用可能性】
【0086】
本発明のポリアミドモノフィラメントは、従来のポリアミドモノフィラメントに比べて吸水率が低く、耐熱性に優れたものとなることから、ブラシ用毛材、釣り糸や魚網などの水産資材、フィルターに代表される工業用布帛、などの産業資材用途などに代表される水中や高湿度環境で使用されるモノフィラメントとして利用できる。さらに、バイオマス由来原料から製造することが可能であるため、製造・廃棄時の環境負荷を小さくできる可能性がある。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1,5−ジアミノペンタンを主成分として含有する脂肪族ジアミンと、セバシン酸を主成分として含有するジカルボン酸とを重縮合して得られるポリアミド樹脂を溶融紡糸してなるポリアミドモノフィラメント。
【請求項2】
前記1,5−ジアミノペンタンが、リシン脱炭酸酵素を用いてリシンから得られたものである請求項1に記載のポリアミドモノフィラメント。
【請求項3】
直径が0.03〜5mmである請求項1または2に記載のポリアミドモノフィラメント。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリアミドモノフィラメントをブラシ用毛材に用いたブラシ。
【請求項5】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリアミドモノフィラメントからなる釣り糸。
【請求項6】
請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリアミドモノフィラメントを用いた布帛。

【公開番号】特開2010−222721(P2010−222721A)
【公開日】平成22年10月7日(2010.10.7)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−69540(P2009−69540)
【出願日】平成21年3月23日(2009.3.23)
【出願人】(000219288)東レ・モノフィラメント株式会社 (239)
【Fターム(参考)】